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民生技術で月と火星を再探査

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杉山勝彦・武蔵情報開発代表

 

国際宇宙ステーション(ISS)の運用終了が2024年に設定されるなか、各国の宇宙機関だけでなく、民間企業も独自の次世代ロケット、宇宙船の開発にしのぎを削っている。共通のテーマは、打ち上げロケットの回収・再利用だ。

 

 先行しているのは、資金力のある実業家の主導で実績を重ねる米国だ。アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)が設立したブルー・オリジンは16年6月、推力可変エンジンとエアブレーキ技術を使い、単段式ロケット「ニューシェパード」の4回目の打ち上げと垂直着陸に成功した。

 

また、電気自動車(EV)大手の米テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEOが率いるスペースXも4月に「ファルコン9」ロケットの垂直着陸とISS無人補給船「ドラゴン」の回収に成功している。

 

 IT(情報技術)系大物実業家は、宇宙旅行の実現や数千個の小型衛星による情報ネットワークの構築などを目指しており、こうした起業家の参加により、宇宙開発のターゲットや目的も大きく変わっている。

 

 日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、新型固体燃料ロケット「イプシロン」の改良と、「H2A」ロケットの後継機「H3」の開発を進める。その一方で、ISSに物資を運ぶ無人補給機「こうのとり」の有人宇宙船化を視野に入れ、生命科学実験に使う生体試料の運搬と、回収機能を付与する技術に取り組む。与圧部を耐熱カプセル化して回収するなどが考えられる。

 

 ◇探査から利用へ

 

 目下の関心事は、月と火星への再アプローチだ。月を巡る謎は、07年の月探査衛星「かぐや」の詳細な観測データなどにより、ほぼ解明され、従来の「探査技術」から「利用技術」にシフトしている。その先には火星の探査と利用が視野にある。

 

 米航空宇宙局(NASA)は、新型の「オライオン宇宙船」(乗員4人)と、新型大型ロケット「SLS」を使って21年に月の裏側を飛行する計画だ。成功すれば、1972年のアポロ17号から約半世紀ぶりの有人飛行になる。さらに、後継機では、小惑星を捕獲して、月の周回軌道に固定し基地化することも考えている。

 

 スペースXは、メタンと酸素、太陽電池を推進力とするロケットを開発し、火星にコロニー(入植地)を建設すると発表した。なんと火星までの乗船料は、1人当たり20万ドル(約2340万円)と料金まで決めている。

 

 JAXAは、小型月着陸実証機「SLIM」をイプシロンで打ち上げる計画だ。グーグルがスポンサーの月面無人探査コンテストに日本から参加するベンチャー企業のHAKUTO(東京都港区)もJAXAは支援している。

 

 JAXAはもともと、技術力に優れる中小企業を部品調達先として活用し、関連企業の育成に注力してきたが、近年は中小企業や大学が製作した超小型衛星の相乗り打ち上げなどを契機に宇宙関連事業を目指す企業の輪が広がってきた。

 

 ベンチャー企業のアクセルスペース(東京都千代田区)は22年までに50基もの超小型衛星を打ち上げる計画。また、PDエアロスペース(名古屋市)は、ジェットエンジンとロケットエンジンを切り替えられる次世代エンジンを開発中だ。

 

 宇宙開発技術は、技術の中でも突出する超ハイテク技術で、スピンオフ(応用)技術も数多いが、逆に、近年は、こなれた民生技術を宇宙分野に転用する流れが主流になってきている。

(杉山勝彦・武蔵情報開発代表)


特集:2017 12技術103銘柄 2017年1月17日号

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2017 12技術103銘柄

 

2017年はこのテーマが来る!?

 

谷口健、大堀達也(編集部)

 

2017年の株式市場で急上昇する銘柄は──。

 

結論から言えば、IoT(モノのインターネット)分野のクレスコ、「フィンテック(金融とITの融合)」分野のラクス、自動運転分野のパスコ、「アグテック(農業のIT化)」分野の井関農機など、技術銘柄が“大化け”する潜在能力を秘めていそうだ。

 

アベノミクス以降の国内株式市場では、13年に再生医療、14年に水素、15年にウエアラブル端末、16年に第5世代(5G)通信など新技術がすかさず投資テーマに祭り上げられ、株価は上昇した。17年は、ここで選んだ12技術領域で例年以上に革新的な進歩が期待される。

 

今年の“大化け”銘柄はどれか。

 

今回の特集では、17年に事業化への道筋が付きそうな新技術を拾い上げた。人工知能(AI)やロボット、半導体、バイオ薬、ゲノム編集、宇宙など12の技術領域で、延べ103銘柄に上る。こうした技術銘柄は、独自技術に裏打ちされた底力がある。

 

株式市場は、ドナルド・トランプ氏が米大統領選挙で勝利して以降、日米欧で16年の年初来高値を更新するなど「トランプ相場」に沸くが、期待先行で急騰した反動から、急落リスクもはらんでいる。この銘柄群は、茫洋(ぼうよう)とした期待がいつはじけるか分からない「トランプ・リスク」への耐久力があるとも言える。

 

また、前述の4銘柄は、米国大統領選後の値上がり幅が、日経平均株価の値上がり幅より小さい。つまり、「トランプ相場の出遅れ銘柄」と言えるだろう。4銘柄だけでなく、新素材の開発を進める内装材大手の住江(すみのえ)織物、バイオ薬分野で新薬開発が順調なタカラバイオ、建設・インフラ分野で有望なライト工業も出遅れ銘柄に入る。(了)

特集全体の目次

2017年はこのテーマが来る!? ■谷口 健/大堀 達也

AI・IoT AIが管理するIoT工場が実用化 ■飯田 裕康

AI インタビュー 岡田 陽介 ABEJA社長

フィンテック 「チャットボット」で購買が激変 ■谷口 健

自動運転 新型GPSで高精度化 ■遠藤 功治

超小型EV インタビュー 鶴巻 日出夫 FOMM社長

ロボット 人と協働する「コボット」が活躍 ■西川 裕康

バイオ薬 日米政府指定の新薬開発が進展 ■和島 英樹

ゲノム編集 「クリスパー」の特許争奪戦 ■小林 雅一

半導体 IoTで省エネ半導体に需要 ■石野 雅彦

量子テレポーテーション インタビュー 古沢 明 東京大学教授

AR・VR 産業向けARの実用化が加速 ■和島 英樹

新素材 「着るセンサー」の事業化進む ■西田 貴夫

宇宙 民生技術で月と火星を再探査 ■杉山 勝彦

EMドライブ 宇宙船エンジンの可能性 ■松浦 晋也

農業 「アグテック」で高度化が加速 ■小林 大純

建設・インフラ 高速道路の大規模更新に商機 ■溝口 陽子

『週刊エコノミスト』2017年1月17日号

定価:620円(税込み)

発売日:2017年1月10日

◇ネット書店で雑誌を購入する

◇電子版を購入する


経営者:編集長インタビュー 荻野調 財産ネット社長

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◇金融投資を民主化したい

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 創業の動機を教えてください。

荻野 財産ネットはフィンテックのベンチャーですが、当社の考えるフィンテックとは「ファイナンス」と「ネットビジネス」の融合です。

 その視点で、大手銀行のネットバンキングなどを見ると、振り込み画面にしても一昔前の作りです。

 一方、アマゾンなどネット通販サイトは非常に使いやすくできています。アマゾンは客単価が数千円、粗利が1割程度、実益は数%でビジネスを回しています。客単価が数千円で回るネットビジネスのノウハウを、株式投資などで数十万円がやり取りされる金融で展開すれば、大きな利益が出せると考え創業しました。

 

 ◇株価動向の予測精度は80%

 

── ターゲット層は。

荻野 資産が3000万円から1億円の人たちです。日本に1000万世帯あり、金融資産は合計500兆円という最大のボリュームゾーンになっています。ただ、富裕層は黙っていても金融機関が寄ってくるので資産ポートフォリオを組めるのに対し、ボリュームゾーンの人々は資産を増やすために株式やFX(外国為替証拠金取引)を始めるのが一般的です。ところが、知識がなく損失を出すケースが多いのです。富裕層との間に情報格差があります。

 また、株や投資信託を買いに証券会社や銀行に行っても、他社の商品を比較検討できない上に、個人情報の提供が必要で、気軽に買えません。実際、証券会社の口座数は2300万ありますが、その多くは使われていません。

 そこで、資産を増やすための方法や有用な情報を提供し、匿名でも簡単に金融商品を比較検討できるサービスを作ることで、金融商品の敷居を低くしたいです。

 

── 具体的なサービスは。

荻野 株価・為替予報サイトの「兜予報」です。スマートフォン向けアプリケーションを含め実際に使っているアクティブユーザー数は月に3万~5万人います。

 兜予報は経済ニュースの相場への影響を可視化します。株では上場企業3000社を対象にしていますが、ニュースが株価に織り込まれるまで1時間程度かかる中小型株が中心です。機関投資家ではなくデイトレーダーに勝算がある時価総額100億~1000億円の銘柄です。

 株価の予測精度はおよそ80%に達します。その秘訣(ひけつ)は大きく二つあります。一つは、メディアや企業が発信する多数の情報のうち、株価に影響のあるもののみを抽出する、当社独自のキュレーション(情報選択)のノウハウです。ニュースの99%は株価に影響がありませんが、残り1%未満に株価を動かす情報があります。これはデイトレーダーが欲しがる情報と言えます。

 もう一つは、抽出した情報が株価にプラスとマイナスのどちらに影響するかを投票するアナリストの存在です。当社専属と外部の約20人の経験豊富なアナリストが集まると、80%以上の確率で株価の方向性を予想できるようになります。人とシステムの強みを融合したサービスです。

 

── どう収益に結びつけますか。

荻野 兜予報では、予測を提供するだけでなく、すぐに証券会社サイトに移動して実際に売買できる仕組みになっています。ユーザーが移動した時点で当社に手数料が入ります。その意味ではネット証券とは競合でなく、共存関係が築けます。

 日本にいる30万~50万人のアクティブトレーダーのうちデイトレーダーは5万人です。少なく見えますが、彼らがネット証券の7~8割の売り上げを占めています。ネット証券は大手5社で3000億円規模なので、デイトレーダーだけで2000億円の売り上げを生んでいます。仮に1万人のデイトレーダーが兜予報ユーザーになれば、中堅証券会社並みの400億円市場で課金ビジネスができることになります。

 

── 「兜予報」の他には。

荻野 2016年夏にサービスを開始した「資産の窓口」です。中流層をターゲットに長期的な資産運用を支援します。匿名性を重視し、年収、年齢、金融資産、ローン残高、株・FXでの収入、不動産の6項目を入力するだけで家計のバランスシートや貸借対照表を割り出し、そこから資産ポートフォリオの将来予測を立てます。

 資産の窓口は、トレーディングをする時間のない人や、兜予報ユーザーの受け皿にもなります。資産の窓口で投資信託の運用が選択肢に挙がったら、そこで各社の商品を比較検討できます。ユーザーが投信会社のサイトに移動したら当社に手数料が入ります。

 

