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特集:AIで増えるお金と仕事 2017年6月27日号

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ウェルスナビのデモ画面
ウェルスナビのデモ画面

◇誰でもAIで“賢い”投資家

◇ロボアドバイザーが自動で運用

 

稲留正英(編集部)

 

AIがお金の世界を「民主化」しようとしている。ファイナンシャルプランナー(FP)やファンドマネジャーなどの金融専門家の能力をAIに置き換え、富裕層しか受けられなかった金融サービスを一般のサラリーマン層や若年層に提供しつつある。

 

 「運用開始以来の利回りは年率4~5%。英国のEU離脱の影響で、一時、利回りはマイナスになる場面もあったが、その後は安定的に推移している」──。都内に住むITエンジニアの徐聖博さん(28)は満足そうに語る。徐さんは友人の紹介で、2016年2月から、金融ベンチャー企業「お金のデザイン」が提供するロボット・アドバイザー(ロボアド)サービス「THEO(テオ)」を使い始めた。

 

 ◇月1回自動で見直しも

 

 テオの利用方法はシンプルだ。パソコンやスマホのアプリで、テオの画面を開くと、無料相談のページが出てくる。画面の指示に従って、(1)年齢、(2)投資経験、(3)元本重視の度合い、(4)値下がり時の対応、(5)インフレへの対応──の五つの質問に答えると、国内外の株式、債券、商品の配分比率を示した推奨ポートフォリオが表示される。そのままサービスを受けたければ、口座開設・投資一任勘定の契約をネット上で結び手続きは完了する。手元に必要なのは免許証などの身分証明書とマイナンバーだけだ。

 

 契約後は、テオが基本ポートフォリオに沿って自動的に30~40銘柄の米国上場のETF(上場投資信託)の中から最適な組み合わせを購入し、月に1回、リバランス(資産の再配分)を行う。手数料は運用資産残高に対して1%。ETFの買い付けコストや信託報酬はすべて含まれる。

 

 徐さんがテオに興味を持った背景には、既存の金融機関への不満があった。銀行でドル建て預金をしていたが、金利はわずかに0・2%。ネット証券で投資信託を購入したが元本割れに。日本株にも取り組んだが、塩漬け状態だ。徐さんはこれから結婚や家購入の資金づくりに投資を活用しようと考えている。

 

 都内のコンサル会社に勤める宮本敬史さん(38)さんは、半年前から金融ベンチャー「ウェルスナビ」が提供するロボアドサービスを利用している。過去10年間、株式や投資信託への投資をしてみたがうまくいかず、「金融機関に手数料だけとられていた」という。宮本さんは、ウェルスナビでは5段階中で上から4番目のリスクを取っているが、これまでの運用利回りは年率3~4%だ。「投資が分散しているので、個別株式に比べると安心感がある」と説明する。

 

 この1年、英国のEU離脱や米トランプ大統領就任などの波乱要因があったにもかかわらず、テオやウェルスナビの収益が安定しているのは、資産運用の基本とされる「投資対象と期間の分散」の法則に従っているからだ。この手法は、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめ、世界の機関投資家が採用している。複数の投資対象に時期を分けて投資することで、リスクを減らして長期的な安定を目指すやり方だ。

 

 ◇ゴールを設定して投資

 

 AIが代替しているのは、運用面だけではない。ロボアドはPCやスマホを使って、従来のFPや証券外務員などの役割も担っている。

 

 エイト証券やマネックス・セゾン・バンガード投資顧問などは、ロボアドで「ゴールベース投資」機能を提供している。例えば、顧客が「40歳までに家を買いたい」とゴールを設定すれば、そのゴールを達成するために、顧客のリスク許容度に応じて、どのタイミングでどんな投資をしていけば良いかアドバイスする。

 

 ポイントはAIが学習機能を持っていることだ。さまざまな顧客の事例が集まるほど、それぞれの顧客向けにより精緻にカスタマイズしたアドバイスが可能になるという。マネックス・セゾン・バンガードでは、将来、米アマゾンの「エコー」のような自然言語認識スピーカーで資産運用の相談に応じることも考えている。

