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目次:2017年3月7日号

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高値からの株・債券 為替

22 NYに追い付けない日本株 大型株避け活況の中小型  ■桐山 友一

24 インタビュー ロバート・バウアー 「大統領選以前から米国と世界経済は拡大」

25 金投資 人口16億イスラム圏も参入 ■森田 隆大

26 相場変動に強い日本株はこれだ! 大型40銘柄 中小型40銘柄

クオリティー・バリュー投資 現金創出力と低PBRに着目 ■大川 智宏

29 本当に長く持てる株 米国15銘柄、日本5銘柄 ■尾藤 峰男

注目銘柄をチェック!

32 1 ソフトバンクグループ ■編集部

33 2 小野薬品工業  ■編集部

34 3 三菱電機 ■安井 健二

35 4 マツダ  ■遠藤 功治

36 歴史の視点 トランプ政権の“本質”はルーズベルト ■加谷 珪一

38 米国一強の加速 日本株も巻き込まれ乱高下 ■大川 智宏

40 ドル・円相場 金利差との相関は崩れる ■山本 雅文

41 新興国・資源国通貨 対米依存度が左右 ■山本 雅文

42 J─REIT 日銀と証券会社が誘導 ■山崎 成人

43 債券 新興国の高利回り妙味 ■前川 貢

 

Flash!

15 日産ゴーン社長退任の理由/関西3地銀統合の前途多難/京都府立医大ワンマン学長の責任/オリンパス粉飾事件「私は指南役ではない」

19 ひと&こと ANA株が一時7%安に/経産省“取材規制”は官邸に従順/偽造医薬品裏ルート一掃は困難

 

Interview

4 2017年の経営者 尾賀 真城 サッポロホールディングス社長

48 問答有用 早川 和子 常磐音楽舞踊学院最高顧問

 「ひまわりのように咲きなさいと教えています」

 

ガス自由化 電力が仕掛ける戦国時代

74 東電はニチガスを先兵に 関西は既に値下げ合戦 ■池田 正史

76 インタビュー 広瀬 道明 東京ガス社長 和田 真治 日本瓦斯(ニチガス)社長

77 Q&A ガス自由化の基礎知識 プラン比較 どっちがお得? ■南野 彰/編集部

  東京ガス vs ニチガス/大阪ガス vs 関西電力 東邦ガス vs 中部電力/西部ガス vs 九州電力

81 電力会社の戦略 主戦場はむしろ大口顧客 ■武田 吾郎

83 ドイツに学ぶ 地域密着型が強み発揮 ■瀧口 信一郎

84 不十分な競争 迫られる「電力並み」改革 ■橘川 武郎

85 LPガス業界 高く不透明な料金体系 ■葉山 秋夫

 

エコノミストリポート

86 ゼロどころか増加 待機児童解消に展望欠く政府 学童保育や地方、幼稚園の活用を■池本 美香/立岡 健二郎

 

44 フィリピン ドゥテルテ人気は衰えず ■中坪 央暁

 

World Watch

62 ワシントンDC トランプ外交のおもてなし ■会川 晴之

63 中国視窓 中英間の鉄道網が「開通」 ■北村 豊

64 N.Y./カリフォルニア/英国

65 韓国/インド/マレーシア

66 上海/ブラジル/南アフリカ

67 論壇・論調  米大統領令に対抗するドイツ ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■片山 杜秀

21 グローバルマネー ITバブル初期に似る現在の米株高

46 名門高校の校風と人脈(231) 西大寺高校/倉敷青陵高校(岡山県) ■猪熊 建夫

52 学者に聞け! 視点争点 日本経済から景気の波が消えた ■釣 雅雄

54 言言語語

68 アディオスジャパン(42) ■真山 仁

70 海外企業を買う(130) IHHヘルスケア ■児玉 万里子

72 東奔政走 成功でも火種残る日米首脳会談 ■佐藤 千矢子

89 商社の深層(59) ファミマvsローソン ■花谷 美枝

96 景気観測 “消費強気派”の判断に疑問あり ■上野 泰也

98 ネットメディアの視点 金正男氏、国際派の素顔 ■土屋 直也

104 アートな時間 映画 [ラ・ラ・ランド]

105 舞台 [足跡姫 時代錯誤冬幽霊]

106 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Dodd-Frank Law ”

 

Market

90 向こう2週間の材料/今週のポイント

91 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■小野 雅史/週間マーケット

92 インド株/為替/穀物/長期金利

93 マーケット指標

94 経済データ

 

書評

56 『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』

『宣教師ザビエルと被差別民』

58 話題の本/週間ランキング

59 読書日記 ■孫崎 享

60 歴史書の棚/出版業界事情

 

55 次号予告/編集後記


週刊エコノミスト 2017年3月7日号

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定価:620円

発売日:2017年2月27日

 

 高値からの

株・債券・為替

 

◇NYに追い付けない日本株

◇大型株避け活況の中小型

 

米株価の勢いが止まらない。2月22日のニューヨーク株式市場では、優良株で構成するダウ工業株30種平均が前日比0・2%高の2万775・60ドルと、9営業日連続で史上最高値を更新。連続での最高値更新は実に約30年ぶりという。ハイテク株中心のナスダック総合株価指数と、大型株中心のS&P500株価指数は反落したものの、いずれも最高値圏で推移する。高値づかみはしたくないが、この先の上昇を指をくわえて見ているのもつらい。全文を読む


特集:高値から始める株・債券・為替 2017年3月7日号

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◇NYに追い付けない日本株

◇大型株避け活況の中小型

 

 米株価の勢いが止まらない。2月22日のニューヨーク株式市場では、優良株で構成するダウ工業株30種平均が前日比0・2%高の2万775・60ドルと、9営業日連続で史上最高値を更新。連続での最高値更新は実に約30年ぶりという。ハイテク株中心のナスダック総合株価指数と、大型株中心のS&P500株価指数は反落したものの、いずれも最高値圏で推移する。高値づかみはしたくないが、この先の上昇を指をくわえて見ているのもつらい。米国株は今、どのような状態にあるのか。そして、この先は何が買われるのか。

 

 東海東京調査センターの平川昇二グローバルチーフストラテジストによれば、米国を中心とした景気の循環によって買われる資産のタイプに特徴がある。景気の循環は長短金利の利回り曲線(イールドカーブ)の形状に表れると考えることができ、現在は米国で長短金利とも上昇しながら長短の金利差が拡大する「景気回復」の時期にあたるといえそうだ。米連邦準備制度理事会(FRB)は現在、金融引き締めに向かっており、その場合は「米ドル資産や割安なバリュー株、銀行株などが買われることが多い」(平川氏)。

 

 ◇上昇する新興株市場

 

 米国の動向は日本など世界に大きく影響する。実際、日本でも株価や純資産に対して株価が割安な鉄鋼や紙パルプなどの業種の株価は上がっている。新日鉄住金は2月23日の終値時点で、年初来9・2%、王子ホールディングス(HD)も13・2%とそれぞれ上昇したほか、銀行株でも三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)も6・1%上がっている。日経平均株価が2月23日、米国株とは対照的に2日続落の1万9371・46円で引け、年初来1・3%の上昇と上値が重い状況の中で、バリュー株や銀行株の堅調な値動きが目立つ。半面、医薬品など割高な株は、業績の大幅改善は見込みにくく、株価も上昇しにくい状況だ。

 

 一方、大型株を避けた個人のマネーが向かったと見られるのが中小型株市場だ。日経平均株価やTOPIXのさえない値動きに対し、2月14日には新興市場の日経ジャスダック平均株価が25年半ぶりの高値を記録。東証2部指数や新興市場のマザーズ指数、時価総額など一定の基準を満たしたジャスダック銘柄で構成するJ-STOCK指数も軒並み、年初から上昇している。

 

 投資情報会社フィスコの田代昌之アナリストは「自動車株など日本の大型株は、トランプ米大統領の政策や為替相場の変動など海外の要因に影響されやすく、積極的に買いにいける材料に乏しい」と話す。

 

 中小型株は内需が中心の銘柄が多く、海外の要因に左右されにくい。また、新興市場は時価総額が小さいため、まとまったマネーが短期間に流入すれば、株価は押し上げられやすくなる。フィスコによれば今年2月、昨年来高値を記録した東証2部、ジャスダック、マザーズ銘柄は、17日までで356銘柄を数え、今年1月の185銘柄、昨年12月の108銘柄から大幅に増加した。特に、2月は16年10~12月期決算発表で17年3月期の通期業績を上方修正する企業も多く、目先の買い材料には事欠かない。ただ、そうした動きは一方で、海外要因などに左右されず、着実に業績を伸ばし続けられる日本の大型株の少なさも表す。

