◇景気拡大への効果は限定的
大泉陽一
(欧州住友商事シニアアナリスト)
欧州中央銀行(ECB)は3月10日の理事会で、中央銀行への預金金利をマイナス0・3%から0・1ポイント低いマイナス0・4%、政策金利は0・05%から0%に、上限金利の限界貸出金利は0・3%から0・25%にそれぞれ引き下げた。マリオ・ドラギECB総裁は会見で、金融政策のさらなる緩和を進めることを強調した。
量的金融緩和(QE)の一環として国債など資産の買い入れを月600億ユーロ(約7兆5400億円)から月800億ユーロに増額し、買い入れ対象に非金融業の社債を含めることも決めた。これまで投入した資金は、約7200億ユーロにのぼる。
ただ、QEの目的と現状はかけ離れている。ドラギ総裁は、2月15日の欧州議会証言で、過去2年間の経済成長の半分は金融政策のおかげだと発言したが、物価と景気動向を見ると、成果は限定的と言わざるを得ない。
3月1日に発表された2月のユーロ圏製造業購買担当者景気指数(PMI)改定値は、過去1年で最も低い51・2で、不況の目安である50割れに近づいた。
2月末に発表された2月のユーロ圏の消費者物価は、1月の前年同月比0・3%から大幅に悪化し、マイナス0・2%を記録した。主な要因は、原油安によるエネルギー価格の下押しだが、エネルギーなどを除く「コア・インフレ率」も0・7%と15年4月以来の低水準である。
また、ECBは、QEによりユーロ安が進むことで、輸入の増加に伴うインフレ率の上昇や輸出競争力の強化による経済効果を期待した。だが、ECBが国債購入を開始した15年3月9日に1ユーロ=1・08ドルだった為替水準は、16年3月5日時点で1・10ドルとほぼ変わらない水準だ。
しかも、2月の米国の雇用統計から、賃金上昇率が低いことや、新興国の景気低迷、ドル高や原油安といった複合的な要因で米国の追加利上げが遠のいており、さらなるユーロ安はあまり期待できない。