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目次:2016年11月29日号

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CONTENTS

 

おカネと健康 都道府県ランキング

20 総合1位は福井 おカネと健康いいとこ取り ■種市 房子/花谷 美枝/荒木 宏香

おカネ編

24 京都 投資上手 戦乱の世で培った積極性 ■宮本 勝浩

26 和歌山 貯蓄好き 将来不安がお金をためる ■宮本 勝浩

28 奈良 金融リテラシー お金の知識ダントツ ■編集部

健康編

31 長寿 長野が男女トップの理由 ■編集部 

33 健康寿命 山梨が男女トップ ■編集部

34 乳がん死亡率 香川 喫煙率低く出生率高く発症リスク少なく ■村上 和巳

36 のんき度 沖縄 細かいことは気にしない生き方  ■編集部

37 自殺率 大阪が最も低い ■編集部

 

エコノミスト・リポート

86 「脱石油」を急ぐサウジ副皇太子 ■畑中 美樹

 

Flash!

13 朴韓国大統領は退陣必至/日印原子力協定締結の先/トランプ次期米大統領の米最高裁判事人事/4~9月期決算 円安で通期増益も

17 ひと&こと NHK会長候補に上田氏か 商事「反対」で現職再任も/債務超過必至のタカタの険しい再建の道のり/中国が米国産牛肉輸入再開で吉野家に値上げ圧力

 

Interview

6 2016年の経営者 落合 寛司 西武信用金庫理事長

50 問答有用 水野 達男

マラリア・ノーモア・ジャパン専務理事 「アフリカで悲しむ母親を一人でも減らしたい」

 

世界を救う!? 昆虫食

89 食肉に優る生産性とコスト ■水野 壮/花谷 美枝

92 欧米の昆虫ベンチャー ■花谷 美枝

93 徳島大の食用コオロギ量産化研究

94 リポート 昆虫食に挑戦 ■花谷 美枝

 

38 EU離脱 英国の強硬離脱姿勢が招く孤立化 ■菅野 泰夫

40 スマホ 普及しない格安スマホ ■佐藤 仁

42 中国 急増する社債のデフォルト ■関 辰一

44 気候変動 急成長のグリーンボンド市場 ■村上 芽

80 不正会計 異常な東芝の「バイセル取引」 ■浜田 康

82 中国 有機EL4兆円大型投資の死角 ■黒政 典善

 

World Watch

72 ワシントンDC 白人労働者階級の逆襲 ■今村 卓

73 中国視窓 新財務相に国際派の肖氏 ■稲垣 清

74 N.Y./ロサンゼルス/英国

75 オーストラリア/インド/インドネシア

76 広州/ウズベキスタン/イスラエル

77 論壇・論調 企業買収「妨害」の独に中国反発 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

5 闘論席 ■池谷 裕二

19 グローバルマネー レーガン政権と酷似するトランプ氏の経済政策

46 連載小説 三度目の日本 2027(45) ■堺屋 太一

48 アディオスジャパン(29) ■真山 仁

54 学者に聞け! 視点争点 住民意見で公共部門の効率化を ■伊集 守直

56 言言語語

64 名門高校の校風と人脈(218) 上宮高校(大阪府) ■猪熊 建夫

66 海外企業を買う(118) 美利達工業 ■富岡 浩司

68 日本人のための第一次世界大戦史(72) 五四運動 ■板谷 敏彦

70 日本人に見えなかった中東の真実(12) イスラム教国家に自由はないのか? ■福富 満久

78 東奔政走 ようやく動き出した憲法審査会 ■末次 省三

102 景気観測 輸出数量は為替より世界景気が左右する ■斎藤 太郎

104 ネットメディアの視点“トランプ支持”を見誤らせた大手メディア「責任の自覚」 ■山田 厚史

105 商社の深層(47) 物流施設開発でもしのぎを削る伊藤忠と三菱商事 ■編集部

106 アートな時間 映画 [ジムノペディに乱れる]

107        クラシック [プラシド・ドミンゴ&ルネ・フレミング プレミアム コンサート イン ジャパン 2017]

108 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ cost of equity capital ”

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット

98 中国株/為替/金/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『欧州複合危機』

『イスラーム国の黒旗のもとに』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■鈴木 幸一

62 歴史書の棚/海外出版事情 中国

 

57 次号予告/編集後記

 

95 定期購読・デジタルサービスのご案内


特集:おカネと健康 都道府県ランキング 2016年11月29日特大号

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◇全国総合1位は福井県

◇おカネと健康いいとこ取り

 

ないようでありそうな県民性。おカネと健康で都道府県をランキ

ングづけしてみたところ……。

 

種市 房子/花谷 美枝/荒木 宏香(編集部)

 

 県民性はあるのか。世の中にあまたある都道府県ランキングは首位がまちまちだ。統計データの分析を重ねるほど、世間が漠然と捉えている県民性と離れてしまう。

 そこでおカネと健康に関連した統計に絞ったうえで、経済力や人口規模など個々の県民の特性が薄まらないよう統計処理した独自の都道府県ランキングで分析した結果、全国総合1位は福井県だった。

 世帯別収入、定期預金、貯蓄、有価証券、平均寿命、健康寿命、精神のすこやかさ(のんき度)、自殺率の最新の都道府県データを使用。さらに、世帯別収入に占める定期預金の割合、貯蓄に占める有価証券の割合を独自に算出し、計10項目で数値がよい順番に並べて採点した。世帯収入1位などおカネの項目や健康で上位を占めた福井県が総合1位。続いて、全国1位の項目はないものの全体的に評価が高い神奈川県が2位、続いて奈良県が3位に入った。おカネと医療の相関

 おカネと健康で都道府県ごとに格差が出るのはなぜだろうか。まずは、二つのデータで検証したい。大和総研は、経済指数と入院者・外来者、経済指数と健康意識の相関関係を示したデータを作成した(図1・2)。

経済指数とは内閣府が作成した「都道府県ごとの経済総合力」を示す指数だ。第1〜3次産業の出荷額や販売額、事業所数、従業者数、課税対象所得者のデータを算定式により処理したものだ。数値が高いほど、経済基盤が強いと言える。

 図1では経済指数が低い県ほど入院者、外来患者が増えることが分かる。つまり、経済状況が悪いと疾病にかかる人も多いという相関関係だ。図2では経済指数が高いほど健康意識が高まるのが分かる。

 家庭の年収によって個人間に健康格差が生じることは近年、社会問題化している。同様に、地域間でも経済状況によって健康格差が生じている可能性がある。

 健康格差の研究をしている東京大の近藤尚己准教授は、相関の理由に二つの可能性を挙げる。まず、経済指数の高い地域には、元々元気で収入の高い住民が多いことが考えられるので、入院者は少なく、健康意識も高いという点だ。もう一つは、「経済指数の高い地域は、行政に多くの税収があり、社会福祉に回す金も多いといった理由で、低所得者へも恩恵が行き渡り、社会全体で健康になる可能性」と分析する。ただし、近藤准教授は「これらは一般論。図からは、因果関係の詳細までは分からない」と話す。

 良好な地域経済の恩恵を、地域全体の健康向上に向けられれば、お金と健康に相関関係は見られる。しかし、これらの図からは、相関から離れた県もある。図1では大阪府と秋田県は経済指数が低いが、大阪府は入院者が、秋田県は外来患者が少ないことがうかがえる。図2からは、千葉県や埼玉県が、経済指数は高いのに健康意識はさほど高くないことが分かる。作成した大和総研の鈴木準主席研究員も、「なぜ、これらの府県が相関関係から外れているかは不明だ」と話す。政策では説明し切れない要素こそが県民性と言えるのではないか。このデータは、政策と県民性が複雑に作用した結果と言えそうだ。

 

◇救急搬送にも県民性?

 救急車を呼んだ後、どのぐらいの時間で病院までたどり着けるのか。………

週刊エコノミスト 2016年11月29日 特大号

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特別定価:670円

発売日:2016年11月21日

おカネと健康 

     都道府県ランキング

 

◇全国総合1位は福井県

◇おカネと健康いいとこ取り

 

 

県民性はあるのか。世の中にあまたある都道府県ランキングは首位がまちまちだ。統計データの分析を重ねるほど、世間が漠然と捉えている県民性と離れてしまう。

 

そこでおカネと健康に関連した統計に絞ったうえで、経済力や人口規模など個々の県民の特性が薄まらないよう統計処理した独自の都道府県ランキングで分析した結果、全国総合1位は福井県だった。

 

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経営者:編集長インタビュー

◇落合寛司  西武信用金庫理事長

◇「雨の日に傘貸す」協同組織金融機関目指す

 

── 西武信金はどのような金融機関ですか。

落合 「利用者保護」が基本理念である協同組織金融機関の働きを最大限に追求した、コンサルティング機能を持つ金融機関です。顧客の課題を徹底的に解決します。

── なぜ、「コンサル」なんですか。

落合 日本は今、二つの大きな変革期にあります。まず、世界経済の主役が先進国から新興国に変わりました。二つめは少子高齢化です。このような変革期は、これをチャンスにできる企業と、ピンチにする企業がはっきりと分かれます。だから、コンサルが必要です。

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経営者:編集長インタビュー 落合寛司 西武信用金庫理事長 2016年11月29日特大号

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落合 寛司 西武信用金庫理事長

 

◇「雨の日に傘貸す」協同組織金融機関目指す

 

Interviewer 金山 隆一(本誌編集長)

── 西武信金はどのような金融機関ですか。

落合 「利用者保護」が基本理念である協同組織金融機関の働きを最大限に追求した、コンサルティング機能を持つ金融機関です。顧客の課題を徹底的に解決します。

 

── なぜ、「コンサル」なんですか。

落合 日本は今、二つの大きな変革期にあります。まず、世界経済の主役が先進国から新興国に変わりました。二つめは少子高齢化です。このような変革期は、これをチャンスにできる企業と、ピンチにする企業がはっきりと分かれます。だから、コンサルが必要です。 

── 具体的にはどのように課題解決を支援しているのですか。

落合 例えば、中小企業の半分が海外進出で失敗しています。そこで、当金庫は、ベトナムの工業団地に出資をしています。団地には、進出した中小企業へのコンサル機能があり、材料の購入や現地社員の採用などについてアドバイスします。また、人材のマッチングもしています。一例を挙げると、中小企業にベトナム人の留学生を紹介し、3年間徹底的に教育したうえでベトナムに社長候補として送り込んでもらいます。

 

── 国内向けは。

落合 取引先を紹介するビジネスマッチングが一番多いです。年間6500件紹介しています。企業が一番欲しいのは売り上げです。だから、紹介すると、多くの顧客は元気になります。また、変革期ですから、企業はビジネスモデルを変える必要があるので、その支援をしています。ただ、経営者には、「自分で変えないでください」と話しています。

