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特集:ここから買う株2万円 2017年7月18日号

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◇金利上昇で見直される金融株

◇日米欧中の好況感そろい踏み

 

「日本のメガバンクの株を買いたい」。

 

 6月下旬、米国のヘッジファンド関係者から、日本にある外資系証券会社の担当者に1本の注文が入った。このヘッジファンドは日本のメガバンク3行の株式を数百億円分購入したという。ちょうど同じころ、日経平均株価は約1年10カ月ぶりの高値となる2万230円を付けた(6月20日)。

 

 ◇外国人投資家も注目

 

 日経平均は6月2日、2015年12月2日以来、1年半ぶりに2万円台を記録した。それ以降、一時2万円割れとなったが持ち直し、6月19日から7月5日まで終値では2万円台を維持している。今後、15年6月に記録した2万868円を上回るかに市場関係者の注目は集まっている。

 

 日本株市場において鍵を握るのは、売買シェアの6割を占める外国人投資家の動向だ。東京証券取引所の投資部門別売買動向によると、4月第1週(4月3~7日)から5月第5週(5月29日~6月2日)まで9週連続買い越しが続き、日本株の上昇を支えた。現在は売り越しに転じて株価の値動きに一服感はあるが、今後、更なる株価上昇には外国人投資家の存在は欠かせない。

 

 日本の証券会社には、金融株について外国人投資家からの問い合わせが以前よりも増えている。これまでは、ソフトバンクグループや任天堂などの成長株が買われる一方、日銀のマイナス金利政策などの影響で、金融株は避けられてきた。今になって外国人投資家が金融株に注目しているのは、日銀を除く世界の中央銀行が金融緩和の縮小に向かい、金利の先高感が高まっているからだ。

 

 金利上昇による利ざや改善の期待から、欧米に比べて割安な日本の銀行株価は6月28日に前日比で2~3%上昇。各行の上昇率はりそなホールディングス3・4%、みずほフィナンシャルグループ(FG)3%、三菱UFJFG2・6%、三井住友FG2・2%となった。その後も上昇基調となっている。欧米の金利上昇圧力が、さらに日本にも波及すれば、外国人投資家が割安な日本の金融株に飛びつく可能性は高い。

 

 楽天証券経済研究所の窪田真之所長は「メガバンクはグループ会社も含めて海外展開を拡大しており、欧米の金利が上昇するだけで収益は増える。日本の金利も上がれば、さらに利ざやが確保できる」と指摘する。

 

 実際、米連邦準備制度理事会(FRB)は6月14日に今年2回目の利上げを実施。イエレン議長は過去の量的緩和で膨らんだ米国債など保有資産の縮小に向けた計画も発表し、今秋にも資産縮小に着手する方針を示している。

 

 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁も6月27日、「デフレの脅威は過ぎ去った」と述べ、市場は金融緩和の出口を意識した発言と受け止めた。

 

 ドラギ発言があった6月27日以降、欧米の長期金利(10年国債利回り)は上昇。米国では1カ月半ぶりに2・3%、ドイツでは約3カ月半ぶりの水準となる0・47%台となった。日本の長期金利も約3カ月半ぶりに0・08%まで上昇した。これを受けて日本の金融株も値上がりした。

 

 とはいえ、日銀は現在、長期金利を0%程度に誘導する「長短金利操作」を実施しており、日本で金利上昇がこのまま続くとは考えにくいとの指摘もある。しかし、その場合は日米金利差が広がることになるため、円安・ドル高が進行する。そうなれば、利益増が見込まれる自動車や機械などの製造業に買いが入ることになるだろう。

 

 シティグループ証券の松本圭太・市場営業本部長は「外国人投資家は、日銀が金融緩和を継続して円安が進むのか注目している」と話す。

 

 ◇欧州の回復

 

 金融政策以外に、実体経済の動きはどうか。現在、まれに見る世界的な製造業の好況感が広がっている。6月の各国の統計を見ると、日米欧中の製造業の好況感が「そろい踏み」していることが一目瞭然だ。

 

 日銀短観では大企業製造業の業況判断指数が14年3月以来の水準に改善。また、米国ではISM(米供給管理協会)の製造業景況指数が2年10カ月ぶりの値となり、欧州では英金融情報会社マークイットのユーロ圏製造業購買担当者景気指数(PMI)が最高値を更新している。さらに中国の製造業PMIも3カ月ぶりの水準に持ち直している。

 

 アベノミクス開始後、日本株が上り調子だった14年も、日米中の製造業の景況感が高水準だったが、欧州は債務危機の影響が残っていた。今回は日米中に欧州も加わっており、アベノミクス開始後の最高値更新への期待も高まる。マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは「日米欧中の景況感がそろい踏みしているのは、『グローバル景気敏感株』と言われる日本株にとって非常に強い材料だ」と指摘する。

 

 ◇来年末に3万円も

 

 18年に向けて好材料もある。トランプ政権が検討している減税だ。米国企業が国外にとどめている資金を米国に還流させれば、低位な税率を適用する制度(レパトリ減税)で、同様の政策は05年のブッシュ政権下でも行われた。当時は約20円の円安が進み、日経平均は約40%上昇した。大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリストは「レパトリ減税が来年実施されれば、1年間をかけて日経平均が2万4000円まで上昇する可能性がある」と見ている。

 

 米国景気の回復傾向が今後も続くと見る武者リサーチの武者陵司代表は「インフレが起きていないのに、米国の景気後退が始まるはずがない。日経平均は年内に2万5000円、来年末に3万円が視野に入る」と話す。また、日興アセットマネジメントの神山直樹チーフ・ストラテジストは「米国の景気回復で、モノの需要自体が増えれば、日本からの輸出数量も増えるため、仮に円高になったとしても影響は限定的だ」と指摘する。

 

 一方、海外投資家の関心は、人手不足や働き方改革などの問題にも及んでいるようだ。UBS証券の青木大樹・最高投資責任者は「人手不足や働き方改革によって内需が増えるかに注目が集まっている」と話す。ある米国の資産運用会社は日本の働き方改革について「生産性を上げずに単純に働く時間を減らせば、収益にマイナスになるのでは」と質問してきたという。これらの問題が、生産性の向上につながることが分かれば、外国人投資家による内需企業への投資も増えていくだろう。

(松本惇・編集部)

週刊エコノミスト 2017年7月18日号

特別定価:670円

発売日:2017年7月10日


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週刊エコノミスト 2017年7月18日号

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発売日:2017年7月10日

 

特集:ここから買う株2万円

 

◇金利上昇で見直される金融株

◇日米欧中の好況感そろい踏み

 

「日本のメガバンクの株を買いたい」。

6月下旬、米国のヘッジファンド関係者から、日本にある外資系証券会社の担当者に1本の注文が入った。このヘッジファンドは日本のメガバンク3行の株式を数百億円分購入したという。ちょうど同じころ、日経平均株価は約1年10カ月ぶりの高値となる2万230円を付けた(6月20日)。

 

 日経平均は6月2日、2015年12月2日以来、1年半ぶりに2万円台を記録した。それ以降、一時2万円割れとなったが持ち直し、6月19日から7月5日まで終値では2万円台を維持している。今後、15年6月に記録した2万868円を上回るかに市場関係者の注目は集まっている。続きを読む


週刊エコノミスト 2017年7月25日号

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発売日:7月18日

 

病は遺伝子で治す

 

生命の設計図書き換える

ゲノム編集産業が急拡大

 

 世界最大の石油メジャー、エクソンモービルと米バイオベンチャーのシンセティック・ゲノミクス(SGI)は6月、藻類が作る油分の量を倍増させる方法を発見したと公表した。

 

 藻類が作るバイオ燃料を化石燃料に代わる新たなエネルギーにするという遠大な計画のもと、エクソンモービルはSGIと共同研究の長期契約を2013年に締結。6億ドル(約690億円)を投じた。SGIは今回、藻類の体内で作られる油分が20%から40%に倍増するよう、藻類の遺伝子を改変したという。

 

 それを可能にしたのが「ゲノム編集」と呼ばれる技術だ。続きを読む


ピックアップ

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オリンパス「巨額損失」の全貌

外資「飛ばし商品」多用の泥沼

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経営者:編集長インタビュー

金川千尋 信越化学工業会長

 

