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良い薬を安く作り、医療財政を救う パトリック・リード ペプチドリーム社長 

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Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 世界の製薬大手が次世代の創薬技術として注目する「特殊ペプチド」。体内に投与しても酵素で分解されにくく、狙ったターゲットに強く結合する特性がある。従来の創薬技術では開発が困難だった病気の治療薬を作れる技術と期待されている。

 

── どんな会社ですか。

 

リード 菅裕明・東京大学教授(同社取締役)が開発した技術を実用化するために2006年に設立した東大発のバイオベンチャーです。最初の10年で創薬技術「PDPS(ペプチド・ディスカバリー・プラットフォーム・システム)」を確立して製薬会社と契約を結びました。これからの10年は実際に薬を作る段階に入ります。そういうタイミングで、研究開発部門の責任者である私が社長に就任しました。

── PDPSとは。

 

リード 「特殊ペプチド」という物質を用いた創薬技術です。PDPSの強みは、薬のもとになるシーズ(候補物質)を、たくさんの候補の中から、効率よく、短時間で絞り込めることです。

 製薬会社が持つ「ライブラリー」と呼ばれる薬の候補物質は大手でも200万~300万個といわれていますが、当社はアミノ酸の組み合わせでさまざまなペプチドを作ることができるので、1兆個の候補物質からシーズを探すことができます。

 

 また候補物質の絞り込みには通常1~3年かかりますが、PDPSならば3~6カ月で見つかります。特殊ペプチドは狙ったターゲットに強く結合する候補物質が最初から複数見つかるため、成功確率が高くなります。

 

── 開発コストも抑えられる。

 

リード そうです。新薬開発はターゲット物質を見つけて効果を評価するプロセスに時間がかかり、成功確率が低いことも相まって、コストが膨らんでしまいます。特殊ペプチドでより効率的に薬を作れるようになれば、良い薬を、より価格を抑えて提供できるようになります。薬剤費が医療財政を圧迫する問題の解決策の一つになるでしょう。また抗体医薬より副作用を抑えられる点も期待されています。

 

 ◇薬を輸出産業に

 

 低分子薬は、分子量が小さいため飲み薬にしやすく、また価格も抑えられる。だが、特定のたんぱく質を狙って作用させるのが難しい。

 一方、新薬の開発が相次ぐ抗体医薬などの高分子薬は、特定のたんぱく質に効く半面、分子量が大きいため飲み薬に適さず、注射や点滴による投与になるので患者の負担が大きい。開発・製造コストも高めだ。特殊ペプチドは中間の中分子に位置づけられ、抗体医薬と同様の効果がある薬をより安く作ることができると考えられている。

 

── ビジネスモデルは。

 

リード 三つあります。一つは製薬大手との共同研究で、17社と60プロジェクトが進行中です。製薬会社が病気の原因を研究し、この物質を阻害すれば病気が治ると考えられるターゲットを見つけます。そして当社がそのターゲットに結合する薬のシーズを見つけます。

 

 二つ目は当社がPDPSの技術を提供して、各社が研究開発を進める技術移管。現在契約しているのは、米ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)、スイスのノバルティス、米イーライリリー、米ジェネンテック、塩野義製薬の5社です。この二つのビジネスモデルで、世界の売上高トップ10の製薬会社のうち7社と契約しています。

 

── 製薬大手との取引が中心ですか。

 

リード バイオベンチャーとの取り組みも進めています。三つ目のビジネスモデルの、互いに技術を持ち寄って研究する戦略的提携です。JCRファーマ(兵庫県芦屋市)と脳に薬を運ぶ研究を、そーせいグループ(東京都千代田区)傘下の英ヘプタレスと病気に関与するたんぱく質の研究を進めています。

 未上場企業では、特殊ペプチドから低分子薬を作る研究をモジュラス(東京都千代田区)と、がんの免疫に関する治療薬を米クリオと研究しています。

 

── 17年6月期は、4期連続最高益を更新しました。

 

リード 開発途中ながらも黒字を確保できているのは、共同研究先企業から契約時に一時金を受け取るほか、プロジェクトごとに研究開発支援金が入るためです。契約金の金額は年々上昇しています。特に技術移管先企業からの一時金は大きく、10億円を超えるようになってきました。将来的には、薬の発売後も、売り上げの一部を受け取ります。

 

── 塩野義製薬、積水化学工業と新会社を設立しました。

 

リード 特殊ペプチドを使った原薬をより安く、安定的に、しかも国内で作るために、共同出資で製造受託会社「ペプチスター」を立ち上げました。日本の医薬品は輸入超過ですが、国内で作れるようになれば、輸出産業に育てる道が開けます。

 

── 今後の課題は。

 

リード BMSはがん免疫療法薬の第1相臨床試験を開始していますし、ノバルティス、第一三共も今後、臨床試験に入る見通しです。22年6月までには薬を世に出すことができると思います。最初の薬はがん治療薬になるでしょう。

(構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 東京大学で動脈硬化症、がん、糖尿病の研究をしていました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A ありません。研究以外の本を読んだことがないので。仕事が大好きなので、暇さえあれば論文を読んでいます。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 海が大好きなので、泳いだり、スキューバダイビングを楽しんだりします。今は自宅のそばに海がないので残念です。

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 ■人物略歴

 ◇Patrick・Reid

 1975年生まれ。米バーモント州出身。米ダートマス医科大学院修了。生化学博士。2004年東京大学先端科学技術研究センター特任助教授、07年ペプチドリーム入社。17年9月から現職。42歳。

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事業内容:独自の開発プラットフォームPDPSによる創薬技術の提供および新薬開発

本社所在地:神奈川県川崎市

設立:2006年7月

資本金:約38億7000万円

従業員数:約60人

業績(17年6月期)

 売上高:48億9500万円

 営業利益:24億9000万円


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