 

── なぜですか。

落合 会社を良くしようと一生懸命努力した結果が、今ですから。だから、第三者の専門家に見てもらうのです。当金庫は、東京大学や中小企業診断協会など外部の組織と連携し、3万人のネットワークがあります。ゴルフのフォームと同様、欠点や長所は第三者が一番よく分かります。

 

── 不動産賃貸向けの融資も前年比17%増と大きく伸びています。

落合 地域を活性化するためです。これから、不動産は「持たざる」時代に入ると考えています。少子高齢化で東京などの一部都市を除いて、日本の不動産価格は下がるでしょう。不動産は賃貸が中心になる。だから、遊休不動産を持っている人に、賃貸物件用の貸し出しをしています。

 これは、資産管理対策にもなります。日本の相続税率は世界最高の55%です。何もしなければ、保有不動産の半分以上が税金に消えます。だから、例えば、八百屋の店舗の上に賃貸物件を作ってもらいます。家賃が入れば、本業も強化できます。

 

◇「ブティック」目指した

 

── 業績はどうですか。

落合 2016年3月期は、貸出金が1232億円増えましたが、今年

度は1600億円伸びそうです。預貸率は昨年度は76%ですが、今年度は現時点で78%。なぜなら、顧客が元気だからです。元気になれば食欲が出るように、企業もお金が必要になります。不良債権も減ります。昨年度の不良債権比率は1・74%と、業界平均の6%の3分の1以下です。前期の当期利益は74億円ですが、日本で初めて正常債権に42億円の引当金を積んだので、それを除くと、実質的に110億円強になります。

 

── 正常債権になぜ、引当金を積んだのですか。

落合 顧客を潰さないためです。リーマン・ショックのような大きな経済変動が訪れると、中小企業はすぐ赤字になります。債務超過になると「破綻懸念先」に分類され、貸し出しが実行できなくなる。ですが、あらかじめ、引当金を計上していれば、いざというときにお金が貸せる。要は「雨の日に傘を貸す」真の協同組織金融機関を目指すための体制を作っているのです。

 

── なぜ、ほかの金融機関はまねができないのですか。

落合 我々は「百貨店」ではなく、「ブティック」を目指しました。メガバンクが一番不得意なのは、顧客の戸別訪問など、手間がかかることです。しかし、非効率な戸別訪問もコンサルにより付加価値を高めると「効率」に変わります。ただ、そうは言っても、これを運営する従業員が元気でないと、実現できないので、人事制度を改革しました。

 

── それは、いつからですか。

落合 私が理事長に就任した2010年以降です。徹底的に個人の潜在能力を生かす体制にしました。まず、年齢による定年を無くしました。60歳を過ぎても、昇進や昇格は今までと全く同じで、自分が能力の限界を感じるまで勤められます。中途採用も年齢の制限はありません。これまで採用した人の最高齢は70歳です。他の金融機関で肩たたきにあった55歳くらいの人も結構入庫しています。今、どんどん出店しているので、この人たちは1〜2年で支店長になります。また、新人も支店長のポストを目指して立候補し、社内の試験に合格すると、いきなり支店長になれます。

 

── ITを活用した金融サービスの「フィンテック」の取り組みは。

落合 決済サービスを提供するベンチャー企業の「コイニー」(東京・渋谷区)と業務提携しました。スマホでクレジットカード決済ができるので、これを、地域の商店街に導入しようと考えています。2020年に東京でオリンピックがあるのですから、商店街に免税店があってもよいはずです。

 

◇横 顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 金融業に必要なコンサル業務を職場内や顧客に提供する仕組み作りに努力していました。

Q 「私を変えた本」は

A 本ではないですが、小学校の時、同級生の女の子の死をきっかけに、二度と無い今を真剣に生きようと考えました。「前向きな心」が大好きな言葉です。

Q 休日の過ごし方

A ガーデニングをしています。面倒を見ればすぐに結果が出るのが好きです。

(構成=稲留正英・編集部)

 

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 ■人物略歴

おちあい かんじ

神奈川県出身。神奈川県立津久井高校、亜細亜大学卒業。1973年西武信用金庫入庫。2002年常勤理事、05年専務理事を経て、10年6月より現職。66歳。

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事業内容: 金融業

本店所在地:東京都中野区

設立: 1969年6月

資本金:1173億円(2016年3月期・連結)

従業員数:1192人(9月30日時点)

業績(2015年度)

 経常収益:317億円

 

 当期利益:74億円

世界を救う昆虫食 昆虫食レポート

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ザザムシの佃煮
ザザムシの佃煮

◇昆虫食リポート 

◇ザザムシは磯の香り、蜂の子はスウィーツ

 

伝統料理から加工食品、創作料理まで記者が食べてみた。

 

噛んだ途端、「シャクリ」。小エビを柔らかく煮たような食感とともに、口の中に磯の香りが広がった。体長は2~3センチで、見た目はほぼ真っ黒。岩のりをほうふつとさせる味わいで、白いご飯が欲しくなる。日本酒にもあいそうだ。

 

郷土料理としての昆虫の中でも、「高級珍味」といわれるザザムシの佃煮。川の浅瀬に住む水生昆虫の総称で、中でも長野県伊那市の天竜川上流域で採れたものは高級品といわれている。そのおいしさから乱獲された時代もあり、一時期は絶滅が危惧された。現在、伊那市では12月から2月末までの冬の間のみ漁が認められている。まさにこれから旬を迎える昆虫だ。

 

長野県をはじめ広い地域で今も食べられているイナゴの佃煮は独特の歯ごたえがあり、エビフライの尻尾によく似ている。香ばしくザクザクとした食感を楽しめるが、喉の奥に触覚や脚の感覚がいつまでも残るのが少し気になった。

 

イナゴよりも軽い食感で食べやすいのがカイコの蛹(さなぎ)だ。サクサク、パラパラと口の中でほどける感覚と、佃煮のほんのり甘い味付けがよく合う。おやつにしたい一品。カイコは、蛹を煮立てて絹糸を取り出した後、残りを食用にしてきた。いわば製糸業の「産業廃棄物」の有効活用だが、絹糸を吐いて繭(まゆ)を作る前の段階で食用にする調理方法もある。

欧米発の昆虫加工食品
欧米発の昆虫加工食品

より甘味を楽しめるのは、蜂の子(ハチの幼虫)だろう。体調1センチ程度の小さな粒で、噛(か)むとクニュッと柔らかくつぶれてふわっと融ける。かつてはさまざまな種のハチの幼虫が食べられていたが、現在、通常食用にされるのは、クロスズメバチとシダクロスズメバチだという。

 

日本の郷土料理として残る佃煮は甘辛く強めの味付けをしつつ、昆虫それぞれの食感や風味の違いを楽しめた。ただ、昆虫の「姿煮」でもあるため、見た目で苦手意識を持ってしまう人もいるだろう。

 

一方、良くも悪くも「昆虫らしさ」を感じないのが欧米の昆虫ベンチャーの加工食品だ。電通が出資する米EXO(エクソ)のコオロギ粉入りプロテインバー(ココア味)、同じくコオロギ粉10%配合のアイスランド、クローバー・プロテインのジャングルバー(880円)はいずれもチョコレート風味。味にも香りにも昆虫の形跡はない。普通のお菓子として食べられるので、昆虫食の入り口にはうってつけだ。

 

◇創作料理の会も

 

昆虫を使った創作料理を楽しむ会もある。昆虫料理研究家の内山昭一さんは、月に1度、昆虫を使った創作料理の試食イベント「昆虫食のひるべ」を都内で開催している。11月13日開催のイベントには、20人ほどが参加した。

芋虫と里芋の天ぷら
芋虫と里芋の天ぷら

献立は、セミの幼虫やカイコ、蜂の子を使った「バグチャウダー」、「ミツバチと白菜と柿のなます」そしてジャンボミールワームなどの「芋虫と里芋の天ぷら」の3品。調理は参加者全員で担当した。繭からカイコを取り出し、昆虫を下ゆでしていく。調理師の鈴木真奈美さん(29)はゆでたセミの幼虫の殻をむきながら「調理していると、昆虫が食材に見えてくるから不思議」と笑顔。参加者の年齢層は幅広く、初参加の人も多い。

 

参加した会社員の松田翔さん(28)は「バグチャウダーに入っていたスズメバチは歯ごたえがあっておいしかった。苦みもないし、アサリの代わりになりそう」と話した。見た目が強烈な芋虫の天ぷらは、表面はサクッと軽く中はジューシー。塩味が利いていてビールが欲しくなる。

 

会を主宰する内山さんは「食べることで昆虫をより身近に感じてほしい」と話す。確かに、口にしてみたことで、新しい食の世界が広がった。

(花谷美枝・編集部)

 

2016年11月29日号 特集「世界を救う昆虫食」記事一覧

食肉に優る生産性とコスト ■水野 壮/花谷 美枝

欧米の昆虫ベンチャー ■花谷 美枝

徳島大の食用コオロギ量産化研究

リポート 昆虫食に挑戦 ■花谷 美枝

異常な東芝の「バイセル取引」 旧経営陣不問なら、資本市場に禍根

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浜田康(公認会計士、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科特任教授)

Bloomberg
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東芝の不正会計問題を巡り、証券取引等監視委員会が「歴代経営陣の刑事責任を追及すべき」と主張しているのに対し、検察庁が「立件は難しい」と慎重な態度をとっていると報じられている。焦点となっているのは、パソコン事業のいわゆる「バイセル取引」に関する粉飾の有無だ。

 

私は公認会計士として、長年、会計監査をしてきた。この立場から見ると、東芝のバイセル取引は明らかな会計基準違反であり、古典的な粉飾決算だ。これをどうして問題視しないのか不思議でならない。

 

まずは、バイセル取引とは、どのようなものか説明したい。これは、メーカーが部品等の加工を第三者(製造委託先)に委託する際、いったん部品を委託先に販売し、委託先の加工後、買い戻す取引を意味している。一般的には「有償支給取引」というが、東芝は社内用語で「バイセル取引」と称しているようだ。

一例を挙げると、バイセル取引ではまず、原価1万円の部品を、6万円で委託先に販売し、委託先でパソコンを製造後、6万5000円で委託先から完成品のパソコンを買い取る。

 

なぜ、原価1万円の部品を6万円で売るかというと、委託先に部品の原価が分からないようにするためだ。委託先は、東芝以外のパソコンメーカーとも取引があり、部品の原価が東芝のライバルに漏れてしまうのは競争上不利になる。そのため、「マスキング価格」と称して、6万円で売る。