◇難題に挑戦し技術に磨き 塩ビで世界トップ

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難題に挑戦し技術に磨き 金川千尋 信越化学工業会長

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◇難題に挑戦し技術に磨き 塩ビで世界トップ

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 会社を代表する製品は何でしょうか。

 

金川 塩化ビニール(塩ビ)です。使われる量が最も多いのはインフラです。窓枠や建物外壁などの建材や上下水道のパイプに使われ、生活や社会を支えています。私たちの身の回りでも、電線の被覆、車シートやソファのカバーなどに使われます。

 

── 塩ビの世界シェア1位とうかがっています。

 

金川 当社は1992年から塩ビでシェア世界一です。

 

── 塩ビはどこで製造しているのですか。

 

金川 米国の子会社「シンテック」が塩ビ事業の中心で、同国内に三つの製造拠点があります。同社は年間295万トンを生産する世界最大の塩ビメーカーです。これは、日本全体の需要の約3倍に匹敵します。シンテックに加えて、日本、オランダ、ポルトガルでも製造しています。

 

── 米国に重点を置く理由は。

 

金川 塩ビの大きな需要があり、かつ需要が安定していることが理由です。また、塩ビの主要原料は塩素とエチレンですが、米国では両方とも自国内で調達できます。電気代もシンテックの工場があるルイジアナ州では日本の半分以下であり、コスト競争力のある製品を作ることができます。日本で製造しようとするとすべての原料を輸入しなければならず、運送コストもかかります。

 

 ◇米でエチレン製造へ

 

── 原料の調達で大きなプロジェクトを進めているそうですね。

 

金川 現在、米国のルイジアナ州でエチレンの製造工場を建設中です。塩ビの主原料の一つであるエチレンの安定調達のための投資で、2018年半ばの完成を見込んでいます。日本の企業が米国でエチレン工場を建設するのは初めてです。

 

── エチレンの安定調達とは。

 

金川 現在、当社はエチレンをすべて外部から調達しています。これでは、エチレンメーカーや物流網のトラブルで供給が滞ったり、価格の上昇の影響を大きく受けるリスクがあります。自社で必要なエチレンの約半分を製造することで、リスクを減らせます。

 

── 半導体メーカーにシリコンウエハーを供給しています。

 

金川 シリコンウエハーも世界シェア30%で1位です。半導体業界は活況なので需要は旺盛です。

 

── ウエハーは10年ほど前から供給過剰の状態が続いていましたが、現在は需給が逼迫(ひっぱく)しています。価格政策を聞かせてください。

 

金川 ようやく需要が供給を上回り、今年の初めより一部「値戻し」を実現できています。今後の需要増に対応するためにも、更なる価格是正は必要と思います。

 

── 世界シェア1位の商品が複数あるのですね。

 

金川 五輪で金メダルを獲得するのは大変ですが、2大会連続で金メダルを取るのはさらに難しいことです。事業も同じです。重要なのは技術力です。現在の塩ビの生産性を大幅に伸ばすことができたのは、当社の技術者の努力のたまものです。「モノは売っても技術は売らない」というのが、私の信念です。

 

── 技術力が売り物なのですね。

 

金川 シンテックは、工場を建設する際には技術者と、グループのエンジニアリング会社が設計から建設工事の監督まで行っています。化学工場を建設し、安全に立ち上げるのは容易ではありません。しかし、難題に挑戦することで、当社の技術者は経験を積み、自信を持つようになります。この積み重ねが今日の強みである技術力を磨き上げてきました。

 

── 化学工場の設備投資額は莫大(ばくだい)です。投資の判断はどのようにしてきたのですか。

 

金川 設備投資の基本は「販売先行」です。製造したモノを売れる自信がなければ設備投資に踏み込めません。塩ビの設備は大きな投資が必要になりますから、慎重な判断が必要です。シンテックの工場が稼働を始めたのは1974年です。シンテックは私が企画、立案して生まれた会社です。私は「塩ビはすぐれた素材であり、確実に需要が増える」という確信があり、その確信は今日まで変わりません。

 

── それでも社内で議論があったのでは。

 

金川 確かに社内で異論もありましたが、当時の小田切新太郎社長が私を信じてご承認いただき、シンテックの事業を任せてくださいました。小田切さんのご決断のおかげで今日のシンテックがあります。心から感謝しています。

 

── 社長就任から27年、経営者として人材育成をどのように進めてきましたか。

 

金川 社員に「常在戦場」の心構えが大切と言っています。当社の製品の多くが市況の影響を受けます。市況の良い時ほど、悪化した時のことを考えていなければなりません。また、私が尊敬する山本五十六連合艦隊司令長官は「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ」と語ったそうです。人を動かし育てる要諦は、まず自分でやってみせることに尽きます。

 

── 社長就任後も苦労は絶えなかったのでは。

 

金川 市況の波に直面しても日々やるべきことを実行して、一つ一つ乗り越えてきました。毎日欠かさず、数々のデータを分析して、課題に対処すべく考え続けることが大切です。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 極東物産で合金鉄の営業などをしていました。モノ作りに魅力を感じて35歳で信越化学へ転職しました。市場開拓のために世界を飛び回りました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『山本五十六』(阿川弘之著)です。山本長官は米国の国力を冷静にみきわめて、右翼に命を狙われながらも最後まで開戦に反対されました。山本長官の先見性と人柄に尊敬の念を抱くようになりました。

 

Q 休日の過ごし方

A 自宅の庭を訪れる鳥や、庭の花をながめて、くつろいでいます。体を休めて英気を養っています。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇かながわ・ちひろ

 朝鮮・大邱(テグ)出身。旧制第六高校を経て1950年、東京大学法学部卒、極東物産(現三井物産)入社。62年信越化学工業入社、78年米子会社「シンテック」社長。90年、シンテック社長と兼務で信越化学工業社長に就任。2010年から現職。91歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:総合化学

本社所在地:東京都千代田区

設立:1926年

資本金:1194億円

従業員数:1万9206人(2017年4月現在、連結)

業績(17年3月期連結)

 売上高:1兆2374億円

 営業利益:2386億円

特集:病は遺伝子で治す 2017年7月25日号

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生命の設計図書き換えるゲノム編集産業が急拡大

 

 世界最大の石油メジャー、エクソンモービルと米バイオベンチャーのシンセティック・ゲノミクス(SGI)は6月、藻類が作る油分の量を倍増させる方法を発見したと公表した。

 

 藻類が作るバイオ燃料を化石燃料に代わる新たなエネルギーにするという遠大な計画のもと、エクソンモービルはSGIと共同研究の長期契約を2013年に締結。6億ドル(約690億円)を投じた。SGIは今回、藻類の体内で作られる油分が20%から40%に倍増するよう、藻類の遺伝子を改変したという。それを可能にしたのが「ゲノム編集」と呼ばれる技術だ。

 

「ゲノム」とは、生物の細胞核の中のDNA(デオキシリボ核酸)に含まれる、生物を形作るすべての遺伝情報を指す。DNAの中には、さまざまな遺伝子が収まっている。ゲノムを、あたかもワープロ上で文章を切ったり貼ったりするように編集する技術がゲノム編集である。

 

 革新技術を“ビジネスの種”にしようとエネルギーや化学、製薬、食品分野のグローバル企業が巨額のマネーを投じ始めた。

 

 ◇25年のゲノム市場は85億ドル

 

 米市場調査会社グランドビューは、15年に22・5億ドル(約2500億円)だった世界のゲノム編集市場の規模が、25年には85億ドル(約9700億円)に拡大すると予測する。

 

 とりわけゲノム編集の恩恵が大きい分野が医療だ。

 

 化学や食品企業に先行して、バイオ企業や巨大製薬企業によるゲノム編集への投資が進む。米バイオベンチャーの新規株式公開(16年)の時価総額を見ると、ゲノム編集を主力製品とする企業が2、4、6位に入り、3社の合計は約19億ドル(約2100億円)に上った。

 

 医療関連企業がゲノム編集に注目する理由は、“生命の設計図”と言える「遺伝子」を自在に改変できるからだ。人間の病気の中には、遺伝子に異常を来して発病する遺伝性疾患が多数あり、それらは「人体の設計図」に原因があるため難治性のものが多い。したがって、根治には「遺伝子から治す」必要がある。だが、これは長らくサイエンス・フィクション(SF)の世界の話であると考えられてきた。遺伝子を“正確に改変”することが難しかったからだ。

 

