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「在庫持つ」経営で石油ファンヒーター日本一 吉井久夫 ダイニチ工業社長

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Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 家庭用石油ファンヒーターで国内トップです。

 

吉井 自慢するつもりは毛頭ないのですが、国内主要家電量販店の販売台数が10年連続1位で、シェアは50%を超えています。現在、年間約100万台を生産しています。ただ、1位を狙ったのではなく、より良くしていった結果だと考えています。

 

── コロナやパナソニックなどがひしめく市場でどう戦うのですか。

 

吉井 お客様にとっての品質や価格、補償はもちろん、当社が卸す流通業者にとっての商品価値も高めています。

── どういう意味ですか。

 

吉井 いくら良い製品で安く提供しても、流通業者にとっては、商品が余ったり、足りない時は問題となります。当社は、市場動向や流行に合わせて、その増減に対応できる生産体制を整えています。流通業者から見ると品切れがないので、「ハイドーゾ(はいどうぞ)生産方式」と呼んでいます。そうした総合力で1位になっているのだと思います。

 

── 「ハイドーゾ生産方式」で生産の増減をどう調整するのですか。

 

吉井 まず生産は国内(新潟県)です。そして、1月から9月までは、同じペースで生産を続ける「平準化生産」をしています。

 当社の売上高の8割を占める石油ファンヒーターなどの暖房機器は、販売のピークが10月、11月、12月に集中します。販売時期はその3カ月しかありませんので、当社はシーズンが到来する前の時点で約9カ月分の在庫を持つわけです。

 

── 在庫リスクは御社が抱える?

 

吉井 そうです。1~9月ごろまでの生産で計画の7~8割を作りますが、残りの2~3割は、売れる機種や売れない色など市場の動向を注視しながら変えます。12月末には在庫をなるべくゼロにする考えなので、100台、500台、赤、白など、10月からは機種や色に合わせてばらばらに生産するので大変です。

 機種によって、プラスマイナス約20%の違いが出ますが、10~12月の対応力をいかにスムーズにするかがカギです。10月から3カ月間の情報収集をしっかりすればできます。

 

── 2003年に参入した加湿器でも国内トップです。

 

吉井 おかげさまで、台数と金額でトップを獲得しています。当社は後発の参入でしたが、とにかく静かな加湿器を目指しました。送風による気化式とヒーターのハイブリッド式の加湿器で、「赤ちゃんが寝ていても使える加湿器」とアピールしたのが利きました。

 当社のコア技術は、鉄板加工、プラスチック成形、その組み立て、自社でプログラミングしているマイコンなどの制御技術です。その技術で、熱、風、ポンプを正確に制御できます。現在、その延長線上にある新製品も開発しています。

 

 ◇ほぼ全員が正社員

 

 ダイニチ工業は、生産だけでなく働き方もユニークだ。512人いる社員はほぼ全員が正社員で、非正規社員はわずか3人にとどまる。また、残業を極力減らし、17時半に退社する。社員からは「毎日18時のニュースを家で見られる」との声があるほどだ。

 

── 期間工(期間従業員)は雇わないのですか。

 

吉井 しません。こうすることで、未熟練の社員でも、時間がたてばほぼベテランに近いレベルまで熟練度が増すからです。(派遣労働者や期間工などに頼って)毎日代わられると、いつも素人の人が生産するということになってしまいます。

 当社は500人規模の会社ですが、十数社の協力会社がいて、すべて合わせると当社と同じ人員規模で、生産台数も同じ規模です。生産の浮き沈みも同じにして、信頼関係の構築につなげています。

 

── 協力会社にリスクを取らせる企業が多いです。

 

吉井 私は1999年に社長になりましたが、その前年に在庫を大量に出しました。それがきっかけで、協力工場と当社がお互いにメリットがある体制を作り上げてきました。

 当社の生産が減る時に、協力工場の生産を取り上げると、当社の稼働率は保てますが、協力工場の仕事は減ります。それが恒常化すると、協力工場は当社に割り増しの工賃を要求せざるを得ません。だから、この体制は、ある意味で必要性もあるわけです。また、協力工場と年3回行う交流会は欠かせません。

 

 ◇地域で仕事する価値

 

── なぜ国産にこだわる?

 

吉井 以前は考えていなかったのですが、結局「我々が何のために仕事しているのか」を考えると、「この地域でこの仕事をしている価値がある」からだと考えます。当社には500人規模の社員がいて、協力工場も含めると1000人前後が当社の製品で仕事をしています。その家族も含めると数千人になります。この地域に工場があるだけで、数千人の人が生活できるわけです。それってすごく価値があることです。

 

── 逆転の発想です。

 

吉井 例えば、工場を持たない経営にして、外国で作ったものを安く仕入れて、高く売ることもできます。それで利益が上がれば、いかにも「能力のある経営者」に見えます。しかし、「ここで仕事をして生活をする」というのが、単に個人がもうける話ではなくて、みんながその価値を共有する喜びがあると思います。

(構成=谷口健・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 開発や資材部門から営業に行き、東京の営業所を立ち上げました。その後は、経理・総務に移って経営に携わりました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A ピーター・ドラッカーや松下幸之助、稲盛和夫氏の経営本です。「真面目であれ」「悪いことをするな」など、結局同じことを言っていることが分かってきました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 家でしっかり休養を取ります。

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 ■人物略歴

 ◇よしい・ひさお

 1947年生まれ。大阪府布施市(現・東大阪市)出身。新潟県立三条高校、芝浦工業大学卒業後、1969年、吉井電器店に入社。73年、ダイニチ工業に入社。常務、専務を経て、99年に社長就任。70歳。

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事業内容:家庭用石油ファンヒーター、加湿器、コーヒーメーカーなどの製造・販売

本社所在地:新潟県新潟市

設立:1964年4月

従業員数:512人

業績(2016年度)

 売上高:182億円

 営業利益:7億円

 


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