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マンション価値は上がる 築41年でも時価は新築時の6割増し=荻原博子

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 マンションの老朽化とそこに住む住人の高齢化の「ダブル高齢化」が進んでいる。10年後、築40年を過ぎて建て替えを検討しなくてはならないマンションは全国で162万戸にもなる。だが、老朽化マンションの建て替えには困難が伴い、今までに成功したのはわずか1万6000戸。それも建ぺい率や容積率に余裕がある公団住宅がほとんどだ。

 

 そんな八方塞がりの中古マンション問題に一石を投じるのが、京都市にある「西京極大門ハイツ(総戸数190戸)」という築41年のマンションだ。

 

 旧耐震基準の物件にもかかわらず、新築時の価格の2~6割増の高値で取引されている。敷地に余裕があるわけではなく、むしろ建て替えると京都市の景観条例に抵触して建物が小さくなってしまう既存不適格物件。入居者も高齢化している。

 

 それにもかかわらず、資産価値が上がっているのは、管理組合が「自分たちの住まいは自分たちで守る」を実践しているからだ。

 

 同マンションは築13年目の大規模修繕で積立金が枯渇し、管理組合は破綻寸前に追い込まれた。これを機に業者任せから住民による自主管理に切り替えた。

 

 1995年の阪神淡路大震災を機に、将来の建て替えに向けた体制づくりに着手。建て替え時には今より広い敷地が必要なため、周囲の土地を迅速に購入できるように3億5000万円の用地買収用の特別会計を設置したが、管理費を値上げせずこの費用を捻出するために取り組んだのが、きめ細かな節約だ。

 

 まず、マンションの工事はすべてインターネット入札にして費用を通常の7割に抑えた。古くなった配水管の取り替え工事では1戸当たりに必要な工事費38万円を組合が配った。こうした工事は工期を決めて行うケースが一般的だが、各戸の事情で工期が大幅に延び予算オーバーになる場合も多い。同組合は1戸当たり38万円を配り、5年間で住民の都合に合わせ工事をしてよいとした。

 

 ◇等価交換で建て替え

 

 その結果、予算オーバーの防止に加え、「自分たちで費用を上乗せしてキッチンを新しくしよう」「バリアフリーにしよう」などの取り組みが相次ぎ、物件全体のグレードがアップした。

 

 このほかにも住民の協力で、電力の一括受電から最新の外張り断熱の導入など省エネ対策を施し、共用部の電気代を年間280万円から60万円まで減らすことに成功。さらに、組合が住民にお金を貸す「リバースモーゲージ制度」や管理費節約で生じた余剰金を住人に返す「管理費還付金制度」など、さまざまな工夫で「なかなか売り物件が出ない人気マンション」を目指し、マンションの価値を高めている。

 

 現在、同管理組合が模索しているのは、建て替えの際の近隣の公団住宅との等価交換だ。用地取得で建て替えのメドは立ったが、現在の場所での新たなマンション建設となると2~3年間はかかる。その間、住民は仮住まいを強いられるため、高齢者には負担が大きい。

 

 そこで、まず等価交換先の公団物件を建て直してもらい、一斉に引っ越した後に、これまでのマンションを取り壊して公団に渡すことを計画している。これなら1回の引っ越しでそろって新居に移れる。

 

 マンションは住民の工夫次第で価値向上も建て直しも可能──「西京極大門ハイツ」はそんな光明を与えてくれる事例だ。

 

(荻原博子・経済ジャーナリスト)

この記事の掲載号 週刊エコノミスト2017年4月4日号

特別定価:670円

発売日:2017年3月27日



注目集める「キャレグジット」 支持広がるカリフォルニア州の独立運動

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土方細秩子・ジャーナリスト

 

 

「キャレグジット」(Calexit)という言葉が注目を集めている。英国の欧州連合(EU)離脱を指す「ブレグジット」にちなんだ、米カリフォルニア州の合衆国からの独立を目指す運動だ。カリフォルニア州は米国の中でも外国生まれの住民の割合が高く、経済規模では米、中、日、独、英に次ぐ6番目に相当する。トランプ氏が昨年11月の米大統領選で当選後、移民締め出し政策などへの反発もあり、運動が徐々に支持を広げている。

 

 カリフォルニア州の独立運動そのものは、2015年に創設された「イエスカリフォルニア」という市民団体が主導。昨年の米大統領選後ににわかに賛同者が増え、ボランティア登録をした住民は現在8000人を超える。「歴史的な」カリフォルニア州独立を諮る住民投票を「19年3月」に実現することを目指し、ボランティアらが住民投票実現のための署名集めを精力的に行っている。ロイター/イプソスの世論調査では、昨年7月の時点でキャレグジットに「賛成する」と答えた住民は20%だったが、今年2月には41%とほぼ倍増している。

 

 そもそも、なぜカリフォルニア州で独立運動が起きているのか。大きな背景の一つが経済面だ。同州の国内総生産(GDP)は15年、2兆4600億ドル(約280兆円)と米国全体の13%を占め、フランスをも上回っている。「イエス カリフォルニア」は、同州が「年間で160億ドルを連邦政府に拠出し、他州の経済を支えている」と主張するが、こうした経済的不均衡はもともと同州住民の不満の種ともなっていた。

 

 IT産業が集積する同州北部のシリコンバレーには、アップルやグーグルを傘下とするアルファベット、フェイスブック、インテル、テスラなど世界でも有数の企業が立地し、シェブロンなどエネルギー企業も本社を置く。また、ロサンゼルスはハリウッドをはじめエンターテインメント産業が集まるほか、ロサンゼルス港やロングビーチ港は北米の貨物取り扱いの一大拠点となっている。ワイン生産なども盛んで、強靭(きょうじん)な産業構造は他州の追随を許さない。 

 

 ◇起業家、投資家も賛同

 

 また、カリフォルニア州は米国の中でも特に移民が多い地域で、人口構成が他州と異なっているという社会的な背景もある。同州の不法移民を含めた移民人口は1000万人を超え、米人口統計局によると15年時点で同州人口の27%が外国生まれ。特に、ロサンゼルスやサンフランシスコのような大都市では、外国生まれの住民の率は3割を超えており、全米平均(13%)の2倍以上となっている。

 

 シリコンバレーでは優秀な人材不足に常に悩まされており、現在でも従業員の半数近くをインド、中国をはじめとする海外からの労働者が占める企業も少なくない。また、外国生まれの住民は、シリコンバレーのIT企業だけではなく、農業、建設などさまざまな産業で労働に従事し、カリフォルニア州は伝統的に移民に寛容な政策を取ってきた。現在のトランプ政権による移民締め出し政策は、同州の経済にも大きな影響を及ぼす可能性がある。

 

 カリフォルニア州は民主党の大票田で、昨年の大統領選でもクリントン氏がトランプ氏の倍近く得票した。米大統領選後、複数のIT起業家やベンチャー投資家らが同州の独立運動に賛同し、資金提供の意を表明したことで、独立運動が大きな注目を浴びた。賛同したのはチューブ内を高速で走行する次世代交通システムを開発するハイパーループ・ワンの共同創業者でイラン系のピシュバー氏や、シリコンバレーの投資家カラカニス氏らで、現在もこの動きは広がり続けている。

 

 ◇「聖域州」の住民投票

 

 トランプ大統領とカリフォルニア州政府の関係も悪化の一途をたどっている。今年に入りトランプ氏が移民の入国を制限する最初の大統領令を発した後、同州は「『聖域州』になるかどうかの住民投票を行う」と発表した。米国には「聖域都市」と呼ばれる移民に寛容な自治体が600都市以上あり、トランプ大統領はこうした聖域都市に対し「連邦政府からの補助金を削減する」とも宣言したが、同州はこれに対抗して「州」単位での「聖域化」を検討するとしたのだ。

 

 トランプ大統領は「カリフォルニアはコントロールできない」と批判を強めた。特に、カリフォルニア大(UC)バークレー校で2月1日、保守系論客のヤノプルス氏の講演を暴徒が阻止した事件について「言論の自由を認めない公立大学には連邦政府からの補助金をカットすべきだ」と感情的な反応も示した。しかし、キャレグジット運動にとっては、こうした発言も「連邦政府の一部でなくなれば大学補助金を受ける必要もなくなり、独自の大学運営システムが築ける」と強気に解釈する。

 

 トランプ大統領が進める化石燃料の復活や環境規制の緩和は、州産業や州のポリシーに逆行するものでもある。オバマ政権下で米環境保護局(EPA)が推進してきた車の排ガス総量規制などに対しては、自動車メーカーからは「実現不可能ではないが開発費がかさみ、それが車の価格に跳ね返り消費者にとっても不利になる」などの反対意見が多かった。一方で、規制強化によりそれを克服するための技術も生まれる。自動車で言えばテスラの電気自動車(EV)などがその好例だろう。

 

 ◇環境規制でも軋轢

 

 シリコンバレーを中心とするIT企業は、ソフトウエアや周辺技術により車の燃費を向上させる技術の開発を進め、現在では自動車メーカーの多くがシリコンバレーに研究施設を開設するなど、州経済にとってはマイナス面ばかりではなかった。さらに、キャレグジットにより連邦政府への拠出金負担がなくなることで、同州では法人税を含む税制が現在よりも軽減される見込みであり、企業からの歓迎ムードもある。

 

 州政府にとって最大の懸念となりそうなのが、同州の環境問題に対する連邦政府の介入だ。州の大気資源局(CARB)はもともと、EPAとの対立が目立っていた。CARBが推進する大気汚染防止法では、自動車メーカーが州内で販売する車の約4割を2030年にはゼロ・エミッション(無公害車両)にする必要がある。これはEPAの排ガス総量規制を上回る基準で、「排ガス基準を設置できるのは連邦政府のみ」とするEPAとの軋轢(あつれき)が絶えなかった。

 

 トランプ大統領は、このカリフォルニア独自の排ガス規制に厳しい態度で臨むとされている。中でも、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)に絡んでは昨年、FCAが米国内で販売していたディーゼル車両の排ガス量について、EPAが「実際の数値と食い違う」と指摘した。これは、独フォルクスワーゲン(VW)に端を発し、三菱自動車などにも波及した排ガス規制の不正逃れ問題の一環で、最初にVWの問題を指摘したのはCARBだった。 

 

 しかし、トランプ大統領が指名した新しいEPA長官のブリュット氏は「地球温暖化はうそ」と公言する人物でもあり、この問題は昨年末以来、棚上げ状態となっている。また、FCAは今年1月、オハイオ州などに自動車組み立て工場の建設を発表し、トランプ大統領が賛辞を贈った。連邦政府側はこの問題をうやむやにしようとしているが、CARBはVWと同様の厳罰を求めている。トランプ大統領の数々のカリフォルニア敵視発言に対し、昨年11月にはロウ州議会議員が「独立運動のための法案提出に協力する」と述べたほか、州政府内にも独立運動に理解を示す人が増えているという。

 

 実は、連邦政府からの離脱を目指すのはカリフォルニアだけではない。米国最大の面積を誇るテキサス州でも以前から同様の独立運動があり、キャレグジットと歩調を合わせるように住民への働きかけを強めている。メディア上では、カリフォルニア、テキサスの2州が独立すれば、次々に連邦政府から離脱する州が現れ、米国は現在の半分程度になる、という予測まで飛び出している。

 

 ◇ロシアの関与疑惑

 

 ただし実際の独立へのハードルは高い。まず、独立を諮る住民投票を行うための嘆願書に、58万人以上が署名した上で、住民投票でも55%以上の賛成が必要となる。さらに、米合衆国憲法上の規定で、全米38州以上の知事の賛同、連邦議会での3分の2以上の賛成があって、初めて独立は実現する。現実的には、カリフォルニア産の製品を他州に輸出するには関税がかかるし、安全保障面では州の軍を整備する必要もある。

 

 さらに今、独立運動そのものへの疑惑が噴出している。「イエス カリフォルニア」の主導者であるマリネリ氏は昨年12月、ロシア国内に「カリフォルニア共和国大使館」を設立し、内外から大きな批判を浴びた。本人は「文化交流施設」としたが、場所を無償で提供したロシアの反グローバリゼーション運動団体はホームページ上で「独立カリフォルニア共和国大使館開設を歓迎」と掲げており、独立運動とロシア政府との関係も疑われることになった。

 

 ロシアが米国の国力を弱めるため、カリフォルニア独立運動を支援している、という見方もまことしやかに流れた。また、マリネリ氏自身は共和党支持者で「大統領選ではトランプ氏に投票した」とも公言し、反トランプで独立運動に共感した人の中に戸惑いも生じている。 

 

 マリネリ氏は2月13日、ロサンゼルスで記者会見を開き「ロシア政府とは何の関わりもなく、資金援助なども一切ない」と述べ、「独立運動はトランプ政権誕生とも関わりなく、以前から続いていたものだ」と強調した。

 

 ただ、それでもキャレグジットへの支持は、確実に広がり続けている。「アメリカ・ファースト」(米国第一)を掲げ、ブレグジットも支持したトランプ大統領の足元で、カリフォルニア州の独立が公然と語られることの衝撃は決して小さくはない。

(土方細秩子・ジャーナリスト)

*週刊エコノミスト2017年4月4日号掲載

目次:2017年4月11日号

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固定資産税の大問題

20 売れない土地にも固定資産税 ■桐山 友一

23 インタビュー 小松 幸夫 早稲田大学教授 「時代に合わない家屋評価」

24 固定資産税見直しのテクニック 課税明細書や評価をチェック ■神野 吉弘

27 基礎から分かる! 固定資産税のキーワード■編集部/監修=古郡 寛

30 土地評価を見直し! 私道の評価誤りに要注意 ■堀川 裕巳

32 複雑すぎる土地課税 地租を引き継いだ固定資産税 課税標準、調整措置の修正重ね ■大柿 晏己

34 難解すぎる家屋評価 「再建築価格」資料の見方 ■編集部

36 「タワマン節税」封じ 固定資産税で対処の”不可解” ■遠藤 純一

38 どうする空き家 所有権を放棄できない悲劇 ■米山 秀隆

 

エコノミスト・リポート

74 半導体 米インテルが進める「脱パソコン」 ■津田 建二

76 ファブレスの雄クアルコム 無線通信の覇権狙う

 

Flash!