 

もちろん、このままでは、1万円と6万円の差額の5万円が、実際の販売がないにもかかわらず、東芝の利益として計上されてしまう。この「未実現利益」を解消するために、委託先から完成品のパソコンを買い取って貸借対照表に計上されている在庫から、5万円を差し引く。これを、バイセル取引を行った同じ決算期内で実行する。こうすれば、マスキング価格計上の影響はなくなる。

 

問題は、東芝が、このように生じた未実現利益を解消することなく、決算期末をまたいで「放置」したことだ。これが東芝固有のバイセル取引の実態で、誤った会計処理なのだ。

◇日米の会計基準に違反

 

日本の上場会社は、金融商品取引法(金商法)に従って、有価証券報告書を各地の財務局に提出するが、これには財務諸表を記載しなければならない。

 

この財務書類の作り方には決まりがある。金商法第193条で「この法律の規定により提出される貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類は、内閣総理大臣が一般に公正妥当であると認められるところに従って内閣府令で定める用語、様式及び作成方法により、これを作成しなければならない」と決められている。

 

この内閣府令とは、第52号の「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(連結財規)」であり、そこに、有価証券報告書に記載する連結財務諸表の作成方法等は「この規則の定めるところによるものとし、この規則において定めのない事項については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとする」(同令第1条第1項)とされている。

 

さて、東芝の連結財務諸表は、米国会計基準で作成されている。このように米国で上場などしている会社については、連結財規第95条で、米国市場で求められている会計ルールに従うことができるとされている。「できる」という表現は、米国会計基準の連結財務諸表を有価証券報告書に記載する会社は、当然に、米国会計基準に従って有価証券報告書上の連結財務諸表を作成しなければならないということを意味している。

 

米国の会計基準の体系はかなり複雑だが、棚卸資産の評価の会計ルールは、ARB43“Restatement and Revision of Accounting Research Bulletins”に定めがある。それは、「帳簿価額と時価のより低い方の価格を貸借対照表価額としなければならない」というものである。

 

東芝は、マスキング分を乗せた在庫を棚卸資産に計上していた。たとえば、そもそも原価1万円の部品にマスキング分の5万円をのせて6万円で販売していたので、棚卸資産の帳簿価額は6万円か、製造委託費5000円が上乗せされた6万5000円になっていた。

 

しかし、その在庫を通常の市場で処分しようとすれば、1万円か1万5000円でしか売却できない。マスキング分は東芝と委託先との「あうんの呼吸」でかさ上げされているだけで、付加価値としての実態はないからである。そうすると、1万円か1万5000円が米国会計基準でいう「時価」に相当する。米国会計基準では、時価が上限となるので東芝が貸借対照表に計上していた簿価(6万円か6万5000円)は、会計ルール違反になる。そして、前述のように、日本の金商法違反にもなるのである。このように、バイセル取引は、明文化された規定に違反しているのである。

 

 ◇利益の4割に相当する操作

 

 東芝はバイセル取引により、2013年度に最大842億円の架空利益を棚卸資産に計上していた。その分、売上原価は減り、粗利益および営業利益の増加につながっていた。6兆円の売上高と比較すれば、1%強の金額である。しかし、粉飾をした13年度までの5年間で、税前当期純利益は、最大で2000億円、最小でマイナス140億円である。最大の2000億円と比べても、842億円は40%を超えている。これは会計上、重大な影響を及ぼしている。

 

粉飾決算は、究極的には利益を操作するものである。利益操作の影響額を売上高との比較にすり替え、影響を過小に見せるのはおかしい。

 

不良債権を巡り不適切な会計処理があったとして、1999年6月に東京地検特捜部が日本長期信用銀行(長銀)の当時の経営陣を証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と商法違反(違法配当)で逮捕・起訴した長銀事件で、最高裁は2008年、長銀は虚偽記載には当たらないとして、被告らに逆転無罪判決を下した。

 

確かに、判例としての影響力は大きい。だが、東芝の粉飾決算事件を考えた場合、当時と現在の資本市場を取り巻く環境の変化の方が、より重要である。現在、上場会社の経営者は、有価証券報告書に記載した内容は適正であるとの確認書を提出している。また、内部統制報告制度に従い、適正な財務報告をするための内部統制の整備・運用をしており、その内部統制は有効であった旨の意見を表明した内部統制報告書を提出している。これらの制度は、経営者が、財務諸表等の適正性に強くコミットしなければならないこと、また、財務諸表等の適正性に、直接的な責任を有することを前提とする。

 

長銀の時代にはなかったこれらの制度は、経営者の責任を強く前面に押し出したもので、こうした環境の変化を考えれば、長銀事件の判例をそのまま東芝に当てはめるのは不適切だろう。東芝事件は、現時点における日本の資本市場の公正性、信頼性が問われている問題として、司法は長銀事件判決とは切り離して検討すべきと思われる。

(浜田康・公認会計士、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科特任教授)

 

*週刊エコノミスト2016年11月29日号掲載

トランプ政権 焦点の最高裁判事人事 保守派の陣営強化へ

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次期大統領にドナルド・トランプ氏(70)が選ばれた米国で、1人欠員の状態にある連邦最高裁判所判事の人事に注目が集まっている。

 

米国の最高裁は、違憲か合憲かの判断を日本の最裁よりも積極的に行い、国の政策や社会的に重要な争点に介入する傾向がある。このため最高裁判事は、米国の政策の方向性を左右し、実質的な政治の参加者とも言える重要な人物だ。米国では、大統領選の期間中から、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の離脱以上に、最高裁判事の任命人事は重要な争点だった。

 

最高裁判事は長官を含めて9人。終身制のため、一度就任した判事は30年以上勤める場合が多い。オバマ政権下では保守派4人、リベラル派4人、中道派が1人だったが、保守派のアントニン・スカリア判事が今年2月に死亡し、保守・リベラルのバランスが崩れていた。

 

一方、この欠員に対してトランプ氏は、大統領就任後に保守派の判事を選ぶ可能性が高い。選挙期間中にも、ミシガン州最高裁のジョアン・ラーセン氏や、連邦控訴裁判事のウィリアム・プライアー氏など、保守派の現職判事11人を候補に挙げてきた。

 

最高裁判事は、連邦議会上院の助言と同意を前提として、大統領が任命する。これまでは、上院は過半数が共和党で大統領は民主党という「ねじれ」があった。だが、米大統領選に併せて行われた連邦議会選では、共和党が上下両院で過半数を獲得した。大統領と上院の方向性は一致することになる。

 

今回の欠員補充により、最高裁判事の陣容が直ちに保守一色になるわけではない。

 

だが、83歳のルース・ギンズバーグ氏や、78歳のスティーブン・ブライヤー氏など、リベラル派の立場をとる現在の判事には高齢者が多い。健康問題も取りざたされている。また、中道派のアンソニー・ケネディ氏も現在80歳であり、「近いうちに引退するのでは」という話も出ている。

 

トランプ氏の大統領任期中、さらに欠員を補充する状況になれば、長期的には保守的な政策がより一層進められるだろう。

 

◇リベラル政策変更も

 

米国の政策における最高裁の影響は、歴史的な経緯もあって根強い。

 

公立学校の生徒を人種によって分けることを最高裁が違憲とした1954年の「ブラウン判決」を契機として、黒人の権利を求める公民権運動が強まったことはよく知られている。近年も、同性婚を合憲とするなど、最高裁が政策を後押しした判例がある。

 

今後、最高裁判事で保守の勢力が強まれば、これまでのリベラルな政策が訴訟を通じて覆される可能性がある。

 

具体的には、1973年の「ロー対ウェード判決」以来認められてきた妊娠中絶や、同性婚の容認、医療保険制度改革(オバマケア)などが争点になる。

 

また、「小さな政府」を好む共和党の意向を受けて、連邦から州への権限移譲や、企業に対して規制緩和を進める政策が認められることも考えられる。銃規制の強化は進まないかもしれない。

 

選挙期間中は過激発言が問題視されてきたトランプ氏だが、首席補佐官の人事では共和党の主流派との連携もみられており、司法の分野でも、党の意向を踏まえて保守色をより一層強くしていくだろう。トランプ氏と共和党との政策的な距離感が、最高裁の判事任命人事を決めていくのは間違いない。

(前嶋和弘・上智大学教授)

 

*『週刊エコノミスト』2016年11月29日号 FLASH!掲載

目次:2016年12月6日号


【EconomistView】:奥村組「30年を経過した免震装置で十分な性能を確認」2016年12月6日号

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社業として社会に貢献でき、恵まれた仕事をさせていただいていると話す奥村社長
社業として社会に貢献でき、恵まれた仕事をさせていただいていると話す奥村社長

◇奥村組・奥村太加典社長

◇「既存建物の免震化も可能とする優れた免震技術で社会に貢献する」

 

今年5月に3カ年の中期経営計画を発表し、基本方針に建設事業の生産力向上とブランド力アップを掲げた奥村組。その推進の主体となる技術開発拠点「奥村組技術研究所」(茨城県つくば市)で、竣工30年の免震建物による実証実験が行われた。社業を通じてさらに社会貢献したいという奥村太加典社長に話を聞いた。

 

免震に対する社会の関心がまだ低かった1980年代初頭、「地震大国日本では、絶対必要な技術になる」という信念のもと免震の研究を開始した奥村組。86年には、人工的に建物をまるごと振動させられる日本初の実用免震ビル、奥村組技術研究所管理棟を竣工させるなど、30年以上にわたり免震建物と免震装置に関する実証データを蓄積してきた。

 

今回の実験は、総重量約2500㌧の管理棟全体を油圧ジャッキで水平方向に10㌢スライドさせ、一気にジャッキを解放して建物を自由振動させて、揺れの周期や振幅などのデータを測定・分析するもの。その結果、免震装置に使われている積層ゴムの水平剛性は竣工時に対して約9%高くなり、設計時に想定した剛性増加率の許容範囲内に十分おさまっており、剛性変化の傾向も予測の範囲内で推移し、建物が設計どおりの免震性能を有していることが確認された

研究所内の三次元振動台を使った地震体験。中央の免震装置には揺れが伝わりにくい
研究所内の三次元振動台を使った地震体験。中央の免震装置には揺れが伝わりにくい

その一方、この30年、パイオニアとしての苦労も多く、「劣化しやすいイメージのあるゴムで、重い建物が支えられることを理解していただくのが大変でした。実験データなどを示してご説明するのですが、なかなか免震構造を採用していただけなかったのです」と奥村社長は振り返る。大きな転機になったのが阪神・淡路大震災だ。免震に対する注目が高まり、奥村組にも免震関連の実験依頼が急増したという。

