Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
すしロボットをはじめとした米飯加工機の製造・販売大手。すしブーム、海外の和食ブームを背景に2017年3月期の最終利益は8億2100万円で2期連続で最高益を更新した。
── 米飯加工機が好調です。
小根田 人手不足で機械のニーズが拡大していることが大きいです。単体売上高の5割を占める主力のすしロボットだけでなく、ご飯を盛り付けるシャリ弁ロボもスーパーや外食産業向けによく売れています。
── ロボットがどうやってすしを握るのでしょうか。
小根田 基本的な工程は、シャリ(コメ)をほぐし、左右に並んだ車輪の間を通しながら1カン単位に計量し、シャリの形に握る型に落とすという流れです。ポイントの一つはシャリをほぐす工程です。昔は機械で攪拌(かくはん)していたのでコメを練ってしまい、食味が落ちてしまいました。現在は改良の結果、羽根で攪拌することでフワリとシャリをほぐすことができます。科学的にも、人間が握ったシャリよりも多くの空気を含んでいることがわかっています。
── 機械のすしは思っていた以上に口当たりが柔らかいです。
小根田 コメとコメの間に空気を含んでいるので、口の中でやさしくほぐれるんです。これは握るプロセスにも秘密があります。以前は上部と左右の3方向からギュッと押していましたが、現在はすし型の容器に落として、シリコン素材の部材で上下からやさしく形成しています。
── 普通の握り以外もロボットで対応できるのでしょうか。
小根田 のり巻き、稲荷ずし、おにぎりにも対応します。
── 職人顔負けですね。
小根田 すしロボットは、人間の職人よりも握るスピードが速く、仕上がりも勝るとも劣らないところまで来ています。ロボットが1時間当たりに握る個数は、1号機の頃は1200個でしたが、最新バージョンは4800個に向上しています。ただ、人間の仕事の全てをロボットが代替できるわけではありません。ロボットは味を吟味することはできないんです。おいしさを追求するのは人間の仕事です。
◇和食ブームが後押し
── すしロボットを事業化したきっかけは。
小根田 創業当時は仙台銘菓「萩の月」をはじめとした菓子製造機械を作っていました。1970年に始まった減反政策を受けて、「コメ消費を拡大させることが、減反政策に歯止めをかけることになる」と、76年に創業者の鈴木喜作が米飯加工機械の開発に乗り出したのが、すしロボットを始めたきっかけです。
当時、外食産業の中でもすしは高根の花でした。そこでロボットを開発してすしの価格を下げれば、すしの消費量が拡大し、ひいてはコメの消費量も増えると見込んだのです。改良を重ねて81年にすしロボット1号機の完成にこぎつけました。
── すしは職人の世界です。ロボットの普及は難しかったのでは。
小根田 すし職人からは「仕事を奪う」と猛反発にあいました。一般の人に認知してもらうのも最初は苦労しました。83年に日本橋三越本店の催事場ですしロボットで作ったすしをふるまうイベントを開催したのですが、ロボットが握ったすしに対する反応は悪く、2日目までは反応なし。3日目にようやく一人のお客に「おいしい」と言ってもらえたのをきっかけに、多くの来場者が試食をするようになりました。その後は、全国のすし職人の組合ですしロボットの勉強会を開くなどの活動を通じて、職人の理解を得ていきました。ちょうど回転ずしが普及する時期だったこともあり、市場が広がっていきました。
── 回転ずしは現在、約3000店まで拡大しています。
小根田 機械化によってコストを削減することで、100円台のすしが実現しました。回転ずしやスーパーで販売されているすしなど、すしの大衆化によっていつでも食べられるようになったことは大きいと思います。
── 和食ブームによって、海外にもすし店が増えています。
小根田 現在、約70カ国にすしロボットを輸出しており、早期に100カ国を目指します。海外売上高の比率は現在は22~23%ですが、5年後には30%まで持っていきたいです。
とはいえ、海外の市場開拓は簡単ではありません。海外のすしブームを受けて米国に飛びましたが、まずさに落胆しました。本物のすしを普及させなければブームは続かないので、ロボットを売り込むだけではなく、すしの作り方の指導などを組み合わせています。
── いまだにコメの消費量は下げ止まっていません。
小根田 国内は人口減と食生活の欧米化でコメの消費量は減り続けています。また当社は海外のレストランでも日本のコメを使うよう働きかけていますが、価格の高さがネックになっています。早期に農業の合理化などで生産コストを下げ、日本のコメを世界に供給する体制を作るべきです。
── 今後の課題は。
小根田 弁当や丼物にご飯を盛り付けるシャリ弁ロボの改良です。現在、牛丼チェーンやカレーチェーンなどで採用されていますが、さらに多くの用途に対応できるように進化させます。工場での大量生産に対応できるロボットの開発にも取り組みたいですし、高齢者が使えるように、簡単に操作できるロボットも考えています。
(構成=花谷美枝・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A もなかやハチミツの製造機械の営業を担当しました。砂糖を酵素分解してハチミツに似た糖分を作る機械をメーカーに提案するために全国を回りました。
Q 「私を変えた本」は
A 武田信玄に関する小説が好きでよく読みます。
Q 休日の過ごし方
A 健康維持のためにゴルフをします。
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ヤフーニュースに動画付きの記事「『調理ロボ』は飲食店の人手不足を救うか」を掲載しています
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■人物略歴
◇おねだ・いくや
山梨県立北杜高校出身。1966年宮園オート入社、71年鈴茂器工入社。営業本部長を経て93年に取締役就任。2004年6月代表取締役社長就任、17年6月から現職。74歳。
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事業内容:米飯加工機械の製造販売など
本社所在地:東京都練馬区
設立:1961年1月
資本金:6億1400万円
従業員数:329人(2017年3月末現在)
業績(17年3月期)
売上高:94億円
営業利益:14億円