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ヘッジファンドに地殻変動 AIが好パフォーマンスを発揮

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櫻井豊・RPテック取締役

 

金融市場は今、急激な変化を遂げつつある。

 

20世紀末までの金融市場は、極めて人間臭い場所であった。株式の取引所では、「場立ち」とよばれる人間のフロアブローカーが野球のブロックサインのような手サインで取引の仲介をしていたのだ。

 

そして、ヘッジファンド業界では、ジョージ・ソロスやジュリアン・ロバートソンのような大物ファンドマネジャーが、大量のポンド売りなどの戦略を、見世物のように世間に誇示しながら巨額の収益を手にしたものである。

 

 しかしながら、大物マネジャーが闊歩(かっぽ)した古き(良き?)時代は過ぎ去り、最近のヘッジファンド業界は、かつて経験したことがないような逆風と地殻変動が起きている。

 

最近のヘッジファンドの運用成績は世界経済の動向の読みにくさなどで散々なものだった。代表的なヘッジファンド指数であるヘッジファンドリサーチ社の総合指数のリターンは、2015年にはマイナスを記録し、16年11月末までの過去3年間の平均でも2・5%にも満たない程度である。高い手数料に嫌気が差した投資家は、かつての名門ファンドであろうと容赦はなく、次々に資金を引き揚げ、多くのファンドは手数料の引き下げ圧力に直面している。

 

 一方で、業界全体の苦境を尻目に、最新のAI(人工知能)技術などをうまく取り入れることに成功した一部のヘッジファンドは極めて好調である。

 

例えば、米ツーシグマというAI技術などを駆使した多様な分析をすることが売りのファンドは、主力ファンドの過去の約3年間の平均として年率20%前後のリターンをたたき出した。その結果、運用を依頼する資金が殺到している。01年に設立されたファンドであるが、すでに運用資産が4兆円を超えるほどの急成長を遂げ、現在では新規の資金流入を断っている状態とされる。

 

 また、1980年代から数理的なアプローチによって大成功してきた米ルネッサンス・テクノロジーズという伝説的なファンドも、早くからAIに注目し研究を重ねてきた結果、近年も素晴らしいパフォーマンスを続けている。

 

 ◇経験と勘を凌駕

 

 ツーシグマやルネッサンスの好調さの秘密は、人間の経験と勘にとらわれない数理・統計的なアプローチである。二つのファンドの創業者やトップは共通して国際数学オリンピックでメダルを取得したこともあるような数学や統計の専門家や、コンピューターの専門家ばかりだ。このように、トレーダーの経験と勘の代わりに数理・統計的な分析やコンピューター技術で稼ぐタイプのファンドはクオンツ・ファンドと呼ばれる。ルネッサンスは代表的なクオンツ・ファンドの一つであり、ツーシグマは21世紀の成長株である。 

 

 ツーシグマの主要な運用対象は米国株式市場であり、その特徴はAIを使ったビッグデータ分析である。分析するデータは株価の過去データ以外に、ニュース、財務指標などの公表データ、さらにツイッターなどに及ぶ。ツーシグマは、こうした情報を基に多数の運用モデルを同時に走らせているようだ。 具体的には、株価の動きに関する伝統的なテクニカル分析をするモデル、人間の株式アナリストのように財務指標などの分析から投資銘柄を探り出すようなモデルまであるという。こうした、たくさんのモデルはそれぞれが株価の動きの予想をする。

 

ツーシグマはさらに別のアルゴリズム(問題を解くための手法・計算法) を使って、各モデルの過去のパフォーマンスを考慮したウエート付けをして、取引戦略をまとめる。そして、最終的にはリスク管理のソフトが、ポートフォリオ(運用資産全体) に与えるリスクをチェックして最終的な取引の意思決定を下すそうだ。つまり洗練された多様なAI技術が高いパフォーマンスに直結しているのである。

 

 このような運用スタイルによる運用成績の明暗に、従来型のヘッジファンドもロボット運用、つまりAIなどを駆使したコンピューター・アルゴリズムによって投資判断を決める手法に方向転換を試みている。

 

例えば、大量の空売り戦略などで20世紀のヘッジファンド業界を席巻した一人であるポール・チューダー・ジョーンズという伝説的な投資家は、つい最近、自身の経験や勘に基づく投資スタイルを捨てて、人工知能の専門家などを雇い入れて、機械学習によるビッグデータ分析などを利用した新しい取引スタイルを模索しはじめたと報道された。

 

 ジョーンズのようなかつての大物投資家がさびついた経験と勘に頼るのを諦めたのは、21世紀に入ってからの機械学習、そして近年の深層学習のブームによって、投資の世界以外でも広くAI技術に大きな注目が集まっているからだろう。筆者は、16年3月に米グーグル子会社のディープマインドが開発したアルファ碁が韓国の囲碁のトップ・プロであるイ・セドルに圧勝した出来事に大変な衝撃を受けた。衝撃の原因は、トップ・プロに勝ったという事実そのものではなく、アルファ碁の仕組みを説明したリポートを読んで、深層学習のアプローチが持つ底知れぬ可能性を感じたからである。

 

 ◇人材の争奪戦に

 

 AIのポテンシャルについて過去に何度か訪れたブーム時を凌駕(りょうが)するほどの期待が高まった昨今、世界有数の金持ちが経営者であるようなヘッジファンドが、金に糸目を付けずに優秀なAI技術者を引き抜こうとすることは至極当然のことである。

 

こうした動きの先鞭(せんべん)をつけたのが、世界最大のヘッジファンドのブリッジウォーターが11年にIBMのワトソン開発を主導した技術者デービッド・フェルッチを引き抜いた出来事だ。その後、ヘッジファンド業界は、グーグル、IBM、アップルなど既存のAI技術の巨人から、次々に有力な技術者の引き抜きを行っている。有力ヘッジファンドが支払う報酬は、グーグルやアップルなどとは比較にならないため、世界最高の技術者が引き寄せられるのである。

 

 ただし、AIを使った高度な運用技術を実現するには、札束だけでは十分でない。資産運用にAIを生かすためには、トップがマーケットとAIの両方のノウハウを高度に融合させる特別な才能を持つと共に、エンジニアリング的な能力と努力の、不断の積み重ねが必要だ。誰が利用しても同じような成果を得られるような話では全くないからだ。つまり、ツーシグマのような成功を、札束によって技術者をスカウトするだけで導くのは無理なのだ。その意味では、ジョーンズのような古いタイプの投資家が最近になって伝統的な投資スタイルからAIを活用したロボ運用に転換したような付け焼き刃の対応ではうまくいく見込みは低い。

 

 残念ながら、日本の金融界は世界の資産運用界の最前線から大きな後れをとっている。一つの理由は、ニューヨークやロンドン周辺の先進的なヘッジファンドや、ブラックロックのようなグローバルな巨大資産運用会社が育たなかったという事情がある。現在、最高のAI技術者を獲得し活用できるのは彼らであり、東京はこの分野では辺境の地である。

 

 実は、日本の金融機関も80~90年代、それなりにアルゴリズム取引にチャレンジしたのだが、満足な成果を出せなかったという失敗体験がある。それによって、ロボ運用に否定的な見方が定着し、長年新しい試みがほとんどなされてこなかった。最近になってロボ運用は再び注目を集めているが、残念ながら、日本の金融界の試みの大多数は、ロボ運用というアドバルーンを上げるのが目的で、本気でパフォーマンスを向上させるための知識も意欲も欠けているよう見受けられる。

(櫻井豊・RPテック取締役)

◇ロボ運用を駆使した主なファンド

 

ツーシグマ(米)Two Sigma

AIを駆使して急成長を続ける注目のヘッジファンド。機械学習などさまざまな手法で市場のサインを読み取り、さらにAIが最終的な意思決定をしてリスク管理もする。

 

ルネッサンス・テクノロジーズ(米)Renaissance Technologies

クオンツ・ファンドの老舗かつ代表的存在で突出したパフォーマンスを記録してきた。現在、トップレベルのAI研究者を集めているとされる。

 

アイデア(香港)Aidyia

著名な人工知能学者ベン・ゲーツェルがチーフ・サイエンティストを務めるヘッジファンド。AIを活用した運用を前面に押し出し、人間のトレーダーは全く関与していない完全AI化したファンドまである。

 

リベリオン・リサーチ(米)Rebellion Research

小さいながらも、AIを活用した長期投資を試みるヘッジファンド。

 

(出所)筆者作成


特集:徴税強化2017 2017年1月31日号

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◇国税「国際戦略プラン」の本気

◇海外資産、富裕層がターゲット

 

国税が富裕層の資産・所得の捕捉を強化している。特に最近、力を入れているのが、海外での資産・所得隠しの把握だ。

 

 関東に住む60代の男性のもとに昨年12月、税務署から書類が届いた。封を開けると、「国外送金等に関するお尋ね」と記された文書。「税務署では、国外で得た所得があるか等を確認するために、国外送金等を行っている方にその送金の内容をお尋ねさせていただいております」──。

 

お尋ねの文書には、男性が11月、米国の金融機関に持つ米ドル建ての口座から日本の口座へ約300万円を送金した記録が示され、その資金の性格や海外の預金先、確定申告書の提出状況、国外での居住期間の有無などの回答欄がある。男性はかつて米国で勤務し、その時の給与などを米国の金融機関の口座に残したまま。自宅のリフォーム費用が必要になり、日本へ送金した取引だった。

 

国税がこうした取引を捕捉できるのは、100万円超の海外からの入金や海外への送金があった場合、国内の銀行に税務署へ「国外送金等調書」の提出を義務付けているからだ。ある税理士は、「ここ最近、国外送金等調書のお尋ねがめっきり増えた。国外送金等調書から日本の納税者が海外に持つ財産を把握しようとしているのだろう」と話す。

 

お尋ねの文書への回答は義務ではない。しかし、回答しなければ税務署から税務調査の対象としてマークされる可能性がぐっと高まる。

 

 ◇低調な「国外財産調書」

 

 日銀の「資金循環統計」によると、家計部門(個人)の海外投資(対外証券投資)は2014年、23・2兆円と過去最高となり、15年も20・0兆円と高水準を保っている。こうした動きと呼応するように、国外送金等調書の提出枚数も増え続けており、国税庁の14事務年度(14年7月~15年6月)で642万6000枚と、過去10年でほぼ倍増した。

 

 国外送金等調書に基づくお尋ねが増えた裏側には、低調な「国外財産調書」の提出件数もありそうだ。不動産や金融資産など海外に5000万円超の財産を持つ人は、14年から税務署へ国外財産調書の提出を義務付けられたが、初年度の13年分は5539件、15年分も8893件にとどまる。別の税理士は「ハワイの金融機関に口座を持つ日本人だけで7万人とも言われる。本来、国外財産調書の提出義務がある人の数に比べ、実際の提出件数はケタが二つ少ないのではないか」とみる。

 

 国外財産調書の導入2年目からは、調書の提出を意図的に怠ったり、虚偽の提出をしたりすれば、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになった。それでも提出件数は低水準で推移しており、国税庁が業を煮やしたことは想像に難くない。国外送金等調書のお尋ねが増えたのは、海外との資金のやり取りから国外財産調書の未提出者をあぶり出そうという狙いがあるとみられる。

 

富裕層に対する税務調査は年々、厳しくなっている。

 

国税庁によれば、富裕層の申告漏れ所得は15事務年度、516億円と統計を取り始めた09事務年度以降で過去最高となった。また、このうち海外投資をしている富裕層の申告漏れ所得も15事務年度、168億円と3年連続で増加を続ける。

 

相続税の税務調査でも海外の資産に絡む調査件数は伸び続けており、あらゆる税目で海外資産の申告漏れがないか目を光らせている実情が浮かび上がる。

 

 ◇「富裕層PT」設置

 

 富裕層への調査が厳しくなったのは、国税側の体制の充実が成果を上げた側面も大きい。

 

国税庁は14年7月から、東京、大阪、名古屋国税局に「重点管理富裕層プロジェクトチーム」(富裕層PT)を設置。国際課税にも精通した「統括国税実査官(国際担当)」を中心に富裕層の情報収集を強化している。

 

気になるのは重点管理富裕層の基準だが、国税庁は「調査に支障が出る」ことなどを理由に明らかにしていない。ただ、保有資産が数億円以上といった形式的な基準だけでなく、国境をまたぐ節税策を取っていることなど実態に応じて重点管理富裕層に指定しているとみられる。国税庁は富裕層PTの取り組みに手応えを感じているようで、今年7月以降は福岡国税局など全国の国税局へ富裕層PTの設置を広げる方針だ。

 

 富裕層などに対する国際課税の強化に取り組んでいた矢先、国税庁に衝撃を与えたのが、昨年4月から公開が始まった「パナマ文書」だった。「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が、パナマの法律事務所から流出した内部文書をもとに、世界各国の著名人や政治家、資産家らがタックスヘイブン(租税回避地)を利用していた実態を明らかにしたが、国税庁内で「公平・公正な課税に対し、国民からの不信感が高まりかねない」との危惧が高まったのだ。

 

 そこで、国税庁は昨年10月、富裕層などに対する国際課税の強化の取り組みや、今後の方針を取りまとめた「国際戦略トータルプラン」を初めて公表。タックスヘイブンに他人名義で設立した法人の実態を把握して課税した事例などもふんだんに盛り込み、富裕層などによる国際的な取引を通じた資産・所得隠しは見逃さないという本気を示した。

 

 ◇どうする? 柳井氏

 

 富裕層への国際課税の網は一段と絞られる。

 