 遺伝子の改変と言えば、「遺伝子組み換え作物(GMO)」が思い浮かぶが、ウイルスや放射線を利用する組み換えは、成功まで何度も実験を繰り返さなければならず、意図しない遺伝子が置き換わるリスクもある。

 

 このような不安定な技術は、医療では使い物にならない。予期できない悪影響で人命が失われる危険があるからだ。それゆえ遺伝子を正確に改変する技術が切望されていた。

 

 それに初めて近づいたのが1990年代。「ジンクフィンガー・ヌクレアーゼ(ZFN)」というゲノム編集の登場だ。ZFNは、ゲノムの中の狙った遺伝子に取り付いて切断する活性(働き)を持つ、たんぱく質と酵素からなる。この技術は画期的だったが、作成には専門的な知識が必要で、遺伝子工学の研究者でも簡単に作れるものではなかった。

 

 2010年には簡便性が向上した「ターレン」という第2世代の新技術が登場したが、作成難度は相変わらず高く、一つの遺伝子に対応するたんぱく質を作るのに数カ月かかる場合が多かった。使いにくいZFNやターレンは普及面で課題があった。

 

 ◇ノーベル賞有力の技術

 

 その状況を一変させたのが12年に登場した第3世代「クリスパー・キャス9」だ。特定の遺伝子の狙った改変が、前世代の技術に比べ格段に容易になった。カリフォルニア大学のジェニファー・ダウドナ教授らと、米ブロード研究所のフェン・チャン博士が、相次いで論文を発表すると、研究開発が世界的に加速した。

 

 クリスパー・キャス9の特長は、狙った遺伝子の探索に「ガイドRNA」という分子を使うこと。RNAはもともと、細胞内でDNAの情報を写し取る働きをする。その性質を利用するのだ。

 探索の次は、狙った遺伝子を切断する「キャス9」という酵素の出番だ。ガイドRNAが結合した部分を、キャス9が切り取るのである。ガイドRNAの作成は容易で、遺伝子工学の基本知識があれば数日で複数の遺伝子に対応するガイドRNAを作成できる。この簡便さによって、クリスパー・キャス9は誰でも簡単に使える技術になった。

 

 クリスパー・キャス9によって難治性の遺伝性疾患に治療の道が開かれ、10年以上かかっていた農水産物の品種改良期間が数年に短縮されつつある。発明者たちは早くもノーベル賞受賞の有力候補とされている。

 

 

◇“ボロ負け日本”の逆転の目

 

 

 ゲノム編集および遺伝子治療に関する研究の論文発表数は、10年ごろから急増している。技術ごとの特許出願件数を見ると、特にクリスパー・キャス9の出願数が多い。

一方で、論文発表者が所属する研究機関や企業の国籍を見ると、米国が突出しており、日本は大きく水をあけられた4位に甘んじている。「日本はボロ負けだ」(シンクタンク研究員)。

 実用化には「基礎研究とビジネスを結ぶベンチャー企業が必要」と指摘するのはゲノム編集に詳しい山本卓広島大学教授。欧米ではすでに遺伝子治療やゲノム編集のベンチャーが多数出ており、ビジネスを牽引(けんいん)している。

 

 ただ、ゲノム編集を医療で安心して使うには、さらに精度や汎用(はんよう)性を上げる必要がある。日本の逆転の目があるとすれば、より使いやすい改良技術を生み出すしかない。

 

 そこで、遺伝子切断酵素のキャス9の課題に着目、改良技術を基に医薬開発を進めているのが、日本のベンチャー、エディジーン(東京都中央区)だ。キャス9の課題の一つは、酵素のサイズが大きく、体内の特定の組織を通過できないために治療できない病気があることだ。

 

 同社の森田晴彦社長は、濡木理(おさむ)東京大学教授らが開発した、キャス9よりも小さく、ガイドRNAの働きを助け、切断の精度の高い酵素を使うゲノム編集に注目。濡木教授とともに起業し、その「改良型クリスパー酵素」を武器に、米ボストンに設置した子会社で医薬品の開発を進めている。

 

 現在、複数のパイプライン(開発中の薬品)が同時並行で進んでいる。「濡木教授はクリスパー・キャス9を発明したチャン博士とも長年のコラボレーター(共同研究者)。技術の独自性では海外を見てもライバルは見当たらない」と森田氏は自信を見せる。希少疾患からがんまで広い範囲で新薬の投入を目指す。

 

 一方、遺伝子治療では、ゲノム編集ではないが、バイオベンチャーのアンジェス(大阪府)が注目されている。悪化すると足の切断を余儀なくされ、その後数年で亡くなる患者が多い難病「重症虚血肢」の治療薬を開発。今秋にも、治験段階で安全性が確認された薬を販売しながら有効性を確かめる「早期承認制度」を活用して承認申請を行う予定だ。

 

 虚血肢は動脈硬化によって足の血行が滞るために起きる。同社は、足の筋肉に注入すると血管を新たに作る「HGFプラスミド」(プラスミドは遺伝子の断片)による根本的な治療法を開発した。治験では治療効果が出ているという。

 

 同社の山田英(えい)社長は、「年間10万~20万人が虚血肢により足の切断手術を受けている米国でも、投入の準備を進めている」と意欲を見せる。

 

 ゲノム編集の登場と遺伝子治療の進化によって、病は遺伝子で治す時代が到来する。

(大堀達也・編集部)

 

週刊エコノミスト 2017年7月25日号

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目次:2017年7月25日号

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病は遺伝子で治す

20 生命の設計図書き換えるゲノム編集産業が急拡大 ■大堀 達也

23 Q&Aで基礎から学ぶ 遺伝子を自在に改変 医療で巨大市場に成長も ■野村 広之進

26 インタビュー 山本 卓 日本ゲノム編集学会長 広島大学大学院理学研究科教授 「難治性の遺伝性疾患治療に光明」

28 「ゲノム編集」業界地図 製薬・食品・化学業界で提携加速 ■野田 恵一郎

30 クリスパー・キャス9 混迷極める特許争い

31 遺伝子に注目の製薬業界 主役はベンチャー、メガファーマが追随 ■山崎 清一

33 脳細胞が遺伝子で復活 パーキンソン病根治の切り札 ■村上 和巳

34 がんは遺伝子を見て治す 究極の“オーダーメード治療”へ ■福島 安紀

36 ゲノム編集で品種改良 農水産物の収穫量が増大へ ■村上 和巳

37 アレルギー物質と無縁の鶏卵 バイオ医薬の量産を後押し

38 ヒトゲノム編集は許されるか 現実味帯びる“遺伝子改変人間” ■石井 哲也

 

76 拡大版 ひと&こと 2017年「霞が関人事」の裏側

財務省、総務省、国交省、厚労省、経産省

 

エコノミスト・リポート

78 危うい地域医療構想 在宅医療・介護は整備途上 行き場なくさまよう高齢患者 ■田中 尚美

 

Flash!

13 日欧EPA大枠合意 置き去り酪農家の不満と不安/大盛況ロボアド説明会/ICBM発射の北朝鮮に日米と中露に温度差/インタビュー 胡 周斌・上海美特斯邦威服飾副総裁

 

Interview

4 2017年の経営者 金川 千尋 信越化学工業会長

46 問答有用 小松 美羽 画家

 「民族に関係なく魂に響く作品を作りたい」

 

東大経済学部のお宝

81 アダム・スミスから山一まで 国内外の一級資料14万点 ■種市 房子/写真・武市 公孝

84 文書の素材研究で社会世相が分かる

85 増える資料、減る予算 文書保存・公開の拠点が危機

 

40 人手不足 賃金が上がらない謎 ■永濱 利廣

70 米製造業 GE、不発の「選択と集中」 株価さえずイメルト氏退任 ■小田切 尚登

72 企業資産 減損会計は企業の投資行動に影響を及ぼさない ■植杉 威一郎

86 金融 イタリア地銀2行に公的資金 不良債権処理に残る課題 ■大槻 奈那

97 スクープ オリンパス「巨額損失」の全貌 外資「飛ばし商品」多用の泥沼 ■編集部

 

World Watch

60 ワシントンDC 国務省内の意思疎通乏しく 影薄まるティラーソン長官 ■三輪 裕範

61 中国視窓 国有企業改革で再編進展 非効率性の改善が課題 ■真家 陽一

62 N.Y./カリフォルニア/英国

63 オーストラリア/インド/シンガポール

64 台湾/チリ/イラン

65 論壇・論調 出口なきECBの金融緩和 富奪われたドイツが求める正常化 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■池谷 裕二

