ダッチワイフもシリコン製のドールの登場で人間と見まごうばかりのレベルに達した。
国内トップメーカーの展覧会を訪ねた。
案内の女性から渡されたウエットティッシュで手をふいてから、おずおずと触ってみた。──おお、柔らかい。腕、腹、太ももなど部位によって柔らかさが微妙に違う。シリコン製の皮膚は冷たくもなく、さらっとしていて、肌触りは人間に近い。胸は他の部位に比べると、一段と柔らかい。シリコンの下にゲルが入っているという。
東京・渋谷のギャラリー「アツコバルー」で5月20日から6月11日まで「今と昔の愛人形」展が開催された。ダッチワイフ製造の最大手、オリエント工業(東京・上野)の創立40周年を記念したイベント。近年はダッチワイフでなく、ラブドールという名称が広まっている。
会場では歴代のドールや製造工程を示した写真パネルなどを展示。記者が訪れたのは平日の昼間だったが、男性だけでなく、若い女性がスマートフォンで写真を撮ったり、外国人が食い入るように見つめていたり、静かな熱気にあふれていた。会期中、1万人以上が訪れ、そのうち約6割は女性だった。
記者が触れた最新型ドールの価格は1体約70万円。オプションとして、アンダーヘア、皮膚にうっすらと見える血管メーク、手の指を動かせるようにする骨格などがあり、こうしたものを付けると総額80万円を超える。しかし、高額商品にもかかわらず、年間400体が売れる。
かつてのダッチワイフは、ビニールでできた浮き輪のような空気式で、使用中に空気が漏れるのが課題だった。オリエント工業が1977年に発売した第1号の「微笑(ほほえみ)」は、腰の部分に軟質ウレタンを入れるなど工夫し、商品の改良を進めた。2001年には初めてシリコンを使い、爆発的に売れた。
購入者は妻と離婚や死別した中高年、あるいは身体的な障害があって性の悩みを抱えた人などが多かった。それが商品の進化とともに若い人も買うようになった。
土屋日出夫社長(73)は「実用だけでなく観賞用として買う人が増えてきた。しゃべる相手がいないと寂しいでしょう。ドールに声をかけるだけで癒やされる人がいる」と話す
ドールの活躍の場も広がっている。例えば、昭和大学歯学部などと共同開発した臨床実習患者ロボットは、歯科医学生の実習の現場で使われている。また、裁判員裁判で事件を再現する際、臨場感を出すために使われることもあるという。今後、ドールはどこへ向かうのか。
「ドールが話したり、自分から動いたり、機械的にならないようにしようと思っている」と土屋社長は言う。「人工知能などを搭載することは全く考えていない。購入者が魂を入れるわけだから。それよりむしろ、今より価格を下げて買いやすくしたい」
(花崎真也・編集部)*『週刊エコノミスト』2017年6月27日号掲載