昨年末に閣議決定された政府の2017年度税制改正大綱では、海外移住者の海外資産に対し相続税が非課税となる移住年数を「5年超」から「10年超」に延ばすほか、実体がない海外ペーパーカンパニーの所得に日本の税率を原則適用する「タックスヘイブン対策税制」も強化した。富裕層の相続税対策を手がけるファミリーオフィスコンサルティングの長嶋佳明税理士は「海外の資産管理会社を使った節税手法が封じ込まれる」と話す。

 

 海外に資産管理会社を持つ超富裕層として知られるのは、カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長だろう。ファーストリテイリングは11年10月、筆頭株主の柳井氏が保有する531万株(議決権割合5・2%)をオランダの資産管理会社に譲渡したと発表した。オランダは海外からの投資を呼び込むため、一定の条件を満たせば外国子会社からの配当や株式譲渡益を非課税とする制度などを設けている。

 

 ファーストリテイリングの16年8月期の年間配当は1株当たり350円。保有株数を単純に掛け合わせれば、配当金の総額は年間約18億6000万円となる。長嶋氏は「柳井氏が個人で保有していれば、所得税・住民税の最高税率55%で課税され、約10億円の税が生じていたはず。オランダ法人に譲渡することで、こうした所得税が非課税となっている可能性がある」と指摘する。

 

 現行のタックスヘイブン対策税制では、法人税など租税負担割合20%未満の国にあるペーパーカンパニーは、日本の親会社や個人の所得に合算して日本で課税することになっている。しかし、租税負担割合20%以上の場合は現地で課税されるため、日本では課税できなかった。

 

今回の改正では、オランダのように租税負担割合20%以上の国であっても、事業実体がなくても得られる株式の配当や預金・債券の利子などの所得に対して日本で課税することにし、「オランダを狙い撃ちにした」(長嶋氏)形だ。

 

 富裕層に対して次々と迫る徴税強化。安易な租税回避策などは今後、通用しそうもない。

(桐山友一・編集部)

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「インフレは財政拡張だけでは生じない」財政と物価の理論とは 岩村充・早稲田大学大学院教授インタビュー

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FTPL(Fiscal Theory of the Price Level、物価水準の財政理論)に日本でいち早く着目していたのが、早稲田大学大学院経営管理研究科の岩村充教授だ。FTPLがにわかに脚光を浴びる現状をどう見るか、岩村教授に聞いた。

(聞き手=黒崎亜弓・編集部)

 

── FTPLとは何か。

 

岩村 国の財政の先行きを人々がどう見るかによって、物価水準が上下するという理論だ。根底には、国は、資金調達が自国通貨建てであるならば、倒産しないことがある。そうした国では、財政力が極端に低下しても、倒産の代わりにインフレが起こって実質的な債務負担が低下し、それで済んでしまう。つまり政府債務の時価を物価水準が調整している。

 

 政府の将来税収と支出との関係を、中央銀行を含めたバランスシートのイメージとして図1に示した。

 政府は将来にわたって税金を徴収し、公共サービスの支出に充てながら国債の元利払いを行う。その国債の一部を中央銀行が保有し、中央銀行は国債を見合いにして銀行券を発行している。政府と中央銀行を一体として考えると、将来的な税収と支出の差(財政余剰)が、市中保有の国債と銀行券の信用を支えている。

 財政余剰、すなわち政府の信用が貨幣価値のアンカーであり、貨幣価値を裏返したものが物価だ。

 

 ◇財政への“見方”がカギ

 

── 財政拡張、あるいは財政再建が物価を動かすのか。

 

岩村 物価水準を上下させるのは、財政赤字などの数字の変化ではなく、人々の財政運営への「見方の変化」だ(図2)。

 貨幣価値を支える財政余剰とはあくまでも予想なので、税制や行財政改革といった政府のコミットメントに基づいて人々が考える税収と支出の差であることに注意してほしい。

 

財政再建が進むと人々が見れば差が大きくなり、財政赤字が膨らみ続けると人々が見れば小さくなる。

 

── FTPLに着目した端緒は。

 

岩村 2000年代初めに、なぜ日本がバブル崩壊後にデフレから抜け出せないのかを考えていた。金融政策では物価を支えられない状況にあった。名目金利がゼロまで下がると、貨幣供給量を増やしても、銀行券の金利がゼロであるため、その需要が無限大となって名目金利は下がらなくなるという「流動性の罠(わな)」に陥っていた。こうした状況で、日銀に対し「貨幣供給量を積極的に拡大せよ」と催促する声が強まっていた。

 

 しかし、日銀が国債をどんどん買えば、それだけで物価が上がるのだろうか。中央銀行と政府を一体として見ると、そう簡単にはいかないのではないかと、日ごろから議論を交わしていた渡辺努東京大教授(当時・一橋大教授)に話すと、「それは海外でFTPLと呼ばれ始めた新しい考え方だ」と教えてもらった。そこで、一緒にこの理論で当時の状況を分析し始めた。

 

── 00年代初め、FTPLは海外でどのように扱われていたのか。

 

岩村 私たちが調べた限りでは、財政と物価の関連に最初に着目したのは、米国の経済学者のトーマス・サージェントとニール・ワラスだ。1981年に論文を発表している。

 サージェントたちは、貨幣量さえ決めれば物価が決まるとするマネタリストは、財政の役割を見落としているのではないかと鋭く指摘した。ただ、論文の「Some Unpleasant Monetarist Arithmetic」(マネタリストにとっては少々不愉快な算術・編集部訳)という皮肉なタイトルもあってか、当時は敬遠されたようだ。

 

 FTPLが現実を説明する理論として注目されたきっかけは、97年のアジア通貨危機だろう。貨幣が増発されたわけではなく、物価上昇は将来債務が増大するとの予想から起きたと解釈できた。

 

 ◇金融政策は先送りの手段

 

── FTPLでは物価を決めるのは金融政策ではないということか。

 

岩村 FTPLで財政運営への見方が決めるのは物価そのものでなく、あくまで物価の水準(Level)だ(図2)。その水準に基づき、現在から将来にかけて時間軸のなかで物価を位置づけるのが名目金利だと私たちは考えた。金利の上下により現在地点の物価が動いて、将来に向けた「坂」ができる(図3)。金融政策は名目金利に働きかけて、「坂」を生み出す。

 金融政策で名目金利を上げると、現在と将来を通じて見た物価の水準自体は一定なので、現在の物価には抑制効果が生じるが、反対に将来の物価にはインフレ圧力を生じさせてしまう。要するに金融引き締めはインフレ圧力の先送りというわけだ。

 

 ちなみに、流動性の罠にはまっている日本では、名目金利はゼロ限界に行き着いているので、物価の「坂」を生み出す金融政策は、金利を上げてインフレ圧力を先送りするのには使えても、肝心のデフレ圧力に対しては、もう金利は下げられないのだから先送りの効果すら発揮できないというのが私たちの結論だった。

 

── 金融政策をそのように捉えたのは、なぜか。

 

岩村 FTPLに名目金利の効果を組み合わせるのは、期待インフレ率を通じて名目金利が自然利子率と連動するという「フィッシャー等式」に基づく。

 

「名目金利≒自然利子率+期待インフレ率」というものだ。

 

 米国の経済学者、アーヴィング・フィッシャーは、名目金利は貨幣の現在と将来の交換比率、自然利子率は実質財の現在と将来の交換比率なので、両者の比率は期待インフレ率、すなわち貨幣と実質財との交換比率の現在から将来にかけた変動に一致するはずだと導き出した。

 

 ところが、この等式を単純に読むと、名目金利を下げると物価は下落するというようで、金融緩和でデフレに対応するという私たちの実感と矛盾する。

 

 そこで、物価の「水準」を上下させるのが財政への見方で(図2)、「坂」を動かすのが金融政策(図3)とすると矛盾は解消されるというのが私たちの整理だった。金融政策の役割とは、物価に加わる圧力を、現在から将来にかけて分散させることに過ぎないわけだ。

 

── それはFTPLを基に発展させた独自のモデルなのか。

 

岩村 財政への見方が物価の水準を上下させるというFTPLに、名目金利の効果を組み合わせたのは、私たちの貢献といえば貢献かもしれない。ただ、02年から出した論文はFTPLというだけで際物扱いされて良い反応は得られなかった。私はもっとわかりやすく説明したいと思い、一般書でこの話を書いてきた。

 

 ◇金利を上げてインフレに

 

── そのモデルに基づくと、13年以降の日銀の異次元金融緩和では物価がどう動いたと読み解けるのか。

 

岩村 金融緩和の影響はほとんどなかっただろう。今は流動性の罠に陥っているため、金融政策で現在の金利を下げて将来から物価上昇を前借りしてくることができない。緩やかなインフレ期待を作り出すという狙いは、まるで達成できていない。

 

 異次元緩和が始まった13年4月以降に物価が上がったのは、黒田東彦日銀総裁の就任直前に安倍晋三政権が発足し、財政出動に積極的な姿勢から赤字が拡大するとの見方が強まったことが影響したと考えられる。一種のFTPL効果だっただろう。起こったのは財政への予想が不連続に変化したことによる、物価のジャンプアップ(貨幣価値のスリップダウン)だったのではないか。

 

 物価の「坂」への予想は変化しなかったため、物価の持続的な軟調という意味でのデフレ期待には効果は及ばなかったように見える。

 

── 今、日本でFTPLが注目され始めたのはなぜだと思うか。

 

岩村 近年、米国も流動性の罠にはまり、米国の経済学者たちは米国の状況を分析するなかでFTPLに行き着いたのではないか。米国でFTPLの存在感が増すのを見て、日本でも注目されているように見える。

 

── FTPLに基づき、デフレ脱却のため、財政拡張を金融緩和と併用すべきだという意見があるが、どう見るか。

 

岩村 単に減税や政府支出の拡大で財政拡張したとしても、人々が政府はいずれ増税するはずだと考えてしまえば、財政への見方は変わらず、現在と将来を通じて見た物価の「水準」には影響がない。金融緩和も、流動性の罠のもとでは、物価の「坂」に働きかけることができない。

 

 多くの人は、政府が財政拡張する時には、金融政策は歩調を合わせて緩和すべきだと考える。しかし、緩やかな物価上昇、つまりインフレを取り戻したいのであれば、それに対して私たちのモデルが出している答えは、将来の増税を予想させない財政拡張と、金融引き締め(名目金利の引き上げ)との組み合わせだ(図4)。財政拡張と金融緩和との組み合わせでは、物価のジャンプアップは作り出せても、緩やかなインフレとはならないはずだ。

 ◇“無責任な政府”の難しさ

 

── 「増税を予想させない財政拡張」とは、政府に「無責任になれ」と言っているように聞こえるが。

 

岩村 単に「無責任」というよりは「コントロールされた無責任」とでも言うのだろうか。政府が文字通り「無責任」になったと見なされれば、物価は際限なく上昇してしまう。その先は、いわゆる「ハイパーインフレ」だろう。政府の信用あるいは貨幣価値のアンカーを失ってしまう。

 

 そうならないためには、起こっていることが「際限ない」ものではない、と誰にでも認識されていることが必須条件だ。それは簡単にできることではない。どうすれば貨幣価値のアンカーを失うことなく「無責任さ」をコントロールし、緩やかで持続的なインフレを作り出すことができるのか、その制度的デザインを具体的に示すのが財政拡張を唱える人の責任ではないだろうか。

 

── その「制度的デザイン」には、中央銀行が政府の財源を賄う「ヘリコプターマネー」は含まれるのか。

 

岩村 現状でも日銀が大量の国債を買い入れ、実質的にヘリコプターマネーの状況にある。責任ある状態とは言えないにもかかわらず、管理はなされていない。その意味では「コントロールされていない無責任」とも呼ぶべき状況だ。非常に危うい。

 

 このまま無責任が際限なく進むよりは、言葉の印象は悪いが、「コントロールされた無責任」つまりは「慎重にデザインされたヘリコプターマネー」の方が、ましかもしれない。ただ、そこまでして「緩やかなインフレ」を追求する意味はあるのだろうか。議論が必要だ。

………………………………………………………………………………………………………

 いわむら・みつる 1950年生まれ。東京大学経済学部卒業。74年日本銀行入行。98年より早稲田大学ビジネススクール教授。関連著書・共著に『新しい物価理論』『貨幣の経済学』『貨幣進化論』『中央銀行が終わる日』など。

 

*『週刊エコノミスト』2017年1月31日号「シムズ論を読み解く」掲載

 

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もう逃れられない!マイナンバーで資産捕捉 預貯金口座、海外財産も

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一人ひとりに12ケタの番号を割り振る「マイナンバー」が昨年1月から利用が始まった。個人にかかわる税の分野でも、すでに相続税や贈与税などさまざまな申告書や法定調書(法律で定められた税務署に提出する書類)へのマイナンバーの記載がスタートしている。また、預貯金口座へのマイナンバーの付番もいよいよ2018年をめどに始まる。

 

国税にとってはこれまで、所得の捕捉はできても資産の捕捉は容易ではなかった。マイナンバー導入によって今後、本格的な資産の把握が進むことになる。

 

 相続税や贈与税では昨年1月1日以降に発生した相続や贈与について、申告書にマイナンバーの記載が求められる。また、所得税では今年2~3月に提出する16年分の確定申告書から記載が始まる。証券会社に新規口座を開設する際も、マイナンバーを通知する必要がある。株式の配当や生命保険金を受け取る際にもマイナンバーが必要となり、日常生活のさまざまな場面でマイナンバーを提出することが増えた。

 

 マイナンバー導入の大きな目的の一つが、納税者の正確な所得・資産を把握することだ。国税庁はこうした申告書や法定調書などさまざまな資料を普段から収集し、申告漏れがないか目を光らせているが、マイナンバーの導入によって情報管理の精度やスピードが格段に上昇する。

