Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── 衛生陶器を中心とする水まわり関連事業が好調ですね。
瀬戸 水まわり事業には三つの強力なブランドがあります。一つは日本の「INAX」で、その技術は世界トップクラスです。また、ドイツで展開する「グローエ」はマーケティングとデザイン力に優れており、「アメリカンスタンダード」は米国民にとって親しみのあるブランドです。技術力、マーケティング力、コミュニケーション能力をうまく組み合わせることで、世界市場で存在感のあるビジネスを展開できます。
── 例えば、どのような成功例がありますか。
瀬戸 2016年7月に発売したシャワートイレ「センシア アリーナ」は、ドイツの美意識と日本の技術を融合させ、ヒットしました。グローエの洗練されたデザインに、日本が世界に誇るシャワートイレの先端技術を搭載しました。こうした特徴のある商品が増えています。18年3月期決算では、国内の水まわり事業は全商品カテゴリーで市場全体を上回る成長を実現しました。
一家にトイレ「2台」
── トイレ市場は伸びますか。
瀬戸 新興国市場では、人口増に伴い住宅着工数も増え、トイレの数も増えていきます。先進国でも、家族に一つだったトイレが、同じ住宅内で二つ以上のトイレを持つ家庭が増えています。住宅着工数に上乗せした市場規模が期待できるわけです。
── 日本でも一家に2台の時代になると。
瀬戸 朝の出勤・登校前はトイレが混み合い、2~3台欲しいという家庭が増えていると聞きます。自動車や家電など他の商品・サービスと違い、人口減の日本でさえ、トイレの増加は期待できます。ただ、日本も世界もトイレを作れるメーカー数が多いため、そのビジネスチャンスを当社がつかめるかどうかです。
── 建材事業はどうですか。
瀬戸 日本市場が中心なので、住宅着工数の減少や原材料の高騰など外部要因に左右されやすい体質の改善が課題です。高コスト構造を是正し、生産効率を高める必要があります。商品の統一化や部材の共通化で、コストを低減し、市場の変化に柔軟に対応できるようにします。
── とはいえ、安いだけではだめですよね。
瀬戸 住宅設備メーカーが直面する課題は、商品のコモディティー(汎用(はんよう))化にあります。住宅を建てるときに窓やドアにこだわる人は多くありません。メーカーとしては、工務店や流通業者の要求に応えるだけでなく、今後は消費者に名指しで選んでもらえる製品を作らなければなりません。外部企業との連携を進め、特徴的な商品を投入します。
── 成功例は出てきましたか。
瀬戸 水まわりと同様に、魅力ある商品が出てきました。「LW(エルダブリュー)」という窓は、上下左右の窓枠が室内から見えない「フレームイン」のユニークなデザインです。1枚の大きなガラス戸を室外にスライドさせる新発想の大開口窓で、アルミと樹脂のハイブリッド構造を採用することで、眺望性と高い断熱性能の両立を実現しました。
── LWは「トステム」のブランドとして発売しました。なぜ、「LIXIL(リクシル)」というブランドを使わないのですか。
瀬戸 LIXILは会社のブランドとして認知度が高まりました。今後は、商品カテゴリーごとにブランドの認知を高めていきます。水まわりはINAX、サッシはトステムといった具合です。さらに、キッチンの「リシェル」や浴室の「スパージュ」などの中心的な役割を担うブランドについては資金を投入し、育てていきたいですね。
── LIXILは、トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が集まってできた会社ですね。求心力を高めるためにどんな工夫をしましたか。
瀬戸 日本の組織の特徴は、暗黙知を高いレベルで共有していることです。企画書の書き方や会議の進め方、根回しなど暗黙知がたくさんあって、それを知っている人が出世します。海外の企業には暗黙知が少なく、外部から加わった人が活躍しやすいのとは対照的です。そこで、昨年11月に公表した中期経営計画で、従業員に求める行動様式を掲げました。「明文化したルール以外はルールじゃない」と宣言しました。
「正しいことをする」
── どのようなルールですか。
瀬戸 「正しいことをする」「敬意を持って働く」「実験し学ぶ」という三つだけです。従業員が、自分の頭で正しいことを考えて、実行するという期待を込めています。「トステムでは昔からこうだった」とか、「INAXはこうあるべき」などの暗黙知のルールは認めません。
── 新興国で簡易トイレの普及にも力を入れていますね。
瀬戸 一体型シャワートイレ1台購入していただくと、アジアやアフリカの学校を中心に、簡易式トイレ「SATO」を1台寄付するというキャンペーンを展開しています。学校にトイレを設置すれば、教育格差是正や衛生問題の解決に役立ちます。従業員が誇りを持ち、取引先企業、消費者が「この活動があるからリクシルを買う」という動機付けになります。衛生課題の解決は、専任の事業部を置き、持続可能な事業として取り組んでいます。
(構成=小島清利・編集部)
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 住友商事で米デトロイトに赴任し、MBA(経営学修士)留学や新会社設立など今の自分の基礎となる経験を積みました。
Q 「私を変えた本」は
A クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』です。「今の自分たちのビジネスを壊して新たに生み出すにはどうしたらいいのか」という発想が重要であることを教えてくれました。
Q 休日の過ごし方
A 子どもと遊んだり、食事やスポーツ観戦など、家族と過ごす時間を持つようにしています。
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■人物略歴
せと・きんや
1960年生まれ。東京都出身。武蔵高等学校中学校、東京大学経済学部卒業。83年住友商事入社。96年米ダートマス大学MBA(経営学修士)取得。2000年工具ネット通販MonotaRO(モノタロウ)創業。16年1月LIXIL社長兼CEO(最高経営責任者)、16年6月から現職。58歳。
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事業内容:水まわり設備、建材、設備機器の製造・販売など住生活関連事業
本社所在地:東京都千代田区
設立:1949年9月
資本金:681億2100万円
従業員数:6万1440人(2018年3月末現在、連結)
業績(18年3月期〈IFRS〉、連結)
売上収益:1兆6648億円
事業利益:753億円