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週刊エコノミスト 2017年5月23日号

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発売日:2017年5月15日

特別定価:670円

 

ザ・名門高校

 

 本誌は2012年7月3日号から、社会に有為な人物を輩出する高校を取り上げる「名門高校の校風と人脈」の連載を続けている。4年半に及ぶ取材を基に、傑物を生む「名門高校」の本質は、その教育姿勢と年輪にあると分析する。

◇ノーベル賞を取れない東京の高校

◇確かな年輪を重ねる名門

 

 日本のノーベル賞受賞者は、2016年12月に福岡(福岡県立・福岡市)出身の大隅良典が医学生理学賞を受賞し、米国籍の2人を含めて累計25人となった。

 25人の出身高校に注目すると、東京都内の高校を卒業したのは、利根川進ただ1人だ。都内には、国公立、私立の進学校がひしめいているにもかかわらずだ。続きを読む



特集:今から始める長期投資 2017年5月30日号

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◇積立NISAで広がるか

◇積立投資による長期運用

 

2018年1月、少額投資非課税制度(NISA)の積み立て運用版である「積立NISA」が始まる。現行のNISAは非課税期間が5年間と長期運用には向いていない。積立NISAでは期間を20年に拡大するなど、長期の資産形成のための制度になっている。

 現行NISAの口座開設数は16年末で1069万口座。だが実際に株式などの運用に使われている口座は全体の半数に満たない。

 そうした事情から、「これまで投資してこなかった人の利用も念頭に創設した」(金融庁)のが積立NISAだという。約900兆円に上る個人の現預金を株式市場に供給する道筋をつくり、アベノミクスを後押しする狙いもあると見られる。

 

 積立投資は、長期的な資産形成に向いているといわれる。いくつかある積立投資の手法の中で、代表的なのが「ドルコスト平均法」だ。一定間隔に一定金額ずつ投資する方法で、金融機関の定額積立投資を利用すれば誰でも実践できる。

 

 ドルコスト平均法の強みは、投資タイミングを分散できる点だ。株価が安い時は購入する口数が増え、株価が高い時には投資する口数が減る。株価に関係なく機械的に買っていくため、結果的に「買い逃し」や「高値づかみ」を回避しやすくなる。

 

 株価が下がる局面では1口当たりの平均購入単価が下がっていく。このため、株価が底入れ・反転上昇した時に運用資産が膨らみやすい。

 

 

 1989年のバブル最高値からの下落局面でも同様の効果を発揮した。

日経平均株価は89年12月末の3万8915円の最高値を頂点に、90年12月末までに38・7%下落した。

 

 このバブルの頂点から東証株価指数(TOPIX)連動の投信(配当込み)で積立投資を始めた場合を試算すると、株価が急落するさなかのため、開始当初は株の時価総額が投資額を下回る状態が続くが、93年8月、株価が一時的に戻した局面でプラスに転じた。

 

 その後も「元本割れ」と含み益拡大を繰り返す。ITバブル崩壊後の暴落でバブル最高値からの下落率が03年4月には8割に達したが、05年8月に株式の時価総額が投資額を逆転。08年のリーマン・ショック後の株安後は長期間にわたり株式時価総額が投資額合計を下回っていたが、アベノミクスによる株高で、13年4月以降は株式時価総額が跳ね上がっている。歴史的な暴落の局面にあっても、相場が上昇局面に転じるならば、積立投資は有効であることがわかる。

 

 積立投資は、初心者や多忙な投資家に有力な手段といわれている。

 

 個人投資家の水瀬ケンイチさん(43)は、03年から投信による積立投資を続けている。以前は個別株に投資していたが、株価が気になるあまり、職場のトイレに隠れてスマホをチェックするようになった。そこで「このままでは生活が立ちゆかない」と手持ちの株式を売って、積立投資に切り替えた。

 

 現在は日本株のほか、先進国株式、新興国株式、債券、REIT(不動産投資信託)に連動するインデックス投信に毎月投資している。現在までに「高級車数台分の利益が出ている」が、リーマン・ショック後の株価暴落時に積み立てを続けるのは気分が良いものではなかったと振り返る。投資仲間が次々と脱落していった。水瀬さんは積立投資を続けられるかどうかは、「資本主義経済の長期的発展に懸ける心構えがあるかどうか」だと話す。

 

 もちろん、積立投資が万能というわけではない。株価が一本調子で上がると予想するならば、ドルコスト平均法ではなく、今すぐに全財産を株に投資した方が効率が良い。長期的に株価が下落すれば、元本を毀損(きそん)する可能性もある。

 

 ◇「インデックス偏重」非難も

 

 米国の著名投資家であるウォーレン・バフェット氏も、インデックス投資を支持することで知られる。今年2月の株主向けの書簡でも、運用担当者が銘柄を選定するアクティブ投信のコストの高さをあらためて指摘した。

 

 長期積立投資では、投資にかかるコストが長期的な運用成果を左右する。購入時の販売手数料はもちろん、時価の一定割合を日々投信から差し引く信託報酬(管理手数料)が実質的な運用成績に響いてくるからだ。複利効果を狙うなら、分配金を出さない投信を選ぶことも重要だ。

 

 このため金融庁は、積立NISAの対象となる投資信託に「販売手数料無料」「信託報酬が一定割合以下」などの厳しい条件を設けた。結果、公募株式投信5406本中、対象となるのは50本程度に絞り込まれる(16年11月末時点)。ほとんどがインデックス投信で、アクティブ投信は5本程度といわれている。

 

 個人金融資産の運用環境改善に本腰を入れる金融庁の意向も影響していると見られる。金融庁の森信親長官は4月7日の講演で、「(日本の投信は運用資産額の)82%が販売会社系列の投信運用会社により組成・運用されている」として、「販売会社のために、売れやすくかつ手数料を稼ぎやすい商品をつくっている」と金融機関を非難した。

 

 ただ、積立NISAについては「インデックス投信に偏りすぎている」という指摘もある。債券やREITの指数のみに投資する投信は事実上対象から除外されているため、個人投資家からも「購入できる商品の幅が狭い」という声が出ている。極端な制度設計は、個人の運用の手足を縛る可能性がある。

(井出真吾・ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジスト)

(花谷美枝・編集部)

(荒木宏香・編集部)

定価:620円

発売日:2017年5月22日


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経営者:編集長インタビュー 新田信行 第一勧業信用組合理事長

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◇「人物中心」の融資で創業と地方を支援

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな信用組合ですか。

 

新田 東京23区内に22の支店と四つの出張所があります。預金が3300億円に対して、貸金は2400億円で、預貸率は75%と高い水準です。地域に密着した金融機関です。年間300の地域のお祭りや盆踊りに私も含めて参加しています。そのため、土日の予定が全て埋まっています。お祭りに参加するため、ポップコーン製造機や綿あめ製造機を所有しています。「お祭り組合」と言ってよいかもしれません。

 

── 強い地域は。

 

新田 世田谷、練馬、杉並以外は全てカバーしています。対象エリアは飲食街や商店街などです。顧客は小規模事業主、個人事業主、業態は料亭、居酒屋、飲食店が結構あります。

 

── どのような事業をしているのですか。

 

新田 当組合の三つの基本方針の一つに、「人とコミュニティの金融」を掲げています。融資には三つのやり方があります。一つ目は決算書から財務分析をして格付けをする。二つ目は、ノンバンクや質屋のように担保を取る。三つ目が人を見て貸す、です。私たちは信用供与の源泉が格付けでもなく、担保でもなく、フェイストゥフェイスの人間関係がベースになっています。

 

── 何で評価しますか。

 

新田 人と事業を徹底的に見ます。他の金融機関からは、「格付けもせず、担保も取らずによく融資をしますね」と言われますが、私からすると、「社長に会わず、工場も見ないでどうやってお金を貸すのですか」ということです。信用組合のお金は組合員のものですからリスクは取れません。ひたすら汗をかいて、社長や工場や製品・サービスを見るしかありません。

 

── 融資例を教えてください。

 

新田 コミュニティローンが280くらいあります。例えば東京23区内にある六つの花街向けの「芸者さんローン」があります。また、「亀有商店街ローン」や「巣鴨町内会ローン」などもあります。特徴はそれぞれのローンに必ず固有名詞が付くことです。それぞれの商店街や町内会の組合長や会長が、当組合の出資者の代表である総代をしています。ある意味、会員制のクラブです。会員の紹介が無いと当組合には入れません。

 

── 不良債権になる恐れはありませんか。

 

新田 格付けは過去の決算書に基づきます。しかし、私たちが知りたいのは未来の業績です。だから、当組合と他の金融機関では与信判断が変わります。私が就任時に67%だった預貸率が75%まで上昇しているのは、他の金融機関で否決された貸し出しを実行しているためです。しかし、人をよく見ていますから、この4年間、当組合では不良債権がほとんど発生していません。芸者さんローンであれば、6人の芸者組合のトップが全部自分の配下の芸者のことを知っているわけです。

 

 ◇創業加速で支援

 

── 創業向けの融資は。

 

新田 背景には、日本の資金循環が非常に悪いことに対する危機感があります。お金を持っているのはシニアですが、お金を使いたいのは若者です。創業者ローンではまだ決算書も担保もない創業者に融資します。昨年1年間で150件、残高で10億円を実行しました。この件数は日本の金融機関でトップです。当組合の融資に並行して日本政策金融公庫も同額の融資を実行します。また、創業期は赤字になりますから、創業ファンドで出資もします。

 

── 資金面以外の支援は。

 

新田 創業者はアイデアは良くても、法律家、税理士、販売先などの事業ツールは持っていません。そこで、当組合がメンターとなりスポーツジムの「ライザップ」のように短期間で立ち上げを指導します。そのために昨年「東京アクセレータープログラム」を開催し、113件の応募に対して、最終的に9件を支援しました。

 その中の一つにお祭りで日本を元気にするベンチャーの「オマツリジャパン」があります。代表の加藤優子さんには私のネットワークでお祭りをしている町内会長を紹介して、1カ月で全てを回るようにアドバイスしました。

 

── 地方連携の取り組みは。

 

新田 「量から質」の金融を目指します。質とは付加価値のことですが、これは未来志向の連携の中でしか生まれません。だから、志を同じくする人には連携を呼び掛けています。東京税理士会や東京行政書士会、東京理科大学などです。地方は、北海道から岡山まで18の信用組合と連携しており、まもなく19に増えます。一生懸命地域を良くしよう、中小企業を支え、若者や女性を応援しようという志です。秋田県信用組合はドジョウの養殖やニンニクの栽培をするベンチャーを支援しましたが、これを手掛けているのは地元の若い建設業者です。地方創生と創業支援は切っても切れない関係にあります。

 

── 人材育成は。

 

新田 若手職員向けに相談員制度を創設しました。六つの分野で専門性を磨きます。制度導入から3年で、融資の目利きができる事業金融相談員は40人ほどとなりました。

 

── 足元の業績は。

 