19 グローバルマネー 金利差相場の賞味期限は長くない

42 海外企業を買う(149) ブロードコム ■永井 知美

44 名門高校の校風と人脈(249) 桜蔭高校(東京都) ■猪熊 建夫

50 学者が斬る 視点争点 景気刺激目的の財政政策はやるべきでない ■井上 裕行

52 言言語語

66 アディオスジャパン(61) ■真山 仁

68 東奔政走 都議選惨敗で改憲シナリオに衆院選の壁 「国民ファースト」の影におびえる自民、民進 ■人羅 格

75 商社の深層(77) 原料炭のスポット連動へ移行 「資源は働かずとももうかる」が加速? ■井戸 清一

94 景気観測 労働力が移動すれば人手不足でも成長 団塊世代の引退で賃金上昇へ ■南 武志

96 ネットメディアの視点 加計疑惑そっくり、カジノ誘致 裏の密約を表の議論で正当化 ■山田 厚史

100 アートな時間 映画 [彼女の人生は間違いじゃない]

101        クラシック [バイエルン国立歌劇場]

102 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Initial Coin Offerings ”

 

Market

88 向こう2週間の材料/今週のポイント

89 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■村上 俊介/週間マーケット

90 欧州株/為替/原油/長期金利

91 マーケット指標

92 経済データ

 

書評

54 『現代アメリカ経済史』

『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』

56 話題の本/週間ランキング

57 読書日記 ■ミムラ

58 歴史書の棚/海外出版事情 中国

 

53 次号予告/編集後記

オリンパス「巨額損失」の全貌 外資「飛ばし商品」多用の泥沼

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2011年に巨額の損失隠しが発覚したオリンパス。損失先送りのために外資系金融機関の「飛ばし」商品を購入し、泥沼に陥った経緯を独自に入手した内部文書で浮き彫りにする。

 内部資料は2011年11月8日にオリンパスが粉飾決算を公表してから3日後に、同社顧問弁護士である森・濱田松本法律事務所とその後任のビンガム・マカッチェン・ムラセ外国法事務弁護士務所が合同で、森久志・副社長(粉飾決算で逮捕、有罪判決)に聞き取る形式をとっている。

 

 森氏によると、オリンパスは1997年9月以前に特定金銭信託(特金)による株式などの運用が470億円あったほか、特金の資産や預金を担保にした金融派生商品(デリバティブ)での運用を行っていた。これは、スイスの大手金融機関「クレディ・スイス」グループの東京支店が販売していた「含み損飛ばしスキーム」を示していると見られる。

 

 この仕組みは、オリンパスの含み損を抱えた有価証券をクレディ・スイス信託銀行に開設したオリンパスの特金口座が簿価で買い取り、オリンパスの帳簿上の損失を消した上で、クレディ・スイス・ファイナンシャル・プロダクツ(CSFP)銀行が期間5年程度のデリバティブを使い長期的に損失を取り戻すというもの。しかし、株価が低迷し、逆に損失を拡大する結果に終わった。

 

 損失はこれにとどまらない。含み損を解消しようと、オリンパスは同様の商品を米モルガン・スタンレー、オランダのING、スイスのインターアリアンス銀行などから購入したほか、仏パリバ証券からデリバティブを組み込んだ金融商品「パリバ債」を400億円購入。だが相場が悪く、さらに損失を膨らす結果となった。オリンパス第三者委員会報告書によると、同社の含み損は98年頃には950億円にまで拡大していた。森氏は損失拡大の理由について、「一番大きいのはデリバティブ」と話している。

 

 これらの損失先送り商品の含み損を隠すため、96年1月に英ケイマン諸島に簿外ファンド(CFC)を設立、INGやインターアリアンスなどの商品が抱える損失を飛ばした。また、同様に97年3月にケイマン籍の簿外ファンド(QP)を設立し、こちらには含み損を抱えたパリバ債を飛ばした。それぞれのファンドで抱えた簿外損失はCFCで640億円、QPで320億円に達した。

 

裁判への影響

 

 その後、簿外ファンドで買い取ったパリバ債などは外部に売却し、簿外ファンド内の損失は確定したが、今度はファンドの維持管理に毎年数十億円の費用が掛かり、結局08年には簿外損失額が1100億円程度まで拡大してしまった。

 

 そのため森氏は、「これはとんでもないですよ。どんどん(損失は)膨らむばかり。とにかく早く何かやりましょう」と当時、財務部門の上司だった山田秀雄氏(その後の副社長、常勤監査役)と相談し、08年に英医療機器会社ジャイラスの買収手数料や国内零細企業の買収金額を大きく膨らます形で、簿外ファンドに資金を送り、一気にファンドを清算した。損失解消に使われた国内零細企業3社に投資していたファンドについては、「それは、たまたま、そういった所に投資をしていた投資ファンドです」と語り、簿外債務の解消を目的に設立したことを否定している。

 ここで問題となるのが、現在進行中の損失隠しの「指南役」とされた元野村証券社員の横尾宣政氏に対する刑事・民事裁判。同氏がオリンパスが巨額の簿外債務を認識していたかが焦点となっている。

 

 裁判の一審では、92年当時に横尾氏が山田氏からオリンパスの含み損の状況を聞いたときに記したメモが家宅捜索で押収され、これが横尾氏が92年当時から含み損を認識していた有力な証拠とされた。しかし、このメモに記載されている金融機関は、スイス銀行、IBZ、スイスユニオン銀行、米ペインウェバー証券の決算対策商品で、今回の森氏の証言に基づく一連の損失先送りのために購入した金融商品とは異なる。

 

 裁判では、97年末ないし98年初め頃、横尾氏が山田氏から含み損の存在を改めて聞いた上で、簿外ファンドへ資金を融資するLGTリヒテンシュタイン銀行を紹介したことが、「粉飾幇助」として追及されている。

 

 今回の森氏の証言で、横尾氏が粉飾ほう助として追及されている簿外の「含み損」の存在を同氏が認識していたとは言えなくなる。横尾氏は編集部の取材に対し「11年に事件が発覚して初めてオリンパスが97年に損失を簿外ファンドに飛ばしたと知った」と説明している。(編集部)

 

 

<以下、内部資料 P3~9>

 

MHM(森・濱田松本法律事務所) それを今、取り寄せ作業中ということですか?

 

森 そうです。正に今晩もこれからオフィスに戻って、LGTと電話をやるわけですけれども、LGTの担当者も当時設定した時の担当者が辞めてしまっていて、その後替わっていると思いますね。そういったところで、引継の問題とかも色々ありますけれども。

 

MHM 取り敢えず、おかれているのはLGT、それはリヒテンシュタインですか?

 

森 リヒテンシュタインです。

 

MHM あとはチャンミン?

 

森 シンガポールです。

 

MHM チャンミンポン?(編集部注:チャン・ミン・フォン氏。台湾系中国人。オリンパス事件の損失隠しスキームの1つ「シンガポールルート」の「指南役」とされる。コメルツ銀行シンガポール支店などに勤務)

 

森 そうです。あと、所謂、事業投資ファンドの部分もありますので、そこは国内だったら同じなので…。

 

MHM すると、細かい数字は分からないということで、歴史を遡って、そもそもバブル崩壊で損失を被った。それで飛ばしをしようというスキームは誰が当時始めたんですか?