 

 こうした相場の状況に、投資のタイミングをつかめない人も少なくない。しかし、タイミングを読んで売買するのは、プロでも至難の業。売却後に相場の上昇を目の当たりにすれば、相場に追いつきたいと上昇後に再び買ってしまい、肝心の上昇期を逃してしまう。

 

 興味深い試算がある。S&P500株価指数に昨年6月末まで10年間、投資した場合、ずっと持ち続けると資産は倍になった。しかし、この間、上昇率が最も高かった10日の間に投資しなかったとすると、それだけで資産はほとんど増えない結果に。上昇率が最も高かった20日の間を逃せば、資産はむしろ減少してしまう。

◇上昇相場を逃さない

 

 個人向けに資産運用をアドバイスするびとうファイナンシャルサービスの尾藤峰男氏は「株式市場は突然、急上昇したりすることがあるが、それらは極めて限られた日数の間に起きている。相場の急上昇や急落のタイミングを読むのは難しく、タイミングを読めばむしろ上昇期を逃す可能性が高い。株式投資で成果を得るためには、常に投資を続けていることが大事だ」と指摘する。しっかりと投資対象を選んでどっしりと構えてさえいれば、“高値”と感じても怖くない。

 

(桐山友一・編集部)

特集「高値から始める株・債券・為替」の記事一覧

NYに追い付けない日本株 大型株避け活況の中小型  ■桐山 友一

インタビュー ロバート・バウアー 「大統領選以前から米国と世界経済は拡大」

金投資 人口16億イスラム圏も参入 ■森田 隆大

相場変動に強い日本株はこれだ! 大型40銘柄 中小型40銘柄

クオリティー・バリュー投資 現金創出力と低PBRに着目 ■大川 智宏

本当に長く持てる株 米国15銘柄、日本5銘柄 ■尾藤 峰男

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 1 ソフトバンクグループ ■編集部

 2 小野薬品工業  ■編集部

 3 三菱電機 ■安井 健二

 4 マツダ  ■遠藤 功治

 歴史の視点 トランプ政権の“本質”はルーズベルト ■加谷 珪一

 米国一強の加速 日本株も巻き込まれ乱高下 ■大川 智宏

 ドル・円相場 金利差との相関は崩れる ■山本 雅文

 新興国・資源国通貨 対米依存度が左右 ■山本 雅文

 J─REIT 日銀と証券会社が誘導 ■山崎 成人

 債券 新興国の高利回り妙味 ■前川 貢

週刊エコノミスト2017年3月7日号

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オリンパス粉飾事件を語る 『野村證券第2事業法人部』横尾宣政氏

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インタビュー 横尾宣政・元野村証券社員

オリンパス粉飾事件を語る

「私は指南役ではない」

 

オリンパス粉飾事件の「指南役」として有罪判決を受け、最高裁に上告中の元野村証券社員、横尾宣政被告が2月22日、『野村證券第2事業法人部』(講談社)を出版した。オリンパス事件やバブル期の法人営業の実態について聞いた。

(聞き手=稲留正英・編集部)

 

 

── オリンパスとの関わりはいつからか。

 

■1986~87年、第2事業法人部在籍の終わりごろに担当になった。当時オリンパスは野村から買った債券で約100億円の損失を抱えていたが、ワラント(新株予約権)や日本鋼管株の売買で得た利益を使って解消した。もちろん合法的な取引だった。その時のオリンパスの財務担当者は山田秀雄氏(後の副社長)だった。

 

 その後、音信不通だったが、浜松支店に勤務していた92年の1月と3月に、山田氏から運用するファンドで400億~450億円の損を出し、外資系証券の決算対策商品を使って含み損に変えたとの電話があった。しかし、当時の支店長からは「オリンパスの担当でもないし、二度と関わりを持つな」と指示され、それで終わった。

 

── 家宅捜索では、92年の通話時の自筆メモが押収され、「簿外債務を知りながら、粉飾決算のほう助をした」として罪を問われた。

 

■2000年以前は簿価会計であり、決算対策商品で実現損を含み損に変えることは違法ではなかった。私が92年の山田氏との通話内容を書き留めたメモには「そういう決算操作を毎年やっているが、監査法人に全て話して了解をもらっている」と書いてある。当然、損失の処理はオリンパス内部で終わっていると思っていた。

 11年に事件が発覚して初めてオリンパスが97年に損失を簿外ファンドに飛ばしたと知った。そもそも92年には簿外債務自体なかった。それなのに、1審、2審とも私が簿外債務を知っていて、手助けしたことになっている。私は断じて指南役ではない。

 

── 含み損を抱えた有価証券を買い取る簿外ファンドに融資するため、オリンパスにリヒテンシュタイン公国のLGT銀行を紹介したことも、有罪の証拠とされている。

 

■私が六本木の飲食店でLGT銀行の担当者とオリンパス財務担当者の山田氏と会ったのは、1998年3月7日だ。しかし、入国記録によると、2月18日にLGT銀行の取締役が来日している。そして、オリンパスは同23日に簿外ファンドへの融資に必要な印鑑証明を取得している。

 オリンパスの森久志・元副社長は法廷で「LGT銀行の頭取と取締役が融資審査を兼ねて来日し、下山敏郎会長が対応した」と証言している。3月7日時点で、LGT銀行とオリンパスはすでにビジネス上のパートナーだったはずだ。

 

── LGT銀行の書類には、あなたが簿外ファンドへの送金などを指示したサインが残っている。

 

■私が実際に署名したのは二つだけ。ほとんどはLGT銀行東京駐在事務所長による偽筆だ。事件の証拠開示を求めていく過程で10件見つかった。事務所長は「LGT銀行に偽筆したことが露見したら、絶対に解雇された」と法廷で証言している。また「オリンパスの指示に従って実行した」とも話している。

 オリンパスは明らかに、私に知らせてはいけないとして彼にサインさせた。これだけでも、私が粉飾に関わっていない証拠になる。

 

── 著書の前半ではバブル全盛期の野村の法人営業の実態が赤裸々に描かれている。

 

■第2事業法人部で担当した100社のうち損をさせてしまったのは2~3社だけだ。ほとんどの会社は運用で大きな利益を出した。今でも胸を張って野村で働いて良かったと言える。

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 ◇よこお・のぶまさ

 

 1954年兵庫県生まれ。78年野村証券入社、金沢支店、第2事業法人部、新宿野村ビル支店長などを歴任。98年退社。2011年のオリンパス粉飾事件で粉飾の「指南役」とされ、12年証券取引法・金融商品取引法違反容疑で逮捕。その後、詐欺罪、組織犯罪処罰法違反も加わる。1審、2審で有罪判決を受け、最高裁に上告中

 

*週刊エコノミスト2017年3月7日号 掲載

経営者:編集長インタビュー 尾賀真城 サッポロホールディングス社長

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◇もう一度、ビール回帰へ

 

 ◇Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 貴社の強みは。

尾賀 サッポロラガービールのラベルには、「JAPAN'S OLDEST BRAND(日本で一番歴史あるブランド)」とあります。作り方から追求し、原材料の麦やホップを独自に品種改良して作るなど、創業時からこだわりと責任を持ち続けています。

 2003年に持ち株会社体制となり、酒類、食品・飲料、外食、不動産の4本柱で事業を展開してきました。「黒ラベル」「エビス」や、老舗ビアホールを運営する「サッポロライオン」、グループで運営する商業施設「恵比寿ガーデンプレイス」(東京・渋谷)などがわれわれの財産です。

 

 1876年に政府の開拓使が北海道札幌市に前身である日本初のビール醸造所「開拓使麦酒醸造所」を設立した。そこで作られた「札幌ビール」が社名の由来だ。ビールのラベルに描かれている星マークは、北海道開拓使の記章でもある北極星を表す。

 

── 業績は。

尾賀 16年12月期の連結決算は、売上高が前期比1・5%増の5418億円、純利益が同55%増の94億円でした。17年12月期も増収増益の見通しです。苦しい時代もありましたが、いろいろとやってきた成果が表れつつあると思います。祖業のビールは、黒ラベルやエビスなどの販売が伸びています。ここ2年ほど、ビールに焦点を当ててやってきたことが成果に結びつきました。