13 WEC破産法申請で終わらない東芝再建/トランプ相場陰り/英国EU離脱通告/インタビュー 小山田 隆 全国銀行協会新会長

17 ひと&こと コスモ新社長への期待と失望/韓国サムスン財閥“解体”でトップの「怒り」/デルがEMC買収で日本人社長対決

 

Interview

4 2017年の経営者 小堀 秀毅  旭化成社長

46 問答有用 GOMA ディジュリドゥ奏者・画家

「日記は僕の外部記憶装置です」

 

笑う北朝鮮 崩壊論のウソ

77 憲法を超える「首領唯一体制」 ■李 相哲

80 経済 市場公認で計画経済やりくり ■李 燦雨

82 中国が石炭禁輸 鉄鉱石に「抜け穴」 ■堀田 幸裕

83 制裁 国連加盟国5割従わず ■宮本 悟

84 核・ミサイル開発 対米抑止力確保まで継続 ■武貞 秀士

86 韓国次期大統領 新政権は対北融和路線確実 ■平岩 俊司

 

72 第57回 エコノミスト賞 『金融政策の「誤解」』早川 英男著

 

40 たばこ 喫煙者の10%超えた加熱式 ■山本 康博

 

World Watch

62 ワシントンDC 人員も装備も窮状の米軍 ■会川 晴之

63 中国視窓 不動産市場で続く過熱 ■神宮 健

64 N.Y./カリフォルニア/英国

65 韓国/インド/インドネシア

66 台湾/ロシア/サウジアラビア

67 論壇・論調  日独の保護主義けん制に期待 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■佐藤 優

19 グローバルマネー ドル安の基調を示す日米の実質金利差

42 福島後の未来をつくる(45) 原発集積地の進化 明るい柏崎計画=AKK ■枝廣 淳子

44 アディオスジャパン(47) ■真山 仁

50 学者が斬る 視点争点 昭和金融恐慌を鎮静化した英断 ■横山 和輝

52 言言語語

60 名門高校の校風と人脈(236) 春日部高校(埼玉県) ■猪熊 建夫

68 海外企業を買う(135) ペプシコ ■小田切 尚登

70 東奔政走 揺らぐ防衛省と稲田氏の求心力 ■佐藤 千矢子

94 景気観測 実は緊縮のアベノミクス財政 ■斎藤 太郎

96 ネットメディアの視点 どん底民進党の対抗軸は「成長に頼らない経済」 ■山田 厚史

100 アートな時間 映画 [キングコング 髑髏島の巨神]

101        美術 [草間彌生 わが永遠の魂]

102 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Orderly Liquidation Authority ”

 

[休載]商社の深層

 

Market

88 向こう2週間の材料/今週のポイント

89 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット

90 中国株/為替/金/長期金利

91 マーケット指標

92 経済データ

 

書評

54 『同一労働同一賃金の衝撃』

『入門 東南アジア近現代史』

56 話題の本/週間ランキング

57 読書日記 ■高部 知子

58 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

 

53 次号予告/編集後記

特集:固定資産税の大問題 2017年4月11日号

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◇売れない土地にも固定資産税

◇誤りの指摘にも負担大きく

 

 リアス式の地形が広がる長崎県佐世保市。造船中堅の佐世保重工業の工場に程近い住宅地の一角に、東京都の40代女性が相続した土地がある。広さは約350平方メートルの更地。幹線道路からは一段低い場所にあり、車は入れず階段でしか下りられない。

 

 女性は地元の不動産業者に仲介を依頼したが、色よい返事はもらえない。数年前から「タダでもいいから譲りたい」と地元のコミュニティーサイトで呼びかけてもみたが、引き取り手は現れないまま。女性は今、譲渡をあきらめている。

 

 

 それでも、同市から昨年、送られてきた固定資産税の課税明細書には、土地の固定資産税評価額が約343万円と記載。固定資産税・都市計画税は計4万819円になり、草刈りなどの維持を含めて負担が重くのしかかる。女性の父が亡くなり、父の故郷の土地を相続したのは2012年。相続した時にはすでに更地にされていた。しかし、更地にしてしまったことで、固定資産税の「住宅用地の特例」(税額計算の基となる課税標準が評価額の6分の1になる)も受けられなくなった。

 

「更地にしたほうが売りやすいと思ったんでしょう。土地が売れないなんて、誰も考えていなかった」と女性は振り返る。女性には小学生になる長男が1人いる。しかし、長男にはこの土地を相続させたくない。女性は佐世保市の土地以外の財産を、極力持たないように決めている。自分に万一のことがあった時、長男ら相続人に相続放棄してもらうことで、国に所有権を移したいためだ。誰も相続人のいない土地は国に帰属する。

 

 ◇実勢と乖離する土地評価

 

 土地の固定資産税評価額は、国土交通省が発表する地価公示価格の7割の水準になるよう、各地の道路に固定資産税路線価が付けられ、その路線価を基に土地それぞれに市町村(東京23区は東京都)が評価額を決めている。国土交通省が今年3月発表した全国の地価公示価格(1月1日時点)は、住宅地の全国平均が9年ぶりに下げ止まった。しかし、上昇を続ける東京など都市部の地価とは対照的に、地方ではタダでも売れない土地は珍しくない。

 

 地価公示の標準地の公示価格は、不動産鑑定士が国交省から委託を受け、周辺の売買実例や収益性を基に評価する。だが、地方では売買実例が少なく、収益性を測るのも困難なケースが多い。不動産鑑定士業界の関係者は「地方では公示価格の半分でも売れそうにない土地はざらにある。本来は評価額を大幅に引き下げるべきだが、前年より10%以上引き下げると国交省から詳細な説明を求められる。その結果、毎年数%ずつしか引き下げないので、実勢と大きく乖離(かいり)してしまう」と話す。

 

 固定資産税評価額は税の世界だけでなく、地方の銀行や信用金庫では、融資の担保価値の目安としても使われる。北海道のある金融機関関係者は「土地の担保価値を、固定資産税評価額の7割などと評価している金融機関が多い」と明かし、「地方の土地は、建物の撤去費用などを考えれば、現実的にはマイナスの資産。それでも担保価値を見直そうという金融機関はほとんどなく、貸し出し債権は見た目以上に劣化しているのではないか」と危機感を募らせる。

 

 ◇「駐車場」が争いに

 

 東京地裁で昨年11月、東京都が決定した固定資産税・都市計画税の税額を取り消す判決が言い渡された。原告は練馬区の土地所有者。介護付き有料老人ホームの建物を13年に新築し、業者と30年間の賃貸契約を結んだが、この老人ホームの駐車場(約140平方メートル)について都が14年度、「住宅用地の特例」を適用せず、老人ホームの土地全体で固定資産税・都市計画税を計約134万円としたのだ。これを不服として所有者は15年、都を相手取って提訴した。

 

 争点となったのは、駐車場が「住宅用地」に該当するかどうか。老人ホームの入居者には自分で車を運転する人はおらず、都は「入居者が自らが利用する駐車場であると判断することはできない」とし、土地所有者は「駐車場は老人ホームと一体として利用されており、入居者の親族などが利用している」と主張。判決は「住宅用地に該当するには、もっぱら居住者のための施設であることと解すべき法令上の根拠はない」と都の主張を退け、原告が全面勝訴した。

 

 固定資産税は市町村が評価額や税額を決める「賦課課税」方式だ。原告代理人の山下清兵衛弁護士は「賦課課税方式の税では、納税者自身が税に疑問を持ち、おかしいと気づかなければ、そのまま課税されてしまう」と話す。この判決では、駐車場に住宅用地の特例を適用して計算された税額を超える、計約19万円分の固定資産税・都市計画税の課税が取り消された。しかし、都はその後、東京高裁に控訴し、訴訟は今後も継続する。

 

 ◇労力に見合わない還付

 

 固定資産税は標準税率が1・4%で、評価額に比べて税額はさほど大きくない。そのため、評価額の誤りに納税者が気づいたとして、税額に及ぼす影響も限られるのが実情だ。これが、納税者の評価額や税額を見直すハードルを高くする。東京都府中市の車返(くるまがえし)団地の住民が、土地の評価を不服として市を相手取った訴訟では、住民が市の固定資産評価審査委員会に審査を申し出てから、14年9月に最高裁が市の上告を棄却するまで5年以上が経過した。

 

 それでも、住民に市から還付されたのは、過去6年間の過徴収分で1戸当たり1万円前後。住民側の代理人の吉田修平弁護士は「納税者側の負担が還付額に到底見合わない」と指摘する。それは、固定資産税に疑問を持つ納税者をサポートする専門家の不在にもつながる。評価の誤りを指摘しても得られるリターンが少ないからだ。税理士にも土地や家屋の固定資産評価まで分かる人はほとんどいない。不動産鑑定士は土地の評価しか分からない。家屋についてはさらに限られる。

 

 神奈川県伊勢原市の東高森団地の一室を所有する男性は、市に団地の土地や建物(家屋)の評価額の誤りを指摘するため、地方税法や総務省が定める「固定資産評価基準」、行政不服審査法などを3年以上勉強し、自室の面積も自分で測った。男性は15年5月、市に家屋評価の誤りを理詰めで指摘すると、当初は「適正に処理している」の一点張りだった市も、7月には一転して誤りを認めた。

 

 家屋の評価の還付額は1986~15年度分で団地の1戸平均14万1600円。男性は土地の評価にも納得がいかず、15年6月に市の固定資産評価審査委員会へ審査を申し出たが、昨年10月に却下された。男性は市を相手に提訴しようかと考えたが、争う負担の重さにちゅうちょしている。

 

 ◇大規模物件に「限界」

 

 厳密で公平なように見える土地や家屋の評価方法だが、実は不公平な穴も多い。例えば、建物は建築に使われた資材価格を積み上げる「再建築価格方式」で評価し、建物の内装やキッチンなどの設備も把握する建前だが、建物の内部のリフォームは市町村の当局による捕捉が事実上、不可能だ。一方、屋根のふき替え後に市町村の担当者が固定資産税の調査にやってくることもあるが、これは課税対象物件の変化を調べるため毎年、1月1日時点で航空写真を撮影しているから分かるのだ。

 

 再建築価格方式は納税者にとって難解なだけでなく、評価する自治体側すらも限界を感じている。この評価方式は高層ビルから戸建て住宅まで、規模や用途にかかわらずすべての建物に適用するが、東京都では延べ床面積が10万平方メートルを超えるような大規模物件の評価を終えるまで、2年近くかかるケースもあるという。そこで都の「固定資産評価に関する検討会」は今年2月、大規模物件をより簡易に評価する二つの方法をまとめた。4月以降に国へ提言する予定だ。

 

 ただ、新たな評価方法といっても、再建築価格方式がベースであることには変わりがなく、納税者にどう説明するかといった課題はつきまとう。そもそも、大規模物件の評価額が適正かどうか、第三者には検証がまず不可能だ。大規模な物件の所有者は、都や市町村にとっても大口の納税者。大規模物件であればあるほど評価額の違いは税額の大きな差となって表れるが、都や市町村が何らかの意図で特定の物件だけ低く評価していても誰も分からない。

 

 ◇時代遅れの家屋評価

 

 そもそもなぜ、建物の評価額を再建築方式で細かく評価しなければならないのか。

 

