Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── マテリアルハンドリングという聞き慣れない事業を展開しています。
北條 マテリアルハンドリング、略してマテハンという言葉を定義付ける前に、どんな産業に使われているかを紹介します。まず、私たちがマテハン事業を始めたのが、自動車の搬送システムです。完成車メーカーの工場で、生産ラインの各工程で生産中の自動車を運ぶものです。次に手がけたのが自動倉庫です。
── 今日、電子商取引(EC)の拡大で普及していますね。
北條 自動倉庫はネット通販業者の他に食品卸、医薬品卸など幅広い顧客がいます。当社は、倉庫というハードに、プラスアルファでコンピューター制御機能を付けて、在庫や入荷・出荷管理をします。要は、マテハンとは物流システムをハード・ソフト双方で総合的に提供することです。納めるシステムは、顧客1社1社で違います。私たちは物流システムのハードを作るメーカーでありながら、システム・インテグレーター(最適なものを選んで組み合わせる会社)としての性格も持っています。最近では、物流のコンサルタントのビジネスも増えています。
── コンサルタントの仕事とは。
北條 マテハンは、人手不足・自動化が追い風になっています。では、自動倉庫で荷物を拾い上げて仕分けするロボットを全面的に導入すればいいのでしょうか。荷物は大きさも形状も多様で、ロボットが苦手とします。また、1カ月に数回しか注文が来ない商品のピッキングにも、ロボットを導入するべきでしょうか。何でも自動化をすればよい、というものではありません。当社は、顧客の求めるもの、費用対効果を踏まえて、自動化をどこまで進めればいいのかを提案します。
── 顧客層は。
北條 自動車、半導体、ディスプレー、食品、ネット通販業者、空港運営者とさまざまです。当社はマテハン世界シェア、ナンバーワンです。それは、顧客の裾野が広いからです。ポートフォリオが広いと、ある産業の需要が落ちても、他の産業でカバーできます。
── 堅実な経営ですね。
北條 当社は1970年代、マテハンの知見を生かしてボウリングのピンをセットするマシンを製造していました。ブームに乗って、72年度にはボウリングマシンの売上高は全体の72%に達しました。会社の財務は向上しましたが、ブームが去れば全く売れない。発売当初から覚悟はしていたことなのですが。それ以来、「一気にもうかる商売は長続きしない」を教訓にして、地道に顧客を開拓し、一歩一歩信頼を獲得する路線を身上にしています。
── どのように信頼を獲得してきたのでしょうか。
北條 何ごとにも逃げないことを心がけてきました。これは、顧客の求める納期内に、必要な機能を入れて、求められるコスト内で工事を終わらせることを意味します。かつて、欧米の大手自動車会社にシステムを納入した際「Not Escaping Company(逃げない会社)」と褒められたことがあります。ビジネスライクな欧米の企業がコストが跳ね上がったことを理由に納入価格をつり上げることは珍しくありません。当社は時には採算よりも納期を守ることに注力してきました。
── 他の強みは。
北條 顧客のニーズから新商品を作り出す能力は随一です。当社社員が工場や倉庫など現場に行って、切羽詰まった納期内に顧客と新たなシステムを作ろうとする。一つ現場を仕上げると、社員には自信になります。顧客とイノベーションを生み出しているとも言えます。社員を育てているのは当社ではなく、顧客です。
◇ハイテク産業向け好調
── 国ごとのポートフォリオは。
北條 売上高ベースで、日本33%、北米24%、アジア36%です。日本は特にEC需要が伸びています。アジアの中では中国でディスプレー工場向けが伸びています。北米ではEC向けを伸ばせていないのが課題です。一方で、自動車工場や空港向け搬送システムが伸びています。空港向け搬送システムとは、手荷物を安全・安心な環境下で到着空港まで届けるシステムです。北米は、空港も多いうえ、設備更新需要も旺盛です。
── 足元の業況は。
北條 半導体・ディスプレー関連が好調です。これらはクリーンルームという特殊な環境で製造しています。そこでは、ウエハーやガラス基板を非接触で給電しながら搬送する技術や、ウエハーの加工面が腐食するのを防ぐため、一時保管中に窒素を充填(じゅうてん)する技術が不可欠です。当社は、従来の技術を高度化してこれらのビジネスを手がけており、今大きなウエートを占める事業分野になっています。
── 特殊な技術が求められるのですね。
北條 工場は稼働率を上げるために24時間操業が求められます。マテハンの品質は、最終製品の歩留まり率にも大きく関与します。当社は、工場の運転状況をモニターで見える化して、どこでトラブルが発生したかを監視し、稼働率を極限まで上げることを目指します。これらの技術が受け入れられて、世界の半導体大手の工場に採用されています。半導体はこれまでパソコンなどが主流で、需給動向に波がありました。その結果、設備投資にも波がありました。しかし、今後はデータセンターや車載半導体という新たな市場が拡大して、しばらくは好調が続きそうです。
(構成=種市房子・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A ホンダの二輪・四輪工場が米国やカナダに進出するお手伝いをしました。上司にものお
じせず、英語もよく分からない中、なんとかなるさと体当たりでした。
Q 「私を変えた本」は
A 社会人になって司馬遼太郎や宮城谷昌光を読むようになりました。『街道をゆく』は今でも寝る前によく読みます。
Q 休日の過ごし方
A ゆっくりワインを飲みます。
………………………………………………………………………………………………………
■人物略歴
◇ほうじょう・まさき
富山県立福野高校(現・南砺福野高校)、早稲田大学第一商学部卒業後、1971年大福機工(現・ダイフク)入社。主に自動車設備畑を歩み、98年取締役。海外統轄担当取締役や米国やカナダ現地法人社長を経て、2006年副社長。08年4月から現職。富山県出身、69歳。
………………………………………………………………………………………………………
事業内容:物流システムの設計・製造・据え付け等
本社所在地:大阪市
設立:1937年5月
資本金:150億円
従業員数:8689人(グループ計、2017年3月末現在)
業績(17年3月期)
売上高:3208億円
営業利益:230億円