 新たに投資してチャレンジしてきた事業も少しずつ育っています。11年にポッカコーポレーション、16年にみそを製造・販売する宮坂醸造を買収しました。06年のカナダのスリーマンビール買収は一つの転機になりました。スリーマン社はこの10年で販売高1・5倍、営業利益2・8倍と順調に推移しています。

 また、焼酎や洋酒の分野に参入しました。ラムブランド「バカルディ」などを有するバカルディジャパンと提携することで、扱う洋酒の種類が増えました。お客様に総合的にお酒を提供することができるようになったことが大きいです。

 

── 業績寄与の不動産事業は。

尾賀 札幌、恵比寿、銀座など立地のよいところに賃貸オフィスや商業施設を保有しており、賃料収入など安定した収益が上げられる事業なので、きちんとやっていきたいです。

 

── そのほかの海外事業は。

尾賀 サッポロUSAの販売量も伸びています。米国ではサッポロがアジアのビールメーカーで最も売れています。アジアでは、べトナムに工場を作って5年が経過しました。需要が高い業務用ビールに注力し、黒字化することが一つの課題です。

 

── 力を入れている食の分野は。

尾賀 ポッカの代名詞でもあるレモンは飲料のフレーバーとして使われることが多いです。「レモンでできることはポッカが全部やる」ということを追求していきたいと思います。例えば、産地の違いがどう製品に表れるかなど、掘り下げることができていない部分もあると思います。

 

── M&A(合併・買収)戦略は。

尾賀 分野に限らず、互いに価値を高められる相手ならば、可能性はいろいろあります。これからの時代はあらゆる角度から事業を考えていかなければなりません。

 

 ◇支持される商品を

 

── ビールに回帰する理由は。

尾賀 発泡酒、新ジャンルを初めて作ったのはサッポロです。開発した1990年代半ばから00年代前半はデフレで、物の低価格化が進んでおり、なるべく手に取ってもらえるように、いろいろな商品を作りました。

 その結果、他社を含めて競争となり、本来われわれが持っているブランド価値が希薄になったと感じました。お客様が求めることを考えた時、もう一度、ビールだと思いました。

 

── 消費者のニーズをどう分析していますか。

尾賀 酒類が多様化する中で、お客様にとってビールの位置づけが変わってきました。30年前は「どこに行ってもビール」でしたが、今では乾杯後の2杯目からは他のお酒、多くても3杯は飲まないのが現状です。

 ですから、提供の仕方や商品開発を工夫する必要があります。例えば、ゆっくり嗜(たしな)むビールなど、2杯目に飲んでもらえるようなビールを開発しなければなりません。シーンに合わせた選択肢が増えるとビールの幅も広がっていくと思います。

 

── ビール系飲料で4位のシェアをどのように伸ばしていきますか。

尾賀 シェアを高めればすぐに利益に結びつくとは限りません。今よりも当然上を目指しますが、シェアはお客様に選ばれた結果だと思っています。現場が絶対に負けないという意識を持ち、お客様の嗜好(しこう)を捉えていかなければなりません。

 

── 今後の目標は。

尾賀 20年に売上高6400億円、営業利益340億円という目標を掲げています。営業利益は300億円を上回ったことがないので、達成すれば初となります。ビール、飲料、食品などでそれぞれ何をするか考え、数字につなげていきたいです。

 サッポログループは「個性輝くブランドカンパニー」を目指しています。各事業が輝き、ビール会社なので基本的に楽しい、味のある会社にしたいといった思いがあります。

 それにはどうしていけばよいか。例えば、プレミアムビールといえばエビスしかない、北海道に行ったら絶対に「サッポロクラシック」だというように、圧倒的に支持され、「いいね」と言ってもらえるものを作る会社にしていきたいと思います。

(構成=丸山仁見・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A バブル絶頂期で池袋エリアを担当していました。毎日、深夜に帰宅するくらい営業に奔走していました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 司馬遼太郎の『坂の上の雲』『竜馬がゆく』です。明治時代の群像劇をわくわくしながら読みました。

 

Q 休日の過ごし方

A 時間があれば妻と旅行に出かけています。

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 ■人物略歴

 ◇おが・まさき

 1958年生まれ。東京都出身。国学院久我山高校卒業。82年慶応義塾大学卒業後、サッポロビール(現サッポロホールディングス〈HD〉)入社。主に営業・マーケティング部門を歩む。2009年サッポロビール執行役員、13年同社社長、HD取締役兼グループ執行役員などを経て、17年1月HD社長に就任。58歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:酒類、食品・飲料、外食、不動産

本社所在地:東京都渋谷区

設立:1949年9月1日(1876年9月創業)

資本金:538億8600万円

従業員数:連結7858人(2016年12月末現在)

業績(16年12月期・連結)

 売上高:5418億4700万円

 営業利益:202億6700万円

【EconomistView】:酪農の現状と未来を考える 2017年3月7日号

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(写真)日量300tを安全・衛生的に処理する

茨城県央クーラーステーション

国産牛乳の生産者と消費者をつなぐ仕組み

 

日本の農業産出額のうち一位を占める畜産業。中でも牛乳となる生乳は国産100%を保ち、生産量で米を上回る基礎食品だ。鮮度が命の生乳を廃棄することなく、365日安定供給する日本の酪農の取り組みを取材した。

 

 


◇酪農家の安定経営を支える指定団体の多様な役割

 

 

 牛から絞った生乳()は腐敗しやすく貯蔵しにくい液体なので、短時間のうちに乳業メーカーに引き取ってもらう必要がある。そのため、酪農家が単独で価格交渉すると不利な立場に置かれる傾向にあった。そこで1966年に設立したのが、指定生乳生産者団体(指定団体)制度。生産者に代わって乳価交渉や受給調整などを行う。

  乳業メーカーは用途も買取価格も異なるため、いったんプールし、酪農家には同じ単価で支払う。生乳をまとめて輸送することでコスト削減、広域ルートの利用で販売調整も可能になった。天候や天災、景気の変動などで生じるリスクの負担も公平に分散できる仕組みだ。

 栃木県那須烏山市鴻野山で乳牛140頭を飼育する高瀬賢治さん(60)は、妻と2人の息子さんとの家族経営。高瀬さんも「安定した牧場経営に欠かせない制度」と言う。

「生き物相手ですから、毎日、クーラーの生乳がカラになってくれるのが一番ありがたい。厳格な検査も消費者の安心につながると理解しています」(高瀬さん)

 平均80頭の経産牛で年間千トン近い生乳を生産する高瀬牧場。従来のつなぎ飼いから、「フリーストール」とよばれる放し飼いに変えた。搾乳場にも牛が自分で移動する。

 

 「牛のストレスと労働力が軽減されるし、糞尿のある寝床とエサ場が分離しているので衛生面でもいい。頭数を増やすより、牛の質を高めて一頭当たりの生産量を上げる方が効率的だと考えています」 

 関東圏内には茨城と千葉にクーラーステーション(CS)があり、毎朝、タンクローリーが牧場を回って集乳する。厳密なサンプル検査を完了後、CSのタンク内に受乳、その日のうちに各乳業メーカーへ送乳する。集乳時のバーコードと個別サンプルの保管で、万一異常が発見されても生産者まで追跡できる。CSの経費は会員が負担している。政府が農業競争強化プログラムに基づく補給金制度の見直しや流通改革を進める中、中央酪農会議(指定団体と酪農関係全国機関で構成される指導団体)の内橋政敏事務局長は次のように語る。

(写真)高瀬牧場では息子二人の就農を機に牛舎を増築。

飼料も12㌶作付けし循環型の酪農を目指す


 「牛乳は売り場では安売りされがちな食材です。経済効率一辺倒で生産現場と消費者が切り離されてしまうのはお互いによくない。消費者に届くまでの生産者の苦労や安全性確保の取り組みについても、消費者に理解していただきたいですね」

 トランプ米大統領の離脱宣言で、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉の見通しは不透明だが、食料自給率向上と食の安全性確保の観点からも、生産者を支えるのは消費者であるといえそうだ。

)生乳―牛から絞ったままの乳。殺菌処理されたパイプを通って保冷タンク(バルククーラー)に保管される。真空のままタンクローリーで工場に運ばれ、低温殺菌、高温殺菌、超高温殺菌などの加熱処理が施されたものが「牛乳」。