 

そして、納税者の正確な所得・資産の把握のために必要不可欠なのが、金融機関の預貯金へのマイナンバーの付番だ。

 

 たとえば、1億円の金融資産を持っているにもかかわらず所得がない人は、これまで「低所得者」としてさまざまな給付金を受けられたり社会保険料が減額されたりすることがあった。現在の日本では税や社会保険料、給付金などは所得をベースに計算されているためである。また、相続税の税務調査では、申告漏れの口座がないか金融機関に個別に照会したりもしていた。預貯金口座への付番が進めば、こうした納税者の資産を容易に把握できるようになる。

 

 ◇国外送金でも確認

 

 18年からは銀行に任意でマイナンバーの提供を求められるが、任意でのマイナンバー提出が進まなければ、強制化することも十分に考えうる。

 

 海外の財産もマイナンバー提出の例外ではない。海外に5000万円超の財産を持つ人を対象に14年から始まった「国外財産調書」にもマイナンバーの記載が必要で、相続の発生時などに海外財産の申告漏れがないかのチェックに活用される。金融機関を介して海外に100万円超を送金する場合も、金融機関から税務署へ「国外送金等調書」が提出されるため、金融機関から本人確認の際にマイナンバーを求められる。

 

 また、日本に住み海外の金融機関に口座を持っている日本人、外国人とも、海外の金融機関からマイナンバーを求められることになる。18年以降、CRS(共通報告基準)に基づき税務当局間で非居住者の金融機関口座情報を交換する制度がスタートするが、交換する情報の中にマイナンバーも含まれているためだ。

 

マイナンバーは今後、パスポートや戸籍などへの利用拡大が検討され、不動産登記などへも広げる可能性がある。複雑なスキームを駆使したとしても、海外を含め資産捕捉から逃れることは難しくなる。

(板村和俊・税理士法人エスネットワークス常務理事、税理士)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2017年1月31日号

定価:620円

発売日:2017年1月23日


プエルトリコの財政破綻後の行方 米国内外の投資家が注目する理由

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江夏あかね・野村資本市場研究所主任研究員

 

2015年に財政破綻した米国自治地域(コモンウェルス)「プエルトリコ」の財政再建の行方に、国内外の金融市場から注目が集まっている。

 

人口や経済規模は全米の1%にも満たないにもかかわらず、なぜ注目されるのか。この背景には、米国地方債市場での存在感の高さに加え、プエルトリコ債の特殊な位置付けがある。

 

 ◇誘因は税制優遇廃止

 

 カリブ海北東に位置して、約350万人の人口を抱えるプエルトリコは、米国領土の中で合衆国を構成する州ではないコモンウェルスだ。プエルトリコは、米国の一般の州とは異なる税制を持つ。長らく連邦法人税の優遇措置の恩恵を受けられたため、多くの多国籍企業が進出していた。

 

しかしながら、連邦政府の財政悪化の中で連邦法人税の優遇措置が1996年から10年間にわたって段階的に縮小・廃止されたため、企業の撤退が続き、人口も流出した。さらに、エネルギー価格の高騰なども相まって、製造業を中心としたプエルトリコの産業全体の競争力が相対的に弱まり、経済状況が大きく悪化していった。

 

 このような状況下、プエルトリコ政府の赤字が拡大したうえ、赤字地方債への依存度が高まり、公的債務残高が国内総生産(GDP)の約7割に当たる約700億ドル(約8兆円)にまで膨らんだ。主要格付け会社がプエルトリコの格付けを投機的等級に引き下げた14年2月ごろからは、プエルトリコ政府の資金調達環境が悪化し、保有現金が枯渇していく中で、流動性が逼迫(ひっぱく)し、自力での財政運営が困難な状況に陥った。

 

 プエルトリコ政府は、財政構造改革を進めながら、債務問題解決を目指して法整備に着手した。地方自治体を対象とした再生型破綻法制である米国連邦破産法第9章のような法制度を、プエルトリコの自治体にも適用することを視野に入れた動きだった。

 

 同章を適用申請すると、自治体は事務を継続しながら、財政再建計画を策定して実行する道筋を立てられる。再建計画策定の過程では、裁判所の下で債権者と交渉を進められる。プエルトリコの場合、地方債発行残高が多く、債権者が広範にわたっている。同章が適用されれば、迅速かつ適切な債務再編が可能になるのだ。

 

 しかし、プエルトリコ政府はコモンウェルスという特殊な位置付けにより、傘下の自治体を含めて適用対象外となっている。そこで、同章のような法整備を進めようとしたが、実現には至らなかった。

 

 抜本的な解決策が見つからない中、15年8月には政府関係機関であるプエルトリコ金融公社(PFC)が、期限を迎えた債務がデフォルト(債務不履行)となり、その後も政府関係機関が相次いでデフォルトした。プエルトリコ政府は、16年2月に債務再編案を公表し、債権者との債務再編に関する交渉を進めたものの、合意には至らなかった。

 

 同年4月には「プエルトリコ緊急債務モラトリアム・財政再生法」が制定され、アレハンドロ・ガルシア・パディラ知事(当時)が政府関係機関であるプエルトリコ開発銀行(GDB)の債務履行を一時停止するモラトリアムを宣言。さらに、16年6月には同法の下、プエルトリコの一部の公的債務について17年1月末まで履行を猶予するモラトリアム宣言が行われ、16年7月にはプエルトリコ政府本体もデフォルトした。

 

 米国では通常、連邦政府が地方自治体の財政再建に関わることはない。だが、プエルトリコの極めて深刻な状況を踏まえ、連邦政府は16年6月に「プエルトリコ監視・管理・経済安定化法」(PROMESA)を制定した。

 

 同法には、連邦破産法第9章と同様に連邦政府による財政支援は含まれていないが、債権者からの訴訟の一時停止と監視委員会の創設があるのが特徴だ。同法に基づいて16年9月に発足した監視委は、プエルトリコ政府及び傘下の自治体などの予算及び財政計画を監視する。また、債務再編プロセスを開始したり、債務再編計画を修正する権限を持つ。プエルトリコ政府は、同委員会の監視の下、17年1月末の承認を目指してプエルトリコの経済・財政再生計画の策定を進めている。

 

 プエルトリコ政府が16年12月に策定した経済・財政見通しでは、今後10年間の財政赤字が約675億ドルに上る見込みであることが明らかになった。監視委は、プエルトリコ政府に対して、雇用、福祉、税制、規制、年金等の改革や政府規模の適正化を通じて、長期債務を削減して財政均衡を達成するよう求めている。

 ◇債券への投資家幅広く

 

プエルトリコ債が米国にとどまらず、幅広い投資家から注目を集めるのには特有の事情がある。

 

その一つは、米国地方債市場の中でも残高が大きく、投資家層も広いことだ。

 

米国地方債の年間発行額(15年)は約3984億ドル、発行残高(15年末)は約3・7兆ドルに上る。発行残高は、米国債(同)の3割弱、日本の地方債(同、都道府県及び政令指定都市の民間資金分、約71兆円)の約6倍にも達している。

 

また、米国地方債は、原則として連邦所得税が免税されることなどを背景に個人が約4割を保有している。加えて、確定拠出年金(DC)が浸透していることもあり、投資信託も約3割を保有している。このため、金融市場のみならず米国民による地方債市場への関心も高い。

 

 その地方債市場にあって、プエルトリコ債の残高約999億ドル(16年9月末、長期債・短期債を含む)は、13年7月に財政破綻したミシガン州デトロイト市の地方債残高(債務調整計画上、約68億ドル)の約15倍にも上る。また、米国各州(及びプエルトリコ)の地方債発行残高において、プエルトリコは9番目に大きい。

 

 さらにプエルトリコ債は、発行残高の約2割が金融保証保険会社(モノライン)により保証されている。このうち、保証額が多いのは「アシュアード・ギャランティ」と、「ナショナル・パブリック・ファイナンス・ギャランティ」(大手モノライン「MBIA」の子会社)だ。この2社が抱えるエクスポージャー(保証総額)は15年7月1日現在、それぞれ50億ドル(約5700億円)近くに上り、経営上の懸念材料ともなっている。両社の株式、債券、それらを組み入れた投信などを保有している投資家もおり、プエルトリコ債の履行動向に注目が集まる。

 

 理由はこれだけではない。プエルトリコ政府、傘下の自治体、及び公社が発行した債券は、特殊な税制の取り扱いを受けているからだ。すなわち、利子に係る連邦所得税の免除に加え、州及び地方政府の所得税も免除となる「3税免除(Triple Tax Exemption)」の扱いとなっている。

 

米国地方債のうち、プエルトリコ以外で3税免除に該当するのは、グアム、北マリアナ諸島、アメリカ領バージン諸島のみである。そのため、多くの投資家にとって発行額が大きいプエルトリコ債は魅力的な投資対象として位置付けられ、投資家層が通常の米国地方債に比べて広範にわたっていた可能性がある。

プエルトリコ債の格付けは17年1月現在、米国の州と比べて突出して低い水準、流通利回りも突出して高い水準となっている(図1)。

 

ただし、連邦制国家である米国では、地方財政・地方債制度が州ごとに異なり、プエルトリコの財政破綻は、固有の要因によるものであるため、米国地方債市場全体へ影響は及んでいない。

 

 なお、日本の投資家も、プエルトリコの財政再建の行方に関心を寄せているようだ。これは、米国の金利政策に何らかの影響が及ぶ可能性があることや、モノラインの株式等を保有する投資家もいるからである。日本では、16年2月にマイナス金利政策が導入された。このため、運用利回り向上を目指す中で米国地方債を新たな投資対象に加えることを検討する投資家が散見されている。

ただし、米国地方債の海外投資家による保有シェアは2・4%(16年9月末)しかない。その上、格付けが14年2月以降、投機的等級となっているプエルトリコ債(図2)を日本の投資家が直接保有しているケースはほとんどないと見られる。

 

 ◇予断許さぬ道のり

 

 プエルトリコでは17年1月2日、前知事の任期満了に伴い、リカルド・ロッセロ・ネバレス氏が新しく知事に就任した。プエルトリコは、一部の公的債務のモラトリアム期間終了(1月末)、経済・財政再生計画の承認目標期日の到来(同)、債権者からの訴訟の一時停止期間の終了予定(2月15日)など、複数の重要日程を控えている。ロッセロ知事は、就任直後には、17年6月末までに政府歳出の1割縮減や公社要職者の2割削減などを求める知事令に署名した。

 

 また、プエルトリコの人口流出などを招いた一因ともされるコモンウェルスの地位について、州の位置付けを得るべく住民投票実施を提案するなど、迅速な対応を始めている。

 

 ただし、ロッセロ知事は1月4日、監視委に対して、1月末の経済・財政再生計画の提出期限を少なくとも45日間延長する、2月15日の債権者からの訴訟の一時停止期間の終了を5月1日に延長することを求めるなど、予断を許さない状況となっている。

 

 プエルトリコの将来を見据える上では、同政府がどの程度現実的かつ具体的な財政再建・経済再生策を投資家に提示できるかがポイントになろう。ただし、仮に監視委の下で財政再建が進められても、連邦政府がプエルトリコに対して本格的な経済支援策を講じない限り、プエルトリコが再び財政危機に陥ることもあり得る。その意味では、金融市場でプエルトリコの行方が注目される状況が当面続くと想定される。

(江夏あかね・野村資本市場研究所主任研究員)

*『週刊エコノミスト』2017年1月31日号掲載

進むロケット「再利用」と「小型化」 加速する宇宙輸送コスト低減競争

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宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月15日、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から世界最小級の衛星搭載ロケット「SS520」4号機を打ち上げた。残念ながら軌道投入前に情報が途絶え、打ち上げは失敗したが、ロケット開発はじめ宇宙輸送コスト低減に向けた動きは活発化している。

 

 小型ロケット「SS520」は、超小型衛星を宇宙に運ぶ技術の開発を目的にしている。衛星の開発や打ち上げなどを合わせたロケットの事業費は、国産主力ロケット「H2A」の20分の1以下の約5億円とされる。

 

 超小型衛星を運ぶロケットは、宇宙にモノを運ぶ輸送コスト低減の取り組みの一つ。大型ロケットの打ち上げ費用は100億円前後と言われており、輸送費用の多くを占めるロケットの再利用や、打ち上げ目的に合わせたロケットの小型化などの取り組みが行われている。

 

 こうした挑戦で世界の注目を集めるのが、米国の宇宙ベンチャーだ。

 

米スペースXは1月14日、ロケット「ファルコン9」の打ち上げを再開した。通信衛星を載せたロケットを米カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地から打ち上げ、切り離した後の第1段ロケットを太平洋上の船に着陸させた。同社は2016年9月、打ち上げ前に爆発事故を起こした後、原因究明のため一時打ち上げを凍結していた。

 

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スペースXは、米電気自動車メーカーのテスラ・モーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が立ち上げた。ロケット打ち上げ費用の価格破壊を起こし、米政府関係および民間企業から打ち上げを受注するなど、民間資本による宇宙ビジネスの扉をこじ開けた。将来的には火星への輸送も計画しており、積極的に技術開発に取り組んでいる。

 

 そのスペースXの取り組みの中で注目されているものの一つが、ロケットの再利用だ。今回の打ち上げ再開により、宇宙に打ち上げたロケットを再利用する試みが前進すると期待されている。

 

宇宙へと輸送する「足(ロケット)」を繰り返し使用してコストを下げるという発想自体は古い。かつては米航空宇宙局(NASA)もスペースシャトルの再利用を模索していたが、メンテナンス費用や安全対策などのコストがかさみ、断念した経緯がある。

