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ワシントンDC 2016年3月29日特大号

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◇有力候補のサンダース氏

◇ユダヤ人からの強い支持はない

 

三輪 裕範

(伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)

 

 米国の大統領選は、11州で予備選と党員集会が行われたスーパーチューズデーも終わり、民主党はクリントン氏とサンダース氏の2人、共和党はトランプ氏とクルーズ氏の2人の戦いにほぼ絞られた。 民主党ではクリントン氏が大統領選出馬を表明した当初、誰が候補になってもクリントン氏が民主党の大統領候補になることは「不可避」と考えられた。だがその後、自称「民主社会主義者」のサンダース氏が富裕層への増税、大銀行の解体、公立大学の学費無償化など、社会的弱者に対し強い訴求力を持つ公約を発し続けた。結果、若者や低所得層を中心に熱狂的な支持を集め、今や民主党の押しも押されもせぬ大統領候補の一人として、クリントン氏に互角の勝負を挑めるまでになった。

 

 そのため最近は日本でもサンダース氏に関する報道がかなり増えている。だが、日本のメディアであまり報道されていない事実がある。サンダース氏がユダヤ人であるということだ。このことは、米国のメディアもあまり大きく取り上げていない。

 もっとも、サンダース氏自身はユダヤ人であることを隠しているわけではない。実際、米国人の多くはそのことをよく知っている。興味深いのは、サンダース氏がユダヤ人だと知っているにもかかわらず、彼に対するユダヤ人社会の熱い応援や支持

が少ないことだ。

 

 ◇教義や戒律への関心低い

 

 もしサンダース氏が大統領になれば、米国史上初のユダヤ人大統領の誕生となる。それは、2008年にオバマ氏が初の黒人大統領になったことに勝るとも劣らない画期的なことであるはずだ。しかし、オバマ氏が大統領に選出された時の黒人層の熱狂的な支持に比べると、今回のサンダース氏へのユダヤ人社会からの積極的な支援は、なきに等しい。

 00年に民主党の副大統領候補として、ユダヤ人のジョーゼフ・リーバーマン氏が指名された時と比べても雲泥の差がある。リーバーマン氏は大統領候補でなく副大統領候補にもかかわらず、ユダヤ人初としてメディアの大注目を浴び、ユダヤ人社会の各層からも圧倒的な支持を得た。

 では今回は、一体なぜサンダース氏にユダヤ人の積極的な支持が集まらないのか。最大の理由は、サンダース氏がユダヤ人の中でもリベラルな世俗派に属し、ユダヤ教の教義や戒律にあまり関心を払わないため、特に正統派ユダヤ人から同じ仲間だと見なされていないことが挙げられよう。一方、リーバーマン氏はユダヤ教の休日や戒律を厳格に守る正統派のうえ、ユダヤ教信者として自分の信仰を折に触れて語った。これもユダヤ人社会の熱い支持を得た大きな要因だった。

 加えて見逃せないのは、ユダヤ人社会自体が、米国社会のエリートとして既得権益化していることだ。特に政界では、今やユダヤ人は日常的な存在になっている。民主党では、上院議員のトップである次期上院院内総務に、ニューヨーク州選出のユダヤ人、チャック・シューマー氏の就任がほぼ確実視されている。

 こうしたことから、黒人大統領や女性大統領が誕生するのとは違い、一般の米国人はもとより、ユダヤ人にとっても、ユダヤ人大統領候補の出現が大きな意味を持たなくなっていると言える。

 米国史上初のユダヤ人大統領誕生の可能性に、大きな興奮も熱気も示さなくなった今の米国社会。これは、サンダース氏が少し規格外のユダヤ人なため起こったことなのか。それとも、ユダヤ人が米国社会の主流派として一般の米国人に同化した結果なのか。その真偽を見極めるにはもう少し時間がかかりそうだ。


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