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【会社で役立つ経済学】ゲーム理論で談合摘発 2016年3月29日特大号

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◇「囚人のジレンマ」応用

◇課徴金減免で通報が激増

 

松井彰彦(東京大学教授)/編集部

 

 公共工事などにおける談合の摘発数が、2006年から日本で急激に増えているのを知っているだろうか。背景には、談合に関わった企業の社員が自ら内部告発しやすくした、ある政策の存在がある。それはゲーム理論を応用し人々のインセンテ

ィブ(目標を達成するための誘因)を変える仕掛けである。

 

 企業同士が示し合わせ入札価格を不正につり上げる談合。これによる国の損失は筆者の試算では年間2兆~5兆円にも上ると見られ、消費税にすると1~2%の増税に相当する。秘密裏に行われる談合は証拠収

集が難しく、談合に関わった企業の内部通報がないと摘発には至らない。

 この談合の摘発・抑制に高い効果を発揮しているのが「リニエンシー(寛大な)制度」だ。談合やカルテルを自己申告すると課徴金が免除または減額される制度で、欧米などでも採用されている。日本では「課徴金

減免制度」と呼ばれ、06年1月の独占禁止法改正とともに導入したところ、内部通報数が06年年間で79件と、05年の26件から約3倍に急増した。制度導入直後の06年3月には水門工事の談合が摘発され、最初の

適用事例となった。摘発までは内偵捜査もあり、その時間を考えると制度の施行とともに内部通報があった可能性が高い。

 リニエンシー制度は、先駆けて導入した米国で効果を発揮したが、日本では導入前、「和を重んずる社会では効かないのではないか」との反対意見もあった。ところが蓋を開けてみれば効果はてきめんで、公正取

引委員会によれば103のカルテル・入札談合等事件に同制度が適用された。

 課徴金減免制度では、談合に関わった企業のうち最初に申告した企業は課徴金が100%減免され、2番目の申告企業は50%、3~5番目は30%減免される。先に申告した企業のほうが得をする制度となっている

ことに注目したい。つまり、この制度の下では、相手よりも先に申告するインセンティブが生じる。

 

 

 ◇インセンティブが人を変える

 

 これはゲーム理論でいう「囚人のジレンマ」の問題そのものだ。囚人のジレンマとは、囚人同士が互いに協力すれば、協力しない場合より良い結果になることが明らかでも、抜け駆けの可能性がある場合は協力しなくなる、という問題だ。

 談合では、内部通報は企業の利益に反するため、通報した社員は、企業内で冷遇され、仕事を干される可能性があった。……

 

(続きは本誌で)


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