 現在の固定資産税制の基礎は戦後の1950年、日本の税制の抜本的見直しを提言したシャウプ勧告によって、土地や家屋、事業用の償却資産に対する課税が固定資産税として統合されたことに始まる。家屋に対する課税はそれまで、「賃貸価格」を課税標準とした「家屋税」だったが、固定資産税となって課税標準が「資本価格」(適正な時価)に改められた。

 

 シャウプ勧告で課税標準を資本価格に変更したのは、時価評価しやすい償却資産にも課税する必要性があったからというのが定説だ。その後、63年に固定資産評価基準が制定され、土地は売買実例価格、建物は再建築価格、償却資産は取得価格を基準に評価することになった。当時の日本は木造家屋が中心で、建物を再建築価格で評価するのも容易だったろう。しかし、建物は多様化して建築技術もどんどん進歩する。それでも再建築価格方式を維持して改正を重ね、極度に複雑化したのが現実だ。

 

 つぎはぎを重ねた揚げ句、時代に合わなくなった固定資産税。簡素で透明な税制でなければ、納税者の納得感や公平感は到底得られない。

 

(桐山友一・編集部)

週刊エコノミスト2017年4月11日号

特別定価:620円

発売日:2017年4月3日


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経営者:編集長インタビュー 小堀秀毅 旭化成社長

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◇化学技術で多様な社会課題を解決

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 旭化成とはどのような会社ですか。

小堀 創業以来、産業構造の変化に立ち向かい、新事業に果敢に挑戦してきた企業です。現在の事業領域は、素材を扱うマテリアル、住宅、ヘルスケアの3分野です。この3分野を持つ化学会社は世界にも類がなく、ユニークな点と言えます。事業領域は広いですが、化学技術を基礎にしている点では共通しています。環境や健康などの社会課題を、化学技術で克服するという理念で事業を展開しています。

 

── 3事業の内容は。

小堀 マテリアル事業は大きく二つの領域に分けられます。一つはリチウムイオン電池材料のセパレーターや、自動車軽量化に役立つ部品用樹脂など、環境エネルギー関連素材です。もう一つはサランラップや繊維など生活関連です。住宅事業は、「へーベル」ブランドの戸建て住宅と集合住宅建築、それに断熱に優れた建材販売を手がけています。ヘルスケア分野は医薬品・医療機器双方を持つ珍しい業態です。医薬品では骨粗しょう症の薬で高いシェアを占めており、医療機器では心臓除細動器で高い成長率を遂げています。

 

── 祖業の繊維は世界的にも競争が激しいのでは。

小堀 当社の繊維事業は2000年代に選択と集中を進め、キャッシュフローを生み出せて、かつ独自性のある製品に絞りました。インドのサリーなどに使われるベンベルグ、紙おむつや美容パックに使われる不織布、エアバッグに使われるレオナ、機能性下着などに使われるスパンデックスの四つです。事業を絞り込み、用途を見つけたことで利益が伸びました。その結果、繊維事業の営業利益率は10%です。四つの製品とも元気な事業で、どこから増設しようかと悩むぐらいです。

 

── 電池用セパレーター事業も好調ですね。

小堀 セパレーターは世界トップのシェアを持ちます。当社は膜技術に強く、人工腎臓用の中空糸膜や水のろ過用膜も製造しています。その膜技術をセパレーターで展開し、スマートフォン市場の成長に伴い、供給能力も増強してきました。この結果、スマホやパソコンなど民生用電池では、圧倒的なシェアを取りました。これからは、電気自動車(EV)などのエコカー電池向けに取り組みます。2018年以降に世界的な自動車燃費規制が強化されるため、エコカー需要が増えることが予想され、手応えを感じています。

 

── 足元では、住宅事業が不調に見えます。

小堀 住宅事業の16年4~12月期の営業利益は前年度比12%減少しました。15年の横浜のマンションのくい打ち問題では関係者の皆様にご迷惑をお掛けしました。問題発覚直後に宣伝広告を自粛したため、集合住宅の受注は落ち込みました。しかし、昨年4月に宣伝広告を復活したところ、昨秋以降に受注も持ち直しました。「へーベル」ブランドの毀損(きそん)はなかったと考えています。

 

 ◇今後は自動車へ注力

 

── 社長就任と共に開始した中期経営計画の進捗(しんちょく)は。

小堀 中計では25年度のあるべき姿を描き、16~18年を実現のベース作りとなる3カ年に位置づけています。経営指標では、18年度の売上高を2兆2000億円、営業利益を1800億円としています。スタート時は、円高や中国経済減速など厳しい局面が予想されました。しかし、予想より円安方向に恵まれた。また、見立てが厳しかったからこそ、各事業部門が踏ん張り、販売数量増やコスト削減に取り組みました。この結果、1年目としては順調に進捗しています。

 

── 中計では、組織再編にも言及しています。狙いは。

小堀 当社での多角的な事業、多様な人材を結合して、新たな成長を遂げようと掲げています。たとえば、昨年4月、オートモーティブ事業推進室を発足させました。当社の自動車関連製品は、部品用プラスチック、タイヤ用ゴム、人工皮革をはじめとした成長の見込める製品が多くあります。従来、これらの製品を扱う部署は独立して顧客に接していました。しかし、今後はこれらの部門から社員を推進室に集めて、部門横断的にマーケティング戦略を立てていこうという狙いです。

 

── なぜ、自動車に注目するのですか。

小堀 自動車は、安全性、快適性、省エネの向上が求められており、今後も車体・内装とも変化が予想されます。それはビジネスチャンスを意味します。また、需要も安定しています。

 

── 事業領域が広い企業トップとして、気を付けている点は。

小堀 自分の事業さえ成績が良ければいいという人間の集まりでは、グループの総合力は発揮できません。個別事業にとって最適な戦略ではなく、全体にとって最適な戦略を取るという考えを組織内で共有しなければなりません。そのためには事業部門間のコミュニケーションが重要です。コミュニケーションも含めて、私は三つの「C」を大切にするよう社内に伝えています。

 

── 三つの「C」とは。

小堀 まずは法令順守(コンプライアンス)です。くい打ち問題でも厳しく問われました。次にコミュニケーション、そして挑戦(チャレンジ)です。挑戦とは、無理な目標をやみくもに掲げることではなく、変化へのチャレンジを意味します。これこそが旭化成の価値と言えます。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 化学部門から新規事業の半導体部門へ異動になりました。専門知識を高め、事業を軌道に乗せるためにもがき苦しみましたが、変化への対応の仕方を学びました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 会社の先輩から薦められたデール・カーネギー『人を動かす』。人を冷静に見ることを学び、その後ビジネス書を読むきっかけにもなりました。

 

Q 休日の過ごし方

A 気分転換と体力維持を兼ねてのジョギングです。

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 ■人物略歴

 ◇こぼり・ひでき

 1955年生まれ。石川県出身。同県立金沢二水高校、神戸大学経営学部卒業後、78年旭化成工業(現旭化成)入社。電子部品部材などを扱うエレクトロニクス部門を主に歩み、2014年、代表取締役専務執行役員。16年4月から現職。62歳。

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事業内容:総合化学メーカー

本社所在地:東京都千代田区

設立:1931年5月21日

資本金:1033億円

従業員数:3万2821人(連結、2016年3月現在)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:1兆9409億円

 営業利益:1652億円

2017年4月11日号 購入案内

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特別定価:620円

発売日:2017年4月3日


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週刊エコノミスト 2017年4月11日号

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定価:620円

発売日:2017年4月3日

固定資産税の大問題

◇売れない土地にも固定資産税

◇誤りの指摘にも負担大きく

 リアス式の地形が広がる長崎県佐世保市。造船中堅の佐世保重工業の工場に程近い住宅地の一角に、東京都の40代女性が相続した土地がある。広さは約350平方メートルの更地。幹線道路からは一段低い場所にあり、車は入れず階段でしか下りられない。女性は地元の不動産業者に仲介を依頼したが、色よい返事はもらえない。数年前から「タダでもいいから譲りたい」と地元のコミュニティーサイトで呼びかけてもみたが、引き取り手は現れないまま。女性は今、譲渡をあきらめている。

 それでも、同市から昨年、送られてきた固定資産税の課税明細書には、土地の固定資産税評価額が約343万円と記載。全文を読む


WEC破産申請 東芝最終赤字1兆円超へ “願望”経営の先行きは

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 東芝の子会社で巨額損失の源泉となった米原子炉メーカー、ウェスチングハウス(WEC)は3月29日、米連邦破産法11条の適用を申請した。東芝は「再生手続きの開始により、実質的支配から外れる」とし、2017年3月期で連結対象から切り離すことで損失を確定させ、再建を急ぎたい考えだ。

 

 しかし監査法人の承認は得ておらず、WECの米原発の建設撤退などで損害賠償請求を受けて損失が見込みより膨らむ恐れもある。かつてWEC買収で成長をうたい、今度はWEC売却で安定をうたう東芝の“願望”経営の先行きはなお見通せない。

 

 米連邦破産法11条は、日本の民事再生法に相当にする。東芝はWECの破産法適用申請に当たり、WECの経営破綻で原発を完成できなかった場合に、代わって違約金や損害賠償金を支払う契約の「親会社保証」(17年2月末現在で6500億円規模)と、WECへの債権(同1756億円)を全額損失として計上。17年3月期の最終損益は1兆100億円の赤字となる見込みだ。日立製作所が09年3月期に計上した7873億円を大きく上回り、国内製造業としては過去最悪となることが確実となった。

 

 WECの破産法適用申請の狙いは、米国で建設中の原発4基に絡み、WECが米電力各社と結んだ「固定価格契約」の見直しを図ることにある。リスクが懸念されて売却先が見つからない事態を避けるためだ。ただ、見直しの是非は裁判所の判断次第。あくまで東芝に「責任の履行」を求める電力会社の逆襲も予想される。

 

「なぜ我々が日本企業を救済しないといけないのか。東芝や日本の銀行のプライドはどこに行ったんだ」。米南部サウスカロライナ州電力協同組合のクルーイック理事長はまくしたてる。WECが建設中のVCサマー原発2、3号機で発電される電力の約3割を購入する最大需要家として、発注元のスキャナ電力に「予算内の原発完成」を求めて圧力をかけてきた。建設費用を電気料金に転嫁できる総括原価方式の下、原発建設に伴い同州の電気料金は既に18%も上昇した。「固定価格契約」は工事遅延に伴うコスト増をWECが負担する内容で、州民にとっては料金上昇を抑える切り札だ。

 

 申請にあたり、トランプ政権からの横やりが心配された。ボーグル原発3、4号機(ジョージア州)の発注元であるジョージア電力などに対し、連邦政府が総額83億ドル(約9000億円)の債務保証を付与しているためだ。しかし、保証が履行され、国民負担になるのはジョージア電力も経営破綻するケース。電力事業を監督する州公共事業委員会が認可すれば、追加のコスト増も料金に転嫁でき、ジョージア電力は無傷でやり過ごせるため、現時点では現実的なリスクではない。地元関係者は「委員会が認可しないことなどない。ジョージア電力は委員選出に大きな影響力を及ぼし、常に意向に沿う決定が行われてきた」と指摘する。

 

 ◇リスク遮断に疑問符

 

 両原発が20年末までに運転を開始しないと優遇税制の対象外となり、電力会社がWECや東芝に損賠賠償を求めるとの懸念も一部で指摘されるが、元州公共委員で現在は弁護士として活動するボビー・ベーカー氏は首を横に振る。「その件ならジョージア電力が連邦議会にロビー活動中だ。かなり高い確率で期限延長が認められる」と見る。民間政治資金監視団体「責任ある政治センター」によると、ジョージア電力の親会社サザン電力は16年にロビー活動費として米業界随一の1390万ドル(約15億円)を投じ、首都ワシントンでも強力な政治力を誇る。

 

 この政治力が東芝の再建を左右する展開もあり得る。申請当日の3月29日、東京に乗り込んだサザン電力のトム・ファニング最高経営責任者(CEO)は米メディアに「東芝との約束は金融上、事業上だけでなく、道義上のものでもあった。約束の貫徹を期待する」と述べ、東芝の責任を追及する構えを見せた。トランプ政権が動くとすれば、電力会社が州政府も巻き込んで政治力をフル回転させた時だろう。WECを裁判所に駆け込ませたとしても「海外の原発事業は撤退と言える。リスクはほぼなくなった」(東芝の綱川智社長)とは言い難い情勢だ。

 

 東芝は17年3月期、返済が不要な資金「株主資本」が6200億円のマイナスとなる見込み。3月30日の臨時株主総会で半導体事業の分社化の承認を得て、株式の過半数売却も視野に2兆円規模の資金を調達し、債務超過状態を解消する方針だ。

 