── 検討中のサービスは。

荻野 兜予報のノウハウにより、株価に影響を与えるニュースが出てから、株価に織り込まれるまでのタイミングが高い精度で予測できるようになりました。これはヘッジファンドが最も欲しい情報の一つです。これを「株価織り込み時間予測エンジン」として商品化し、キュレーションによって無駄な情報を除いたデータとともにヘッジファンドに提供するサービスを開発中です。

 

── 今後の経営目標は。

荻野 17年度に単月黒字化を目指します。当社のサービスが利用されるようになれば、これまで情報を持っていた富裕層しか恩恵を受けられなかった金融商品で、日本の大半を占める中流層も資産を増やすことができるようになります。「金融投資の民主化」を実現したいです。

(構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A ソニーで数多くの新規ビジネスの立ち上げに携わった後、IT企業では一転、事業の撤退・整理を経験しました。ビジネスの「生き死に」を見たことは大きな経験です。

 

Q 「私を変えた本」は

A 小学生の時に図書館の本をほとんど読破しましたが、多くの本は古代の大哲学者から近代の作家までパターン化されていると悟りました。今は技術書しか読んでいません。

 

Q 休日の過ごし方

A 子供と一緒に料理を作るのが楽しみです。

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 ■人物略歴

 ◇おぎの・しらべ

 1973年生まれ。早稲田大学高等学院、東京大学卒業後、ハーバード大学で修士号取得。98年タイタス・コミュニケーションズ入社。ソニー、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グリーを経て2015年に財産ネットを設立し社長に就任。

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事業内容:金融情報サービスの提供

本社所在地:東京都港区

設立:2015年3月

従業員数:25人

兜予報の月間アクティブユーザー数:3万~5万人

 

「偽ニュースサイト」が欧米を席巻 「小遣い稼ぎ」の投稿が政治を動かす

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ブライトバートニュース
ブライトバートニュース

<ポスト・トゥルースの時代>

福田直子・ジャーナリスト

 

米国のニュースサイト「ブライトバート・ニュース」が2017年1月、フランスとドイツでネット配信を開始する。

 

 ブライトバートは、16年の米大統領選においてドナルド・トランプ氏の支持層拡大で大きな役割を果たしたと言われている。白人至上主義、右翼的、反移民といった話題のニュースを多数掲載し、トランプ氏支持を明確に打ち出した。

 

ブライトバートの前会長スティーブ・バノン氏はトランプ陣営の最高責任者を務め、選挙戦での功績を買われて新政権の大統領首席戦略官および上級顧問に任命されている。

 

 ブライトバートは、その排外主義的、右翼的な内容とともに、真偽不明な「偽ニュース」を混ぜ込むことで多くのユーザーを獲得したことでも知られている。いわば、「偽ニュース」の象徴ともいえるブライトバートの上陸に、欧州の国々は警戒を強めている。

 

 フランスは17年4月、5月に大統領選挙を、ドイツは9月に連邦議会選挙を控えている。フランスでは「国民戦線」、ドイツは「ドイツのための選択肢」(AfD)など、極右勢力が台頭している。そうした状況にあるだけに、危機感は強い。

 

 ◇マケドニア発「ニュース」

 

 右傾化をたき付ける偽ニュースは、意外な場所から生まれている。

 

 バルカン半島、マケドニア中部にヴェレスという小さな村がある。人口4万4000人あまり。かつて陶器や金属加工で栄えたが、村は16年米大統領選の数カ月前から、「ブームタウン(にわか景気に沸く町)」になった。

 

 1年前、村の少年があるニュースサイトを立ち上げた。日々のニュースの中からコンテンツを切り貼りし、高級車について掲載したことが「ネットバブル」のはじまりといわれる。ネットから検索したニュースを次々に「アレンジ」していくうちに、クリック数に応じて広告が増えていった。広告料の支払いもよく、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアでシェアされていくうちに、クリック数は急増していった。

 

 村では突然、高価なドイツ車を乗り回し、不動産を買う若者が目立ちはじめた。ドイツのニュース週刊誌『シュテルン』11月24日号によれば、少年たちは一時、グーグルやフェイスブックから毎月1万から3万ユーロ(122万円から367万円)の広告収入を得ていたという。若者の2人に1人が失業している村で、偽ニュースサイトはもうかるといううわさが広がった。サラリーマン、歯医者、エンジニアまでが仕事を辞め、自宅で偽ニュースサイトを作るようになり、一時は140の偽ニュースサイトが村から発信されるようになった。

 

 ただ、サイトを本物に見せるためには、かなりの「労働時間」を投入しなければならない。最も利用者が増える「プライムタイム」の夜間は、孫のためにクリック数を増やそうと祖母までが協力し、家族総出で画面とにらめっこをしていたという。

 

 偽ニュースを発信する側は、反響を求めて過激な内容に走りやすい。

 

 米公共放送のNPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)は、ある偽ニュースサイトを作った人物をカリフォルニア州に追跡してインタビューしている。

 

 元旅行ライターというその人物は、最初の頃、民主党候補だったバーニー・サンダース氏の偽ニュースを流した。だが、人々の関心がないのか、そのうち立ち消えてしまった。そこでヒラリー・クリントン氏に関するニュースを流したところ、たちまちクリック数が増えた。サイトを増やすために、いくつかのドメイン名を購入し、複数の「ニュースサイト」を作った。

 

 クリントン夫妻についての偽ニュースは、瞬く間に広まる。肝心なのは、「本物に見えること」だ。

 

一番のヒット作は偽ニュースサイト「デンバー・ガーディアン」に掲載した「ヒラリー・クリントンの電子メールを操作したFBI(米連邦捜査局)の検査官が謎の『自殺』を遂げた」というニュースだった。いかにもヒラリーが関与しているような「特ダネ」に、クリック数は面白いほど増えたという。

 

 偽サイトは本物に見えるように、半分以上を日常のニュース記事で埋め、それとなく「面白い偽ニュース」を紛れ込ませることが秘訣(ひけつ)だという。広告収入のみが目的の、時間さえかければお手軽にできるサイトだ。

 

「ローマ法王、トランプ氏を支援」をはじめ、「ビル・クリントンには黒人の娼婦との隠し子がいる」「ヒラリーは同性愛者」「クリントンとオバマはシリア戦争でもうけている」「ヒラリーが暗殺した人たちのリスト」というニュースさえあった。

 

 ◇ピザ店襲撃

 

 偽ニュースは、ネット上のデマでは終わらない。真に受けた市民が抗議行動に出ることで、社会的な問題に発展する例も出てきている。

 

 米ワシントンDCの中心部、繁華街のダウンタウンから北へ伸びるコネティカット通り、メリーランド州に入る少し手前の住宅街に殺風景なピザ店「コメット・ピンポン」がある。店内は広々とし、奥に卓球台が並び、時々、ライブ演奏もある。気軽に行けるピザ店として家族連れや若者たちに親しまれている。

 

 16年12月4日、このコメット・ピンポンにライフル銃を持った男が押し入った。幸い、けが人はなかったが、男は「クリントンをはじめとする民主党員がピザ店を拠点に悪魔風の儀式で幼児ポルノ組織を運営している疑いがあるので調べに来た」と従業員と客たちを数時間、監禁した。この男性は偽ニュースを読み、車を500キロほど走らせ、ワシントンに証拠をつかみにやってきたというのだ。男は数発銃をうち、警察に逮捕された。

 

 一体、偽ニュースはどう広まったのか。

 

 ロシアが民主党の選挙キャンペーンの責任者、ジョン・ポデスタ氏の電子メールをハッキングし、2万通あまりの電子メールが流出、メールは内部告発サイト「ウィキリークス」によって公開された。

 

 メールの中に、民主党を攻撃する材料を探していた共和党支持者が、民主党支持者のピザ店の店主のメールを発見。作り話をソーシャルメディアのレディットで流したところ、話題になった。「インスタグラムに店主が子どもたちと一緒に写っている」「店の名前のイニシャル『CP』が本当は チャイルド・ポルノグラフィー〈児童ポルノ〉を意味している」などのデマがとびかった。デマのシェアやチャット数が増えたのは大統領選が本格的になってきた16年9月以降で、それとともにピザ店主に対するネット上の中傷がひどくなっていった。

 

 デマをあおった人物の中に、次期政権で国家安全保障担当大統領補佐官に指名されているマイケル・フリン元国防情報局長官とその息子がいた。フリン氏は、さすがに次期大統領補佐官に任命された以後は過激な発言は抑えているようだが、息子は、事件が落着したあとも陰謀説が間違っていたとは認めなかった。

 

 やっかいなのは、元となるデマの発信源が一体、誰なのかも不明、責任追及もできないことだ。デマは複数のソーシャルメディアで幾度となくシェアされ、拡散される。そしていったんうその情報が出回ると、いくら「事実ではない」と主張しても、「リベラル・メディアの陰謀だ」「検閲だ」「何かを隠している」と怒る人々が増えてしまう。

 

 ピザ店の店主をはじめ、従業員たちもしばらくのあいだ、店の前でピケを張る人たちに悩まされ、複数のソーシャルメディアから数えきれないいやがらせのコメントを受けた。店でライブ出演した女性は、「お前の自宅の住所を知っている。地獄へ落ちろ」など30通の殺害脅迫のほか、あらゆる暴言、卑猥(ひわい)な言葉をツイッターをはじめとするソーシャルメディアで浴びせられ、自宅の住所とともに経歴や勤め先の学校の写真までネットに公開されてしまった。

 

 偽サイトは、大きく分けて三つある。広告収入が目的のもの、右翼の主張を掲載するもの、そしてロシアから西側諸国をかく乱する目的のものだ。

◇37%が「偽ニュース」

 

 米ニュースサイト「バズフィード」が選挙に関するフェイスブックの九つのサイト(三つの主要メディアサイト、三つの民主党系サイト、三つの共和党系サイト)、2282のニュース投稿を検証したところ、三つの米国の右翼系ニュースサイト、「イーグル・ライジング」(利用者数62万人)、「ライト・ウイング・ニュース」(同337万人)、「フリーダム・デイリー」(同136万人)のうち37・7%が事実とうそを混ぜた偽ニュースであった(「全くのうそ」12・3%と「事実とうそを混ぜた」25・4%の合計)。なお、民主党系サイトは19・2%が、主要メデイアは0・7%が事実に即さないものであった。

 

 とかくネットでは「普通の人たち」が過激になる傾向があるようだ。トランプ次期大統領が自らデマをあおる中、極端な意見や偏見、暴言やヘイトスピーチが瞬く間に広まるようになった。「オルト・ライト」(極端に右寄りのオルタナティブ・ライトの略名)と呼ばれる白人至上主義が黙認されたことで、自信を得た右翼が各地で目立っている。

 

 16年の米大統領選挙中、候補者自らがヘイトスピーチの伝道者のような発言を繰り返したせいか、16年9月から12月の間に米国各地で1100件近い人種差別をめぐる暴力事件が起きている(アラバマ州、極右団体の動向を監視する米国の市民団体、南部貧困法律センター調べ)。ヘイトスピーチはネット内に収まっているだけでなく、実社会に多大な影響を及ぼすようになった。

 