 

 再利用に必要な技術の一つは、回収の際ロケットを地上に対して垂直に着陸させる方法だ。実験レベルでは過去にも成功してきた。だが、世界的には「使い捨て」ロケットを安く作り、確実に打ち上げることがより重視されてきたため、ロケット回収の研究は置き去りにされてしまった。そこに挑んだのが、コスト競争にさらされる民間の宇宙ベンチャーだった。

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 ◇ジェフ・ベゾスも参入

 

 ロケット再利用に最初に成功したのは、米ネット通販大手アマゾンのジェフ・ベゾスCEO率いる米ブルーオリジンだった。自社ロケット「ニューシェパード」を開発し、15年11月にはニューシェパード2号機が高度100キロまで到達した後、地上に着陸する試験飛行に成功した。

 

 ブルーオリジンは00年設立。同社は情報開示にあまり積極的ではないが、宇宙旅行ビジネスを企画するほか、大型ロケットの開発にも取り組んでいる。

 

 スペースXは時期こそ遅れたものの、ブルーオリジンよりも高い高度に打ち上げたロケットの回収に成功している。

 

 15年12月に衛星を積んだファルコン9ロケットを打ち上げ、上空約80キロで分離したファルコン9の1段目ロケットの機体をエンジン噴射しながら陸地に着陸させた。16年4月には、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ「ドラゴン宇宙船」を分離した後の1段目ロケットを、大西洋上に浮かぶ台船に史上初めて着陸させるなど、これまでに7回、第1段ロケットを打ち上げた後に回収している。

 

 回収ロケットの再利用の取り組みも始まっている。ブルーオリジンは16年1月、回収した機体で再び打ち上げし、宇宙空間まで到達してから着陸に成功している。そして3カ月後の16年4月には、3回目の再利用飛行と着陸を成し遂げた。スペースXも、再利用ロケットによる打ち上げを行う見通しだ。

スペースXを例に、ロケット回収の仕組みを見てみよう(図)。

 

スペースXが回収するのは、打ち上げの出力となる第1段ロケット。宇宙空間で本体から切り離された後、機体を反転させて逆噴射し、地球に降下させる。大気圏突入後には着陸地点と通信しながら調整し、機体の姿勢を制御する。最後はロケットを噴射して減速しながら着陸用の脚を出して着陸する。

 

 スペースXのファルコン9は、ドラゴン宇宙船の打ち上げにも使われる。打ち上げ費用は1回約70億円という。100億円を超えるといわれる従来のロケットに比べれば、破格の安さではあるが、頻繁に宇宙にモノを輸送するコストとしてはそれでもまだ高い。

 

 この費用について、スペースXのグウィン・ショットウェル社長は「第1段(ロケット)の再利用により、30%コストを低減できる」と発言しているが、打ち上げ費用がどこまで下がるかについては明確にしていない。だが、同社は保険会社との間で再利用ロケットによる打ち上げ保険料率の設定見直しも進めており、打ち上げ費用を大きく引き下げられるようになると考えられている。

 

 もっとも、ロケット再利用の技術はいまだ確立されたとは言い難い。16年1月にスペースXが行った実験では、打ち上げ後に上空で分離した第1段ロケットの機体を洋上の台船に着陸させる計画だったが、機体が倒れて失敗した。

 

 打ち上げる衛星の軌道によっては海上でロケットを着陸・回収する必要があるが、目標とする台船が小さく動くため、難度が高いといわれている。

 

 ◇超小型衛星専用機も

 

 近年、商業利用が進む数キロ~数百キログラムの小型衛星専用の打ち上げ手段の開発もまた、打ち上げ費用の低減策として研究開発が進んでいる。

 

米ヴァージンギャラクティックは空中発射ロケットによる衛星の輸送を計画している。母機となる航空機にロケットを搭載して離陸、その後にロケットを分離して自由落下しながら第1段に点火して衛星を地球低軌道に投入する仕組みだ。同社は英ヴァージンアトランティック航空などを傘下に持つ英ヴァージン・グループの一社。宇宙旅行をはじめとしたビジネスの開拓に取り組んでいる。

 

 また米ベンチャー企業のロケット・ラボは150キログラムの衛星を高度400キロ~500キロメートルの軌道まで打ち上げるための小型ロケットを開発しており、17年中に初の商業打ち上げを予定している。こうした超小型衛星専用の打ち上げは、費用を数億円程度まで圧縮すると見られている。

 

 小型ロケットは民生品の活用などでコストを下げているが、「機体のコントロールのために搭載するコンピューターの小型化など、従来の大型ロケットとは異なる技術的課題がある」(科学ライターの大貫剛氏)という。

 

 他方で、研究機関や企業が超小型衛星を観測や通信事業に活用する事例が増えており、専用打ち上げ手段に対する需要は大きい。超小型衛星を多数打ち上げて地球規模の衛星システム(コンステレーション)を構築する構想もある。

 

 こうした小型の衛星は、従来は大型の衛星を打ち上げるための大型ロケットの空きスペースに相乗りしてきた。しかし、主たる顧客は大型衛星のため、小型衛星は打ち上げ時期や衛星の投入軌道を選ぶことができなかった。

 

 打ち上げ費用だけでなく、そもそも打ち上げ機会が少ないこともまた、衛星の使用を検討する企業にとって大きな壁になっている。打ち上げのタイミング、打ち上げ地点、投入する軌道、その他の諸条件などさまざまな要因を考慮する必要があるからだ。

 

 こうした要望に対応するためにも、大型から小型まで、多様なロケットを頻繁に打ち上げられる体制の構築が求められている。

切り離した後、着地するスペースXの第1段ロケット(2015年12月、スペースXのホームページより)
切り離した後、着地するスペースXの第1段ロケット(2015年12月、スペースXのホームページより)

◇コスト重視の時代へ

 

 イーロン・マスク氏は成功した時に限らず、回収した第1段ロケットが着陸に失敗した時にもツイッターを通じて世界に動画を公開している。衝撃的な映像だ。

 

 その一方で、スペースXをはじめとした宇宙ベンチャーが何度も失敗しながらも打ち上げ費用の低コスト化やロケット回収の取り組みを続けてきたことで、商用打ち上げ市場は大きく揺さぶられている。

 

 これまで市場を独占してきた仏アリアンスペースなど既存の宇宙開発大手は打ち上げ成功率の高さで顧客の信頼を得ているが、成功率はもちろんのこと、価格でも競争力を求められる時代に突入しつつある。

 

(編集部)

目次:2017年2月7日号

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電気代は税金となった 

 

第1部 ずさんな原発事故処理 

18 政府が繰り返す責任逃れ 際限なくなる国民負担 ■松本 惇/藤沢 壮/丸山 仁見 

21 裏面にしか記載されない託送料/22 原子力事業再編というババ抜き

23 特殊な原発会計 原則に反する託送料上乗せ ■金森 絵里

25 インタビュー 河野 太郎 前消費者担当相 「福島事故処理に託送料充てる愚」

26 託送料の海外比較 ドイツに次いで高い日本 ■編集部

27 欧州の送配電事業 インセンティブ規制で効率化 ■安田 陽 

28 「原発安い」は幻想 甘い見積もりの経産省試算 ■大島 堅一

30 電力業界再編のジレンマ シナリオ描く経産省と東電 ■武田 純次

32 インタビュー 泉田 裕彦 前新潟県知事 「国民負担の説明は不十分」

34 東芝経営危機の真相 疑われるWECの管理能力 ■宗 敦司

35 期待外れのモジュール工法 ■佐藤 暁

36 再生可能エネルギー 低コスト化と普及拡大の好循環 ■高橋 洋

81 第2部 原発政策の虚像 

82 除染に国費投入 曖昧なままの国の責任 ■除本 理史

84 電力債 市場保護には格下げ必要 ■三浦 后美

85 優先して弁済される「一般担保付社債」

86 不透明な廃炉費用 8兆円に根拠なし ■野村 宗訓

88 原発保険 原発に経済合理性なし ■本間 照光

90 核燃料サイクル破綻 もんじゅ廃炉と実用化計画の矛盾 ■鈴木 達治郎

 

Flash!

11 豊洲市場運営費 都が年100億円の赤字試算/MRJ5度目の延期で重工資金繰りに影響も/英国のEU離脱 最高裁が議会承認要求/トランプ米大統領・就任演説は内向きばかりのメッセージ

15 ひと&こと 九電社長に交代観測/次の特捜部長は検事総長候補/任天堂の新型ゲーム機に不安

 

エコノミスト・リポート

78 慰安婦合意は「スタートライン」 ■木宮 正史

 

39 新興勢力 欧州で台頭する左右ポピュリズムを分かつもの ■吉田 徹

42 人民解放軍 海への進出図る習近平 ■飯田 将史

44 労働 社保未加入防止へ公共工事入場制限 ■蟹澤 宏剛

66 新興国通貨 新興国通貨の脆弱な安定 ■児玉 卓

68 銀行規制 ドイツの反対でバーゼル3合意延期 ■大山 剛

92 五輪 膨張続ける神宮外苑再開発利権 明治神宮と三井不がホテル計画 ■池上 正樹

 

Interview

4 2017年の経営者 大前 孝太郎 城北信用金庫理事長

48 問答有用 洪 天祝 天虹紡織集団創業者

 「ビジネスモデルの転換に日本企業の力が必要です」

 

World Watch

70 ワシントンDC オバマ治世の光と影 ■堂ノ脇 伸

71 中国視窓 地方執行部人事で「70後」の台頭 ■稲垣 清

72 N.Y./シリコンバレー/オーストリア

73 韓国/インド/タイ

74 香港/ブラジル/南スーダン

75 論壇・論調 欧州攻撃強めるトランプ米大統領 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■片山 杜秀

17 グローバルマネー 不穏なトランプ大統領の「有言実行力」

46 アディオスジャパン (38) ■真山 仁

52 学者に聞け! 視点争点 環境問題に有効な予防原則 ■佐藤 真行

54 言言語語

62 名門高校の校風と人脈 (227) 武生高校/大野高校(福井県) ■猪熊 建夫

64 海外企業を買う (126) CVSヘルス ■児玉 万里子

76 東奔政走 日米トランプシフトで「韓国切り」 ■平田 崇浩

100 景気観測 ドルベースの株価は横ばい ■藻谷 俊介

102 ネットメディアの視点 トランプ外交の船出は前途多難 ■土屋 直也

103 商社の深層 (55) 農薬のトレンドは「環境重視」 ■花谷 美枝

104 アートな時間 映画 [エリザのために]

105        舞台 [ザ・空気]

106 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ algorithmic trading ”

 

Market

94 向こう2週間の材料/今週のポイント

95 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■小野 雅史/週間マーケット

96 中国株/為替/白金/長期金利

97 マーケット指標

98 経済データ

 

書評

56 『バブル』

 『ニワトリ』

58 話題の本/週間ランキング

59 読書日記 ■小林よしのり 

60 歴史書の棚/出版業界事情

 

55 次号予告/編集後記


第43回 福島後の未来 今西章・『創・省・蓄エネルギー時報』編集次長=2017年1月31日号

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◇世界の電力投資の7割が再生エネ

◇環境金融が旧態の化石燃料を駆逐

 

再生可能エネルギーの導入が世界中で急拡大している。

 

 国際エネルギー機関(IEA)が2016年9月にまとめた世界のエネルギー投資に関する調査結果によれば、15年の再生エネに対する投資額は3130億ドル(約36兆円)に達した。石炭火力や原子力などを含めた発電設備全体への投資のうち、再生エネの割合は7割を占める。原発への投資額210億ドル(約2兆4000億円)の実に15倍だ。

 

 今や再生エネが世界のエネルギーの主役と言える状況だ。

 

 これに対し、日本は世界の潮流から取り残されている。15年の投資額は362億ドル(約4兆1000億円)と中国、米国に次ぎ世界3位だったものの、17年4月に予定される再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)の大幅な変更が再生エネ、特に太陽光発電の拡大機運に水を差すことになりそうだ。

 

 FITは電力会社や新電力が再生エネによって作り出した電力を一定の価格で買い取ることで、他の電源に比べて発電コストの高い再生エネの普及を促す狙いがある。買い取り費用は、電気料金に上乗せして国民から集める「賦課金」が原資だ。

 

 経済産業省が制度変更に乗り出したのは、再生エネの普及とともに増える賦課金が国民の負担につながる恐れがあると考えたためだ。そこで17年4月の改正では、電力の買い取りにあたって入札を実施したり、発電所の認定から一定期間内に稼働しなければFITで定めた有利な価格で電力を売買できなくしたりするなど事業者への引き締めを図る。

 

 日本の太陽光発電業界は岐路にある。東京商工リサーチによると、16年は太陽光発電関連企業の倒産が前年比20・4%増の65件に上り、調査を開始した00年以降で最多となった。負債総額も過去最高を更新し、同13・5%増の242億4100万円に上った。

 

 かつてはFITによって高い利益が望めることから参入企業が相次いだ太陽光発電市場だが、倒産件数の増加が示すように、今では企業の淘汰(とうた)が進む。17年4月のFITの大幅変更によって、こうした動きがさらに進む可能性がある。

 

 

 市場の変化に伴い、再生エネに対する見方も変わりつつある。「太陽光発電や風力発電は天候によって出力が変動する不安定な電源で、大量に導入するのは限界がある」など、日本では再生エネに対しマイナス面が強調される傾向があるように見える。

 

 ◇発電コストが低下

 

 しかし海外に目を向けると、様相は異なる。コストや出力の不安定性といった課題が解消に向かっている。

 