中央酪農会議の取り組みについてはホームページ(http://www.dairy.co.jp)で詳しく紹介されている

2017年3月7日号 購入案内

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定価:620円

発売日:2017年2月27日


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ファミマvsローソン 商社のコンビニ戦争本格化

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ユニー・ファミリーマートHDの社長に就任する高柳浩二・伊藤忠商事副社長(右)と、上田準二・現社長
ユニー・ファミリーマートHDの社長に就任する高柳浩二・伊藤忠商事副社長(右)と、上田準二・現社長

 コンビニ事業に商社が関与を強めている。

 

 2月9日、三菱商事はローソンの公開買い付け(TOB)を完了して持ち株比率を33・4%から50・11%超まで引き上げ、連結子会社化した。TOBに投じた費用は1440億円。三菱商事の京谷裕常務は16日の会見で「投資に見合うリターンを見込んでいる」と期待を寄せた。

 

 ユニー・ファミリーマートホールディングス(HD)は2月3日、筆頭株主の伊藤忠商事の高柳浩二副社長が3月1日付で新社長に就く人事を発表した。高柳氏は会見で「(ユニー・ファミマHDを)子会社化する考えはない」と前置きしつつ、「株主として一定程度の関与はしたい」として、伊藤忠のネットワークを使ったコンビニ事業の強化に意欲を見せた。

 

 コンビニ業界は、再編を経て店舗網を拡大した2位のファミマ(店舗数1万8100店)と3位のローソン(同1万2971店)が首位セブン─イレブン(同1万9220店)を追う構図だ。ファミマとローソンには総合商社首位の座を争う伊藤忠と三菱商事がそれぞれ出資しているため、「代理戦争」と言われることもある。

 

 ただ、コンビニの稼ぐ力の指標とされる日販(1店の1日当たり平均売上高)では、王者セブン─イレブンの背中は遠く、2位争いをしている余裕はない。セブン─イレブンの日販は66万4000円だが、ファミマは52万5000円、ローソンは54万6000円で、10万円以上の開きがある。

 

 日販を引き上げるカギの一つとなるのが、商社の食料品サプライチェーンを生かした商品開発や商品調達網の強化だ。ユニー・ファミマHDの社長に就く高柳氏は伊藤忠の食料部門のトップで、ローソンの竹増貞信社長も三菱商事の畜産部出身。食を通じて商社とコンビニの結びつきがますます強まることになる。

 

 ◇GMS再建が重荷に

 

 高柳氏は4月1日付で伊藤忠の副会長に就くことが発表されていたが、それを翻しての社長就任となった。本人は「(伊藤忠の副会長は)けっこういいなと思っていた」とひょうひょうと話すが、営業、エネルギー、生活資材・化学、食料を担当し「伊藤忠の社長候補」の呼び声が高かったやり手。ユニー・ファミマHDの社長としてコンビニ事業の拡大とともに、ユニーが抱える「アピタ」「ピアゴ」などの総合スーパー(GMS)の立て直しという重責を担っている。

 

 GMSは衣料品の大型専門店などの登場で不振が続く。ユニー・ファミマHDはGMSを216店舗中36店舗の閉鎖を計画していたが、高柳氏は「閉鎖店舗をもう少し増やす」可能性を示唆し、徹底的に改革を進める意向を示した。ただ、「GMSは業態自体が時代遅れ」(小売り担当アナリスト)との声もあり、再建は容易ではない。

 

 取締役相談役に就任するユニー・ファミマHDの上田準二社長は2002年の社長就任以降、ファミマを成長させた「中興の祖」。ユニーとの経営統合を指揮したのも上田社長だった。だが伊藤忠の岡藤正広社長は、不採算店が多いGMS事業を抱えたままの経営統合に難色を示していたと言われ、上田社長との確執がささやかれていた。「でしゃばり過ぎない人柄もあって岡藤社長に近い人物」(商社担当アナリスト)である高柳氏の起用は、統合をめぐって生じた伊藤忠とユニー・ファミマHDとの「距離」を縮める意図が透ける。また高柳氏は上田社長に比べてユニー側経営陣とのしがらみが少ない分、GMSの改革で大ナタを振るえるとの見方もある。

 

 ただ、改革は待ったなしだ。コンビニ事業では、店舗売り上げを伸ばしやすい総菜などの「中食」やプライベートブランドの強化、オーナーの高齢化が進む加盟店対策、商品管理の効率化などで大手3社がしのぎを削る。GMSの再建に足をとられていると、後れをとることになる。

(花谷美枝・編集部)

 

*週刊エコノミスト2017年3月7日号 「商社の深層」掲載


京都府立医大 名門で続く不祥事 ワンマン学長の責任は

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記者会見する吉村了勇病院長。右上は吉川敏一学長
記者会見する吉村了勇病院長。右上は吉川敏一学長

 暴力団組長の刑の執行停止を巡り、医師が虚偽の診断書を作った疑いがあるとして、虚偽有印公文書作成容疑などで家宅捜索を受けた京都府立医科大学(京都市上京区)は関西医学界の名門だ。

 

 報道では、吉村了勇(のりお)病院長の責任が追及される場面が目立つが、もう一人責任を問われる人がいる。近年続く不祥事は吉川敏一学長就任後に発生しており、大学の運営・管理の問題として吉川学長のワンマンぶりが指摘されている。

 

 今回の事件は、2014年7月、医大付属病院で腎臓移植の手術を受けた指定暴力団山口組の直系組織「淡海(おうみ)一家」総長、高山義友希(よしゆき)受刑者が収監されるにあたり、病院が「収監に耐えられない健康状態」との報告書を作成し、大阪高検に提出したとされる。執刀した主治医は京都府警の任意の事情聴取に「吉村病院長からの指示で事実と異なる内容を書いた」と供述したとされ、組織ぐるみとの疑惑が高まっている。

 

 吉村病院長は問題発覚後、記者会見を開いて「捜査機関への回答は公正・適切に作成した」と全面的に否定した。主治医も「一切虚偽がない」とコメントした。しかし、吉川学長については、高山受刑者と京都市の繁華街・先斗(ぽんと)町の茶屋などで会っている姿がたびたび目撃され、消化器内科が専門にもかかわらず手術に立ち会うなど、深いつながりをうかがわせる証言が報じられている。

 

 報告書作成の経緯について、吉村病院長は記者会見で「内容を変えるよう指示したことはない」と明確に否定した一方で、吉川学長から何らかの指示を受けたかどうかは「捜査中なので回答を控える」と曖昧な説明にとどまった。

 

 ◇「医療より花街」

 

 吉川学長は、先斗町や祇園の花街に政財界の有力者とよく出入りし、これまでも「医療よりも政財界の付き合いを重視する経営者」との声が医療界で強かった。

 

 消化器内科分野の教授などを歴任。「アンチエイジング(抗加齢)」に関連し、細胞を傷つけたり、殺したりする危険な性質を持つフリーラジカル(活性酸素はこの一種)研究を長く続けてきたパイオニアでもある。その分、健康機器関連などメーカーとの関係も深く、各社の広告活動にも「研究会代表」などとして協力し、一役買っている。メーカーからの大型の寄付講座をいくつも大学に開設したことを実績としてきた。

 

 京都府立医科大は、京都大や大阪大の医学部より古い歴史を持ち、医師を派遣する関連病院が120以上あるなど、関西医学界の中心的存在だ。しかし、近年は不祥事が相次ぐ。

 

 13年にノバルティスファーマ社の元社員が関与したとされる降圧剤「バルサルタン」の新たな効果を検証する臨床研究でデータ改ざんが見つかった。16年10月には、精神障害者の強制入院を判断する「精神保健指定医」の資格不正取得を巡り、厚生労働省が全国の医師89人の指定を取り消した。同病院は最多の8人で、全国で唯一、精神科のトップである主任教授も対象となるなど、病院ぐるみの不正だった。

 

 11年から学長を務めている吉川学長は、病院の信頼性を大きく揺るがす事案が繰り返し起きているにもかかわらず、今年4月からは異例の3期目となる長期政権の継続が決まっている。大学の法人化を受け、国主導で学長のリーダーシップを高めるさまざまな権限強化が進められ、それを最大限に生かした形だ。

 

 例えば教授選考では、選考会議の審査によるとされながら「実質的には学長の意向に沿う人物ばかりが選ばれている」(府立医科大関係者)。また幹部は「イエスマンばかりで会議で意見が出ることすらない」(同)と言われる。学長としてトップの責任は避けて通れない。

 

(田中尚美・メディカルライター)

 

