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第72回 福島後の未来:原子力産業再生の切り札 小型炉で技術の継承を=窪田秀雄

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くぼた・ひでお
 1953年、神奈川県生まれ。東海大学大学院工学研究科卒。日本原子力産業会議を経て2006年、日本テピア入社。中国を中心に世界の原子力をウオッチしている。編著に『中国原子力ハンドブック』など。

 英国やトルコをはじめ、建設費高騰が原発新設の大きな障害として立ちはだかっている。福島第1原発事故を受け、世界的に安全対策が一段と強化されたことなどが背景にある。原子力産業界が建設費高騰という苦境に直面するなかで、工場でシリーズ生産ができ、高い安全性を備えたモジュール式小型炉(SMR)が原子力産業再生の切り札になるとの期待が世界的に高まっている。


  原子力発電の開発の歴史を見ると、規模の経済を追求する観点から大型化が進められてきた。建設は巨大な事業で、計画立案から必要な許認可の取得までに何年もかかる。着工後も作業が順調に進む保証はない。久しぶりの新設や、新しい世代の原子炉を採用するとなれば、なおさら時間がかかる。

  ◇原発大型化が破綻

 

  この4月、中国広東省の台山1号機に採用された世界初となるEPR(フランス製の加圧水型炉)が中国国家核安全局によって核燃料装荷(原子炉に入れること)を許可された。出力は175万キロワットという大型の原子炉だ。この台山1号機も2009年の着工から核燃料装荷まで実に9年を要した。フィンランドやフランスで建設中のEPRは中国よりさらに遅れている。


  こうした事態を受け、原発に規模の経済は成立せず、キロワット当たりの単価でも小型炉の方が低いのではないか、との見方が出てきた。


  国際原子力機関(IAEA)は、出力が30万キロワット以下を小型炉、70万キロワット程度までを中型炉と定義している。現在、小型炉に分類される原発は中国やパキスタンで稼働中だが、これから世界で導入されようとしているのは、コンセプトが全く違う。工場でシリーズ生産し、需要に合わせてモジュールを追加するというSMRが主流だ。


  現場での建設でなく工場でのモジュール製造であれば工期を大幅に短縮できる。さらに、こうしたSMRは新しい設計を採用し、人手を介さずに原子炉を冷却できるなど、従来の原子炉より安全性を高めているのが特徴だ。発電だけでなく、海水淡水化や熱供給、海上浮動式プラントなど用途も広い。もちろん商業運転実績がないなど、課題もある(表1)。

 

 現在、開発中のSMRのタイプは炉型として大きく四つに分けることができる。軽水炉、高速炉、高温ガス炉(HTGR)、溶融塩炉だ。


  IAEAによると、各種開発段階にあるものを含めると全部で50種類のSMRが世界中で開発されている。すでに20カ国がこの小型炉を含め原発の新規導入に関心を示している。こうした国の大半は途上国で、需要がそれほど大きくない国にとってコストの安いSMRは魅力的にうつる。

◇米英加中が導入に本腰

 

  米、英、カナダという、かつて世界の原子力開発をリードした国のSMRにかける期待も大きい。


  米オレゴン州に本社を構えるニュースケール・パワー社は16年12月、米原子力規制委員会(NRC)に対してSMRの設計認証を申請した。小型炉の認証申請は米国初。同社のSMRは電気出力5万キロワットの一体型PWR(加圧水型原子炉)。NRCへの申請では、建屋に12基のモジュールを配置し60万キロワットの発電所を構成する。NRCは今年4月、フェーズ1の審査を完了した。同社は20年までに設計認証を取得することを見込んでいる。


  英ロールス・ロイス社は今年2月、英国型SMRの実証モジュール開発で、英国政府が設立した先進的原子力機器製造研究センターと契約を締結したと発表した。ロールス・ロイス社はSMRを設計するための国内企業連合を率いており、実証モジュールの開発を通じて初期段階の設計原則を確立する計画だ。


  原発の割高感が共通認識になっているカナダでもSMR導入の機運が高まっている。カナダ原子力研究所(CNL)は今年4月、SMRの実証炉を建設・運転するプロジェクトの提案を募集すると発表した。26年までに実証炉を建設するという長期戦略に基づいて、世界中のベンダーから広く提案を募り審査を行う。


  この3カ国以上にSMRの導入に積極的な中国では、10万キロワットのモジュール2基で構成されるHTGR実証炉が来年にも山東省で運転を開始する。また、PWRタイプのSMRについても中国核工業集団公司、中国広核集団有限公司など複数の国有原子力事業者が電力や熱の供給だけでなく、海上浮動式原子力プラント用に開発を進めている。


  詳細は不明だが、PWRタイプのSMR実証炉も近く着工の見通しと言われている。中国は、国産の大型PWR「華龍1号」だけでなく、HTGRとPWRタイプのSMRの輸出も狙っている。

◇日本のHTGR技術

 

  世界的にSMRに期待が高まっているのは、大型炉の行き詰まりを打破できる可能性が高い、と考えられているからだ。SMRを制する者が世界の原子力市場で覇権を握る可能性が高いといっても過言でない。


  日本で唯一、期待できるSMRは、日本原子力研究開発機構が開発を進めるHTGRだ。HTGRは、冷却材が喪失しても炉心溶融が起こらない設計を採用するなど、高い安全性を持ち、発電だけでなく水素製造などの多目的利用が可能な新世代の原子炉だ。ポーランドで、日本原子力研究開発機構の技術を使って商用炉を共同で建設する話が進んでいるが、建設主体となるポーランド側の法人の設立が遅れているようだ。


  海外プロジェクトへの参加は、日本のHTGR技術の存続を図る一つの方策だが、他力本願ではどう転ぶか分からない点も考慮する必要がある。海外での共同プロジェクトがうまくいけば、日本に逆輸入する手もあるが、福島事故を乗り越え、次の世代に安全な原子力技術を継承するためにも、日本国内にHTGR実証炉を作ることを考えるべきだ。
 


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