Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── アルヒ(ARUHI)の特徴を教えてください。
浜田 国内最大手の住宅ローン専門金融機関です。住宅金融支援機構と提携して提供している最長35年の全期間固定金利住宅ローン「フラット35」の2017年度の取扱件数は業界第1位で、2010年度から8年連続でトップシェアを守っています。
── どこに強みがありますか。
浜田 全国130店舗を構え、地元の不動産会社と良好な関係にあることが強みです。ロボティクス(ロボット工学)やデータマイニング(ビッグデータを分析し、相関を見つけること)といった最先端のIT(情報技術)を駆使し、審査や事務手続きのスピード化を実現しました。
── IT導入の効果は。
浜田 住宅ローンの申込書の記入項目を最大で50%削減できました。住民票、源泉徴収票や重要事項説明書など、文字認識・自動読み取り技術でスキャンして読み取ってしまうためです。以前は記入に1時間程度かかりましたが、今では10~15分程度に短縮されました。
── 審査の速さが競争力になる理由は。
浜田 都心の希少な中古物件や建て売り物件は、優良物件が出るとあっという間に契約が決まります。早い者勝ちです。審査は速ければ速いほどいい。住宅金融支援機構での最終審査はありますが、住宅ローンの金融機関で行うプレ(事前)審査は経営努力で速くできます。人工知能(AI)を導入し、さらに迅速化していきたい。
◇増える品ぞろえ
── 130の店舗網を維持するのはコストがかかりませんか。
浜田 90%がフランチャイズなので当社のコストはかかりません。店舗の経営者は、保険代理店や、司法書士事務所、不動産業者、携帯電話のショップなどを地元で成功させた人たちが多い。初期のころは、すすんで手をあげてくれる人は少なかったですが、今はセミナーや説明会を開くと、多くの人が集まり、審査の数が山積みになるほどです。
── 独自の商品も提供しています。
浜田 独自商品の「スーパーフラット」は、従来の「フラット35」よりもさらに低金利で借りることができます。数百万円程度の頭金を出しても、預金に余裕のある中間富裕層は、これまで銀行が提供するローンに流れていましたが、競争力のある「スーパーフラット」を提供することで、アルヒに取り込もうと考えました。結果は大当たりです。
── 銀行とも連携しています。
浜田 住信SBIネット銀行やソニー銀行、楽天銀行と提携しています。ネット銀行の変動金利の商品などをアルヒの実店舗で扱うことで、補完関係が成り立ちます。このほど、静岡銀行とも提携し、何ができるかの検討を始めています。
── 国内の住宅需要の伸びが期待できない中、成長戦略をどう描きますか。
浜田 お客様は、住宅ローンが欲しいのではなくて、家が欲しい。十分なお金がないから、仕方なく住宅ローンを組むのです。だから、住宅のことで困ったら、気軽に訪ねてもらえる縁の下の力持ちでなければなりません。不動産業者と住宅購入者をつなぐ役目に徹しています。住宅ローン業界のコンビニエンスストアのような存在を目指します。
◇業界再編の核に
── どんな生活サービスですか。
浜田 住宅ローンを借りてもらうと、長いお付き合いになります。お客様のさまざまなライフイベントにかかわり、最適な商品やサービスを提案・提供できるプラットフォームを構築します。家探しの手伝いをはじめ、出産、子育て、家のリフォームやメンテナンス、老後の生活などです。住宅ローンを借りてくれたお客様に家電や家具の購入、介護サービスの利用など、さまざまな特典を与えられる仕組みです。
── ITの活用もさらに広がりますか。
浜田 データベースマーケティング(顧客の属性や購買傾向を記録し、顧客に合ったサービスを提供する手法)や不動産業者と家を買いたい人とのマッチングビジネスを拡大します。事務処理のスピード化を実現しているロボティクスなどの技術を請け負う「オペレーション受託事業」に力を入れます。金融機関が自前で仕組みをつくるより、アルヒに任せたほうが効率的だと思ってもらえるようにしたい。
── M&A(企業の合併・買収)を積極的に進める方針ですね。
浜田 人口減少で国内市場が伸びないわりに、住宅ローン会社の数はまだ多く、経営に苦戦しているところも少なくありません。業界再編が必要で、その核になりたい。また、フィンテック(金融とITの融合)やクラウドサービスなどを展開する中堅企業を買収し、顧客サービスの充実を図りたい。
── 成長戦略をどれくらいのスピードで実現しますか。
浜田 オペレーション受託事業など新規事業の売上高が数億円単位となるのは、来年度以降とみています。本業の住宅ローンは今後5年間、毎年売上高10%増、利益15%増を狙っていきたい。不動産業や銀行業そのものはやりませんが、その間にいることで、誰もが使いたい「プラットフォーマー」を目指します。
(構成=小島清利・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A デル(当時はデル・コンピュータ)の日本法人の立ち上げのメンバーで、ガツガツして仕事をしていました。アスリートのように徹底的に働いて、勝ちまくりました。
Q 「私を変えた本」は
A ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が書いた『イノベーションのジレンマ』は、今の私の考え方の基本になっています。
Q 休日の過ごし方
A ヨットを楽しんでいます。2~3年前は、相模湾で一番船を出していた男と呼ばれていました。今年からはレース参加も再開したい。
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■人物略歴
◇はまだ・ひろし
1959年生まれ。桐蔭学園高校、早稲田大学第一文学部、米サンダーバード国際経営大学院修了。82年、山下新日本汽船(現商船三井)入社。デル・コンピュータ(現デル)日本法人社長、HOYA取締役COO(最高執行責任者)などを経て、2015年5月、アルヒ会長CEO(最高経営責任者)。東京都出身。59歳。
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事業内容:住宅ローンの貸し出し、取次業務、保険代理店業務、銀行代理業務
本社所在地:東京都港区
創業:2000年6月
資本金:60億円(2018年3月31日現在)
従業員数:315人(2018年3月31日現在)
業績(2018年3月期《IFRS》、連結)
営業収益:204億円
税引き前利益:51億円