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目次:2017年4月25日号

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空爆 テロ 欧州

米中朝編

14 米国vs北朝鮮でリスクオフの円安到来 ■編集部

16 米国 北朝鮮の核開発封じの「決意」■ポール・ゴールドスタイン

17 米中首脳会談 「100日計画」阻む多くの壁 ■安井 明彦

19 「ミュンヘン会談」の轍を踏まなかったトランプ ■福富 満久

欧州編

20 市場かく乱する「ルペンリスク」■種市 房子/花谷 美枝

22 出だしから紛糾 「時間切れ」に現実味

23 インタビュー 小野塚 知二 東京大学教授 「内政の行き詰まりを『外敵』に転嫁する危険」

24 インタビュー 浜 矩子 同志社大大学院教授 「EUは統合にこだわらず新たな結束の形を」

25 インタビュー 水野 和夫 法政大学教授 「英国無きEUはドイツ覇権の“中世フランク王国”」

26 英国EU離脱 過熱する金融機関誘致合戦 ■吉田 健一郎

27 製薬 規制当局がなくなる英国 ■編集部

28 英国 チャーチルが目指した「欧州合衆国」 ■細谷 雄一

30 インタビュー 寺島 実郎 日本総合 研究所会長 「メイ英首相は資本主義を制御できるか」

31 トルコ 今は難民をせき止めるトルコ ■坂口 裕彦

32 フランス 極右の資金源となった欧州議会 ■福富 満久

34 ドイツ ルター派教会に逃げ込む人々 ■深井 智朗

36 ユーロ相場 「まさか」ならドル、円に対してユーロ安 ■山口 曜一郎

37 インタビュー 白井 さゆり 慶応義塾大学総合政策学部教授 「ECBは秋に資産買い入れ縮小宣言か」

38 今さら聞けない EUの基礎知識 ■田中 理

 

エコノミストリポート

74 日銀の課題 日銀に迫る“逆ざや”リスク ■河村 小百合

 

Interview

4 2017年の経営者 木村 博紀 朝日生命保険社長

46 問答有用 安藤 哲也 NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事 「男性のライフスタイル革命を起こしたい」

 

原発漂流

77 6年たっても何も変わらず 今も「そこにある危機」 ■橘川 武郎

80 インタビュー 泉田 裕彦 前新潟県知事 「原子力防災、今も続く国の無為無策」

82 Q&A 福島廃炉、本当は50兆~70兆円かかる ■鈴木 達治郎

84 東芝の米原発事業「失敗」は必然 ■宗 敦司

85 WH出資企業探しは難航

 

40 安全保障 米大統領側近・バノン氏のホワイトハウス内対立激化 ■黒井 文太郎

42 春闘 政府関与の「官製春闘」出口模索を ■長内 智

72 宇宙開発 再び「月」を目指す米国 ■大貫 剛

86 東芝 損失発生期を巡る監査法人との攻防■松本 惇/酒井 雅浩

87    半導体売却 日本企業の応札ゼロ ■津田 建二

 

World Watch

60 ワシントンDC 大統領支持率は歴史的低さ ■今村 卓

61 中国視窓 「二人っ子政策」の弊害 ■前川 晃廣

62 N.Y./カリフォルニア/英国

63 オーストラリア/インド/マレーシア

64 台湾/ロシア/UAE

65 論壇・論調 香港トップに初めて女性の林鄭氏 返還20年 亀裂深い民主派と親中派 ■坂東 賢治

 

Viewpoint

3 闘論席 ■池谷 裕二

13 グローバルマネー インフレ圧力で瓦解するアベノミクス

44 名門高校の校風と人脈(238) 成城学園高校(東京都)(上) ■猪熊 建夫

50 学者が斬る 視点争点 インフラ管理にデータ積極活用を ■吉弘 憲介

52 言言語語

66 アディオスジャパン(49) ■真山 仁

68 海外企業を買う(137) 百度 ■富岡 浩司

70 東奔政走 苦しい「強弁」は安倍政権の宿命か 現実主義と保守思想の相克は深い ■平田 崇浩

94 景気観測 トランプ旋風失速でも米国は堅調 日本は人手不足で賃金、消費増へ ■南 武志

96 ネットメディアの視点 「デモクラシータイムス」の船出 失敗を糧に再挑戦するネットTV ■山田 厚史

97 商社の深層(65) 新日鉄住金発足で地殻変動 商社の鉄鋼部門が再編へ ■井戸 清一

100 アートな時間 映画 [ろくでなし]

101        クラシック [ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017]

102 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Goldilocks economy ”

 

Market

88 向こう2週間の材料/今週のポイント

89 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット

90 欧州株/為替/原油/長期金利

91 マーケット指標

92 経済データ

 

書評

54 『金利と経済』

  『ゼロデイ』

56 話題の本/週間ランキング

57 読書日記 ■ミムラ 

58 歴史書の棚/海外出版事情 中国

53 次号予告/編集後記

 


2017年4月25日号 購入案内

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発売日:2017年4月17日

特別定価:620円


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第45回 福島後の未来:原発集積地の進化 明るい柏崎計画=AKK=枝廣淳子

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枝廣淳子・東京都市大学環境学部教授

 

 世界最大の原子力発電所集積地である柏崎市。私は、原発誘致時から町を二分していた「原発推進」「原発反対」を超えて自分たちの町の未来を考えていこうと、3年間にわたる「明日の柏崎づくり事業」の手伝いをしてきた。今、柏崎では原発の賛否を超えた、地域の事業者たちの未来を見据えた取り組み「明るい柏崎計画=AKK」が始まっている。

 

 AKKの竹内一公代表は、「明日の柏崎づくり事業」実行委員会のメンバーで「原発推進派」の一人だった。同事業が始まった2012年当時は、原発推進派の中では原発以外の産業を考えてみることすらご法度のような雰囲気だったという。

 

 ◇何かやりたい若者たち

 

 AKKの竹内代表は「柏崎市の抱えるさまざまな問題に対して地元の青年経済人として真っ向から挑戦する意思を持った有志が集まっている。市を創生させるためのきっかけを、具体的な成果をもって創り出したい」と決意を語る。

 

 AKKの中心メンバーは異業種からなる事業者、約10人。ちなみに、竹内代表は、竹内電設という電気工事業に携わる企業の経営者で、長沢智信副代表は自動車部品・生産設備部品の製造に関わるテック長沢という企業を経営している。メンバーの多くは30~40代の経営者だ。プロジェクトごとに市内の事業者がつながり、それぞれの観点からのアイデアを出し合っている。

 

 AKK設立のきっかけは「明日の柏崎づくり事業」の3年目、14年9月に市主催で開かれた産業と地域経済を考えるシンポジウムだ。パネルディスカッションで、元中小企業庁長官の鈴木正徳氏が「柏崎で何かやりたい若者がいるなら、僕は一緒にやりたい」と発言。竹内代表は「共感した僕は次の日、鈴木さんに連絡し、さっそく鈴木さんの指導のもと地元の若い経営者たちと勉強会を開催することになった」と語る。

 

 第1回の勉強会には申し込みが多数あり、今までの行政主導から住民主導で行うプロジェクトへと切り替わった瞬間となった。その後も勉強会を生かして成果を出せるネタを探して、メンバーで地域や産業の問題をたくさん出し合った。

 

 その中で、柏崎市の防災行政無線システムが2020年までに一新されるという情報を入手した。防災行政無線は地方自治体が住民向けに防災情報を周知する専用の無線通信システム。津波・水害などの大災害に備えて市町村で整備されている。柏崎市は原発が立地することから市内全戸に受信機が無償で配布されている。市は新たな防災システムを、コミュニティーFM放送を使った方式である防災行政放送に変更することを決めた。20年までに市内全戸3万8000台の受信機を無償配布する。具体的な仕様や事業委託先はこれから詰める。事業委託先企業は市の入札で決める。

 

 AKKはこの市の事業に着目。今までは大手企業が受注してきたこの事業について、AKK中心の地元企業連合での受注獲得に向けて動き出した。15年3月にAKKの最初の全体会合が開催された。

 

 ◇災害時の情報源はラジオ

 

 AKKの全体会合で市の新たな防災システム構築事業について、「地域産業の振興につながり、経済効果を生み出すためにも柏崎でしかできないものを自分たちでつくるべきではないか」との意見が出た。参加者がその方向で考え始め、地元の通信系に強い大学の先生にも声を掛けて、検討していった。

 

「防災行政無線受信機は家にあるが、地震があった時に持ち出して聞いたか」と考えた時、多くの人は実際には持ち出して聞いていなかった。AKKメンバーの一人が「だとしたら、何がいいか。そこから考えられるのが地元企業の強みだ」と発言し、原発が立地し新潟県中越地震、中越沖地震と2度の震災被害を受けた柏崎市の経験を生かした活用のあり方を検討していった。

 

 そこで出された解答が防災行政放送を受信できるラジオだ。地震の時、必要な情報はすべてラジオから得ている。こうして既存の防災行政無線受信機に代わるラジオ製造とそのシステムを構築する地域発防災ラジオプロジェクト「柏崎 いのち つなぐ ラジオ」が誕生。AKKプロジェクトの第1弾だ。

 

 AKK自前による防災ラジオの製造にあたりメーカー数社に監修を依頼したが、なかなか理解されず厳しい時期があったという。そのような中、市内に工場を持つ東芝の担当者が、「ものづくりに携わる者として応援する」と言ってくれてプロジェクトが大きく動き始めた。AKKがラジオ本体をつくり、東芝が全体のシステムを担当することになった。

 

 防災行政放送受信機能のついたラジオなのでさまざまな特殊技術が必要だ。16年3月までに新潟工科大学と連携して基礎技術を開発し、東芝と実用技術課題に挑戦した。

 

 防災行政無線は非常事態が発生し、緊急通報を始めると自動起動信号により受信機は待機状態からON状態になる。AKKの防災ラジオも同様の仕組みで、起動音が発端となり地域のコミュニティーFM放送チャンネルが強制的に起動する。

 

 自動起動の際、起動音が必要になり、これを放送波に乗せてよいか、乗せるためにどのような工夫が必要かを相談に行く必要があった。そこで電波を管理する信越総合通信局の担当者に会い、AKKラジオと自動起動などの運用システムが法的な規制に抵触しないことを確認した。AKKの長沢副代表は「東芝の応援はとても大きかった。ただ勝負はこれからだ。委託先企業を決定する市の入札で、設定される条件に対応して競争相手に勝たねばならない」と語る。

 