新田 私が理事長に就任する前は経常利益は1億円台でしたが、平成27年度は12億円を超えました。不良債権の比率もこの4年間で10%から5%まで低下しました。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 1985年のプラザ合意後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)で海運業界を担当していたので、不良債権の処理で大変でした。

Q 「私を変えた本」は

A デール・カーネギーの『道は開ける』です。不良債権処理で追い込まれたときに読み、頑張ろうという気になりました。

Q 休日の過ごし方

A 仕事です。お祭りや花見で人に会い続けています。

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 ■人物略歴

 ◇にった・のぶゆき

 1956年生まれ。千葉県出身。千葉高校、一橋大学法学部卒業。1981年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。2011年みずほ銀行常務執行役員、13年第一勧業信用組合理事長に就任。60歳。

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事業内容:金融業

本店所在地:東京都新宿区

設立:1965年5月

出資金:113億円

役職員数:364人(2015年度末)

業績(2015年度)

 経常収益:67億円

 純利益:15億円

目次:2017年5月30日号

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今から始める長期投資

20 積立NISAで広がるか 積立投資による長期運用 ■井出 真吾/花谷 美枝/荒木 宏香

22 インタビュー 積立NISAの狙い 米澤 康博 早稲田大学大学院教授

  「数多いアクティブ投信にいいものはほとんどない」

23 積立NISA 対象投信予想

24 Q&A インデックス投資の基礎知識 ■深野 康彦

26 目論見書のポイント

27 魅惑のハイリスクハイリターン<1>恐怖指数 下落局面でもうけるETF ■大山 弘子

28 資産配分 成果の9割を決める資産配分■吉井 崇裕/編集部

30 税優遇 老後資金には確定拠出年金 ■高橋 忠寛

32 意外と知らない インデックス大解説 ■市川 雅浩

35 魅惑のハイリスクハイリターン<2>レバレッジ 短期で2倍のパフォーマンス ■田茂井 治

36 インデックス投信シリーズ 信託報酬の引き下げ競争 ■篠田 尚子

38 魅惑のハイリスクハイリターン<3>アクティブ投信 運用成績の定期的確認が必須 ■編集部

 

エコノミスト・リポート

39 若者が陥る「住まいの貧困」 ■稲葉 剛

 

Flash!

13 東芝監査承認なし決算 経済シロウト官邸が招く迷走/一帯一路 習主席が世界の指導者を演出/第57回エコノミスト賞授賞式

17 ひと&こと 受動喫煙対策で漁夫の利狙う小池知事/仏マクロン大統領と日産ゴーン氏の因縁/仮想通貨「リップル」急騰のワケ

 

Interview

4 2017年の経営者 新田 信行 第一勧業信用組合理事長

46 問答有用 ベティ・鈴木弘子 プロ女子アメリカンフットボール選手

  「頭脳、個人、チームのスポーツで楽しくてやめられない」

 

増える現金 減る現金

82 現金流通高対GDP比19% 突出する日本の現金依存度 ■編集部

83 日本 タンス預金残高43兆円 高齢単身女性の不安を反映か ■熊野 英生

85 スウェーデン 民間銀行主導でキャッシュレス化 ■白井 さゆり

86 インタビュー ケネス・ロゴフ 米ハーバード大学経済学部教授 「日本は1万円札を廃止すべき」

 

70 仏大統領選 国民の苦悩が生んだ青年大統領 ■渡邊 啓貴

72 韓国 文大統領が直面する「積弊」 ■徐 台教

75 カジノ 本格攻勢かけるセガサミーHD ■荒木 宏香

76 名古屋 再開発が加速する名古屋駅周辺 ■江口 忍

 

World Watch

64 ワシントンDC 「安保への脅威」を盾に鉄鋼製品輸入規制検討 ■堂ノ脇 伸

65 中国視窓 難しい現地法人売却 ■前川 晃廣

66 N.Y./シリコンバレー/英国

67 韓国/インド/インドネシア

68 青島/ウズベキスタン/モロッコ

69 論壇・論調 フランス大統領の改革断行なければポピュリスト台頭 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■池谷 裕二

19 グローバルマネー トランプ政策への信頼感低下を示すBEI率

42 福島後の未来をつくる(47) 福島第2で死闘を繰り広げた保安検査官 ■宮嶋 巌

44 アディオスジャパン(53) ■真山 仁

50 学者が斬る 視点争点 非財務情報の重要度が増す企業経営 ■西谷 公孝

52 言言語語

60 名門高校の校風と人脈(241) 修猷館高校(福岡県)(中) ■猪熊 建夫

62 海外企業を買う(141) アクセンチュア ■小田切 尚登

78 東奔政走 「こども保険」構想の問題提起 ■前田 浩智

94 景気観測 パートの時給上昇が賃金増につながらず ■斎藤 太郎

96 ネットメディアの視点 すべての道は北京につながる ■山田 厚史

97 商社の深層(69) 伊藤忠が2強時代を宣言 ■編集部

100 アートな時間 映画 [ハロルドとリリアンハリウッド・ラブストーリー]

101        クラシック [オペラ ジークフリート]

102 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ pass-through businesses ”

 

Market

88 向こう2週間の材料/今週のポイント

89 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット

90 中国株/為替/金・白金・パラジウム/長期金利

91 マーケット指標

92 経済データ

 

書評

54 『財政と民主主義』

  『昭和解体』

56 話題の本/週間ランキング

57 読書日記 ■高部 知子

58 歴史書の棚/海外出版事情 中国

 

80 定期購読・デジタルサービスのご案内

 

53 次号予告/編集後記

週刊エコノミスト 2017年5月30日号

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定価:620円

発売日:2017年5月22日

 

今から始める

 

長期投資

 

◇積立NISAで広がるか

◇積立投資による長期運用

 

 2018年1月、少額投資非課税制度(NISA)の積み立て運用版である「積立NISA」が始まる。現行のNISAは非課税期間が5年間と長期運用には向いていない。積立NISAでは期間を20年に拡大するなど、長期の資産形成のための制度になっている。

 

 現行NISAの口座開設数は16年末で1069万口座。だが実際に株式などの運用に使われている口座は全体の半数に満たない。

 

 そうした事情から、「これまで投資してこなかった人の利用も念頭に創設した」(金融庁)のが積立NISAだという。続きを読む


経営者:編集長インタビュー 楢原誠慈 東洋紡社長

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◇社会に貢献する価値を創り続ける

 

 ◇Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 東洋紡はどんな会社ですか。

 

楢原 「世の中に必要なものを何とか自分たちで創って役立てていこう」との思いを持って渋沢栄一が1882年に創設した紡績会社です。絹、綿、ウール、レーヨン、合成繊維を扱う中で培ってきた技術を応用して、現在はフィルムや機能樹脂、ヘルスケア分野の製品など多様な事業を展開しています。

 

── どのような技術を活用したのでしょうか。

 

楢原 合成繊維の加工技術は奥が深く、元々の「糸」や「繊維」を、薄く広げると「フィルム」になり、ストロー状に加工すれば「膜」になります。さらに樹脂自体の改質を進めて強度や耐熱性を強化したエンジニアリング・プラスチック製品も手がけています。

 

── フィルムはどのように使われているのですか。

 

楢原 食品包装用のフィルムで、当社は日本のトップシェアを有しています。菓子やインスタントラーメンの包装、ペットボトルのラベルが主力です。最近は生鮮野菜用の鮮度を保ちつつ水分で曇らない包装フィルムも需要が高まっています。「食品用」と一くくりにすると汎用(はんよう)的に見えますが、食品や商品の特徴や用途に応じて強度や耐久性、印字性などフィルムに求められる性質や機能はさまざまです。

 

── 高機能性が強みですね。

 

楢原 異なる分野ですが、高機能性という点では、液晶画面を見やすくするための偏光板用の保護フィルム製品も急成長中です。液晶テレビの中には何枚もフィルムが入っていて光源に近い部分には「TACフィルム」という高額で特殊なものが使われてきましたが、当社はポリエステルなど汎用的な素材を使いリーズナブルな価格と高機能化を両立した製品を開発・販売しています。ユーザーからも「素材革命だ」と高く評価され、2017年3月期の売り上げは前年比で2・2倍増でした。

 

── 膜技術ではどのような製品がありますか。

 

楢原 人工透析機で用いられる医療用の膜製品が世界でシェアを伸ばしています。また、当社独自に海水淡水化装置用の膜製品を手がけています。サウジアラビアを中心に中東地域でプラント向けに事業を展開しており、640万人分の淡水製造に貢献しています。現地製造の準備を進め、新技術の実証試験にも積極的に取り組んでいます。

 

── 紡績からの事業転換にはいつ頃から取り組んできたのですか。

 

楢原 紡績業の黄金期だった1950年に、当社は売上高で日本一を記録したこともありますが、その後は海外との競争が激しくなりました。そこで、60年代から紡績技術を活用した、新しい事業分野の研究開発や市場開拓を進めてきました。95年ぐらいまでは売上高の7割を衣料繊維が占め、その他の分野が3割という事業ポートフォリオでしたが、現在はフィルムや膜などの非繊維事業分野が7割、衣料繊維が3割程度と、逆転しています。

 

── 東洋紡といえば衣料繊維で日本を代表する大手メーカーというイメージがあります。

 

楢原 ポートフォリオに占める割合は下がりましたが、国内外で高付加価値化を進めて高い評価を得ています。例えばサウジアラビアでは、男性が全身にまとう真っ白な民族衣装「カンドゥーラ」用の高級トーブ布地のトップブランドメーカーとして当社の知名度は高く、製品も人気があります。

 

── 事業転換を成し遂げたポイントは何でしょうか。

 

楢原 創業の理念である「世の中にいかに役立つか」とは、逆に言えば「お役立ち競争」に勝てない製品や事業は成り立たないということです。時代的に変わらざるをえなかったという面もありますが、意図的に変わっていこうという我々自身の意志が一番重要だと思います。

 

 ◇エアバッグ繊維で世界展開

 

── 中期計画の進展はどうですか。

 

楢原 現計画は17年度が最終年度で、海外展開の加速と新分野の開拓を2本柱にしています。特に自動車のエアバッグに使う頑丈で特殊な織物や原糸の事業展開に注力しており、海外子会社の原糸メーカー「PHPファイバーズ」の生産力も生かして、17年度下期からはグローバルな拡販体制を強化します。

 

── 将来の成長分野は。

 

楢原 環境やヘルスケア分野の事業化に重点を置いており、海外市場からの注目も高いです。具体的な製品では、神経の再生を誘導する微細なチューブ素材「ナーブリッジ」の海外展開を18年から本格化する予定で、FDA(米食品医薬品局)の承認も取得しました。当社が独自に開発した酵素を応用した血糖値の診断薬も、海外市場での拡大が期待されています。もともとは、レーヨン工場の廃液のクリーン化のために開発した酵素を、全く異なる分野で活用しました。ほかにも、衣類に組み込んで心拍数など生体情報を計測できるフィルム状の素材などを実証実験中です。

 

── どんな会社を目指しますか。

 