*週刊エコノミスト2017年3月7日号 FLASH!掲載

目次:2017年3月14日号

特集:資源総予測2017 2017年3月14日号

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特集:資源総予測2017 2017年3月14日号

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◇米中のオールドエコノミー回帰

◇インフレ懸念でマネーは資源に

 

1兆ドル(約113兆円)のインフラ投資──。トランプ米大統領は2月28日の上下両院合同会議での演説で、改めて公約の実現に意欲を示し、議会に協力を求めた。

 

 ◇16年半ばから上昇基調

 

 大規模なインフラ投資が実際に実施されることになれば、鉄鋼や銅などの資源需要は大幅に伸び、米国内の重厚長大産業は大きな恩恵を受けることになるだろう。また、2本のパイプラインの建設を推進する大統領令に署名するなど、地球温暖化防止策として、オバマ前政権が推進した再生可能エネルギー路線から大転換し、化石燃料への回帰も鮮明にしている。超大国の米国の需要が刺激されれば、資源市場に与える影響も大きい。

 

 トランプ政権の誕生により、期待感が増幅している資源市場。その価格動向は、中国経済の回復期待などにより2016年半ばに世界景気が底打ちして以降、上昇基調に入っている。

 

 世界2位の経済大国である中国もまた、化石燃料の需要が衰えていない。石炭や鉄鋼の過剰在庫解消を進めるために打ち出した構造改革が、思うように進んでいないためだ。次期最高指導部の人事が焦点となる今秋の共産党大会に向けて、インフラ投資などにより一定の経済成長を維持する必要があり、17年は抜本的な対策に取り組めない状況にあることも資源需要を後押しする。

 

 米中の2大大国の「オールドエコノミーへの回帰」が、現在の資源市況を支えている。

 

 ◇ボックス圏相場の原油

 

 資源の中でも最大規模となる原油市場は、16年末に石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC諸国の協調減産が決定して以降、指標の米国産標準油種(WTI)が1バレル=50~55ドルを推移する「ボックス圏相場」となっている。

 

 WTIは14年6月に同107ドルとなって以降下落基調になり、16年2月には同26ドルを記録。この間、OPECの盟主サウジアラビアは原油生産量を削減せずに価格下落を放置し、米国のシェールオイルとの消耗戦を続けた。

 

 だが、シェールオイルの生産量は大きく減らず、世界の石油需給は大幅な供給過剰となった。その結果、サウジの財政赤字は拡大。今回の協調減産は、国内の財政事情が苦しいサウジが瀬戸際まで追い込まれたことで実現したとも言える。

 

 サウジは構造改革計画「ビジョン2030」を掲げ、石油依存からの脱却を目指している。3月12~15日にはサルマン国王が来日し、安倍晋三首相らと会談して協力を要請する見通しだ。供給過剰状態になっている原油が以前のような高値を望めない状況の中、構造改革が進まず、今よりも財政状況が悪化するようなことがあれば、サウジも減産に耐えられなくなるだろう。原油大国であるサウジの国内事情が、市場に与える影響は大きい。

 

 OPEC加盟国の17年1月の減産量は、目標の9割を順守している。ただ、協調減産に罰則規定はないため、自国の経済状況が厳しくなれば、増産にかじを切る加盟国が出てくる可能性は払拭(ふっしょく)できない。また、1月の減産量が目標の半分程度にとどまったとされる非OPEC各国も、減産合意の直前に増産していたロシアをはじめ、更なる減産を進めることは期待できない。

 

 協調減産は今年6月に期限を迎える。2月中旬にサウジやイランを訪れて現地の関係者からヒアリングした住友商事グローバルリサーチの高井裕之社長は「今回会ったほとんどの人は減産の延長はないと話していた」と語る。

 

 サウジは、ファリハ・エネルギー産業鉱物資源相が減産の高い順守状況から「延長の必要はない」と明言するなど、需要期の夏場に向けて減産を打ち切りたいとの思惑が垣間見える。高井社長は「減産が延長されなければ、今のような50ドル台のボックス圏相場が続く」と見ている。

 

 一方、コスモエネルギーホールディングスの森川桂造社長は「17年末に向け、65~70ドルまで上がる可能性がある」と分析。世界最大の石油会社であるサウジ国営サウジアラムコが18年に予定している新規株式公開(IPO)を挙げ、「原油価格が下がると、アラムコの価値が下がってしまう。サウジにとっては減っている外貨を確保するためにも、IPOが終わるまでは原油価格を下げることは許されない」と予想する。

 

 また、リグ(石油掘削装置)稼働数が増えている米国のシェールオイルについて、森川社長は「1バレル=60ドルくらいではコスト面が厳しいシェール企業も多く、すぐには増産できない。増えたとしても日量40万~50万バレルで、OPECの減産の規模を考えれば、影響は限定的だ」と指摘する。

 

 26~28ページでも明らかなように、専門家の間でも原油価格の見通しは見方が分かれている。

 

 ◇投機マネーが流入

 

 現在のボックス圏相場は、価格の上昇要因と下落要因が絶妙なバランスを取ることで成り立っている。

 

 米中需要の底堅さや協調減産が順調なことのほか、イランへの制裁強化や親イスラエル政策などのトランプ政権の中東政策への懸念が価格上昇圧力になる一方、シェールオイルの増産や協調減産が守られないことによる供給過剰懸念が上値を抑えている。

 

 この絶妙なバランスは、容易に崩れなさそうだが、逆に世界の市場関係者が「ボックス相場は揺るがない」と、「ボックス圏外」を織り込んでいないことが、リスクかもしれない。ロシアなどの非OPEC諸国が大幅増産に動き、それにイランをはじめOPEC諸国やシェールオイル勢が追随すれば、供給過剰から原油価格は急落するだろう。

 

 そうした懸念を一段と高めるのが、先物市場の動向だ。ニューヨークWTI原油先物市場で、投機筋に当たる非商業部門の先物買い越しポジションが50万枚(1枚=1000バレル)を超え、史上最高水準となっている。

 

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長は「需給バランスが取れ、原油価格は上昇すると楽観しているヘッジファンドがロング(買い持ち)を積んでいる。ただ、価格は投機筋が思うほど上がっていないので、ひとたびヘッジファンドが売りに回れば、40ドル台に急落する恐れがある」と指摘する。

 

 トランプ政権の誕生以降、米国の銅の先物市場などにも投機マネーが流れ込んでいるため、同様のリスク要因を抱えている。

 

 なぜ投機マネーが資源投資に向かっているのか。それは、08年のリーマン・ショック以降の世界的な金融緩和が関係している。

 

 世界にマネーがあふれる中、マイナス金利政策を導入している欧州や日本をはじめ先進国が軒並み低金利となり、投資先がこれまで大きなウエートを占めていた債券市場から、株式や資源、通貨へと多様化している。

 

 トランプ政権が掲げる減税やインフラ投資などの景気刺激策によって人々のインフレ予想が高まっていることも、実物資産であるコモディティーへの投資が増えている要因と見られる。

 

 国際金融市場に詳しい豊島逸夫・豊島&アソシエイツ代表は「米利上げが3月、6月とも難しくなれば、短期的なリターンを求める投資家のマネーが一段とコモディティーに入ってくるというシナリオは十分に考えられる」と話す。

 

 さらに、政治リスクもコモディティーへの投資要因となっている。トランプ大統領が保護貿易や移民排斥などの主張を繰り返す米国に加え、英国のEU(欧州連合)離脱決定以降に不安定化している欧州主要国の選挙の不確実性も増している。

 

 特に極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首が支持を広げるフランス大統領選の行方は、その後の欧州の選挙にも大きな影響を与えることになりそうだ。欧州の政治リスクが高まれば、「有事の金」が買われるように、資源価格の上昇要因となるだろう。

 

 ◇使えない「過去の教科書」

 

 現在、従来は資源価格の下押し圧力とされてきたドル高や米金利上昇、株高が同時に起きている。

楽天証券経済研究所の吉田哲・コモディティアナリストは「金融緩和によって『過去の教科書』が当てはまらなくなりつつある」と指摘する。

 

 吉田氏は「資金があふれ、投資家はいろいろな投資先を物色している。株を見ていた人が、コモディティーや通貨にも投資するようになり、一見関係のない投資対象の値動きが連動しているように見える。このため、景気が良いと思えば、株やコモディティーなどが同時に上昇するという流れになっているのではないか」と分析する。

 

 過去の教訓や経験が、きかない──。17年の資源相場は、そんな未体験ゾーンに突入したようだ。

(松本惇・編集部)

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資源総予測

2017

 