 AKKは試作機の開発やフィールドテストに向けての開発を進めている。同時に市内の製造業約30社の協力をとりつけ、極力新たな設備投資をしない生産体制を整えている。竹内代表は「柏崎市は部品産業の集積地だ。ラジオ生産には基板設計・基板実装・金型設計・樹脂成型・組み立て・品質検査などさまざまな工程があるが、市内には大手メーカーの下請けでそれらを担ってきた工場が多数ある。それら企業に適性発注して、新たに備える工場や設備はほとんどない」と語る。柏崎の若者が集まり、柏崎の問題を解決するために、柏崎の資源を結集するという柏崎にとって画期的な産業革命が起きている。

 

「防災ラジオプロジェクトがうまくいった暁には、いろいろな地域にも我々のラジオを買ってほしい。実際、東芝が他地域に防災行政放送受信機の販売を行う際に我々のラジオを取り扱い製品のラインアップに加えてもらう話を進めている。防災ラジオはプロジェクトの一つに過ぎない。AKKは並行して構想しているプロジェクトがほかにもある。今後も新たな事業の種を掘り起こして、地元企業の技術力と既存設備を有効活用して地域を振興していきたい」(長沢副代表)。

 

 これまでの思い込みにとらわれず、「地域の、地域のための、地域による産業」という最先端の取り組みだ。AKKはこのプロジェクトをきっかけに、エネルギーの町としてのテーマにも取り組んでいきたいという。「原発に頼るしかない」から「地域の力で地域に必要なものをつくっていく」という柏崎の新たな挑戦が始まっている。

(枝廣淳子・東京都市大学環境学部教授)

◇えだひろ・じゅんこ

 1962年京都市生まれ。東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。『不都合な真実』(アル・ゴア著)の翻訳をはじめ、環境問題に関する講演、執筆多数。幸せ経済社会研究所所長、NGOジャパン・フォー・サステナビリティ代表。

目次:2017年5月2・9日合併号

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ビジネスマンのための資本主義入門

20 特別対談 吉川 洋 × 萱野 稔人 今、問い直す資本主義 経済学と哲学で説く新境地

26 語り継がれるドイツ小説 ベルが問うた「お金と幸福」の不都合 ■木本 伸

27 旅行者と漁師『労働者の倫理を引き下げるための物語』

28 格差縮小の処方箋 「グローバル税」が再分配を促す ■諸富 徹

31 インタビュー アンヘル・グリア OECD事務総長 「日本は最低賃金を上げるべきだ」

32        竹田 青嗣 哲学者 「金融のゼロサムゲーム化が危機を生む」

34 お金と幸福の幻想 「利他性ある共同体」の構築必要 ■大垣 昌夫

36 宇沢弘文と「資本主義の幻想」 よみがえる社会的共通資本 ■関 良基

38 地球が何個も必要な資本主義 経済と自然の調和が持続社会を生む ■鷲田 豊明

40 庶民の実践 ミニマリズムで脱・資本主義 ■橋本 努

42 AIがもたらす大失業時代 ベーシックインカム導入で理想郷に ■井上 智洋

44 資本主義は国債が命 日本亡国の媚薬「シムズ理論」 ■米倉 茂

Keyword 22 「混合経済」/22 「私有権」/23 「帝国主義論」/24 「窮乏化」/25 「r>g」/27 「ハインリヒ・ベル」/30 「パナマ文書」 34 「エウダイモニア」/36 「定常状態」/38 「外部性」/41 「疎外」/42 「技術的失業」/44 「FTPL」

 

エコノミストリポート

47 ミャンマー 少数民族対応に批判や不満 ■工藤 年博

 

Flash!

13 日米経済対話 米が強硬姿勢封印も課題先送りに過ぎず/英総選挙前倒しはメイ首相の賭け/韓国大統領選候補の経済政策/トルコ国民投票で大統領権限強化支持

17 ひと&こと 次期日銀審議委員をプッシュした原田氏/トヨタの役員人事を章男社長が完全掌握/森長官の投信批判がアベノミクスの追い風に

 

Interview

4 2017年の経営者 炭井 孝志 ケンコーマヨネーズ社長

54 問答有用 国谷 裕子 キャスター

「言葉の力を信じて問い続け、伝え続けます」

 

基本書を読む 宗教、神話、資本論

82 「知」の核としての古典 ■本村 凌二

84 ゾロアスター教 一神教と善悪二元論の源流 ■青木 健

87 旧約聖書 西アジアから西欧に通じる思想の底流 ■長谷川 修一

90 道教 現世利益の中国人に浸透 ■加藤 徹

92 コーラン 厳しい戒律と融通無碍な内容 ■飯塚 正人

94 先行宗教・異教徒を取り込む「啓典の民」という考え方

95 日本書紀 「鹿鳴館政策」が生んだ国書 ■出口 治明

97 ギリシャ神話・イリアス 欧州文明の暁光誇る最古典 ■藤村 シシン

100 資本論 資本主義の終焉を予測 ■的場 昭弘

 

50 医療 オバマケア 「国民皆保険」の誤算 ■土方 細秩子

102 生命科学 最先端ゲノム編集技術クリスパー ■小林 雅一

 

World Watch

72 ワシントンDC 連邦政府の航空管制業務 ■安井 真紀

73 中国視窓 進む「都市化」の虚像 ■岸田 英明

74 N.Y./シリコンバレー/英国

75 韓国/インド/タイ

76 香港/ブラジル/南アフリカ

77 論壇・論調 英EU離脱で被る独の痛手 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■片山 杜秀

19 グローバルマネー 米中「100日計画」具体策の困難

46 商社の深層(66)  玉塚会長退任で「商事色」に染まるローソン ■編集部

52 アディオスジャパン(50) ■真山 仁

58 学者が斬る 視点争点 地方経済の研究なき地方創生 ■江頭 進

60 言言語語

68 福島後の未来をつくる(46) 日本の原発政策 北朝鮮の脅威を直視せよ ■村沢 義久

70 名門高校の校風と人脈(239) 成城学園高校(東京都) (下) ■猪熊 建夫

78 海外企業を買う(138) ユナイテッドヘルスグループ ■岩田 太郎

80 東奔政走 対北朝鮮で高まる「敵基地攻撃論」 ■山田 孝男

110 景気観測 中国経済は市場の認識より強い ■藻谷 俊介

112 ネットメディアの視点 配送現場はもう限界 アマゾン危機を招いた売り手目線 ■土屋 直也

116 アートな時間 映画 [スウィート17モンスター]

117        舞台 [アンティゴネ ~時を超える送り火~]

118 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ nuclear option ”

 

Market

104 向こう2週間の材料/今週のポイント

105 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■佐々木 大樹/週間マーケット

106 中国株/為替/白金/長期金利

107 マーケット指標

108 経済データ

 

書評

62 『日本の工芸を元気にする!』

『グローバル企業』

64 話題の本/週間ランキング

65 読書日記 ■小林 よしのり

66 歴史書の棚/出版業界事情

 

61 次号予告/編集後記

週刊エコノミスト 2017年5月2・9日合併号

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発売日:2017年4月24日

特別定価:720円

ビジネスマンのための資本主義入門

 

今、問い直す資本主義

経済学と哲学で説く新境地 

 

特別対談

萱野稔人×吉川洋

 

◇萱野稔人・哲学者、津田塾大学教授

「資本主義が内在する危機を人類は常に乗り越えてきた」

 

◇吉川洋・経済学者、立正大学教授

「我々は資本主義に対してアレルギーを持っている」

 

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特集:ビジネスマンのための資本主義入門 2017年5月2・9日号

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今、問い直す資本主義 経済学と哲学で説く新境地

 

 

◇吉川洋・経済学者、立正大学教授

 「我々は資本主義に対してアレルギーを持っている」

 

◇萱野稔人・哲学者、津田塾大学教授 

「資本主義が内在する危機を人類は常に乗り越えてきた」

 

 日本を含む世界の先進国が、低インフレや格差の拡大、低成長など、根本的な問題に苦しんでいる。資本主義は限界か、失敗か、代替はあるのか。古くて新しいこの疑問の答えを探った。

(谷口健/大堀達也・編集部)

 

── そもそも資本主義とは何か。

 

吉川 市場をベースにした自由主義経済、そういうものを我々は資本主義と呼んでいる。

 もっとも、メインストリームのど真ん中にいた経済学者のサミュエルソンは「混合経済」(キーワード1)という言い方をした。つまり、完全に自由放任の市場経済、いわゆる「小さな政府」「夜警国家」のようなものは19世紀に終わっており、当時(20世紀の中ごろ)の資本主義経済は、国が大きな役割を果たしている。それはケインズ的なマクロ政策、それから大きな社会保障、そういう意味で、サミュエルソンは混合経済という表現をした。19世紀とは姿が変わったとはいえ、資本主義は終焉(しゅうえん)していない。

 

萱野 資本主義とは何かについては、マルクス主義の「資本の自己増殖運動」という定義が今でも一定程度参考になると思う。つまり、「1」投資したら「1・1」でも「1・01」でもいいから、とにかく投資したものより大きなリターンが得られるという運動だ。

 

吉川 資本の自己増殖と定義すると、定義としてはやや危ういのではないか。例えば、経済はマイナス成長が数年間続くこともあり得るので、その定義で言うと、「マイナス成長している数年間は資本主義ではなくなっている」ということになる。

 

萱野 その点については、「資本主義は資本の自己増殖を『目指す』経済体制である」と明確化する必要があると考える。より大きなリターンを「目指して」資本を投下しても、実際にはそれが達成できない時もある。社会全体としてマイナス成長となる場合すらあるだろう。しかし、それで資本主義が崩壊するわけではない。資本の自己増殖そのものが資本主義を定義づけるのではないからである。肝心なのは、資本の自己増殖を「目指す」ことが、経済を駆動させる根本的な運動になっているかどうか、である。

 

吉川 ただ、例えば、企業は破綻することもあるが、破綻することを目的としているのではない。だから「目指す」が定義に入ると、定義として曖昧性が出てくるという感じがする。

 

萱野 やはり重要なのはその先で、「資本の自己増殖を目指す」という運動そのものが、歴史的にどのような条件の下で成り立っているかを考えなくてはならない。その条件の一番の基礎は、「私有権」(キーワード2)がそれとして数値化され得るということだ。

 例えば、土地は、領主・臣下など、さまざまな社会関係から切り離されて、単なる私有の物件として価格が付けられ、それを担保にいくら借りることができて、それを元手に生産設備や労働力に投資したら、いくらリターンが得られるか。こういったことが可能にならないと、資本主義は成り立たない。

 

 ◇「低賃金が貧困を招く」/「労働所得の格差は深刻」

 

── 資本主義は今、何が問われているか。

 

吉川 資本主義はこれまで何度も“ダメ出し”を食らってきた。「資本主義が限界に来ている」とか「資本主義が終焉しつつある」という議論は、今回が初めてではない。

 たしかに我々は、資本主義もしくは資本主義的なものに対して、ある種のアレルギーを持っている。「資本主義は冷たい」とか「資本主義は非人間的だ」という抵抗感をどこかで抱えている。だから、「資本主義万歳!」と高笑いする気にはなれないし、今でも経済が悪者になることはよくある。