 

森 ちょっと、すみません。飛ばしというのは、そこのところはよく分かっていなくてですね。今のスキームっていうのが大体2000年とか、LGTとの付き合いが恐らく1999年じゃないかと思いますが、要するに、時価会計を見据えて少しずつ動いてきているんですけれども。だから、大体1999年とか2000年とかで動いています。1999年の9月末には、所謂、特金っていうのが200数十億あって、それ以前は470億円だとかっていう、それくらいの残高がありました。それで、その特金の中でそのような運用がされていたかっていうところが、これも記憶がない。山田なんかに言わせると、金額もそうだけれどもそこの資産を保証金みたいにしてスワップみたいなものというかデリバティブっていわれる運用があるはずだっていうふうに言っています。だから、そうすると、そういったものの想定が過去にどれぐらいあったんだという話になってしまったんですけれども、そこがよく分からないんです。昔過ぎて、オリンパスで資料が残っていないんですね。それで苦しんじゃっています。だからバランスだけ見ても分からない部分があって、繋がらないんですよね。繋がらないんです。

 

MHM 時価会計導入前は、90年代初頭から評価損...(雑音)

 

森 恐らくそうだと思います。だから実現損であれば、ある意味、実現損を出していたんですが、実現していないものを、そのまま隠れたままずっと、1990年代も恐らくそういう状態だったと思いますけれども。

 

MHM 特にそこの部分は...ない状態でただ単にアセットの評価損が…

 

森 恐らく、さっき言いましたようにアセットの評価損、持ったアセットの評価損だけだと始まりは2000年の500億円だとしたら、そんなにするわけはないなと思っていて、繋がらないというのはそういう意味です。例えば、さっき言った特金で470億と言いましたが、470億のわけがないんで。ですから、恐らく、ちょっと分かりませんが、50%の含み損があったとしても、それだけでも250億じゃないだろうか。それで、デリバティブっていうものをやっていたがために、...(雑音)取引銀行に対して、恐らく、預金を保証金みたいにしていれていたんじゃないかと思います。それっぽい預金があります、実際。特に外資系の銀行に対して、置いているようなものがあります。例えば、クレディ・スイス銀行だとかモルガン・スタンレー銀行だとか、ING銀行だとかそういった所に、そういった預金を置いているんですよね。100億円だとか150億円だとか、恐らくそういったものが何等(ら)かの保証金みたいな形でデリバティブをするに当たっての元になったというふうに思います。だから、クレディ・スイスなんかとは確実にそういうものがあった。そういう記憶があります。

 

MHM エクイティが飛ばしであげられたって

 

森 あれっていつですかね? CSF、Pでしたっけ。(編集部注:クレディ・スイス・ファイナンシャル・プロダクツ(CSFP)銀行東京支店のこと。有価証券の含み損や不良債権を抱えた日本の事業法人や金融機関に損失先送り商品を販売。1999年7月に金融庁に免許取り消し処分を受けた。当時の支店長は銀行法違反(検査忌避)で警視庁に逮捕され、東京地裁で有罪判決を受けた)

 

MHM 97か8だよね。

 

森 いつでしたっけ。

 

MHM FPの方ですね。フィナンシャル・プロダクツ。

 

森 フィナンシャル・プロダクツを最後、何かやられていましたよね。

 

MHM 96、7年頃はまだそういう取引やっていたから、8とか9かも知れない。確か、日本の企業は潰れ始めた頃から後で、何か意趣返しとか言われていたねえ、確か。そんな感じですよ。

 

森 そういうイメージだと思うんですけれども。

 

MHM 99年4月の冒頭で、99年に行政処分があったんです。多分そういうイメージだと思いますよ。

 

森 だから、それがあった時にうちに取引があったっていうふうには思わないんですが、その前で終わっていたような気がするんですけれども。

 

MHM クレディ、相手はその時クレディでなくなっていたんですか?

 

森 と思うんですけれどもね。ちょっと記憶がその辺曖昧ですね。何かああいうニュースになった時は大騒ぎした筈だったんですけれども、そういう大騒ぎをした記憶がないんですよね。

 

MHM アドバイザーとしてはどなたのアドバイスっていうのは記憶にありますか?

 

森 今みたいな話で、例えば、どうしましょうかっていう話をクレディ・スイスにするとクレディ・スイスはこういうスキームはどうでしょうかっていう紹介を。じゃあ、それをやりましょうかっている感じで、それが積み重なっていると思いますね。私、一つ記憶があるのは、1990年代にある方から御紹介されて、インターアリアンス銀行っていうスイスの銀行にいったことがあります(編集部注:スイスのプライベートバンク。「ブリジット」という損失先送り商品を販売していた)。わざわざ、そういったことのために行っているんですけれども、上に何を言われたか記憶がないんですけれども、過去のオリンパスのバランスを見ると、確かインターアリアンス銀行っていうところに預金しているんです。だから、そういうことなんだなと思います。

 

MHM 以前、週刊朝日の記事だと、パリバ証券の担当者に何とかならないかと相談して、こういうペーパーカンパニーを使ったスキームを提案された、そういう趣旨の記載がありますけれども、そうするとパリバ以外にも幾つかってことなんですかね?

 

森 要するに、今のスキームみたいなことってそんな昔はやっていなかったと思うんですよね。そういうファンドで何かを持っているというのは。

 

MHM それは、前は銀行と、ある種デリバティブの相対をずっとやっていてというのが...

森 ちょっと、そのデリバティブをやった目的というのを単にそういったリスクをとって分業するのもあったかも知れませんし、ちょっと分かりません。昔のデリバティブって、例えば、頭で益を出して、後でリスクをもってくるっていうやり方…。

 

MHM ありましたよね。

 

森 ありましたよねえ。ですから、恐らくそういった様なことで、例えば、今期、損が出ましたって時に対して、そんなことをやったりしていたんじゃないですか。

 

MHM 5年間くらいで、最初のやつを利益をもらって5年後に損が出るみたいな。

 

森 損が出るのかリスクを持っているってことですよね。何かそんなようなことをやっていたんじゃないんですか。

 

MHM それは、クレディが正にあげられた飛ばし商品のデリバティブってことですよね。

 

森 例えば、どんなやつですかね?典型的には、変な話ですけれども、恐らくそういうのをやっていたんだと思うんですよ。

 

MHM 色んなものを確かに相対ではやっていたんですけれども、最初に消耗品を入れて、殆ど同額で益が出るんですけれども、後でほぼ間違いなくそれ以上の損が出るっている商品なんです。デリバティブを使った形になっているけれども、両方とも確定的なんですよね。利益も確定的だし、損も確定的だし。

 

森 だとしたら、ちょっと違うかも知れない。例えば百何十億っていう保証金、預金を置いて、百何十億っていう利益を出したとは思えない。ですから、そうじゃない。

 

MHM 30億円ぐらいですかね、イメージとして。

 

森 かも知れません。

 

MHM そんなような感じですよね、割合的には。

 

森 はい。

 

MHM だから、一部は、損がもの凄く大きくなるかも知れない。デリバティブ的レバレッジがきいていますので。だから、予想外のやつを含まれて、元々とってある。

 

森 そういうことだと思います。

 

MHM そういったデリバティブを処理するときに御社の社内では、誰がどういった形で情報を共有されていたんですか?

 

森 恐らく、当時は、情報を共有していた人が結構いたかも知れないですね。

 

MHM 財務部長とか本部長クラス

 

森 財務部長とか経理部長だとか担当役員って、当然、情報を共有していたんじゃないんですか。そうじゃないとおかしい。物事が進まないと思うんですけれども。

 

MHM それを決定するのは誰になるんですか?そういう処理をすることについては。

 

森 それは担当役員じゃないですか?それは。

 

MHM 2001年ぐらいだと、もう菊川(剛)さんが社長になられている。

 

森 そうです。こんな言い方して申し訳ないんですけれども、私は菊川が当然知っているっていう前提で、そういう話をする訳で、ただ、私も菊川とそういう話を直接したことがあるかっていうと、そういえばしたことがない。山田とは当然する訳ですけれども、ただ、菊川と山田の間ではそういう含み損があるという前提で担当を話をしていて違和感がなかったということですね。だから、直接こんなものがありますという話をしたことがあるかというと、じゃあ、その規模がどうだって話をしたことがあるかというと、私自身記憶が無い。ただ、そういう前提でこういったものがありますという話をしたことはあります。こういった前提があるからジャイラスみたいなことをやらなくちゃいけないんですっていう話をして。

 

MHM 森さんが具体的に含み損を、言わば投資商品がある中で、それぞれ含み損を隠していこうっていうようになったのは、具体的にはいつ頃ですか?

 

森 まさに、今言ったLGTとか、チャンだとか、彼等とコミュニケーションをとったのは私なんです。

 

MHM それが2001年?

 

森 だから、その2000年の

 

MHM 前年99年かも知れない? 大体と

 

森 そうです。

 

MHM その時の森さんの役職はその時は何だったんですか?

 

森 恐らく、山田が部長くらいで、恐らく私が課長ぐらいだと思いますけれども。

 

MHM ということは、その時は課長まで話が降りてきていたってことですよね?