 

耐震構造が建物を堅牢にして強度を高めるのに対し、免震構造は地震の揺れを建物に伝わりにくくしている。「繰り返す地震も一回ごとに揺れを逃がすのでダメージが蓄積されません。建物自体がしなやかに動くことで強さを発揮するわけです。BCP(事業継続計画)の観点からも有効といえます」

 

30年の実績は優れた設計技術にも表れ、積層ゴムの性能向上に加え、金属製転がり支承を利用した高性能免震建物や、既存の建物を使用しながら免震化できる免震レトロフィット、コンピュータルームなど重要な部屋を守る免震床、文化財などを個別に守る免震台をはじめ、高度な技術を開発している。

今回、設計どおりの免震性能が確認された、ゴムと鋼板を重ね合わせた積層ゴム支承
今回、設計どおりの免震性能が確認された、ゴムと鋼板を重ね合わせた積層ゴム支承

奥村社長は「免震建物を増やすことで、救える命、守れる幸せがたくさんありますから、これからも社業を通じて社会に貢献していきたいと思います」と熱く語る。

 

*奥村組の免震への取り組みは特設サイト「免震WEB」(http://www.menshin-okumura.com/)で紹介されている

 

経営者:編集長インタビュー 呉文精 ルネサスエレクトロニクス社長 2016年12月6日号

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◇買収で自動運転やIoT分野を強化

 

◇Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 半導体業界におけるルネサスの特徴は。

 半導体の中でも、人間の頭脳に相当する「マイコン」を中心に設計・製造する日本で唯一の会社です。三菱電機、日立製作所、NECの三つの会社の半導体部門が一緒になってできました。半導体を含めた日本の電機業界は、製品のデジタル化が進むなかで、新興国の追い上げに苦戦しているところが多い。当社は、積極的にマーケティングして、特定の分野で付加価値のある製品を作っていきたいと考えています。

 

── 米半導体のインターシルを買収しました。

 シナジー(相乗効果)は非常に明確です。我々は汎用(はんよう)のマイコンに強い。彼らは電圧制御用の半導体やアナログ信号をデジタル信号に変換するミックスシグナル半導体に強い。車が自動運転になると、どんどん電力を消費します。だから、省電力、低発熱で車を制御する電圧制御用の半導体の存在が低燃費につながります。

 

また、ミックスシグナルについては、現実の世界をマイコンが判断するためには、レーダーやカメラ、圧力センサーなどからのアナログ情報をデジタルに転換し、マイコンで演算後、再び、アクチュエーター(駆動装置)にアナログ情報として戻す必要があります。買収で当社はその両方を手に入れました。

 

── 2011年の東日本大震災時は、工場の被災で、世界の自動車生産に影響を及ぼしました。

 ご迷惑をお掛けしましたが、それだけ当社が必要とされていることの表れだとも思います。自動車用のマイコンでは世界トップシェアですが、実は売り上げや利益は自動車向け以外からの方が多い。例えば、プリンターやエアコン、冷蔵庫用のMCU(メモリー制御装置)でも世界トップシェアです。難しいことをする頭脳部分なので、他社の半導体では簡単には置き換えできません。この教訓を受け、今年の熊本の震災では熊本工場が被災しましたが、5年前と比べはるかに早く復旧しました。

 

── 製品のポートフォリオは、今後、どのようにしていく考えですか。

 当社の売り上げは、分野別では自動車向けが全体のほぼ5割弱を占めます。残りは産業機器やオフィス機器向けです。しかし、特にどちらに比重を置いていくか考えていません。自動車は主要顧客がはっきりしており、戦略や技術は明確です。ただ、自動運転などの分野は、自動車メーカーと共同開発してから量産に至るまで費用が先行し、収益化するのに時間がかかります。一方でプリンター向けなどのビジネスは、今日の収益につながります。そのバランスを考えながら経営する必要があります。

 

だから、モノをインターネットにつなげる「IoT」、白物家電、オフィス機器、通信基地局などの産業向けは積極的にやっていこうと思います。携帯電話やゲーム機向けなどの浮き沈みが激しいところは撤退の方向です。

 

 ◇人工知能をチップに

 

── 自動運転やIoTへの具体的な対応は。

 両方とも非常に面白いと思いますが、ある意味、太平洋にこぎ出すような話で、片っ端から手がけるわけにはいきません。自動運転は、車単体ではなく、車同士、あるいは車と街が通信していくようになると、規格の標準化が非常に大事になってきます。日本はここが得意でないので、「ガラパゴス」にならないよう、注意しながらやっていきたいと思います。

 

IoTで今注力しているのは、ユーザーの近くにサーバーを分散し、通信遅延を短縮する「エッジコンピューティング」や人工知能をチップに埋め込む「エンベデットAI(人工知能)」の分野。例えば工場の機械で異常な振動が出て、すぐに止めないといけない場合、いちいち、クラウドのサーバーまで戻り、命令を受けていたら、間に合いません。だから、チップの中にAIの膨大なデータを埋め込む。そうすると、指先に頭脳があることになり、末端だけで物事を判断できます。今後、こうした分野に力を入れようと思います。

 

── 今後の買収の計画は。

 まずは、インターシルの買収後の統合をしっかりとやり遂げます。今後の買収については、IoT、製造業の高度化を目指す「インダストリー4・0」、自動運転がキーワードになります。無線・通信の分野、あと暗号化などのセキュリティー技術は面白い。将来的には、エクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)を視野に入れながら、次の買収を考えていきたいです。

 

── 成功する経営のコツは。

 本社の大きな戦略、意思決定のプロセスや基準を明確に示すことです。右なら右と決めたら、そちらの方向で自信を持って進む。やると決めたら優勝を狙うことです。また、グローバル経営に踏み出すのですから、海外の人の立場を理解できないとうまくいきません。

 

── 産業革新機構が筆頭株主です。出口戦略については。

 産業革新機構が保有する当社株について、コメントする立場にはありません。ただ、私から革新機構に申し上げたいのは、ルネサスはマイコンという半導体の頭脳部分を持っている唯一の日本企業と言うことです。こういう産業を日本に残せるかどうかは、重要です。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本興業銀行(現みずほ銀行)のニューヨーク支店にいました。帰国後は興銀証券で、グローバル債券の引き受けや資源開発のプロジェクトファイナンスを担当しました。

 

Q 「私を変えた本」は

A ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』です。データに基づいているので、学んだことが多いです。

 

Q 休日の過ごし方

A あるようでありません。今の仕事が非常にチャレンジングなので…。

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 ■人物略歴

 ◇くれ・ぶんせい

 東京都出身。神奈川県栄光学園、東京大学法学部卒業。1979年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年GEフリートサービス社長、08年カルソニックカンセイ社長、13年日本電産副社長を経て、16年6月より現職。60歳。

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事業内容:半導体の設計・製造

本社所在地:東京都江東区

設立:2002年11月

資本金:100億円

従業員数:1万9160人

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:6933億円

 営業利益:1038億円

週刊エコノミスト 2016年12月6日号

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定価:620円

発売日:2016年11月28日

特集 オプジーボに続け!

     すごいバイオ薬

 

◇抗体医薬からペプチドへ

◇がん治療に高まる期待

 

画期的な新薬と言われる、がん免疫治療薬「オプジーボ」──。この薬は、ヒトが体内に持つ免疫細胞を活性化して、がん細胞を消滅させることを目指す「がん免疫療法」の一種であり、外科手術、放射線療法、化学療法(いわゆる抗がん剤治療)に次ぐ「第4の治療法」と期待されている。その一方で、患者1人当たり年間約3500万円という高額な薬価が問題視され、来年2月に半額になることが急きょ決まった。

 

そうしたなかで進んでいるのが、より安価で、より製造が簡単な、新しいがん免疫治療薬の開発である。続きを読む


特集:すごいバイオ薬 2016年12月6日号

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◇オプジーボに続け! がん治療に高まる期待

 

◇有望な技術<1>抗体医薬からペプチドへ

 

画期的な新薬と言われる、がん免疫治療薬「オプジーボ」──。この薬は、ヒトが体内に持つ免疫細胞を活性化して、がん細胞を消滅させることを目指す「がん免疫療法」の一種であり、外科手術、放射線療法、化学療法(いわゆる抗がん剤治療)に次ぐ「第4の治療法」と期待されている。その一方で、患者1人当たり年間約3500万円という高額な薬価が問題視され、来年2月に半額になることが急きょ決まった。

 

そうしたなかで進んでいるのが、より安価で、より製造が簡単な、新しいがん免疫治療薬の開発である。

 

その先頭集団にいるのが東京大学発のバイオ医薬品ベンチャー、ペプチドリームだ。同社は、特殊なペプチド(小さなたんぱく質)を作る独自技術を持ち、現在、スイスのノバルティスや英アストラゼネカ、米アムジェンなど国内外の製薬大手と創薬を進めている。

 

なかでも、2010年10月から共同研究開発を進めている米製薬大手ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)との新薬開発は、今年6月に臨床試験(治験)の第1相試験(フェーズ1)に入った。

 

両社の提携内容は明らかにされていないが、オプジーボと同様の「免疫チェックポイント阻害剤」の仕組みを特殊なペプチドで置き換える新薬開発を進めているとみられる。こうした「ペプチド医薬」の利点は、オプジーボのように分子量が大きく(高分子で)、構造が複雑な抗体医薬とは異なり、分子量がより小さく(中分子で)構造もより単純な点である(図)。両社の臨床試験がうまくいけば、20年前後に承認され、世の中に出回る可能性もある。

◇ワクチンでがん退治

 

ペプチドに注目するバイオ医薬品企業は他にもある。特に、「がんペプチドワクチン」と呼ばれる新薬には、各社が積極的に取り組んでいる。

 

がんペプチドワクチンとは、まずがん細胞の表面に、免疫細胞にとって分かりやすい目印になるペプチドを見つけ出す。そして、そのペプチドを人工的に合成して、がん患者の体内に注入する。すると、体内の免疫細胞が、注入されたペプチドを外敵(異物)だと勘違いし、リンパ球(キラーT細胞)を大量に作り出し、そのリンパ球ががん細胞を攻撃するメカニズムだ。

 

がんペプチドワクチンは、オプジーボなどの「免疫チェックポイント阻害剤」と同じ、がん免疫治療薬の一つである。両者の違いは、免疫チェックポイント阻害剤が、がん細胞がかけている免疫のブレーキを解除することによって、免疫力を高めてがんを攻撃する一方で、がんペプチドワクチンは患者自身の免疫にがんを認識させて、攻撃するように指示をする。つまり、前者は免疫のブレーキに、後者はアクセルに働きかける方法と言える。