◇米中のオールドエコノミー回帰

◇インフレ懸念でマネーは資源に

 

1兆ドル(約113兆円)のインフラ投資──。トランプ米大統領は2月28日の上下両院合同会議での演説で、改めて公約の実現に意欲を示し、議会に協力を求めた。

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経営者:編集長インタビュー 新芝宏之 岡三証券グループ社長

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◇「対面」「ネット」「地域」で強い証券会社に

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 会社の強みは。

新芝 2023年に創業100周年を迎える「伝統」と、ネット証券で創業10年の岡三オンライン証券という「革新」的な部分を併せ持っていることです。岡三証券グループは、対面販売を行う証券会社としては国内大手5社に次いで6番目、ネット証券としても7番目の規模です。対面とネットの両方で上位に名を連ねているのは、当社だけです。

 

── 市場環境をどう見ますか。

新芝 現在は「インセキュア」、つまり非常に不安定な時代に入っています。各国で格差が問題になり、資本主義の存在意義も問われています。背景にはデジタルプラットフォームなどIT(情報技術)の進展によるグローバリゼーションの大きな波があるでしょう。つまり、企業や個人が国を超えて活動する時代になり、これまで経験したことのない変化が起きているのです。

 そうした不安定で先の読めない時代なので、社員には「投資アドバイスのプロになれ」と言っています。

 

 持ち株会社の岡三証券グループの下に、対面販売とコンサルティングビジネスの中核企業の岡三証券、ネット専業の岡三オンライン証券のほか、岡三にいがた証券、三晃証券、三縁証券などの地域証券、海外拠点の岡三国際、資産運用に特化した岡三アセットマネジメントなど10社を擁する。さらに業務資本提携先の証券ジャパン、丸国証券も合わせた多角的なビジネス展開は、日本の証券業界の中でも独自の存在だ。

 

── 4月から新しい中期経営計画が始まります。

新芝 持ち株会社の岡三証券グループとしては、より長期的な目標として、グループ全体でROE(株主資本利益率)10%を安定的に達成できる体制を目指します。

 また、現在のグループ全体の顧客口座数は68万口座、預かり資産は4・5兆円ですが、創業100周年に向けて23年4月までに「100万口座」「預かり資産10兆円」を目標に掲げています。ただ、数字を追うのではなく、あくまで顧客本位の結果として数字を達成することが理想です。「目的」と「手段」を逆転させないよう、社員に心がけさせています。

 

── 今年、岡三オンライン証券を子会社化した狙いは。

新芝 ネット証券は1990年末ごろに各社がいっせいに創業したのに対し、2006年創業の岡三オンライン証券は最も後発の方でした。しかしながらプロの個人投資家に評価され、売買高でネット証券の上位に食い込みました。半面、一般消費者をうまくとりこめず、規模感が出ないことが課題でした。裾野を広げるためには、資金的・人的に経営資源を投入した経営強化が必要と判断し、この改革を進めるために完全子会社化しました。また、株取引をネットで行う人が年々増え続ける中、岡三証券グループが100年を超えて生き残るためには、ネット証券というパーツは不可欠になります。

 

 ◇iDeCoに期待

 

── 対面販売はどうですか。

新芝 対面にはネットにない強みがあります。ネット証券は本屋に例えればネット通販サイトのようなものです。欲しい商品はすぐに買える半面、派生商品や関連ジャンルの広がりを知ることに限界もあります。その点、対面は街の本屋さんのようなもので、欲しい商品以外も目に飛び込んできます。販売員が幅広く商品を説明してくれるので、自分に合った商品選びが可能です。中核の岡三証券や地域証券では、対面の強みを生かした販売を行っていきます。

 

── 個人型確定拠出年金(iDeCo)にも力を入れていますね。

新芝 対面証券では運営管理手数料を業界最安に設定しています。iDeCoは国が普及を後押ししており、優遇税制もあって加入者の増加が期待できます。ここでも対面販売が生きます。まだiDeCoを知らない顧客に、来店時に紹介すれば、「セレンディピティ」、つまり「予想外の発見」を与えることもできます。

 

── 海外戦略は。

新芝 香港に拠点を置く子会社の岡三国際のほか、海外の証券会社7社と提携しています。また、ロンドン、ニューヨーク、上海の3カ所にリサーチセンターも設けています。各拠点のネットワークにより海外マーケットの最新情報を随時収集します。

 

── 今後の経営戦略は。

新芝 「多様性」を重視した戦略を取っていきます。「バイオダイバーシティー(生物多様性)」という言葉があります。一本の木よりも林、林よりも森の方が生命力が強く自然に繁殖していきます。つまり、多様な形態を抱えていた方が強いのです。

 これは証券業界にも当てはまります。証券業務に加え資産運用や市場調査を行う会社があれば相乗効果が出ます。この点、当社グループでは、子会社の岡三アセットマネジメントに約170人の資産運用部隊がいます。岡三証券内には市場調査部隊のアナリスト約80人、商品設計部隊が約150人いて、傘下の地域証券会社が個別に対応できない業務を補っています。一方で各地域証券は、中央部隊の成果を、それぞれが特化している地域で生かします。

 これからの証券業界は中央集権と地方分権の両方の強みを生かすことが生き残りのカギになると見ています。そのためにも多様性を確保することが重要だと考えます。

(構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 米国への留学を終え、業界アナリストとして復帰しました。その後、経営改革プロジェクトに携わりました。1998年に当社の加藤精一元会長が日本証券業協会会長に就いた時、秘書として出向しました。山一証券破綻など激動の時代に業界全体を見る仕事ができたことが大きな経験になりました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 「バリュー投資の父」ベンジャミン・グレアムとその弟子デビッド・ドッドの共著『証券分析』です。

 

Q 休日の過ごし方

A ジョギングを楽しんでいます。

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 ■人物略歴

 ◇しんしば・ひろゆき

 1958年生まれ。東京都立小松川高校、早稲田大学商学部卒業後、81年岡三証券グループ入社。98年日本証券業協会に出向し会長秘書。2001年取締役。常務執行役員、専務執行役員などを経て、14年4月社長就任。岡三オンライン証券会長も兼務。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:証券ビジネスを中核とした投資・金融サービス業

本社所在地:東京都中央区

創業:1923年

資本金:185億8900万円(連結、2016年3月)

従業員数:3536人(連結、16年9月)

業績(16年3月期・連結)

 営業収益:829億2700万円

 経常利益:173億9600万円


トランプ政権の本質 寺島実郎・日本総合研究所会長インタビュー

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◇トランプの「偉大な米国」は20世紀の石油と自動車の時代

 

世界の資源や中東情勢を左右するトランプ政権の本質を寺島実郎・日本総合研究所会長に聞いた。

(聞き手=浜條元保、構成=藤沢壮・編集部)

 

 トランプ大統領がいま、「偉大な米国」を掲げて政策を打ち出している。その本質は資源と深く関係することを理解するべきだろう。彼は、オバマ前政権の環境投資による経済政策「グリーンニューディール」や再生可能エネルギーの活用を否定し、大統領令でパイプライン敷設の加速を図るなど化石燃料、オールドエコノミーの再興を図っている。

 

 

 トランプ大統領が目指す「偉大な米国」とは具体的にはいつごろのイメージなのだろうか。当初は、第二次大戦後の超覇権国家として君臨した1950~60年代、46年生まれのトランプ氏が青年期を過ごした米国が栄光に輝いていた時代かと思われた。だが、もう少しその構造を見つめてみると、20世紀は米国の世紀であり、石油と自動車の時代であったことに気付く。

 

 その発端は1859年、米東部ペンシルベニア州の油田採掘にさかのぼる。これを契機として、ジョン・D・ロックフェラーはスタンダードオイルを創業し、それまで鯨の油を使っていた米国の燃料事情は一変した。

 

 1908年には、大量生産車「T型フォード」が発売された。その動力源として電気、蒸気機関などいくつかの選択肢がある中でガソリンが使われるようになった背景は、スタンダードオイルの存在抜きには語れない。石油の巨大な需要源として、自動車を獲得したのだ。

 

 そして、石油から自動車、石油化学という一大産業が生まれた。こうして築かれた分厚い中間層が支える豊かで輝かしい超大国をトランプ大統領は「偉大」と表現し、取り戻すと言っているのだ。

 

 歴史のネジを20世紀に巻き戻して白黒映画を見ていると思えば、時代錯誤としか思えないトランプ氏の政策も理解できなくはない。そこで浮かぶキーワードは、エクソンモービル、フォード・モーター、ゴールドマン・サックスだ。