楢原 経営の常道としては、高品質・高機能・リーズナブルなコストのバランスがとれた製品の提供を追求していきます。トップとしては従業員のやる気を正しい方向に発揮させなくてはいけないと思います。

 渋沢栄一が掲げた経営の理想は「論語とそろばんの両立」です。社会的な責任を果たしつつ持続的な成長も遂げていくという精神を、東洋紡のDNAとして大切にしていきます。

(構成=河井貴之・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 向こう見ずでへそ曲がりな社員でしたが、会社はそれ以上に柔軟で面白かったです。経理部門で消費税導入や会計ビッグバンに追われました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 山岡荘八の『徳川家康』。全26巻を5回以上読んでいます。

 

Q 休日の過ごし方

A ウオーキングやゴルフ。妻との買い物で、自分で運転するのも楽しみです。

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 ■人物略歴

 ◇ならはら・せいじ

 1956年生まれ。福岡県出身。ラサール高校、東京大学法学部卒業後、九州電力を経て88年東洋紡績(現東洋紡)入社。グループ経営管理部長、財務経理部長、取締役などを経て2014年4月に社長就任。16年6月に日本紡績協会会長就任。60歳。

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事業内容:フィルム・機能樹脂、産業マテリアル、ヘルスケア、衣料繊維分野などの製造・加工・販売

本社所在地:大阪市北区

創立:1882年5月3日

資本金:517億円

従業員数:連結9827人 単体3029人(2016年9月現在)

業績(17年3月期)

 売上高:3295億円

 営業利益:233億円

週刊エコノミスト 2017年6月6日号

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定価:670円

発売日:2017年5月29日

お金が増える

フィンテック 

 

◇おつりを投資に回す

◇意識せずに資産を増やす

 

 知らないうちに自分のお金が投資に回って、資産が増えている──。

 

 フィンテックのベンチャー、トラノテック(東京都港区)は、買い物をするたびにおつりが自動的にたまっていき、投資に回るウェブサービス「トラノコ」を開発した。買い物時、現金で払うとおつりが来るが、スイカやパスモなど電子マネーのカード払いでは、おつりが発生しない。

 そこでトラノコでは、「おつり相当額」という「仮のおつり」を算出する。例えば、喫茶店で税込み380円のコーヒーを買う場合、400円との差額の20円をおつり相当額とするのだ。続きを読む


特集:お金が増えるフィンテック 2017年6月6日号

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◇おつりを投資に回す

◇意識せずに資産を増やす

 知らないうちに自分のお金が投資に回って、資産が増えている──。

 

 フィンテックのベンチャー、トラノテック(東京都港区)は、買い物をするたびにおつりが自動的にたまっていき、投資に回るウェブサービス「トラノコ」を開発した。

 

 買い物時、現金で払うとおつりが来るが、スイカやパスモなど電子マネーのカード払いでは、おつりが発生しない。

 

 そこでトラノコでは、「おつり相当額」という「仮のおつり」を算出する。例えば、喫茶店で税込み380円のコーヒーを買う場合、400円との差額の20円をおつり相当額とするのだ(図2)。

 

 おつり相当額は、買い物をした人のカード利用履歴がトラノテックに送られ、それを基に同社が算出する。あらかじめトラノコのユーザーが指定した銀行口座から毎月、おつりの合計が自動で引き落とされ、投資の原資となる。

 

 消費者の買い物データは「家計簿アプリ」企業も持っている。トラノテックと提携する家計簿アプリのユーザーは、簡単な操作でトラノコを利用することができる。

 

 投資先は、リスクとリターンの大きさによって異なる「小トラ」「中トラ」「大トラ」という愛称の三つのファンドから利用者が選ぶ。ファンドはトラノテックの子会社トラノテック投信投資顧問が組成・運用する。

 

「小トラ」は安全資産の債券が中心でローリスク・ローリターン、「中トラ」は投信で言えばバランス型でミドルリスク、「大トラ」はリスク資産が入った分、高い利回りを狙う商品だ。具体的には「中トラ」で3~4%を目指しているという。

 

 意識しないで投資できるので、投資期間も長くなる可能性がある。「日本で長期投資の文化を作りたい」と話すのはトラノテックのジャスティン・バロック社長。米信託銀行ステート・ストリート出身のバロック氏は、「おつり投資」が海外で人気を得ている状況を見て「現金での支払いが多く、おつりが身近な日本でこそ普及する」と考えた。

 

 ベンチャーのウェルスナビ(東京都千代田区)も同様のおつり投資サービスを開発。おつりがたまるとETF(上場投資信託)に回される「マメタス」の提供を5月24日から開始した。資産運用は人工知能(AI)を活用した投資ロボアドバイザーが行う。

 

 投資の知識がなくても意識せずにできる仕組みによって「消費から投資への流れができる」(バロック氏)かもしれない。

 

◇大型不動産に個人も投資

 

 フィンテックは不動産投資の形も変えた。ロードスターキャピタル(東京都中央区)は、これまで個人ができなかった大型不動産への投資を可能にするサービス「オーナーズブック」を運営している。

 

 インターネットを介して投資家を募り共同で投資する「クラウドファンディング」という仕組みを利用する。投資先を不動産に特化し、個人に1口1万円から不動産投資できる場を提供する。

 日本では個人が投資できる不動産は、マンションや「REIT(リート)」(不動産投資信託)が中心で、数億円規模以上の大きな投資案件は、機関投資家の独占市場だった。オーナーズブックは、少額を投資する個人を多数募り、大型不動産に投資する。

 

 集めた資金は、不動産を保有する借入人に、不動産担保ローンとして貸し付け、利息を得る。

 

 昨年5月に募集した東京都渋谷区の新築マンションなどを担保として総額4050万円を募集した案件には118人が応募し、確定利回りは年換算で5・6%だった。また、担保不動産が売却されて利益が出た際は出資者に還元する特約が付く場合もあり、台東区のオフィスビルなどを担保とした案件(3050万円の募集総額に95人が応募)では、予定では5%だった利回りが10・2%まで上昇した。年利回りは4・5~6%が多い。複数の案件に投資する会員も多く、1人当たりの平均投資額は100万円程度という。

 

 主な投資層は30~40代の男性ビジネスマン。同社の岩野達志社長は「スマホアプリやウェブ上で募集すると数時間で募集枠が埋まってしまう」と手ごたえを語る。登録会員数は14年9月のサービス開始から2年半あまりで6200人を超えた。実行済み案件は5月24日時点で52件、累計投資額も16億円を超え、現在も順調に伸びているという。

 

 案件の目利きは同社の不動産の専門家チームが行う。岩野社長自身、米金融大手ゴールドマン・サックスグループの不動産運用会社であるゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパンで経験を積んだ。岩野氏とともにゴールドマンから独立した不動産のプロたちが高利回りを稼ぐ案件を練る。

 

 ユーザーからは貸し付け型ではなく、直接、投資したお金で不動産を購入する「エクイティ型」の案件を出してほしいという要望もある。現在の貸金業態では難しいが、規制緩和によって可能になれば、「不動産大手と肩を並べ、個人が数百億円規模の案件に投資できる」(岩野氏)。海外ではすでにエクイティ型ができており不動産に特化したクラウドファンディング市場の規模は3兆円に膨らんでいる。いまだ400億円規模の日本の伸びしろは大きい。

 ◇上がるか、下がるかを予想

 

 ゲーム感覚で実践的な投資の知識を簡単に身につけられるサービスを開発したのが、フィナテキスト(東京都千代田区)だ。注目企業の株価が明日、上がるか、下がるかを予想しながら株式投資の知識を蓄えられる株予想サイト・アプリ「あすかぶ!」を提供している。

 

 あすかぶ!は、日本の上場企業約3500社の中から1日1企業を「あすの企業」としてピックアップし、ユーザーに明日の株の動きを予想させる。パソコンやスマホの画面には、現時点での予想参加者数と、上げ予想、下げ予想がそれぞれ何%ずついるかが表示される。

 

「あすの企業」の選出には、同社が独自開発したアルゴリズムを使う。出来高、変動比、各種指数など複数の値を入力すると、株価が大きく動きそうな銘柄をいくつか導き出す。その中から、同社スタッフが世間の関心などを考慮して、注目度の高そうな企業を1社選ぶ。

 

 実際、15年12月にネット関連企業のさくらインターネットを「あすの企業」に選んだ翌日、同社の株価が高騰した。「これで、ユーザーが一気に増えた」(フィナテキスト経営企画室の高橋充氏)。アルゴリズムの高い予測精度が、あすかぶ!の人気を支えていると言える。

 

「お金を出して買いたい機関投資家がたくさんいる」(フィンテックに詳しい証券アナリスト)という同社のアルゴリズムは現在、カブドットコム証券の株取引ツール「カブステーション」に導入され、「注目株シグナル」として活用されている。

 

 あすかぶ!で株取引の知識を蓄えたユーザーは、いずれゲームでは飽き足らなくなり、実際の株取引に進む可能性がある。現在、あすかぶ!のユーザーは約13万人いる。その中から、明日の個人投資家が多数生まれるかもしれない。

 

 日銀の資金循環統計によれば、2016年末時点の家計の金融資産残高は1800兆円あり、そのうち937兆円が現金または預金。投資によって価値を生み出せるかもしれない膨大なお金が、マイナス金利もあいまって死蔵されたままだ。フィンテックは、この「投資嫌い」の国民の行動を変える可能性がある。

(大堀達也・松本惇・編集部)

週刊エコノミスト 2017年6月6日号

定価:670円

発売日:2017年5月29日


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目次:2017年6月6日号

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お金が増えるフィンテック

第1部 投資で役立つ

20 おつりを投資に回す 意識せずに資産を増やす  ■大堀 達也/松本 惇

23 フィンテックで戦う企業50社+主な提携企業

25 お金を借りる 銀行融資はもう古い ビッグデータとAIで素早く融資 ■東海林 正賢

27 アマゾン融資を活用 ■編集部

28 「現金お断り」の時代 スウェーデン 銀行窓口もキャッシュレス ■佐藤 吉宗

29 英国 スマホと電話番号でカンタン送金 ■中島 真志

31 中国 モバイル決済が新産業を生む ■矢作 大祐

32 インド 高額紙幣廃止でスマホ決済倍増 ■佐藤 隆広

33 流通、登記に使う ブロックチェーン ダイヤ流通を健全化、送金で銀行中抜き ■両角 真樹

35 インタビュー 沖田 貴史 SBIリップルアジア社長

36 決済が進化する レジはいらない 支払いを意識せずに買い物する ■小林 啓倫

38 米国最新事情 ロボアドバイザー、音声認証 AIで飛躍するフィンテック ■松原 義明

40 メガバンクも活用 三菱東京UFJ/みずほ/三井住友 ■編集部

第2部 インシュアテックで保険革命

80 “脱保険”商品に注力■山口 泰裕/編集部

83 営業が変わる AIアドバイザーで成約率アップ ■編集部

第3部 仮想通貨と国家

84 中央銀行もデジタルへ 揺らぐ通貨独占権 ■志波 和幸

87 権力不要の通貨でドル基軸は終わる ■田代 秀敏

88 インタビュー 岩下 直行 京都大学公共政策大学院教授、元日銀フィンテックセンター長

89 日本の技術を採用 カンボジア中銀が新決済インフラ開発へ ■編集部

インタビュー 岡田 隆 ソラミツ共同最高経営責任者

90 仮想通貨の幻想 ビットコイン七つの誤解 ■中島 真志

 

エコノミスト・リポート

92 世界で2カ国目 カナダで嗜好用の大麻合法化へ ■佐藤 哲彦

 

42 老後 年金制度は維持できる ■高橋 洋一

44 利他性 神経経済学の新発見 ■下川 哲矢

72 インド インドに石油メジャー構想 ■阿部 直哉

76 米国 保守優位に変わる米最高裁 ■中岡 望

78 移転 豊洲の水道管に汚染物質が浸透する恐れ ■北沢 栄

95 訴訟 自動運転技術盗んだ疑い ウーバーとグーグルの争い■桃田 健史/編集部

 

Flash!