 

萱野 マルクス主義的な見方では、資本主義の「限界」はしばしば資本の自己増殖が行き詰まることとして考えられてきた。資本の自己増殖が行き詰まるとは、既存の資本が余るなどして利潤率がゼロないしはマイナスになるということ。これが恐慌論や「帝国主義論」(キーワード3)を生み出してきた。

 しかし、資本主義はあくまでも資本の自己増殖を「目指す」運動なので、その自己増殖が達成されなかったからといって、直ちに資本主義が終わると考えることはできない。

 とりわけ、第二次世界大戦以降は、国家のマクロ政策が定着し、資本主義の行き詰まりを打破してきた。もちろん資本主義は既存資本の価値低下という「危機」を常に内在させているが、それは歴史的に繰り返され、克服されてきた「危機」なのであり、現在問われている資本主義の「危機」や「限界」も決して新しい現象ではない。

 

吉川 資本主義は、18世紀後半から英国で出てきて、ナポレオン戦争の後、19世紀の前半から、英国、フランス、ベルギー、ドイツ、米国、日本と順次、資本主義国が出てきた。19世紀は大格差社会。それを真正面から言ったのがマルクス、エンゲルスだった。共産党宣言は1848年だ。

 資本主義経済国が大格差社会となるなか、マルクス経済学で言う「窮乏化」(キーワード4)もよく議論された。このレジーム(体制)はダメだから、暴力革命によって社会主義や共産主義に変わらなければいけないということだった。

 資本主義に対する“ダメ出し”としては、19世紀のマルクス、エンゲルスの議論は歴史上最大だろう。しかし、結局のところ、資本主義に代わるオルタナティブ(代替)が見つからない。

 

萱野 「働いても給料が上がらず、格差は広がるばかり」という現状から資本主義を否定したくなる気持ちは、分からないではない。しかし、人類社会にこれだけの豊かさをもたらした経済システムは他にないということも理解しなくてはいけない。

 例えば、近代資本主義社会が成立する以前、欧米でも日本でも平均寿命は30~40歳ほどだったと推計されている。しかし今は、ほぼ2倍になった。マルクス主義者はしばしば窮乏化論を展開するが、人々が資本主義によって窮乏化したのなら、平均寿命は逆に短くなっているはずだ。

 

吉川 私も全く同感で、今、資本主義に対する“ダメ出し”というのは筋が違っている。閉塞(へいそく)感があるということと、だからシステムとしての資本主義がダメとは思わない。

 歴史を振り返ってみると、多分、19世紀、20世紀が直面した本当に危機的な状況に比べれば、まだマイルド。だから、全く問題ないとは言わないが、今の問題は、桁が一つ小さいと思う。

 

(続きは『週刊エコノミスト』2017年5月2・9日号にて)

発売日:2017年4月24日

特別定価:720円


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経営者:編集長インタビュー 炭井孝志 ケンコーマヨネーズ社長

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◇業務用に特化 サラダ市場を創造、拡大

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 社名からは、マヨネーズ専門のメーカーを想起させます。

炭井 確かに当社は、町のお総菜屋さんにマヨネーズを供給したことに始まります。しかし、創業直後からマヨネーズを販売するだけではなく、マヨネーズを使ったメニュー提案をしていました。そして時代の流れとともに、新たな素材を見つけて商品を開発し、今は商品数3100超の業務用食品メーカーとなりました。 

 

── 売り上げの内訳は。

炭井 商品別ではサラダ・総菜類が4割、タマゴ類(卵焼き、タマゴサラダなど)が3割、マヨネーズ・ドレッシング類が2割です。

 

── どう商品群を広げたのですか。

炭井 マヨネーズの供給先からサラダ・総菜に関する相談を受ける中、自社で製品を開発するようになりました。たとえば、1970年代には、大手製パンメーカーから「総菜パンにはさむ具材として、長持ちするサラダが欲しい」と要請され、タマゴサラダやツナサラダを開発しました。また、大手ハンバーガーチェーン「マクドナルド」のハンバーガー用ソースも当社が製造しています。

 

── 他にはどんな商品がありますか。

炭井 最近では、コンビニエンスストアの弁当やスーパーの総菜用に、各種サラダやひじきや野菜の煮物、卵焼きなど幅広い食品を供給しています。今でこそ普及したゴボウサラダやパンプキンサラダは、当社が開発したものです。サラダを切り口にして、新たな素材を投入し新たな市場を創っていきます。

 

── 供給先はどこが多いのですか。

炭井 売上高ベースではコンビニが3割、外食産業が3割、スーパーなどの量販店が2割、製パンメーカー・町のパン屋と給食向けで2割です。

 

── なぜ業務用に専念するのですか。

炭井 小売店向けに家庭用商品を供給するのはもうからないからです。家庭用向けは、キユーピーや味の素など一大ブランドがあり、価格競争も激しいです。80~90年代、家庭用を手がけていた時期もありました。その時期は、会社を挙げて小売店に営業しました。そもそも、業務用と家庭用の販売方法は異なるにもかかわらず、 家庭用の売り方を知らないので、収益は真っ赤っか。しかも、人的資源を家庭用の営業に回したので、業務用への営業もおろそかになりました。私はずっと「会社の強みを生かせるのは業務用の世界だ」と思っていましたので、私が社長になった後の2003年に家庭用はやめました。私が社長を続ける限り、家庭用向けはしません。

 

── 供給先の要望も厳しいのでは。

炭井 供給先には鍛えられました。世界的なハンバーガーチェーン、日本を代表する製パンメーカー、最近ではコンビニなど常に厳しい品質、値段を求められてきました。おかげで、常に食品市場のトレンドを感じられるポジションにいられました。供給先の求めることを先読みした結果、当社の強みと言える多品種少量生産ができるライン運用を確立しました。

 

── 強みを持つ商品は。

炭井 タマゴ類です。タマゴの総菜メーカーは通常、養鶏場で割ったタマゴの「液卵」を調達します。液卵はコストが低いのですが、一度熱殺菌が必要なので風味が落ちます。これに対して当社の静岡県の工場では、殻付きタマゴを調達して工場で割って24時間以内に加工します。卵焼きの供給先にも「液卵より格段においしい」と評価されます。殻付きタマゴの調達費は高いのですが、熱殺菌を経ずに割ってすぐに調理できるラインを作り上げたことで、トータルコストは下げられます。

 

── 食品メーカーは、国内の人口減にあえいでいます。

炭井 日本人の胃袋は減っています。しかし、働く人が増えて中食(なかしょく)需要は増えています。また、ゴボウサラダのように今までにない素材の商品を提案することもできます。日本市場全体のパイは広がりませんが、自分たちの市場を広げることはできます。

 

 ◇工場も夕方退社目指す

 

── 3カ年の中期経営計画は今年度が最終年度です。

炭井 18年3月期の連結売上高750億円に向けて順調に推移しています。17年3月期も過去最高益を見込みますが、製品の需要に生産設備が足りていません。目標到達のためには、現在進めている工場の新増設がカギとなります。

 

── 工場の新増設とは?

炭井 19年3月までに総額150億円強を投じて、北海道と神奈川県にサラダ類・総菜類工場を新設し、静岡県の卵焼き工場と京都府のサラダ類工場を増設します。工場新増設には長時間労働を是正する狙いもあります。現在ほぼ24時間フル稼働ですが、長期的には、午前8時~午後5時の稼働でも需要に応えられる体制にしたいです。

 

── 製造業で午前8時~午後5時稼働は成り立つのですか?

炭井 周囲には「その稼働時間ではもうからない」と言われます。しかし、人手不足の時代にあっては工場の労働環境も変えなければなりません。私も法人向けの営業時代、午前8時に出社して、午後5時には退勤していました。朝一番から力の限り働く人が、夕方以降も働けるわけがないのは経験で分かります。今、工場だけではなく、事務部門や間接部門も含めた社内全体で、この時間内で効率よく働ける方法を模索しています。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 法人向けの営業担当でした。誰よりも早く書類を確認して、電話対応をし、外勤に出ており、それで十分でした。

 

Q 「私を変えた言葉」は

A 山本五十六の「男の修行」です。

 

Q 休日の過ごし方

A ウオーキングか、仕事がらみのゴルフです。昨年から四国八十八カ所巡りも始めました。逆ルートで香川県からスタートして、愛媛県まで到達しました。

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 ■人物略歴

 ◇すみい・たかし

 1953年生まれ。香川県出身。県立高松高校卒業。1978年東京水産大(現・東京海洋大)卒業後、ケンコーマヨネーズ入社。営業畑を皮切りに購買、生産部門を歩み、98年に管理部門部門長、99年に取締役。2000年から現職。

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事業内容:業務用食品

本店所在地:神戸市灘区

東京本社:東京都杉並区

設立:1958年3月

資本金:21億円

従業員数:2957人(連結)(2016年3月現在)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:669億円

 営業利益:34億円

2017年5月2・9日号 購入案内

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発売日:2017年4月24日

特別定価:720円


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FLASH! オリンパス元社長らに590億円賠償命令 東芝でも巨額賠償の可能性が大

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 オリンパスの粉飾決算事件で、会社に損害を与えたとして、同社や株主が旧経営陣と相続人計18人に損害賠償を求めた訴訟の判決が4月27日、東京地裁であった。大竹昭彦裁判長は、旧経営陣らに総額約590億円をオリンパスに支払うよう命じた。

 判決は、菊川剛元社長らが取締役として本来果たすべき注意義務を果たさなかったとして8人(うち3人は相続人)に賠償を命じ、残る元取締役10人については請求を棄却した。

 2000年に大阪地裁が旧大和銀行経営陣に約830億円の支払いを命じたケース(控訴審で約2・5億円で和解が成立)以来の巨額の賠償命令となった。

 この判決について識者の意見は分かれている。

 青山学院大学大学院で企業会計に詳しい八田進二教授は、オリンパス粉飾事件は、金融商品取引法の改正で財務報告に関わる内部統制が盛り込まれた直後に発覚したため、「日本の資本市場の信頼を揺るがす事件だった。有効な内部統制の構築・維持責任を放棄していた旧経営陣を断罪することで、広く経営者に対して抑止力となることを考えて、このような巨額の賠償命令を出したのでは」と見る。

 上場企業の社外取締役を務め、企業のコンプライアンスに詳しい大手法律事務所のパートナー弁護士は、「裁判官は世論の動向に気を配っている」と分析し、「経営者はそれだけ重大な責任を担っているというメッセージになる」と評価する。