 

 米国の貿易赤字の元凶として日本の自動車産業を攻撃するなどの保護主義政策は、80年代の日本勢に圧倒されたフォードが念頭にある。2008年のリーマン・ショックを契機にオバマ前政権で強化した金融規制の緩和に、ウォール街は拍手喝采で歓迎する。ムニューシン財務長官をはじめトランプ陣営には複数のゴールドマン・サックスの元幹部がいる。

 

 ◇イラン封じ込め

 

 中東政策を見るうえでは、エクソンモービルの最高経営責任者(CEO)を務めたティラーソン氏が国務長官に就任したことに注目すべきだ。

 

 米国の中東政策として大きな課題はイランの台頭だ。米国がイラクに軍事介入して民主化を進めたことで、シーア派の政権が生まれた。これによってペルシャ湾の北部では、イラク、シリアとともにシーア派の勢力が形勢され、結果的に隣接するイランの影響力を強めた。さらに、オバマ前政権がイランの核開発を巡る6カ国合意を進め、経済制裁が解除された。

 

 潜在的に大きな産油力を持つ経済大国イランの国際社会の復帰は、原油市場に大きなインパクトを持つ。中国はじめ新興国の経済成長の鈍化に伴う需要減と同時に、供給増によって原油価格を押し下げた。これはエクソンモービルも、産油国のサウジアラビアにとっても心中穏やかではない。だからこそトランプ政権は、核合意を否定して再び制裁を強化してイランの封じ込めに動いている。

 

 イランの封じ込めは、イスラエルも歓迎だ。オバマ前政権がイランの核を拒否する流れで、イスラエルも段階的に非核化を迫られかねなかったからだ。

 

 産油国でもう一つ見逃せないのがロシアだ。00年代、プーチン大統領はエネルギー産業を国有化し、石油利権を掌握することで政治基盤を安定させた。その過程で、カウンターパートナーだったのが、ティラーソン国務長官だ。彼はロシア極東の資源開発プロジェクト「サハリン1」にエクソンモービルの代表者として関わり、プーチン氏と何度も交渉してきた。

 米国はいま、原油価格の低迷で苦しんでいるロシアとも利害が一致する状況にある。

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 ■人物略歴

 ◇てらしま・じつろう

 1947年北海道生まれ。73年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産入社。ブルッキングス研究所への出向、米国三井物産ワシントン事務所長、三井物産常務執行役員などを経て、2016年から現職。

 

*週刊エコノミスト2017年3月14日号「資源総予測2017」掲載

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サウジは「原油の中央銀行」に復活 高井裕之 住友商事グローバルリサーチ社長

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◇サウジは「原油の中央銀行」に復活

◇脱石油の構造改革に今度こそ本気だ

 

 中東を訪問したばかりの高井裕之・住友商事グローバルリサーチ社長に、昨年11月に減産合意を主導したサウジアラビアの狙いや今後の動向を聞いた。

(聞き手=浜條元保/松本惇・編集部)

 

 2月中旬にサウジアラビアの首都リヤド、イランの首都テヘランなど中東を訪れた。強く感じたのは、石油輸出国機構(OPEC)の盟主・サウジの復権だ。同時に、サウジの脱石油依存の改革は、今度こそ本気だと痛感した。

 

 これは、2015年に就任したサルマン国王(81)らサウジ首脳の強い危機感の表れだと感じる。サルマン国王は、息子のムハンマド氏(31)を副皇太子に任命。国王は就任から1年4カ月がたつと、脱石油を目指す経済改革「ビジョン2030」を打ち出し、若返りも兼ねてエネルギー産業鉱物資源相をヌアイミ氏からファリハ氏(56)に交代させた。サウジの国王や副皇太子ら首脳はいま、脱石油に向けて一枚岩になっている。

 

 これまでに何度もサウジは「脱石油」の構造改革を掲げたが、掛け声倒れに終わっている。「ビジョン2030」の発表後も、その実現性には私を含め多くの関係者が懐疑的だった。ところが昨年12月、改革に関連して財政改革プログラム(5カ年計画)が具体的な数字とともに公表されて、「今回は本気だ」と感じた。

 

 また、サウジが主導する形で、OPECを中心とした減産合意が決まった。これは「原油市場の中央銀行」としてサウジが復権したことを意味する。サウジは、減産に消極的だったイランやイラクを説得し、非OPECのロシアも巻き込んで減産合意に持ち込んだ。原油価格が低迷していたOPEC総会で、サウジが押し切る形で減産が見送られた14年11月のアブドラ前国王時代とは、まったく違う。

 

 ◇50年に人口9000万人

 

 サウジが脱石油を急ぐ背景には、原油がいずれ枯渇するという危機感と同時に、世界的な脱石油が進み、需要ピークが過ぎるとの懸念がある。

 

 サウジは世界における原油確認埋蔵量の6分の1を占める。国内総生産(GDP)の4割、歳入の7割は石油が稼ぐ。また、サウジでは現在約3000万人の人口が50年には9000万人に急増する見込みで、増える若い人口を石油の一本足打法では食わせられない。

 

 サウジは、脱石油の改革を進めるうえで、1バレル=55ドル前後の現在の原油価格を心地よい水準と思っているようだ。40ドルを下回ると、財政収支が厳しい。その一方で、70ドルを超えて上昇するのも不都合だ。米国のシェールオイルが増産する懸念もあるが、サウジ国民が危機意識を失い、改革意欲がそがれることを国王らは最も恐れている。したがって、17年は1バレル=55ドルを挟み前後5ドルという低いボラティリティー(変動率)の相場に収斂すると思われる。

 

 不確定要因は、米国のシェールオイルの動向だ。原油価格の上昇局面でどう動くのか、わからない。

 

 また、1月に9割に達したOPECの減産順守率が続くかも不透明だ。北半球が需要期を迎える夏場にはサウジも増産して輸出したいという思惑もあり、6月のOPEC総会で減産を継続しないとの予想も現地では優勢だ。もし減産が続けば、年末には60ドルを目指すと見ているが、2~5月の順守率や非OPEC諸国の生産状況と米国の動向を見守る必要がある。

 

(高井裕之・住友商事グローバルリサーチ社長)

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  ◇たかい・ひろゆき

 1980年神戸大学卒業、住友商事入社。非鉄金属本部を経て、2003年コモディティビジネス部長、11年エネルギー本部長、13年住友商事総合研究所社長。14年4月より現職。

 

*週刊エコノミスト2017年3月14日号「資源総予測2017」掲載

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「直葬」から「遺体ホテル」 ジャズ&ワインの超豪華葬まで

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様変わりする葬儀(本文と関係ありません)
様変わりする葬儀(本文と関係ありません)

小谷みどり(第一生命経済研究所主席研究員)

 

 2000年以降、参列者が少ない小さな葬儀が増えている。「家族葬」という言葉もすっかり市民権を得た。バブル景気の時代(1980年代後半)は、一般的な葬儀でも、参列者は優に100人を超えていたが、公正取引委員会の05年調査では、個人葬の参列者が減少したと回答した葬祭業者は67・8%にのぼった。

 

 参列者の減少は、葬儀単価の下落につながりやすい。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」では、葬儀社の1件当たりの平均売上高は06年の152万円をピークに減少し、15年には144万円となっている。しかも、100万円未満が全体の55・5%を占め、05年の53・9%より微増。つまり、葬儀費用が二極化している。

 

 

 ◇遺族のいない死者

 

 小規模な葬儀が増加する背景の一つには、死亡年齢の高齢化がある。死亡時に80歳以上だった人が全死亡者に占める割合は、00年の43・8%から15年には61・3%に上昇した。いまや死者の4人に1人は90歳を超えている。

 

 超高齢になると、兄弟や友人の多くはすでに亡くなっており、親の死亡時に子どもが定年退職していれば、仕事関係の義理参列者は激減する。これまでの葬儀は遺族、参列者双方にとって、見栄や世間体を重視してきた傾向があったが、「60歳ライン」を子どもも超えれば、こうした「たが」が外れ、廉価で小規模な葬儀が増えるのは当然だ。

 

 50歳時点での未婚率を示す生涯未婚率の上昇も影響している。特に男性の割合は90年前後から増加し、15年には23・5%に達した。これからは遺族のいない死者が急増する。こうした人は、社会とのつながりがないことも多い。国立社会保障・人口問題研究所が12年に実施した調査では、ひとり暮らしの男性高齢者の6人に1人は、2週間のうち1度も誰とも電話や会話をしていないことが明らかになっている。