 しかし、道筋は見えない。綱川社長は3月29日の記者会見で、米電力会社からの損害賠償訴訟による追加損失について「電力会社に説明を尽くして良好な関係にある。親会社保証契約に従った最大額を計上しており、これ以上はあり得ない」と否定したものの、裁判所や取引先がどう判断するかは予断を許さない。

 

 また、分社した半導体事業が期待通りの高値で売却できる保証はない。政府は海外への技術流出を警戒し、中国や台湾の企業が売却先になった場合、外為法に基づいて中止や見直しを勧告することを検討しているとされる。売却先が限定されることで期待した金額に達しなければ、債務超過解消後も財務基盤は脆弱(ぜいじゃく)なままだ。

 

 2度延期している16年4~12月期連結決算の発表期限を4月11日に迎える。営業利益で20年3月期に2100億円の黒字という「V字回復」シナリオを描くものの、綱渡りの情勢が続く。

(清水憲司・毎日新聞北米総局記者、酒井雅浩・編集部)

 


第57回(2016年度)エコノミスト賞:早川英男氏『金融政策の「誤解」』

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エコノミスト賞選考委員会は「第57回(2016年度)エコノミスト賞」の受賞作に早川英男著『金融政策の「誤解」』(慶応義塾大学出版会)を選んだ。授賞式は5月中旬に開催予定。早川氏には賞金100万円と賞状、記念品を、出版元の慶応義塾大学出版会には賞状を贈る。

 

 対象作品は16年1~12月に刊行された著書。主要出版社の推薦作品や読者アンケートも踏まえ、選考委員会で審査を行った。候補作にはこのほか、清田耕造著『日本の比較優位』(慶応義塾大学出版会)、鶴光太郎著『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社)、柴田悠著『子育て支援が日本を救う』(勁草書房)、山田久著『失業なき雇用流動化』(慶応義塾大学出版会)、岩壷健太郎他著『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』(中央経済社)が挙がった。

 

 

 エコノミスト賞は1960年に創設され、日本経済および世界経済について、実証的・理論的分析に優れた作品に授与される。歴代受賞者からは多くの有為な人材を送り出し、「経済論壇の芥川賞」とも称される。

(編集部)

◇はやかわ・ひでお

 ●富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェロー。1954年愛知県生まれ。77年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。83~85年、米プリンストン大学大学院(経済専攻)留学(MA取得)。2001年日銀調査統計局長、07年名古屋支店長、09年理事を経て、13年4月から現職。日銀在職期間の大部分をリサーチ部門で過ごした。

◆講評 日銀の実験的政策を独自に整理 長期戦の誤算と「出口」を指摘 選考委員長・樋口美雄

選考委員長 樋口美雄
選考委員長 樋口美雄

 今年度は分野の異なる力作が多かったために、最終審査には例年になく6冊の書籍が残り、白熱した議論が展開されたが、最終的には選考委員全員の総意により、早川英男氏の『金融政策の「誤解」』に2016年度「エコノミスト賞」を授与することに決定した。早川氏に心よりお祝いを申し上げたい。

 

 早川氏は元日銀のエコノミストとしてよく知られた論客であり、本書は最近の非伝統的金融政策およびその波及経路を独自の視点から整理し、金融政策をめぐる一連の議論に一石を投じた力作である。最近の金融政策に関しては限界説もささやかれているが、過度に肯定的にも否定的にもなるのは適切ではない。当初の効果に一定の評価を与えつつ、「日銀に何ができて何ができないか」など、今後の金融政策のあり方に関して大変明快にかつバランスよく議論を展開している。 

 

 ◇リフレ派は「楽観主義」

 

 本書は全体で五つの章から構成されている。

 

 

 第1章と第2章は、非伝統的金融政策を論じたパートである。第1章で理論的な概念整理が行われ、第2章で日銀による緩和政策の効果について議論されている。その主張は明快で、日銀の量的・質的金融緩和は実験的政策であり、それが成功するとすれば「短期決戦」のケースに限られたことが指摘される。異次元の金融緩和は、その有効性に関して学界でコンセンサスはなく、実験的な性格が強かった。確かに、緒戦においては驚くべきプラスの成果を収めた。

 

 しかし、本来はそこで効果を過大評価せず、緩和規模を縮小する「勝ち逃げ」策が必要であった。緩和をその後も拡大した結果、いまや当初目標に掲げた2%インフレ目標の達成は遠のき、日銀が使い得る政策手段にも限界が強く意識され始めている。著者は、異次元の金融緩和がこのように長期戦になっていることが、日銀にとっての大きな誤算であったとする。

 

 第3章と第4章は、デフレの原因を論じたパートである。第3章でいわゆる「リフレ派」の考え方が主観的主義・楽観的主義に基づくとして批判的に検討され、第4章で日本のデフレ・マインドがなぜ続くのかを実証的な観点から明らかにしている。著者は日本経済の長期低迷の原因はデフレではなく、日本経済が低成長から抜け出せないのは潜在成長率が低下しているからだと主張する。必要な処方箋は金融政策に過度の負担をかけるのではなく、成長戦略で潜在成長率を高めていくことであるとする。

 

 第5章は、いわゆる「出口」戦略を論じたパートである。日銀は金融緩和からの「出口」を議論するのは時期尚早とする。しかし、「出口」が始まれば、金利上昇によって金融システムが不安定化することが懸念される。巨額に累積した財政赤字は、日本国債を大量に保有する金融機関にとっては大きなリスク要因である。このため、著者は、そのリスクを取り除くうえで、財政再建、とりわけ社会保障改革を行うことが不可欠であると主張する。

 

 本書は、新しい分析を駆使するというよりも、既存の分析結果をうまく組み合わせて独自の論理を展開し、自らの主張を正当化するというスタイルである。ただ、関連の文献の概念をコンパクトに的を射て整理する能力は素晴らしい。近年、持論を展開する論者の多くが、さしたる論拠もなく議論を展開することが多いなかで、本書で展開されている論点や文献紹介は、本問題に関心のあるビジネスマンやエコノミストだけでなく、アカデミックな研究者にとっても大変有益な情報を提供してくれる。

 

 著者はすでに名声の高いエコノミストであり、若手の登竜門的な観点でエコノミスト賞を考えるならば、賞には適さないかもしれない。しかし、この点を考慮しても、本書の完成度は高く、現在の日本経済に対するインプリケーションは大きく、「エコノミスト賞」に最もふさわしいと判断し、選考委員会は本書に同賞を授与することを決定した。

 

 ◇比較優位性理論の有効性

 

 結果的には授賞には至らなかったが、最後まで賞を争ったのが清田耕造氏の『日本の比較優位』であった。本書は伝統的な国際貿易理論であるヘクシャー=オリーン・モデルを拡張することによって、1980年から2009年の日本の国際貿易の変遷を分かりやすく説明している。たとえば日本は熟練労働の豊富な国であり、従来、この集約的な財を純輸出し、非熟練集約的な財を純輸入してきたが、近年、その比較優位性が失われつつあることが示される。

 

 経済成長の背後で産業の高度化のメカニズムが働き、資本蓄積という要素賦存の変化があることが確認される。本書における比較優位性理論の有効性を示した検証結果は誠に重要であり、学術的な貢献は大きい。ただ半面、この理論にとらわれるあまり、現在、日本経済が直面している国際経済的課題に十分触れられておらず、「エコノミスト賞」の趣旨に沿うとはいえないとの意見が、一部の選考委員から寄せられた。

 

 清田氏の書籍と並んで、最終候補に残ったのが、鶴光太郎氏の『人材覚醒経済』であった。本書は、人口減少社会に突入した日本経済にとって、働き手の量的確保と質的向上を可能にする「人材覚醒経済」の実現が不可欠で、このためには多様な雇用形態を増やし、より良いマッチング、性格スキルの向上を実現していく必要があると指摘する。本書は現在の日本経済が直面している課題に真っ向から立ち向かい、その具体的改革の方向性が示されている点で高く評価される。一方、提案されている改革の効果や弊害の分析がさらに強化されれば、より説得力を増すことができたのではないかとの指摘があった。

 

 このほか、柴田悠氏の『子育て支援が日本を救う』も高く評価された。本書は政府の子育て支援策が、単に出生率や女性の労働力参加率、個々の企業の労働生産性の向上につながるのみならず、マクロの経済成長率や生産性の向上、財政支出・収入にどう影響するかを実証分析し、エビデンス・ベースド・ポリシー(実証的な根拠に基づく政策)の重要性を強調した点で注目された。ただ本書の実証分析のほとんどは経済協力開発機構(OECD)28カ国の国際比較時系列分析のデータに基づいて行われており、これが有力な示唆を与えることは間違いないが、各対策の数量的なマクロ効果を言及するには、一部に分析の粗さが見られるとの指摘があった。

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 ◇エコノミスト賞選考委員

 

■委員長 樋口美雄(慶応義塾大学教授)

■委員  井堀利宏(政策研究大学院大学教授)/深尾京司(一橋大学教授)

     福田慎一(東京大学教授)/三野和雄(同志社大学特別客員教授)

     金山隆一(『週刊エコノミスト』編集長)

笑う北朝鮮 崩壊論のウソ 憲法を超える「首領唯一体制」 国民相互監視の“王朝”

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北朝鮮の「暴走」が止まらない。

 

 昨年から核実験や弾道ミサイルの発射実験を繰り返し、米本土を射程に入れた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発も進めている。今年に入ってからも、2月12日、3月6日と立て続けに弾道ミサイルを発射。3月19日にはICBM向けと見られる新型の高出力ロケットエンジンの燃焼実験を成功させた。

 

 2月に起きた金正恩(キムジョンウン)委員長の異母兄で金正日(キムジョンイル)総書記の長男、金正男(キムジョンナム)氏の殺害事件は、北朝鮮の行動が予測不可能なことを改めて印象づけた。

 

 こうした北朝鮮の振る舞いに対し、経済制裁の強化や関連施設への限定空爆の可能性も取りざたされるようになった。2月にはこれまで北朝鮮に対して比較的寛容と見られてきた中国が年末まで北朝鮮からの石炭輸入を全面停止すると発表。国際社会での孤立感はより深まっている。

 

 北朝鮮はこれまで幾度も危機に見舞われてきた。1980年代後半から90年代初頭にかけて東欧や旧ソ連など社会主義政権が倒れ、東西冷戦時代が幕を下ろすと、92年には中国と韓国が国交を樹立。国際社会での後ろ盾をなくす中、金日成(キムイルソン)主席が94年に死去し、後継体制の確立に悩んでいるところへ餓死者数百万人と言われる深刻な飢饉(ききん)に襲われた。

 

 危機が訪れるたび体制崩壊の可能性が指摘された。しかし実際には48年の建国以来、体制を維持し続けている。なぜか。金日成主席と、その後を継いだ金正日総書記が築いた強固な統治システムが今なお有効に機能しているためだ。

 

 北朝鮮の統治システムを一言で言い表すなら、正恩氏を首領とする「首領唯一体制」だ。憲法が国の「最高領導者」と定めた国務委員会委員長の座にある正恩氏一人を、党をはじめすべての組織、住民が支える事実上の独裁体制だ。

 

 形式的には社会主義国家の体裁を取ってはいる。だが実質的には、皇帝や王のためにすべてが機能する王政や王朝の統治機構に近い。

 

 例えば、北朝鮮には国会にあたる1院制の「最高人民会議」が置かれているが、議員にあたる代議員は2014年3月の選挙で687人の立候補者全員が当選した。投票率もほぼ100%だ。選挙は民主主義の体裁を取るために形式的に行っているにすぎない。会議も年1回しか開かれず、正恩氏の決定を追認し、お墨付きを与えるだけだ。最高人民会議トップである常任委員長も、対外的に各国の国家元首と会見したり大使や使節を信任したりするためのポストにすぎない。

 

 憲法をはじめとした数々の法律や規制も、この統治システムを維持するために整備されたものだ。北朝鮮には、国の統治システムを定めるはずの憲法よりも上位の規範も存在する。「党の唯一的領導体系確立の10大原則」(10大原則)と呼ぶものだ。

 

 10大原則は、もともと正日氏が国民に対して日成氏の教示を絶対的・無条件的に受け入れるようにするため74年に策定した。正日氏の死去後、正恩氏が13年に修正・厳格化した。

 

 金日成主席と金正日総書記の遺訓や朝鮮労働党の路線、方針、指示こそが国民の守るべき法律であり、至上命令であると定めている。憲法では、北朝鮮は「朝鮮労働党の領導の下にすべての活動を行う」と明記し、朝鮮労働党の国家に対する優位性を明確に規定している。党が定めたこの10大原則が、憲法よりも上位の概念として位置付けられていることになる。

 

 10大原則や党規約は金日成、金正日の遺訓のほか、正恩氏の指導やお言葉など「領導」に従うよう求めており、北朝鮮のすべての国民の思考方式や行動様式を規定する、より身近で重要性の高い文書なのだ。