 うそでも事実でも「おもしろいニュース」がふんだんにネットで読むことが可能になったことで、「事実が大きな役割を果たさない時代(ポスト・トゥルース時代)」という言葉が英オックスフォード大出版局が選ぶ「今年(16年)の単語」に選ばれた。人々は事実や理由づけよりも、感情的に共感を呼ぶ情報に飛びつきやすくなっている。背景には米国のテレビ、新聞など既存メディアの衰退もある。

ブライトバード前会長のバノン氏 Bloomberg
ブライトバード前会長のバノン氏 Bloomberg

 トランプ新政権でブライトバートという右翼的なサイトの主催者が重要なポストについたことは、今後、新政権によってあらゆる情報がゆがめられる可能性がある。拡大する偽ニュースに対して、フェイスブック側は、ニュースが偽であると判明した場合には警告サインを出し、明らかにへイトスピーチと認められるメッセージは消去するなどの対策を発表している。

 

「うそでも何回も何回も繰り返せば、大衆は本当だと信じてしまう」と言ったのはナチス宣伝相、ゲッペルスだった。デマの流布は民主主義崩壊のはじまりである。ドイツ人は、メディアが「うそをつく」とわきに追いやられ、デマと人種差別が流布されることで独裁者が政権に就き、第二次世界大戦がもたらされた苦い経験を忘れていない。

 

 欧州はネットでたちまち広がるうそに対して、言論の自由を保ちながら、へイトスピーチとどう対峙(たいじ)するのか。

(福田直子・ジャーナリスト)

*『週刊エコノミスト』2017年1月17日号 掲載

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◇グローバル化の果て

◇被害者意識に彩られたナショナリズムへの回帰

小野塚知二(東京大学経済学研究科教授)

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「量子コンピューターは地球を救う」古沢明 東京大学教授インタビュー

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コンピューターやAIを飛躍的に進化させる「量子コンピューター」の実現につながる「量子テレポーテーション」。その研究を行う古沢教授に話を聞いた。

 

(聞き手=後藤逸郎/谷口健/大堀達也・編集部、まとめ=大堀達也/谷口健)

 

── 量子テレポーテーションとは。

 

微小な量子の世界において、同時に発生した光の粒である「光子」のペアは、遠く離れても、片方の光子をいじると、もう一方の光子の状態も変化する。この量子の「もつれ現象」は、まるで量子が瞬間移動(テレポーテーション)したように見えるため、量子テレポーテーションと言われる。この現象は、量子コンピューターに応用できる。

 

 量子コンピューターが実現すれば、スーパーコンピューターより超高速、低電力消費で、瞬時に計算ができるようになる。また、既存のCPU(中央演算処理装置)のように、計算速度を速めるために周波数を一定以上に高くすると高熱で溶けてしまうといった物理的な限界もない。

 

── 2010年にカナダの「D─Wave Systems社」が量子コンピューターを製品化した。

 

量子コンピューターはまだ存在していない。D─Wave社のコンピューターは、0・1%の確率で計算を誤る。正しい計算ができなければコンピューターとは言えない。

 

 現在、グーグルやIBM、インテルなども量子コンピューターの開発を何百億円もかけて続けている。特にグーグルは、自動車が完全自動運転の世界になる将来の覇者となるためにこの研究を続けているのだろう。大量の自動車がそれぞれの最適経路を割り出すためには、膨大な計算が必要となる。これは既存の人工知能(AI)では難しいが、量子コンピューターによって可能になる。

 

 ただし、グーグルなどは、そのままでは誤り訂正ができない「物理的量子ビット」である「超伝導量子ビット」を用いている一方で、私は、誤り訂正が可能な「論理的量子ビット」を用いている。また、グーグルなどの9ビットに比べて、私は100万ビットであり、アプローチも計算速度も全く異なる。私の研究世界でもオンリーワンで、エラーフリーの(計算間違いがない)本当のコンピューターを目指している。

 

── 量子コンピューターで電力消費はどの程度減るか。

 

現在のコンピューターに比べ、量子コンピューターは、電力消費を1000分の1~100万分の1に抑えることができるだろう。

 

 現在計画されているスーパーコンピューターを動かすには、原子力発電所1基分の電力が必要と言われる。このまま既存のコンピューターを使い続ければ、地球環境を破壊することになる。人類は今、「地球を壊すか」「コンピューターを使わないか」の選択を迫られていると言える。

 

 ◇「送りバント」はしない

 

── 量子コンピューターの実現に何が足りないか。

 

まだまだ実験を重ねる必要がある。そのためには資金も必要だ。私の研究でも、例えば、光の波長を変える機器が多くあれば、研究はさらに進むと考えている。

 

 ただ、グーグルなどが研究している量子コンピューターに、日本政府や日本企業が数億円を投じたところで、勝つことも画期的な研究成果を得ることもできないだろう。

 

 今の日本は失敗が許されない風潮が蔓延(まんえん)しており、野球で言えば、確実に走者を進める「送りバント」のような研究ばかりが評価される。しかし、送りバントの構えからホームランは打てない。

 

 私は(量子テレポーテーション理論の実証を成功させており)3割バッターの自負はある。フルスイングするからホームランを打てる。

 

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 ■人物略歴

 ◇ふるさわ・あきら

 1961年生まれ。東京大学を卒業後、ニコンに入社。96年、米カリフォルニア工科大に留学。98年、「量子テレポーテーション」理論を世界で初めて実験で実証した。2007年に日本学士院学術奨励賞、14年に東レ科学技術賞、16年に紫綬褒章を受章。

 

週刊エコノミスト2017年1月17日号 特集「2017年12技術103銘柄」

週刊エコノミスト 2017年1月17日号

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定価:620円(税込み)

発売日:2017年1月10日

週刊エコノミスト2017年1月17日号

 

このテーマが来る!?

2017 12技術103銘柄

  

2017年の株式市場で急上昇する銘柄は──。

 

結論から言えば、IoT(モノのインターネット)分野のクレスコ、「フィンテック(金融とITの融合)」分野のラクス、自動運転分野のパスコ、「アグテック(農業のIT化)」分野の井関農機など、技術銘柄が“大化け”する潜在能力を秘めていそうだ。

 

この銘柄群は、茫洋(ぼうよう)とした期待がいつはじけるか分からない「トランプ・リスク」への耐久力があるとも言える。 もっと読む


荻野調 財産ネット社長

 

◇金融投資を民主化したい

 

── 創業の動機を教えてください。

荻野 財産ネットはフィンテックのベンチャーですが、当社の考えるフィンテックとは「ファイナンス」と「ネットビジネス」の融合です。続きを読む

「環境保護と低価格が両立するクルマ」鶴巻日出夫・FOMM社長インタビュー

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環境に負荷の少ないクルマが求められる中、超小型モビリティー時代を見据えたクルマづくりを手掛けるFOMMの鶴巻日出夫社長に開発の狙いを聞いた。

(聞き手=大堀達也・編集部)

 

── 超小型EV(電気自動車)を作ろうと考えた動機は。

■これからのクルマには、(1)環境にやさしい乗り物であること、(2)カーシェアリングしやすい低価格であること──が求められるからだ。

 排気ガスを出さないゼロ・エミッションカー(ZEV)規制が世界的に強化されつつある。また、将来は、自家用車を持たないカーシェアリングが主流になる可能性が高い。そうなると、より小型で安価なクルマが求められる時代になる。こうした条件を満たすクルマが超小型EVだ。

 

 ◇4人乗りで他社と差別化

 

── 需要はあるか。

■小型車の需要は、長距離移動ではなく、自宅から最寄りの駅や駐車場までの至近距離、「いわゆるFirst One Mile(ファースト・ワン・マイル)」にある。これにふさわしい「Mobility(クルマ)」を提供したいという意味を込め、社名を「FOMM」にした。日常的なクルマの利用シーンはファースト・ワン・マイルが最も多く、超小型車が適している。

 市場はモータリゼーション(自動車の普及期)にある東南アジアだ。2017年中にタイで量産を開始し、18年3月までに同国で販売する計画だ。価格は100万円で、初年度に4000台の販売を目指している。

── 差別化した点は。

■超小型EVはトヨタ自動車や仏ルノーも販売しており、スタートアップ企業が勝つには明確な差別化が必要だ。差別化の一つは、4人乗りで、ファミリーカーとして使えること。超小型EVでは、トヨタの業務用向けの「コムス」が1人乗り、一般向けのルノーの「ツイージ」も2人乗りで家族向けとは言えない。

 4人乗りにするために、アクセルをハンドル周りに置くパドル式にし、足元をブレーキのみにしたことで、運転席を車体前方に置き、全長2・5メートルのサイズで4人乗りの空間を確保した。

 

── 性能はどうか。

■超小型で安価だが性能も追求した。航続距離は1回の充電で150キロ。エアコン稼働時で100キロ走る。

 ハンドルにはパワーステアリングを採用した。目新しさとハンドルさばきの楽さでタイの若者には好評だ。

 タイヤに組み込んだインホイールモーターも工夫した。ブレーキ時に運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する「回生ブレーキ」を搭載した。これでバッテリー消費を抑えることができる。

 もう一つは、水に浮いて移動できること。このアイデアのきっかけは東日本大震災だ。津波が押し寄せたときクルマが緊急避難場所になればいいと考えた。東南アジアは洪水が頻発するため、水に浮く機能は役に立つ。ただ、防水性など実現には苦労した。タイヤホイールを特殊なブレード(羽根)状にし、水を吸い込んで後方に吐き出すことで水上を前進する。

 また、バッテリーを丸ごと交換できるカセット式にした。提携するタイ国内200カ所のガソリンスタンドに交換用バッテリーを用意し、充電時に待たされることなく移動できるようにする。スマホアプリで確保できる仕組みで「バッテリークラウド」と呼んでいる。

 当初はタイのみの販売だが、マレーシア、インドネシアにも販路を広げ、20年ごろまでに年間5万台、価格80万円を目指し、普及にはずみをつけたい。

 

◇つるまき・ひでお

 1962年福島県生まれ。東京都立航空工業高等専門学校を卒業後、鈴木自動車工業(現スズキ)入社。97年、アラコ(現トヨタ車体)に移る。2013年、FOMMを設立し社長に就任

FOMM社員たちと
FOMM社員たちと

退位有識者会議 恒久法化議論を封じ込め 拙速な進行で論点矮小化

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森暢平・成城大学准教授

 

天皇陛下の退位に関して議論する安倍晋三首相の私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(座長・今井敬経団連名誉会長)は、16人の専門家からの意見聴取を終えて、2017年1月中に「一定の方向性」をもった論点整理を公表する予定でとりまとめに入った。

 

 座長代理の御厨貴東京大名誉教授は、天皇誕生日前後の報道各社とのインタビューで、退位は一代限りの特別法でまとめる方向を示している。専門家の意見では退位を否定する意見も多かったが、有識者会議が特別法で退位を容認するのは確実となった。

 

 有識者会議が論点としたのは、(1)天皇の役割、(2)公務のあり方、(3)負担軽減法、(4)摂政の設置、(5)国事行為の委任、(6)退位、(7)恒久法か、特別法か、(8)退位後の活動──の8点。このうち、退位を認めるのか摂政設置でしのぐのか(論点(4)(6))、その際、皇室典範を改正して行うのか、特別法で一代限りとするのか(論点(7))、さらに退位後は公務を行うのか(論点(8))について、16人の意見が分かれたことを確認したというという。有識者会議のまとめでは退位に肯定的な専門家は9人、否定的は7人である。

