Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── 東京海上日動あんしん生命はどんな会社ですか。
中里 1996年の保険自由化によって損害保険、生命保険が相互に参入できるようになり、東京海上グループとして生命保険をスタートしました。創業時には「おかしいな、人間が生命保険に合わせている」というメッセージを掲げ、お客さま本位の生命保険のあり方を追求するコンセプトを打ち出しました。もう一つ、革新的な商品・サービスを提供することも創業の精神として取り組んでいます。
── 大手生保との違いをどう打ち出していますか。
中里 グループとして生損保一体なのが独自の強みです。その象徴的な商品が、業界唯一といっていい「超保険」。火災保険や地震保険、傷害保険とばらばらだったものを一つにまとめ、さらに生命保険も提供しています。お客さまの生涯にわたるリスクを一覧化し、コンサルティングしながら生損保両面から守っていくのがコンセプト。2002年に発売以来、多くのご支持をいただいています。
16年10月には、超保険で生命保険の保険料を割り引く「生保まとめて割引」も導入しました。こうした発想をできることが生損保一体で取り組むメリットと考えています。
まさにゼロからスタートした東京海上日動あんしん生命。03年10月の東京海上あんしん生命と日動生命の合併を経て、17年6月末には保有契約件数が557万件を突破し、右肩上がりで成長を続けてきた。国内損保事業、国内生保事業、海外保険事業、金融・一般事業の四つの分野を展開する東京海上グループの中で、生保事業は成長のけん引役に位置づけられている。
── 他にもユニークな商品が多いですね。
中里 17年11月から契約者の方々が歩くと保険料の一部が返ってくる「あるく保険」の一般販売を始めました。お客さまにウエアラブル端末を貸与して装着してもらい、1日平均8000歩を歩くと保険料の一部を2年後にキャッシュバックする業界初の商品です。健康増進の取り組みをサポートすることで、できるだけ(医療の)出費がかからないようにしようというコンセプトですね。
── 従来の医療保険や死亡保険ではカバーしきれないリスクが増えています。
中里 当社では12年から「生存保障革命」と題して、そうした空白領域を保障する商品を開発してきました。最近では、長期の入院などで働けなくなるリスクを保障する「家計保障定期保険NEO 就業不能保障プラン」を16年11月に発売し、17年度上期(4~9月)の加入件数は前年同期比1・5倍と伸びています。17年11月からは「生存保障革命Nextage」という取り組みを始め、「あるく保険」を一歩として「未病・予防」といった領域へと(商品開発を)広げていきたいと考えています。
── 低金利の環境が長く続き、一時払い終身保険は販売休止が相次ぎました。
中里 それでも、老後の生活資金への不安は根強くあります。そこで、保険商品として何かできないかと、17年8月に発売したのが変額保険「マーケットリンク」です。これは、保険料を回払い(月払いまたは年払い)でお支払いいただき、運用実績によって将来の満期保険金の上昇が期待できる商品です。資産運用にはリスクが伴いますが、「マーケットリンク」は長期にわたって積み立て、投資対象を分散することで、そうした運用リスクを軽減できます。
── 運用先は選べるのですか?
中里 国内株式型や外国債券型、国内外の株式・債券に投資するバランス型など8種類から選べます。こうした回払い変額保険も他社はあまりやっていません。お客さまのニーズに合わせて、一歩先を行く商品を提供していきたいと思っています。
◇運用を多様化・高度化
── 保険料の運用環境も厳しくなっています。
中里 健全性を維持することが大前提ですが、資産運用の多様化・高度化を進めています。資産運用能力の高さで定評のある米デルファイ社が12年、東京海上グループの傘下となりましたが、16年度から当社の運用資産の一部を委託し始め、17年度からその規模を大きくしています。グローバルな保険グループならではのシナジー(相乗効果)を発揮していきたいですね。
── 今後の目標は。
中里 17年度は現在の3カ年の中期経営計画の最終年度です。生命保険会社の売上高に相当する新契約年換算保険料は、長期貯蓄性商品を除いたベースで年平均成長率10%を目標としており、17年度末にはクリアする見込みです。また、現中計では生保の事業利益の増加額で1000億円到達を目標に掲げています。今後の金利水準次第となりますが、17年9月末時点の業績予想ではこちらも17年度末で達成できる見通しです。今年度は次の中計に向けた布石を打つ重要な一年でもあります。
より長期のビジョンとしては「日本を代表する生命保険会社」になることを掲げています。規模だけでなく成長性や健全性、収益性などあらゆる面で高いレベルを目指し、お客さまをはじめステークホルダー(利害関係者)から評価されることで、従業員もやりがいや誇りを持てるようにしたいですね。
(構成=桐山友一・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 入社以来の営業部門から本社に異動し、営業推進をつかさどる「営業開発部門」にいました。さまざまな仕組みを変革していかなければならず、「戦略の大切さ」を学びました。
Q 「私を変えた本」は
A 童門冬二の『上杉鷹山の経営学』です。変革にチャレンジする、一本筋の通った経営姿勢に共感しました。
Q 休日の過ごし方
A 下町の散策と食べ歩きです。家族や気の置けない仲間との食事の時間を楽しみにしています。
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■人物略歴
◇なかざと・かつみ
1963年生まれ。埼玉県出身。埼玉県立春日部高校、一橋大学経済学部卒業後、85年東京海上火災入社。東京海上日動火災理事東東京支店長、東京海上日動あんしん生命執行役員営業企画部長、常務取締役兼営業企画部長などを経て、2017年4月から現職。54歳。
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事業内容:生命保険事業
本社所在地:東京都千代田区
設立:1996年8月6日
資本金:550億円
従業員数:2588人(2017年3月末現在、単体)
業績(17年3月期、単体)
経常収益:1兆56億700万円
経常利益:174億7700万円