13 ソフトバンク10兆円ファンド/英テロは世界に拡散の恐れ/イラン大統領にロウハニ師再選/ウィンドウズの弱み突くサイバー攻撃/金融庁が力を入れる積立NISA

17 ひと&こと 日揮社長に異例の石塚氏/ジャパンディスプレイ人事が急転/FRB議長にテイラー氏有力

 

Interview

4 2017年の経営者 楢原 誠慈 東洋紡社長

50 問答有用 安田 菜津紀 フォトジャーナリスト

「社会のゆがみは真っ先に子供に向かいます」

 

World Watch

64 ワシントンDC FBI長官の電撃解任 ■今村 卓

65 中国視窓 「中露勢力圏」の一帯一路 ■金子 秀敏

66 N.Y./ロサンゼルス/スイス

67 オーストラリア/インド/マレーシア

68 上海/メキシコ/コートジボワール

69 論壇・論調 医療から撤退する米保険会社 ■岩田 太郎

 

Viewpoint

3 闘論席 ■片山 杜秀

19 グローバルマネー 本当はエキサイティングな日銀総裁の仕事

41 商社の深層(70) 始まらない鉄鋼部門の「合従」 ■井戸 清一

46 名門高校の校風と人脈(242) 修猷館高校(福岡県) (下) ■猪熊 建夫

48 海外企業を買う(142) アディダス ■清水 憲人

54 学者が斬る 視点争点 シングルマザー支援で移住誘致 ■吉弘 憲介

56 言言語語

70 アディオスジャパン(54) ■真山 仁

74 東奔政走 「安倍政権vs皇室」の暗闘再び ■平田 崇浩

102 景気観測 期待インフレ率上昇は一時的 ■上野 泰也

104 ネットメディアの視点 ネットフリックス排除は正しい戦略か ■土屋 直也

108 アートな時間 映画 [光]

109        舞台 [劇団☆新感線 髑髏城の七人]

110 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Quantitative Investing ”

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■村上 俊介/週間マーケット

98 インド株/為替/穀物/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『地方財政改革の検証』『活中論』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■孫崎 享 

62 歴史書の棚/出版業界事情

 

57 次号予告/編集後記

第47回 福島後の未来:福島第2の電源復旧で死闘 保安検査官と現場の10日間=宮嶋巌

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宮下明男氏による鉛筆書きの復旧工程案
宮下明男氏による鉛筆書きの復旧工程案

宮嶋巌・月刊『FACTA』編集長

 

原子力発電所の安全性向上へ、原子炉等規制法(炉規法)の改正法案が4月7日に成立し、原発施設の保安検査体制が大きく変わった。原子力規制委員会(NRA)は原発再稼働を認める前に検査制度を見直すべきだったが、そこに手をつけられなかったのは「トラウマ」を引きずっていたからだ。

 3・11当日、福島第1(1F)には、7人の原子力保安検査官がいた。5人が免振重要棟に残ったが、翌12日午後、1号機が爆発すると、全員が1Fから退避。同夜、検査官がいなくなったことに激怒した海江田万里経産相が「現場で注水状況を確認せよ」と命じたため、13日午前に4人が免振重要棟に戻った。

 

 

 ところが、彼らは吉田昌郎所長が指揮していた緊急時対策室(緊対室)に立ち会うこともなく、実地検分もしなかった。14日昼、3号機が爆発してにわかに放射線量が上がると、身の危険を感じた4人は再び1Fから「遁走(とんそう)」して翌15日に福島市に避難、検査官が現場復帰したのは22日だった。その間、1Fでは東電と協力会社、そして防衛省、警察、消防による決死の注水作業が繰り広げられた。検査官の「敵前逃亡」は経産相の職務命令を軽んずる、公僕にあるまじき行為だったが、保安院は身内をかばい、結局、誰も責任を取らずうやむやになってしまった。

 

 NRAが検査制度見直しに踏み切ったのは、国際原子力機関(IAEA)が昨年4月に出した調査報告書がきっかけだった。IAEAは、規制当局と事業者の検査が重複して責任の所在が曖昧になっていることや、検査官が自由に原発施設に出入りできない問題を指摘した上で制度改革を促した。

 

 モデルにしたのは、米原子力規制委員会(NRC)が2000年に導入した「原子炉監視プロセス(ROP)」。実は米国でも1979年のスリーマイル島原発事故後、規制当局の検査が硬直化し、原発の稼働率が著しく低下した。ROPでは、NRCの監視・評価システムを体系化し、リスク情報を活用して検査の客観化を図った。

 

 新制度の特徴は、事業者の保安活動を客観的に評価し、各プラントの良否を5段階で色分けして公表するところにある。NRAでの見直しを進めてきた制度改正審議室の担当者は「各プラントの評価は許容不可能な赤から黄、白、緑、無色の順に安全上の重要度が下がっていき、全部が緑なら規制措置はなく事業者の負担が減る。逆に成績が悪い赤や黄のプラントには追加検査を行い、停止命令を出すこともある」と説明する。「チェックリスト」をなぞる硬直的な検査から解放され、事業者の保安活動を常時監視・評価し、抜き打ち検査も行えるようになった。

 

 新たな監視プロセスを導入した米国の原発はトラブルが減り、稼働率が90%前後に向上したが、定着には10年以上の歳月を要したという。

 

 炉規法が改正されたばかりの日本には、従来の検査官に各プラントの安全性をランク付けする技量やノウハウがあるわけではない。このためNRAは16年夏に5人の職員をNRCに1年間派遣し、ROPの実務を学ばせている。17年は更に6人を送り込む。検査官16人の増員も決まっており、向こう3年間で合計50人が増える計画だ。

 

 さらに17年10月からは、新たな検査官の資格認定審査が開始される。従来、実務経験2年以上の理工系大学出身者が2週間の初任研修を受けると検査官になれたが、今後は6カ月の基礎研修を終えた者を検査官補とし、さらに18カ月間の専門研修を修了した者に資格認定審査を行い、検査官に任用する仕組みになる。

 

 ◇2F救った元東芝社員

 

 検査官の育成で教育・訓練の重要性は言うまでもないが、気掛かりなのは有事対応の能力だ。つまり、不測の事態に身の危険を顧みず「最前線の砦(とりで)」となり得るのだろうか。

 

 3・11の際、1Fから南へ10キロ離れた福島第2原発(2F)に「2Fを救った」と評される検査官がいた。当時、2Fの常駐検査官だった宮下明男氏(70)だ。

宮下明男氏。現在は原子力規制庁技術参与
宮下明男氏。現在は原子力規制庁技術参与

 

 外部電源が残った2Fは中央制御室の停電は免れたものの、出力110万キロワットの4基がフル稼働中で、このうち3基の原子炉が冷却機能を失い、死線をさまよっていた。

 

 宮下氏は事故直後、2Fの増田尚宏所長が指揮を執る円卓に着き、すぐに自ら鉛筆で書いた「復旧工程案」(冒頭図)を所長に提示。東電はそれを基に電源復旧工程表を作成した。発災から10日間、宮下氏が緊対室から離れることはなく、「宮下さんがいてくれて本当に助かった」と増田氏は述懐する。

 

 宮下氏は1F、柏崎刈羽、浜岡、女川原発の建設に携わった元東芝社員。「2Fでは(定検のための)東芝の責任者を7年間務めたので、現場に詳しくなった」と話す。01年に保安検査官に転じ、浜岡と1Fを経て、2Fにて勤めていた際に3・11に遭遇した。

 

「僕は残りますよ、と進んで手を挙げたのは検査官だからというよりも個人的な思いが強かった」と語る宮下氏。復旧工程案を書いた経緯について、宮下氏は「東芝時代、トラブルがあるたびに作業工程表を作っていたから、僕は得意だった。本当の有事の時は誰も助けに来てくれないから、現場に残った人が得意分野で協力するしかない。『(検査官が)そんなことまでするのか』とは思わなかった。増田さんも冷静に議論して各スタッフに明確な指示を出していた。有事対応は、やはり上に立つ人の器量次第だと思った」。

 

 復旧作業中に身の危険を感じなかったかと質問すると、宮下氏は「14日に1Fの3号機が爆発した時は涙が出た。若い頃、4年間かけて造ったから。そして、ここで死ぬかもしれないと思った」と複雑な思いを明かした。1Fで検査官が避難した時も残ると言ったのは「やっぱり使命感だと思う」と話し、加えて現場の一体的な活動を強調した。「緊対室では女性職員もずっと帰らず、残って食事を作ってくれた。休息のために当直室も空けてくれた。僕は『チーム』の一員みたいなものだった」と振り返る。

 

「皆が落ち着いて目標を決め、きちんと対応できた。みんながヒーロー、本当にすごいチームワークだった」

 

 現在、日本の常駐検査官の半数は、宮下氏と同様に原発に精通したメーカーなどからの中途採用だ。ただ、宮下氏ほどの経験と胆力を持った人材が3・11の2Fにいたことは、美妙なる「天の配剤」である。なぜなら、宮下氏は定年で11年3月末での退官が決まっていたからだ。発災から10日間、鬼気迫る現場で一部始終を見守った「検査官の鑑(かがみ)」がいたことを忘れてはならない。

 

(宮嶋巌・月刊『FACTA』編集長)

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 ◇みやじま・いわお

 1957年東京生まれ。早稲田大卒。旧行政管理庁・総務庁(現総務省)で勤務後、月刊「選択」編集部で編集記者、デスク、編集長を歴任。2005年にファクタ出版(株)を設立、06年に月刊『FACTA』を創刊。11年より同誌編集長。

週刊エコノミスト 2017年6月13日号

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定価:620円

発売日:2017年6月5日

 

有機EL・半導体バブル 

 

スマホ画面の主役が交代

投資ブームに火がついた

 

「有機EL投資ブームに火がついた。工程上、有機ELは液晶よりパネル製造装置を数倍多く使う。装置メーカーは関連投資で恩恵を受け活況だ」。野村証券の和田木哲哉マネージング・ディレクターは、こう指摘する。