 一方で、企業統治に詳しい上村達男・早稲田大学教授は「オリンパスの元経営陣に責任がないわけではないが、約590億円は多すぎるのではないか」と疑問を呈する。

「企業で問題や損害が発生した場合には、その企業の組織、監査制度、取締役会などさまざまな仕組みが関わっている。企業は多額の資金を扱うが、取締役などの個人がどう責任を負うかは日本ではきちんと議論されていない。個人が生活できなくなるような今回の判決は問題がある」と指摘する。

 企業の内部統制が専門の山口利昭弁護士は別の視点で、「甘い判決」と断じた。「裁判では会社が起こした訴訟と、株主代表訴訟を一緒に審理したが、株主代表訴訟でのみ訴えられた10人の被告人については訴えを棄却している。要するに事情を知らなかった人の監督責任に関しては、かなり寛容な判決になっている。株主代表訴訟の被告人が、果たして監督義務を尽くしていたかについては疑問が残る」と話す。

 オリンパス広報は「現時点では係争中のため会社としてコメントは差し控える」としている。

 

 ◇東芝も同じ裁判長

 

 今回の判決は、他の企業の不祥事にも影響を与える可能性がある。特に注目されるのは東芝の不正会計問題だ。オリンパス事件の判決を下した大竹裁判長は、東芝が旧経営陣5人に32億円の賠償を求めている訴訟も担当している。

 日本の企業法務に精通する久保利英明弁護士は、「東芝訴訟も、明確な証拠を持つ会社が旧経営陣を訴える構図のため、オリンパスの判決のように巨額の賠償額になる可能性は高い」と予想する。

(谷口健、酒井雅浩、大堀達也、河井貴之・編集部)

目次:2017年5月16日号

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アップル株と世界経済

18 時価総額は80兆円 アイフォーンが経済を変えた■稲留 正英/河井 貴之

21 バフェット氏が投資 「IT株嫌い」を翻した経営への信頼 ■尾藤 峰男

22 成長神話は続くのか 先駆者でなくても強いアップル ■松村 太郎

23 インタビュー 松井 博 元アップルシニアマネジャー 「今のアップルは『後追い側』だ」

24 これが新型アイフォーンだ! 5.8インチの有機EL採用 ■桂 竜輔

25 アップル経済圏 アジア経済に不可欠な存在に ■桂 竜輔

26 アップル株の基礎知識 米ディズニー買収のうわさも ■岩崎 日出俊

28 米国株の買い方入門 あなたも今日から株主 ■編集部

29 インタビュー 松本 大 マネックス証券会長 「今こそ米国株への投資を」

30 アップル銘柄 20選 アイフォーン8登場で変化も ■宮本 裕之

32 米国IT銘柄 25選 アップルだけじゃない成長期待 ■宮本 裕之

34 アップルの3大ライバル グーグル、アマゾン、フェイスブック ■篠原 光子

36 シェアリング・エコノミー エアビー、ウーバーの時価総額 ■村山 誠

 

エコノミストリポート

74 処罰では解決しない 日本の臨床研究は死んだ 降圧剤データ改ざんの末路 ■田中 尚美

 

Flash!

11 オリンパス旧経営陣に590億円賠償命令/強気物価見通しに固執する日銀/霧晴れぬMRJ開発/社長インタビュー 三井住友トラスト・ホールディングス、三井住友信託銀行

15 ひと&こと 東芝半導体買収に経産OB/富士フイルム再生医療社長の行き先/石炭火力で閣内不一致

 

Interview

4 2017年の経営者 糸井 重里 ほぼ日社長

44 問答有用 山本 多津也 猫町倶楽部代表 「本を語ることは自分を語ることです」

 

日銀が国債を売る日

79 緩和の出口阻む国債暴落、物価高騰 ■黒崎 亜弓

81 日銀だけの問題か 財政赤字と銀行リスクにも対処を ■福田 慎一

82 ヘリマネも対応策 売りオペ可能な仕組みが必要 ■岩村 充

85 国債の市中消化 「売りオペ」成功させた高橋是清 ■佐藤 政則

 

40 投資 「自社株買い」でどうなった? ■大山 弘子

68 不動産 名門マンションの落とし穴 ■榊 淳司

70 老後 「生涯活躍のまち」でピンチをチャンスに ■松田 智生

72 軍事 中国初の国産空母が進水 ■丸山 浩行

 

World Watch

58 ワシントンDC 米中戦争への運命 ■三輪 裕範

59 中国視窓 一帯一路で進む海外進出 ■真家 陽一

60 N.Y./カリフォルニア/英国

61 韓国/インド/フィリピン

62 上海/ロシア/イラン

63 論壇・論調 トランプ氏が穏健路線に“転向” ■岩田 太郎

 

Viewpoint

3 闘論席 ■佐藤 優

17 グローバルマネー 資産規模圧縮に前のめりのFRB

38 海外企業を買う(139) インフィニオンテクノロジーズ ■永井 知美

42 名門高校の校風と人脈(240) 修猷館高校(福岡県)(上) ■猪熊 建夫

48 学者が斬る 視点争点 デフレの定義が経済政策の足かせに ■井上 裕行

50 言言語語

64 アディオスジャパン(51) ■真山 仁

66 東奔政走 区割り変更で年内解散困難に ■人羅 格

77 商社の深層(67) 伊藤忠が中国と越境EC開始 ■花谷 美枝

87 ネットメディアの視点 得票1位が塾長になれない慶応 ■山田 厚史

94 景気観測 輸出主導型成長が続くかは疑問 ■枩村 秀樹

96 アートな時間 映画 [マンチェスター・バイ・ザ・シー]

97        美術 [雪村 ─奇想の誕生─]

98 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ engagement ”

 

Market

88 向こう2週間の材料/今週のポイント

89 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット

90 ブラジル株/為替/穀物/長期金利

91 マーケット指標

92 経済データ

 

書評

52 『グローバル資金管理と直接投資』

  『バブルと生きた男』

54 話題の本/週間ランキング

55 読書日記 ■楊 逸

56 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

 

51 次号予告/編集後記

経営者:編集長インタビュー 糸井重里 ほぼ日社長

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◇「ほぼ街(まち)」を作りたい

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 コピーライターの糸井重里氏率いる「ほぼ日(にち)」が3月16日、東京証券取引所ジャスダック市場に上場した。コラムなどを集めたウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する同社の売上高は約38億円。サイトでの物販が好調で、1日1ページ、24時間枠で予定を書き込める「ほぼ日手帳」は毎年60万部以上を売り上げる。

 

── ほぼ日はどんな会社ですか。

糸井 「場」が作りたくてできた会社です。「ほぼ日刊イトイ新聞」のサイトを立ち上げた頃から、「ほぼ街(まち)」を作ろうと思っていました。RPG(ロールプレイングゲーム)の街のように、建物に入ったらお茶を飲める場所があるとか、そういう街です。

 

── 株式の上場も街を目指す通過点ですか。

糸井 上場によってオーソライズ(公認)されたと言えるかもしれません。マンションの住人のおばあさんが「上場おめでとうございます」「株買うわよ」とか声をかけてくれるんです。そういう会話は今までなかった。「ほぼ日は有名なのに、なんで上場したんですか」と言われるのですが、有名だけど有名じゃなかったんですよね。

 

 ◇ライバルはディズニー

 

── 何で稼いでいるのですか。

糸井 ほぼ日手帳の売り上げが7割です。「手帳で食っている会社」と言う人もいますが、その切り口で見てくださっても構わないと思います。自分たちが使いたいものを作ってきました。生意気な言い方をすれば、「いいに決まっているもの」を出しているのがよかったんだと思います。

 

── 売り上げの残り3割は。

糸井 モノの形をしたコンテンツ、例えばタオル、腹巻き、衣料などの販売です。これからは手帳以外の事業が伸びて、手帳の割合が相対的に下がってほしいと思っています。

「場」を作る仕事と言っても、場代を取っているわけではないので、小売業の分類に収まっています。でも、今後はどうなるかわかりません。

 

── 伸ばしたい事業は。

糸井 犬や猫の写真を投稿するアプリ「ドコノコ」を始めたり、地球儀を開発したりしています。

 3月24~26日には六本木ヒルズで「生活のたのしみ展」を開催しました。いいものを作ってるなという人たちのコンテンツを集めてお店にしたイベントです。イベントでありブランドでもあるというのは一種の発明だと思うので、どう伸びていくのか楽しみです。

 

── 最近は糸井さん自身の引退について言及しています。

糸井 先輩たちを見ていると、上手にリタイアした人もいるし、リーダーがいなくなってつまらなくなった会社もあります。僕らが若い頃に憧れだった広告の製作プロダクションは、今は代理店の下請けです。だから、自分たちがイニシアチブを持って仕事をしていくことが本当に大事だと思ってほぼ日を始めました。

 

── 上場する規模に会社が育った。

糸井 チームが育ち、応援してくれるサポーターも育ってきてくれました。これ、僕がいなくなった時になくなっちゃったらつまらないですよね。もっと面白くなってほしい。「ライバルはディズニー」と言っているのですが、ウォルト・ディズニーがいなくなってもディズニーとして機能している。そういうことがあり得るんじゃないかと思って、少しずつ準備をしています。

 

── 糸井さんがいなくなった後のほぼ日は。

糸井 ぜんぜん同じではないことはわかっています。ただ、僕がいなくなってもできる仕事をどんどん増やしていくのも僕の仕事です。この2年くらい一生懸命しているのは、僕をいなくさせるための仕事。それが僕の作品です。

 

── 上場で得た資金の使い道は。

糸井 人を雇うことに使います。内部の人が育つのにも必要です。イノベーションを生み出す人、無理かもしれないことを実行できるように工夫する人、そういう人が圧倒的に足りない。工場を建てるのと同じくらいの予算組みをして、人を取らなければいけない時代が来ていると思います。

 

── 投資家とどう向き合いますか。

糸井 僕らがどれだけできるか見ようじゃないかと、好意的にも、悪意を持っても言われます。もっと利益を上げて、株価を上げなさいと言う人もいます。でも、そんなに簡単な話じゃないと思う。

 僕がよく泊まる旅館のおばあちゃんは、「戦後に買った任天堂株を持っているから安泰だ」と言うんです。義理で買った花札メーカーの株が、今の任天堂の株になった。すごいことです。任天堂は「ラブテスター」(男女の相性を測る玩具)とか、タクシー会社とか、ダメだった時期も含めて、山あり谷ありで今みたいな会社になった。こういうやり方をすればうまくいくというのはないんです。

 

── 成功の方程式はない。

糸井 上場後は、事業の質や規模について、これまで以上に問われるようになりました。僕みたいなことを言っている人がダメになったら、後の人も寂しいでしょう。弱っちい動物なりに生き延びたとか、体が大きくなったとか、そういうことを多少は見せないと、つまんないですよね。

 

── 株価は気になりますか。

糸井 流れの中でどういう場所にいるのかは把握していますが、あまりとらわれないようにしています。僕が引退する時に株価が下がったら、僕の仕事が足りていなかったということでしょうね。