 まずコストは、普及が進んだことで設備や部材を大量生産できるようになり、量産効果によって低価格化が進んだ。

 

再生エネの普及促進を目指す国際機関、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州や中国、南アフリカ、米国における太陽光発電の一般的な発電コストは、1キロワット時当たり5~10セント(約5・7~11・4円)まで低下したという(図1)。15年の最低価格はメキシコの同4・8セントで、翌16年5月のアラブ首長国連邦(UAE)のドバイの太陽光発電の入札に至っては同3セント(約3・4円)だった。経産省が示した日本の原子力の発電コストの同10・1円、石炭火力の同12・3円、天然ガス火力の同13・7円に比べ圧倒的に安い(図2)。

 風力の発電コストも同様だ。

 

経産省が16年8月、風力発電の競争力強化を目指して設置した有識者の研究会は「(世界では)2010年頃からは、競争の激化、さらなる大型化、風力新興国でのコスト低減などにより、発電コストは再度低減傾向にある。例えば米国は、発電事業者と小売り電気事業者が契約する電力販売価格が14年には、2・35セント/キロワット時まで低減している」と分析している。

 

 出力の不安定性についても、欧米では蓄電池を導入することで発電出力を平準化したり、送電系統網を強化することで発電量が多くなった時の受け入れ能力を拡充したりすることで、乗り越えようとしている。

 

 加えて海外各国は、11年3月の東京電力福島第1原発事故を契機に、原発に代わる安全・安心で持続可能なエネルギーとして再生エネを改めて見直し、エネルギー政策の柱を再生エネにシフトしている。その原動力が、15年12月の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された地球温暖化対策に関する新たな国際ルール「パリ協定」だ。

 

 16年11月に発効したパリ協定は、産業革命前からの世界の平均気温の上昇を「2度未満」に抑える目標を掲げ、さらに「1・5度」に収めるよう努力すると明記した。地球温暖化対策に最も有効なエネルギーこそCO2を排出しない再生エネだ。

 

 ◇機関投資家も普及を後押し

 

 金融面の新たな動きがこうした機運に拍車を掛ける。「ESG投資」だ。従来の財務情報に表れない環境(Environment)や社会(Social)、コーポレートガバナンス(Governance)といった課題に取り組む姿勢が企業価値を左右するとの考え方に基づき、銘柄選定や株主提案などの投資行動に反映する投資手法だ。

 

 世界のESG投資は、パリ協定のほか、機関投資家に投資対象の温室効果ガス排出量の開示を求める国際誓約「モントリオール・カーボン・プレッジ」の策定などを契機に、民間の資産運用機関も積極的に取り組むようになってきた。

 

 特に海外を中心に、石炭や石油などの化石燃料産業に対し「ダイベストメント(投資撤退)」を宣言する投資家が急増している。ダイベストメントは非倫理的、非道徳的だと思われる企業の株式や債券、それらを組み込んだ投資信託などの投資をやめるもので、その対象に化石燃料関連企業を含める動きが広がっている。

 

 社会課題の解決に向けたインパクト投資に関する助言などを行う国際NPO「アラベラ・アドバイザーズ」によると、化石燃料産業へのダイベストメントを宣言した世界の投資家は14年9月の181機関、運用資産総額500億ドルから、16年2月の400機関、2・6兆ドルに増加した。

 

 注目は、数千億ドル規模の運用資産を持つスウェーデンや米カリフォルニア州の公的年金基金が次々とダイベストメントを宣言していることだ。欧州や米国の州の一部は温室効果ガスの排出量取引など先進的な環境規制を採用している。化石燃料産業へのダイベストメントは将来の事業性の観点から投資先を選ぶという意味で経済合理性もある。

 

 普及に向けて課題もある。地球温暖化に懐疑的で、シェールオイル・ガスや石炭産業の振興を奨励するドナルド・トランプ米大統領が就任したことで、「再生エネの導入が停滞しかねない」との懸念が生じている。しかし、心配には及ばない。再生エネはすでに他の電源と比べてもコスト面で優位に立ちつつあるためだ。すでに市場原理によって選ばれる電源に育っている。

(今西章、『創・省・蓄エネルギー時報』編集次長)

◇いまにし・あきら

 1975年群馬県太田市生まれ。慶応義塾大学文学部卒。IT系出版社の書籍編集者や経済誌編集記者などを経て2010年からエネルギージャーナル社勤務。日本環境ジャーナリストの会理事

*週刊エコノミスト2017年1月31日号掲載

河野太郎・前消費者担当相インタビュー「福島事故処理に託送料充てる愚」

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福島事故処理の賠償などを託送料(電力会社の送電網の利用料金)に上乗せすることは「おかしい」と批判する河野氏に話を聞いた。

(聞き手=松本惇/後藤逸郎・編集部)

 

── 消費者担当相時代の2016年7月、託送料について報告書を出した。

 

河野 託送料が高いがゆえに電気料金も高くなっている。自由化して競争を促すなら託送料金を下げるべきだと考えた。

 (内閣府の第三者委員会の)消費者委員会で審議された結果、託送料金の査定などに改善が必要な点があることがわかった。消費者庁は経済産業省に託送料はおかしいと言った。

 そもそも05年に使用済み燃料の再処理費用を託送料に上乗せした。1回限りだと言っていたのに、(今回の上乗せの)前例にするのはおかしい。

 電力自由化で発送電を分けるとなっているにもかかわらず、託送料で取るというのは発電会社の分の費用だ。発電会社の費用を、間に入る別会社が負担するという構造はおかしい。電力自由化の精神にももとる。

 託送料は国会の議決も経ない。全く関係のない費用を上乗せするならきちんと国会で議決しろと。

 

 ◇経産省は資本主義を否定

 

── 電気料金への消費者庁の意見具申が無効化されないか。

 

河野 経産省にとって、託送料に上乗せするのが、一番邪魔が入らずにできる。ほとんど電力会社の下請けのようになってしまった。

 

── 賠償費用が膨らめば、電気料金が永遠に引き上げられないか。

 

河野 福島事故の費用は今回の試算で収まらない。中間貯蔵施設の費用は想定の何倍もかかった。

 国民からカネを出させるが、東京電力の株主や融資している金融機関は守られている。現状は、経産省が資本主義を否定しているのと同じだ。

 

── 経産省は原発を稼働させれば電気料金が下がるという。

 

河野 全くおかしな話だと思う。原発が安いなら、廃炉費用を他の人に負担してもらう必要はない。なぜ、コストが高い事業を資本主義のルールに反してまで助けなければならないのか。経営判断で(原発が)よいと思って始めたわけだから、その経営判断にかかるコストは自分で負担するのが当然だ。

 東電を減資させればその分の国民負担が減る。やることをやって国民負担というのは仕方がない。株主と金融機関だけ守っておきながら、「国民に負担してください」は全く筋が通らない。経産省が原発を助けたいなら、世耕弘成経産相が「それはおかしい」と言わなければならない。

 

── 託送料上乗せのどこが問題か。

 

河野 今回の方式では、コストが下がっても託送料は下げない。経産省が自慢げに言う。それは違う。たくさん取りすぎているのだから、精査して消費者に還元しなければ。消費者庁は、コストが下がっているのに、託送料を下げないのはおかしいと経産省に言うべきだ。

 

── 東電の賠償は、政府が交付国債で支援し、東電株売却益で回収するという。

 

河野 廃炉が続く状況で、いくらコストがかかるか分からない。まだまだ費用が膨らむという株式会社の株価がそんなに上がるのだろうか。

 

── 賠償・廃炉費用には国費を投入してオールジャパンで取り組むべきだと考えるか。

 

河野 税金を投入するのか、どこまでを電力料金で負担するかという議論はあると思うが、少なくとも今のスキームではだめだ。結局、東電をいかに生き延びさせるかという考えが根底にあるから処理策がゆがんでいる。

 自民党の議員で、電力や原子力の仕組みをきちんと理解している人が少ないのだと思う。理解している人の大半は東電寄りだったりする。自民党の部会で「新電力と契約している人は所得が高い」と平気で言う。どこから聞いたのかと思ったら、経産省が想定問答を作っていた。経産省にそんなデータがあったら持ってこいと言ったら、「ありません」と。議員が資本主義の原則とは何かをきちんと考えなければならない。

(河野太郎・前消費者担当相)

*週刊エコノミスト2017年2月7日号掲載

経営者:編集長インタビュー 大前孝太郎 城北信用金庫理事長

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◇地域創生とコミュニケーションのプロ目指す

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 城北信金はどのような金融機関ですか。

大前 若い人にチャンスがある、仕事をさせる会社です。進取の気性に富み、自分で進んで仕事をしたい人には、私が直接判断し、どんどん挑戦してもらっています。

 

── 金融業界についてどのような見方ですか。

大前 私は20年来、国内に銀行が多すぎると考える「オーバーバンキング」論者です。そのため、従来の銀行業務だけでは先行きは厳しく、金融以外のサービスを作り上げ、金融と非金融の2本柱で進んでいかないといけないと考えています。

 

── 例えば、どのような取り組みですか。

大前 一つが、昨年7月に創設した「Johoku Athlete Club」です。オリンピックを目指す7人の女子アスリートとマネジャー2人の計9人を職員として採用しています。顧客の中には、スポーツに非常に関心のある経営者や、一般でもシンパシーを感じてくれる顧客がおり、「ぜひ取引をしたい」と言ってくださいます。金利を引き下げなくても、お付き合いできる状態をなるべく作りたいと思います。

 

── なぜ、スポーツなのですか。

大前 スポーツは、経済・社会・教育的にも非常に重要な分野であり、コンテンツであると考えています。実は北区赤羽は日本オリンピック委員会の強化施設があるアマチュアスポーツのメッカです。女子バレーのスター選手が毎晩食事に来るなど、地域との接点があります。私は文部科学省に対して、アスリートのセカンドキャリアをどうするのか、企業も応分の支援をすべきだと提案していました。そこで、率先して採用したのが、クラブの始まりです。

 

── アスリート職員は、どのような仕事をしているのですか。

大前 銀行業務をしてもらうわけではありません。彼女たちには背負ってきた人生があるし、普通の人には得難い経験をしています。そこで、例えば小学校の総合学習の時間に子供たちに実技を教えたりしています。これはある種のタレント育成、プロダクション業務です。私にとって大事なのは金融そのものではなく、その機能を活用して地域を活性化することです。コンテンツは地域に資するものなら、何でも良いと考えます。

 

── 信用金庫の顧客をどのように取り込むのですか。

大前 2015年4月にポータルサイト「NACORD(ナコード)」を立ち上げました。サイバーエージェントと連携したクラウドファンディング(インターネットを活用した資金調達)機能や、マーケティング支援機能があります。中小企業のプロモーションは誰がやるのか、という問題意識からスタートしました。中小企業はものづくりは得意ですが、売るのは得手ではありません。そこで、一番身近な我々が、広告代理店的なノウハウを積んで、BtoC(企業対個人)向け商品であれば、顧客に届くような仕組みを作りました。

 

 ◇地元企業をプロデュース

 

── 具体的には、どのようなものですか。

大前 「NACORD」の特徴は、資金調達だけでなく、商品購入の場でもあることです。

 例えば、新しいレストランを開業する時に、当金庫のライターが経営者に取材し、美しい写真を撮影して、ポータルサイト上でプロデュースする。そこで、ディナー券などを販売します。台東区根岸にある老舗の洋食屋さんでは、レトルトパックのハヤシライスやローストビーフを販売し、2日間で250万円の売り上げがありました。サービスの利用は無償です。草履やげたを製造する会社なども含め、今、30社くらいが利用しています。

 

── 内閣府の官僚を経験するなど、自身の経歴もユニークです。

大前 内閣府時代に福井県鯖江市で、地元眼鏡フレーム産業の振興を手掛けました。日本の眼鏡フレームの大半は鯖江で製造し、産業集積度では他の自治体に比べて恵まれています。

 しかし、シャネル、ルイ・ヴィトンなどの欧米ブランドのOEM(受託生産)中心でやってきたので、自身のブランド力はありません。そうした中、中国企業の台頭で、どんどんOEMの仕事を奪われていきました。そこで、私は事業をいろいろと仕掛けました。

 代表例で言えば、若者向けのブランドに鯖江でファッション眼鏡を作ってもらい、ファッションショー「東京ガールズコレクション」で、鯖江製であることを公表して、ショーを行いました。モデルが身につけている眼鏡を売るのですが、1日で5000個が完売しました。まさにこの時の経験が、「NACORD」などのビジネスプロモーションの仕事につながっています。

 

── 信用金庫の常識を変えたいと。

大前 いろんな形でコミュニケーションを展開していきますが、「信用金庫」にはこだわりたいと思います。信用金庫は、地域に密着し、エンドユーザーに深く関われるコミュニケーションのプロです。最近は、北区の区長から、観光協会の立ち上げを依頼されています。12年から荒川河川敷の花火大会の実行委員長をやっていますし、今後は、都内で一番大きな音楽フェスティバルを仕掛けようかとも思っています。皆さんがよく知っているアーティストを呼ぶかもしれません。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 小渕政権時代に内閣官房で、金融危機対応に追われていました。どっぷり、政策の中につかり、エキサイティングでした。

 

Q 「私を変えた本」は

A 中学の時に読んだ山崎正和さんの『藝術・変身・遊戯』が、私の何かを変えました。芸術の何たるか、という話が新鮮でした。

 

Q 休日の過ごし方

A 音楽が好きなので楽曲制作をしています。エレキギターを弾きながらフュージョン系の作品です。

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 ■人物略歴

 ◇おおまえ・こうたろう

 東京都出身。東京都開成高校、慶応義塾大学卒業。1987年住友銀行(現三井住友銀行)入行。98年内閣官房特別調査員、2001年内閣府参事官補佐、09年城北信用金庫常務理事を経て、15年6月より現職。52歳。