 ローツェ(証券番号6323)、アルバック(同6728)、ブイ・テクノロジー(同7717)──。ディスプレーパネル製造装置株が、今年に入って相次いで上場来高値を更新した(株式分割を考慮したベース)。株高を支えるのは、相次ぐ装置受注や好調な業績だ。各社は、受注案件の納入先や装置の種類など詳細を開示していないが、市場では「有機ELパネルメーカーからの旺盛な受注」というのが一致した見方だ。続きを読む


特集:有機EL・半導体バブル 2017年6月13日号

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◇スマホ画面の主役が交代

◇投資ブームに火がついた

 

「有機EL投資ブームに火がついた。工程上、有機ELは液晶よりパネル製造装置を数倍多く使う。装置メーカーは関連投資で恩恵を受け活況だ」。野村証券の和田木哲哉マネージング・ディレクターは、こう指摘する。

 

 ローツェ(証券番号6323)、アルバック(同6728)、ブイ・テクノロジー(同7717)──。ディスプレーパネル製造装置株が、今年に入って相次いで上場来高値を更新した(株式分割を考慮したベース)。株高を支えるのは、相次ぐ装置受注や好調な業績だ。各社は、受注案件の納入先や装置の種類など詳細を開示していないが、市場では「有機ELパネルメーカーからの旺盛な受注」というのが一致した見方だ。

 

 ◇新型アイフォーンが採用

 

 有機ELパネルメーカーは昨年来、巨額の設備投資に動いている。特に、量産体制を確立している韓国2強は驚異的な額をつぎ込む。サムスンディスプレイの今年の有機EL投資は、10兆ウォン(約1兆円)に上るとささやかれる。LGディスプレイも、坡州(パジュ)工場での有機ELライン増設に約2兆ウォン(約2000億円)を投じることを発表するなど、こちらも総額10兆ウォン(約1兆円)の設備投資がささやかれる。新産業育成を国策とする中国でもパネル工場新設が相次ぐ。

 

 有機ELの活況を演出しているのは、米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」だ。今秋発売の新型アイフォーンのうち高級モデルへの採用が決まっている。今年4月、サムスンディスプレイに7000万枚を注文したというニュースが世界を駆け巡った。

 

 みずほ銀行産業調査部の調べでは、今年の有機ELディスプレー出荷見込み額は、前年比26%増の210億7500万ドル(約2兆3400億円)に達する。その87%を占めるのはスマートフォン向けだ。

 サムスン電子や中国オッポなど、有機ELを採用したスマホは既に存在する。しかし、アップルが採用すれば一気に他機種へ波及する。調査会社IHSグローバルの早瀬宏上席アナリストは「今年はスマホディスプレーの主役交代期。ハイエンド(高級品)機種で液晶から有機ELへの転換が加速する」と指摘する。

 

 現在、スマホ用有機ELパネルを量産できるのは、サムスンディスプレイとLGディスプレイのみだ。このうちサムスンディスプレイは世界でいち早く量産に成功した先駆者で、グループ内のサムスン電子のスマートフォンにもパネルを供給してきた。サムスンディスプレイが新型アイフォーンに独占供給できるのは、LGの量産技術が、発売時期である今秋までに間に合わなかったたためとみられる。

 

 ただし、アップルにすれば部品は複数社から調達するのが基本路線だ。さらにスマホ端末でライバル関係にあるサムスンディスプレイのみにパネル生産を委託したくないのが本音だろう。そこで来年以降は量産技術が確立しつつあるLGディスプレイにも発注するとみられる。両社は巨額投資によって、アップルと追随する他スマホメーカーの需要に応える。

 

 ◇パネルは韓国2強

 

 こうしたスマホ需要急増を見越して、日本のジャパンディスプレイ(JDI)や中国BOEや天馬微電子、台湾AUOなども研究・開発には着手しているが、量産にはいたっていない。みずほ銀行産業調査部の益子博行調査役は「有機ELは標準的な量産方法が確立していない。試行錯誤と努力で量産ラインを築いた韓国2強は、秘伝とも言える量産方法を門外不出としている。他社が巨額投資しても安易に追いつけるものではない」と指摘する。

 

 技術が汎用(はんよう)品化した液晶の場合、製造装置を設置すればラインである程度の品質の完成品ができる。装置のカギをひねればすぐに商用に量産できる「フルターンキー」状態だ。

 

 これに対して、有機ELは、材料同士の相性、材料と装置の相性があり、組み合わせや温湿度などをラインに乗せて調整しなければならない。新規参入組は、いわば手焼きせんべいを焼いている状態で、今後、いかにせんべいの品質をそろえて大量生産できるかがカギになる。この点が10年以上前からソニーやパナソニック、JDIが取り組んでも達成できなかったことだ。

 

 一方でサムスンディスプレイは、装置メーカーのキヤノントッキと組んで、コツコツと量産体制を築き、2007年から量産を開始した。JDI、中国勢、台湾勢は韓国の世界2強に追いつこうと猛烈に研究・開発を進めている。

 

 ◇装置・材料が強みの日本勢

 

 パネルでは「先行する韓国2強と、追う中国・台湾・日本勢」という構図だが、存在感を示すのは日本の装置・部材・材料メーカーだ。有機EL材料を吹き付ける蒸着装置(22ページ参照)は、信頼できる製品・サービスを提供できるのは世界でキヤノントッキ、アルバックの日本勢2社ぐらいと言われる。両社の製品は、引く手あまたで入手困難だ。特にキヤノントッキはサムスンディスプレイの量産体制を築いた功労者として人気が高い。

 

 部材・材料では、旺盛な需要を見込んで増産計画が相次ぐ。住友化学は18年1月から、タッチセンサーの需要増を見越して韓国の拠点を3倍強増強することを決めた。出光興産も、韓国の発光材料の製造拠点を増強して、生産能力を年間5トンから8トンに引き上げる。17年度上期の完工を目指す。

 

 この投資ブームは、いつまで続くのか。ディスプレイサプライチェーンコンサルタンツの田村喜男氏は「まだ技術開発の余地があり、25年まで投資ブームは続くのではないか」と予想する。有機ELは現在は低消費電力や薄さ、高画質を売り物にしているが、今後も「折りたたみ式スマホ」を見込んだ技術開発が進むというのが理由だ。技術開発の過程では材料・部材・装置・パネルメーカーなどあらゆるメーカーがかかわる。

 

 ディスプレー業界には、液晶で10年代前半、中国勢の相次ぐ参入で価格競争に陥った苦い経験がある。材料からパネルメーカーまでのサプライチェーン全体が利益の取れなくなった後遺症は、今も日本勢に残る。有機ELの投資ブームで「バブルの宴(うたげ)」を謳歌(おうか)し続けようとするならば、不断の技術革新とコスト管理が求められている。

(種市房子・編集部)

週刊エコノミスト 2017年6月5日号

定価:620円

発売日:2017年6月5日


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経営者:編集長インタビュー 小澤二郎 かどや製油社長 2017年6月13日号

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◇全社でごまのスペシャリストを目指す

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── かどや製油はどんな会社ですか。

 

小澤 江戸時代の安政5(1858)年に小豆島で創業して以来、ごま一筋でやってきました。小豆島ではそうめん作りが盛んですが、そうめんをなめらかにし、栄養価を高め保存しやすくするためにごま油が用いられてきたのです。当社ではごま油をはじめとして多様なごま製品を手がけており、本社は東京にありますが、製造や開発は今も小豆島工場で一貫して行っています

 

── 独特の容器と豊かな風味で強いブランド力があります。

 

小澤 「純正ごま油」は今年、販売から50周年を迎えます。当時の社長だった私の義父が米国に出張した際、家庭用のクッキングオイルが小瓶に詰められスーパーで販売されているのを見て、「これだ!」と製品化のヒントを得ました。しかし、日本でごま油は天ぷら用など高級品のイメージが強く、当社も業務用の製造・販売が中心でしたので、まずは「家庭用ごま油」という分野をゼロから開拓しなくてはいけませんでした。

 

── ごま油は家庭でなじみが薄かったのですか。

 

小澤 販売当初は、全社員が全国の酒屋や乾物屋などを回り、当社の製品の紹介とともに、ごま油自体を家庭料理で使ってもらうことに努力しました。天ぷらの店頭実演や風味を生かしたレシピの紹介など、まずは食卓や家庭への浸透を図ったのです。発売から3年ほど経て、当時のダイエーに製品が認められて全国の店舗に置いてもらうようになると、一気に人気が広がっていきました。今年は発売50周年ということで、同じく50周年目を迎えたタカラトミー社の「リカちゃん」人形とのコラボレーション事業など記念事業を展開していく方針です。

 

── 他社の製品との違いは。

 

小澤 当社の純正ごま油は原料がごま100%です。「ごま油」と一くくりにされがちですが、大豆や菜種などの食用油とミックスした「調合ごま油」もあります。製法技術へのこだわりでは煎り方や貯蔵方法で色や風味が変わってくることを生かし、定番の「金印」、十分に煎った風味の強い黒ごまから搾った「黒ごま油」、風味を抑えた生搾りの「純白ごま油」の3種類をラインアップして、料理の用途や好みで使い分けていただき好評です。

 

── 他にどんな製品に注力されていますか。

 

小澤 ごまの健康機能に重点を置いたカプセル製品が好調です。ごまはたんぱく質やカルシウム、ビタミン、ミネラルなどを豊富に含んでいて昔から体によい食べ物とされていました。30年ほど前、当社でもごまの成分を生かしたカプセル製品を開発し売り出したことがあったのですが、当時は浸透しませんでした。近年、大手メーカーの参入でごまに含まれている成分「セサミン」が注目されるようになり、私たちも改めて独自製法で事業化しました。お客様の健康に密接に関わる分野ですから、きめ細かい製品説明や販売を心がけていまして、専用の通販部門を新たに立ち上げました。

 

── 世代を超えてごま全体に人気が出ています。

 

小澤 いろいろなごまの楽しみ方を提案するため、当社は、ごまの風味を生かした「ラー油」やペースト状にした「ねりごま」などを販売しています。営業面でも新たな市場開拓を進めており、昨年度は純白ごま油に焦点を絞り、クッキングオイル市場で浸透させるため初めて交通広告など各種メディアを用いたPR活動を行いました。当社ウェブサイト上での純白ごま油を使った料理のレシピ紹介の充実などを図った結果好評で、今期の伸びにもつながると期待しています。

 

 ◇ごまへのこだわりを大切に

 

── 足元の業績はいかがですか。

 

小澤 ごま油は家庭用、業務用ともに好調で、2017年3月期の決算では売上高、販売数量ともに前期を上回りました。外食産業向けの売り上げが伸びており、特に600グラム製品の容器を丸型ペットボトルにリニューアルして好評です。ごま食品事業も、特に業務用が好調です。

 

── 業務用ではどんな製品がありますか。

 