 

森 だから、私は、それを知っていたということです。誰でも知っていることではないことですけれども。

 

 

<内部資料 P10~12>

 

MHM デリバティブなどのそういった形での処理が、そこから最終的にはアドバイザリー・フィーとか新事業三社とかの形になっていくんですけれども、そういうふうにスキームが変わっていったことの背景・経緯っていうのはどういった?関係ない?

 

森 そうじゃない、それは、2000年のそこで、ずっと持ち込んでいくスキームが固まって、そこは損の固まりで運用しているわけでも何でもなくて、損の固まりでアセット上は1500億円っていうのを持っていました(編集部注:オリンパスは、簿外ファンドに資金を回すため、LGT銀行への預金に380億円、コメルツ銀行への預金に460億円、ベンチャーファンドGCNVに300億円、LGT銀行の私募投信「GIM-O」に350億円の計1490億円を投じていた)。これが、このままずっと持っていると、さっき言ったコストばっかりかかってしまうので、どうやって崩すのよという、そういうチャンスをずっと窺っていたわけです。ただ、アイデアが全然無い。必ず順番にロスを出せばいいわけですけれども、一つの固まりが、そうは言っても500億だとか、300億とかの固まりで、一つ崩すって、中途半端に崩すことはできないですよね。一部だけ解約するって、500億円の200億だけ解約して、ロス出ましたって、残りのやつを評価したらそれだけになりますよねっていう話になるものですから、崩しようがなくて、それで何か大きなもののお金が動く時にっていう、そういうことを考えていたのが一つ。たまたま、それとは別に、これは完全に社内的にはM&Aの話、医療の強化っていうのは当然出ていて、そういうのがポイントで、それを実際に実行するに当たっては、特にボストンの時からそういう感覚ですから、これ使えないのかっていう話をし始めていました。あと、それとは別に一方、事業投資ファンドをつくったっていうのは2000年なんですけれども、事業投資ファンドをつくるに当たって、そこはまず、一旦含み損をどうやって持っていたかっていう話の一つなんですけれども、普通、投資をするんだったら、何かうまく一つでも分かったりするのはないのかねという話はしていたってことですね。実際、恐らく、さっき言った3社みたいなアルティスとか何とかっていう投資が始まったのが、2000年から始まっているわけではなくて、もう少し後だと思うんですけれども、2004年とか。それは、たまたま、そういった所に投資をしていた投資ファンドです。そういった中で、オリンパスのビジネスに合っていそうだし、あと、事業、市場規模が大きそうだしと、そういったようなもので、あの3社を選んで、これにお金をかけると、将来大きくならないかと実際、そんな話をしていました。ただ、だから実際にはそうは言っても、あまり時間はないよねという言い方の中で、ああいう3社の使い方をしましたし、一旦そこで、500億円ぐらいですか。そういったことをやって、で、並行して、ああいう買収の関係の動きがあって、ジャイラスの話。ジャイラスの話についても本当はあそこまで大きくなるとは思っていなくて、あんな風な展開になっていくとは本当は思っていなくて、ただ、ああいうやり方をするんであれば、要するに、ファンドを一部解約とかしてロスを出すっていうやり方ではなくて、場合によってはそうやって暖簾にのっけたりできるよねっていうことで話をしていました。ですから、ジャイラスの時の話としては、ジャイラスのところで、一つうまくいくんだったら、同じようなことをもう一回すれば、2つぐらいで片付くんじゃないのっていう感覚ではいたということです。暖簾にうまくのっけられればいいよね。ところが、ジャイラスの場合は、なかなかそう簡単には暖簾にのっけられなかった(笑)、ということが問題ではあったんですね。

 

MHM なるほど。最初の150億円ぐらいの時ですか?

 

森 そうです、そうです。

 

MHM 元々、そういう形で何か大きなお金が動く時にうまく処理をしたいという、そういうアイデアっていうのは誰が出してきたんですか?

 

森 これは基本的に山田と私で議論をしてました。何かやらないと、これはとんでもないですよと。どんどん膨らむばっかりですよ。とにかく早く何かやりましょうと。どちらにしてもロスを出せないからここにきたんだけれども、小さなロスでいいから出し方を考えませんかっていう話は当然しています。それとは別に、どうせ出せないんだったら、何か会計上、とにかく問題にならないアセットがありませんかと。それで一つはM&Aなんですよね、どう考えても。

 

 

<内部資料P29~30>

 

MHM 含み損を抱えたものっていうのは、株か何かですか?元々のものっていうのは株とか?

 

森 山田に言わせると、元々の一番大きいのはやっぱり、さっき言ったデリバティブじゃないかって言っています。デリバティブじゃないかって言ってますよね。逆に言うとそれぞれ、90年以降株の投資とかでロスになったのを、一方営業外ではロスにあてて、一方それは益で、営業外上はバランス取ってやってきたんじゃないかと言っているわけです。だから元々のロスは株式のロスかもしれないです。それを何か裏側でっていうことじゃなくてバランス…、営業外がおそらく益と損の両方ふくらんでたんじゃないか。それは見てても分かるんじゃないですかね。

 

MHM 毎年の実際の含み損の状況みたいなものは何百億にもなってないと思っていた?

 

森 全部横に並べて見るということは滅多にしなかったですけど、そうは言ってもその時々というか、それぞれの所で「今これぐらい」っていう話はしていました。だんだん大きくなっていくというのは認識していたんです。これがすごく問題で、だからある時維持できなくなるよねっていうのは明確に認識しておりました。

 

MHM 森さんとしたら、どこかで解消したいという…

 

森 そうです。せざるを得ない。かと言って、これと同じことをまた他でやれるかということも思ってはいなかった。

(週刊エコノミスト2017年7月25日号掲載記事の詳報)

 

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革新的な飲料で新たな市場を生み出す 小郷三朗 サントリー食品インターナショナル社長

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Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 社名には「食品」が付きます。どんな事業をしていますか。

 

小郷 サントリーグループは酒類からスタートしましたが、多角化の一環として1930年代に濃縮リンゴジュースを売り出しました。70~80年代には「サントリーウーロン茶」などを世に送り出し、飲料事業をグループの中核事業に育成しました。その飲料事業を切り出して、上場・独立したのが当社です。

 

── 主力商品は。

 

小郷 「南アルプスの天然水」と、缶コーヒー「ボス」でそれぞれ売り上げの約2割を占めます。

 

── 最近の動向は。

 

小郷 国内販売実績では1992年から24年連続で前年超えを達成しており、2016年は4億3000万ケースに達しました。今年も4億3300万ケースを見込んでいます。13年には上場も果たし、現在はグループの純利益の半分を稼ぐ中核会社に育ちました。グループ内を歴史的に見ると、祖業であるウイスキー・ワインなどの洋酒は長男、ビールは次男、そして我々清涼飲料が三男です。当初は「お荷物三男坊」と呼ばれていましたが、今は「よくできた三男坊」とも言われます。

 

── 人口減の中で24年連続で前年超えを達成できた理由は。

 

小郷 清涼飲料市場全体は年間1~3%伸びています。たとえば会議で出るお茶は、急須から入れるのではなくペットボトルになりました。1人当たりの清涼飲料水消費は増えているのです。この状況で当社が一貫して市場よりも高い成長率を達成できたのは、緑茶、ミネラル水、缶コーヒーなどの各分野で少なくとも2位以内に入れるよう、ブランドの開発・育成をしてきたからです。

 

── そのため必要なことは。

 

小郷 まずは、ウーロン茶のような新たな市場を創るような革新的な商品を生み出すことです。30年前は緑茶や麦茶を買うことなど考えられませんでしたが、今や市場が確立しました。今後は、無糖など「ナチュラルでヘルシーな」志向に訴える商品も有望です。築いたブランドを時代の流れに合わせて絶えず刷新することも必要です。

 

── 国内事業全体の成長に必要なことは。

 

小郷 中身や容器、容量のバラエティーをそろえる、つまり幅広いポートフォリオを持つことです。二つ目は消費者が欲しい時に、いつでもどこでも簡単に手に入る「利便性」の実現です。喉がかわいた方がすぐに手に入る場所に当社の製品が無ければ、商売は不戦敗となります。

 

── 自動販売機事業の戦略は。

 

小郷 全国の飲料自販機は240万台強、コンビニエンスストアは約5万5000店と言われています。その中で当社は全国に約55万台の飲料自販機を保有しています。さらに給茶機やカップ用も加えると70万台以上になります。15年には日本たばこ産業(JT)からジャパンビバレッジホールディングス(JB)を買収しました。

