◇現地で深まるリセッション議論
◇製造業の鈍化、脆弱な雇用、株安
石原哲夫
(米国みずほ証券USマクロストラテジスト)
米国では最近、2期連続のマイナス成長になる景気後退(リセッション)局面に入るか否かという議論が頻繁に行われている。昨年は「景気後退局面に近いか否か」という議論が多かったが、今は一歩踏み込んでいる。また、昨年は製造業の苦境に限定した議論が多かったが、最近はより広範囲に話題が広がっている。
年初からの株価下落は、この議論に拍車をかけた。もともと米国株には、原油安が重しになっていた。そこに、中国経済の減速懸念が深まり、下落のきっかけとなった。米国にとって原油安から連想されるのは、国内での失業者増加、エネルギー関連企業の債務不履行(デフォルト)増加、設備投資の減少である。実際に、郡(市町村を構成する地区に相当)別のGDP成長率を見ると、2015年にマイナス成長を記録している地域も出ている。テキサス州やノースダコタ州など、南部や中部のシェール生産地域と一致しているように見える。
リセッションが議論される理由は株安だけではない。好調な販売が続く自動車市場を除いて、製造業の減速懸念は依然として強い。昨年見られたドル高基調や中国をはじめとした新興国市場の減速が重しになっている可能性は高い。
米ISM製造業景況指数は、直近の1月まで4カ月連続で、拡大・縮小の節目の50を下回っている。さらに、1月26~27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で言及されたように、前年同期比で見ると、鉱工業生産指数、製造業受注、そして地域別の製造業景況指数などでも鈍化基調が見られる。
ISM指数などの鈍化は過去の景気後退局面でもよく見られた現象でもあるため、米国では「マニファクチュアリング・リセッション(製造業不況)」という造語も昨年からよく聞かれるようになった。
もちろん、米国における製造業は、財部門を含めてもGDPの20%未満であり、影響は限定的との見方はある。しかし、製造業に依存するサービス部門も多く、製造業の影響は意外と大きく、無視はできないだろう。
特に、製造業は雇用への影響が大きい。民間部門の業種別雇用者数において製造業は5番目に多い(1月時点)。ちなみに、1位が「ヘルスケア・社会扶助」、2位が……
(『週刊エコノミスト』2016年3月8日特大号(2月29日発売)24~25ページより転載)
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