 

 金正恩氏が血統を重んじるのも、3代にわたる「世襲」を行ったのも、この国が「首領唯一体制」で支えられてきたからだ。本来、41年2月16日にロシア極東部のハバロフスク近郊で生まれたはずの正日氏が、公式的には42年2月16日に朝鮮半島北部の白頭山(ペクトゥサン)で生まれたとされるなど、出生のエピソードさえ偽ることもいとわない。

 

 ◇党・軍・秘密警察の忠誠競争

 

 この統治システムを機能させるうえで重要な役割を果たしているのが、朝鮮労働党、秘密警察(国家保衛省)、朝鮮人民軍の三つの組織だ。

 

 なかでも朝鮮労働党が主要な役割を果たす。党には北朝鮮の人口の8分の1にあたる300万人が加盟する。党中央委員会を頂点として、直轄市・道党委員会、市・郡・区域党委員会、洞・里初級党委員会、そして末端の党細胞まで、縦方向に連なる命令系統が整備されている。

 

 党細胞は国家機関をはじめ、自治体や企業所(国営企業)、協同農場などの産業現場のほか、軍部隊や社会団体、住居地に至るまで、31人以下の細かな組織の一つひとつに置かれ、国民を監視・指導する。31人超の組織には初級党委員会を置くこととされている。

 

 人体に張り巡らされた神経や血管のように、すみずみまで命令系統が行き届き、指導者の意図や意思が伝えられる仕組みだ。

 

 平等を是とする社会主義国家の北朝鮮だが、過去に両親や祖母が何をしていたかの「出身成分」によって、国家への忠実度の高い順に「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の三つの階層に分けられる。所属する階層は、朝鮮労働党への入党や就職時の参考とされるなど一生ついてまわる。

 

 また、乳幼児以外はすべての人がいずれかの組織に所属し、その組織に統制される。職業によって規定される身分は「社会成分」と呼ぶ。各組織では党員から日々指導を受けるだけでなく、国民同士も学習や自己批判、相互批判の場で互いに監視し合っている。指導に背けば、親や子供、親戚まで罰せられる「連座制」が用意されており、国民が反体制的な行動に走る歯止めになっている。

 

 秘密警察にあたる国家保衛省は、企業所や自治体に情報員を派遣し、政治犯を取り締まる。正恩氏の直轄組織で、やはり下部組織から上部組織まで報告が上がる体制を整えている。政治犯は「管理所」と呼ばれる強制収容施設に送られ、人権を無視した厳しい扱いを受ける。

 

 軍も、軍最高司令官につながる正規の「軍事線」、党国防委員長に連なる「行政線」、党中央委員会第1書記を頂点とした「政治線」の三つのラインが設けられており、それぞれのラインを通じてトップに報告が上がる仕組みを備えている。特に、軍の指揮官にあたるポストにはそれぞれ並列した立場に「政治将校」が置かれ、党員が軍の指揮官を日常的に監視する。実際には、党が軍を動かしていると言えよう。

 

 党、秘密警察、軍の三つの組織は党本部に直接つながる指揮・命令系統を有しているため、日常的に互いに監視し合う「忠誠競争」を繰り広げている。最高指導者である正恩氏以外は、たとえ統制上の階級(社会主義国家では「軍事称号」と呼ぶ)がよくても、監視や統制の対象になっているということだ。仮にクーデターや反政府行動を起こそうとしても、その芽は事前に摘まれてしまうことだろう。

 

 これら組織に「活力」を吹き込むのが、党員や国民の思想教育を担当する党中央の「宣伝扇動部」である。党や軍、政府の機関紙や、テレビやラジオの国営放送局、映画、演劇などを通じて、指導者や党について国民にいいイメージを植え付けたり、カリスマ性を持たせたりするための偶像化作業や思想教育、洗脳工作を行っている。

 

 さらに、国民の多くは海外につながるインターネットを使えないなど、海外の情報とも遮断されている。携帯電話加入者が15年に300万件を超えたとはいえ、やはり国際通話は制限されている。情報の「鉄のカーテン」は、どこの国よりも固い。

 

 北朝鮮国民は、上位者の命令に比較的従順な国民性を有するといわれることもあるが、国民に従順でないことを許さないこうした統治システムが、国民の性格や行動を規定した面もあるだろう。

 

 ◇脅威なら肉親も排除

 

 2月に起きた金正男氏の暗殺事件については、さまざまな理由が取りざたされている。本質的には、正男氏が正恩政権の権威なり統治システムなりを脅かす存在に映ったことが最大の理由だと考える。

 

 北朝鮮の統治システムの究極の目的は体制維持だ。北朝鮮の権力は、国家建設や国民の福祉のためではなく、国民を監視し、国民を道具として使うためのものである。その意味で、正男氏の存在が正恩氏の「唯一体制」を脅かすものとして捉えられれば、血を分けた兄弟であっても、排除の対象となる。

 

 市場の存在を一部黙認せざるを得なくなった経済など、制度のきしみも見えつつあるが、現時点ではシステムが崩壊すると言えるだけの十分な根拠は見当たらない。当面、正恩体制は護持されるだろう。

(李相哲・龍谷大学教授)

 

固定資産税見直しテクニック 課税明細書や評価をチェック 行政と「友好的」に交渉しよう

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 固定資産税の大きな特徴は、所得税や法人税・相続税のように、自分が納める税額を自分で計算する申告課税ではなく、我々の所有する固定資産を役所が勝手に評価して、一方的に税額を決めて請求してくる賦課課税であるという点である。役所の仕事に誤りはないだろうと、請求されるままに安易に払っている人は注意が必要だ。なぜなら最近、固定資産税の誤課税が大きな問題になっているからだ。

 

 埼玉県新座市では2014年、市内の一戸建て住宅に対し、27年間にわたり固定資産税を過徴収していたことが明らかになった。所有者が固定資産税の滞納を続けた結果、市は住宅を公売にかけたが、公売で落札した不動産業者の指摘で発覚したという。また、総務省が12年8月に発表した固定資産税の税額修正(税額の誤りなど)に関する全国調査の結果でも、09~11年度の3年間で市町村の97%が税額修正していたことが分かった。

 

 もはや、市町村が我々の資産を評価し、税額を計算して課税してくる賦課課税方式は信用できないということを、我々納税者は認識しなければならない。

 

 ◇「住宅用地の特例」に注意

 

 誤課税が生じる原因の一つには、市町村(東京23区は東京都)の課税当局が、不動産の実地調査(現場を実際に確認すること)をほとんどしていないことが挙げられる。実地に調査もせずに不動産をどう評価しているのかといえば、土地・建物の面積は登記簿、土地の間口や奥行きといった形状は公図に基づいて行われている。登記簿面積と実測が違っても、また公図と実際の土地の形状が違っても、実地調査を行って確認するわけではない。

 

 都は毎年1月1日現在で空撮写真を撮り、家屋の新築や増築、不動産の用途変更などを確認しているが、見落としも当然あるだろう。家屋を解体した後、法務局に滅失登記(建物が存在しなくなったことを登記すること)をしなかったばかりに、実際には存在しない家屋に固定資産税をかけ続けられた話はよく聞く。また、固定資産税はプロにとっても複雑だが、市町村には精通した職員が少ないことも誤課税の原因で、固定資産税には単純ミスもあることを疑ってかからなければならない。

 

 非常に多い課税誤りの一つが、住宅用地の課税標準(原則=評価額)を6分の1とする「住宅用地の特例」を適用していないことだ。前述した埼玉県新座市の例も、住宅の新築時に「住宅用地の特例」を適用しなかった市の単純ミスだった。固定資産税の大きな特徴は、住宅用地に対する軽減が手厚いことで、住宅が建っている住宅用地なら住宅1戸当たり200平方メートルまでの土地の課税標準は6分の1となり、毎年の税額に与える影響は大きい。毎年送られてくる納税通知書と課税明細書をしっかり確認し、適用されていなければ市町村の課税当局のミスを疑う必要がある。

 

 ◇用途変更は申し出る

 

 次は、家屋の利用状況に変化があったときだ。住宅と非住宅(店舗、オフィスなど)が混在する複合物件のような家屋の場合には、「住宅用地率」の知識が重要になる。「住宅用地率」とは、家屋全体の面積に占める居住部分の面積に応じ、土地の割合にどの程度、住宅用地の特例を適用するのかが表のように決められている。例えば、地上5階建て未満の併用住宅では、居住部分が家屋全体の面積の4分の1以上~2分の1未満の場合は、土地の面積全体の半分(0・5)に住宅用地の特例を適用する。

 

 例えば、2階建ての建物(全体の床面積180平方メートル)で商店を営むAさんが、商売の規模を縮小して従来店舗だった2階(80平方メートル)を居宅にした場合を考えてみよう。店舗を居宅に変更後、居住部分の割合は「80平方メートル÷180平方メートル=0・444」となり、先の住宅用地率の表の「併用住宅」の欄では住宅用地率は「0・5」となっている。つまり、用途変更前は敷地の100%が非住宅用地だったのが、変更後は敷地の半分が住宅用地となり、その面積が200平方メートル以下なら住宅用地の特例が適用される。

 

 このような家屋の中での用途変更は、間違いなく当局は把握していない。店舗や事務所といった非居住用から、住居に用途変更した場合は、遠慮なくすぐに課税当局に申し出てほしい。

 

 ◇説明要求は「当然の権利」

 

 自分の物件について疑問が生じたら、行政側にどのように評価されているかを確認したい。行政側も当然、納税者の疑問に答える必要があるが、行政側は誤課税についての納税者の指摘には身構えてくる。多額の税の還付が生じる可能性があるだけでなく、場合によっては責任問題に発展しかねないからだ。固定資産税は納税者にとって極めて分かりにくい税制のため、さまざまな理由をつけて追い返してしまうことすらある。そうした行政側の警戒感を解くためにも、頭ごなしの態度ではなく、まずは「自分の物件がどう評価されているかを勉強したい」という姿勢で臨むほうがいいだろう。

 

 当局から受ける説明では、物件をどう評価しているかの資料をもらう。土地なら「土地現況調査票」。家屋なら「再建築費評点計算書」「基準年別計算書」などで、各自治体によって名称は違うが必ず存在する。ただ、窓口ではこれらの資料を出し渋るケースがある。その場合は、固定資産税が所得税のような「申告課税」ではなく、課税庁側が税額を決める「賦課課税」であり、税額の根拠を知るのは納税者の当然の権利であることを強調してほしい。資料が出てくれば、その内容について説明を受け、メモを必ず取る。資料を持ち帰って専門家に相談する時に有効となる。

 

 固定資産税評価額や税額に不服があり、根拠もあるのに当局がどうしてもそれを認めなければ、各市町村に設置されている「固定資産評価審査委員会」に審査を申し出る制度がある。原則として3年に1回の評価替えの年度に行うことができ、最近では15年度が基準年度だった。ただ、審査申し出は当局が評価した評価額についてのみ認められており、税額の計算の誤りなどそれ以外の行政手続きに対する異議は行政不服審査法の不服申し立てという、別の制度を活用する。こうした手続きを経なければ、裁判所に訴訟を提起できないようになっている。 

 

 とはいえ、最近は課税当局も随時、課税に対する疑問についての相談を受け付けるようになっている。また、評価額や税額の明らかな誤りは、こうした法的手続きによらなくとも訂正することがある。疑問があればまずは当局に説明を求め、当局に誤りがないかどうかを検討させたうえ、それでも納税者の主張が通らなかった場合に審査を申し出る位置づけと理解したい。

 

 ◇還付の期間にも要注意

 

 交渉の末、課税当局が誤りを認めたとして、これで終わりではない。これまで払い過ぎた税金が、いくら返ってくるかが重要だ。地方税法では税の過徴収による還付金は、請求権の消滅時効が5年とされている。そのため、原則は5年間分の税額と、利息などの還付加算金が返ってくる。ただ、各自治体で還付に関する条例が定められており、東京都の場合はおおむね10年、さらには払い過ぎの期間を証明できれば最長20年の還付が可能だ。誤課税があった場合には必ず過去の払い過ぎも請求してほしい。

 

 ただ、課税当局がいつから誤って課税してきたのかを証明できる資料があれば別だが、何年分返すかの交渉は行政側の裁量に任せられているケースが多い。課税当局から有利な裁量を引き出すためにも、友好的に交渉することをお勧めしたい。課税当局がへそを曲げると、「どうぞ裁判にしてください」などという捨てゼリフを吐かれ、それ以上話が進まなくなることがある。

(神野吉弘・税理士)

*週刊エコノミスト2017年4月11日号 「固定資産税の大問題」掲載

基礎から分かる! 固定資産税のキーワード

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難解な用語が並ぶ固定資産税。制度を理解するキーワードを平易に解説する。