(構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどうでしたか

A 一生懸命いい気になってました。いい気にさせてくれる人たちが現れる時期だったので。

 

Q 「私を変えた本」は

A 大学を中退した頃に出会った吉本隆明さんの『最後の親鸞』。ほぼ日で吉本さんの183講演の音源を無料公開したことは、僕の人生の年表に入れてほしい。今なら、株主総会でどう説明するか考えないといけない(笑)。

 

Q 休日の過ごし方

A 指圧や床屋に行きます。

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 ■人物略歴

 ◇いとい・しげさと

 群馬県出身。群馬県立前橋高校出身、法政大学文学部中退。コピーライター、作詞家、タレント、エッセイストとして活躍。1998年に「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設した。68歳。

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事業内容:ウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』の運営、商品の販売

本社所在地:東京都港区

創業:1979年12月

資本金:3億4705万円

従業員数:69人(2017年3月1日現在、契約社員含む)

業績(16年8月期)

 売上高:37億6750万円

 営業利益:4億9954万円

2017年5月16日号 購入案内

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発売日:2017年5月8日

特別定価:620円


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週刊エコノミスト 2017年5月16日号

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発売日:2017年5月8日

定価:620円

 

まるかじり

 アップル株と世界経済

 

◇時価総額は80兆円

◇アイフォーンが経済を変えた

 

「株価は150ドルを予想」(米ゴールドマン・サックス証券)「目標株価を161ドルに引き上げる」(米モルガン・スタンレー証券)──。

 

米国の株式市場はアップル株の話題で持ち切りだ。年初の株価は110ドル台だったが、その後、じりじりと上昇し、4月4日には144・77ドルの過去最高値を更新、時価総額は世界一で、日本円で約83兆円になった。国内総生産(GDP)世界17位のオランダの経済規模を上回る。

 材料は今秋に3年ぶりの全面改良が見込まれる新型iPhone(アイフォーン)だ。続きを読む


特集:アップル株と世界経済 2017年5月16日号

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時価総額は80兆円 

アイフォーンが経済を変えた

 

「株価は150ドルを予想」(米ゴールドマン・サックス証券)「目標株価を161ドルに引き上げる」(米モルガン・スタンレー証券)──。

 

 米国の株式市場はアップル株の話題で持ち切りだ。年初の株価は110ドル台だったが、その後、じりじりと上昇し、4月4日には144・77ドルの過去最高値を更新、時価総額は世界一で、日本円で約83兆円になった。国内総生産(GDP)世界17位のオランダの経済規模を上回る。

 

 材料は今秋に3年ぶりの全面改良が見込まれる新型iPhone(アイフォーン)だ。呼称が「アイフォーン8」と予想されている新型機は、5・8インチの有機ELディスプレーの採用が有力視されている。2014年9月発表のアイフォーン6以来の大きなデザイン変更となり、これまで様子見だったユーザーの買い替えが期待されている。

 

 

 まだ、アップル社から何も発表がないのに市場の話題になるのは、この4月以降、アップルから部品メーカーへの発注が本格化しているからだ。アップルのサプライチェーン(部品などの供給網)に詳しい半導体業界のある関係者は、「今秋投入される新モデルは液晶ディスプレーの二つと、有機ELディスプレーの一つの計3機種。年内の生産台数は1億台を超えると見込まれるが、そのうち、5000万~6000万台が有機ELモデルになるだろう」と話す。

 

 米モルガン・スタンレー証券は「アイフォーンの販売台数は17年度見通しの2億1400万台から18年度は2割増の2億6000万台に増える」と予想する。アップルの売り上げの3分の2はアイフォーンが占めるだけに、そのインパクトは大きい。

 

 ◇スマホ15億台

 

 新型アイフォーンはアジア経済にも影響を及ぼしている。

 

 スマートフォンは広大なサプライチェーンが特徴だ。その根幹をアジア企業が担う。SMBC日興証券の推計によると全世界のスマートフォンの出荷金額は10年の1020億ドルから15年に3740億ドルに拡大。同証券の桂竜輔・シニアアナリストは、「スマートフォン市場の拡大がアジア経済に非常に大きなインパクトをもたらしている」と話す。

 

 実際、台湾の株式市場では、新型アイフォーンの中央演算処理装置(CPU)を全量供給すると見られるTSMCの株価が上昇し、3月21日には一時米ドル換算の時価総額が1657億ドルと初めて米インテルを上回った。韓国市場では有機ELを供給するサムスン電子の株価も高値を付け、日本では子会社で有機EL製造装置を作るキヤノンが17年12月期の連結営業利益を2700億円に上方修正した。

 

 

 アップルのアイフォーンがこれだけ注目を集めるのは、その登場がインターネットの普及を爆発的に推し進めた過去があるからだ。米ハイテク調査会社IDCによると、アイフォーン登場前の04年、スマートフォンの世界出荷台数は2070万台で、1億7780万台のパソコンの1割強に過ぎなかった。

 

 しかし、07年1月に価格が599ドルのアイフォーンが登場したことで、一気に普及が加速。11年には出荷台数でパソコンを上回った。直近では、パソコンが2億6010万台に対し、スマートフォンは14億7350万台に達する。

 スマートフォンがインターネットにアクセスする人口を大幅に増やしたことで、電子商取引、SNS(交流サイト)、音楽配信などの新ビジネスが世界中で拡大した。例えば、米アマゾンは、「ネットで顧客の購買力を集めて、供給側を揺さぶる」(一橋大学大学院の名和高司特任教授)戦略で低価格を実現し、小売り世界最大手ウォルマートの地位を脅かしている。

 

 日本ではスマートフォン向けにSNSアプリを開発したLINEが11年6月からサービスを開始。1カ月に1回以上アクセスするユーザーが日本国内で6800万人、海外で2億人を超えるまでに成長した。同社は「パソコンに比べ気軽に使えるスマホの登場で、高校生、大学生や主婦が利用するようになったことが大きい」(マーケティングコミュニケーション室)と説明する。

 

 ◇シェアリング・エコノミーの台頭

 

 米国では株式市場の時価総額上位銘柄の顔ぶれがガラリと変わった。直近はアップルを筆頭に、アルファベット(グーグル)、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックとIT関連銘柄が続く。10年前はエクソンモービル、ゼネラル・エレクトリック(GE)などが上位だった。経済評論家の加谷珪一氏は、「もはや『ITバブル』とは言えない。かつての鉄道や自動車の登場の時のように、新たなパラダイムシフトが起きていると判断すべきだ」と語る。

 新たに台頭し始めたのが、シェアリング・エコノミー企業群だ。タクシーに似た「ライドシェア」サービスの米ウーバー・テクノロジーズや個人所有の家に宿泊する「民泊」のAirbnb(エアービーアンドビー)が代表格である。ライドシェアは日本ではまだ解禁されていないが、米国やアジアではもう一般的な交通手段になっている。

 

 ただ、インターネットの主導権争いがこれで決したわけではない。新しい技術がスマホの地位を狙っているのだ。その一つがAI(人工知能)による音声認識サービスだ。アマゾンは14年11月に「アレクサ」を発表。アレクサに話しかけるだけで買い物ができたり、室内の照明や空調を調整したり、ウーバーなども利用でき、すでに米国の家庭で普及している。

 

 さらに、テスラ・モーターズ創業者のイーロン・マスク氏は4月、考えるだけで自分の意思を伝えることができる脳埋め込み型AIチップを開発する企業の設立を発表した。米アップルの元幹部で米国のハイテク事情に詳しい松井博氏は、「映画『マトリックス』の世界が、まさに現実のものになろうとしている」と驚きを隠さない。

 

 インターネットの世界の大きな特性は「限界費用が事実上ゼロ」であることだ。限界費用とは、新たに追加の財やサービスを1単位生産するのに必要なコストを示す。特に、文字情報、映像、音声など情報がデジタル化できるものは、複製コストがゼロに近いので供給量を無制限に増やすことができる。

 

 この「限界費用ゼロ」の世界は、ものづくりの世界にも及びつつある。けん引するのは、AIとIoT(モノのインターネット)技術の進化だ。AIがIoTのセンサーが装備された生産設備を効率よく管理すれば、労働者は不要となり、理論上はものづくりでも限界費用がどんどん減っていく。

 

 ◇「限界費用ゼロ」のパラドックス

 

 独メルケル首相の顧問で文明評論家のジェレミー・リフキン氏は著書『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)で、「無駄を極限までそぎ落とすテクノロジーが導入され、限界費用がゼロになれば、財やサービスはほとんど無料になる。そうなれば、資本主義の命脈とも言える利益が枯渇する」と指摘する。

 

 そうした世界が実現したら、投資家は「資本」の分け前を得ることができず、株価は理論上ゼロになる。だが、米国の株式市場はそうしたテクノロジーを生み出す企業群を史上空前の株価で評価している。これは、大いなるパラドックス(矛盾)かもしれない。

 

(稲留正英、河井貴之・編集部)

週刊エコノミスト 2017年5月16日号

発売日:2017年5月8日

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【日銀が国債を売る日】ヘリマネも出口の対応策 売りオペ可能な仕組みが必要=岩村充

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日本銀行
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岩村充・早稲田大学大学院経営管理研究科教授

 

 緩和の“出口”は日銀が想定するシナリオに沿ったものとは限らない。海外要因などから金利が上昇した場合には、物価に想定外の下押し圧力がかかるリスクがある。無理にインフレを引き起こすことには私は反対だが、出口で起こることをコントロールするという観点からは、そこで物価を下支えするための手段を準備しておいた方がよい。そのために、たとえ悪魔の手段だと言われようと、ヘリコプターマネーについて、もっと具体的に考えるべきだ。

 

 

 私が3月に公表した「停止条件付変動金利永久国債の日銀引受について」というプランはその一つだ。中身は、要するにヘリコプターマネーなのだが、ばらまいたマネーをサルベージ、つまり回収することが可能な仕組みとして考えようというのが提案の要点だ。

◇「停止条件付変動金利永久国債の日銀引受」プラン

 

(A)政府は、市場金利連動型の変動金利永久国債を日銀引き受けにより発行する。

(B)利払いは、日銀が保有している期間中は行われない。

(C)日銀は政府と協議することなく、保有する変動金利永久国債を市場に売却することができる。

(D)政府は日銀が保有する変動金利永久国債をいつでも額面価格で償還することができる。

(E)政府は、既に発行済みの固定金利国債を、保有者の同意を条件として、当該国債の時価を額面とした変動金利永久国債に転換することができる。

 

(出所)早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所および株式会社ナウキャストのホームページ

 ヘリコプターマネーと言えば、米コロンビア大のスティグリッツ教授が2003年に提案した政府紙幣の発行や、英FSA(金融サービス機構)前長官のアデア・ターナー氏による日銀保有国債の一部を永久無利子債務化するという提案が頭に浮かぶ。