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事業内容:金融業

本部所在地:東京都北区

設立:1921年5月

出資金:302億円(2016年3月期)

従業員数:1988人

業績(2016年3月期)

 経常収益:393億円

 業務純益:82億円

週刊エコノミスト 2017年2月7日号

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発売日:2017年1月30日

週刊エコノミスト2017年2月7日号

 

  電気代は税金となった

◇政府が繰り返す責任逃れ

◇際限なく増える国民負担

 東京電力福島第1原発の事故処理費用が膨張を続けている。2016年12月、経済産業省は13年12月の見積もりである11兆円のほぼ2倍となる21・5兆円との試算を公表した。

 

東電による費用負担がはるかに限界を超える中、政府は新たに国民に負担を求める「東電改革案」をぶち上げた。

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特集:電気代は税金となった 2017年2月7日号

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◇政府が繰り返す責任逃れ

◇際限なく増える国民負担

 

 東京電力福島第1原発の事故処理費用が膨張を続けている。

 

2016年12月、経済産業省は13年12月の見積もりである11兆円のほぼ2倍となる21・5兆円との試算を公表した。内訳は廃炉8兆円(13年は2兆円)、賠償7・9兆円(同5・4兆円)、除染4兆円(同2・5兆円)、中間貯蔵1・6兆円(同1・1兆円)(図1)。東電による費用負担がはるかに限界を超える中、政府は新たに国民に負担を求める「東電改革案」をぶち上げた。

 

「国民全体で福島を支える、需要家間の公平性を確保するといった観点から、託送制度を活用して広く負担を求める」

 

 16年12月にまとまった経産省の有識者会議「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)の提言には、このような文言が盛り込まれた。託送制度とは、電力会社が所有する送配電網を発電事業者や他の電力小売り事業者が利用することで、その利用料(託送料)は消費者が支払う電気料金に含まれている。

 

 経産省は賠償費7・9兆円のうち2・4兆円を「原発を保有する電力会社が事故に備えて積み立てておくべきだった」と主張。20年度から40年間、大手電力だけでなく、電力自由化で新規参入した新電力を含めた消費者が支払う託送料に上乗せして負担を求める方針を示す。経産省の試算で上乗せ額は1キロワット時当たり0・07円で、標準家庭で電気料金が月18円上がる計算になるという。

 

 賠償費の「過去分」のほか、福島第1原発以外で廃炉が決まっている関西電力美浜1・2号機など老朽原発6基の廃炉費用も託送料に上乗せされることになっている。今後、他の老朽原発の廃炉が決まれば、さらに上乗せ額が増えるのは確実だ。

 

 また、送配電にかかる人件費や修繕費が上がった時はもちろん、今後省エネ化が進んで電力の消費が減れば、送配電施設の維持費を賄えなくなり、元々の託送料自体が上がる可能性もある。

 

 経産省が今回、送配電に直接関係のない費用を託送料に上乗せするという「禁じ手」に至った背景には、制度上の理由がある。電力会社はこれまで、「総括原価方式」と呼ばれる仕組みで、かかったコストはすべて電気料金で回収できた。しかし、電力自由化でこの仕組みは廃止され、コストを自由に回収できなくなる。ただ、大手電力が持つ送配電網の使用料である託送料には総括原価方式が残るため、自由競争の下でも確実に費用を回収できるままだ。

 

 

 託送料は、送配電事業者である大手電力が費用を計算し、経産相の認可を得るが、国会審議を経る必要はない。今後、事故処理費用がさらに拡大すれば、コストを回収しやすい託送料が利用されかねない。

 

 

 ◇前例あった託送料上乗せ

 

 実は、送配電に関係のない費用が既に託送料に上乗せされて回収されている。それは、使用済み核燃料の再処理費用(バックエンド費用)だ。この時も、05年度の制度創設前から積み立てておくべきだった再処理費用を「過去分」として託送料に上乗せし、19年度までの15年間で消費者から回収することになった。

 

 経産省は賠償費用などの託送料上乗せを議論する有識者会合の場で、このバックエンド費用の制度を「前例」として説明している。超党派の国会議員で作る「原発ゼロの会」はバックエンド費用の制度創設時の議論を挙げ「『今回で最後』にするとして議論は終了した。この議論を託送料で回収することの前例として示しており悪質極まりない」と非難している。今後、今回の案が前例となり、他の費用も託送料に上乗せすることは十分に考えられる。

 

 最も可能性があるのは今回も託送料への上乗せが検討されていた福島事故の廃炉費用だ。現時点では東電が負担することになっているが、年間5000億円規模の資金を確保することが前提となっている。廃炉作業の準備段階の汚染水対策などで手間取っている現在でも、1次下請けには作業員1人当たり約10万円の日当を支払っているとされ、その場合、年間で数千億円のコストがかかることになる。今後、廃炉作業が本格化すれば、膨大な人件費が必要になる恐れがある。

◇見送られた法的整理

 

 そもそも、東電を存続させたまま負担を負わせようとしたことが、費用の膨張を招いた一番の原因だ。未曽有の事故の廃炉や賠償、除染などには莫大(ばくだい)な資金が必要なことは明らかだった。民間企業で手に負えないのは目に見えていたにもかかわらず、あやふやな根拠で算定して国費投入を見送った政府の責任は重い。

 

 11年の事故直後、東電を法的整理する案もあったが、銀行業界が「金融システム不安が起こる」と猛烈に反発。経産省の松永和夫事務次官が、全国銀行協会会長だった三井住友銀行の奥正之頭取(いずれも当時)に東電をつぶさないことを約束したとされる。政府が東電を法的整理して国有化すれば、事故処理は税金で賄うことになるため、財務省が反対だったことも影響した。

 

 その象徴とも言える対応が汚染水対策だ。事故直後から大量の地下水が原子炉建屋に流れ込み、高濃度汚染水が増加。地下の土を凍らせる「凍土遮水壁」の設置などが検討されたが、東電は債務超過を恐れ、東電の破綻を恐れた政府も当初は国費の投入を見送った。凍土遮水壁整備などへの国費投入を柱とする汚染水対策の発表は事故から2年半後だった。

 

 ある電力関係者は「東電がなくなれば、国策として原子力事業を進めてきた国が批判の対象となる。それを避けるために、東電を存続させる必要があった」と見る。東電委員会の伊藤邦雄委員長(一橋大学大学院特任教授)は「理屈上は納得いかない人もいるだろうが、国難を国民全員で解決していくことが必要だ」と述べたが、国難であれば、政府の責任の下で事故処理を進めるべきだ。国の保身のために、東電の法的整理は見送られてきた。

 

 その結果、事故処理費用は膨らみ、東電だけに負担させる枠組みの限界が露呈している。東電に残された道は法的整理しかない。国策として原発政策を進めてきた政府の責任の下で、福島事故処理を進める必要がある。その際、国民的な議論なしに電気料金を税金のように利用することは許されない。

(松本惇、藤沢壮、丸山仁見・編集部)

 

特集「電気代は税金となった」記事一覧

第1部 ずさんな原発事故処理 

政府が繰り返す責任逃れ 際限なくなる国民負担 ■松本 惇/藤沢 壮/丸山 仁見 

裏面にしか記載されない託送料

原子力事業再編というババ抜き

特殊な原発会計 原則に反する託送料上乗せ ■金森 絵里

インタビュー 河野 太郎 前消費者担当相 「福島事故処理に託送料充てる愚」

託送料の海外比較 ドイツに次いで高い日本 ■編集部

欧州の送配電事業 インセンティブ規制で効率化 ■安田 陽 

「原発安い」は幻想 甘い見積もりの経産省試算 ■大島 堅一

電力業界再編のジレンマ シナリオ描く経産省と東電 ■武田 純次

インタビュー 泉田 裕彦 前新潟県知事 「国民負担の説明は不十分」

東芝経営危機の真相 疑われるWECの管理能力 ■宗 敦司

期待外れのモジュール工法 ■佐藤 暁

再生可能エネルギー 低コスト化と普及拡大の好循環 ■高橋 洋

 

第2部 原発政策の虚像 

除染に国費投入 曖昧なままの国の責任 ■除本 理史

電力債 市場保護には格下げ必要 ■三浦 后美

優先して弁済される「一般担保付社債」

不透明な廃炉費用 8兆円に根拠なし ■野村 宗訓

原発保険 原発に経済合理性なし ■本間 照光

核燃料サイクル破綻 もんじゅ廃炉と実用化計画の矛盾 ■鈴木 達治郎

週刊エコノミスト 2017年2月7日号

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除染に国費投入 曖昧なままの国の責任 国民に負担転嫁へ

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除染土などの仮置き場に積み上がる無数のフレコンバッグと周辺の住宅(福島県富岡町で2015年11月27日撮影))
除染土などの仮置き場に積み上がる無数のフレコンバッグと周辺の住宅(福島県富岡町で2015年11月27日撮影))

東京電力福島第1原発事故をめぐり、政府は2016年12月20日、福島県の帰還困難区域に設ける「特定復興拠点」の除染費用について、国費投入を閣議決定し、17年度予算案に約300億円が計上された。

 

 これまで除染は、11年8月に成立した放射性物質汚染対処特措法に基づいて、主に帰還困難区域以外の地域で実施されてきた。政府はその費用を13年段階で2・5兆円と試算していたが、16年の最新の試算では4兆円となっている。しかし、これでも足りるかどうか定かではない。

 

 除染には、除染特別地域(旧警戒区域、旧計画的避難区域にほぼ相当)での国直轄除染と、それ以外の地域での市町村による除染とがある。当初、国直轄の除染は14年3月末に終えるという目標が設定されていた。しかし実際には大幅に遅れ、その結果、費用の増大を招いている。

 

 費用増加の原因として、時間の経過とともに、想定外の新たな作業が発生していることがある。例えば、除染土などを詰めるフレコンバッグが劣化して破損し、新しい袋に詰め替える作業が必要になったり、農地に生えた木を伐採する手間が加わったりするなどの事例が報告されている。

 

 こうして除染費用が増大するに伴い、その総額を抑制するかのような動きも現れてきた。

 

 環境省が16年、放射性セシウム濃度が1キログラム当たり8000ベクレル以下の除染土を、全国の公共事業で利用できる方針を決定したこともその一つだ。上記試算の4兆円に最終処分費用は含まれていないが、ここには除染土の最終処分量を減らす意図があるのではないかと指摘されている。

 政府が長期目標とする年間追加被ばく線量(1ミリシーベルト以下)についても、それを達成する上での除染の役割が限定的に捉えられるようになってきた。年間1ミリシーベルトというのは個人が受ける被ばく線量であり、人によって行動パターンも異なるので、空間の放射線量に単純に対応するものではない。

 

 したがって、除染によって達成すべき空間線量率の目標を定めるのは難しいとされる(復興庁・環境省・福島市・郡山市・相馬市・伊達市「除染・復興の加速化に向けた国と4市の取組 中間報告」14年8月)。しかしこれには、除染の目標を曖昧にするものだとの批判もある。

 

◇原資を負担しない東電

 

 放射性物質汚染対処特措法により、除染費用は国が一旦支払った後、東電に請求することになっている。したがって除染費用は、東電による事故賠償の一部を構成する。

 

 だが現実には、東電は賠償の原資を自ら負担していない。11年8月に成立した原子力損害賠償支援機構法(14年の改正で原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に改称)により、賠償額のほぼすべてが、原賠機構から東電に交付されてきたからだ。交付された額は、16年12月までに総額6兆8180億円に上る。

 

 東電は、原発事故を起こしたことで、実質的に債務超過に陥り、法的整理が避けられないはずであった。しかし原賠機構法により、東電の株主と債権者は減資と債権カットを免れた。国は賠償の原資を調達し、機構を通じて東電に交付しているが、これはあくまで賠償の支援措置とされ、国の責任が曖昧になっている。

 

 原賠機構からの資金交付は、貸し付けではないため返済義務はないが、東電を含む大手電力などの負担金により、いずれ国庫に納付されることが期待されている。負担金は、東電のみが支払い、電気料金に転嫁できない「特別負担金」(15年度は700億円)と、大手電力が支払う「一般負担金」(同計1630億円)からなる。このうち一般負担金は、電気料金を通じて消費者に転嫁することができる。転嫁されている額は年間約1400億~1500億円と見られる(表)。

 しかし、電力自由化で新規参入した新電力には負担金が課されない。電力の小売り自由化と価格競争が進むと、一般負担金を支払う大手電力が不利になり、この方式を続けるのは難しくなる。そこで、除染費用を国民・消費者に転嫁する仕組みを再構築しようとする動きが出てきた。

 

 ◇新たなカテゴリー

 

 13年12月の閣議決定では、除染費用2・5兆円について、原賠機構が保有する1兆円の東電株の売却益を充てるという案が示された。最新の試算では除染費用は4兆円に膨らんでいるが、その枠組みは変わっていない。株価を上げて売却益を確保するため、東電は柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を見据えるが、16年10月の新潟県知事選で再稼働に慎重な米山隆一氏が当選し、困難さが増している。

 

 さらに、増大する除染費用を東電による賠償の枠外にくくり出す動きも現れた。

 

 森林除染は、国の方針で住宅などの周辺に限定され、ほぼ手つかずの状況にある。しかし、事故で汚染された地域には里山も多く、住民からは除染を望む声が上がっていた。そのため、福島県は13年度から森林の間伐などを進める「ふくしま森林再生事業」を開始した。これは放射性物質が付着した木を伐採する「事実上の除染」だが、費用は実質的に全額国費で賄われている。

