〔共産党大会 直前ガイド〕
◇絶大な権威得た習近平氏
◇経済への党支配も強化
5年に1度の第19回中国共産党大会が、10月18日からいよいよ開幕する。前回2012年の第18回党大会で最高指導者となった習近平総書記(国家主席)の2期目のスタート。1期目の5年間で高めた習近平氏の絶大な権威が、党規約の改正や人事などの形でどのように反映されるのかが大きな焦点だ。世界経済や国際政治で年々、存在感を高める中国の動向から、日本も無縁ではいられない。
00年代後半にかけて続いた中国経済の2ケタ成長が終焉(しゅうえん)するタイミングでトップに立った習近平氏。所得格差もジニ係数(1に近いほど格差が大きい)で危険ラインとされる0・5に近く、前回の党大会の政治報告では「亡党亡国」(党が滅び国が滅ぶ)と厳しい表現も並んだ。政治報告ではまた、「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)を目指し、20年までに10年に比べGDP(国内総生産)と所得を倍増させる計画を打ち出した。
◇過剰設備の解消に本腰
実際、習近平体制の1期目の5年間は7%前後の成長を続け、15年には1人当たりGDPが8000ドルを突破。国際通貨基金(IMF)によれば、中国の1人当たりGDPは習近平政権の1期目の5年間で3割以上増加する見込みだ。米国に次ぐ世界2位の経済大国となった中国は今年、GDPが世界全体に占める割合が15%を超えることになりそうで、計画達成に向けて着実に歩んでいるように見える。
「世界の工場」と呼ばれた中国は、「消費大国」へと変化もした。16年の中国の新車販売台数は2802万台と世界の約3割を占め、いまや日本の5倍超の規模となる。
ここ最近、爆発的に拡大しているのがインターネット市場。今年1~8月のモノのネット販売は、前年同期比29・2%増の約3兆2000億元(約54・4兆円)、旅行やゲームなどサービスのネット販売もさらにハイペースで伸びている。
道路などインフラ建設も勢いが止まらない。
◇膨張する債務と融資
中国経済で重荷となっていたのが鉄鋼などの過剰設備だが、その解消にも本腰を入れ始めた。
昨年の全国人民代表大会(全人代=国会)では、「サプライサイド(供給側)の構造改革の強化」を重点活動任務の一つに挙げた。大和総研の斎藤尚登主席研究員は「地条鋼と呼ばれる粗悪な鉄鋼の生産能力をつぶしたことで市場の鉄鋼の需給が引き締まり、(製鉄の)国有企業の稼働率も上がった。すべてを一気に改革すれば失業問題などを招くが、分野を絞ったことが成功している」と指摘する。
だが、その裏側で政府や民間企業の債務も増大している。中国の非金融企業の債務残高は16年、対GDP比で166%と、この5年間で30ポイント以上高まった。銀行融資の形を取らない「影の銀行」(シャドーバンキング)の残高も増え続け、高利回りの運用商品「理財商品」や民間企業間の融資を銀行が仲介する「委託融資」などは年々、右肩上がりで伸びている。IMFは昨年の対中4条協議報告書で、名目GDPの2倍の速度で債務が膨張し続けている問題を指摘した。
債務膨張を受け、米格付け会社S&Pグローバル・レーティングは今年9月、中国の長期信用格付けを上から4番目の「ダブルAマイナス」から「シングルAプラス」へ1段階引き下げた。1999年以来の格下げで、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスも今年5月、「A1(シングルAプラスに相当)」に引き下げている。日本総合研究所の関辰一副主任研究員は「現在の非金融企業の債務残高対GDP比はバブル期の日本の水準を超えている。債務と融資膨張に頼る良くない経済成長だ」と語る。
人民元相場で今年9月以降、対米ドルで元安が急速に進んでいる
きっかけとなったのは9月8日、中国人民銀行(中央銀行)が為替先物規制を見直すと伝わったことだ。当時の元安を抑制するため15年9月、為替予約には想定元本の20%の準備金を義務付けたが、今年に入って米利上げ観測の後退などを受け元高が進行。今回の見直しで準備金を0%にするとした。ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジストの村田雅志氏は「これ以上の元高は景気の下押しリスクになると判断したのではないか」と見る。
◇国有企業「改革」逆行?
昨年10月の中国共産党の第18期中央委員会第6回総会(六中全会)で、「核心」に位置付けられた習近平氏。毛沢東、トウ小平、江沢民各氏ら歴代の指導者と並ぶ扱いで、1期目5年間で絶大な権威を手にした。
その原動力となったのが、「反腐敗運動」を旗印に、有力な党幹部を次々に失脚へと追い込んだことだ。14年12月には最高指導部である党政治局常務委員の経験者だった周永康氏に対しても、「重大な規律違反」を理由に党籍剥奪や刑事責任追及を決めた。
習近平政権では腐敗・汚職の温床ともなっていた国有企業の「改革」にも乗り出しているが、国有企業の子会社も数多い中国の上場企業では今春以降、定款に中国共産党委員会の新設や重大な経営の決定事項には事前に党の意見を優先的に聞くことなどが盛り込まれるようになった。みずほ証券の吉川健治シニアエコノミストは「党の介入がむしろ強まり、企業の経営自主権の拡大やガバナンス(企業統治)の向上などに影響し、市場化に向けた改革に逆行するのではないか」と懸念する。
防衛費が年々増大している中国で、習近平氏は人民解放軍の掌握にも余念がない。
地方で有力者と結びつきやすかった人民解放軍の組織を改めようと、15年から建国以来となる大規模な改編に乗り出す。陸軍偏重だったのを陸海空軍を対等としたほか、中国全土を分けた7大軍区を5戦区に再編。圧巻は今年7月、内モンゴル自治区で実施した人民解放軍創設90周年を記念した軍事パレードだ。北京以外で行われたことなど異例ずくめで、迷彩服に身を包んだ習近平氏の存在感を際立たせた。
◇党規約に「名前」焦点
習近平氏の権威がどこまで高まるかが、今回の党大会の大きな焦点だ。それを測るものさしの一つが、習近平氏の政治理念が党規約にどう盛り込まれるか、だ。
中国共産党で「思想」といえば「毛沢東思想」、「理論」は「改革・開放」を唱えた「トウ小平理論」を指し、いずれも名前を冠して党規約に盛り込まれている。一方、江沢民氏の「三つの代表」、胡錦濤氏の「科学的発展観」には名前が付いていない。習近平氏の名前の付いた理念が党規約に入れば、毛沢東、トウ小平に並ぶ権威を象徴する。
中国経済は今後、高齢化によって労働人口が減り、成長率はさらなる減速が見込まれる。そのとき、習近平氏の権威を背景に市場化や自由化が後退し、国有企業などが既得権益化すれば、成長の維持もおぼつかなくなる。日本は輸出などを通じ中国経済の影響を大きく受ける。中国共産党大会の行方から目が離せない。
(桐山友一、谷口健・編集部)