 

15年10月に上場したグリーンペプタイドは、このがんペプチドワクチンの製品化を目指している。現在最も進んでいる開発は、国内で行う前立腺がんを対象とするワクチンだ。

 

この前立腺がん薬の開発でグリーンペプタイドは、富士フイルムから開発協力金を得ながら、この臨床試験を進める。13年5月に臨床試験の最終段階となるフェーズ3に入り、15年6月にはフェーズ3の中間解析で試験継続が決まった。現在は、「経過を見守っているところで、上市(市販)の予定時期は非公開」(グリーンペプタイド広報担当者)としている。

 

バイオ医薬品ベンチャーのオンコセラピー・サイエンスもこの分野に積極的だ。食道がんを対象とした臨床試験を塩野義製薬と進めており、15年2月にフェーズ3に入った。20年以降の上市を目指す。他にも、頭頸部がん(喉頭がん、舌がん、甲状腺がんなど)を対象とした塩野義との臨床試験がフェーズ2に入っている。

◇有望な技術<2>ウイルス、遺伝子を利用

 

「ウイルス療法」は、がん細胞だけに感染し、がん細胞内で増殖してがんを破壊するウイルスを使う治療法だ。

 

もともとがん細胞は、正常な細胞に比べてウイルスに対する防御力が弱いとされる。従来はウイルスの動きを思うように制御できなかったが、ウイルスの遺伝子を改変し、がん細胞に対する攻撃力を高めるとともに、正常な細胞に対して機能しないように工夫したウイルスを作れるようになりつつある。

 

第一三共と東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授が共同で治療法の開発を進めるがん治療用ウイルス製剤「G47Δ(デルタ)」は、遺伝子を組み換えた単純ヘルペスウイルスを用いる。大人の8割が感染経験のあるとされる口唇ヘルペスの原因となるウイルスだ。

 

藤堂教授の医学専門誌への寄稿によると、東大による第1~2相試験(非治験)の結果、「再発膠芽腫(こうがしゅ)(悪性脳腫瘍の一種)が(患部撮影)画像上縮小したり、比較的高い割合での長期生存が見られたりするなど、既存治療では通常経験しないような良好な経過も観察された」という。膠芽腫と診断されると平均余命は通常1年程度。手術後に再発した場合は今まで有効な治療法がなかった。

 

タカラバイオの腫瘍溶解性ウイルス「HF10」は、18年度の商用化に向けて現在、悪性黒色腫(皮膚がんの一種)を対象にBMSの免疫治療薬「ヤーボイ」との併用による第2相の臨床試験を実施中だ。

 

「承認されれば創薬会社に脱皮できる」(エース経済研究所アナリストグループの池野智彦部長)。同社のこれまでの稼ぎ頭は研究用試薬や医食品事業だった。HF10の承認は、同社にとっても成長のステップとなる。

 

タカラバイオが研究を進める「CAR(キメラ抗原受容体)─T細胞」は、日本では初めてとなるがん治療法だ。がん細胞に特有の抗原に反応するCAR遺伝子を人工的に作り出し、これを患者の血液から採取した免疫細胞(T細胞)に組み込む。

 

がん細胞は成長したり治療したりするうちにヒトの免疫機能を回避する能力を身につける。CAR遺伝子を組み込んだ免疫細胞は、がん細胞の表面にある抗原に反応する。そのため、CAR遺伝子を組み込んだ免疫細胞を体内に戻すと、免疫ががんへの攻撃を再開する仕組みだ。

 

タカラバイオは20年度の商業化を目指して来年3月までに血液がんが対象の臨床試験を始める計画だ。

 

ただ一般的に、同じ抗原を持つ正常な細胞にくっついて正常な組織を傷つけてしまったり、目印となる抗原がまだ見つかっていない固形がんなど血液がん以外のがんへの効果が十分ではないといった指摘もある。(有望な技術<3>へ続く)

 

(谷口健、池田正史・編集部)

特集「すごいバイオ薬」記事一覧

 

有望な技術1:抗体医薬からペプチドへ がん治療に高まる期待 ■谷口 健/池田 正史

有望な技術2:ウイルス、遺伝子を利用

有望な技術3:脳への〝運び屋〟を開発

有望な技術4:日本の技術生かせる「核酸医薬」 ■岩田 俊幸

コラム バイオ関連株は上昇

オプジーボの次を狙う日本の主な次世代バイオ医薬品

Q&Aで学ぶ ベンチャーが先導役 18兆円市場に ■野村 広之進

ベンチャーに集まる資金 大手製薬会社の引く手あまた ■山崎 清一

主なバイオ医薬品関連銘柄 時価総額は長期上昇トレンドに ■編集部

最新ゲノム編集 「クリスパー・キャスナイン」で劇的に進歩■長野 美保/中村 弘輝

バイオ医薬品の後続品 韓国先行するが日本にも光あり ■小夫 聡卓

ノーベル賞で注目 オートファジー解明でがんやアルツハイマー抑制 ■編集部

米国バイオ株 トランプ改革次第で株価は上下■針谷 龍彰/サスミット・デュウィべディ

シリコンバレーでも グーグルが新会社でゲノム ■二村 晶子

週刊エコノミスト2016年12月6日号

定価:620円

発売日:2016年11月28日

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爆上げ!トランプ相場 年末まで株高・円安続くが来春には1ドル=100円割れも

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土田陽介(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員)

 

米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利して以降、米国市場では株高・ドル高・金利高と米国買いの流れが強まった。ドルは独歩高となり、ニューヨークダウ工業株30種平均は連日史上最高値を更新、11月23日の終値は1万9000ドルを上回った。

 

日経平均株価も今年1月以来の1万8000円台となり、24日の終値は1万8333円。ドル・円も1ドル=113円台を付けた。トランプ氏の勝利は当初、政策の不透明感などから、リスクオフ(回避)の要因と見られていたが、現実にはリスクオンとして働いたことになる。

 

しかし、こうしたトランプ相場は、あくまで市場の期待先行の動きである。トランプ政権の大型経済対策で財政が拡張すれば、米景気が加速するだろうというシナリオにのっとり価格形成されているに過ぎない。期待が先行している以上、政策の実現が難しいことが明らかになれば、相場は下落することになる。

 

ただ、年末にかけて薄商いとなる中で、高値を追う投機筋が買いを先行させるため、年内までは現在の相場を維持すると見られる。米国株は1万9500ドルを試す展開も予想され、米国株に比べて出遅れている日経平均株価も1万9500円台をうかがう可能性がある。それに伴いドル・円も、1ドル=115円の突破は十分射程圏内と見ている。

 

相場反転のターニングポイントは、トランプ氏の大統領就任直後に行われる一般教書演説となるだろう。演説の内容もさることながら、その頃には政権の顔ぶれも固まり、上下両院との関係も見えてくる。大型経済対策に関しても、実現可能なものとそうでないものとの選別が進み、過度な成長期待は萎(しぼ)む。その時点で現在の相場は終焉(しゅうえん)し、米国株やドルは下落に転じ、春先にかけて大統領選挙前の水準を目指すと考えられる。

 

もっとも、金利の動きに関しては、二つの可能性が指摘できそうだ。現在の金利上昇は、米国の成長期待を反映した「良い金利上昇」と言える。しかし、この上昇は経済政策の行方次第では「悪い金利上昇」へと形を変える恐れもある。トランプ氏の掲げる減税があまりに大規模な引き下げであったり、政府がインフラ投資に過大な財政資金を投入することになれば、投資家は財政の悪化を警戒して米国債が売られる事態となる可能性もあるからだ。

 

 ◇政策が悪材料にも

 

そうなれば、相場はドル安・株安・債券安というトリプル安の展開となり、米国の景気自体に悪影響が及ぶ。また、ドル安と高金利が長期化すれば、物価の上昇と景気停滞が併存するスタグフレーションに陥る可能性も否定できない。日本の景気にも、輸出の減少や円高などを通じて強い下振れ圧力がかかるだろう。

 

とはいえ、これは最悪の想定に過ぎず、成長期待が剥落する中で、過度に売られていた米国債が買い戻されて金利が低下に転じるというのが、トランプ大統領就任後の相場のメインシナリオになりそうだ。

 

17年春先にかけての相場は、基本的にはドル安基調が強まると予想する。米国債が買い戻されることで、長期金利は1・8~2・0%の低水準で推移する。米景気も緩やかな拡大にとどまるため、追加利上げも慎重なテンポで行われる。従って、ドルは再び売られる方向に転じる公算が大きい。

 

加えて、春先以降は欧州連合(EU)で国政選挙が相次ぎ、民族主義政党の台頭を受けてリスクオフの流れが強まることも、円などの低リスク通貨への資金流入を促し、グローバルな株価の下落圧力になる。

 

そのため、春先以降のドル・円レートは100円割れを再び試す展開が予想され、日経平均株価も1万6000円前後まで下落する可能性がある。日本の長期金利は再びゼロを下回り、マイナス0・2%程度まで低下余地があるだろう。

(土田陽介・三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員)

特集「爆上げ!トランプ相場」記事一覧

市場を読む(1) 年末まで株高・円安、来春には1ドル=100円割れも ■土田 陽介

市場を読む(2) ドル高・積極財政で日本株2万3000円も ■平川 昇二

FRB議長と対立 イエレン議長に圧力 後任候補は減税派 ■鈴木 敏之

変わる米中関係 米国がAIIB参加か ニクソン・ショックの再来 ■田代 秀敏

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出版の未来 「紙でのこだわり捨て誰もが利用しやすく」

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村田真氏
村田真氏

電子書籍フォーマットEPUBの国際標準化に携わるIDPF(国際デジタル出版フォーラム)技術委員の村田真氏に、日本の電子書籍の課題について聞いた。

 

── 電子書籍の現状をどう見るか。

■踊り場にある。今は紙の本の伝統をそのまま電子化して、そこに安住している。

 

── 最も問題だと感じる点は。

■出版物が視覚障害者や高齢者はじめ誰でも利用しやすいというアクセシビリティーを日本では無視している。欧米では許されない。日本の電子書籍は大きな文字表示に切り替えることはできるが、国産読書端末は音声読み上げに対応しておらず、出版物には読み間違えやすい漢字の読み情報が入っていない。今の電子書籍の製作では、紙と同じ画面を再現することが最優先になっている。

 

── どうすれば変わるのか。

■技術的なハードルが高いとは思えない。いずれ電子書籍をチェックする基準が上がり、出版社は、アクセシブルにできる出版物をそうしないまま販売することは許されなくなる。

 