 

── JB買収による効果は。

 

小郷 国内では、屋外にある自販機は飽和状態ですので、今後はオフィス・工場などの屋内市場開拓を目指します。JBは、サントリーの飲料を売る手段ではありません。地権者の要望に添って、他社ブランドの自販機、あるいは複数社の飲料をミックスした自販機、あるいは給茶機、カップ用機を設置するビジネスで、総合飲料サービス事業と言えます。

 

── 海外戦略は。

 

小郷 営業利益の約半分を海外事業で稼いでいます。世界ナンバーワンの飲料メーカーは、味もブランドも世界で統一しています。しかし、当社は海外拠点で「『ボス』を売れ」「『伊右衛門』(緑茶)を売れ」と発破をかけるのではなく、買収先のブランドを維持しつつ、得意とする無糖など健康志向の技術を入れます。世界的にも健康志向は広がっており、当社には商機と見ています。

 

 ◇M&A 外部に任せず

 

── 今後のM&A(合併・買収)戦略は。

 

小郷 オランジーナのようにブランドや流通販路が確立していることが前提です。地域で見れば、人口が多く、暑くてかつ若い人が増加している国・地域を狙っていきます。

 

── 日本企業のM&Aでは失敗が目立ちます。

 

小郷 デューデリジェンス(事前調査)を外部任せにせず、自分の目で見て判断して、想定額が一定ラインを超えたら諦めるようにしています。飲料は身近で手軽な商品なので、その市場や工場を見れば大体のことは分かります。

 

── 社長として心がけていることは。

 

小郷 消費者に接している現場に権限を与える「主権在現場」です。たとえば、自販機のルートマンは毎日商品を入れ替えており「学校ではこの商品が売れる」「最近あの商品が売れているな」という動向を肌で感じているのです。「やってみなはれ」(創業者・鳥井信治郎の口癖)の精神も大切にしています。

 

── どういうことですか。

 

小郷 「やってみなはれ」は「失敗から学びながら市場や顧客の真実に一歩ずつ近づくこと」と思っています。私も現場のたたき上げで山ほど失敗してきました。そのおかげで、社長になれました。今でこそ認知されている「伊右衛門」「ボス」の前には、緑茶や缶コーヒーの失敗作がたくさんありました。二度の失敗ぐらいでは足りません。成功するまで山ほど失敗することが必要です。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 主にウイスキーの営業や宣伝の仕事を手がけました。思うように売れない、宣伝効果が出ないという失敗を何度も経験しました。その、やんちゃな体験が今につながっています。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 『マーケティング発想法』(セオドア・レビット著)。マーケティングの仕事の駆け出しの頃読みました。目から鱗(うろこ)が落ちました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 関西人なので「お笑い」を楽しんでいます。あとはお好み焼きと阪神タイガースです。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇こごう・さぶろう

 1954年、大阪市生まれ。大阪教育大付属高校池田校舎、京都大法学部卒。77年サントリー(現・サントリーホールディングス)入社。マーケティングや宣伝企画畑を歩み、2011年サントリー食品インターナショナル専務。副社長を経て16年3月から現職。62歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:食品飲料事業

本社所在地:東京都中央区

設立:2009年

資本金:1683億円

従業員数:2万3850人(16年12月現在、連結)

業績(16年12月期、連結)

 売上高:1兆4108億円

 営業利益:935億円

 


週刊エコノミスト 2017年8月1日号

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特別定価:670円

発売日:2017年8月1日

 

未公開株100

 

世界のIPOは9兆円超

低金利でベンチャー「青田買い」

 

 世界の新規株式公開(IPO)が活況だ。

 若者に人気の写真・動画共有アプリの「スナップチャット」を展開する米スナップは3月、ニューヨーク市場に上場し、IT(情報技術)企業で過去最大の調達額となる34億ドル(約3800億円)を調達した。巨大市場の中国も、上海株式指数の急落を受けて厳格化されていた新規上場の審査が事実上緩和され、IPO数が急激に持ち直している。

 

 直近の2017年1~6月は、世界で上場企業772社が誕生し、総額834億ドル(約9兆3400億円)を調達した。新規公開した企業数は前年同期比で70%伸び、その調達金額は同90%増と急拡大している。続きを読む

 


経営者:編集長インタビュー

小郷三朗 サントリー食品インターナショナル社長

◇革新的な飲料で新たな市場を生み出す

全文を読む

特集:未公開株100 2017年8月1日号

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世界のIPOは9兆円超 低金利でベンチャー「青田買い」

 

 世界の新規株式公開(IPO)が活況だ。

 

 若者に人気の写真・動画共有アプリの「スナップチャット」を展開する米スナップは3月、ニューヨーク市場に上場し、IT(情報技術)企業で過去最大の調達額となる34億ドル(約3800億円)を調達した。巨大市場の中国も、上海株式指数の急落を受けて厳格化されていた新規上場の審査が事実上緩和され、IPO数が急激に持ち直している。

 

 直近の2017年1~6月は、世界で上場企業772社が誕生し、総額834億ドル(約9兆3400億円)を調達した。新規公開した企業数は前年同期比で70%伸び、その調達金額は同90%増と急拡大している(英監査法人アーンスト・アンド・ヤング〔EY〕調べ)。

 

 日本でも上場する企業数は09年から増加傾向にあり、「17年は16年の88社並みの80~90社前後になる見込み」(新日本有限責任監査法人の善方正義・IPOグループ統括シニアパートナー)だ。

 

 ◇日本でもユニコーン

 

 上場を目指すベンチャー企業の“顔ぶれ”も充実してきた。企業価値が1000億円の大台を超える未上場企業「ユニコーン」の登場だ。

 

 現在、世界で最も評価されているユニコーンは、タクシー配車サービス大手の米ウーバー・テクノロジー。2位、3位には、中国のスマートフォンメーカー・小米科技(シャオミ)、民泊仲介サイト世界最大手の米エアビーアンドビーがそれぞれつける。いずれも設立から10年もたっていないが、企業価値はそれぞれ約7兆円、約5兆円、約3兆円に上る。

 

 日本でも急成長するユニコーンが新たに誕生した。13年設立のメルカリ(東京都港区)だ。同社は、個人がスマホを使って自分の持ち物を簡単に売買できるアプリを運営し、アプリのダウンロード総数は合計7500万に達する(日本で約5000万、米国で約2500万)。メルカリ内で売買される流通金額は、すでに年間1200億円を超え、急成長を続けている。

 

 メルカリの売上高は、15年6月期の42億円から16年6月期には122億円へと約2・9倍に増え、今年11月に公表する17年6月期の売上高も大きく増加しそうだ。本社は15年3月に六本木ヒルズに移転。従業員数は、電話による顧客対応などを中心に450人体制に拡大した。

 

 今後の戦略も野心的で、同社の小泉文明社長兼最高執行責任者(COO、36)は、「国内市場でさらなる成長を目指し、米国・英国での展開にも力を入れる。常に『便利』だと思ってもらえるサービスをいち早く展開していく」と意気込む。

メルカリの小泉文明COO
メルカリの小泉文明COO

 来年にもユニコーンになろうとしているのが、freee(フリー)(東京都品川区)だ。企業価値は、約500億円に達しているとみられている。

 

 インターネット上で経理や給与管理などが簡易に管理できるクラウド会計ソフトを企業向けに提供している。12年7月の設立から、同社のサービスを使う中小の事業者や個人事業主の間に口コミで広がり、利用した事業者は累計80万を超えた。

 

 freeeは、現在300人の従業員数を来年には2倍の600人規模にする方針だ。サービスの対象を個人事業主や中小企業だけでなく、上場企業向けにも開始した。この勢いに乗って、「上場準備も今年から始めた」と、佐々木大輔社長(36)は一貫して積極姿勢だ。

freeeの佐々木大輔社長
freeeの佐々木大輔社長

 国内でユニコーンが生まれ始めた背景には、大企業が重い腰を上げ、積極的にベンチャー企業に投資したり、協業したりするケースが増えていることもある。

 

 こうしたベンチャー企業への投資額は16年、2000億円の大台を超えた。06年のライブドア事件、08年のリーマン・ショックなどで09~13年は600億~800億円程度で低迷していたが、14年に約1400億円、15年に約1700億円にまで回復していた。