小澤 風味づけや薬味としてインスタントラーメンからドレッシングまで食品メーカーの活用が幅広く、主にねりごま製品が人気です。食品ごま自体にも、例えばハンバーガーの丸パン(バンズ)や菓子パン向けなどでニーズがあります。

 

── 今後の事業展開は。

 

小澤 海外での需要の高まりに注目しています。これまで米国市場が好調で、最近は中国などアジア圏からの需要が高まっています。世界的な「ごま人気」は期待できる半面、経営の視点では課題があります。ごまの需要拡大に合わせ、競合企業の増加や原料確保競争が懸念されます。ごまは日本国内でほとんど生産されておらず、輸入が頼りですが、高品質な素材をいかに確保していくか、また為替の影響などの回避もトップとしての責任です。

 

── かどや製油の将来像は。

 

小澤 実直に、お客様への感謝を忘れない姿勢が大切です。長年のファンが多く親子2代でご愛用の声も頂きます。

 全社でこれからも大切にしたいことは、ごまへの徹底したこだわりです。小豆島の製造工場を中心に社員一人一人が「ごまのスペシャリストとしてトップ企業になること」を認識してもらいたい。

(構成=河井貴之・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 大学卒業後は三菱電機の名古屋にある製作所で勤務していましたが、30代で当時のかどや製油の親会社に入って石油販売を担当。休日返上で働いていました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『きけ わだつみのこえ』。学生時代に初めて読んだとき、中身のすごさにショックを受けました。

 

Q 休日の過ごし方

A ゴルフです。同年代の仲間がどんどん減っていき、最近は若い世代の人とプレーすることが増えましたが楽しいです。

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 ■人物略歴

 ◇おざわ・じろう

 1937年生まれ。灘高等学校、慶応義塾大学経済学部卒業。三菱電機での勤務を経て、小澤商店(現小澤物産)に入社。80年6月かどや製油取締役に就任、2003年に代表取締役社長。79歳。

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事業内容:ごま油、食品用ごま製品の製造・販売

本社所在地:東京都品川区

創業:1858年

資本金:21億6000万円

従業員数:284人(2017年3月31日現在)

業績(17年3月期)

 売上高:285億円

 営業利益:35億8200万円

目次:2017年6月13日号

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CONTENTS

 

有機EL・半導体バブル

有機EL編

18 スマホ画面の主役が交代 投資ブームに火がついた ■種市 房子

21 一から分かる 有機EL基礎知識 ■服部 毅

23 有機ELなぜ増える? (1) 電機メーカーでテレビ参入相次ぐ ■種市 房子

24           (2) サムスンもアップルも中国勢も採用 ■佐野 正弘

26           (3) 自動運転で広がる用途 ■貝瀬 斉

27 注目企業インタビュー 出口 敏久 住友化学副社長

 「タッチセンサーに新たな商機 韓国拠点を3倍強に増強」

28 日の丸「JDI」 周回遅れで開発加速へ ■種市 房子

半導体編 バブルの宴

29 メモリーバブルは続き大型M&Aも相次ぐ ■服部 毅

31 iPhone心臓部を独占受注 絶好調台湾TSMCにも死角 ■服部 毅

32 メモリー価格は高止まり ウエハーも価格引き上げ ■津村 明宏

33 画像作成も電源もアップルが独自開発を加速 ■津田 建二

34 ルネサス「身の丈」のAIチップ開発中 ■津田 建二

35 有機EL・半導体 40銘柄 ■松丸 修

 

38 プエルトリコ 破綻手続きで影響受ける投資家も ■江夏 あかね

71 信託銀行 問われる信託銀行の存在意義 ■野崎 浩成

 

Flash!

11 北朝鮮・相次ぐミサイル発射は中国の核容認引き出しが狙い/タオルミーナ・サミットで再確認「貿易めぐり米と日欧の溝」/OPEC減産合意でも1バレル=20ドル台の可能性/三菱東京UFJ銀異例のトップ交代の深層

15 ひと&こと 女性活躍の波は検察まで 「検事総長」候補に美人検事/野村OBの新たな回顧録におびえる人々/トヨタ社長の腹心の下馬評

 

Interview

4 2017年の経営者 小澤 二郎 かどや製油社長

44 問答有用 川村 元気 映画プロデューサー・小説家

 「人々の集合的無意識を表現したい」

 

74 もっと知りたいエコノミストの本音 ■米江 貴史

独自アンケート

76 菅野 雅明/高田 創/根本 直子

77 米山 秀隆/河野 龍太郎/岩下 真理/村嶋 帰一

78 北岡 智哉/西岡 純子/窪田 剛士/劔崎 仁

79 星野 卓也/井上 恵理菜/山口 範大/廣野 洋太

世代別の視点

80 菅野 雅明 ソニーフィナンシャルホールディングス・チーフエコノミスト/ポール・シェアード S&Pグローバル チーフエコノミスト 

81 河野 龍太郎 BNPパリバ証券 チーフエコノミスト/村嶋 帰一 シティグループ証券マネージングディレクター

82 窪田 剛士 帝国データバンク産業調査部係長/西岡 純子 三井住友銀行チーフ・エコノミスト

83 井上 恵理菜 日本総合研究所 マクロ経済研究センター研究員/山口 範大 明治安田生命保険運用企画部エコノミスト 

84 Q&Aで解説 潜在成長率って何? ■小玉 祐一

 

エコノミスト・リポート

68 マクロン新仏大統領は「ベストな中道路線」を実践できるか ■金子 寿太郎

 

World Watch

58 ワシントンDC 環境事業で世銀が示す グリーンボンドの存在感 ■安井 真紀

59 中国視窓 一帯一路に国際政治リスク 国内に懐疑論も ■岸田 英明

60 N.Y./カリフォルニア/英国

61 韓国/インド/シンガポール

62 香港/ロシア/パキスタン

63 論壇・論調 一帯一路会議を自画自賛する中国 欧米は懐疑的で評価は数十年先 ■坂東 賢治

 

Viewpoint

3 闘論席 ■佐藤 優

17 グローバルマネー 貿易で「勝ち負け」競うトランプ政権の不毛

40 海外企業を買う(143) 美食達人 ■富岡 浩司

42 名門高校の校風と人脈(243) 北海道札幌南高校(北海道) (上) ■猪熊 建夫

48 学者が斬る 視点争点 地域間格差は必然である ■江頭 進

50 言言語語

64 アディオスジャパン(55) ■真山 仁

66 東奔政走 首相ペースで動く「クセ球」改憲 来秋の衆院選で国民投票実施か ■山田 孝男

92 景気観測 米国経済は18年後半にピークアウトか 足元は一時的減速からリバウンド ■南 武志

94 ネットメディアの視点 前次官の醜聞はなぜ暴露された 共謀罪と「加計」結ぶ監視社会 ■山田 厚史

95 商社の深層(71) 三菱商事の脱「資源・非資源」分類 今年度から「事業系・市況系」に ■種市 房子

96 アートな時間 映画 [ザ・ダンサー]

97        美術 [ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展]

98 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Negative Equity ”

 

Market

86 向こう2週間の材料/今週のポイント

87 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット

88 欧州株/為替/原油/長期金利

89 マーケット指標

90 経済データ

 

書評

52 『中国政治からみた日中関係』

  『再生可能エネルギー政策の国際比較』

54 話題の本/週間ランキング

55 読書日記 ■ミムラ 

56 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

 

51 次号予告/編集後記

 

経営者:編集長インタビュー 竹増貞信 ローソン社長 2017年6月20日号

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◇生活を下支えする便利な存在に

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── コンビニエンスストアは年々進化しています。

 

竹増 かつてコンビニは「しょうゆが切れた」「マヨネーズがない」という場合の緊急購買の場でした。お客様も「少し高いけど、緊急だから仕方がないか」という気持ちがあったのでは。今は、毎日足を運んでくれるお客様も多く、夕方や夜間の来店も増えています。ローソンは日常で使っていただける店を目指し、卵や牛乳などの食品、調味料、日用品等の約90品目を、スーパーマーケットやドラッグストア等の市場動向に合わせて、価格を見直しています。

 

── 目指すべきコンビニの姿は。

 

竹増 コンビニでは、物販以外にも、公共料金支払いや、ATM(現金自動受払機)などを通じてとても大きな額のマネーが通過します。これは、金融を介してさまざまなサービスを提供できることを意味します。金融に限ったことではありません。ローソンでは、一部の地方自治体の住民票交付も手がけています。金融や行政も合わせることで「ローソンは便利だね、効率的だね」「ローソンにさえ寄れば何でもできる」と言われる店を目指します。そうすることで、生活を全て下支えするような存在になれるのではないでしょうか。

 

── 2017年度(18年2月期)の経営計画は。

 

竹増 連結営業利益は前年比52億円減の685億円と計画しています。前の期まで14年連続増益でしたが、減益計画となっています。これは、本業のコンビニエンス事業では60億円の増収を見込む一方で、(1)POS(販売時点情報管理)などのシステム更新(2)金融やヘルスケアなどの新規事業(3)業務提携先のセーブオン・スリーエフからの看板替え、などの成長分野への投資を積み増すからです。本業の商売力は弱めずに、将来の投資をしっかりする足場固めの期間と位置づけます。

 

── 新規事業のうち金融事業の進捗(しんちょく)は。

 

竹増 現在は銀行免許は持たずに、共同ATMを管理・運営しています。次のチャンレンジは、この基盤をベースに銀行免許を持った金融ビジネスに参入することです。現在、ローソンバンク設立準備株式会社を設置して、関係当局の許認可等を前提に、銀行の設立準備を進めています。

 

── 日販(1店当たりの1日当たり売上高)はセブン─イレブン65万円に対して、54万円にとどまります。

 

竹増 留意しなければいけないのは、都心のど真ん中にある店舗は、日販が高いが、家賃も高いことです。ただ、セブンさんの粗利益率は高い。見習わないといけません。

 

── 店舗数では「セブン─イレブン」「ユニー・ファミリーマート」に次いで3位です。17年度の出店計画は。

 

竹増 出店1400店、閉店500店を見込みます。出店1400店の内訳は、提携先の「スリーエフ」「セーブオン」店舗の看板替え400店▽通常出店1000店です。

 

── ずいぶん多いですね。

 

竹増 16年度の出店実績は1055店でしたから前年比増です。かつて、大量出店を試みてうまくいかなかったことがあります。しかし、今回は「前始末(まえしまつ)」をきちんとしており、過去の失敗とは違うという感触があります。加盟店やオーナーには本部から「スーパーバイザー」が派遣されて、在庫管理や接客などの経営指導に当たります。このスーパーバイザーを、数年前の採用段階からある程度の人数を採用して育ててきました。

 

 ◇商事と生産性を向上

 

── 今年2月に、三菱商事がローソンを完全子会社化しました。

 

竹増 完全子会社化のメリットを出すも出さないも僕らローソン次第です。消費の最前線に立つ僕らが「今の市場はこう動いています」と確信を持って、新たなビジネス提案をしなければなりません。その時点で初めて、いかに三菱商事グループの力を活用するかという段階になります。逆に三菱商事から「こんな原料、食品があるぞ」と言われても、ローソンの感性と合わないと、原料調達から製品出荷に至るまでの「サプライチェーン」は機能しないでしょう。僕が三菱商事に入社した頃の、出資先に対する果実の取り方とは違ってきています。

 

── それ以外でのメリットは?

