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サウジは「原油の中央銀行」に復活 高井裕之 住友商事グローバルリサーチ社長

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◇サウジは「原油の中央銀行」に復活

◇脱石油の構造改革に今度こそ本気だ

 

 中東を訪問したばかりの高井裕之・住友商事グローバルリサーチ社長に、昨年11月に減産合意を主導したサウジアラビアの狙いや今後の動向を聞いた。

(聞き手=浜條元保/松本惇・編集部)

 

 2月中旬にサウジアラビアの首都リヤド、イランの首都テヘランなど中東を訪れた。強く感じたのは、石油輸出国機構(OPEC)の盟主・サウジの復権だ。同時に、サウジの脱石油依存の改革は、今度こそ本気だと痛感した。

 

 これは、2015年に就任したサルマン国王(81)らサウジ首脳の強い危機感の表れだと感じる。サルマン国王は、息子のムハンマド氏(31)を副皇太子に任命。国王は就任から1年4カ月がたつと、脱石油を目指す経済改革「ビジョン2030」を打ち出し、若返りも兼ねてエネルギー産業鉱物資源相をヌアイミ氏からファリハ氏(56)に交代させた。サウジの国王や副皇太子ら首脳はいま、脱石油に向けて一枚岩になっている。

 

 これまでに何度もサウジは「脱石油」の構造改革を掲げたが、掛け声倒れに終わっている。「ビジョン2030」の発表後も、その実現性には私を含め多くの関係者が懐疑的だった。ところが昨年12月、改革に関連して財政改革プログラム(5カ年計画)が具体的な数字とともに公表されて、「今回は本気だ」と感じた。

 

 また、サウジが主導する形で、OPECを中心とした減産合意が決まった。これは「原油市場の中央銀行」としてサウジが復権したことを意味する。サウジは、減産に消極的だったイランやイラクを説得し、非OPECのロシアも巻き込んで減産合意に持ち込んだ。原油価格が低迷していたOPEC総会で、サウジが押し切る形で減産が見送られた14年11月のアブドラ前国王時代とは、まったく違う。

 

 ◇50年に人口9000万人

 

 サウジが脱石油を急ぐ背景には、原油がいずれ枯渇するという危機感と同時に、世界的な脱石油が進み、需要ピークが過ぎるとの懸念がある。

 

 サウジは世界における原油確認埋蔵量の6分の1を占める。国内総生産(GDP)の4割、歳入の7割は石油が稼ぐ。また、サウジでは現在約3000万人の人口が50年には9000万人に急増する見込みで、増える若い人口を石油の一本足打法では食わせられない。

 

 サウジは、脱石油の改革を進めるうえで、1バレル=55ドル前後の現在の原油価格を心地よい水準と思っているようだ。40ドルを下回ると、財政収支が厳しい。その一方で、70ドルを超えて上昇するのも不都合だ。米国のシェールオイルが増産する懸念もあるが、サウジ国民が危機意識を失い、改革意欲がそがれることを国王らは最も恐れている。したがって、17年は1バレル=55ドルを挟み前後5ドルという低いボラティリティー(変動率)の相場に収斂すると思われる。

 

 不確定要因は、米国のシェールオイルの動向だ。原油価格の上昇局面でどう動くのか、わからない。

 

 また、1月に9割に達したOPECの減産順守率が続くかも不透明だ。北半球が需要期を迎える夏場にはサウジも増産して輸出したいという思惑もあり、6月のOPEC総会で減産を継続しないとの予想も現地では優勢だ。もし減産が続けば、年末には60ドルを目指すと見ているが、2~5月の順守率や非OPEC諸国の生産状況と米国の動向を見守る必要がある。

 

(高井裕之・住友商事グローバルリサーチ社長)

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  ◇たかい・ひろゆき

 1980年神戸大学卒業、住友商事入社。非鉄金属本部を経て、2003年コモディティビジネス部長、11年エネルギー本部長、13年住友商事総合研究所社長。14年4月より現職。

 

*週刊エコノミスト2017年3月14日号「資源総予測2017」掲載

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