増えるマンションの完成在庫 値上がりは限界、反落寸前
新築分譲マンション市場が変調をきたしている。建物完成後も販売を続ける「完成在庫」が急増しているのだ。その数は、東京23区内だけで147物件に上る(上図)。
最寄り駅からの距離が近い人気の立地でも、完成在庫が目立つようになってきた。港区内では地下鉄・東京メトロ南北線の麻布十番駅から徒歩4分の好環境にある「グランドヒルズ元麻布」(2018年2月完成)。千代田区内ではJR四ツ谷駅徒歩5分の「プレミスト六番町」(17年8月完成)。中央区内で販売されている東京メトロ日比谷線築地駅徒歩5分の「ルフォン築地ザ・レジデンス」(18年2月完成)など、都心好立地の「駅徒歩5分以内」物件が完成在庫化している。
特に顕著なのが江東区の深川エリアだ。東京メトロ東西線東陽町駅徒歩5分、全522戸の「シティテラス東陽町」は、間もなく16年9月の完成から1年半が経過する。その近隣の東京メトロ東西線木場駅徒歩11分の場所にある全237戸の「クレストシティ木場」は、6月に完成後2年を迎えることになる。今後、「プラウドシティ越中島」(全305戸、19年1月完成予定)や「プラウド東陽町サウス」(全97戸、18年5月完成予定)など大型物件が完成する予定で、過剰感が強まっている。
「建物が完成するまでに全戸完売」は、ほとんどのマンションデベロッパーにとって販売活動を行う上での目標だ。新築マンションの開発事業では、売り主であるデベロッパーは土地の購入や建築費の支払いなどのコストを銀行からの融資で賄う。このため、少しでも金利負担を少なくするために、建物の完成と購入契約者への引き渡しをほぼ同時期に行うことを理想とする。販売済み住戸を購入契約者に引き渡すことで販売代金を回収し、その資金で銀行融資を返済すると同時に利益も確定できるからだ。
ところが、今の東京の新築分譲マンション市場では、目標通りに完売できず、「完成在庫」になって数カ月、あるいは1年以上販売を続けている物件が増えている(図1)。早晩、市場価格の著しい崩落につながりかねない。
◇投資目的の購入も陰り
完成在庫が積みあがった最大の理由は、マンション価格の上昇にある。不動産経済研究所の調査によると、17年の首都圏(1都3県)のマンションの平均価格は5908万円(前年比7・6%上昇)で、バブル期の1990年(6123万円)以来の高値をつけた。東京都区部に限れば、平均価格は7089万円(同6・9%上昇)に上る。給与収入を基本とする一般家庭ではなかなか手が出せない水準まで値上がりしているのだ。
マンションデベロッパーは、地価や建築費などの膨らみ続けるコストを販売価格に転嫁してきた。東京23区(住宅地)の1月1日時点の公示地価は前年比3・9%上昇、平均価格(平方メートル当たり)は50万4800円で、14年から13%上昇している(図2)。地区別で見ると、港、千代田、中央区の中心部のみならず、品川、目黒、大田区や江東区などにも上昇の波が広がっている。
特に、15年から16年にかけては都心部で土地の価格が目立って値上がりした。外国人観光客向けのホテル用地が高騰したあおりを受けて、マンションデベロッパーの用地取得コストも上昇したのだ。価格が高くなっても「何とか売れるだろう」という感覚で土地を購入し、マンションを開発した。そういった物件が16年から17年に目をむくような金額で売りに出されたのだ。
マンション価格が上昇しても販売が追いついていたのは、長期的な金利低下により住宅ローンの金利負担が軽くなり、従来よりも高額なマンションを購入できるようになったことが大きい。
住宅購入時の価格の目安は、かつては年収の5倍までと言われていたが、現在は年収の7倍程度まで引き上がっている。年収の8倍相当額の住宅ローンを組むことも可能なことがある。また共働き世帯が増えて都心の好立地に住宅を求める層が増えたことも、高額物件の受け皿拡大につながったと言える。さらに五輪開催決定などによる湾岸部の人気の盛り上がり、相続税対策、外国人による購入なども購入者拡大の支えになってきた。
好調な住宅販売を受けて、マンションデベロッパーは過去最高益を更新してきた。マンション供給量日本一の住友不動産は5期連続の最高益更新、他の不動産大手も軒並み最高益を更新してきた。
ただ、住宅市場は曲がり角を迎えていると言えるだろう。マンション価格はもはや一般的な消費者が許容できる水準を超えている。総務省「家計調査」によると、東京都区部の2人以上世帯の平均年収は729万円(16年)で、年収の7倍まで住宅ローンを組んでも5000万円超がやっと。このため、都心をあきらめて郊外や他県でマンションを探す人が増えている。
また高額物件の販売を支えてきた相続税対策と外国人による「爆買い」に陰りが見えてきたことも、売れ行きを鈍らせている。
特に、カナダ、イギリス、北欧などの住宅バブルに味を占め、東京でもタワーマンションなどに投資した外国人は、東京の不動産の値動きが予想外に鈍いことに失望。投資を手控えたり、値上がり益を諦めて東京五輪の前に売り抜こうとする兆しも見える。こうして、完成在庫の山が積みあがることになった。
◇転売目的の売り物件が増加
気になるのは、新築マンション市場と並走状態にある築浅(建築後日の浅い)の中古マンション市場だ。
15年から16年にかけて「マンション価格はまだまだ上がる」という空気が市場に漂っていた中で、多くの個人投資家が都心や湾岸部のタワーマンションを値上がり期待や賃貸運用のために購入した。それらの販売済み物件が昨年あたりからぞくぞくと完成し、「新築未入居」のまま、中古市場で大量に売り出されている。例えば、新宿区に昨年完成した大型タワーマンションや、JR目黒駅そばの再開発で誕生したツインタワーマンションは早くも転売目的の売り物件を多数見ることができる。
それらのほとんどが、新築購入価格から2割程度高い売り出し価格を付けている。ただ、そういう物件は契約に至る件数が少なく、また買い手がついた場合も当初より1割超下げたところで成約していることが多い。
マンション市場とて他の商品と同様、中期的には需給関係で価格が決まる。空き家の増加が社会問題化するほど供給過剰が長期化する日本の住宅市場では、本来ならばここまで値上がりが許容されることはないはずだ。実際、都内にも住戸の半数以上に居住の実態がうかがえない新築の大規模マンションが多数ある。
特に、20年の東京五輪終了後には、中央区の晴海エリアに設置する選手村が一般住宅として分譲される見通しだ。その数、約4000戸。新築物件がダブつき、市場全体の価格を押し下げる可能性がある。
新築も築浅の中古も、マンション市場はかなり危険なほど供給が過剰な状態にある。投資目的で購入した人は価格が高値圏にあるうちに売り抜くことを考え、購入を検討する人は未来の価格下落をにらんでいる。
マンション市場は、いつ下落が始まってもおかしくない。マンションの購入を検討する人は、市場の変化を見極めてからでも遅くはないだろう。