1 税制編 ◇固定資産

 地方税法では固定資産税の課税対象となる「固定資産」について、(1)土地、(2)家屋、(3)事業用の償却資産──の三つを定義している。「土地」とは宅地や田、畑、山林など、登記簿に登記されている土地。「家屋」とは、住家や店舗、工場(発電所、変電所含む)、倉庫など、こちらも登記簿に登記されている建物が該当する。一方、基礎のない簡易な物置や、支柱と屋根だけで壁のない駐車場などは該当しない。

 

 また、「事業用の償却資産」とは、機械や設備、装置のほか、ボートやヘリコプターなど法人税・所得税で減価償却の対象となる資産を指す(自動車税、軽自動車税の課税対象などは除く)。悩ましいのは、家屋に含めて評価される建築設備と償却資産の区別だ。基本的に、家屋に取り付けられ、家屋と構造上一体となっている設備は家屋に含まれる。そのため、エレベーターや空調設備などは家屋として評価するが、壁掛け型のエアコンや飲食店の厨房設備などは償却資産となる。

 

 固定資産税は市町村税(東京23区は都税)で、市町村が税額を決定する「賦課課税」方式が採られている。償却資産は土地・建物と異なり登記制度がないため、償却資産の所有者に対して申告義務が課せられている。固定資産税は毎年1月1日時点の固定資産の所有者に対して課税し、共有名義の場合は連帯して納税する義務がある。ただし、分譲マンションなどの区分所有の土地・家屋は、区分所有者が持ち分の割合に応じてそれぞれ納税する。

1 税制編 ◇評価額と課税標準

 土地、家屋などの固定資産税「評価額」とは、地方税法で「適正な時価」とされる。納税者に毎年通知される課税明細書では、単に「価格」と表記されていることも多い。そして、地方税法ではこの評価額を原則として「課税標準」とし、課税標準に固定資産税率を掛けることで税額を計算する。固定資産税の計算方法は実はシンプルだ。しかし、この「適正な時価」を計算する必要性から、総務省が「固定資産評価基準」で細かく評価方法を定めており、特に土地、家屋の評価方法は難解を極めている。

 

 また、評価額と課税標準も往々にして一致しない。評価額に対してさまざまな特例や措置を設けることで、課税標準を変動させているからだ。固定資産税は、評価の方法だけでなく、さまざまな特例や措置の計算という、2段階にわたって複雑な仕組みになっている。事業用の償却資産は、所有者が取得した時の価格に、償却資産の耐用年数に応じた減価率を毎年掛けて評価額を下げ、これを課税標準として課税する。

 

 一方、固定資産税の課税標準額が一定額(免税点)に満たない場合は、徴税コストに見合わないという理由で課税しないことになっており、土地は30万円未満、家屋は20万円未満、償却資産は150万円未満が免税点となっている。

 

1 税制編 ◇固定資産課税台帳

 固定資産税の課税対象となる固定資産は、市町村が「固定資産課税台帳」に登録し、この課税台帳に基づき課税する。課税台帳には評価額や課税標準のほか、税額や所有者(納税義務者)の住所、氏名、土地・家屋の属性(土地の地目、地積、家屋番号や床面積など)などが記載してある。土地・家屋の情報は不動産登記がもとになっているが、地目など実際と異なっていることも少なくない。課税台帳の誤りを指摘して修正してもらうことが必要になる。

 

 自分が所有する土地・家屋の評価額や課税標準、税額などは毎年、市町村から納税通知書とともに送られてくる課税明細書でも確認できるが、市町村の役所で固定資産課税台帳をいつでも閲覧できる。また、同じ市町村内であれば、「縦覧」という制度で他の所有者の土地・家屋の評価額を見られ、自分の評価額と比較できる。ただ、縦覧期間は毎年4月1日以降、2カ月程度とする市町村が多く、いつでも見られるわけではない。

1 税制編 ◇固定資産税率

 固定資産税は市町村税であり、地方自治の観点から税率は本来、市町村が自主的に決めるべきものだ。ただ、「市町村間の住民負担の均衡化」を図ることなどを理由に、地方税法で市町村が通常用いるべき税率として「標準税率」が定められ、1・4%とされている。総務省によれば、標準税率を採用している市町村は2015年度、91・1%にのぼり、標準税率未満はゼロ。人口50万人以上の市では100%が標準税率を採用している。

 

 実は、この標準税率は1955年以来、60年以上も見直されていない。一方、固定資産税収は99年度の9・3兆円まで右肩上がりで増加を続け、その後は9兆円前後で推移しており(15年度は8・7兆円)、市町村税収の約4割を占める基幹税となっている。この間、バブルの崩壊などがあったにもかかわらず、固定資産税収が安定しているのは、税率ではなく評価の方法や課税標準を調整するさまざまな措置を導入するなどしてきた結果だ。

 

1 税制編 ◇評価替え

 固定資産税の建前は、毎年1月1日時点の「適正な時価」を課税標準として課税するものだ。しかし、毎年「適正な時価」を評価することは、あまりに実務負担が大きい。そこで、3年ごとに資産価格の変動に対応して評価額を適正に見直す制度が採られており、これを「評価替え」という。直近では15年度が評価替えの年で、次の評価替えは18年度。原則として次の評価替えまで評価額を据え置くが、宅地は大幅な地価下落がある場合、簡易な方法で評価額を修正できる特例措置がある。

2 土地編 ◇固定資産税路線価

 市街化された地域の道路ごとに設定された1平方メートル当たりの評価額で、その道路に接する土地の評価額を計算する基礎となる。現在は国土交通省が発表する地価公示価格の7割の水準になるように設定され、評価替えの年ごとに見直される。15年度の評価替えでは、14年1月1日の地価公示価格の7割の水準を目安に設定された。全国の固定資産税路線価は、一般財団法人資産評価システム研究センターが提供するホームページ「全国地価マップ」で見られる。

 

 土地の固定資産税評価額は、基本的に固定資産税路線価に土地の面積を掛けて求める。ただ、土地は形がいびつ(不整形)だったり、道路に面する間口が狭かったりと、条件が悪く利用価値が低いものがある。固定資産評価基準では、不整形地補正率や間口狭小補正率などを定めており、土地の悪条件に応じて評価を下げることになっている。一方、複数の道路に面する土地の場合は、利用価値が上がる分を評価が高くなるよう加算する。

2 土地編 ◇画地

 土地の評価は登記上の筆ではなく、一体的に利用されている区画ごとに評価する。この区画の単位を「画地(かくち)」という。例えば、2筆の土地の上にオフィスビルが建っている場合は、2筆を一つの画地として評価する。賃貸アパートが建つ土地と、アパート居住者専用の駐車場で筆が分かれているような場合も、同様に一つの画地と考える。逆に、1筆の土地を住宅と店舗として別々に利用している場合は、住宅と店舗部分の土地を分けて評価する。

2 土地編 住宅用地の特例

 人が居住する住宅が建っている土地は、固定資産税・都市計画税の負担を軽減する「住宅用地の特例」によって、評価額に対して課税標準が大幅に引き下がる。住宅1戸につき200平方メートルまでの土地(小規模住宅用地)は、固定資産税の課税標準が評価額の6分の1となる(都市計画税は3分の1)。また、200平方メートルを超える土地(一般住宅用地)は、課税標準が評価額の3分の1となる(都市計画税は3分の2)。この特例が適用されているかどうかは税額に与える影響が大きい。

 

 住宅の完成を年内に急いだり、取り壊しのタイミングを年明けにずらしたりするのは、この住宅用地の特例のためだ。毎年1月1日の時点で住宅が建っていれば特例が適用されるが、更地なら適用を受けられず課税標準が6倍になってしまう。ただ、住宅の建て替えの場合は、すでに新築工事に着手しているなどの要件を満たせば特例が引き続き適用される。

 

3 家屋編 ◇再建築価格方式

 再建築価格とは家屋を評価する際、同じ家屋を評価時に新築するとした場合に必要となる建築費のこと。固定資産評価基準ではこの再建築価格方式で家屋を評価することにしており、家屋の取得時の価格や実際の建築工事費とは異なる。大きくは木造と非木造に分けた上で、屋根や天井、外壁などの部分ごとに評価する(部分別評価)。固定資産評価基準の「再建築費評点基準表」では部分ごとに材質や量などに応じた評点数が細かく決められている。

 

 こうして積み上げた再建築費評点数に、新築家屋の場合はこれに1年分の劣化を補正する経年減点補正率(初年度の賦課期日である1月1日まで1年経過したとみなす)などを適用して総評点を算出。1点を1円としたうえで、物価水準による補正率(東京23区と各地方の物価差を反映した補正)などを加味し、家屋の評価額が決まる。既存の家屋はこうして求めた評価額に、評価替えごとの物価変動分(再建築費評点補正率)や、建築時点からの経年劣化分の経年減点補正率などを掛けて求める。

 

 家屋の評価額が下がらないことがあるのは、経年劣化分を加味しても、評価替えに伴って物価上昇分が反映されるためだ。ただ、家屋では評価替えに伴って前年度の評価額を上回った場合には、前年度の評価額に据え置かれることになっている。つまり、家屋の評価額は前年度から下がらないことはあっても、上がることはない。家屋の評価額が年数を経過しても上昇するのでは、納税者の理解を得られにくいからだ。

3 家屋編 ◇比準評価

 東京23区など都市部では毎年、多くの新築物件が建設され、そのたびごとに部分別評価していては評価の作業が追いつかない。そこで、より簡易に評価するために用いられているのが「比準評価」の方法だ。具体的には、比準評価の基準となる「標準家屋」を定めて部分別評価したうえで、新たに評価したい家屋と標準家屋を使用資材や施工量などで比較。その相違を補正して評価額を求めている。一方、新築件数が少ない地方の市町村では、基本的に部分別評価を採用している。

(編集部)

(監修=古郡寛・税理士)

*週刊エコノミスト2017年4月11日号「固定資産税の大問題」掲載

特別定価:620円

発売日:2017年4月3日


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目次:2017年4月18日号

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本文 CONTENTS

 

人手不足ですが何か?

20 バブル期並みの水準 自動化と職場改善で解消 ■松本 惇

23 崩壊した薄利多売モデル ■山田 久

25 逆転の発想! シングルマザー採用にメリット ■渥美 由喜

26 ヤマト運賃値上げへ 過当競争で運転手不足は解消せず ■刈屋 大輔

28 Q&Aで解説! 人手不足をもたらす労働市場の真実■河野 龍太郎/加藤 あずさ

30 何人、生める? 「子宝率」でわかる働きやすさ ■渥美 由喜

33 スウェーデン労働市場 解雇されても失業せず ■佐藤 吉宗

34 人手不足に効果的 在宅勤務の「5大課題」 ■田澤 由利

 

生活保護はもう限界

38 小田原の提起 「なめんな」ジャンパーを保護行政の転機に ■黒崎 亜弓

40 インタビュー 『貧困クライシス』藤田 孝典氏

41 大阪あいりん地区の脱「貧困集中」 ■白波瀬 達也

 

エコノミス・リポート

76 第2のウクライナ ベラルーシにロシアが軍事介入も ■阿部 直哉

 

36 英国 EU市場を離れ米国に接近 ■竹鼻 智

44 インド 天王山を制したモディ首相 ■石井 順也

72 貿易 Q&Aで考える国境調整税 ■竹中 正治

 

Flash!

