Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── ミマキエンジニアリングの特徴は。
池田 業務用インクジェットプリンターで世界トップシェアメーカーです。インクジェットは印刷技術の中で唯一、プリントする対象物と接触しません。ガラスや金属、プラスチックなど素材はもちろん、凹凸のあるものや立体でも印刷ができるという大きなメリットがあります。
── 立体でもきれいに印刷できるのですか。
池田 対象物とインクヘッドの位置を合わせることが重要です。距離1~2ミリが最もきれいに印刷できますが、立体物で距離を保つのは難しい。またインクの種類によって重さが違い、真っ直ぐにインクを落として、乗せるのにも調整が必要です。当社の技術力で可能にしています。
── どんな市場がありますか。
池田 屋外広告用のサイングラフィックスが、売上高の45%を占めます。屋外広告の素材は塩化ビニール製のシートがメインです。当社が大きく成長したきっかけは、塩ビへの印刷技術です。以前は水性インクしかなく、印刷前にインクを乗せる特別な処理が必要でした。それを直接、塩ビに印刷できるインクを2003年に発表しました。手前みそですが、これで世の中の看板は、アナログからデジタルに進化しました。
── ほかに有力な分野は。
池田 工業製品用のインダストリアル・プロダクツが30%です。10%を超えた布地用のテキスタイル・アパレルに今は力を入れています。
── アパレルには成長の可能性がありますか。
池田 インクジェットが発展することで、業界全体の常識を変えました。これまでは、季節ごとのデザインを半年前に決めていました。ほかの印刷技術の場合、版を作る必要があり、試作から製品化まで逆算すると、そのくらい時間がないと間に合わないためです。ブランド戦略にとってデザインは重要なのに、投入時に流行が変わっていることもあります。
── どう変えたのですか。
池田 当社製品を150台納入している欧州の大手ファストファッションブランドは、製品化までの期間が2週間です。流行を分析し、求められるデザインをすぐに市場に出す。版が不要なインクジェットでなければそのスピードは不可能です。版が不要なことで、多品種少量生産でも単価が変わらず、すぐに印刷できるため、在庫を抱える必要がないというメリットもあります。誰でも知っている世界的な高級ブランドや、シューズメーカーにも納入しています。
池田社長は39歳で就任。前任の60代から大きく若返り、経歴も技術畑から営業畑と変わった。「真のグローバル企業」を掲げ、年間売上高も現在の倍の1000億円を目標に据える。
── 重視することは。
池田 ニーズにとことん合った製品開発に取り組みたい。大手メーカーは、企画から開発、市場投入まで、時間と費用がかかります。そのため「どれだけヒットしても数億円」という製品は、要望があることがわかっていても開発できません。当社は、実際に印刷するプリンター部分と、印刷物の搬送系統を別々に開発、販売しています。大きさや印刷する対象によって、組み合わせることで、顧客のどんなニーズにも応えられる。車でいえばボディーとエンジンを別々に、好きなものを選んでもらうやり方です。「プラットフォーム構想」と呼んでいますが、より顧客目線で充実させたいと思っています。
また、私は当社で海外営業をメインに担当してきたので、よりシェア向上や市場開拓を狙いたいですね。
── 海外事業の比率は。
池田 売上高の75%が海外です。欧州30%、アジア・オセアニア20%、北米15%という比率です。屋外広告用の看板はニッチな市場ですが、まだ普及していない国も多い。積極的に海外展開を進めており、16年にイタリアのテキスタイルプリンターメーカーをM&A(合併・買収)し、17年にはリトアニアにインク製造工場を新設しました。
◇3Dプリンターが好調
── 足元の業績は。
池田 18年3月期の売上高は、前年比7・9%増の521億5000万円の見通しです。中長期的に1000億円を掲げていますが、印刷業界のデジタル化によって自然に届く数字です。当社の技術力を生かして、そのさらに先を目指したい。
── そのための鍵は。
池田 3Dプリンターです。国内で17年11月に販売開始し、1月に米国、2月に欧州でも始めました。1000万色以上のフルカラー造形は世界初です。高精度で豊かな色彩表現ができ、技術でも世界トップだと自負しています。大きさは幅50センチ、奥行き50センチ、高さ30センチの限りがありますが、造形を組み合わせることでどんな大きなものでも作ることができます。年間販売目標は100台で、既に日本だけで10台納入しました。私たちが考えてもみなかった活用方法や、さまざまな業種から問い合わせがあり、目標を上方修正します。
── 池田社長らしさをどう出しますか。
池田 社長の私も含め、当社は世代交代の時期になっています。若返ることで「新しい製品を開発する」というベンチャー精神を改めて意識したいと思っています。結果的に、売れない製品でもかまわない。失敗を恐れず、挑戦を続けていきます。
(構成=酒井雅浩・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 営業でインドを何度も訪れました。交渉がまとまり、内容を詰めに行くと「この値段はおかしい」とまた一から始まる。パワーに圧倒されました。
Q 「私を変えた本」は
A 行く国々の歴史本を読むようにしており、いろいろと学ぶことがあります。最近では、『物語 バルト三国の歴史』です。
Q 休日の過ごし方
A 今年からゴルフを始めました。もう2回、コースを回りました。
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■人物略歴
◇いけだ・かずあき
1976年生まれ。長野県出身。長野県上田染谷丘高校、米GTインターナショナルスクール卒業。2006年ミマキエンジニアリング入社。11年グローバル販売推進部長、13年取締役営業本部長などを経て、16年から現職。41歳。
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事業内容:コンピューター周辺機器やソフトウエア開発、製造、販売
本社所在地:長野県東御市
設立:1975年8月
資本金:43億5700万円
従業員数:1623人(2017年9月30日現在・連結)
業績(17年3月期・連結)
売上高:483億3100万円
営業利益:20億4900万円