 特に学校に導入されるデジタル教科書ではアクセシビリティーが重要だ。今の教科書はレイアウトが複雑きわまりない。教科書を読めない生徒向けに音声データ化する際、レイアウトを解読して順にテキストを並べるのに多大な労力が費やされている。

 

 いったん作った出版物をアクセシブルにするにはコストがかかるが、最初からデジタルでアクセシブルに作るコストはそれほどかからないはずだ。アクセシビリティーを追求すれば結局、紙の複雑なレイアウトへのこだわりを捨てることになる。単純化すれば誰にとっても読みやすい。

 

 ◇国際標準化で日本語対応

 

── 紙を基準とした固定観念を変えるのはなかなか難しい。

■最初に壊れつつあるのが漫画だ。見開きのレイアウトや大小のコマ割りが大事だと考えられてきたが、縦に配置されたコマをスクロールする読み放題サービスが人気で、漫画家は新しい可能性を面白がっている。

 

 壊れる時は早いのだろう。アクセシビリティーが必須となることが取っ掛かりになる可能性はある。ユーザーに具体的なメリットがあるからだ。

 

 2011年のEPUB(イーパブ)3・0国際標準化で日本語組版に対応させた際、「外資企業に魂を売るのか」と批判された。国内では日本独自フォーマットを推す動きがあった。その時、支えになったのは、自分のやっていることは必ずアクセシビリティーの役に立つということだった。残念ながら今のところ役に立っていないが、その方向には向かっている。

 

── EPUBの可能性が十分に生かされていないということか。

■それは明らかだ。

 EPUBはウェブの技術を基にしている。いわばウェブページをパッケージにしてDRM(デジタル著作権保護)などをつけたものだ。例えば、ウェブには動的なページがたくさんあるが、日本の電子書籍は文芸書も漫画も静的だ。欧米では絵に動きを取り入れた絵本や動画を取り入れた料理本がある。

 

── 今後の国際標準化の動向は。

■IDPFはウェブの標準化団体W3C(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)に統合する方向で、統合後の体制はまだ分からない。

 

 日本はアジア文化圏を代表して、国際標準化に一番関わらなければならない立場にある。日本語はマイナー言語のチャンピオンだ。日本語組版のうち、縦書きは台湾にも、ルビは中国にも、右開きは中東にもある。

 

 EPUB3・1の策定では、縦書きがどの程度使われているかというデータを日本から提出しなかったら、仕様から落ちていただろう。音声読み上げに必要な漢字の読み情報は実用化されていないが、何とか残した。努力し続けなければならない。

(聞き手=黒崎亜弓・編集部)

特集「出版の未来」記事一覧

本の売り方を変える革新 米国の電子出版最前線 ■辻本 英二

米国で「自己出版」が急増

日本がガラパゴスの理由

インタビュー 村田 真 国際デジタル出版フォーラム技術委員

アマゾン囲い込みに対抗する仏政府 ■黒崎 亜弓

海外展開を模索する出版社

2016年12月6日号

定価:620円

発売日:2016年11月28日

 

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半導体:クアルコム、5兆円で蘭企業買収 車載・IoT向け拡大狙う

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服部毅(服部コンサルティング・ インターナショナル代表)

 

米半導体大手クアルコムは10月27日、オランダNXPセミコンダクターズを買収することで両社が最終合意したと発表した。クアルコムは、NXPの株式に11%強のプレミアム(上乗せ価格)を付けて、1株当たり110ドルで全株を取得する。この計算に基づく買収額は約380億ドルだが、それにNXPの負債90億ドルを含めると総額470億ドル(日本円で約5兆円)に達する。プレミアムを4割以上上乗せしたことで話題になったソフトバンクグループによる英国ARM買収額(3・3兆円)をはるかに上回る半導体業界史上最高額の買収である。

 

なぜクアルコムは5兆円も出してNXPを買収したのか、その背景を探ってみよう。

 

パソコンやスマートフォン(スマホ)の成長に陰りが見え始め、この用途の半導体の売り上げの伸びが鈍化している。代わって、自動車やIoT(モノのインターネット)向け需要に期待がかかる。半導体企業は、成長の鈍った分野から脱皮し、今後成長の見込める分野へ迅速にシフトするために、あるいは自社の弱い分野を補い、強い分野はシナジー効果を高めるためにも、戦略的企業買収は即効性のある有効な手段である。自社内で技術開発や人材育成していては、急速な時代の変化についていけないからだ。

 

このため、半導体業界では、昨年来、急に大型M&A(企業の合併・買収)が相次ぎ、昨年も今年も年間買収総額が10兆円を超えている。いずれも「つながる自動車(コネクティド・カー)」を含めた本格的なIoT(クアルコムは「コネクティド・ワールド」と呼んでいる)時代を見据えた生き残りをかけた戦略に基づくものである。クアルコムの買収劇も、この戦略に沿ったものと言える。

 

◇スマホは頭打ち

 

クアルコムとはどんな会社だろうか。

 

一言でいえば、携帯電話さらにはスマホ用の半導体集積回路に特化し、世界最大の半導体ファブレス(工場を持たずに製品企画・設計だけを行う企業形態)にのし上がった会社である。

 

以前は携帯電話端末を扱っていたこともあったが、その事業は京セラに売却して、半導体チップや回路特許のライセンス供与に特化して、すべての携帯電話メーカーを顧客にしてきた。アンドロイド(グーグルが開発したスマホ用基本ソフト)を採用した大半のハイエンドスマホの心臓部にクアルコムのSoC(システムオンチップ、機器を動かす機能を集積した半導体チップ)が搭載されている。OSとアプリを円滑に動作させるCPU(中央演算処理装置)▽画像処理を担うGPU(高速画像処理ユニット)▽通信機能を担うワイヤレスモデム(送受信回路)などがすべて詰め込まれた半導体チップだ。

 

米アップル社製iPhone(アイフォーン)には同社独自のCPUが搭載されているので、クアルコムのSoCは採用されていない。しかし、通信用に同社のモデムチップが搭載されている。つまり、本誌読者のスマホのほとんどにクアルコム製の半導体が搭載され、同社はそれで利益を上げているわけだ。

 

しかし、最近、スマホの成長に陰りが見られるようになり、さらに、台湾の新興半導体企業メディアテックの格安品にシェアを奪われ、昨年から売り上げを落とすようになった。そこで目を付けたのが、将来有望なNXPの車載、セキュリティー、IoT向け半導体技術というわけだ。

 

NXPセミコンダクターズは、オランダの名門エレクトロニクス企業・ロイヤルフィリップスの半導体部門が06年に分社化して誕生した半導体企業である。設計から製造・販売まですべてを行っているが、ファブライト(製造の比率を減らし、製造委託する企業形態)化の方向だ。ちなみにNXPという社名は、New Experience(新たな経験)に由来する。

 

◇セキュリティーにも強み

 

クアルコムによるNXP買収が世間を驚かせたのには、買収額の大きさとともに、もう一つの理由があった。

 

同社は15年12月に、米国フリースケール(米国の通信機器メーカー、モトローラから分社した半導体企業)の買収手続きを完了したばかりだったことだ。買収額は、フリースケ―ルの債務49億ドルを含め167億ドル。この買収により、NXPはルネサスエレクトロニクスを抜き去り、車載半導体売上高世界トップの地位についた。魅力のない標準規格半導体部門と、複数国の独占禁止法に触れた高周波パワー半導体部門は、中国の国有投資企業に売却した。その結果、年間100億ドル規模の売り上げを有する半導体企業として「車載」「セキュリティー」「IoT」の三つの分野にフォーカスして新たな道を歩み始めたばかりだった。この3部門はクアルコムが将来をかけようとしていた分野と、ずばり一致していた。

 

NXPは買収したフリースケールとともに車載半導体が強いことはよく知られていたが、NXPはセキュリティー技術でも世界有数の企業である。世界120カ国で電子パスポートが採用されているが、このうち8割の国々でNXP製のセキュリティーチップが採用されていることはあまり知られていない。ちなみに日本は、世界の主流とは異なる方式を採用しているため、NXPチップは採用していない。

 

IoT時代で、モノがインターネットにつながるようになると、セキュリティー確保が大きな問題となっている。クアルコムはスマホ向けの自社SoCに、NXPのこうしたセキュリティー技術を 付加価値として提供できるようになる。近年、FinTechの流れが加速しており、モバイル決済が活用されている。それにより関連セキュリティー技術の需要は増加している。新生クアルコムは、この分野での地位強化も可能になる。

 

クアルコムのモレンコフCEOは、「自動車やIoT分野の技術革新のスピードは驚異的なほど速い一方で、携帯電話機の分野ではそのスピードが既に緩やかになっている。自動車とIoTに向けた今後20年の展開を考えたとき、今こそがNXPを買収する最適な時期だった」と述べている。クアルコムは従来同社が強みを有していたモバイル市場に、NXPが掲げていた車載、セキュリティー、IoTを併せて、それぞれの市場のリーダーを目指すとしている。

 

両社統合には課題もある。企業文化がまるで異なることである。しかも、NXPのフリースケール買収は事務手続きを完了したとはいっても、両者はまだ一体化しているとは言い難い状況だ。NXPとフリースケールの日本法人もやっと11月になって合併しNXPジャパンと名称変更したばかりだ。こんな状況下でクアルコムによる買収が重なり、事業の統合に伴う混乱が続くだろう。

 

ただ、合併による収益基盤の拡大は一目瞭然だ。クアルコムはNXP買収により、売上高が350億ドル規模に達する見込みである。両社が手掛ける分野の市場規模の合計は、今後20年までに4割成長し1380億ドルに達すると見ている。この結果、クアルコムは半導体売上高ランキングでSKハイニックスやブロードコムを引き離して3位の地位を固める。

 

 ◇ルネサスの行方は

 

 今回のクアルコムのNXP買収によって最も影響を受けるのは、ルネサスエレクトロニクスだろう。売上高世界3位の日の丸半導体メーカーの誕生ともてはやされて10年に発足した三菱・日立・NECの半導体事業統合企業であるルネサスは、その後、人材リストラや工場整理を繰り返し、発足当時の売り上げを半減させてしまった。しかし、今年9月、米国の中堅半導体企業インターシルを32億ドルで買収すると発表し、反転攻勢に出ようとした矢先だった。

 

ルネサスは、10年にノキア(フィンランド)のワイヤレスモデム部門を買収し、ルネサスモバイルを設立した。携帯電話向けモデムチップでトップのクアルコムに肩を並べると息巻いていたが、時流に乗れずに赤字を垂れ流してわずか数年で事業破綻してしまった。

 

