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浜田敬子・Business Insider Japan統括編集長
はまだ・けいこ◇1966年生まれ、89年朝日新聞社入社。前橋、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。2014年4月から同編集長。16年5月から朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサー。17年4月より現職。
やっと日本でも最近認知されるようになったミレニアル世代(1980~2000年生まれ)という言葉。Business Insiderはこの世代向けのオンライン経済メディアとして、09年にアメリカで始まった。現在世界14カ国で展開、読者は1億人以上。日本版は17年1月にスタートし、私は4月から統括編集長を務めている。
朝日新聞社に在籍中、17年間週刊誌「AERA」、つまりずっと紙の雑誌をつくってきた身からすると、初のネットメディアは毎日ワクワクの連続だ。もちろん立ち上げ時の「産みの苦しみ」は山ほどあるが……。
私たちが意識しているのが、「ミレニアル」「テクノロジー」「グローバル」という視点だ。この視点をかなえようとすると、もう紙では難しい、と感じる。AERAの主要読者は40代。30代向け企画に何度も挑戦したが、読者の若返りはかなわなかった。30代は「紙でニュースを読む」「雑誌を買う」習慣がないことを悟った。
今、Business Insider Japan(以下、BI)の読者層は25~34歳が一番多く、次に35~44歳、これで3分の2を占める。記事のテーマも20、30代に寄り添ったものを意識している。
10月、選挙報道では20代の記者たちが「自分ごと」として選挙を発信。「売り手市場が続いてほしい──20代が希望の党より自民党を支持する理由」「自民党こそリベラルで革新的──20代の保守・リベラル観はこんなに変わってきている」はヤフトピ(ヤフーニュースの主要トピック)入り。2本だけでヤフー上で160万PV読まれた。
◇PVよりも大事なこと
やはり10月にヤフトピ入りした記事「頭のいい女子はいらないのか──ある女子国立大学院生の就活リアル」。こちらは何度も報じてきた女子学生の就活差別の記事に対して、自身の就活体験を編集部に送ってくれた女子大学院生のメールから始まった記事だ。
私はAERA時代から、「読者との壁打ち」を意識している。自分たちが面白い、伝えるべきだと思うだけでなく、読者にどう受け止められるのか。オンラインメディアは読者からのレスポンスが早い。若い読者との「壁打ち」に圧倒的に向いている。ツイッターやFacebookでのコメントなど読者の反応をリアルタイムにつかめ、次の記事に生かしていける面白さがある。
編集部内のコミュニケーションもリアルタイム感を大事にしている。フル活用しているのがSlackというコミュニケーションツール。育児や介護と両立する編集部員もいるので、みんなが会社で顔を会わせる時間は少ない。Slackに私から「このテーマで取材できる人?」と投げたり、編集部員からは「このテーマどう思う」「こんな人を知らないか」などアイデアが飛び交う。今ひとつPVが伸びなければ、「見出し変えた方が良くない?」という意見も出る。このフラットな感覚と風通しの良さが、新世代のメディアでもっとも大切なスピードには欠かせない。
課題ももちろんある。新聞出身者が多いのでどうしても活字偏重になりがち。US版は写真やグラフを多用し、若い読者に、難民や財政の問題を伝えている。テキストと写真中心だった見せ方の“殻”を打ち破らなくては。
ネットメディアは戦国時代だ。勝ち残れるかどうかは、PVではないと思う。読者にどんな“価値”を提供できるか。若い読者に「BIって面白いよね」「読んでおかないとね」と自分たちのメディアだと思ってほしい。どんな読者に支持されているのか、それが今後のメディアの価値になると思っている。
*週刊エコノミスト2017年11月28日号「ネットメディアの視点」