「SmartNews」(スマートニュース)のサービス開始は、2012年末。すでに忘れ去られようとしているが、当時はまだ、高速な無線通信規格、飛行機内や地下鉄内での通信とも利用は限定的だった。非力なスマートフォン上でブラウザからニュースサイトへアクセスするのは、快適とは到底言い得ない状態。行動する現代の消費者が、タイムリーに、かつ多様な情報へとアクセスするには、「苦痛」を伴う時期だった。
スマートニュースのアプリは、そんな苦痛を快感へ変えた。カラフルなタブで表されたカテゴリーに、ネット上の多彩なコンテンツが整理され、直感的な操作ですばやく閲覧できる。しかも、ネット回線が遮断された環境にあっても利用可能だったのだ。
これを単に機能、利便性に偏った些事(さじ)と思うなかれ。小さな画面、通信の不自由さという弱点が克服された時、消費者は、手が空いた移動中、さらには気晴らしなど、さまざまな状況下で、改めて「ニュース」への旺盛な食欲を開花させたのだから。
その時、モバイルで快適にコンテンツ閲覧が可能になったという以上の根本的な変革が、ニュースの消費者に生じていた。それは特定の銘柄にこだわることなく、その時々に最も話題になっているもの、知りたい内容が盛られた旬の情報と出会う自由の発見だ。
時間の目盛りを十数年前へと巻き戻せば、多くの消費者は、その時々の情報取得を、慣れ親しんだ特定の銘柄の情報源にいかに強く依存していたかと驚かされるだろう。ニュースの消費体験そのものが大きく転換したのだ。
◇広告をノイズからコンテンツに
ここでスマートニュースが、どのようにコンテンツを選択し、消費者に届けているかに触れておく。
ネット上ではコンテンツを題材にした話題、評価する情報が飛びかっている。スマートニュースのシステムは、これをリアルタイムに収集し分析する。最近とみに話題となることが多くなったAI(人工知能)技術を活用している。そのコンテンツは何を論じているのか、どう評価されているのか、話題性はどうなのか──。分析されたコンテンツは適切なカテゴリーやランキングを与えられて、タイムリーにアプリの面を編成していく。
そう、スマートニュースがいま、ニュースの消費者に貢献しているのは、24時間365日、人の目では追いつかないほど膨大かつ急激に生成されるネット上のコンテンツを分析し続けることである。また、そこから、「いま、読むべきもの」を的確に抽出するインテリジェンスだ。自らオリジナルのコンテンツを制作しないスマートニュースが担う最大のミッションは、「良質」なコンテンツを見いだし、求める読者へと橋渡しすることにほかならない。
最後に、急いでもう一つの重要な要素に触れておく。メディアの収入についてだ。優れたコンテンツを橋渡しすべきなのも、そのコンテンツクリエーターの存在と発展が必要不可欠だからだ。だが、現状では「ノイズ」としか言いようのない広告が散見し、コンテンツ体験に専念したい読者にとって邪魔な存在でしかない。広告ビジネス自体が機能不全に陥ろうとしている。
スマートニュースは、収入源である広告に、コンテンツの選別に込めるのと同じエネルギーを注ぎ込み、品質の高い体験を提供しようと試みている。動画をはじめとする新たな広告が、コンテンツ体験と同等の価値を生み出すこと、さらに、その収入がコンテンツの提供者と適切にシェアされていくことを思い描いているのである。
藤村厚夫(スマートニュース執行役員)
ふじむら・あつお◇1954年生まれ。アスキーで月刊誌編集長などを経て2000年にアットマーク・アイティ社を創業し、技術者向けオンラインメディア「@IT」を開設。合併によりアイティメディア代表取締役会長。13年より現職。メディア事業開発を担当。
*週刊エコノミスト2017年10月24日号掲載