 

 一方、(1)(2)(3)(5)の4点では専門家の意見がおおむね共通していたとまとめている。しかし、例えば(1)天皇の役割について、保守派の八木秀次麗沢大学教授は、「天皇は祭主として『存在』すること自体に意義があり、公務ができてこそ天皇という考えは存在よりも機能を重視したもの。皇位の安定性を脅かす」と主張。『朝日新聞』の元宮内庁記者の岩井克己氏は「存在するだけで尊いと祭り上げることは神格化や政治利用につながる」と反論し意見は割れている。

 

 ◇天皇の「役割」で対立

 

 保守派にとって天皇は「地位」であるから「高齢で職務がまっとうできない」という理由で、地位から降りることは許されない。それを変えれば、天皇は定年制がある職務にすぎないことになってしまうからである。退位に反対する保守派と、容認する実務派は、天皇の役割でこそ対立しているのだ。それなのに、「おおむね意見が共通していた」とまとめたのは、天皇制のそもそも論にまで議論を広げたくない有識者会議の強引さと受け止められかねない。

 

 有識者会議はスピード感を重視してきた。専門家の意見をそれぞれ20分聞き、10分の質疑応答で終わる。国の根本制度についての審議がこれでいいのかと首をひねる者もいる。さらに、御厨氏は「相場観」という言葉も多用している。幅のあるなかから落としどころを定めるという意味だろうが、天皇制と多数決の原理が整合的なのかは疑問も残る。

 

 御厨氏は、一代限りの特別法でまとめることについて、仮に将来の天皇が高齢で退位するという事態が起きてもいったん特別法をつくれば先例化すると主張している。恒久法化議論を封じ込め、議論を矮小(わいしょう)化しようと意図が透けてみえる。

 

 有識者会議は春をめどに最終的な提言をまとめる。その方向は決した。その後は国会での議論となるが、民進党がこの問題で一定の役割を果たせるかどうかが、議論が実質化するかの分かれ道となるであろう。

(森暢平・成城大学准教授)

*『週刊エコノミスト』2017年1月17日号FLASH!掲載

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陰の主役はアウディ 自動運転は量産間近 米家電見本市(CES)

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桃田健史・自動車評論家

 

世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」(CES)が米ラスベガスで1月4~8日開催された。

 

150カ国を超える国からおよそ4000社が出展した今年のCESで注目を集めたのが自動車。自動車メーカーや部品メーカーなどが、自動運転技術や情報通信端末としての機能を持つ「コネクテッドカー」の試作モデルを出品した。

 

 日本勢では10年ぶりの出展となるホンダが、人工知能(AI)を搭載し自動運転車機能を備えた小型電気自動車(EV)の「NeuV(ニューヴィー)」を発表した。ライドシェア(相乗り)を想定したクルマで、利用者がスマートフォンからニューヴィーを呼び出すと、自動走行で迎車する。

 

トヨタ自動車もAI搭載の自動運転車を発表した。

 

初出展となる日産自動車は試作車こそなかったが、カルロス・ゴーン社長が基調講演を行い、完全自動運転の開発路線に変更はない考えを示した。

 

海外勢では独BMWが半導体大手の米インテル、イスラエルのモービルアイと組み、17年末までに自律運転車40台のテストを一般道で実施すると発表した。

 

 ◇エヌビディアと協業

 

 しかし、業界・市場関係者の話題をさらったのは、実は出展を見送った独アウディだった。

 

ここ数年、アウディはCESで自動運転の新技術を公開し続けており、常に注目の的だった。事実上、自動運転開発をリードしてきたアウディの出展見送りは、技術をアピールする段階を終え、量産段階に近づいていることを意味する。

 

 アウディは、米半導体大手エヌビディア製の自動運転向けコンピューター「ドライブPX2」を搭載したクルマの量産に入ると見られる。ドライブPX2は画像認識機能に優れ、これによってクルマが周囲の状況を自ら学習できる。

 

 そのエヌビディアは今回のCESで、独ダイムラー、部品大手の独ボッシュや独ZFのほかオランダのトムトム、日本のゼンリンといった地図メーカーとの提携を相次いで発表した。同社が自動運転向け半導体のデファクトスタンダード(事実上の標準)を握る可能性もある。

 

 日本の半導体大手ルネサスエレクトロニクスも完全自動運転の試作車を発表し、同社株が一時急騰する場面があったが、この背景には開発の波に乗り遅れまいとする焦りがある。ルネサスの強みはクルマの基本動作を制御する半導体。しかし、自動運転においては画像認識に強いエヌビディア製品の需要が高まる。

 

 CESでは近年、スマホ、ウエアラブル(身に着けられる)端末、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)などが目玉となってきたが、いずれもその年に量産が進み市場が急拡大している。17年は高速道路などでクルマに運転を任せる部分的自動運転技術やコネクテッドカーの量産が本格化する可能性がある。各社の戦略が問われる年になりそうだ。

(桃田健史・自動車評論家)

「我々は皆リフレ派である」 金融緩和の効果は絶大だ=原田泰・日銀審議委員

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原田泰・日本銀行政策委員会審議委員

 

日本銀行が量的・質的金融緩和政策(QQE)を開始してから4年近くたつが、2%の消費者物価上昇率の目標はまだ達成できていない。この目標が達成できていないことによってQQEが失敗したとする議論がある。

 

さらには、2016年1月に日本銀行が打ち出したマイナス金利、9月の長短金利のコントロール政策について、金融政策の目標としてマネタリーベースの量が第一義的に強調されていないから、リフレ派の敗北と評価する人もいる。

 

 しかし、量は手段である。

 

経済学には、経済を不況にも過熱にもしない、程良い利子率、自然利子率があるという考え方がある。金融政策の役割は、現実の利子率をこの自然利子率との関係で適切な水準にコントロールすることで、経済を程良い状態にしておくことである。

 

しかし、長いデフレと経済停滞が続いて、金利はほとんどゼロになってしまった。名目金利だけを考えていたのでは、金利をこれ以上下げることには限界があり、経済をちょうど良い状態にすることができなくなってしまった。

 

そこで行ったのが、QQEである。これは、マネタリーベースという量を拡大し、予想物価上昇率を引き上げ、実質金利(名目金利マイナス予想物価上昇率)を引き下げて、経済を良い方向に持っていこうというものだ。

 

実質金利の低下は、民間投資や住宅投資の拡大、円安、株高をもたらし、景気を刺激する。マイナス金利政策は、名目金利をマイナスにするわけだから、実質金利も当然に低下する。実質金利を下げて、経済を良い状態にするという意味では同じである。

 実質長期金利は、予想物価上昇率にどの指標を取るかによって異なるが、エコノミストによるインフレ予想に基づけば、図のようになる。

 

大胆な金融緩和を唱えていた安倍晋三自民党総裁(当時)が12年12月の選挙で勝利することが確実視されていたことを背景に、12年秋から実質金利は確実に低下し、それが続いている。12年秋にはゼロを下回る程度だったものが、現在のマイナス1%以下にまで低下している。

 

 実質金利の低下によって、16年度(すでに統計が公表されている4~9月期の実績を倍にしたもの)の民間企業設備投資は12年度に比べて11・7%増となった(それ以前の4年間を見るために08年度と比べると12年度はマイナス3・8%)。円も12年秋の1ドル=80円以下と比べて13年には約100円、14年と15年には約120円となった。円安となれば企業の利益は拡大する。

 

 企業所得(国内総生産〈GDP〉ベース)は12年度の86兆円から15年度には99兆円となった。企業は利益が上がれば生産を増やし、雇用を増やす。14年の消費増税、15年末からの新興国を中心とした世界景気の変調によるマイナスのショックによって、QQEを開始してから、一貫して経済が改善したわけではないが、基調として回復は続いている。12年秋の日経平均株価は9000円を切っていたが、16年末の株価は1万9000円以上となった。実質GDPは12年度から16年度(4~9月期の倍)にかけて4・5%増加している(08年度に比べて12年度は2・4%しか増加していない)。

 

 こうした実質金利の低下の経済に与える効果を日本銀行のマクロ計量モデルで分析すると、需給ギャップを0・6~4・2%ポイント改善させたとしている(詳細は、日本銀行「『量的・質的金融緩和』導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証」16年9月21日)。需給ギャップの縮小は、生産拡大、失業率低下を意味する。

 

 雇用の改善は生産年齢人口(15~64歳人口)が減少しているからだという議論があるが、生産年齢人口がピークだったのは1995年のことで、それ以来、一貫して減少している。ところが、バブル崩壊後の90年代初期から大手金融機関が破綻した金融システム危機、ITバブル崩壊の00年代前半まで、さらにリーマン・ショック、東日本大震災があった09年から13年ごろまでは就職氷河期と言われた時代である(94年には「就職氷河期」という言葉が、新語・流行語大賞の審査員特選造語賞になっている)。

 

95年から現在まで、就職氷河期と言われなくなったのは小泉純一郎政権時代の量的金融緩和期と安倍政権時代の量的・質的金融緩和期だけである。失業率は生産年齢人口減少時代に上がり続け、02年8月には5・5%まで上昇したのに、QQEによって、今や3%を切る勢いである。

 

 ◇雇用も税収も改善

 

 そもそも、リフレ派とは、大胆な金融緩和政策によって予想物価上昇率を引き上げ、実質金利を引き下げて、日本経済をデフレから脱却させ、新たな成長軌道に乗せようという考え方に賛同する人々である。私は、すべての人々、日本銀行のスタッフも、政府で経済政策を担当しているスタッフも、そして国民のほとんどが、日本経済をデフレから脱却させ、新たな成長軌道に乗せたいと思っていると考える。

 

ついでに言えば、国際通貨基金(IMF)でも、「インフレ率がいまだ目標を下回り、需給ギャップが依然としてマイナスである先進国における金融政策は……引き続き緩和的であるべきである」とされている(第34回国際通貨金融委員会コミュニケ、2016年10月8日)。要するに、世界のほとんどの人々がリフレ派なのである。

 

 なぜほとんどの人がリフレ派になっているのかと言えば、QQEによって失業率が低下し、雇用が拡大し、賃金×雇用の雇用者所得が着実に伸びているからだ。

 

大学、高校の新卒の就職状況は大幅に改善している。就職氷河期と言われた時代に比べて様変わりである。労働力調査によると、QQEの開始直前の13年3月から16年11月までで、雇用者数は5485万人から5758万人へ、うち正社員は3255万人から3356万人に、それぞれ273万人、101万人増加している。非正規ばかりが増えているわけではない。

 

 雇用の改善は大都市だけのものではなく、全国に波及している。16年6月には、すべての県で有効求人倍率が1を超えた。もちろん、全国でも上昇し、16年11月には1・41となった。これは91年7月以来の高さである。

 

 景気が拡大すれば税収も増大するわけで、政府の財政赤字も急速に縮小している。12年度から16年度にかけて、税収は消費税増税分の6兆円を除いても9兆円増えている。財政再建派もリフレ派になって良いはずだ。

 