 

 また帰還困難区域の除染についても、前述の通り国費投入が決定された。同区域の除染はこれまで、モデル実証やインフラ復旧に伴う事業などが限定的に実施されてきた。しかし政府は16年8月に「復興拠点」を整備する方針を決定。5年をめどに同拠点の避難指示解除を目指すとし、「公共事業的観点からインフラ整備と除染を一体的かつ連動して進める方策」が検討課題に盛り込まれた。

 

 さらに16年末の閣議決定は、放射性物質汚染対処特措法に基づくこれまでの除染と区別し、帰還困難区域の除染に国費を充てることにした。いわば「新たな除染カテゴリー」を作り出したのである。しかし、なぜ帰還困難区域の除染だけを別扱いにするのか、納得のいく説明はなされていない。

 

 税金であれ電気料金であれ、支払う側から見ればどちらでも同じだと思うかもしれない。しかし、そこで見過ごされているのは国の責任である。これを問うのは、従来の原子力政策を問い直すことに他ならない。

 

 東電の賠償を国が肩代わりするのであれば、相応の根拠が必要だ。原賠機構法の枠組みでは、国の関与はあくまで賠償義務者である東電への資金援助に過ぎないという建前だった。だが国費による除染費用の肩代わりは、それを踏み越えている。国が福島事故の被害に対する責任を認めるなら理解できるが、そうでなければ理屈が通らない。この点を曖昧にしたままの国費投入は許されない。

(除本理史・大阪市立大学大学院経営学研究科教授)

*週刊エコノミスト2017年2月7日号掲載


あいまいなままの電力債リスク評価 社債市場保護には格下げ必要

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Bloomberg
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三浦后美・文京学院大学教授

 

東京電力グループが、2011年3月に発生した福島第1原子力発電所事故以降、中断していた社債発行を6年半ぶりに再開すると報道された。調達額は1000億円程度で、東京電力ホールディングス(HD)傘下の送配電子会社である東京電力パワーグリッド(PG)が、今年3月にも、社債権者に優先的に弁済される権利が付与された「一般担保付社債」を発行するという。

 

 現在、東電は福島の事故処理費用が増えて実質的な債務超過に陥った破綻企業のような状態であり、企業の信用力を裏付けとする社債の新規発行は難しい。このため、持ち株会社である東電HDがグループに残る社債、借入金といった有利子負債を引き受け、代わりに傘下の3事業会社が公募電力債を発行するやり方をとる。東電HDは、14年1月に政府認定を受けた経営再建計画「新総合特別事業計画」で、長期の設備投資資金の安定的、自律的調達の観点から、16年度中に公募電力債市場に復帰することを予定していた。

 

 東京電力の社債発行残高は、16年3月末時点で3兆4556億円にのぼる。17年度で6500億円(発行額ベース)の公募債の償還が控えており、巨額の借り換え資金の必要性があった。一方、機関投資家は、福島第1原子力発電所事故後も電力会社を最大の運用先と位置づけている。

 

 ◇投資可能な格付け維持

 

 公募電力債市場に復帰することで、東電グループの信用力が改めて大きく問われることとなった。

 

 だが、電力業界のリーディング・カンパニーである東電グループの原発事業リスクは、曖昧な内容で論点整理されている。社債市場でも、原発事業のリスクが正常に織り込まれた状態にないと考える。

 

 元々、福島事故の後、実質的な債務超過状態に陥った東電を政府が破綻処理しなかったのは、社債市場への影響が大きく、投資家の保護が必要という問題意識にあったという。それから約6年たつが、廃炉、賠償などの事故処理費用が増えるばかりで、現在も東電グループの財務内容は、実質的に債務超過に陥った破綻企業のような状態だ。他の電力会社でも、ほとんどの原発で再稼働のメドが立たず収益力が悪化している。

 

 このように、原発事業のリスクが高いことがわかっているが、国は電力債の扱いを変えていない。それどころか、東電の新規発行社債は一般担保付きで発行するという。これでは、福島原発事故発生当初に政府が持っていたはずの社債市場に対する問題意識は、本質的には実行されない。巨大な株式会社である東京電力の破綻処理を会社の自己責任に委ね、経営者責任を問うことなく、そのまま先送る方向になってしまう。

 

 電力債が特別扱いである状況は、格付けからも読み取れる。

 

 福島第1原子力発電所事故直後の東京電力の社債格付けは、11年4月時点では、格付け会社4社とも、極めて高い格付けであった。これが17年1月では、米系2社の社債格付けは「投機的等級」にまで下げられているが、日系2社の社債格付けは、低い水準ながら「投資適格等級」にとどまっている。投資適格等級であれば、生命保険会社など機関投資家が購入できる水準である。

 

 また、一般担保の有無によって、格付け会社の対応が分かれる点も特徴的だ。

 

 社債の格付けを見る際、長期信用格付けなど、発行会社そのものの格付けも参考になる。長期信用格付けは、満期1年以上の金融債務の「債務不履行(デフォルト)可能性」と、デフォルト発生時に予想される「損失規模」を考慮した「信用損失」を相対的に評価したものだ。

 

基本的に、一般担保の有無によって予想される損失規模の差は、格付け水準に差を付けるほど、信用損失の数値に影響はないと言われる。だが、デフォルトの可能性が高いと見られる場合、無担保の発行体格付けよりも、一般担保付社債の格付けが上になる場合がある。

 

 16年7月現在、米系のムーディーズとスタンダード&プアーズは、社債格付けと発行体格付けに2段階の差をつけている。無担保の場合の格付けを落としているのは、債務不履行の可能性と、損失規模がより大きいと見ているためだ。これはまさに、原発事業のリスク格差である。

 

 一方、日系の格付投資情報センターと日本格付研究所は、担保の有無では格付け水準に格差をつけていない。原発事業による損失が大きいとしても、担保の有無にかかわらず国の支援があることを相当程度織り込んでいるためである。

 

 原発事業を持つリスクを抱えるのは東電以外の大手電力会社も同じだが、原発の有無で格付けは変更されていない。16年10月時点では、関西電力の発行体格付けは格付け会社4社とも投資適格としている。電力債の発行条件が悪化しかねない経営リスクが反映されていないと言える。

 

 ◇信用力を特別扱い

 

 結局のところ、本来、国が喚起するべき公募電力債市場の健全な育成政策は議論されていない。投資家保護の観点から、原発事業を持つ電力会社で新たに発行する社債は、劣後債、あるいは格付けを落とす形で発行できるよう、制度を検討することも必要であろう。現状、新規発行の社債の扱いを大幅に落とす際は、既存の発行分についても金利などの発行条件を変更する必要があるが、東電などの電力債は発行残高が大きく、変更が難しい。しかし、事業リスクが顕在化した以上、投資家保護の趣旨からすれば、その制度設計について議論する余地はあるだろう。

 

 また、今回の東電グループの起債は、個人投資家も分かる形での情報開示が少なく、国も東電も、投資家保護の意識が乏しいように見える。当初の国による一時的な支援から、なし崩し的に恒常的な支援に変化しているのが現状である。事業リスクを本当の意味で織り込まない社債発行は、信用力の特別扱いに当たる。国が進める東電改革とともに、異常な公募電力債市場が進行しつつあるといっても過言ではない。

(三浦后美・文京学院大学教授)

この記事の掲載号

膨張続ける神宮外苑再開発利権 明治神宮と三井不がホテル計画

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東京都が配布した「神宮外苑ホテル(仮称)」のイメージ図
東京都が配布した「神宮外苑ホテル(仮称)」のイメージ図

池上正樹・ジャーナリスト

 

小池百合子東京都知事の「東京大改革」にのっとって「豊洲」や「五輪施設」などの問題がメディアに注目される一方で、新国立競技場の周辺では、神宮外苑地区の再開発が水面下で着々と進んでいる。

 

 緑の森に囲まれた絵画館に向かって美しいイチョウ並木が続く明治神宮外苑。そんな景観保護のための風致地区や文教地区として、同地区では厳しい規制が敷かれてきた。

 

ところが、新国立競技場の建設に伴って「再開発等促進区」になったことで、次々に整備計画案が具体化。今回も、新たに都から地区計画の変更案が示され、新国立競技場北側のJR中央・総武線沿いにある旧神宮プール跡地の約8470平方メートルの敷地で、民間の宗教法人明治神宮と三井不動産によるホテル建設計画が明らかになり、「景観が一変するかもしれない」と神宮外苑の杜(もり)が揺れている。

 

 ◇住民説明会は紛糾

 

 都は五輪を理由に強引な再開発を進めているが、これまでは「スポーツクラスター」として運動施設や競技団体拠点を前面に出していた。だが、今回は現在あるフットサルコートを閉鎖し、観光施設を設ける形だ。

 

 このため、都が2016年12月1日、神宮外苑近くで開催した地区計画変更案の住民向け説明会では、「このままでは神宮外苑の景観や面影が守られない」「どんどん歯止めがなくなっちゃう」などと、神宮外苑全体の高層化の進行を心配する声が住民から相次いだ。

 

 都が同日公表した整備計画案の概要によると、高さ50メートル、地上13階建ての「神宮外苑ホテル(仮称)」を建設する。18年度の冬ごろ着工、19年度夏ごろの竣工を目指す。昨年11月に示された新宿区景観まちづくり審議会の資料によると、客室数は350~400室を予定。1階にはレストランを開設、外装は、聖徳記念絵画館などと調和するアースカラーを基調とするという。

 

 三井不動産は「来訪者がスポーツ施設の近くに宿泊し、来訪しやすくなることで、交流を深め、賑わいを創出するといった観点で、街づくりに寄与できると考えている」(広報部)とする。土地を所有する明治神宮も「利便性が高まり、賑わいを創出したい」(総務部)という方針にも見合うと応じた。三井不動産が明治神宮から土地を借りる形で定期借地契約を交わす。ただ、契約年数については「回答を控えたい」(三井不動産)としている。

 

 同地区では、旧都営霞ケ丘アパート敷地の隣接地で、地上16階建て、高さ72メートルの「日本青年館・日本スポーツ振興センター(JSC)本部棟(仮称)」をはじめ、地上14階建て、高さ約65メートルの「日本体育協会・日本オリンピック委員会(JOC)新会館(仮称)」、地上22階建て、高さ約80メートルの民間マンション「外苑ハウス」(約410戸)の建て替えなど、トリプルタワーの計画も進む。

 

 中でも、都営アパートに住む多くの高齢者が、長年住み慣れた我が家から立ち退きを迫られる一方で、道1本挟んだだけの外苑ハウスは、この区画整理事業によって、敷地に接する公道を拡幅するなどの手厚い対応で、容積率が大幅にアップ。従来の196戸から、戸数も2倍以上に増える高層マンションに生まれ変わることになった。公営住宅をなくして住民を追い立てる一方で、民間マンション建て替えに異例の配慮をする都の姿勢は不可解だ。

◇崩れた運動施設集積の建前

 

 こうしたことが積み重なり、神宮外苑近くの住民は説明会でも不信感を募らせた。

 

「今回、規制緩和される点は何か?また、根拠となる公共公益性については、どなたが判断したのか?」

「ホテルとスポーツクラスターは、どう関係があるのか?」

 住民は、本質的な質問を次々と投げかけた。

 これに対し、都は苦しい説明に追われた。

「地区計画の方針に沿ったものが提案されたと判断して、都としては手続きを進めている」

「ホテルを入れることで、もっと活力のある街をつくっていきたい」

 

 そもそも、都が両者から計画の提案を受けたのは、16年8月のこと。都と新宿区は、その前から協議を続けてきたという。

 

「新国立競技場の最初の英国の建築家、ザハ・ハディド氏の設計案は線路をまたぐ形だったのに、コンペの最中、真逆の都営霞ケ丘アパートのほうにしっぽがかかる形に変更された。ザハさんは当時、地権者から要望されたと答えている。ホテル計画をいつ知ったのか?」

 

 そんな質問に対し、都や区は「協議の記録をとっていないのでわからない」と繰り返した。

 

 今回の観光ホテルに限らず、神宮外苑再開発は全貌が伏せられたまま進められている。今後は神宮球場や秩父宮ラグビー場などのある地区でも、再開発のための準備が進んでいるとみられる。

 

 説明会では開発側の秘密主義にも批判が集中した。

 

「住民の側から見ると、国立競技場の建設も含め、全体が一体開発。都が細切れに都市計画案を出してくる。都は、神宮外苑地区に対して、全体的なビジョンを持っていないのか?」

 

 そんな住民の質問にも、都の担当者はこうはぐらかす。

「再開発等促進区は、段階的な街づくりを進める制度です。全体像は、民間の土地ですから、地区計画の目標や考え方を共有しながら民間開発を誘導している」

 

 同地区に80年以上住んでいるという男性は、こう訴える。

「青年館の宿泊施設は、全国の青年団の寄付でつくった。今度のホテルは商業施設。質問すれば“民有地ですから”と言う。なし崩し的に外苑の面影も風情も失われている。どこで歯止めをかけるのか?」

 

 これに対し、都の職員の回答が、

「緑の考え方につきましては、地区計画の目標にも掲げていますが、緑豊かな風格と活力を兼ね備えた魅力ある街を目指しています」

 と、まるで壊れたレコードのように空しく会場に響く。

「全然、わからねえよ…」

 住民の老人は、怒りをかみ殺したような低い声で、そうつぶやいた。

 

 神宮外苑地区計画の情報開示請求を続けている近隣住民の渥美昌純さんは、こう嘆息する。

「景観や環境を維持し、高い建物を建てないよう、地域では皆が協力して我慢してきた。それが、公共の名の下に、こうして高さ制限が撤廃され景観を壊していく。全体像が見えないから、着地点さえわからない」