 

竹増 黎明(れいめい)期のコンビニは、1店舗1オーナーが基本路線でした。しかし、今のローソンは1人で複数店を担う多店舗経営型を進めています。また、物流面の効率化も課題となっています。こうした経営面や物流面での問題に対して、三菱商事と共に無駄を排除して、店の生産性を高める対策を一緒になってやっていきたいです。

 

── 5月には玉塚元一・会長兼CEOが退任しました。

 

竹増 玉塚さんは退任を明らかにした会見で「(竹増社長に権限を集中する)1頭体制の方がスピード感があっていい」と言っていました。玉塚さんはある兆しを感じていたのではないでしょうか。それは「この案件は玉塚会長に報告しようか」「この案件は竹増社長に報告するか」「いや、この案件は二人共に報告しないと」という大企業的な2頭体制への兆しです。実際にはこのような状態には陥っていませんが、玉塚さんが感じていたのはその兆しではないでしょうか。玉塚さんは別の業界に行きましたが(IT会社「ハーツユナイテッド」社長に就任予定)、これからもローソンの兄貴分だと思い続けます。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 3年間、三菱商事から米国の豚肉処理・加工品製造会社へCEO(最高経営責任者)補佐として出向して日本や米国向けの豚肉の生産・販売を担当しました。また、「経営とは何か?」を学びました。食肉にも詳しいですよ。

 

Q 「私を変えた本」は

A 司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』です。

 

Q 休日の過ごし方

A 趣味の釣りをして、釣った魚を刺し身やイタリアンで調理して、家族に振る舞うのが楽しみです。

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 ■人物略歴

 ◇たけます・さだのぶ

 大阪府出身。大阪教育大附属高池田校舎、大阪大経済学部卒業。1993年、三菱商事入社。グループの米国豚肉処理・加工品製造会社や三菱商事社長秘書を経て、2014年ローソン副社長。16年6月から現職。47歳。

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事業内容:コンビニエンスストア

本社所在地:東京都品川区

設立:1975年4月

資本金:585億円(2017年2月時点)

従業員数:9403人(17年2月時点、連結)

業績(16年度連結)

 経常利益:730億円

 当期利益:364億円

 


「カール」を駆逐したのは誰か 東日本撤退の深層

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明治提供
明治提供

♪それにつけてもおやつはカール〜。

 

おやつの定番だった「カール」が東日本で販売されなくなる。撤退の理由は「食べない」「売れない」だけなのだろうか。

 

(米江貴史/松本惇・編集部)

 

 印象的なテレビCMとキャラクターでなじみの深いロングセラーのスナック菓子「カール」。販売する国内最大手の菓子メーカー「明治」が5月25日、同商品の生産を今年9月から大幅に縮小し、西日本(滋賀、京都、奈良、和歌山の4県以西)での限定販売とすると発表した。東日本からの撤退ともいえ、発表直後の週末には販売地域の対象から外れる東京都内のスーパーなどは品切れが続出している。

 

 インターネットのオークションでは参考小売価格(120円)の10倍以上の価格で売り出されるケースも出る事態となる「カール・ショック」に見舞われている。明治は売り上げの低迷と収益の悪化を理由に挙げているが、業界関係者からは「撤退するほどではない。多数派を占める旧明治乳業出身の幹部が、収益の高いチョコレート以外の菓子を切る動きではないか」などの声が上がる。

 

店頭で品切れ続出

 

 カールは1968年に販売を始め、シリーズ商品として、昆布のうまみを利かせた「うすあじ」や「チーズあじ」「カレーあじ」「大人の贅沢カール」などがある。売り上げ(小売りベース)は、ピークの90年代に約190億円まで伸ばしたが、直近の2016年度は約60億円に落ちていた。

 

 同社は「販売を全面的に中止せざるを得ない状況」とする一方で、約3年前からブランド存続に向けて生産や物流のコスト面から検討。その結果、現在の子会社を含めた全国5工場での生産体制を、9月からは四国明治松山工場(松山市)のみでの生産に縮小し、商品をうすあじとチーズあじの2種に絞って西日本限定販売にすれば「何とか収益性の確保が可能と判断した」という。縮小に伴い、アメリカなど海外での販売も中止する方向だ。

 

 販売縮小の発表を受け、スーパーなどの小売店では品切れの状態が続いている。

 

スーパーでは品切れ続出(東京都内)
スーパーでは品切れ続出(東京都内)

 

 

 首都圏でスーパー約110店舗を運営する「サミット」(東京都杉並区)には発表当日の5月25日朝、問屋経由で通知があった。発表後は品切れの店舗が相次ぎ、10袋入りケースが「各店に1日1〜3ケースしか納品できていない状況」(同社広報)という。1ケースでも納品がある限り、8月までは定番商品として取り扱う予定だという。

 

女性は敬遠

 

ただ、小売店側の受け止めは比較的冷静だ。

 

 首都圏の菓子店チェーンの幹部は、カールの販売中止について「メーカーの判断なので仕方がない」と理解を示し、背景にスナック菓子の販売を巡る環境の厳しさを挙げる。一つはポテトチップスなどのジャガイモを原料とする菓子に押され、トウモロコシを原料にした菓子の販売が低迷していることだ。カールはサクッとした軽い食感が特徴だが、女性を中心に「手が汚れる」「歯の裏に付く」などとして敬遠する動きがある。この菓子店チェーンが取り扱うスナック菓子の売り上げの上位には、ジャガイモが原材料の商品が占めているという。

 

 輸送コストの問題も指摘される。重さに比べて体積が大きい袋入りのスナック菓子は、重量がありながらも比較的コンパクトなチョコレートなどに比べると積載効率が悪いという。さらに販売49年のロングセラー商品ゆえに生産設備の老朽化も考えられ、「設備改善に見合った効果が薄いと判断したのでは」(サミット)との見方もある。

 

乳業重視の経営

 

一方で、明治の経営方針が大きな影響を与えているとの見方もある。

 

 「売り上げが落ちているとはいえ、一つのブランドで60億円の売り上げがあるのは、菓子の中ではかなりの存在だ。しかもカールほどのブランドを作るには相当な投資をしているはずで、普通はそう簡単に縮小しないはずだ」。

 

 別の大手菓子メーカーの社員は、カールの販売中止は収益性の問題だけではないとの認識を示す。「明治の幹部は、菓子よりも、健康志向の消費者が支持する「R -1」などのヨーグルトをガッチリ売ったらいいと考えているのではないか」。

 

 明治は11年の事業再編で乳業部門と菓子部門が統合し、現在は川村和夫社長をはじめとする旧明治乳業出身の幹部が主導権を握っているといわれる。この社員はそうした同社の社内事情を推測する。

 

R-1とチョコに負けた

 

 実際、そうした動きを裏付けるかのように、菓子部門ではロングセラー商品の販売終了が相次いでいる。1921年発売のタブレット菓子「カルミン」は2015年、1927年発売の「サイコロキャラメル」は2016年にそれぞれ販売を終えた。一方で創業時からの主力のチョコレートは売り上げ好調で、重点的に投資しているようだ。

 

 14年には高級感が売りの「ザ・チョコレート」を販売し好評を得ている。民間信用調査会社「東京商工リサーチ」の調査員は、東京都中央区京橋の明治ホールディングス本社にあるチョコレートカフェとともに「チョコレート重視の印象はある」と分析する。

 

 

 大手菓子メーカーの社員によると、カールの今回の販売縮小は異例の扱いだ。同様にロングセラー商品だったカルミンやサイコロキャラメルは販売終了となったのに対し、カールは販売縮小にとどまった。明治は対応の違いについて、編集部の取材に対し「長期にわたりご愛顧いただき、歴史ある代表的な商品でもあることから、ブランド存続の可能性を模索した」と回答するにとどめた。

 

 しかし明治の関係者によると、販売縮小にとどめたのは、同社の営業サイドからの反発があったための「落としどころ」の色合いが強い。

 

営業担当者は〝おわび行脚〟

 

 関係者によると、旧明治乳業で栄養販売本部長などを務めた川村社長は商品を絞り込んで「一つの商品を強くしろ」という方針で、営業部門の担当者や経費を削減してコストカットを進めている。売り上げがピークの3分の1に落ちていたカールも絞り込みの対象とし、全面的な販売中止にするつもりだった。

 

 ところが営業サイドは「ロングセラーの商品をやめたら、クレームがたくさんくる」と反発。社内で検討を重ねた結果、全国五つの工場での生産体制を、四国明治松山工場のみでの生産に集約することを決めた。松山を残したのは物流コストが安いためだという。

 

 しかし菓子店チェーンの幹部が「寝耳に水だった。残念」と驚いたように、スーパーなどの小売店に知らされたのは、発表当日の5月25日の朝だった。直前まで現場にも全く知らされず、突然伝えられた小売店や卸からは「聞いていない」と反発が相次いだという。販売縮小発表後、明治の菓子部門の営業担当者はほとんど社内におらず、おわび行脚に回る日が続いているといい、「クレームがたくさん来て大変だ」との怒りの声が上がっている。こうした声を受け、同社に詳細の説明を求めて取材を申し入れたが、発表に基づくメールのみでの対応にとどまった。

 

オジサンのカール・ロス

 

 40〜50代前半のかつての少年たちは、手が汚れようが、歯に付こうが、あの味の濃さと軽い食感を愛してきた。カールおじさんをはじめ、カエルやウサギなど動物たちのキャラクターが醸し出すのどかな雰囲気に癒やされてきた。大人になってあまり食べなくなったが、あの味が東京では食べられなくなる──。秋風が吹くころには、「カール・ロス」オジサンたちが出現するのだろうか。

目次:2017年6月20日号

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東芝と経産省 失敗の本質

 

第1部 国策編

 

14 CIAが明かす 官民もたれあいに沈んだ東芝 「(株)ニッポン」モデルの終焉 ■後藤 逸郎/谷口 健/酒井 雅浩/河井 貴之

19 英公文書が明かす 英政府一体で価格3倍につり上げ

22 3.11後も方針転換の決断できなかった東芝

25 国策で東芝を踊らせた経産官僚のおごり

28 インタビュー 村田 成二 元経産次官 「エネルギー政策の本筋に包み隠さず国民と向き合え」 

30 原発を駆逐したシェールLNGに9000億円つぎ込んだ東芝

32 貸手責任 東芝あおったみずほ

33 逆名利君 30年前に東芝を救った男

34 国家独立の命綱としての原子力 経済合理性は二の次

36 基礎から学ぶ日米原子力協定 Q&A ■鈴木 達治郎

第2部 東芝と原発 資料編

83 東芝140年の歴史 栄光と挫折 ■横山 渉

85 不正会計授けた監査法人

90 保存版 日本の原子炉・高速炉70基

92 最新データ 日本の原発地図 メーカーと電力の「縄張り」くっきり

94 国策と原発マネーに飲み込まれた自治体

 

エコノミストリポート

80 企業統治 日本は経営者のあり方改革必至 ■斎藤 卓爾

82 相談役・顧問 企業の62%が在任 ■編集部

 

42 人工知能 AI開発に欠かせないエヌビディア ■川端 由美

44 自動車 日本人選手の活躍の場を広げる佐藤琢磨のインディ500優勝 ■川端 由美

  伝統重んじるインディ500 「牛乳かけ」の由来は?

