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ワシントンDC 2016年3月15日号 

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◇米最高裁人事で崩れるバランス

◇追い込まれる共和党

 

今村 卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 米連邦最高裁判所判事のアントニン・スカリア氏が2月13日に死去し、その後任人事が大統領選にも影響を及ぼす米国政治の大問題として急浮上した。9人の判事で構成する連邦最高裁で、保守派とリベラル派のイデオロギーのバランスが変わる可能性が生じたからである。

 近年の最高裁は、共和党の大統領に指名された保守派の判事が5人、民主党の大統領に指名されたリベラル派の判事が4人という構成が続いてきた。

 だが、保守派のスカリア氏の死去により、この構成は保守派とリベラル派の4対4の拮抗(きっこう)に変わった。今後、スカリア氏の後任にリベラル派の判事が就けば、同派が多数となり、バランスは一変する。そうなると、企業による政治献金の上限撤廃につながった判決など、保守派が多数派であるがゆえに決まった重要判例が変わる可能性もある。

 連邦最高裁判事の任命は、大統領の指名後に上院の承認を得て成立する。このため後任人事を巡り、民主党のオバマ大統領と、上院の多数派である共和党の間で、複雑な駆け引きが避けられない。

 先に動いたのは、上院共和党のマコネル院内総務だ。来年1月に次期大統領が就任するまで、上院は後任候補に関する公聴会も採決も行わないとの意向を2月23日に表明した。オバマ大統領が指名しても、上院は面会も断るという。

◇空席守るため審議拒否

 

 共和党指導部がここまで拒絶するのは、同党の方が追い込まれているからだ。オバマ大統領が保守派の判事を指名する可能性はない以上、共和党は大統領の退任まで、最高裁判事の空席を守るしかない。後は11月の大統領選での共和党候補の勝利と、次期大統領による保守派の判事指名に賭けるしかなかったのだ。

 だが、共和党にとって審議拒否の政治的代償は非常に高くつき、予想外の結果を招く恐れがある。最近の世論調査では「後任判事の指名は次期大統領に託すべき」という意見への支持は38%しかない。「オバマ大統領が誰を指名しても、次期大統領に託すべき」との回答はたった26%だ。共和党が、この世論を無視して審議・採決拒否の強硬姿勢を続ければ、支持率が低下する恐れがある。

 その直撃を受けるのは上院だ。上院には、共和党の改選対象議員が24人おり、民主党の支持が多い「ブルーステート」から選出された共和党議員も少なくない。議席数がわずか5人減るだけで、共和党は上院で少数派に転落する。

 仮に、大統領選で共和党候補が勝っても、上院の多数派を民主党が奪還すれば、今の立場が入れ替わるだけだ。共和党が望む、同党の次期大統領による保守派の後任判事の指名は難しくなる。

 他方、オバマ大統領は、共和党の一部からも支持される、保守派に近い穏健な判事を指名する構えだ。実際、報じられている候補者の中には、共和党穏健派の名前もある。共和党に対し、審議・採決を求める世論の圧力がかかることは確実だ。

 それでも、共和党指導部の反応は乏しい。それより深刻な危機、すなわち大統領選の指名争いで不動産王トランプ氏の指名獲得が現実味を帯びるという異常事態が進み、今は最高裁判事の審議どころではないのだ。

 オバマ大統領の方も、民主党内でリベラル派の判事指名を求める声が高まったり、党内最左派のサンダース上院議員が指名争いで今後も健闘を続けたりすれば、穏健な判事の指名という判断を変える必要が生じるかもしれない。まずは、オバマ大統領が近く指名する後任判事の名前に注目である。


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