◇ゆうちょ銀を運用難が直撃
◇2回目売り出しは五里霧中=編集部
編集部
日本郵政グループの稼ぎ頭、ゆうちょ銀行を日銀のマイナス金利政策が直撃している。日本郵政、ゆうちょ銀、かんぽ生命の郵政グループ3社は昨年11月、官民挙げて大々的に上場した一方で、日銀がゆうちょ銀行の収益に打撃を与えるという政策の矛盾もあらわ。ゆうちょ銀をはじめ日本郵政、かんぽ生命の株価は上場時の初値を割り込む展開が続き、16年度前半にもと見込まれていた2回目の株式売り出しも、視界はまったく開けなくなった。
「今期に与える影響は限定的だが、来期も継続すればそれなりに影響が出てくる」──。
2月12日に開かれた日本郵政の2015年4~12月期決算会見。日本郵政の市倉昇常務執行役は、日銀のマイナス金利の影響について問われ、こう認めざるをえなかった。日本郵政株の3月7日の終値は1514円。ゆうちょ銀も1358円、かんぽ生命も2641円と、いずれも上場した昨年11月4日の初値を下回る。日本郵政とかんぽ生命は2月、一時それぞれ1400円、2200円の売り出し価格を下回ったほか、ゆうちょ銀はいまだ売り出し価格1450円を下回ったままだ。ゆうちょ銀は15年4~12月期の経常利益が3890億円と、日本郵政の連結経常利益の約半分に相当する。しかし、年初から欧州を中心に金融不安が高まり、ゆうちょ銀株は下落の一途。日本郵政株も連れて下落を続けていたところに、追い打ちをかけたのが日銀のマイナス金利政策だった。
◇「資金利益」に収益偏重
昨年12月末の貯金残高178兆円と、三菱東京UFJ銀行の預金量(128兆円)を上回る国内トップのゆうちょ銀。しかし、その経営は金利低下の影響を受けやすい特異な構造だ。メガバンクと比較しても、(1)業務粗利益のうち「資金利益」(利ざやによる収益)が大半、(2)資金利益の中でも有価証券の運用益が大半、(3)事業基盤が国内に偏在──といった違いが明らか。例えば、ゆうちょ銀では業務粗利益のうち9割超を資金利益が占めるが、メガバンクは6~7割程度で、投資信託の販売手数料など「役務取引等利益」のウエートが高い。
また、ゆうちょ銀は貯金を含む運用資産約200兆円のうち、有価証券が7割超を占め、運用資産の半分近くが国債。メガバンクの場合は5~6割が貸出金で、有価証券の割合は2~3割にとどまっている。ゆうちょ銀行はそれだけ、国債利回りの低下の影響をもろに受けやすく、マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリストは「収益を確保するには相当な工夫が必要になる」と指摘する。
ゆうちょ銀の運用資産が国債に偏重しているのは、政府がかつて財政投融資の原資として、郵便貯金の資金を振り向けていたころのなごりだ。財政投融資改革に伴って貯金は01年4月から全額自主運用されることになったが、それでも急激な運用資産の変更は難しい。また、貸し出しなど新規業務にも制約がある。法人向けの融資などには「民業圧迫」の批判が強く、郵政民営化法で新規業務には国の認可が必要としているためだ。ゆうちょ銀は12年9月、法人向け融資などの新規業務の認可を申請しているが、現在も認められてはいない。こうした環境は、国債の運用比率が55%にのぼるかんぽ生命も同じだ。
さらに、ゆうちょ銀は日銀当座預金でマイナス0・1%の付利の対象となる残高が、他の金融機関に比べて大きな規模になりそうだ。日銀が今年2月に示した日銀当座預金実績にマイナス金利を適用した場合の参考値では、合計23兆円あまりのうち半分強がゆうちょ銀を含む「その他準備預金制度適用先」。ゆうちょ銀は日銀当座預金の残高を公表していないが、関係者の間ではマイナス0・1%の付利の対象となる残高は6兆円程度とみられており、単純計算で60億円前後の減収要因になる。………