46 ショック 「カール」東日本撤退の深層■米江 貴史/松本 惇

68 機関投資家 日本版スチュワードシップ・コード改訂の影響 ■藤田 勉

70 金融政策 本格化するポスト量的緩和議論 ■竹中 正治

 

Interview

4 2017年の経営者 竹増 貞信 ローソン社長

50 問答有用 黒井 文太郎 軍事ジャーナリスト

  「何かを伝えたいというより野次馬に近かった」

 

World Watch

72 ワシントンDC 意外なトランプ効果? ■三輪 裕範

73 中国視窓 手遅れの一人っ子政策廃止 ■真家 陽一

74 N.Y./ロサンゼルス/スウェーデン

75 韓国/インド/タイ

76 台湾/ブラジル/南スーダン

77 論壇・論調 G7を分断したトランプ大統領 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

13 グローバルマネー 日銀の「出口」に立ちはだかる大きな壁

40 福島後の未来をつくる(48) 発電施設導入の総合評価で消費者の負担適正化を ■荻本 和彦

48 アディオスジャパン(56) ■真山 仁

54 学者が斬る 視点争点 シムズ論議に見る政策当局の不在 ■井上 裕行

56 言言語語

64 名門高校の校風と人脈(244) 北海道札幌南高校(北海道)(下) ■猪熊 建夫

66 海外企業を買う(144) GEOグループ ■岩田 太郎

78 東奔政走 長期政権の足元で澱がたまっている ■人羅 格

102 景気観測 相場をけん引するハイテク分野に陰り ■藻谷 俊介

104 ネットメディアの視点 さい銭を電子マネーで支払う時代 ■土屋 直也

105 商社の深層(72) 潤沢なキャッシュの使途は? ■成田 康浩

108 アートな時間 映画 [パトリオット・デイ]

109        舞台 [歌舞伎鑑賞教室 一條大蔵譚]

110 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Repatriation ”

 

[休載]Flash!、ひと&こと

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

98 中国株/為替/白金/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』

  『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■小林よしのり

62 歴史書の棚/出版業界事情

 

57 次号予告/編集後記

特集:東芝と経産省 失敗の本質 2017年6月20日号

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米中央情報局(CIA)が2007年に開示した報告書「GEの原子力発電製造中止の影響」
米中央情報局(CIA)が2007年に開示した報告書「GEの原子力発電製造中止の影響」

官民もたれあいに沈んだ東芝 

「(株)ニッポン」モデルの終焉

 

◇CIAと英公文書が明かす

 

 東芝の現在の経営危機を招いた原因のひとつは、2006年の米原子力会社ウェスチングハウス(WH)買収であることは論をまたない。

 WH買収の25年前にあたる1981年8月11日、米中央情報局(当時はDCI、現在はCIAに統合)は報告書『ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力発電製造中止の影響』をまとめた。

 

 

 A4用紙2枚の簡略な報告書は、機密指定もない。しかし、その内容は今日の我々を驚かせる。原子力産業の現状と将来を冷静に分析し、米GEが「沸騰水型(BWR)」原子炉の製造を中止しても影響は少ないと、結論づけた。

 

 もともと、CIAは破壊や暗殺などの秘密工作だけでなく、世界各国の経済や政治、軍事力などの分析も行う。だが、同報告書の作成を強く促したのは、当時の米国経済の置かれた厳しい現実だ。

 

 インフレ下で景気が低迷するスタグフレーションに陥った米経済再生を図り、「強いアメリカ」の復活を掲げて81年に就任したレーガン米大統領はレーガノミクスを唱えた。だが、当初はボルカー米連邦準備制度理事会議長の高金利政策が景気低迷を招く。

 

 この81年にCIA長官に就任したビル・ケーシー氏は米有力シンクタンク「マンハッタン政策研究所」の共同創立者だった。軽微な犯罪を放置すると凶悪犯罪を誘発するとする「割れ窓理論」を提唱したほか、「レーガノミクスの聖書」と呼ばれる『富と貧困』を世に出した同研究所はまた、レーガノミクスの強力な応援者でもあった。79年に『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラーとなり、米国の主力産業の自動車、電機、製鉄は衰退しようとしていた。ケーシー氏は報告書を必要としていた政府高官の1人だった。

 

 報告書の4カ月前の81年の4月、「選択と集中」でGEを立て直したジャック・ウェルチ氏が最高経営責任者(CEO)に就任している。報告書は、GEの業績が近年落ち込み続け、同社のBWRの新規受注はこの数年間なく、初期の受注はキャンセルが多いと指摘した。79年の「加圧水型(PWR)」の米スリーマイル島原発事故が原子力産業に与えた影響がうかがえる。

 

 加えて、報告書は、GEがライセンスを提供している西独(当時)の電機メーカー「アルゲマイネ・エレクトリツィテート・ゲゼルシャフト(AEG)」、原子炉メーカー「クラフトヴェルクユニオン社(KWU)」、日本の日立製作所と東芝がそれぞれBWRを建設完了または建設中と指摘したうえで、「GEの原発向けの部品や燃料を供給する能力のある企業は十分に存在する」「どのような場合でも多くの部品(バルブその他)は標準化されており、GE製品ではない」と記した。GEの後釜は世界中にいると取れる。

 

 そして、報告書の白眉(はくび)は「時間がたてば、他のBWR製造業者はそれぞれの技術を改良し、GEが設計したものと異なる原発を作るだろう」「このことは彼らがGE製原発の部品供給やサービス提供にかける能力を減少させるだろう」「また、これらの製造業者はGEの原発事業と同様の圧力に屈するかもしれない」「このことは目先の問題と見えないかもしれない」との分析にある。

 

 もちろん、ウェルチCEOが神のように全てを見通せたわけではない。金融業に進出して業績を急拡大したものの、2008年のリーマン・ショックで巨額の負債を抱え、後継者のジェフリー・イメルトCEOは売却した。OBの判断を墨守せず、先行者優位に甘んじることもなく、競争相手やキャッチアップの可能性を冷徹に受け止める姿勢は、東芝をはじめとする多くの日本企業に欠けている点だ。

 

 報告書の翌1982年、くしくもドイツの原子力発電所の整備拡充はこの年をピークに減少していく。86年のソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故が起きる以前からの動きだ。つまり、スリーマイル島の原発事故が、原子力を産業というトランプのババにしたリスクを、米独の企業は懸命に見極めようとしたことがうかがえる。

 

 ◇原子力というババ

 

 一方、日本の官民は、原子力がババに変わることに気づこうとしなかった。21世紀初めの原油高騰を受けた「原子力ルネサンス」に舞い上がり、国策という名の根拠薄弱な願望にすがる日本の官民は、ルールも知らずゲームに興じたプレーヤーに過ぎない。売り手の想定価格の3倍の値をつけた東芝は結果的にカモとなって、経済合理性に目をつぶってしまった。

 

 歴史を振り返ると、日本は徳川幕府が江戸時代に海外との交易を制限する鎖国体制下で産業革命を経験しなかった。このことは超大国だった中国・清朝が欧米に蹂躙(じゅうりん)されて以降、欧米の技術の習得と国産化を日本の国是とさせた。

 

 技術に劣り、資本が乏しい中で、官民一体の産業振興は有効だった。明治政府は1901年、日清戦争(1894~95年)で得た賠償金の一部で製鉄の官営工場、後の八幡製鉄所を作る。1934年に半官半民の「日本製鉄」となり、戦後は再編を繰り返し、現在の新日鉄住金に至る。戦前は軍需、戦後は復興需要に支えられ、日本最大規模の企業に成長し、海外輸出も増やした。

 

 海外技術導入と国産化、保護された国内市場で企業を育成、海外進出という官民一体の株式会社ニッポンは、家電や自動車でも成功し、輸出先の欧米の先行メーカーを追い落とす。欧米先進国に比べ相対的に低い賃金と勤勉性を武器に、日本は戦後復興を果たした。21世紀に日本の産業のライバルとなる中国は世界市場に参加しておらず、株式会社ニッポンのビジネスモデルは最強だった。産業保護的な経済政策を率いる通商産業省(現経済産業省)は米国から「Notorious MITI(悪名高い通産省)」と畏怖(いふ)された。

 

 原発もまた、同じパターンで育成を図った。米英から技術を導入し、国産化を進める。他の産業と異なったのは、官と重電メーカーが一体となるだけでなく、それぞれが電力業界と結びついたことだ。地域独占の電力業界は巨額の設備投資を可能としただけでなく、交付税による自治体へのバラマキで原発立地の懐柔に拍車をかけた。福島第1原発で東芝にGEのコピーを作らせ、日立製作所、三菱重工業にほぼ均等に原発建設を分配し、経営を安定させ、技術開発を促した。

 

 しかし、株式会社ニッポンの成功モデルは、日本が先進国の仲間入りを果たした瞬間から崩壊し始めた。賃金の上昇で、コスト面の優位性はほぼなくなった。

 

 決定的だったのは、東西冷戦の終わりだ。中国が90年代に世界市場へ復帰したことで、株式会社ニッポン成功の前提条件は失われてしまった。原子力産業でも、巨大な国内市場で原発建設と開発を加速させた中国は、日本の官民の予想を上回るペースで競争者としての姿を現した。だが、日本の官民は、GEやシーメンスのように、自ら事業の将来性を再評価しなかった。

 

 株式会社ニッポンは成功モデルの再現を妄想した。原発ルネサンスの自己暗示にかかった経産官僚、それにあおられた東芝が行ったことこそ、WHの高値買収だった。

 

 にもかかわらず経産省内には、東芝とWHが身ぎれいになると決めつけ、国内原発会社の統合を狙う勢力がまたも動めき始めた。

 

 だが、明治維新以来の株式会社ニッポンは今や破綻した。たまたま今回は、不正会計で財務が悪化し経営体力がなくなっていた東芝でいち早く露見したに過ぎない。国策に頼り、自ら判断することを避ける企業は、第2、第3の東芝と化すだろう。東芝の次は、あなたの会社かもしれない。

 

(後藤逸郎、谷口健、酒井雅浩、河井貴之・編集部)

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CIAと英公文書が明かす

 

東芝と経産省

失敗の本質

 

官民もたれあいに沈んだ東芝

「(株)ニッポン」モデルの終焉

 

 東芝の現在の経営危機を招いた原因のひとつは、2006年の米原子力会社ウェスチングハウス(WH)買収であることは論をまたない。

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