 

 また、一般にはヘリコプターマネー政策とは分類されていないようだが、米プリンストン大のクリストファー・シムズ教授による「インフレ目標に達するまでは増税を行わないと政府が宣言する」という提案も、広義のヘリコプターマネー政策という側面がある。それは、シムズ教授が提案の根拠としているFTPL(物価水準の財政理論)からみても明らかだ。

 

 ◇期待の暴走への懸念

 

 FTPLとは、国の財政の先行きを人々がどうみるかによって、現在から将来にかけての物価水準が上下するという理論だ。政府と中央銀行を仮想的に連結した統合政府を仮想し、統合政府における名目支払い義務の大きさと、支払いに充当できる財源の実質値との関係から、物価水準の制約条件を導き出す。

 図の式をみればわかるように、スティグリッツ教授やターナー前長官の提案は、分子の支払い義務を制度変更で増やすことで物価水準への上方圧力を生じさせようとするものであるのに対し、シムズ教授の提案は、分母の支払い財源を財政スタンスに関する「宣言」によって小さくさせることで、物価水準への上方圧力を生じさせようというものだと整理できる。要するに、「ゲームのルールの事後変更」で状況を動かそうとする政策だ。だから、「ヘリコプターマネー」というレッテルを貼るかどうかは別として、政策アイデアとしては似たようなものと言える。

 

 一般論としては「ゲームのルールの事後変更」は良くない。それは、制度全体への信頼を傷つけることで、取り返しのつかない信認崩壊を招く危険があるからだ。スティグリッツ教授にせよターナー前長官にせよ、あるいはシムズ教授にせよ、これだけの国際的著名人の提案に私たちが危険な誘惑でないかという直感を抱くのは健全な傾向だと思う。ヘリコプターマネー政策が過度に「信用」されたら、歯止めなき期待の暴走が始まるという懸念は軽視すべきでない。

 

 期待の暴走という観点からは、スティグリッツ教授やターナー前長官の「正統的ヘリコプターマネー」より、シムズ教授の「変化球型ヘリコプターマネー」の方が怖い。FTPL式の分子である名目支払い義務は契約の結果、つまり事実なのに対し、分母の支払い財源の実質値は期待、つまり人々の心そのものである。事実は別の事実によってしか変わらないが、期待は当局者の宣言くらいでは変わらない一方、思いもよらぬ人々の心の揺らぎによって一気に動いてしまうかもしれない。

 

 慶応義塾大学の池尾和人教授は「ベースマネー(現金と準備預金)の増加が一時的だとみなされればヘリコプターマネー政策が成立しないのとは反対に、現在のベースマネーの膨張が恒久的なものだと信じられるようになると、現行の政策はヘリコプターマネー政策に転じることになる」(『日本経済新聞』16年6月8日付朝刊)と指摘している。その通りである。

 

 現在の異次元緩和の延長線であろうとなかろうと、供給されたベースマネーが恒久的に回収できなくなるという期待が当局者の意図を超えて拡散すれば、現に存在するベースマネーの相当部分は制御できないヘリコプターマネーへと転化してしまう。

 

 では、そうしたリスクを小さくする方策はないのだろうか。今回の提案の狙いは、それが可能なことを示そうというところにある。

 

◇柔軟に撤退できるヘリマネ

 

 今回提案したプランでは、日銀が新たに発行される国債を引き受けるとしたうえで、その国債の利払いに停止条件を付け、それを日銀は保有している間は利払いが行われないとし、かつ期限を定めない永久債とした。無利子の永久国債とは、資産価値的には政府紙幣と変わらない。そうした国債を日銀が引き受け、それによって得た資金を政府が財政支出に充てれば、それは政府紙幣の発行が行われたのと同じことになる。だから、このプランの本質は、スティグリッツ教授が提唱したのと同じ政府紙幣発行政策なのだ。

 

 シムズ教授の提案は、FTPLの物価水準の均衡式の分母つまり支払い財源に対する人々の期待に介入するものだが、スティグリッツ教授による政府紙幣の発行やこのプランにおける無利子永久国債の日銀引き受けは、分子である統合政府の債務(ベースマネーと、市中保有国債の名目現在価値との計)に新たに債務をいきなり追加するものだ。

 

 その方が、より確実に効果をコントロールできることは自明だろう。現在、ベースマネーと市中保有国債の計は1000兆円程度なので、20兆円の停止条件付き変動金利永久国債を発行すれば、物価水準に約2%の上方圧力が生じる。こうした事前計算が可能なことが、シムズ教授型のFTPL政策より優れた点である。

 

 では、今回の提案のどこがスティグリッツ教授の案と違うのだろうか。それは、この永久国債を日銀が市中に売却したときには、利払いの停止条件に当てはまらなくなり利払いが始まる、つまり最初から政府が変動金利付きの永久国債を市場レートで発行していたのと同じ状態に戻ってしまうところにある。たとえて言えば「サルベージ可能なヘリコプターマネー」を設計したいと考えたわけである。

 

 断っておくと、ばらまいたヘリコプターマネーのサルベージは、政府紙幣発行の場合でも論理的には可能である。銀行券に混じって日銀の金庫に戻ってきた政府紙幣を、財務省が新規国債の市中発行で得た資金で償還してしまえば、それでサルベージになるからだ。だが、そのやり方だと、金融政策の守備範囲を超えた財政政策、つまり予算措置に制約される政府の行動によってしか事態の収拾ができなくなる。金融政策の守備範囲で処理可能な方が、より機動的で柔軟な政策運営が可能になるのではないだろうか。

 

 ◇なぜ変動金利か

 

 今回の提案では、日銀が保有している間は無利子だった国債を金利付き永久国債として売却できるようにするという図を描いてみた。しかし、ヘリコプターマネーのサルベージを容易にするというだけなら、実は売却後の国債に付される金利は固定金利でもよいし、永久債である必要もない。あえて売却後の永久国債の金利を変動型と想定したのは、膨大な量の固定金利国債が市中、あるいは日銀に保有されている状態が作り出す金融システムの不安定を軽減する一方、そうした膨大な国債の借り換えリスクが“出口”の後の国債管理政策の足かせになるのを防ぐためである。

 

 名目GDP(国内総生産)が500兆円ばかりの日本で、1000兆円を超える国債が発行され、ほとんどが日銀を含む金融機関に保有され、そして、その半分が日銀に保有されている。そうした危険な現実から私たちは目を背けるべきではない。出口で金利が上昇すれば、日銀と民間金融機関に大きな打撃をもたらす。

 

 提案の中に、「政府は、既に発行済みの固定金利国債を、保有者の同意を条件として、当該国債の時価を額面とした変動金利永久国債に転換することができる」という項を付け加えたのは、それが理由である。日銀も民間金融機関も、保有国債が変動利付きであれば、その売却損や評価損を気にすることなく行動できるようになる。

 

 今の日銀は、購入した大量の国債を、償却原価法でバランスシートに計上しているが、これでは、額面で満期償還されるまで保有しますと宣言しているに近い。異次元緩和が“出口”に至って保有国債を売却しベースマネーの回収を始めれば、巨額の損失を抱え込むという自らのリスクに手を打っていないからだ。

 

 満期償還を待つしか手段がないとなれば、日銀はベースマネーの回収には動けないだろうと人々にみなされかねず、その場合、異次元緩和で大量に供給済みのベースマネーが、いきなり制御不能なヘリコプターマネーに転じてしまうリスクがある。そうならないためには、いつでも売りオペに踏み切れるような準備があることを示しておくべきだ。

 

 変動利付きへの転換オプションは民間金融機関にとっても重要だ。保有する資産が変動利付きであれば、彼らの経営健全性は金融政策の動向に振り回されなくなる。それは、金融機関に多額の資金を預けている国民にとって大きな安心であると同時に、金融政策の自由度確保のためにも不可欠の条件なのである。

 

 ◇成長なき時代のオペ

 

 高度成長期からバブル崩壊期に至るまで、日本の金融政策は、市中からの国債買い入れ、つまり買いオペを中心に運営されてきた。長期国債の売りオペは、買い戻し条件付きの売却以外には行っていなかった。また、世界経済が大きな成長のシナリオにある下では、それは自然な選択だったと言える。長期債買いオペは、かつては「成長通貨オペ」とも呼ばれ、経済成長に伴って新たに必要となるベースマネーを供給する趣旨のものだったからである。日銀が経済成長の方向性を大きく読み違えさえしなければ、売りオペでマネーを回収しなければならない事態は起こりようもなかったのだ。

 

 だが、黒田東彦日銀総裁が始めた異次元緩和は「成長通貨オペ」ではない。名目GDPが500兆円の日本で、その中央銀行が年々50兆円あるいは80兆円ものベースマネーを供給するのなら、“出口”に至ったときにはばらまいたマネーを元に戻すための方策、つまり売りオペの準備とセットで開始されるべきものであったはずである。

 

 売りオペの準備とは何か。それは、言うまでもなく日銀保有国債の変動金利化である。それを考えることの必要性を問うのが、ここで議論を提起した狙いの一つでもある。

 

 今回の提案については、そもそも国債を日銀が引き受ける以上は、財政法5条に基づく国会の議決が必要となるのではないかという質問を受けることがある。議決は当然に必要だ。しかし、かつての財政法の立法者たちが、異次元緩和という名の下で成長通貨を大きく超える通貨供給に踏み切る中央銀行の姿を想定していたら、日銀の買いオペ、つまり市中国債の買い入れについても上限額について国会の議決を要する、などと定めていたのではないだろうか。

 

 成長が当然の時代に築かれた財政と金融との関係は、成長が当然でなくなった時代には、いずれ見

直さなければならないはずだ。

(岩村充・早稲田大学大学院経営管理研究科教授)

 

 

*『週刊エコノミスト』2017年5月16日号掲載

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予期せぬ“出口”への備えが必要

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第46回 福島後の未来:日本の原発政策 北朝鮮の脅威を直視せよ=村沢義久 2017年5月2・9日号

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村沢義久(環境経営コンサルタント)

北朝鮮情勢がにわかに緊迫している。米海軍当局は4月8日、原子力空母カール・ビンソンを中心とする第1空母打撃群を朝鮮半島近海に派遣したことを明らかにした。このため韓国内では「米軍が4月27日に北朝鮮を空爆する」とのうわさまで飛び出した。

 

 今回の危機の原因は、北朝鮮が昨年来ミサイル発射を続けていることだ。トランプ大統領就任後初めて発射した2月12日以来、異常な頻度で続けており、4月16日午前にも弾道ミサイル1発を発射した。北朝鮮の一連の挑発行為に対し、米国は「あらゆる選択肢を検討する」とし、先制武力行使の可能性も示唆した。