13 東電社長交代/韓国朴前大統領逮捕/東芝上場廃止リスク/インタビュー コニカミノルタ社長

17 ひと&こと 「森友」渦中の財務省国際局長/原発訴訟で「市民派」判事が異動/任天堂の新型機に不安

 

Interview

4 2017年の経営者 瀬戸 健 RIZAPグループ社長

50 問答有用 木村 泰子 大阪市立大空小学校元校長 「子どもを変えたいなら、大人が変わることです」

 

すごい新素材

80 セルロースナノファイバー 1兆円市場にらみ量産化へ ■吉田 智

82 インタビュー 小関 良樹 王子ホールディングス取締役

83 SiC繊維 航空機エンジンに採用 ■荒木 宏香

84 CFRP 日本勢は買収、新製品で本腰 ■清水 孝太郎

85 カーボンナノチューブ 中国メーカーが急成長 ■荒木 宏香

86 これが関連34銘柄 繊維系新素材で広がる市場 ■和島 英樹

 

コメ戦国時代

89 おいしいのは当たり前 違い味わう“嗜好品”に ■黒崎 亜弓

92 「家畜が新米、人は古米」のゆがみ ■吉田 俊幸

94 インタビュー 卸最大手・神明 藤尾 益雄 社長

95 地元産のコメが醸す日本酒の個性 ■小針 美和

 

World Watch

64 ワシントンDC オバマケア改正採決見送り ■堂ノ脇 伸

65 中国視窓 国家主席の終身制導入も ■金子 秀敏

66 N.Y./シリコンバレー/スウェーデン

67 韓国/インド/シンガポール

68 台湾/ブラジル/マダガスカル

69 論壇・論調 FRBと市場の対話に疑問符 ■岩田 太郎

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

19 グローバルマネー 財源確保に四苦八苦の米トランプ政権

46 名門高校の校風と人脈(237) 済々黌高校(熊本県) ■猪熊 建夫

48 海外企業を買う(136) グレンコア ■児玉 万里子

54 学者が斬る 視点争点 環境経営にビジネスチャンス ■西谷 公孝

56 言言語語

70 アディオスジャパン(48) ■真山 仁

74 東奔政走 自公連携18年目の「すきま風」 ■前田 浩智

88 商社の深層(64) 三井物産の再保険事業 ■荒木 宏香

102 景気観測 強い設備投資に限界 ■上野 泰也

104 ネットメディアの視点 ヘイトに広告、ユーチューブ離れ ■土屋 直也

108 アートな時間 映画 [LION/ライオン 25年目のただいま]

109        舞台 [団菊祭五月大歌舞伎]

110 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Freedom Caucus ”

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

98 インド株/為替/穀物/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『家計の経済学』『「心の除染」という虚構』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■孫崎 享

62 歴史書の棚/出版業界事情

 

57 次号予告/編集後記

 

デザイン─浅野 康弘

 

2017年4月18日号 購入案内

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発売日:2017年4月10日

特別定価:670円


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週刊エコノミスト 2017年4月18日号

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特別定価:670円

発売日:2017年4月7日号

 

人手不足ですが何か?

 

◇バブル期並みの水準

◇自動化と職場改善で解消

 

「オーダー入りました!」

 3月30日正午前、東京都大田区のJR大森駅近くにあるリンガーハット大森店ではホール担当の店員から大きな声が飛んだ。お昼時の店内はほぼ満席。木原兼士店長(43)は厨房(ちゅうぼう)内の機械に表示された注文を見て、看板メニューの長崎ちゃんぽんを四つの鍋で同時に作り始めた。(全文を読む



経営者:編集長インタビュー 瀬戸健 RIZAPグループ社長

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◇「人は変われる」を証明したい

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな会社ですか。

瀬戸 「人は変われる」という理念を信じてひた走っています。ジムのトレーナーひとりひとりに情熱が宿っている会社です。

── 前身の「健康コーポレーション」を設立して以来の歩みは。

瀬戸 豆乳クッキーで起業し、せっけんや美顔器に広げ、今の主力はパーソナルトレーニングジムです。変遷しているように見えるかもしれませんが、すべてがつながっています。

 原点にあるのは高校3年の時のことです。体重70キロ超の彼女と付き合い始め、一緒にがんばってやせよう、と走ったり、励ましたりしました。彼女は3カ月で25キロやせたのですが、どんどんきれいになり、内向的だったのが外向的に、散らかっていた部屋も整理整頓するようになりました。きれいになりすぎて浮気されて振られてしまったのですが(笑)、人って本当に変わるというインパクトが強烈でした。

 

── その経験が、どのように事業につながったのですか。

瀬戸 豆乳クッキーは、彼女がお菓子も食べず苦しそうにダイエットしていたことが念頭にありました。無理なくダイエットできる食品を作ろうと考えました。おからは水を含みやすいので少量で満腹になります。

 豆乳クッキーがヒットした後、美顔器の会社を買収すると、なぜ?と言われました。それは、手段を見ているからです。消費者の目的は美しくなって自分に自信を持つこと。クッキーや美顔器が欲しいわけではありません。

 ただ、一人でやるダイエットは挫折する人が多い。どうやったらやせられるかについては情報が氾濫していますが、分かっているのと、やり切れるかどうかは別です。やり切るために愛情を持って寄り添うサービスとして、パーソナルトレーニングジムのライザップが生まれました。

 

── テレビCMが印象的でした。

瀬戸 我々が何を提供する会社なのかを徹底的に追求しました。15秒のCMはライザップに通う前と後の姿のみ。トレーナーも、店舗も出てきません。結果を重視することを伝えました。

「結果が出なかったら全額返金」は我々が緊張感を持つためでもあります。トレーナーはお客様が通わなくなったり食べすぎたりした時に本気で向き合います。するとお客様が本当に変わり、“卒業”を迎える日にとてつもない感動があるから、次のお客様にまた「結果を出します」と言えるのです。

 

 ◇三日坊主市場は広い

 

── 海外展開は。

瀬戸 既に台湾、シンガポール、香港、上海にライザップの店舗を展開しています。

「三日坊主市場」は世界共通ですが、そこに解決策を提示する企業はほとんどありません。国内ではゴルフと英会話の事業を既に始めていて、好調です。ゴルフもスコアにコミットします。

 

── アパレルやインテリアなど、さまざまな業種を買収する意図は。

瀬戸 事業領域は「自己実現」です。経済が成熟し、欲求の段階が上がりました。なくても困らないけれど、自分に自信を持つために人はお金を投じます。あらゆる業種で商品やサービスの目的が変わってきています。かつて服は身を隠し、寒さをしのぐためのものでしたが、今は自分の存在を高めてくれるものです。

 ライザップで10キロ以上やせると過去の服が着られず、自分の外見に興味がなかった男性が服にお金を使うようになります。オーダーメードスーツが好調です。

 

── ジーンズメイトなど買収先は赤字企業ばかりで、「負ののれん」が利益をかさ上げしているとも指摘されています。

瀬戸 いいものを持っていながら、すべての力を発揮できず低迷している会社がたくさんあります。人が変われるように、会社も変われます。

「負ののれん」は会計基準に沿ったもので、すべてオープンにしています。M&A(合併・買収)による利益を除いた本業の利益も伸びています。負ののれんには、赤字がついてきます。黒字に転換できるかどうかが勝負です。

 

── 経営目標は。

瀬戸 事業を通じて世の中に影響を与えたいと思っています。「人が変われる」ことを証明して社会にインパクトをもたらすのは兆円単位の話。2021年3月期に売上高3000億円、営業利益350億円の目標はプロセスとして当たり前のことです。

 今、当社のCMを見て、ライザップに通うのではなく、自分でジムに通う人も増えている。CMはきっかけの提案でもあります。我々は低糖質食を勧めていますが、将来的には摂取カロリーに占める栄養素の割合が変わるでしょう。

 

── 人々が健康になれば、国の医療費も削減できそうです。

瀬戸 我々は会員7万人のデータをもとに、どうすればやせて健康的になれるのかを検証しています。ライザップはマンツーマンでフルスペックですが、コストを抑えた形でサービスを提供することもできます。

 その例として、静岡県牧之原市と提携し、高齢者向けの健康増進プログラムを始めました。プログラム前後の変化を分析します。今後、全国の自治体と進めていきます。我々は結果にコミットしますから、一般的な単価報酬ではなく、健康数値が改善したかなど結果に連動する成功報酬型を考えています。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 今も30代ですが、30代前半は人が遊んでいる時にも自己投資していました。本を猛烈に読みました。書かれたことに一つ、二つでもチャレンジすると、失敗を含めてフィードバックがあり、記憶が定着します。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『自助論』(サミュエル・スマイルズ)です。すべてを自分の責任として受けとめることを説いています。人のせいにした瞬間に成長のチャンスがなくなります。自分次第で変わると思った方がお得です。

 

Q 休日の過ごし方

A スキーなど社員のレジャーに参加したりしています。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇せと・たけし

 福岡県出身。福岡県立北筑高校卒業、明治大学商学部中退。2003年に健康コーポレーション株式会社を設立、06年に札幌証券取引所アンビシャスに株式上場。16年に商号変更。38歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:美容・健康、アパレル、住関連、エンターテインメント等

本社所在地:東京都新宿区

設立:2003年4月

資本金:14億円

従業員数:約4000人(連結、2017年3月)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:554億円

 営業利益:50億円

 

特集:人手不足ですが何か? 2017年4月18日号

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自動化が進むリンガーハットの厨房
自動化が進むリンガーハットの厨房

◇バブル期並みの水準

◇自動化と職場改善で解消

 

「オーダー入りました!」

 3月30日正午前、東京都大田区のJR大森駅近くにあるリンガーハット大森店ではホール担当の店員から大きな声が飛んだ。お昼時の店内はほぼ満席。木原兼士店長(43)は厨房(ちゅうぼう)内の機械に表示された注文を見て、看板メニューの長崎ちゃんぽんを四つの鍋で同時に作り始めた。

 

 かつては大きな中華鍋で4人前を一気に作っていた。このため、味にムラが出ることがあり、調理担当者が腱鞘炎(けんしょうえん)になることも多かったという。現在は、4個のIHヒーター上に設置された「自動鍋送り機」により、調理担当者が鍋を移動させなくても、具材が入った鍋が約35秒ごとに右から左に移っていくシステムが導入されている。

 

 

 木原店長はまず、一番右端のIHの上に魚介類や野菜、スープを入れた鍋を置いた。自動で左隣のIH上に鍋が移り、煮込みを続行。3番目のIH上では、別の機械で解凍した麺を入れてさらに煮込み、左端のIH上に鍋が移動したところで、箸を使って軽く具を混ぜながら仕上げ、どんぶりに移してちゃんぽん1人前ができあがった。3分かからないスピード作業。その合間に焼き上げたギョーザも皿に盛りつけた。

 入社21年目の木原店長は「昔は調理から接客まで一通りできるようになるまで半年かかったが、今のシステムなら30分間教えればできるようになる。厨房にいる人数も減った」と話す。野菜を自動で炒められる機械も設置されており、広報担当者は「自動化により、女性や外国人が働きやすくなったことで、社員を増やさずに対応できている」と話す。

 

 回転ずしチェーン「はま寿司」のウィラ大井店(東京都品川区)では、ソフトバンクグループの人型ロボット「ペッパー」が接客対応している。タッチパネルに人数や希望する席の種類を入力し、空席ができると「発券用紙に書いてある番号のお席にお進みください」とペッパーがアナウンス。店員に案内されることなく、指定した席につくことができる。ただ、勝手がわからず戸惑う客もいるのが課題だ。

 

 はま寿司では、同店を含む首都圏3店舗でペッパーを試験的に導入。これまでは、会計と案内は同じ従業員が担当しており、会計の対応をしてしまうと、すぐに案内できなかったため、客がイライラすることが多かった。だが、ペッパーが案内することにより、会計と案内が同時にできるようになった。運営するゼンショーホールディングスの担当者は「効率よく商品を提供できる技術革新なしではやっていけなくなる」と危機感をあらわにする。

 

 ◇若者のライフスタイル変化

 

 ファミリーレストラン業界は営業時間の短縮を進める。「ガスト」や「バーミヤン」などを運営する「すかいらーく」の広報担当者は客の変化について「SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及により、若者が深夜にファミレスに来ておしゃべりしなくなった」と語る。さらに若者のライフスタイルの変化はアルバイトの働き方にも及んでおり、「深夜に働くことを希望するアルバイトが減り、深夜帯にシフトを入れざるを得ない社員に負担がかかっていた」(担当者)ため、「午前2時閉店、同7時開店」を原則として営業時間の見直しを進めている。また、ロイヤルホストを展開するロイヤルホールディングスは1月末に全店で24時間営業を廃止した。

 

 コンビニ業界も人材の確保に必死だ。「セブン─イレブン」を運営するセブン&アイホールディングスは2014年から、それまでは個別店舗に任せていたアルバイトの採用を、一括対応するためのコールセンターをオープン。応募者が希望する店舗での面接などの日程調整をしている。担当者は「応募者が店舗に直接問い合わせても、店員が少ないために対応が遅れることも多く、その間に他の店に人材を取られることもあった。一括対応で、確実に人材を確保できるようになった」と話す。

 

 ◇面接で会社が選ばれる

 

 日銀が4月3日に発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)の雇用人員判断では、「過剰」から「不足」を差し引いたDI(業況判断指数)が全規模・全産業でマイナス25を記録し、約25年ぶりの低水準となった。また、2月の完全失業率も22年8カ月ぶりの水準となる2・8%まで低下する一方、有効求人倍率(季節調整値)は1・43倍で、1991年7月以来の高い水準が続いている。

 25年に583万人の労働力が不足する──。

 

 労働市場や企業の人材マネジメントについて調査・研究する「パーソル総合研究所」が16年に発表した試算では、こんな結果が出ている。25年までに0・8%の経済成長率を維持したと仮定して推計。6484万人の需要に対し、供給は5901万人にとどまる。

 

 業種別の人手不足数は、情報通信・サービス業が最多の482万人。今後もIT関連企業のなどの成長が続き、エンジニアなどが大量に不足する可能性が高いという。次いで卸売・小売業の188万人。多様な業種の求人が増え、以前はこの業界で働いていたアルバイトやパートが他の業種に移りやすくなったことなどが影響している。