 所得から消費への波及は弱いままであるが、考えようによっては、人々は不足していた貯蓄を積み増すことができている。将来使うために今貯蓄しているのだから、どこかで支出は増えるだろう。それに、新しく改定されたGDP統計(国際基準「2008SNA」)では、消費税増税後の落ち込みから約0・8%(年率)増加しており、弱いながらも消費が回復していたことが分かった。

 

確かに、物価上昇率は2%の目標に届いていないが、雇用と所得から見れば量的・質的金融緩和は成功している。逆に言えば、実体経済の好転なしに物価だけが上がったのであれば、量的・質的金融緩和は大失敗と断罪されているだろう。

 

 ◇反リフレを主張する人々

 

 ところが、最近の論調を見ると、リフレ政策に反対する人々が多い。リフレ政策に反対する人々を考えてみると、低金利で収益が上がらない銀行、人手不足に悩む人々、今は大丈夫だがハイパーインフレのマグマがたまっていると考える人々、金融政策よりも成長戦略で経済を強くするべきだという人々くらいしか思いつかない。

 

これらの人々の主張について具体的に考えてみよう。

 

低金利で収益が上がらない、低金利はQQEのせいだと考える銀行が、QQEに反対するのは理解できる。しかし、長期的に考えれば、銀行は貸出先があって初めて利益を得られる。企業が貯蓄をため込んで投資をしないのは、デフレが長期にわたって続き、投資意欲を減退させているからでもある。デフレが終われば、企業は投資意欲を取り戻し、銀行からの借り入れ需要も増大する。すなわち、銀行の貸し出しも増大し、銀行の利益も上がるはずだ。

 

 人手不足で困っていると言うなら給料を上げてくれと私はいつもお願いしている。給料が上がれば、いずれ物価は上がるものである。確かに社長の立場で考えると、人手不足は困ったことである。しかし、仕事があるのに人が集まらないから人手不足なのである。社長の立場で考えても、仕事がないより良いではないか。働いている人の立場で考えれば、人手不足の方が良いに決まっている。そもそも、社長より、雇われている人の方が多いのだから、人手不足に貢献したリフレ政策に味方してくれる人がほとんどのはずだ。

 

 ◇“岩石理論”は誤り

 

 これ以上の金融緩和政策には副作用があるという議論もある。それは、今は物価が上がっていないのだが、いずれ、ある時、突然に、ハイパーインフレになる、金利が暴騰する、円が暴落するなど大変なことが起きる。だからこれ以上の緩和はすべきではないというのである。

 

 このような議論を、私は「岩石理論」と呼んでいる。岩石理論とは、坂に大きな岩があって、邪魔だから動かそうとすると動かないが、一度転がり出したら止まらない。だから岩は動かさない方が良いのだという議論である。金融緩和政策に話を戻すと、マネーを増やしても物価は上がらないが、ある閾(しきい)値を超えるとハイパーインフレになる。だから、マネーを増やさない方が良いという議論になる。

 

 確かに、1970年代にはほとんどの先進国で数十%のインフレが起きた。しかし、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士氏によると、そうなるまで、1年から1年半の時間がかかっている。金融を引き締める時間は十分にあったのにそうしなかったということだ。それに、そもそも2%インフレ目標とは、それを上にも下にも大きく違わないようにすることだから、ハイパーインフレになるはずはない(さまざまな岩石理論への詳細な反論は、原田泰ほか編著『アベノミクスは進化する─金融岩石理論を問う』中央経済社、2017年、にある)。

 

 ここでは、実体経済を良くするために、なんとか金利を下げようという発想で考えているが、そもそも自然利子率(実質の概念である)が低すぎるのが問題で、それを正さなければならないという議論もあり得る。日本経済の効率を高めて成長率を高くすることができれば、自然利子率も高まるから、金融政策でなんとか金利を下げなくても良くなる。そのためには構造改革が大事だという議論である。

 

 議論としては分かるが、ではどうやって、どのくらい成長率を高めることができるのかという具体論はあまりないようだ。具体性があるのはTPPへの参加ぐらいだ。これに伴う構造改革で、例えば10年かけて、日本のGDPのレベルが最大で2・6%高まるという(「TPP協定の経済効果分析」内閣官房、2015年12月24日)。2・6%はレベルで成長率ではないので、毎年の成長率は年に0・26%高くなるだけだ。それも米国が参加しないと言っているので難しい。

 

それに、本気で構造改革をするということは、人手を減らして効率化するということだ。リフレ政策で人手不足状態を作っておかないと大変なことになる。リフレ政策こそ、構造改革のために必要なものだ。

 

 リフレ政策とはデフレから脱却し、日本経済を活性化しようという政策である。あなたはデフレ派ですかと問われて、「はいそうです」と答える人はいないと思う。そういう意味では、いまやすべての人々がリフレ派である。 

(本稿はすべて個人の意見であり、日本銀行の意見ではない)

原田泰・日本銀行政策委員会審議委員

◇はらだ・ゆたか

 1950年生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒業。経済学博士(学習院大学)。経済企画庁、大和総研専務理事チーフエコノミスト、早稲田大学政治経済学術院特任教授などを経て2015年3月から現職。著書に、『日本国の原則』など。

*『週刊エコノミスト』2017年1月24日号掲載

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天皇陛下の退位 一代限りの特別法提案へ 「皇位の安定性」損なう恐れ

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天皇陛下の退位について、「政府は2年後の2019年1月1日に皇太子さまが天皇に即位し、『平成』に代わる新しい元号とする検討に入った」と多くのメディアが報じた。政府は現在の天皇陛下に限った特例とする特別立法を、1月20日に召集する通常国会で提案するとみられる。

 

「皇位の安定性」が損なわれるとの指摘がある特別立法には反対意見があるなか、結論ありきで進める政府の方針に疑問の声が出ている。

 

 安倍晋三首相の私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」は、16年12月14日の会合で、議論に手間取れば高齢の陛下の退位時期が遅れる可能性を指摘した。

 

 時間がないことを理由にした特別立法ありきの流れについて、神道学者の高森明勅氏は「陛下を人質に取るような、大変失礼な進め方だ」と批判する。

 

特別立法による退位は政府の裁量が大きいため、「将来、恣意(しい)的あるいは強制的な退位につながる危険がある」と指摘。むしろ皇室典範改正による退位が望ましいと主張し、「後継者が成人している▽天皇本人の意思がある▽皇室会議による──などとすることで、恣意性の懸念は払拭(ふっしょく)できる」という。さらに「こうした議論はすぐにでも可能で、時間がかかるというのは言い訳だ」と話す。

 

 有識者会議の専門家ヒアリングに出席した今谷明・帝京大学特任教授は「生前退位についてはよほど慎重でなければならない」との立場。「緊急措置的に一代限りの特例法でというのはおかしい。法的な措置は与野党が一致するまで見送るのが相当だ」と既成事実化を批判し、法案提出は「時期尚早」と指摘した。

 

 また、ノンフィクション作家の保阪正康氏は、「特別立法での退位はやむをえないと思うが、採決にあたっては、付帯決議で将来的な皇室典範の改正を前提とするべきだ」と述べ、典範改正についても担保することを求めた。

 

 皇室典範改正に踏み込むと、女系天皇や女性宮家の議論を避けられないため、有識者会議は、当初から現在の天皇陛下に限った特例を「落としどころ」(全国紙政治部記者)としてきた。

 

 ところが、1月11日の会合では、23日に公表予定の「論点整理」について、(1)特別立法、(2)皇室典範に根拠規定を設けた特別立法、(3)皇室典範改正による退位の制度化の3案を例示した。民進党が制度の恒久化を求めており、「与野党一致を演出するための配慮」(全国紙政治部記者)とみられる。

 

 しかし、有識者会議座長代理の御厨貴・東京大名誉教授は、毎日新聞のインタビューなどで「今回は特別立法で対応することが良い」との認識を示している。

 

 高森氏は、有識者会議が典範改正に触れたことについて、世論調査で恒久的な制度を作るよう求める意見が強く、「特別立法だけで押し切ることは困難だと感じているためではないか」とみる。衆参両院の正副議長は1月16日、退位に関する国会の議論の進め方などについて協議する。高森氏は「環境が変わりつつある。どう議論を進めるか、国会の役割が重要だ」と指摘する。

 

 特別立法での退位は、「安定的な皇位継承」という天皇陛下の悩みに応えられない。政府は、天皇陛下のおことばに、正面から向き合うつもりはないのだろうか。

(酒井雅浩・編集部)

*『週刊エコノミスト』2017年1月24日号FLASH!掲載

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経営者:編集長インタビュー 来島達夫 JR西日本社長

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◇「山陰・山陽の魅力を豪華列車で発信します」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 2015年春に北陸新幹線が金沢まで開業しました。人の流れはどう変わりましたか。

来島 初年度は東京からのお客様が予想の2倍を超え、3倍に増えました。北陸が注目され、関西から北陸への特急利用客も増えています。

 今は北陸新幹線の上越妙高から金沢までが当社の運行ですが、敦賀、そして大阪まで延伸される予定です。新幹線は保有する鉄道建設・運輸施設整備支援機構に貸付料を30年間にわたって収入から返済していくスキームで、営業努力により利用が想定を上回った分は当社の収益になります。北陸と関西、さらに山陰、山陽との交流を促進していきます。東京と大阪がつながれば東海道新幹線の代替軸にもなります。

 

── 今年6月17日には豪華寝台列車「瑞風(みずかぜ)」が走り出します。

来島 鉄道の旅の魅力を訴えるために打ち出しました。基本は1泊2日で京都・大阪と下関の間を山陰経由あるいは山陽経由で片道運行します。料金はロイヤルツインで1人当たり27万円です。2泊3日で一周するコースもあります。

 山陰、山陽の自然や歴史、食材を味わっていただきたい。立ち寄りの観光地では新たに見どころを発掘してもらっています。沿線の工芸品を車内の随所に取り入れています。沿線の魅力を発信し、瑞風以外でも訪れる機会につなげていきます。

 

── 一生に一度は乗ってみたい。

来島 より気軽に長距離の列車の旅を楽しみたいというニーズに応えるための検討も始めています。

 

── 海外展開は。

来島 国内で打つべき手はまだありますが、私たちの経験を海外で生かす道も模索してきました。15年12月にブラジルの都市鉄道事業に、出資の形で参画しました。技術協力の要素を含んでいます。ブラジルはバスとマイカーが中心で、公共交通としての鉄道は需要があります。まずはブラジルですが、今後、各国の事情を見ながら考えていきます。

 

 ◇安全を根幹に

 

── 社長就任まで4年間、福知山線列車事故ご被害者対応本部長を務めました。その経験をどう生かしますか。

来島 安全性向上は経営の根幹だと認識しています。ご遺族の方々、けがをされた方々の思いに向き合い、私自身が取り組まねばという覚悟です。乗客死傷事故ゼロを基本に据え、昨今はホームや踏切の事故を減らす指標を掲げて取り組んでいます。

 

── 事故から10年以上たつなかで、風化を防ぐ手立ては。

来島 事故後に入社した社員が1万人を超えました。事故の悲惨さを語り継ぐことはもとより、教育訓練によって技能を向上させることを意識しています。研修センター内には事故について学ぶ鉄道安全考動館があります。全社員、グループ会社も含めて事故の教訓を共有しています。

 