 

 都は、この計画変更案を2月3日の都市計画審議会にかける予定だ。了承されると、都市計画変更が告示される。都の都計審が神宮外苑再開発がらみの都市計画変更案にストップをかけた例はない。

(池上正樹・ジャーナリスト)

泉田裕彦 前新潟県知事インタビュー「国民負担の説明は不十分 まず原子力防災対策急げ」

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福島事故後の検証・総括なしに柏崎刈羽原発再稼働の議論はできないと主張してきた前新潟県知事の泉田裕彦氏に、東京電力、経済産業省の問題を聞いた。

(聞き手=後藤逸郎/松本惇・編集部)

 

── 福島の事故処理費用が増え、国民負担が増える話をどう見ているか。

■原子力が安いなら、原発を動かした場合、国民負担は消えるはずだ。そこをまず説明する必要がある。原発を動かしても国民負担が増えるなら、原発は高いことになると思う。本来負担するべきは誰だったのかという議論なしに(試算を)言われても、どうだと言いがたい。東電は改革のリポートをまとめたが、十分に説明し切れているだろうか。情が伝わってこない感じはする。

 

 ◇省庁の「領土問題」

 

── 賠償費用を託送料に上乗せする。税金の形にしたくないのでは。

■そうではない。経済産業省と財務省の「領土問題」が原因だ。国民の一般の税は財務省管轄。今回は経産省の不始末だから経産省、というやり方しかできない。本当はオールジャパンで考えるべきだろう。

 

── 事故処理は国民負担の問題のほか、どのような観点で進めるべきか。

■原子力防災をどうするかがあると思う。原子力事業者がばらばらで持つべきかという問いがある。福島の事故は東京電力だったので、官邸の近くに本社があり、テレビ会議でつながっていた。電源は東北電力のものが来ていた。他の電力で統合本部は作れるのかどうか。スウェーデンは、原発構内に本社を持つ。東電の事故でも(建設費が)1基5000億円だから本社が介入する。最終責任を持つ人が放射能を被るリスクを負うのが望ましいと思う。

 事故のノウハウが他の原子力事業者につながっているかも疑問だ。事故現場に近い事業者は原子力防災や避難の問題をよく知っているが、遠い事業者はわかっていない。原子力防災のノウハウを蓄積するうえで、再編の選択肢はあり得る。原発構内に本社を持つこととノウハウを共有する話は相反するが、この両面を考えて検討していくべきだと思う。

 

── 経産省の改革は再稼働ありきで、コスト、安全面の視点が欠けていないか。

■経産省の中でも2派ある。福島の復興に携わり、「今のままではだめだ」という勢力と、「うるさい知事がいたら首を取って(原発を)動かしてしまえ」という勢力だ。強権的な方向に向かえば人類にとってもマイナスになる。これだけの大事故が起きたのだから、後世に生かさないといけない。

 

── 東電を生かす形で事故処理が進んでいる。

■原子力部門を切り離す可能性もあるだろう。原子力事業の再編はやるべきだと思う。少なくとも切り離しは国主導でできる。

 

── 東電は法的整理するべきだったか。

■それも選択肢の一つだ。日本航空(JAL)は経営再建をするうえで、OBの年金減額まで行った。金融機関も負担した。原子力事業も同じだと思う。融資リスクをきちんと機能させることで、安全面にプラスの効果が出てくるのは間違いない。

 

── 東電の体質の問題は。

■東電はお金が絡むと判断が鈍る。(福島の汚染水対策で)はじめは、凍土壁でなく粘土でしっかり埋めようという計画だったが、債務超過になって株主総会を通らないので発表をやめた。それが2年遅れた揚げ句に凍土壁になって、もう止まらないという状況になっている。

 

── 福島と同様に、女川原発(宮城県)が津波を受けても無事だったのは、建設時に東北電力の幹部が地面を高くさせたからだという。

■逆に東電は、なぜ低くしたのか。(地面を高くすることで)一時循環水をポンプアップ(引き上げること)すると、電気料金がかかるという理由だ。歴史的に見ても、太平洋はプレート型地震で津波が来る。安全性の軽視だ。

 

 ◇再稼働に特定の結論なし

 

── これまでに再稼働の話は早いとしていたが、条件が整えば再稼働も反対ではなかったのか。

■条件があるわけではなくて、原子力防災をどうするのか、安全をどう確保するのか、国民や住民の理解が得られるのかという多元方程式になっていると思う。安定供給、コスト、価格、電気料金の問題もあるので、これとこれがあれば結論はこうだという簡単なものではない。誰がどう助けるのか、規制基準の見直しはどうするかなど、まず、わかっている問題に向き合えということだ。

 エネルギー供給計画は、コスト、安定供給、世界情勢、カントリーリスクを含めて判断するものだ。私自身、経産省では石炭部、石油部で2度、エネルギー基本計画の策定に携わった。産業、運用部門でどれだけエネルギーがいるか、計画を立てて見直す。極めて専門的な議論をしている。原子力も例外ではない。

 

── 再稼働の結論が先にあったことはないか。

■特定の結論を持っていたことはない。本心として違う。

 

── 責任を取っていない東電が運営して再稼働することが問題か。

■それは昨年10月の知事選挙で県民の意見が示された。

 

── 安全も確保された状況が整えばいいのか。

■メカニズムの安全だけではない。うそをつかない組織かどうか。人は神様でないから、事故はゼロにならない。その時でも住民の生命、安全、財産を守れるかということを含めて制度設計した上で、(議論の)テーブルに載せることが必要だ。

 

── 議論はできる状況だったか。

■県民の理解を得るのは極めて至難な状況だと思う。事実として原子力発電所は存在している。メンテナンスは続けなければならないし、使用済み核燃料の処分もやらなければならない。誰がやるのかという時に、トラブル隠しをするなど、社内の都合の悪い話はいまだに言えない。

(2011年)3月11日の夜半にはメルトダウン(炉心溶融)が起きている。認識は早い段階で、専門家も認めている。だが、幹部が説明に来た時、メルトダウンしていないと言って帰った。その後、謝罪があって、「情報収集が十分できなくて伝えられなかった」という文章が出ている。

 

── 議論に向かう前の段階ということか。

■本当のことを言えないなら(再稼働の議論は)難しいのではないか。言える人を社長に据えるくらいのことをしないと。

 

── 懸念されてきた安全面についての問題は。

■致命的なのは、線量が上がった時、屋外退避から避難命令に変わるのだが、その時の基準は毎時500マイクロシー ベルトになっており、2時間で1ミリシー ベルトになることだ。1ミリシー ベルトは一般人の年間被ばく量に当たる。

 新潟では44万人が屋外退避の対象になるが、2時間でどう避難させるのか。試算すると1万4000台くらいバスを用意しなければいけない。サービス基準が国交省で定められていて、通常運行しているバスを勝手に運休させていいのか、定時運行しているバスを他から回してよいのかなどの問題が生じる。

 

── 後任の知事の課題は。

■問題は、米山隆一新知事は、柏崎刈羽の火災事故などを指揮した経験がないことだ。地震が起きた時の県の業務や、福島に支援する時の迫られる決断などを経験していない。

 

 ◇知事選出馬撤回の理由

 

── 改めて、知事選出馬を撤回した経緯は。

■撤回した理由の9割は『新潟日報』の虚報だ。(中古フェリーの購入をめぐる県の不手際について)新潟日報が書いているのはうそだから、自分たちの主張を通したいのなら、紙面上で議論しようと言ったのに、我々は正しいと言って議論を避けた。

 報道や取材でいろいろな人に迷惑がかかった。真実しか言っていないのに、職員が新聞を見るのがつらくなったこともあった。職員は議会で説明するために夜遅くまで答弁を書く。翌日、新聞で「県当局、虚偽答弁か」と書く。真実が伝わらず、よくわからない中で説明を求められてまた迷惑をかける。私が身を引き、別の人が新潟の未来を議論した方がよいと考えた。民意がはっきりして政府に対する交渉力が増すと思った。

 

── 新潟日報は原発に厳しかったが、なぜ攻撃されたのか。

■証拠がなく、可能性としてでしか言えないが、(東電が)広告を5回出したと聞いた。(最終)利益7億円の会社で(影響力は)すごいかもしれない。新潟日報は広告費がいくら出たかは明らかにするべきだと思う。

(泉田裕彦・前新潟県知事)

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 ■人物略歴

 ◇いずみだ・ひろひこ

 1962年、新潟県加茂市生まれ。京都大卒。87年に通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁石油部精製課長補佐、国土交通省貨物流通システム高度化推進調整官などを歴任し、2004年の新潟県知事選に初当選。16年10月に退任するまで3期12年務めた。

この記事の掲載号

目次:2017年2月14日号

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電池バブルがキター!

18 リチウム電池が急拡大 世界の車が電動化する ■種市 房子

21 電池需要なぜ増える? 1 欧米メーカーがEV注力 ■貝瀬 斉

23 電池需要なぜ増える? 2 急拡大する中国市場 ■黒政 典善

24 電池需要なぜ増える? 3 電力システム制御の「定置用」 ■種市 房子

25 部材メーカー担当役員インタビュー

  高山 茂樹 旭化成セパレータ事業本部長 荒木 良剛 三菱化学電池本部長

26 Q&A リチウムイオン電池を基礎から学ぶ ■鷹羽 毅

28 これが電池銘柄だ! 日本企業の技術力に強み ■和島 英樹

31 台頭する中国部材メーカー 日本は海外の戦略転換が急務 ■稲垣 佐知也

32 パナソニック・テスラ連合 EV普及の起爆剤か 価格競争の号砲か■種市房子/土屋 渓

33 サムスン、LGもEVベンチャーに供給 ■種市 房子

34 ソニーは撤退、日産は売却へ 日の丸メーカーが招いた落日 ■佐藤 登

35 航続距離の競争 電池を使うノウハウが鍵 ■川端 由美

36 リチウムの次は何か 材料研究では日本がリード ■木通 秀樹

38 インタビュー リチウムイオン電池生みの親 吉野 彰 「車向けは第二の波 次世代電池も開発進む」

 

Flash!

11 入国制限は米国企業にも打撃/シムズ教授インタビュー/FTPLで論争/タクシー初乗り値下げ

15 ひと&こと 第一三共社長人事/マツダとトヨタの提携に陰り/偽造肝炎薬は裏ルート

 

エコノミスト・リポート

82 蜜月なしの100日間 大統領令乱発のトランプ政権 ■西川 賢

 

40 海洋 海底の地形を100%解明へ ■海野 光行

70 スポーツ ヴェブレンが指摘した五輪熱狂の危うさ ■佐藤 光宣

72 鉄道 北海道の鉄道は航空とのコラボに活路 ■杉浦 一機

74 証券 早耳アナリストは価値失う ■大川 智宏

76 製薬 武田が大型買収で繰り返す「高値づかみ」 ■村上 和巳

78 働き方 仏で始まった「つながらない権利」 ■福田 直子

80 有機EL 三原色独立発光は大型化困難 ■服部 毅

 

Interview

4 2017年の経営者 辻 庸介 マネーフォワード社長

44 問答有用 中田 郷子 認定NPO法人MSキャビン理事長

  「独立した立場で、信頼ある情報を伝えていきます」

 

World Watch

58 ワシントンDC 大統領の保護主義はナバロ氏との出会いから ■今村 卓

59 中国視窓 ダボスで世界トップ宣言 ■金子 秀敏

60 N.Y./カリフォルニア/英国

61 韓国/インド/フィリピン

62 台湾/ロシア/UAE

63 論壇・論調 習主席が自由貿易の擁護演説 ■岩田 太郎

 

Viewpoint

3 闘論席 ■佐藤 優

17 グローバルマネー 「物価水準の財政理論」は「成長理論」ではない

42 名門高校の校風と人脈(228) 大村高校(長崎県) ■猪熊 建夫

48 学者に聞け! 視点争点 経費削減に偏る民間活用 ■伊集 守直

50 言言語語

64 アディオスジャパン(39) ■真山 仁

66 海外企業を買う(127) ウェスタン・デジタル ■岩田 太郎

68 東奔政走 時代とともに変化する「天皇像」 ■末次 省三

85 商社の深層(56) 大手商社の役員人事(上) ■編集部

92 景気観測 日本は内需回復と国内回帰で生産増 ■枩村 秀樹

94 ネットメディアの視点 天皇と首相の“情報戦” ■山田 厚史

96 アートな時間 映画 [ナイスガイズ!]

97        美術 [ティツィアーノとヴェネツィア派展]

98 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Border Tax ”

 

Market

86 向こう2週間の材料/今週のポイント

87 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット

88 ブラジル株/為替/穀物/長期金利

89 マーケット指標

90 経済データ

 

書評

52 『観光立国の正体』

  『オバマ政権の経済政策』

54 話題の本/週間ランキング

55 読書日記 ■楊 逸 

56 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

 

51 次号予告/編集後記

週刊エコノミスト 2017年2月14日号

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発売日:2017年2月6日

定価:620円(税込み)

 

電池バブルがキター!

 

◇リチウム電池が急拡大

◇世界の車が電動化する

 

 電池関連企業の業績が好調だ。

 日立化成は1月25日、2017年3月期連結の最終利益予想を395億円(前年同期比2・6%増)に上方修正した。従来予想は前年比9・1%減の350億円だったが、足元の好業績を反映して一転、増益となった。

 売り上げ増の中で目を引くのが、同社が世界シェアトップを誇るリチウムイオン電池用の負極材の伸びだ。全文を読む


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