◇訴訟・危機対応だけでない
秋本裕子(編集部)
総合商社のビジネスは近年、トレーディング(貿易)から事業投資へと変貌を遂げてきた。海外での投資機会も増え、常にあらゆる国のさまざまな法的リスクにさらされている。その中にあって、法的な見地からリスクや契約内容の精査をし、案件が問題なく成立するようサポートするのが法務部だ。
一例として、三井物産の子会社が関わったメキシコ湾原油流出事故後の対応を見てみよう。
2010年4月、英BP社がオペレーターとして運営するメキシコ湾の海底油田が引火して掘削リグが爆発、大量の原油がメキシコ湾へ流出した。同プロジェクトには、三井物産の子会社・三井石油開発の傘下企業が10%の権益を保有しており、BPから事故処理費用の一部負担を求められるとともに、周辺住民からの損害賠償を求める集団訴訟のリスクも負うことになった。さらに、米水質浄化法に基づき、米司法省から莫大(ばくだい)な制裁金を科される懸念もあった。
三井物産は当初から、関係営業本部やコーポレート部門による対策チームを結成。法務部はその一員として、一連の訴訟やBPからの請求内容を精査。米政府当局の動向を逐次モニタリングし、米司法省や民事訴訟への対応策を立案する重要な役割を担った。米連邦議会の公聴会で三井石油開発傘下企業社長が証言を求められた際には、「どういうスタンスで公聴会に臨むべきか、言ってよいことと悪いことは何かなど、法的な観点から徹底的に分析した」(鳥海修・三井物産法務部長)という。