── 18年3月までの5年間の中期経営計画は、2年目で収益目標を達成し、計画を上方修正しました。

来島 国内需要増のほか、インバウンド(外国人旅行客)の伸びが大きく、鉄道業を中心に収益が伸びました。財務指標のみならず、安全面や事業創造の目標達成に向けて、着実に進めていきます。

 

── 次の経営計画の方向性は。

来島 当社は発足から30年がたちます。この先の30年を意識して、グループ全体が向かえるような、ありたい姿を明確にしたうえで、一定の期間の数値目標や事業戦略として組み立てたい。人口減や高齢化、過疎化がいっそう進み、厳しい環境ではありますが、成長の可能性は持っていると思っています。

 

── 鉄道とは別の事業も拡大しています。

来島 収益基盤を持続的に確たるものとする必要があります。流通、不動産を中心とした生活関連のサービス事業を重視するとともに新たな事業開拓にもチャレンジしています。

 流通では、駅ナカやホーム上の店舗をセブン─イレブンに転換し、売り上げは1・5倍近く伸びました。不動産ではエリア外にも展開して収益を底上げするため、関東で物件を持つ三菱重工業の不動産子会社に70%出資することを決めました。ホテル事業では、既存のホテルブランドとは別に、ハイクラスの宿泊特化型ホテルを大阪・梅田に建設中です。

 16年3月期の連結売り上げは鉄道業とそれ以外の比率が64対36でした。22年度には6対4まで鉄道業以外の比率を高めたいと考えています。

 

── 16年12月にベンチャーキャピタルを立ち上げました。狙いは。

来島 出資そのものが目的ではありません。技術進化が激しくなるなかで、当社の事業に生かせる技術やノウハウを開拓できればと考えています。スピーディーに動いて成果を共有するため新会社を設立しました。

 

── 鉄道以外の比重が増すなか、グループの全体像をどう描きますか。

来島 鉄道を軸にすることは変わりません。流通や不動産、ホテル事業は鉄道と親和性があります。鉄道をコアに連携する業態の集合体です。

 西日本に住む企業グループとして、地域と一緒に生きていきます。当社だけがもうかればいいというものではありません。地域があって、当社があります。西日本エリアが活性化するために、瑞風はじめ当社がお役に立てることがあると思っています。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A JR発足とともに30代がスタートしました。人事部勤労課の副長の立場で労働組合との窓口を3年間務めました。労使関係のルールがないなか試行錯誤でトラブルもありましたが、経験として大きかったと思います。

Q 「私を変えた本」は

A 城山三郎さんの『少しだけ、無理をして生きる』です。自然体では自分の力が伸びない。少しストレッチした目標のもとで常に自分を高めていくという趣旨の章が好きです。

Q 休日の過ごし方

A 最近はジョギングで汗を流しています。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇きじま・たつお

 山口県出身。下関西高校、九州大学法学部卒、1978年国鉄入社。JR西日本広報室長、人事部長等を経て、2016年6月より現職。62歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:運輸、流通、不動産業

本社所在地:大阪市北区

設立:1987年4月

資本金:1000億円

従業員数:4万7456人(連結)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:1兆4513億円

 営業利益:1815億円

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週刊エコノミスト 2017年1月24日号

特集「トランプ襲来!」

 

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特集:トランプ襲来! 2017年1月24日号

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◇トランプ氏の「介入主義」で米製造業の衰退が始まる

吉松崇(経済金融アナリスト)

 

ドナルド・トランプ氏が1月20日の米大統領就任を前に、早くもツイッターなどを駆使して世界を動かしている。

 

米自動車大手、フォード・モーターは、メキシコの新工場建設計画について、トランプ氏から「恥知らず」「高い関税をかける」などと再三批判され、1月3日、ついに計画撤回を発表した。トランプ氏はこれに「感謝する」と応じたのもつかの間、今度はゼネラル・モーターズ(GM)に対して同日、「メキシコで生産した小型車を関税なしで米国に送っている。米国で生産しろ。さもなければ高い関税を払え」と脅した。

 

 矛先は日本にも向いた。

 

トヨタ自動車に対して5日、メキシコで建設予定の「カローラ」の新工場について、「ありえない! 米国に工場を造れ。さもなければ高い関税を払え」とツイートした。

 

11日には選挙後初の記者会見で「多くの企業が米国に戻ってくる」と述べ、自らの行動を自画自賛して見せた。どうやら、民間企業へのこうした政治的介入がトランプ政権の特徴となりそうだ。果たしてトランプ氏の経済政策は米国と世界に何をもたらすのか。

 

 昨年11月8日のトランプ氏勝利以来、ドル高と株高、そして米長期金利の上昇が続いている。ドル・円レートは、11月8日の1ドル=105円から1月10日の116円へと約10%上昇し、ユーロに対して約5%上昇した。米国債10年物の利回りは、およそ1・9%から2・4%へと0・5%も上昇した。ドル高は、この長期金利の上昇がもたらしたものだ。

 

 株価もトランプ氏の経済政策に期待して大きく上昇している。ニューヨーク・ダウ工業株30種平均は1万8332ドルから、1月10日には1万9855ドルと2万ドルに迫っている。S&P500株価指数も2140ポイントから2269ポイントへと約6%上昇した。

 

このような株高、米ドル高はこれからも続くのだろうか?

 

残念ながらそう長くは続かないだろう。確かに減税の短期的な景気刺激効果は大きいと思われるが、いずれ冒頭の政治介入に象徴される「トランプノミクス」の負の側面が顕在化して、米国経済は困難に見舞われるだろう。

 

◇財政赤字の拡大

 

 いまのところ「トランプノミクス」の政策パッケージは、およそ以下のように整理できるだろう。

 

  1. 個人所得税と法人税の大幅な減税
  2. インフラへの投資
  3. 保護主義的な貿易政策(北米自由貿易協定〈NAFTA〉の見直し、環太平洋パートナーシップ協定〈TPP〉からの離脱、中国の対米輸出と為替政策へのけん制)
  4. 国内雇用の確保
  5. 規制緩和
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 これらのうち(1)の減税と(2)の投資は米国の財政収支に大きな影響を及ぼす。

 

トランプ氏の減税案を要約すると、(1)法人税率の35%から15%への引き下げ、(2)個人所得税の最高税率を39・6%から33%に引き下げ、現在7段階ある所得税の累進構造を12%、25%、33%の3段階に簡素化、(3)キャピタルゲイン(株式の売買益など)と配当課税の減税延長、(4)相続税の廃止、(5)これらにより10年間で総額6兆ドル(約700兆円)の減税、ということになる。

 

 年平均6000億ドル(約70兆円)減税が行われるとすると、これは米国の2016年の国内総生産(GDP)約18・5兆ドルの実に3・2%に相当する。同じく16年の連邦政府財政赤字はGDPの約4%、7500億ドルである。この減税規模がいかに大きいかが分かる。減税による景気拡大に伴う自然増収を勘案しても、連邦政府の財政赤字が拡大することは間違いない。

 

 議会の共和党には財政均衡論者が多い。このため大減税の成立を疑問視する声もあるが、減税で景気が上向けば2年後の中間選挙で有利になる。全てではないにしても、相当な規模の減税が成立すると考えるのが妥当だろう。仮に減税規模が年平均4000億ドルだとしても、その50%が消費に回れば、GDPを1%強押し上げる。今年の実質GDP成長率1・6%が、17年にはこれだけで2・6%になる。

 

 だが、インフラ投資のほうは、恐らく期待されるほどの効果をもたらさない。トランプ氏が言及している投資規模は5000億から1兆ドルというとてつもない規模だが、問題は、トランプ氏がこれを財政出動による公共投資ではなく、官民パートナーシップに対し税制優遇を与えることで民間資金を呼び込む、としている点だ。空港や有料道路のようなキャッシュフローのあるプロジェクトなら、この方式で資金調達が可能かもしれないが、米国が最も必要としている一般道路や橋の修復のようなキャッシュフローのないプロジェクトに民間資金を導入するのは困難だろう。

 

 とはいえ、トランプ減税で経済成長率が底上げされ、財政赤字が大幅に増えることは間違いない。長期金利の上昇とドル高はこのような見通しに対する金融市場の正常な反応である。

 

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◇ドル安で貿易収支改善しない

 

 一方で、トランプ氏はNAFTAのような自由貿易協定が米国人の雇用を奪い、中国は為替を不公正に操作して、人民元安に誘導し、貿易で不正な利益を得ていると非難する。

 

だが、現在の中国の為替操作は、実は元買い・ドル売りという自国通貨高政策であり、トランプ氏の非難は全くの的外れだ。ただし、トランプ氏は貿易を2国間のゲームのように考えているようなので、ドル高が続くようだと、これをけん制する可能性はある。

 

 しかし、そもそも貿易問題や為替問題を2国間のゲームで勝った、負けたと考えるのが間違いである。

 

米国は貿易収支・経常収支の赤字国である。その米国で財政収支の赤字幅が拡大すると、貿易赤字・経常収支赤字も必然的に拡大する。なぜなら、財政赤字の拡大が総需要を増加させるからだ。4000億ドル減税の50%が消費に回るとGDPを1%増加させる、と指摘したが、この消費増が輸入増をもたらすことは明らかだ。

 

 1985年のプラザ合意の後で、米ドルはおよそ50%減価したが、それでも貿易赤字は減少しなかった。財政赤字がもたらす総需要の増加が貿易赤字を生むのであり、為替レートを操作しても、貿易赤字は減少しない。

 

 トランプ氏はこのメカニズムを理解していないだろう。したがって、極めて理不尽な貿易政策や為替介入が行われる可能性がある。輸入品に関税をかける、輸入量を制限する、あるいは為替介入によるドル安というような手段を取っても、輸入物価が上昇するだけで貿易赤字は減少しない。米国の消費者の損失に終わるだけである。

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◇政治介入が厄災を招く

 

 トランプ氏は、米国の製造業が海外移転したため米国人の雇用が奪われたと主張する。既に、彼は「米国人の雇用を回復する」ために行動を起こした。

 

 12月1日、トランプ氏は、エアコン製造大手のキャリア社と、インディアナ州の工場閉鎖とメキシコへの工場移転の中止で合意した、と発表した。これにより、同州で1100人の雇用が維持され、一方、キャリアは見返りに、インディアナ州から親会社ユナイテッド・テクノロジーズを通じて10年間にわたり、700万ドルの税の優遇を受けるという。

 

 トランプ氏は、この発表と同時に「今後、米企業は、影響を受けずに米国から離れることはないだろう」と述べたが、これは政治介入で米企業の資本移動の自由を奪うという「介入主義」である。

 

こうした事態を受けて、フォードも1月3日、メキシコに建設を予定していた新工場を断念して、ミシガン州に工場を作り、700人を新たに雇用する、と発表した。こちらも州政府から補助金を受けるようだ。

 

 ここには二つの問題がある。

 

第一に、米国人の雇用を奪っているのはメキシコ人ではない。

 

第二に、このような「介入主義」は、米国の製造業の競争力を大きく傷つける。

 

 米国の製造業雇用は90年末の1739万人から、15年末の1232万人へと500万人減少している。一方で、製造業生産指数(09年を100とする指数)は、90年末=75、15年末=129であり、この間、製造業の実質生産高は実に1・7倍に増えている(製造業の雇用と生産指数のデータはセントルイス連銀)。

 

 ちなみに、15年の米国の製造業の総産出高は6兆2000億ドルで、これは日本・ドイツ・韓国の製造業の総産出高の合計よりも大きい。製造業が生んだ付加価値額は2兆1700億ドルで、GDPの12%を占める。これは、州・連邦政府(13%)、不動産(13%)に次ぐ規模であり、金融保険業(7%)よりはるかに大きい(データは米商務省)。

 

 米国の製造業が外国との競争で衰退しているというのは、全くの誤解である。ただ、製造業雇用が減少しているだけである。

 

 米国の製造業は、過去25年のあいだに、労働生産性を著しく高めている。これが製造業の雇用が減少した主因である。NAFTAで増えたメキシコ製造業の雇用についてはさまざまな推計があるが、せいぜい50万~80万人程度で、これでは500万人の減少を説明できない。アメリカの労働者の雇用を奪っているのはメキシコ人ではなく、主に機械の発達、つまり産業用ロボットやAI(人工知能)である。

 

 世界中の製造業は労働生産性を高めることで競争している。これを無視して、政治介入により無理やり米国製造業の雇用を維持しようとすると何が起きるだろうか? 