今度は、期せずして本丸の車載半導体でクアルコムと対決する羽目になった。そもそも、ルネサスはIBM・オラクル出身の遠藤隆雄前社長が、ドイツのインフィニオン(元はシーメンスの半導体部門)との資本提携を模索した経緯がある。遠藤前社長は、国内にルネサスの技術をとどめようとする産業革新機構・経済産業省と対立したと見られ、就任わずか半年で昨年12月辞任を余儀なくされた。ルネサスがさらに巨像化したクアルコムに戦いを挑むには、遠藤案を超えた秘策が必要だろう。

(服部毅、服部コンサルティング・ インターナショナル代表)

*『週刊エコノミスト』2016年12月8日号掲載

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トランプ氏とFRBの衝突不可避 スタグフレーションも現実味

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岩田太郎(在米ジャーナリスト)

 

「世界中の中央銀行が夢でしか実現できなかったインフレ予想の高まりを、政治や経済の素人であるドナルド・トランプ氏は、減税や大規模インフラ投資を公約するだけで、大統領就任前に達成した」(11月15日付ブルームバーグ通信のポッドキャスト)──。

 

トランプ氏当選後の米長期金利上昇などを受け、次期政権が金融政策に及ぼす絶大な影響力や、トランプ氏が米連邦準備制度理事会(FRB)と協力するのか、対立するのか、米論壇では活発な議論が繰り広げられている。

 

利上げに対し、一貫して慎重な姿勢を示してきたダン・タルーロFRB理事が11月15日、「経済の過熱を防ぐため、いつ利上げをすればよいかという議論が以前より議題になりやすくなっている」と立場を変え、自ら利上げの可能性を示唆。市場は驚きに包まれた。

 

ブルームバーグ通信の11月15日付分析記事は、「米ゴールドマン・サックスや英スタンダード・チャータード銀行のエコノミストは、FRBがより積極的になり、利上げの回数を増やすと予想している」と伝えた。この記事の中で、米ルネサンス・マクロ・リサーチの米国経済担当チーフエコノミスト、ニール・ダッタ氏は「トランプ氏は『民主党の選挙勝利のため利上げを遅らせている』とFRBのイエレン議長を攻撃してきた。一見あり得ないように思えるが、両氏は同盟関係に入るかもしれない」と今後の見通しを語った。

 

米外交問題評議会の金融専門家、セバスティアン・マラビー上席研究員は11月15日付『ワシントン・ポスト』紙への寄稿で、こうした楽観論を否定した。「FRBが利上げをしても、トランプ氏はその結果を気に入らないだろう。金利が上昇すればドルが強くなり、ドルに引かれてより多くの移民が米国を目指すからだ。滞在資格をもらえなければ、不法滞在でもやってくる。また、ドル高は、米国製品の価格を上昇させて輸出を冷え込ませる一方、輸入を増やす。そうなれば、トランプ氏に投票した労働者層が職を失い、仕事が海外に流出する」とその理由を説明した。

 

マラビー氏は「トランプ氏は選挙期間中に中国を通貨操作国として非難してきたが、皮肉なことに、米金利が上昇し、ドル高になることで米国の競争力はそがれ、貿易相手国は自国通貨の価値を下げる通貨操作の必要がなくなる」と指摘し、「新大統領とFRBは衝突の『お膳立て』ができている」と言明。「公約を実現できなくなり、矛盾して愚かしく見えることを嫌うトランプ氏は、利上げの必要を認めるイエレン氏を『独立しすぎだ』と攻撃することになるだろう」と予測した。

 

 ◇FRBの独立侵す新大統領

 

トランプ氏就任後の米国経済の先行きに、マラビー氏は「トランプ氏が人事権を使ってFRBにハト派を送り込み、インフレに目をつぶる金融政策をとらせれば、物価上昇期待が高まり、労働者は賃上げを要求する。企業は製品価格を上げ、経済活動が停滞するなかでインフレが襲った1970年代のスタグフレーションの再来となるだろう」と悲観的だ。

 

こうした議論の高まりから、早くも、スタグフレーションが起こることを前提に、FRBがいつ利上げを停止するかが論じられている。ゴールドマン・サックスのエコノミスト、アレック・フィリップス氏らは11月の顧客向けの分析で「2018年から19年に米国の国内総生産(GDP)は0・8%押し下げられる一方、物価上昇率は2・3%に達し、失業率は5・3%に上がる。FRBはインフレと戦うために積極的に利上げを行った後、失業を減らして景気を刺激するため、19年に利上げを停止する」としている。

(岩田太郎・在米ジャーナリスト)「論壇・論調」

掲載号:2016年12月6日号

定価:620円

発売日:2016年11月28日

 

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目次:2016年12月13日号

週刊エコノミスト 2016年12月13日号

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発売日:2016年12月5日

息子、娘を守れ!

  ブラック企業

 

◇命より大切な仕事はない

◇長時間労働が企業を潰す

 

「命より大切な仕事はない」

 

 電通の新入社員で2015年末に過労自殺した高橋まつりさん(当時24歳)の母、幸美さんの言葉だ。異を唱える人はいないだろう。

 

しかし日本社会は、長時間労働を許容し続けてきた

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特集:息子、娘を守れ!ブラック企業 2016年12月13日号

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高橋まつりさんの遺影とともに記者会見した母幸恵さん
高橋まつりさんの遺影とともに記者会見した母幸恵さん

◇命より大切な仕事はない

◇長時間労働が企業を潰す

 

「命より大切な仕事はない」

 電通の新入社員で2015年末に過労自殺した高橋まつりさん(当時24歳)の母幸美さんの言葉だ。異を唱える人はいないだろう。

 

 しかし日本社会は、長時間労働を許容し続けてきた。

 

 厚生労働省の統計では、15年度の過労自殺(未遂含む)の労災申請数は199件で、認定数は93件だった。だが、それはごく一部でしかない。内閣府によると「勤務問題」を原因の一つとする自殺は15年、2159人に上った。

 

 ◇理性的な判断ができない

 

 過労自殺について「命を絶つくらいならなぜ、退職しないのか」という疑問を抱くかもしれない。イラストレーターの汐街(しおまち)コナさんが、10月末に短文投稿サイト「ツイッター」に投稿し、話題になったマンガがその答えを教えてくれる。

 

「昔、その気もないのにうっかり自殺しかけました」で始まるそのマンガは、月に100時間残業をしていた時、地下鉄の駅ホームで「今一歩踏み出せば、明日は会社に行かなくていい」と思った自分の体験を紹介。「『死ぬくらいなら辞めればいいのに』と、思う人は多いでしょうが、その程度の判断力すら失ってしまうのが恐ろしいところなのです」と訴える。

 

 追い込まれていく心境を、崖に挟まれた細い道を歩いている状況に例えた。通常は「休む」「退職」「サボる」などの道や扉が見えるが、真面目な人ほど「親に心配をかけたくない」「同僚はもっとがんばっている」とその道を塗りつぶしてしまう。長時間労働で思考力を奪われ、壊れたように歩くことしか考えられなくなり、限界を超え、崖から落ちる──。

 

 心療内科医は「本人は切迫すると理性的に判断できなくなる。若い世代の1人暮らしが増えている今、職場の同僚や上司が支えることが求められている」と指摘する。

 

 汐街さんはマンガで「『まだ大丈夫』のうちに判断しないと判断自体ができなくなってしまいます」と勧め、「世界は本当に広いのです 忘れないでください」と強調した。

 

◇自分の、人の異変に気づくには

 

 では、「まだ大丈夫」のうちに判断するために、どうすればいいのだろうか。過労によるうつ病などの精神疾患を未然に防ぐためには、まず自覚症状をチェックする。「睡眠」「食欲」のほか、喉はストレス症状が出やすく、声が出なくなることもある。

 

 ただ疲れがたまっている、という場合がほとんどだが、長引くようなら注意だ。「人は自分のことには『最近忙しかったから』など理由付けて解決した気になるが、深刻になる前に対策を取ることが肝心だ」(精神科医)という。周囲の支えが重要な理由もここにある。

 

 自分の異変に気づいたら、職場以外の信頼できる人に状況を説明する。職場のことを知らない人に説明するためにはしっかり整理しなければならず、自分を客観視することができる。また同僚、家族、友人が毎日声をかけることで変化に気づきやすい。本人が悩みを打ち明けるきっかけにもなる。

 

 企業の産業医を務める心療内科医は「心身ともに優れない時に会社にいいイメージを持てるはずはない。会社を休んで、ゆっくり考える時間を作るべき」と助言する。

 

 そもそも、長時間労働やハラスメントが横行している「ブラック企業」に入社しないことが望ましい。千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平さんら労働問題の専門家でつくる「ブラック企業対策プロジェクト」は、就職活動時に注意すべきポイントをまとめている。サイトからPDFでダウンロードができる。

 

電通へ家宅捜索に入った東京労働局
電通へ家宅捜索に入った東京労働局

◇繰り返される罪

 

電通には、過去にも過労自殺者を出した「前科」がある。

 

入社2年目の男性が1991年8月、長時間労働によりうつ病にかかり、首つり自殺した。両親が電通に損害賠償を求めた訴訟で最高裁は00年3月、「上司は健康悪化を認識しながら負担を軽減する措置を取らなかった」と認定。過労自殺について会社の責任を認めた初の最高裁判決となった。

 

この裁判で電通側は「自殺と長時間労働に因果関係はなく、自殺を回避する安全配慮義務もない」と責任を否定。同居していた両親に対し「生活状況を把握していた両親の保護責任が優先する」とまで主張した。

 

高橋さんは自殺する1カ月半前の15年11月6日、この事件について記載した民間団体のホームページへのリンクを貼り付け「これと全く同じ状態です」とSNS(交流サイト)に書き込んでいる。電通の社風は、その時からまったく変わっていなかったのだ。

 

ただし、電通だけが特別なわけではない。国が悲惨な過労自殺を認定しながらも企業側はわが社のことと受け止めず、自殺を「本人」の問題とし、真摯(しんし)に向き合ってこなかった。そもそも長時間労働を問題とは認識していない。長時間労働を是正する立場の厚労省など国の官僚や、過労死が起きた企業を批判するマスコミもまた、長時間労働の職場環境にある。

 

しかし、時代は大きく変わった。高橋さんの過労自殺を受け、厚労省東京労働局などは11月7日、電通の本社と3支社を労働基準法違反容疑で家宅捜索した。10月に同法に基づく「臨検」と呼ばれる抜き打ちの立ち入り調査に着手し、労務管理資料の分析を続けた。

 

その結果、長時間残業が横行していた疑いが強いとみて、任意提出では得られにくい違法な長時間残業の証拠を集めるため、異例の強制捜査に踏み切った。是正勧告(行政指導)にとどまらず、法人としての電通と人事責任者らを書類送検して刑事処分を求める模様だ。