 

 大手銀行や証券、投資信託会社は現在、人を介して投資信託の運用を一任する「ファンドラップ」サービスを提供している。営業マンやFPが資産運用の相談に乗りながら顧客に投資信託を販売する。しかし、対象顧客は金融資産を数千万円以上持つ層で、最低投資金額は通常1000万円以上。手数料も販売手数料と運用商品の信託報酬を合わせ2~3%と高く、一般のサラリーマン向きとは言えなかった。

 

 それに対し、ロボアドの最低預かり金額は1万円、手数料も税込みで1%前後だ。加えてスマートフォンで操作できることも、若い世代の関心を引いた。

 こうした動きを受け、15年10月には、みずほ銀行がメガバンクでは初めてロボアド市場に参入し、その後、ベンチャーだけでなく既存金融機関の参入が相次いでいる。米調査会社のアイテ・グループによると、日本のロボアド市場は、16年の預かり資産残高3億ドルから、20年には103億ドルまで急拡大する可能性があるという。

 

 野村総合研究所の城田真琴・上級研究員は今後、ロボアド市場は、「単なる分散投資から、税金対策、不動産、保険、ローンまでアドバイス範囲が拡大する」と予測する。米金融事情に詳しいマネーフォワードの瀧俊雄取締役フィンテック研究所長は、「米国ではTotum Wealthなど、その人の健康状態や居住地域、働く業種なども吟味したアドバイスを提供する金融ベンチャーも誕生している」と話す。

 

 ◇ファンド運用者に代わる

 

 さらに、AIは人間のファンドマネジャーの能力を超えようとしている。

 

 三菱UFJ国際投信が2月に設定した「AI日本株式オープン」は、AIを使って、これまで日本市場で難しかった「絶対リターン」を追求する点が特徴だ。1990年のバブル崩壊以降、日本の株式市場はさえない展開が続き、従来の運用手法ではプラスの投資収益を得るのはなかなか難しかった。そこでAIを使い、人間では今まで気付くことができなかったデータを集めて分析することで、低迷する市場でもプラスのリターンを得ようと試みている。

 

 具体的にはまず、AIで高配当・安定配当などの個別銘柄を抽出する。その際、証券取引所の適時開示システムやブルームバーグ通信が配信するニュース記事など膨大な情報から、数値と文字データを読み取る。例えば悪材料で株価が下げている銘柄でも、悪いニュースが減ってきたら株価が反転するタイミングが近いとして買いを入れる。今のところ読み込むのは数値と文字だけだが、将来的には画像や音声データも取り込めるようにする。

 

 英国の欧州連合(EU)離脱や米トランプ大統領の当選などのイベントの際もAIが過去のデータを基に学習し、売りか買いか判断し、それを基に株価指数先物を売買して利益をあげる。AIには深層学習機能が備わり、自ら学習して今の運用手法が適切かどうかを考え、必要な場合は新たな運用手法を生み出すという。

 

 検索大手ヤフー系列のアストマックス投信投資顧問が昨年12月に運用を始めた「Yjam(ワイジャム)プラス!」は、ヤフーの別のグループ会社が構築したAIモデルを使って、ヤフーが保有するビッグデータの解析結果を運用に生かす。国内外の銘柄を対象に、投資家の注目度の変化などから将来の「スター銘柄」を発掘する点が特徴だ。

 

 金融サービス会社のフィスコは、1月からAIを使った個別銘柄の株価予測サービスを開始した。この特徴は、AIを活用することでアナリストの銘柄選定にかける時間が3~5割減ったことだ。投資テーマは20以上、対象銘柄は1000以上に及ぶが、銘柄選定にかける時間が減ったことで、アナリストがより深い分析に時間を割くことができるようになったという。

 

 米国ではAIを使って運用するヘッジファンドがすでに巨額の資金を集めている。日本でも、AIを使った運用手法が存在感を強めることになりそうだ。

(稲留正英・編集部)

週刊エコノミスト 2017年6月27日号

定価:620円

発売日:2017年6月19日


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