 

 ひとり暮らし高齢者の貧困も深刻だ。生活保護を受ける高齢者世帯は、15年で80万3298世帯あり、00年と比べると2・4倍以上に増加している。そのうち単身世帯が90・4%と大多数で、筆者の試算では、ひとり暮らし高齢者の11・6%が生活保護を受けている。家族がいない、社会とつながりがない、お金がないという高齢者の死は、葬儀の意味合いを根本から揺るがす。

 

 無縁死を少しでも減らすため、横須賀市では15年7月から、資産が少なく年金などの月収が16万円以下で、頼れる親族がいないひとり暮らし高齢者を対象に、エンディングプラン・サポート事業を開始した。

 

 市の職員が葬儀・墓・死亡届出人・リビングウィル(生前の意思)について本人から事前に聞き取り、書面に残して保管しておき、同時に葬儀社と生前契約を結ぶという仕組みだ。葬儀費用は、生活保護の葬祭扶助基準の20万6000円以内で葬儀社に先払いする。市の職員は契約時に立ち会い、高齢者が亡くなった時には、本人の希望通りに行われたかをチェックする。神奈川県大和市でも昨年、横須賀市と同様の「葬儀生前契約支援事業」を始めた。

 

 ◇増えるネット仲介

 

 葬儀に対する意識の変化もある。90年代以降、高騰する費用やお仕着せのあり方に不満を抱く人が増えたことで、葬儀に消費者意識が芽生え始めた。

 

 国民生活センターに寄せられた葬儀への苦情相談件数は00年以降急増しており、96年度には83件だったのが00年度には164件、15年度には764件に急増した。

 

 以前に比べると、ブラックボックスだった葬儀費用の透明化はかなり浸透している。多くの葬儀社がホームページを開設し、消費者がインターネットで葬儀や葬儀社に関する情報を簡単に得られるようになったことが大きい。総務省「平成27年度版情報通信白書」によると、60代のネット利用率は75%を超えており、ネットで葬儀を依頼する遺族は珍しくなくなりつつある。遺族に代わって複数の葬儀社から一括見積もりを取り、条件に合った業者を紹介する仲介ビジネスだけでなく、葬儀や法事の僧侶をネット注文で派遣するビジネスに参入する業者も相次いでいる。

 

 消費者が葬儀費用を簡単に比較できるようになると、廉価な葬儀を志向する人が増え、業者間の価格競争につながる。葬儀社は物品販売業ではなく、サービス業の性質が強い。ネット仲介業者は廉価な費用を明示し、集客するものの、実際の葬儀は提携葬儀社が行うため、サービスや従業員の質が担保されているのかは、不透明な部分もあり消費者は注意を要する。

 

 家族数人しかいなければ、従来のような葬儀をしないケースもある。火葬だけですませる直葬は、都内では3割近くにものぼる。

 

 葬儀をしない場合、火葬までの間、家族は遺体の安置場所に苦慮する。そこで、遺体安置が新しいビジネスとして生まれた。「霊安室」ではなく、「遺体ホテル」「フューネラルアパートメント」などと呼ばれているのが特徴だ。遺体安置は倉庫業としての許可があればできるので、異業種にとって参入障壁は低い。「宿泊費」は1泊5000円から3万~4万円とさまざま。ひつぎごと冷蔵施設で保管する業者もあれば、遺族が遺体と24時間いつでも面会できる部屋や、数人での簡単なお別れ会ができる部屋を併設している施設もある。

 

 ◇「旅立ちのドレス」

 

 家族数人だからこそ、こだわりの葬儀を望むケースもある。死に装束の専門店はここ数年で、続々と登場している。「旅立ちのドレス」「エンディングドレス」と呼ばれ、女性用はフリルたっぷりの白やピンク、ブルーなど淡い色のドレスが主流だ。既製品だと10万円前後だが、フルオーダーになると30万円以上するという。

 

 最後の闘病が長かった場合、「長い間お風呂に入れてあげられなかったので、最後にきれいにしてあげたい」と希望する遺族に注目したのが、訪問入浴サービスの会社だ。浴槽を遺族の自宅やセレモニーホールなどに運び込み、シャワーで故人の体や髪を洗い、顔そりや爪切りもおこなう。湯かん室を完備したセレモニーホールも多い。

 

 ひつぎにこだわる人もいる。華道家の假屋崎省吾さんがデザインしたひつぎ、3層構造の強化段ボール製ひつぎ、参列者が寄せ書きできるひつぎなど、ひつぎのバリエーションも多様化している。

 

 骨つぼも大理石や九谷焼など高級品を志向する人もいる。日本を代表する高級洋食器メーカーの大倉陶園は昨年、骨つぼプロデュースに参入した。04年に葬祭業に参入し、有名人の葬儀で知られる東京都青山葬儀所の指定管理者でもある日比谷花壇は、「ジャズとワインで送りたい」「色とりどりの花で送りたい」など費用は多少かかっても個性的な葬儀を望む消費者に対応する。

 

 葬儀の意味が時代とともに変化することで、新たなビジネスチャンスを生み出している点は興味深い。

 

(小谷みどり・第一生命経済研究所主席研究員)

 

*週刊エコノミスト2017年3月14日号 掲載

ユーロ懐疑論再燃 オランダが離脱議論 求心力失う統合欧州

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小西丹(エイジェム・キャピタル・グループ・ダイレクター)

 

 欧州で共通通貨ユーロへの懐疑的な見方が広がっている。

 

 オランダ下院は2月24日、下院選(3月15日)後に結果いかんにかかわらず、ユーロ離脱の是非について議論することを全会一致で決めた。また、2月19日にはドイツのメルケル首相が記者会見で、共通通貨の問題点を認めたうえで「今でもドイツ(の旧通貨)マルクが流通していれば、間違いなく今のユーロとは異なる価値を有しているだろう」と、公の場で初めて「ドイツ・マルク」に言及。ユーロ参加国が旧通貨名を口にすることすらタブーであった、ギリシャ債務危機が表面化した2010年当時とは状況が一変した。

 

 オランダ下院はまた、ユーロ離脱の是非を議論するための調査を国の最高諮問機関である枢密院に委ねた。右派キリスト教民主勢力(CDA)のオムトジフト下院議員は「ユーロからの離脱か可能なのか、可能であればどのように離脱するのかを調査する」と述べた。

◇ドイツ首相も不満

 

 オランダでは急増する移民問題などを受け、イスラム教徒排斥や欧州連合(EU)離脱を掲げる極右・自由党が支持を伸ばしている。債務危機に陥ったギリシャ支援や欧州中央銀行(ECB)の低金利政策などへの国民の不満も根強く、EU離脱を決めた昨年の英国民投票結果やトランプ米大統領の誕生がEUの結束力を大きく削(そ)いだことも影響した。

 

 メルケル首相はペンス米副大統領との会談後、記者会見に臨み、ドイツの対米貿易黒字が問題視される中で「我々はユーロの価値について問題を抱えている」と言及。ECBの金融緩和によってユーロが安すぎる水準にあると、ドイツ・マルクを引き合いに出してまで述べた。また、「ECBの金融政策はドイツではなく、ポルトガルやスロベニア、スロバキアに合わせるように運営されている」と不満を表明しながら、金融政策はECBの専権事項であるとして、「ドイツ首相としてはどうすることもできない」と自己防衛に回った。

 

 ギリシャをめぐっては現在、債務減免を求めるギリシャや国際通貨基金(IMF)と、それに応じないEUとの間で亀裂が深まっている。ギリシャ支援の議論の行方によっては、フランス大統領選(4~5月)やドイツ下院選(9月)の結果にも大きな影響を及ぼしかねない。ユンケル欧州委員長は今年に入り、EU各国がバラバラになれば、米中などと有利な貿易交渉を進めることはできない、という趣旨の発言をして結束を訴えるが、そこまで言わなければならないのは、それほどまでに追い詰められていることの裏返しでもある。

 

 市場はユーロの先行きを危惧したのか、ユーロ建て金価格は年初から9%超上昇している。北大西洋条約機構(NATO)と同様、冷戦の産物として政治的に作り上げられEUやユーロだが、その政治的求心力を失えば持続不可能になる。

 

(小西丹、エイジェム・キャピタル・グループ・ダイレクター)

 

*週刊エコノミスト2017年3月14日号 FLASH!掲載

目次:2017年3月21日号

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