 あまり考えたくもないことだが、仮に米軍が北朝鮮を攻撃した場合、米の同盟国・日本は報復対象になる可能性がある。北朝鮮が日本を狙うとすれば、在日米軍基地や東京などの大都市が想定される。実際、北朝鮮は3月6日、同国西岸から4発の弾道ミサイルを発射し、3発が我が国の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。翌7日には国営メディア朝鮮中央通信が、ミサイルを発射したのは在日米軍基地を攻撃する任務を負った部隊だと伝えた。つまり日本本土が標的になっているのだ。

 

 一連の発射を通じ、北朝鮮のミサイル技術の進歩が著しいことが分かってきている。韓国国家情報院によると、2月12日に発射された新型ミサイル「北極星2」の射程は2000キロ超。北朝鮮南部から発射すれば北方領土から沖縄まで日本全土が射程内になった。

 

 筆者が一番気がかりなのは原子力発電所へのミサイル攻撃だ。原発は言わば巨大な火薬庫だ。日本にはそういう火薬庫が廃炉中のものも含めて60基もあり、その過半数は日本海側にある。実際、北朝鮮は日本の原発への攻撃の可能性に言及しており、2013年4月10日の『労働新聞』(電子版)は「北朝鮮が攻撃すれば広島・長崎の惨事とは比べものにならない被害になる」と報じている。

 

 運転中の四国電力伊方原発(愛媛県)や九州電力川内原発(鹿児島県)、運転停止の仮処分が撤回された関西電力高浜原発(福井県)は、いずれも北朝鮮南部から700~800キロしか離れていない。一番遠い北海道電力泊原発(北海道)でも1200キロ程度だ。意図的な攻撃がなかったとしても極度の緊迫状況の中、現場の暴走や判断ミスで、ミサイルが発射されるリスクも無視できない。

 発射の兆候を探るのも困難になった。筆者が特に注目するのが固体燃料の使用だ。液体燃料は発射前にしか充填(じゅうてん)できず、作業で発射の兆候を察知できた。一方、固体燃料の場合は配置された時点で既に充填されているため、決定から発射までの対応時間が短くなった。

 

 ◇外部攻撃に極めて脆弱

 

 日本に限らず、原発の安全対策は非常に心もとない。原発は原子炉建屋のほか、コントロール、廃棄物処理の各建屋、使用済み燃料貯蔵施設を備える。原子炉建屋の外壁は厚さ1メートル以上の強化コンクリート製で北朝鮮のミサイルでも破壊されないだろうとの見方もある。もっとも本格的な実験データがない(あるいは公表されていない)ので真偽は不明だし、ミサイルに装着された弾頭の種類や当たる角度などで変わるから、強いとは一概に言えないだろう。

 

 しかし他の建物は、はるかに脆弱(ぜいじゃく)で、至近距離での爆発でも壊滅的な打撃を受けることは間違いない。弾道ミサイルの命中精度は低いと言われるが、直撃しなくても近くに落ちただけで建物群が崩壊して電源や制御機能が壊滅し、燃料プールの冷却機能が失われるなどして原発に致命的な事故を引き起こす可能性がある。実際、福島第1原発では、主電源と予備電源、冷却系統の損壊により水素爆発や炉心損傷(メルトダウン)など致命的な事故が起きた。また福島事故時に司令塔となった免震重要棟も、物理的な攻撃には無力だ。

 

 警備面でも驚くほど手薄さが目立つ。地上からの侵入者対策では、警察や警備員による訓練が行われている。しかし想定通りに動く侵入者にしか効果はなく、海からの潜水侵入や、夜間のパラシュート降下には無力だろう。不備は日本だけでなく、スウェーデンでは12年、国際環境保護団体「グリーンピース」の活動家たちが核施設に侵入する事件が起こった。活動家らは原子炉を取り囲むフェンスを剥がして侵入し、原子炉の屋根の上で一晩中、身を隠した。14年にはグリーンピースの別の活動家グループがドイツとの国境に近いフランスの原発に侵入し、原子炉建屋に横断幕を掲げた。 

 

 各国の原子力関係者は、01年9月の米同時多発テロ以降、原発に対する外部の攻撃可能性に注目するようになった。米原子力規制委員会は09年2月、規制のハードルを引き上げ、原発新設にあたっては、航空機などが直撃した場合でも原発建屋や原子炉格納容器が破壊されずに放射能を閉じ込め、安全性を確保する設計を求めた。さらに福島事故後は、メルトダウンに関するシミュレーションを行い、事故やテロに備えた安全保障の見直しが行われることになった。フランスでも携行式ロケット発射機(RPG)による強化コンクリートの貫通テストなどを行った。弾道ミサイルの破壊力は桁違いで、参考にならないとの声もあるが、懸念の裏返しと言えるだろう。また16年3月の過激派組織「イスラム国」(IS)によるベルギーの首都ブリュッセル攻撃では、襲撃者たちが核関連で事件を起こそうとしていた証拠があるなど、懸念は続いている。

 

 ◇現実を直視した議論を 

 

 世界各国が原発に対して慎重になる中、日本国内の原発は外部からの攻撃に対しては無力なままだ。福島事故後、国は13年7月に新規制基準を定めた。地震と津波に対しては耐力が高くなったようだが、外部攻撃に対する対策は盛り込まれていない。安倍晋三首相や菅義偉官房長官は「世界一厳しい規制基準」と自賛するが、それは間違いだ。再稼働の審査基準となる新規制は、朝鮮半島情勢が緊迫している現在、「欠陥基準」であることは明らかだ。

 

 にもかかわらず、原発への外部攻撃を危惧する意識が政府や国民の間で高まっていない。15年7月の参院特別委員会で山本太郎議員が「川内原発で稼働中の原子炉が弾道ミサイルなどの直撃を受けた場合、最大でどの程度の放射性物質の放出を想定しているのか」と質問した。これに対し原子力規制委員会の田中俊一委員長は「弾道ミサイルが直撃した場合の対策は求めていない」と答弁した。あまりにも無責任だ。

 

 政府だけでなく、大手メディアもこの問題を取り上げておらず、正面から向き合っているとは思えない。政府からの圧力があるのか、あるいは、メディア側が「そんたく」しているのかと勘ぐりたくなる。

 

 むやみに危機感をあおる必要はない。しかし「日本の火薬庫」原発への脅威は常に想定しなければならない。

(村沢義久・環境経営コンサルタント)

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 ◇むらさわ・よしひさ

 1948年徳島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学MBA。米国系コンサルティング会社日本代表、ゴールドマン・サックス証券バイスプレジデントなどを経て、2005年から10年まで東京大学特任教授。13年4月から16年3月まで立命館大学大学院客員教授。

2017年5月23日号 購入案内

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発売日:2017年5月15日

特別定価:670円


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特集:ザ・名門高校 2017年5月23日号

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ノーベル賞を取れない東京の高校

確かな年輪を重ねる名門

(猪熊建夫/編集部)

 

本誌は2012年7月3日号から、社会に有為な人物を輩出する高校を取り上げる「名門高校の校風と人脈」の連載を続けている。4年半に及ぶ取材を基に、傑物を生む「名門高校」の本質は、その教育姿勢と年輪にあると分析する。

 

 

 日本のノーベル賞受賞者は、2016年12月に福岡(福岡県立・福岡市)出身の大隅良典が医学生理学賞を受賞し、米国籍の2人を含めて累計25人となった。

 25人の出身高校に注目すると、東京都内の高校を卒業したのは、利根川進ただ1人だ。都内には、国公立、私立の進学校がひしめいているにもかかわらずだ。

 

 

 利根川は日比谷(東京都立・千代田区)を1958年に卒業し、京都大理学部に進学した。当時の日比谷は、東京大に毎年百数十人の合格者を送り込んでいた。卒業生の半数に迫る勢いだった。利根川は、あえて京大に進んだという見方もできる。

 大学別では、東大が8人で最多だ。しかし8人の出身高校はすべて地方となっている。

「数学のノーベル賞」と言われるフィールズ賞の日本人受賞者は、3人だ。3人の出身高校を見ると、小平邦彦は小石川中等教育学校(東京都立・文京区)を卒業しているものの、松本深志(長野県立・松本市)から転校した。広中平祐は柳井(山口県立・柳井市)、森重文は東海(私立・名古屋市)と地方の高校出身者だ。

 

 つまり、未知の分野をブレークスルー(突破)した世界的な研究者は、地方の高校出身者が占めているということだ。いわゆる「都会の進学校」を卒業しても、殻を破れないことは、歴史が証明している。

 

 ◇東京出身者は冷める

 

 東京の高校出身者はなぜ大成しないのか。

 

 東京の進学校は、東大、東京工業大、一橋大、早稲田大、慶応義塾大など首都圏の難関大に多くの合格者を出している。

 

 17年春の東大合格者数ランキングで、ベスト10の中に東京の高校は6校。すべて私立か国立の中高一貫教育校だ。

 

 中高一貫教育校には、小学校低学年で対策を始めなければ合格できない。必然的に、比較的恵まれた家庭に育った生徒が多くなる。大学まで首都圏の自宅から通うタイプだ。大学卒業まで、社会の荒波にもまれない。

 

 当事者も指摘するように、大学ではいわゆる「燃え尽きた学生」「冷めた学生」となる。大学合格を「ゴール」と勘違いするか、高校時代までと環境が変わらないため、大学で熱中するものを見つけられないタイプだ。情報処理能力や要領のよさは折り紙つきで、官僚や会社などの組織を動かす上で一定程度必要な人材なのは確かだろう。しかし、秀才だが画一的になりがちなのも突破力のない要因だ。

 

 一方、上京した地方の高校出身者は、全く違った新たな環境で、大学生活を始める。夏目漱石の『三四郎』や、五木寛之の『青春の門』で描かれる、地方出身者が東京で新たな刺激を受ける姿の通りだ。

 

 進学高校と、名門高校は違う。難関大進学実績を上げるためには、「詰め込み型」のほうが確実だ。しかしそれでは、生徒にとって将来の素地とはならない。社会にとって有為な人物を輩出し続けてきた名門高校は、決まって「探究型」の指導に取り組んでいる。

 

 名門高校には、確かな年輪がある。「新興」高校から脱し、名門を目指すには、教育の姿勢を改める必要がある。

 

 さらに付言したい。現在、少子高齢化の影響で地元志向は強まるばかりだ。保護者にとって、手元から離すことに不安は大きいだろう。しかし今こそわが子を千尋の谷に突き落とす獅子になるときだ。

2017年5月23日号 週刊エコノミスト

発売日:2017年5月15日

特別定価:670円


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経営者:編集長インタビュー 一谷昇一郎 プルデンシャル生命保険社長