 

労働生産性の上昇が止まり、米国の製造業の競争力が低下するだろう。

 

 そればかりではない。キャリアの親会社、ユナイテッド・テクノロジーズがインディアナ州政府から税制優遇を受け、フォードがミシガン州政府から補助金を受けることに見られるように、米国の企業は市場競争から利益を得るのではなく、政府との交渉で利益を得ようとするようになるだろう。政府の介入で市場競争力が落ちるのだから、これは企業としては当然の行動である。

 

 およそ1年前になるが、イタリア人の経済学者でコーポレート・ガバナンスの専門家であるシカゴ大学のルイジ・ジンガレス教授が、トランプ氏のビジネス手法を分析して、「州や市の政治家に選挙資金を提供して、普通には手に入らない不動産を手に入れ、税金の特別措置を受けるという典型的な縁故資本主義(クローニー・キャピタリズム)の手法である」と批判している。これはイタリアでベルルスコーニ元首相が行ったこととうり二つである、とも指摘しているsyu(ルイジ・ジンガレス「トランプというクローニー・キャピタリスト」『ニューヨーク・タイムズ』紙、16年2月23日)。

 

 トランプ大統領の登場で、縁故資本主義が国家レベルで蔓延(まんえん)することになる。米国の製造業が国際競争力を失う。衰退の始まりである。

(吉松崇・経済金融アナリスト)

週刊エコノミスト 2017年1月24日号

特集「トランプ襲来!」

 

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自動運転ベンチャー 上場延期のZMPに試練 出資問題と情報漏えいが痛手

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自動運転開発のベンチャー企業、ZMP(東京都文京区)に異変が起きている。

 

ZMPは2016年12月19日に東証マザーズで新規株式公開(IPO)する予定だったが、同月8日に突如取りやめた。さらに、自動運転タクシーの共同開発を15年5月から進めてきたIT大手のDeNAが17年1月6日、ZMPとの提携解消を発表した。

 

異変の発端は、16年5月に起きた顧客情報流出だ。ZMPの顧客情報を管理する電子メールシステムに不正アクセスがあり、「当社が意図しないメールが(略)お客様に送付される」(ZMP発表資料)ことがあった。被害を受けた顧客情報は9124件。さらに11月11日以降に、この顧客情報の一部がインターネット上に流出した。

 

事態を重く受け止めたZMPは、上場延期を決断。情報漏えい防止体制の見直しなどをした上で、上場に向けた手続きを再開するとしている。

 

ただし、ZMPを取り巻く状況は複雑化している。

 

まず、出資の問題だ。

 

ZMPは14年5月から、半導体世界大手の米インテルの投資部門から出資を受けている。IPO時の有価証券届出書によると、株主構成は、創業者で社長の谷口恒(ひさし)氏(約22・5%)に次ぐ2位の大株主(約14・7%)だ。

 

しかし、複数の関係者によると、インテルは出資条件として株式上場を求めているという。インテルは、「個別の投資案件については答えられない」(日本法人広報担当者)とし、ZMPへの出資は1月12日時点では続いていると説明した。

 

ただ、仮にインテルがZMPへの出資をやめ、ZMPの経営陣が株式を買い取るような事態になった場合、資金繰り問題に発展しかねない。

 

有価証券届出書によると、ZMPの流動資産は、預金が約6・6億円、売掛金が約1・7億円。資本金は約5・4億円である。一方、近年の業績は、売上高が7億円を超えて成長しているものの、赤字も増えている。純損失は15年12月期に約6000万円、16年12月期は3四半期までで約2億円に膨らんでいる。

 

 2点目の問題は、情報漏えいを防ぐ体制作りに時間がかかりそうな点だ。

 

社員は12年12月期の15人から、15年12月期には57人にまで増えたが、事業の急成長に体制が追いつかず、情報管理が不十分になった可能性は否定できない。「情報漏えいに対して万全な体制になったと証明するのは難しい」(ベンチャーキャピタル関係者)との見方もある。

 

 3点目が技術だ。ZMPは数年前まで、他社との積極的な協業体制などに優位性があったが、今では「大企業も自動運転技術の力をつけ、ZMPを含めベンチャー企業と組むメリットが薄れつつある」(自動運転に詳しいジャーナリスト)。

 

 さらに、16年3月、取締役で技術開発部長だった三原寛司氏が退社(現在はLIXIL)。ZMPは技術部門の中心人物を失った。

 

“期待のベンチャー”ZMPに試練が訪れている。

(谷口健・編集部)

*『週刊エコノミスト』2017年1月24日号「FLASH!」掲載


目次:2017年1月24日号

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トランプ襲来!

第1部 経済政策の落とし穴

20 トランプ氏の「介入主義」で米製造業の衰退が始まる ■吉松 崇

23 就任100日の政権運営 ハネムーン期間に大きな試練 ■城田 修司

25 新政権の顔ぶれ 退役軍人・ウォール街を重用 ■足立 正彦

28 トランプ氏はこんな人!■井上 暉堂 ■堀古 英司 ■岡本 三成

30 FRBとの対立 「批判」から「称賛」に転向も ■黒瀬 浩一

32 注目のトランプ銘柄 日米30社 日本株 ■窪田 真之 米国株 ■村山 誠

35 積極財政の罠 景気がオーバーヒートする ■白川 浩道

36 米中「新プラザ合意」 元安より外準減少を懸念 ■村田 雅志

37 NAFTA再交渉 迫られるサプライチェーン見直し ■羽生田 慶介

第2部 トランプ政権で変わる世界、揺らぐ社会

77 理念なき場当たり外交 反中・親露は日本に有利 ■渡部 恒雄

79 「2国間取引」で成長狙う 対日強硬派には注意■ポール・ゴールドスタイン

80 在日米軍の撤退 「ただ乗り」は筋違い ■桜井 宏之

82 パリ協定から離脱 他の国際協力体制にも影響■大澤 秀一/内野 逸勢

84 オバマケアの行方 廃止論者を担当閣僚に ■大西 睦子

86 民主主義の限界 ポピュリズムは現代の“妖怪” ■片山 杜秀

88 2大政党の変貌 労働者の党になった共和党 ■会田 弘継

89 メディア不信 「脱真実」を求める米国民 ■北丸 雄二

90 直訳では分からない! トランプ・ツイッターの読解法 ■小西 丹

 

Flash!

13 自動運転ベンチャーZMPに試練天皇陛下退位で特別法提案へ/イラン・ラフサンジャニ師死去/米家電見本市の陰の主役はアウディ

17 ひと&こと 「日揮の顔」退任/原子力規制庁長官人事に批判/米との貿易摩擦を楽観する中国

 

エコノミストリポート

92 カストロ後のキューバ 米との国交回復に潜む懸念 ■文・工藤 律子/写真・篠田 有史

 

38 日銀 「我々は皆リフレ派である」 ■原田 泰

41 教育 大学、学習塾がオンライン授業 ■志村 一隆

44 医療 ブタからヒトへ「異種移植」解禁 ■渡辺 勉

74 政策効果 米国で始まった「厳密な事業仕分け」 ■伊藤 公一朗

消費税の表示方法が購買行動を変化させる

 

Interview

4 2017年の経営者 来島 達夫 西日本旅客鉄道社長

50 問答有用 山本 典正 平和酒造代表取締役専務

「日本酒の“飲まず嫌い”を減らしたい」

 

World Watch

64 ワシントンDC トランプ氏キーワードは「取引」「予測不可能性」 ■三輪 裕範

65 中国視窓 濃霧、スモッグが深刻 ■北村 豊

66 N.Y./カリフォルニア/スウェーデン

67 韓国/インド/マレーシア

68 広州/メキシコ/ナイジェリア

69 論壇・論調  悲観と楽観のトランプ新時代 ■岩田 太郎

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

19 グローバルマネー トランプノミクスが牙をむき始めた

46 名門高校の校風と人脈(225) 開成高校(東京都) (下) ■猪熊 建夫

48 海外企業を買う(124) セールスフォース・ドットコム ■永井 知美

54 学者に聞け! 視点争点 規制で積み上がる日銀当座預金 ■長田 健

56 言言語語

70 アディオスジャパン(36) ■真山 仁

72 東奔政走 衆院選のカギ握る公明、共産 ■人羅 格

95 商社の深層(53) 17年は非資源投資に意欲 ■編集部

102 景気観測 住宅投資は緩やかに減少していく ■上野 泰也

104 ネットメディアの視点 偽ニュースとハッキングの手口 ■土屋 直也

108 アートな時間 映画 [僕と世界の方程式]

109        舞台 [門出二人桃太郎]

110 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ single supervisory mechanism ”

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

98 インド株/為替/穀物/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『大統領を操るバンカーたち』

『失われたもの』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■孫崎 享

62 歴史書の棚/出版業界事情

 

57 次号予告/編集後記

週刊エコノミスト 2017年1月24日号

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特別定価:670円(税込み)

発売日:2017年1月16日

週刊エコノミスト2017年1月24日号

 

トランプ襲来!