 

電通は13年にも当時30歳で病死した男性が過労死と認定されたほか、繰り返し長時間労働の是正勧告を受けたにもかかわらず、改善されていない。労働基準監督官OBは「何度も繰り返され、自浄作用はない。一罰百戒と長時間労働の是正に本腰を入れ始めた」と指摘する。

 

労働政策に携わってきたシンクタンク研究員は「氷山の一角だとしても、明らかになり、これだけ大きな騒ぎになるということが、社会が変わりつつある証拠だ」と指摘する。

 

◇レッテル貼られたら最後

 

ところが、それでも官邸や企業側は、長時間労働が常態化する状況を変えようとするどころか、さらに強化する方向にかじを切ろうとしている。

 

働き方改革では、事実上無制限の残業を認めている労働基準法36条に基づく「36(さぶろく)協定」の見直し議論が進んでいる。残業時間の上限規制にどこまで踏み込むかが焦点だが、具体性のある規制に至るかどうかについては懐疑的だ。経済界から「決算など繁忙期に配慮した設定をしてほしい」と弾力的な運用を求める意見が出ているほか、上限を設ける代わりに「適用除外」の業種を増やすよう求めている。適用除外が増えれば新たな「抜け穴」ができるだけだ。

 

上限規制の「交換条件」として用意されたのが、高収入で専門的な業務について、労働時間規制から除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入だ。実際に働いた時間と関係なく、あらかじめ1日当たりの労働時間(みなし労働時間)を定める。時間に縛られず自由に働けるようになり、適用される労働者にとっては、残業の上限規制どころか撤廃となる危険をはらむ。「残業代ゼロ法案」と批判されるゆえんだ。

 

ホワイトカラー・エグゼンプションについて安倍晋三首相は「能力を発揮できる新しい労働制度を選択可能とするものだ」と述べ、意欲を示す。

 

多くの企業を顧問先に持つ大手法律事務所の弁護士は、経営者の思いを代弁する。「生活の質の向上に当たって、仕事は悪いことではない」

 

会合で、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)について話題に上った時だ。東証1部上場企業の経営者が「この言葉は、生活は楽しくて、仕事は苦で少ないほうがいい、という発想が気に入らない」と発言すると、賛同する意見が相次いだ。つまり「四の五の言わず、とにかく働け」というのが、いまだに経営者のホンネなのである。

 

だが、そうした経営者は時代錯誤としかいいようがない。そんな考えでは企業は存続不可能だ。少子化による労働力減少で、いまや人材確保が企業の最重要課題となっている。

 

慢性的な長時間労働が「当たり前」という風潮が残る企業には、共働きが当たり前で、家事や育児、介護を夫婦で分担するこれからの世代は入社しない。高橋さんの遺族代理人を務めた川人博弁護士は「今回の痛ましい事件を受けてなお、ホワイトカラー・エグゼンプションなど労働強化につながることを進めることはできないだろう。長時間労働を助長する法律はよくないと国民に広がったのではないか」と話す。

 

川人弁護士が「優秀な人材は、電通に集まらなくなるだろう」と指摘するように、「ブラック企業」と一度レッテルを貼られたら最後。優秀な人材を採用するのは困難だ。何も、電通に限ったことではない。

(酒井雅浩、大堀達也・編集部)

特集:娘、息子を守れ!ブラック企業 記事一覧

命より大切な仕事はない 長時間労働が企業を潰す ■酒井 雅浩/大堀 達也

インタビュー 川人 博 弁護士 「電通は、改革なければ存続危機」

データで見る 働き方最前線

投資家目線で問う 働き方改革 注目15社の本気度 ■窪田 真之

インタビュー 冨山 和彦 経営共創基盤 最高経営責任者 「ブラック企業を退出させる改革を」

やっぱり仕事が大切な男の人生 ■奥田 祥子

働き方改革の幻想 改革頓挫なら人材の“定額使い放題”に ■常見 陽平

曲がり角の日本型雇用 ブラック是正へ職務給との折衷も ■永井 隆

ハラスメントは不正のサイン ■金子 雅臣

ヤフーの働き方改革 「週休3日の狙いは、労働生産性アップ」 ■本間 浩輔

解雇規制 非正社員を減らす鍵は解雇ルールの透明化 ■川口 大司

   先進各国は不当解雇時の金銭解決導入済み ■編集部

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経営者:編集長インタビュー 長門正貢 日本郵政社長 2016年12月13日号

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◇地方自治体と同じ感度で地域のニーズに応える

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 日本郵政の2016年9月中間連結決算は最終(当期)利益が前年同期比3割減でした。

長門 前年同期には(子会社の)日本郵便で保有株式の売却による特別利益があったことなどを勘案し、もともと厳しい営業計画を立てていました。その意味では順調という評価ですが、日本郵政グループの経営課題が凝縮して現れた決算でもあります。

 

減益要因は大きく三つ。一つ目は、上場に伴って日本郵政が保有するゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式11%を売却し、日本郵政に帰属する純利益がその分、減少したことです。

 

ゆうちょ、かんぽの株式は今後も売却するので、この減少分をどう補っていくかが課題です。二つ目は、日銀が16年1月に導入を決めたマイナス金利政策の影響で、ゆうちょ、かんぽの運用益が下がっています。三つ目は日本郵便の業績が落ちていること。株式売却の特別利益がなくなったほか、(15年5月に買収した豪物流事業の)トール・ホールディングスが期待通りの業績を上げられていません。

 

── どう対処していきますか。

長門 一つはゆうちょ、かんぽの運用の深掘り(収益力の強化)です。ゆうちょの保有資産は他の銀行に比べても内容が良く、まだリスクを取ることが可能です。そこで、未公開株ファンドやヘッジファンド、不動産というオルタナティブ(代替)資産への投資も始めました。こうしたオルタナティブ投資を含め、サテライト・ポートフォリオ(社債、外国証券、株式など)の残高は16年9月末現在ですでに64兆円と、中期経営計画(15~17年度)の最終年度の目標60兆円をクリアしています。

 

── リスク管理も重要ですね。

長門 ゆうちょの運用部門では15年、元ゴールドマン・サックス証券副社長の佐護勝紀氏を副社長とするなど、積極的に専門人材を外部から採用する一方、16年1月には「リスク管理部門」を新設し、担当の専務を置くなどしてリスク管理も強化しています。かんぽはゆうちょほど運用の切迫度は高くないため、取り組みはゆっくりですが、方向性はゆうちょと同様です。こうした手をすでに打っているので、いずれ収益は底上げされるでしょう。

 

 官民挙げた15年11月の上場時、日本郵政、ゆうちょ、かんぽとも売り出し価格を大幅に上回る初値を記録し、市場は大きく盛り上がった。しかし、16年に入って世界経済への懸念が広がると、一転して下落基調に。着実な株価上昇に対する株主の期待は高い。

 

 ◇タンス預金を動かした

 

── 3社の上場で初めて株を買った個人も多いと聞きます。

長門 郵便局には145年の歴史があり、141年前からは貯金も集め出しました。かんぽは16年10月、100周年を迎えています。こうした歴史に親しみを覚えていただき、中にはまさにタンス預金となっていた聖徳太子の旧1万円札で、株を買った人もいたと聞きます。郵便局は全国津々浦々に2万4105局(16年9月末)あり、ゆうちょ、かんぽは国内最大の銀行、保険会社です。郵政民営化は一大国家プロジェクトで、非常に国民から期待されている仕事だと感じます。

 

── 手数料収入確保も課題です。

長門 ゆうちょでは、三井住友信託銀行などと合弁で設立した運用会社「JP投信」が16年2月、投資信託の新商品の販売をスタートしました。誰にでも分かりやすく損をしにくい商品を開発したのですが、そのうち1商品はマイナス金利の影響で販売をあきらめました。ただ、国内全体の投信残高は落ちている中で、ゆうちょでは1兆1628億円(16年9月末)へと増えています。

 

市場環境の悪化もあり簡単に投信の残高は伸びませんが、16年は準備期間と位置づけています。お客様にまずは投信口座を開いてもらおうと、営業現場に口座開設のインセンティブをつけることも始めました。また、10月からは、ATM(現金自動受払機)の口座間送金を4回目以降から有料としましたが、できるだけお客様にご迷惑をおかけしない範囲で手数料収入を増やしていきたいと考えています。

 

── トールはどう立て直しますか。

長門 天然資源の豊富な豪州で、資源価格の下落がトールの業績にも影響しています。しかし、日本国内の市場では収益機会が減っており、成長するアジア太平洋地域で勝負していかなければならず、トールの買収はそのために打った手の一つです。(日本郵政の提携先の)イオンが扱う豪州のタスマニアビーフを日本に輸送する際にトールを使ってもらうなど、収益向上や経費節減の取り組みを現に始めており、業績立て直しに向けて行動で示していきたいですね。

 

── グループ43万人の従業員にどのような意識改革を訴えますか。

長門 カスタマー、コミュニティー、カンパニーという「3C」のための意識を浸透させたいと思っています。お客様はやっぱり神様で、顧客のニーズがあるところに仕事があります。また、郵便局は地域に根ざしており、地方自治体と同じような感度で地域のニーズを捉え、それに応えていくことも大切です。さらに、企業として競争力がなければ評価もされません。数字に厳しく、事業の選択と集中を通していい業績を求めていきます。皆が同じ方向を向いて進むため、3Cを言い続けるつもりです。

(構成=桐山友一・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 米南部ヒューストンで、資源関係の顧客開拓のため興銀の事務所を立ち上げました。その後、中国で初のプロジェクトファイナンス案件を担当し、涙が出るほど楽しかったです。

Q 「私を変えた本」は

A 『アメリカにおける秋山真之』(島田謹二著)です。『ニュー・エンペラー 毛沢東とトウ小平の中国』(ソールズベリー著)は読み物として絶品です。

Q 休日の過ごし方

A 土曜午前はジム、午後は老人ホームに入った母と散歩。日曜はひたすら雑誌や新聞を読んでいます。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇ながと・まさつぐ

 東京都出身。学習院高等科、一橋大学社会学部卒業。1972年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほコーポレート銀行常務執行役員、富士重工業副社長、シティバンク銀行会長などを経て、2015年5月にゆうちょ銀行社長。16年4月から現職。68歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:日本郵政グループの経営戦略策定

本社所在地:東京都千代田区

設立:2006年

資本金:3兆5000億円

従業員数(常勤):25万876人(16年3月末現在・連結)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:14兆2575億円

 営業利益:9662億円

 

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