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◇ライフプランナーが保険の「出口」までお付き合い

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな生命保険会社ですか。

一谷 生命保険は目に見えないサービスを顧客に買ってもらうものです。私たちは、(1)どのような商品が良いのか顧客に基準をきちんと理解してもらい、(2)何が必要かを一緒に考え、(3)自らの意思で購入してもらっています。「入り口」である保険加入時はこの三つが一番大事です。

 また、保険が実際にサービスを提供するのは「出口」である支払時です。万が一、何かあった時に、保険金の受け取り手続きから、何千万円もの保険金が入った場合、そのお金をどう残りの生活に生かしていくのか、税金をどうやって払うのか。この出口の部分も含めてサービスを提供する必要があります。この入り口から出口までを担当するのが「ライフプランナー」です。

 

── ライフプランナーの役割について詳しく教えてください。

一谷 保険は長い期間にわたる高い買い物なので、自分の掛けたコストが、実際のリスクに見合っているのか。顧客は内容をよく理解しないで高い買い物をしていると、「対価として何をくれるのか」という気持ちになります。入り口と出口の間には「保全」活動があります。保険加入時から契約者とは長い付き合いができるので、顧客のさまざまな環境変化に応じて、提案ができます。

 例えば、20代、30代の若い時は高額の死亡保障、50代になれば介護保険に加入したり、あるいは死亡保障を少し減らして積み立てに回すなど。顧客の皆さんは、頭で理解できても、なかなか実行に移すことができません。それをライフプランナーが「見える化」します。顧客の生涯を通じて、ずっとサービスできる。それが我々の一番の強みです。

 

── ライフプランナーはどれくらいいるのですか。

一谷 3800人います。平均年齢は40歳を少し超えたくらいです。30歳前後で転職してくる人が多く、今50歳前後の人は当社で17~18年働いています。体を壊すなどのよほどの理由がない限り、あまり辞める人はいません。だから、顧客とともに年齢を重ねていくことができます。

 

── 現在、保険契約数は。

一谷 直近で349万件です。実際に加入している被保険者数は200万人を少し超えたところです。

 

── 契約者のアフターフォローは具体的にどのようにしているのですか。

一谷 契約者に1年から1年半の間隔で定期的に連絡をします。家族の状況や勤め先、収入などが変わっていないかを確認します。それによって、今の契約が十分に生活ニーズを満たしているのか、足りないようなら新たな提案をします。保険は時々見直した方がよいのです。このコミュニケーションが大事です。

 

 ◇採用にじっくり時間

 

── 実績を教えてください。

一谷 MDRT(Million Dollar Round Table)と呼ばれる国際的な保険営業の自己研さん組織があります。ここには卓越した専門家が加盟しています。当社は、1998年から19年連続で、国内生保の中で一番多く会員がいます。米市場調査会社のJDパワーの調査では、保険金請求の対応の満足度で2年連続1位です。保有保険件数は27期連続で増加しました。口コミも非常に大きい要素です。一人の担当から一家の担当、一家の担当から一族の担当になれると理想です。

 

── どのような採用と教育をしているのですか。

一谷 1年に600人近く採用します。当社は全国に営業所長が470人、支社長が120人います。総勢約600人のマネジャーで600人の指導や教育をしています。知識だけでなく、どのように顧客に信頼してもらい、自分をサービスの一環として受け入れてもらえるのか、というようなことです。

 

── 採用の際の基準は。

一谷 リクルート活動は会社の肝です。会社の価値観に合った人、基礎能力の高い人、人として間違いがない人をどれだけ社員として採用できるかが重要です。まだ前の会社に在籍している時点で、1回2時間を3回、計6時間掛けて、当社が何を目指しているのか、当社に来るとどんな可能性が広がるのか、講習をしています。この仕事を理解してもらい、その上でアプローチしてきた人を面接しています。この採用のプロセスが2カ月間あります。

 

── このマイナス金利時代にどのような運用をしているのですか。

一谷 終身保険をはじめとする長いお金を預かっています。だから、負債に資産をマッチさせた運用をしています。20~30年の国債や社債で運用しています。予定利率を下回らないようにしています。外貨建ての商品は米国の親会社の資産運用のノウハウを活用して、再保険に出しています。広告宣伝費は、ほとんど使っていません。

 

── 最近力を入れている商品やサービスは。

一谷 2015年の秋から生命保険信託を開始しました。両親が亡くなった場合、お子さんへの保険金を大切に預かるためです。過去には預かった保険金を親戚が借金の返済に使ってしまうケースがありました。そこで、亡くなった方の意思に沿った形で保険金が安全に使われる方法を考えたのです。この1年間で200件くらい新規で預かりました。一番多かったのは母子家庭の母親が自分に万が一があった場合を考えて、契約するケースです。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A まさに、営業所長としてリクルーター、トレーナーの毎日を過ごしていました。会社のビジネスモデルを熱く語り、来る日も来る日も良い人を探していました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 歴史小説が好きです。小村寿太郎を主人公にした吉村昭さんの『ポーツマスの旗』です。

 

Q 休日の過ごし方

A 朝ご飯に自分で作ったみそ汁を飲みながら、好きなジャズを聴いています。

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 ■人物略歴

 ◇いちたに・しょういちろう

 1958年生まれ。兵庫県出身。大阪教育大学付属高校、関西学院大学経済学部卒業。91年プルデンシャル生命保険入社。2008年執行役員、12年取締役執行役員専務、13年から現職。58歳。

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事業内容:生命保険業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1987年10月

資本金:290億円

従業員数:5197人(2015年度末)

業績(2015年度)

 経常収益:8920億円

 当期純利益:107億円

目次:2017年5月23日号

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ザ・名門高校

第1部 人材輩出編

20 ノーベル賞を取れない東京の高校 確かな年輪を重ねる名門 ■猪熊建夫 酒井雅浩/黒崎亜弓/米江貴史

22 ノーベル賞・フィールズ賞受賞者28人の出身校

24 わが母校を語る 糸井 重里 コピーライター 前橋 「優れたバカと背伸びした」

         山中 伸弥 京都大iPS細胞研究所所長  大教大附属天王寺 「応援を怠った恥ずかしい思い出」

         浜 矩子 同志社大学大学院教授 戸山「国語の授業で“言語的武装”」

26 インタビュー 全国高校長協会 宮本 久也会長「学歴が武器の時代は終わった」

27 これぞ名門「三冠王」 ノーベル賞、首相、金メダリスト 横須賀/日比谷

28 文化勲章 輩出ベスト5 1位 日比谷 2位 開成 3位 洛北 4位 銅駝美術工芸 5位 両国、北野

30 戦後の首相、日銀総裁、経団連会長 出身校リスト 学習院高等科/筑波大附属/日比谷

32 ナンバースクール 関ケ原、幕末維新に翻弄された「旧制中学」の所在地

34 藩校がルーツ 校名を襲名する名門校

米沢興譲館/佐倉/時習館/明和/福山誠之館/松山東/修猷館/伝習館

36 芥川賞、直木賞 受賞者輩出校 九段中等教育学校 麻布 福岡など

38 超進学校にも校風の違い 「早咲き」の開成、「遅咲き」の灘 ■濱中 淳子

40 インタビュー 開成 柳沢 幸雄校長 「世界に冠たる日本の高校教育」

41 歌舞伎役者、五輪選手、起業家 自慢の卒業生

青山学院高等部/暁星/慶応義塾/四天王寺/世田谷学園/佐伯鶴城/白馬/久留米大学附設/開成/早稲田大学高等学院/武蔵/磐城

44 座談会 企業人事は地方公立名門校に注目

46 社会インフラの中心に高校閥 新宿/西

47 高校にまつわるエトセトラ 名ばかり附属/最も長い校名/長い校歌、短い校歌

48 犯罪者のわが母校

 

Flash!

13 仏大統領選 マクロン勝利でも続くEUの正念場/韓国大統領選 革新系候補の圧勝も北朝鮮と国民分断の難題/大手商社は資源好調で各社増益でも非資源開拓は急務/インタビュー 澤田康幸アジア開発銀行チーフエコノミスト

17 ひと&こと 米マイクロン仰天社長人事 東芝「昨日の友」が今日の敵/日産主導の三菱自改革 東大卒技術者に不安要素/M&A過去最多から一転 東芝、日本郵政でばくち色

 

第2部 進学&野球編

76 「ローカル化」に悩む地方高校と東京ブランド大学

78 地方が求める「グローカル」人材

79 東大合格者数ベスト10 1951~2017年

83 都立復権はもうそこまで 経済格差解消に高まる期待

84 超一流プロ野球選手は「西高東低」 2000安打はPL最多7人、200勝は無名校からも

86 歴代甲子園 優勝185校 春は西日本勢が優勢 夏は近年分散傾向

一挙掲載!全国名門高校250

89 北海道・東北 90 関東 91 東京 92 中信越 93 近畿 94 中国・四国 95 九州・沖縄

 

105 インタビュー 藤原 弘治 みずほ銀行頭取

「私は頭取だが、銀行の収益だけを大きくするという発想はない」

 

Interview

4 2017年の経営者 一谷 昇一郎 プルデンシャル生命保険社長

50 問答有用 松村 逸夫 ターフアドバイザー(セレッソ大阪)

「芝は生き物。毎日精魂込めて世話をすれば美しい」

 

World Watch

64 ワシントンDC 化学兵器の被害国イラン 米シリア攻撃に複雑感情 ■会川 晴之

65 中国視窓 フィンテックを積極利用 広がる中小企業への融資 ■神宮 健

66 N.Y./シリコンバレー/スウェーデン

67 韓国/インド/ミャンマー

68 台湾/ブラジル/ソマリア

69 論壇・論調  ジブラルタル主権争い激化 第2のフォークランド紛争に発展 ■増谷 栄一

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

19 グローバルマネー 混迷ベネズエラに貸し込んだ中国

49 商社の深層(68) 三菱商事がドローン事業 農業、インフラ、資源への活用も ■池田 正史

54 学者が斬る 視点争点 歴史から見るビットコインの「限界」 ■横山 和輝

56 言言語語

70 アディオスジャパン(52) ■真山 仁

72 海外企業を買う(140) H&Mヘネス・アンド・マウリッツ ■児玉 万里子

74 東奔政走 首相の改憲発言で政局勃発の兆し 公明に踏み絵、民進に揺さぶり ■佐藤 千矢子

102 景気観測 米国経済の年率2%成長は続く 実質金利は低く、海外経済は堅調 ■足立 正道

104 ネットメディアの視点 ネット上の「通信の秘密」どう守る 国の監視は明らかに憲法違反 ■土屋 直也

108 アートな時間 映画 [皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ]

109        舞台 [六月大歌舞伎 弁慶上使]

110 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ sanctuary city ”

 

[休載]名門高校の校風と人脈、エコノミスト・リポート

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

98 欧州株/為替/原油/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『モラルの起源』『模倣の経営学』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■荻上 チキ 

62 歴史書の棚/出版業界事情

 

57 次号予告/編集後記

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