 

「介入主義」で米製造業の衰退が始まる

吉松崇(経済金融アナリスト)

ドナルド・トランプ氏が1月20日の米大統領就任を前に、早くもツイッターなどを駆使して世界を動かしている。

 米自動車大手、フォード・モーターは、メキシコの新工場建設計画について、トランプ氏から「恥知らず」「高い関税をかける」などと再三批判され、1月3日、ついに計画撤回を発表した。トランプ氏はこれに「感謝する」と応じたのもつかの間、今度はゼネラル・モーターズ(GM)に対して同日、「メキシコで生産した小型車を関税なしで米国に送っている。米国で生産しろ。さもなければ高い関税を払え」と脅した。

 矛先は日本にも向いた。

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目次:2017年1月31日号

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徴税強化2017

20 国税「国際戦略プラン」の本気 海外資産、富裕層がターゲット ■桐山 友一

24 元・国税調査官が明かす 海外取引に存在した「限界」 ■根本 和彦

25 逃げる富裕層 香港、シンガポールへ続々 ■奥村 眞吾

26 CRSの脅威! 国際的な口座情報の交換開始 ■田邊 政行/高鳥 拓也

28 保険金への課税 解約返戻金の課税漏れを捕捉 ■遠藤 純一

30 タワマン節税 高層階ほど増税へ見直し 相続前後の売買には要注意 ■村岡 清樹

32 非上場株式 相続税の評価額アップも ■村田 顕吉朗

33 地主も負担増? 「広大地」の評価も見直し ■高山 弥生

35 給与所得控除 高所得者は上限引き下げ 配偶者控除も受けられず ■高山 弥生

36 相続後すぐに引き出せない?! 預貯金は遺産分割の対象に ■大神 深雪

37 節税目的の養子縁組 有効かどうか近く判決

38 ルポ 相続税対策の落とし穴 サブリース 家賃減額でトラブル急増 ■稲留 正英

41 もう逃れられない! マイナンバーで預貯金口座、海外財産も ■板村 和俊

 

42 フィンテック AIが好パフォーマンスを発揮 ヘッジファンドに地殻変動 ■櫻井 豊

74 ロケット 進むロケット「再利用」と「小型化」 加速する宇宙輸送コスト低減競争 ■編集部

77      民間資本で月面を探査 チーム「ハクト」の挑戦 ■花谷 美枝

 

Flash!

13 東芝「半導体分社化・解体」の絶体絶命/英国EU離脱の前途多難/経団連春闘指針「4年連続賃上げ方針でもベアは慎重」/企業の休廃業・解散が過去最多

17 ひと&こと 『住友銀行秘史』の國重氏「社長」辞任/「一休」買収のヤフーに提携先が警戒/千代化社長が病気で休養

 

Interview

6 2017年の経営者 八郷 隆弘 ホンダ社長

68 問答有用 遊川 和彦 脚本家・映画監督

 「本気で芝居をする気のない人を出さないでほしい」

 

エコノミストリポート

78 特殊な米地方債 プエルトリコの財政破綻後の行方 米国内外の投資家が注目する理由 ■江夏 あかね

 

財政が物価水準を決める シムズ論を読み解く

81 トランプノミクスにも影響 財政金融の一体運営で物価水準を動かす ■永濱 利廣

84 インタビュー 岩村 充 早稲田大学大学院教授 「財政と物価の理論」とは 「インフレは財政拡張だけでは生じない」

87        アデア・ターナー 元英金融サービス機構〈FSA〉長官 「日本はヘリマネで物価2%は可能」

 

World Watch

60 ワシントンDC 駐日大使ハガティ氏 政治のプロで親日家 ■会川 晴之

61 中国視窓 党大会控え安定重視 金融政策より積極財政 ■細川 美穂子

62 N.Y./シリコンバレー/英国

63 オーストラリア/インド/シンガポール

64 上海/ロシア/サウジアラビア

65 論壇・論調 トランプ・蔡電話協議が火に油 中国と台湾外交戦が再び勃発 ■坂東 賢治

 

Viewpoint

5 闘論席 ■池谷 裕二

19 グローバルマネー トランプ政権誕生で変化する中露関係

44 名門高校の校風と人脈 (226) 芝高校(東京都) ■猪熊 建夫

46 海外企業を買う (125) アルトリア・グループ ■小田切 尚登

48 アディオスジャパン (37) ■真山 仁

50 学者に聞け! 視点争点 リスクに直面する日本財政の利払費 ■釣 雅雄

52 言言語語

66 東奔政走 トランプ氏でも同盟の根幹は不変? それでも残る「応分の負担」への懸念 ■佐藤 千矢子

72 福島後の未来をつくる (43) 世界の電力投資の7割が再生エネ 環境金融が旧態の化石燃料を駆逐 ■今西 章

94 景気観測 国内景気はトランプ無関係に復調 生産が活発化、在庫調整も進む ■南 武志

96 ネットメディアの視点 ゴールデンシャワーは偽ニュース? 優先は裏取りか、大衆の興味か ■山田 厚史

97 商社の深層 (54) 金融支援拡充のJOGMEC法 商社救済の色合い濃厚 ■種市 房子

98 アートな時間 映画 [島々清しゃ]

99        クラシック [マーク・パドモア&ティル・フェルナー シューベルト 冬の旅]

100 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ inflation compensation ”

 

Market

88 向こう2週間の材料/今週のポイント

89 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット

90 欧州株/為替/原油/長期金利

91 マーケット指標

92 経済データ

 

書評

54 『「ココロ」の経済学』

 『デジタルグリッド』

56 話題の本/週間ランキング

57 読書日記 ■ミムラ 

58 歴史書の棚/海外出版事情 中国

 

53 次号予告/編集後記

経営者:編集長インタビュー 八郷隆弘 ホンダ社長

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◇世界6極体制を進化させる

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 中国事業が好調です。

八郷 中国企業との合弁会社2社のラインアップを見直した成果が出ています。

 

従来は、グローバルモデルの車種を2社に割り振って販売していました。例えば、「アコード」は広汽ホンダ、「シビック」は東風ホンダが販売していましたが、私が中国生産統括責任者になった時、同じプラットフォーム(クルマの基本構成部分)で二つの車種を作り分け、効率よくラインアップを構成しようと改革を進めてきました。

 

広汽ホンダが日本で人気の小型SUV(スポーツタイプ多目的車)の「ヴェゼル」を販売し、東風ホンダもデザインを少し変えた「XR─V」を販売して人気を得ています。共有部品をまとめて買うことで生産コストを下げ、安定的に120万台を生産できる体制ができてきました。

 

 中国事業の好調は過去の教訓が生きている。2000年代、世界販売は米国頼みで「一本足打法に近かった」(八郷社長)。12年秋、販売の倍増を目指し、世界6極(日本、中国、アジア大洋州、北米、南米、欧州)で開発・生産・販売を一貫して行う「グローバル6極体制」を打ち出した。だが、各拠点の開発現場の負担が増えた結果、人気車種「フィット」のリコール問題も起きた。そこで、グローバル車の開発を強化、それを軸に地域モデルを派生させる改革を行う。その成果が世界各地でヒットした新型シビックだ。

 

── ようやく6極体制がうまく回り始めているように見えます。

八郷 地域専用車とグローバル車へのテコ入れが実を結びつつあります。6極体制の強化の結果、地域専用車は、中国ではSUV、北米ではライトトラック、日本では軽自動車と、地域の需要に合ったクルマが作れるようになりました。

 一方、グローバル車はプラットフォームやデザインを一新しました。特にシビックは前のモデルの評判がよくなかったため、世界展開できるようモデルチェンジを早めました。

 

── 今後の世界戦略は。

八郷 地域専用車を強化すると、グローバル車の派生モデルが増えるため部品数が多くなります。地域専用車の間で共有する部分を増やすなど効率化を進めます。また、グローバルの生産能力555万台に対し販売が498万台とギャップがあります。これを縮小するため、生産に余剰感がある日本と英国から米国への輸出を増やすなど、6極で連携を強化しています。これが奏功して、米国の販売は堅調です。

 ただ、16年は英国の欧州連合(EU)離脱問題や米大統領選でのトランプ氏勝利などもあり不透明感が高まっています。環境の変化を見極めて効率向上を図っていきたいです。

 

── 16年度の業績見通しは。

八郷 下期は想定為替レートを1ドル=100円にしています。新興国通貨の影響でマイナスの部分もありますが、ドル・円だけで見れば1円円安になると営業利益は年間120億円改善します。業績は上振れを見込んでいます。

 

 ◇グーグルと自動運転で提携

 

── 環境規制や自動運転という大きな変革の波にどう対応しますか。

八郷 ホンダは「二つのゼロ」を目標に掲げています。すなわち、地球環境にやさしいゼロエミッション(排ガスを全く出さない)車、交通事故ゼロを実現する自動運転です。

 ゼロエミッション車は、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの手法がありますが、電動化の方向を見据えて開発を進めます。

 

 一方、自動運転は、まず渋滞時や夜間の走行でドライバーの負担を軽減する運転支援から始めます。

 その先の完全自動運転は、人工知能(AI)が重要になります。AIのハードではなく、クルマをどう制御するかといったソフトの部分は、自動車メーカーとしての経験が生きるので内製化する価値があります。このためソフトエンジニアの教育にも力を入れていきます。

 

── 他社との提携やM&A(合併・買収)は。

八郷 ウィンウィンの関係が築けるなら前向きに考えたいです。これまでも技術の進展に応じて電子制御やバッテリーで優れた技術を持つ企業と提携してきました。今後はAIなど自動運転に必要な技術を持つサプライヤーと付き合っていかなければなりません。16年12月にはグーグルの子会社で自動運転開発を専門とする「Waymo(ウェイモ)」と提携しました。自動車業界は課題が多いので、必要であれば他のメーカーとの協業も考えます。

 

── 自動車以外の分野は。

八郷 15年に事業化した自家用飛行機「ホンダジェット」は長い目で大事に育てていきたいです。また、ロボット事業は、歩行補助の医療用ロボの取り組みを拡大させます。

 F1レースは、16年度の成績は苦戦したものの、着実に前進しています。勝たなくてはやる意味がないので、17年度は表彰台に立てるレベルに持っていきたいです。

 

── 大企業であるホンダを、今後どう指揮していきますか。

八郷 ホンダはモビリティーの楽しさを知る現場の人間を中心にモノづくりをしてきた会社です。人々の生活に役立つと同時に、操る喜びがあるクルマを実現するという思いを社員が共有することが大切です。

 自動運転を極めてもホンダらしいクルマができるとは思いません。クルマ離れが進む中、クルマの楽しみをどう作り上げるか、若い社員に考えさせたいです。

(構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 本田技術研究所で2代目CR―Vや米国向けオデッセイの開発に当たっていました。開発が楽しくて仕方ありませんでした。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『孫子に経営を読む』(伊丹敬之著)は経営の勉強になるので、今も読み返しています。

 

Q 休日の過ごし方

A 気分転換のためにクルマやバイクでドライブに出かけます。

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 ■人物略歴

 ◇はちごう・たかひろ

 1959年生まれ。神奈川県立相模原高校、武蔵工業大学(現東京都市大学)卒業後、82年ホンダ入社。中国生産統括責任者、常務執行役員、専務執行役員などを経て、2015年6月社長就任。57歳。

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事業内容:四輪車、二輪車の生産・販売、金融サービス事業

本社所在地:東京都港区

設立:1948年9月

資本金:860億円(2016年3月末現在)

従業員数:連結20万8399人、単体2万2399人(16年3月末現在)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:14兆6011億円

 営業利益:5033億円

 

 

週刊エコノミスト 2017年1月31日号

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定価:620円

発売日:2017年1月23日

週刊エコノミスト2017年1月31日号

徴税強化2017

 

◇国税「国際戦略プラン」の本気

◇海外資産、富裕層がターゲット

 

国税が富裕層の資産・所得の捕捉を強化している。特に最近、力を入れているのが、海外での資産・所得隠しの把握だ。

 

関東に住む60代の男性のもとに昨年12月、税務署から書類が届いた。封を開けると、「国外送金等に関するお尋ね」と記された文書。「税務署では、国外で得た所得があるか等を確認するために、国外送金等を行っている方にその送金の内容をお尋ねさせていただいております」──。全文を読む


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