 同研究所は人手不足の解消に向けた方策として「生産性の向上」「女性・シニア・外国人の雇用促進」を挙げる。特に企業は「働く人から選ばれる存在とならなければ、生き残っていくことは難しい」と指摘する。

 

 労働者から「選ばれる企業」となるための取り組みも始まっている。

 

 総合商社の豊田通商は4月から、管理職への登用や国内外の転勤がある「担当職」(総合職)と、転勤しない代わり管理職にならない「業務職」(一般職)という職種を廃止し、新たに担当職を「グローバル職」、業務職を「地域限定職」にする新人事制度を導入した。転勤の有無の区別はこれまでと同様だが、地域限定職でも管理職に登用できるようにした。また、子育てや介護などの社員の事情に応じて、職種間の移動もできる。担当者は「ライフステージによる人材の流出を防ぎ、長期的にキャリアを積めるようにした」と説明する。

 

 業務用食品メーカー「ケンコーマヨネーズ」は現在「24時間フル稼働」に近い状態の工場の稼働時間を「午前8時~午後5時」にする体制を目指している。総額150億円強を投じて新増設する国内4工場は、増え続ける業務用総菜への需要に応えるのが主な目的だが、炭井孝志社長は「長時間労働が嫌だから、工場を新増設する意味合いもある。朝一番から働く人間は、夕方以降も力を発揮することはできない」と話す。

 

 労働力の中心となる生産年齢人口(15~64歳)はピーク時の95年(8726万人)から約1000万人減り、15年には7728万人となった。さらに25年には7084万人まで減少すると推計されている。

 マクロでの人手不足は避けられない状況となるが、日本人事経営研究室の山元浩二社長は「10人が10%生産性を上げれば、1人分の仕事ができる。まだまだ生産性を上げられる企業は多い。明確な経営計画と社員の教育システムをつくって働きがいのある職場にすれば、その企業の人手不足は解消できる」と指摘する。

 

 今後は「面接で会社が選ばれる時代になる」(シンクタンク研究員)かもしれない。企業は「魅力ある職場」をつくることができれば、人手不足経済の中で生き残れるだろう。

(松本惇・編集部)

週刊エコノミスト2017年4月18日号

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週刊エコノミスト 2017年4月25日号

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空爆 テロ 欧州

◇米国vs北朝鮮でリスクオフの円安到来

 

米中首脳会談が開かれた4月6日、米国がシリア攻撃に踏み切った後、次のターゲットして注目されるのが北朝鮮だ。米国は、核開発を続け、ミサイルの発射実験を繰り返す北朝鮮に対して、友好国である中国が抑え役としての役割を果たすように強く働きかけた。シリア攻撃は、「中国が動かないなら、米国自らがやる」という強い意志を見せ付けたと解釈されている。

 実際、米軍はシリア攻撃後、朝鮮半島近海に空母を派遣。トランプ米大統領が自身のツイッターで中国抜きでの武力行使も辞さないことを示唆するなど「北朝鮮包囲網」を築きつつある。

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特集:空爆・テロ・欧州 2017年4月25日号

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 米中首脳会談が開かれた4月6日、米国がシリア攻撃に踏み切った後、次のターゲットして注目されるのが北朝鮮だ。米国は、核開発を続け、ミサイルの発射実験を繰り返す北朝鮮に対して、友好国である中国が抑え役としての役割を果たすように強く働きかけた。シリア攻撃は、「中国が動かないなら、米国自らがやる」という強い意志を見せ付けたと解釈されている。

 

 実際、米軍はシリア攻撃後、朝鮮半島近海に空母を派遣。トランプ米大統領が自身のツイッターで中国抜きでの武力行使も辞さないことを示唆するなど「北朝鮮包囲網」を築きつつある。

 

 ◇トリプル安

 

 緊張感は日本にも広まっている。証券エコノミストが不気味がる。

「なぜ、いま1994年の北朝鮮危機がメディアや識者の間で取り上げられるのか」

 

 93年に北朝鮮は、ノドンミサイルを日本海に向けて発射。核開発疑惑も浮上した。北朝鮮をこのまま放置するのは危ないと見た当時のクリントン米政権が、北朝鮮の核関連施設を秘密裏に空爆する計画を立案。しかし、協力を求められた日本が断り、北朝鮮の核開発凍結を定めた米朝合意が成立したため、空爆劇は未遂に終わった。これが北朝鮮危機である。

 

 だが、北朝鮮はその後、この枠組みをほごにして、核開発を続行。トランプ大統領に「核開発を許さない」と言わしめるまでの脅威となっている。

 

 94年の北朝鮮危機が識者の間で語られるのは、「あの時、空爆していれば、いま北朝鮮の危機に日本がさらされることはなかった」という悔恨の情からである。

 

 トランプ米大統領が医療保険制度改革(オバマケア)の見直しを断念するなど政権公約がぶれ始め、政治リスクが顕在化すると同時に、日々緊張が高まる北朝鮮情勢に市場も反応している。

 

 安全資産とされる円を買う動きとトランプ大統領による「ドルは強すぎる」という口先介入で4月13日、一時1ドル=108円台と5カ月ぶりの円高・ドル安水準となった。円高が嫌気され日経平均株価は一時1万8500円を割り込む年初来安値を更新。リスク回避の動きがじわりと進んでいる。

 

 リスクオフ=円高という構図は従来のパターンだが、「今回は、円高が続くとは限らない」と指摘するのは、生保系シンクタンクの主任エコノミストだ。

 

「中東や欧州のテロならともかく、北朝鮮を巡る緊張が高まれば、日本側のリスクも同時に高まる。万が一、米国がシリア同様に北朝鮮を先制攻撃すれば、いやが応でも日本も危機に巻き込まれる。そうなれば、円買いではなく円売りだろう」

 

 BNPパリバ証券の中空麻奈・投資調査本部長は、仮に米朝間の「有事」に発展すれば、「円も株も債券も売られるトリプル安が起きる」と予想する。

 

 ただし、現時点で北朝鮮情勢について、「海外の投資家からの問い合わせはない」と言い、「本当に緊張する状態が起きないと、投資家は動きようがない」と語る。

 

 市場関係者の中には、今回の攻撃が米中首脳会談中の単独行動だったことから、「北朝鮮問題を巡って中国に対し指導力を発揮するよう揺さぶりをかけただけ」と冷静に分析する向きは少なくない。米国のシリア攻撃に伴う世界的なリスクオフムードは、一過性という見方だ。円も日本株も、再び買うチャンスを投資家が虎視眈々(たんたん)と探っているという。

 

 しかし、「日本は大丈夫。円は安全資産のままでい続ける」と楽観するのはどうか。地政学リスクという日常を超えたリスクに対しては、平時の理屈が通じないものだ。そうした視点でいま一度、リスクを総点検する局面にある。

(編集部)

発売日:2017年4月17日

特別定価:620円


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経営者:編集長インタビュー 木村博紀 朝日生命保険社長

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◇医療・介護保険でお客さまの「生きる」をサポート

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 朝日生命はどんな会社ですか。

木村 前身の帝国生命の創業が1888(明治21)年で、来年3月に創業130周年を迎える歴史のある会社です。現在は『一人ひとりの“生きる”を支える~「お客様大好き」企業。朝日生命~』を企業ビジョンに、今後の日本市場を想定して「シニア(高齢者)」「女性」「企業経営者」を三つの戦略マーケットと位置づけ、お客さまが生きていくためのサポートをする商品やサービスを提供しています。

 

── 他社にない強みや特徴は。

木村 成長市場の医療保険や介護保険など(生命保険、損害保険のどちらにも属さない)「第3分野」と呼ばれる保険商品に、同業他社に先駆けて取り組んできました。第3分野を本格展開したのは2003年です。同業他社と比べると、万一の時に備える「保障性商品」のウエートが高く、資産形成効果がある「貯蓄性商品」のウエートは低くなっています。その保障性商品の中でも、第3分野のウエートが高いのが特徴です。

 

── 三つの戦略マーケットを位置づけたのはなぜですか。

木村 日本の将来を想定すると、少子高齢化が進んでシニアのお客さまが増えます。また、働く女性も増えていくと考えたからです。実際にそういう時代になってきています。死亡保障という市場もお客さまにとって大切ではありますが、さまざまなリスクへの備えが非常に重要になるだろうと考え、第3分野に力を入れてきました。

 

── 現在の業績は。

木村 保障性商品の保有契約高(年換算保険料)は長年減少傾向でしたが、14年度に底打ちして反転しています。特に、主力の営業職員を通じた販売チャネルでは、介護保険やがん保険の新契約が好調で、目標としていた営業職員チャネルでの保有契約高反転目標を1年前倒しで16年3月に達成しました。

 

── それは好調ですね。

木村 約1万2000人の営業職員は、保険金の支払いに至るまでアフターフォローもしっかりできるのが強みで、有力な販売チャネルという認識は今も昔も変わりません。東日本大震災でも対面型の営業職員の存在が改めて評価されました。また、保険ショップなどの代理店チャネルも好調に推移しています。ここ数年は、超低金利下で基礎利益(保険関係の収支と運用関係の収支を足したもの)は横ばい基調ですが、保有契約高の純増のペースを上げ、基礎利益が反転するようなシナリオを描きたいと考えています。

 

 ◇認知症保険も発売

 

── どのような商品性が評価されたと考えますか。

木村 お客さまのニーズに沿った商品開発を進めてきたことでしょう。12年4月に介護保険「あんしん介護」を発売しましたが、商品の分かりやすさで業界では異例の「グッドデザイン賞」を受賞しました。保険金の支払い要件を公的介護保険の要介護認定と完全連動させたことで、商品の説明も簡素になりお客さまの理解も得やすくなったのです。昨年4月には認知症に特化した「あんしん介護 認知症保険」も発売しました。家族が認知症になって苦労される人も増えており、こちらも好評をいただいています。

 

── 02年には経営危機に直面しました。

木村 当時は01年の米同時多発テロで株価が下落し、保有する株式の評価損が増加してしまいました。そこで、株式など価格が変動しやすい資産の残高を圧縮し、市場環境の悪化に対する耐久力を付けること、第3分野を中心に保有契約高を増やし地道に収益力を高めることに取り組みました。これが現在の成果につながったと思っています。

 昨年8月には基金(株式会社の資本金に相当)の償却(返済)繰り延べも解消し、資本政策の柔軟性が向上します。今年1月には米ドル建ての永久劣後債を3・5億ドル(約400億円)発行しました。

 

── 運用部門の経験が長いですが、現在の金融環境にどう対処しますか。

木村 運用面では非常に厳しい状況です。ここ数年の日銀の金融緩和の結果、長期金利が非常に低い水準で推移しており、利回りの低い円建て債券を積極的に組み入れることは適当ではありません。為替ヘッジした外貨建て債券のほか、投資信託やヘッジファンドなど「オルタナティブ投資」を組み入れたりして、運用の高度化を進めています。リスクを取りすぎていないかは当然、チェックしています。超低金利が当分、続くことを前提に経営を考えていく必要がありますね。

 

── 他の生保では海外のM&A(企業の合併・買収)や業界再編も起きています。

木村 日本は総人口は減少しますが、シニアや働く女性、単身者は増えていくので、お客さまのニーズにはまだ拡大余地があり、自分たちで国内市場を開拓できると思っています。一方、海外市場は長期的な視点で考え、調査・研究をしていこうという段階です。再編はまったく考えていません。

 

── 4月に新社長に就任しました。

木村 創業130周年という節目の年に社長となります。将来にわたってお客さまに信頼され、社会に貢献できる会社、また従業員が明るく伸び伸びと仕事ができる会社を目指して経営していきたいですね。

(構成=桐山友一・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 1996年の保険業法の全面改正の前後に企画課に在籍していました。生・損保の相互参入など制度が大きく変わり、非常に勉強になりました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 童門冬二さんの『小説 上杉鷹山』です。粘り強く改革を進めるところなどが、ビジネスマンとして参考になります。

 

Q 休日の過ごし方

A スポーツジムに週1回以上、通い続けています。もう10年以上になりますね。多少疲れていても汗を流すと、疲れが取れたりリフレッシュできます。

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 ■人物略歴

 ◇きむら・ひろき

 1962年生まれ。和歌山県出身。和歌山県立桐蔭高校、慶応義塾大学経済学部卒業後、84年朝日生命保険入社。取締役執行役員資産運用部門長、取締役常務執行役員経営企画部主計部担当などを経て、2017年4月から現職。55歳。

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事業内容:生命保険業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1947年7月

基金総額:2460億円(2016年3月末)

従業員数:1万6461人(2016年3月末)

業績(2016年3月期・単体)

 経常収益:6527億円

 経常利益:148億円 

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