 この流れをビジネスにしたベンチャー企業も出てきた。Creww(クルー)(東京都目黒区)は、同社に登録する約2900社のベンチャー企業と、新規事業を素早く立ち上げたい大手企業とのマッチングを行っている。

 

 Crewwは、6カ月間のプログラムを組んで大企業と二人三脚で新サービスを形にする。価格は数千万円と安くない。しかし、「プログラムの前半はマッチング、後半は実際に商品の実験もする。このスピード感で新規事業を作っていけるので、大企業が自社だけで開発するより早く、時間も買える」と、伊地知天(いじちそらと)社長(33)は力説する。

 

 同社は従業員約30人の規模だが、有力上場企業など約50の大企業と約140のサービスを立ち上げた。そのノウハウを日本政策投資銀行(DBJ)も認め、6月よりDBJと組んで地方自治体とも新ビジネスを作るプログラムを始めている。

 

 新しい需要を開拓しようとするベンチャー企業も出ている。

 

 例えば、VR(バーチャルリアリティー)技術のクラスター(東京都品川区)は、インターネット上で複数の人と動画視聴したり、イベントに参加できる仮想空間を作っている。数十人から数千人規模のイベントをインターネット上で開催することも可能で、「大きな会場がなくてもコンサートを開催できる」とも期待され、音楽大手・エイベックスの子会社が出資を決めた。

 

 人工知能(AI)開発のSELF(セルフ)(東京都新宿区、14年設立)は、人間が話しかけるAIではなく、人間に話しかけてくれるAIを開発している。AIが健康管理やニュース提供などをするスマホアプリは、ダウンロード数が40万を超えた。

 

 スカウター(東京都渋谷区)は、「誰でもヘッドハンターになれる」というコンセプトで注目されている。友人や知り合いに転職先を紹介することで、紹介者が報酬を得られるという仕組みを提供する。16年1月にサービス提供を開始したばかりだが、現在2000人がヘッドハンターとして登録している。

 

 ◇ニッセイは地方回り

 

 投資家側も優良なベンチャー企業探しに躍起になっている。

 

 ベンチャー企業などの未公開株は、投資家から見ると、「プライベート・エクイティ(PE)」に分類される。こうしたPEを中心に資金を集め、投資をするファンドが日本でも増えている。ベンチャーエンタープライズセンターの調べでは、国内のベンチャーキャピタルが新たに組成したファンドは、13年度の計646億円(35本)から16年度は2130億円(49本)に増えた。

 

 日本ベンチャーキャピタル協会会長でグロービス・キャピタル・パートナーズの仮屋薗聡一マネージング・パートナーは、「投資額は米中両国にまだ大きく水をあけられているが、独立系や大学系、特に特定分野に注目する技術系などベンチャーキャピタルのタイプも増え、投資先も広がった」と話す。

 

 ベンチャー企業の青田買いも進む。メルカリやfreeeなどの国内の有力ベンチャー企業にはすでに多くの出資が集まり、「企業価値が高くなって良いリターン(収益率)を求めにくくなっている」(国内機関投資家)ためだ。

 

 640億円のベンチャー投資ファンドを組成している日本生命系のニッセイ・キャピタルは、16年4月ごろから地方も含め、全国の大学に通い始めた。大学の研究室に眠る有望技術が将来の事業にならないかベンチャー企業探しを始めているのだ。

 

「大学の先生に会い、まだどこも出資していない企業や技術を探し出し、事業化する相談を続けている」と、日本生命の佐藤秀将・株式部未公開株式担当課長は話す。

 *  *  *

 現在、世界各国で“カネ余り”が続く。米欧日で大規模な金融緩和状態が続くが、需要不足などで低金利・低物価となり、有望な投資先が見つからない。

 

 そうしたなか、7月17日、みずほ銀行が米エアビーアンドビーと業務提携する方針を固めたことがわかった。市場拡大が見込める民泊関連のビジネスを今後、強化していく方針だ。今後も金融機関や大手企業によるベンチャー企業への出資や協業、買収はあるだろう。

 

 緩和相場の波に乗ったベンチャー投資は、一過性のブームに終わる危うさを抱えながらもその熱は当面続きそうだ。

(谷口健、池田正史・編集部)

週刊エコノミスト 2017年8月1日号

特別定価:670円

発売日:2017年8月1日号


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第51回 福島後の未来:加速する若手の「原子力離れ」 安全の維持向上へ人材確保を=芦田高規

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◇あしだ・たかき  1981年京都府生まれ。名古屋大学大学院工学研究科修了。2007年に三菱総合研究所に入社し、科学技術や原子力に関する調査研究などに従事。
◇あしだ・たかき  1981年京都府生まれ。名古屋大学大学院工学研究科修了。2007年に三菱総合研究所に入社し、科学技術や原子力に関する調査研究などに従事。

芦田高規(三菱総合研究所研究員)

 

 東京電力福島第1原発の事故以降、国民の「原子力離れ」が止まらない。中でも若者の原子力離れが福島原発事故を基点にいっそう加速していることに強い危機感を抱いている。

 

 原子力史上、類を見ない事故を起こした福島原発の廃炉作業では次々と難題が噴出し、周辺地域での除染作業は今も続く。また東電柏崎刈羽原発など各原発は早期再稼働を目指しているが、原子力規制委員会の審査が一進一退の状況となるケースもあり、再稼働の動きは鈍い。海外ではベトナムで原発新設計画が頓挫し、東芝子会社の米原子炉メーカー「ウェスチングハウス社」が経営破綻するなど、原子力事業に明るい話題が見えない。

 

  加えて、福島原発事故による原子力に対するネガティブなイメージが国民世論に定着しつつある。世間は廃炉や除染といった事業までも後ろ向きのものと捉え、廃棄物、廃炉の「廃」や「廃れる」という言葉の負のイメージが原子力全体を印象づけてしまっているかのようだ。

 

 しかし、廃炉や廃棄物処理など長期にわたる原子力関連の事業を安全かつ着実に進めていくには、人材が重要であるのは言うまでもない。それにもかかわらず、国内の大学では、原子力関係の学科を志望する学生は減少しており、影響は原子力関連産業への就職希望者の減少傾向に表れている。

 

 例えば、日本原子力産業協会と関西原子力懇談会が主催する合同企業説明会に参加した企業は、2010年度は65社、参加学生数は1903人だったのに対し、福島事故後の12年度には参加企業は34社、学生数は388人へと激減した。16年3月に開かれた説明会の参加企業数は55社と回復傾向にあるが、参加学生数は337人と減少が続く。

 

 理由として、国の原子力政策の曖昧さに加え、将来への見通しが不透明なため、若者が興味や関心を持てないのであろう。今や、原子力事業をけん引しているのは1980~90年代にプラント建設に携わった50代以上のシニア世代が中心だ。このまま若者が敬遠する状態が続けば、原子力を担う人材はいずれ払底する。

 

 原子力事業においては、原子力発電の利用や活用の賛否にかかわらず、安全こそが最優先であり、その思いは共有できるだろう。

 

 そのためには高度な専門知識を備え、現場の技術的問題を解決していくことができる人材が多く活躍していくことが求められる。国家的な難事業に対し、関係者すべてが持続的に取り組んでいくことが重要だ。そのためには、中長期的な視点で人材を確保し、育成しなければならない。

 

 特に、将来的に事業をけん引する若者の確保が急務だ。中国やインドなど近隣のアジア諸国では、原子力発電プラントの新設ラッシュが続いている。世界を見渡せば、福島の事故後も原子力発電の需要は大きく減退しているわけではなく、むしろ新設プラントは増加している。原子力の安全を確保し、万一事故が起きた際に実効性のある原子力防災体制を確立させるためにも、日本が技術先進国であり続けるためにも、原子力に携わる人材の確保と育成が必要だ。

 

 ◇原子力産業の領域は広い

 

 今後、原子力分野における人材の確保を進めるにあたってのカギは何か。

 

 その一つは原子力産業がカバーする領域の広さを周知することだろう。原子力は放射線という特有の専門性を持つ一方、機械や化学、金属など多岐にわたる分野の専門性が求められる「横断型」の産業だ。その意味で原子力は総合工学といえる。

 例えば、福島の廃炉作業において、除染や原子炉内の様子を把握するために遠隔操作のロボットが活用されているのはよく知られている。サソリ型やヘビ型などユニークな形状をもつロボットが、人に代わって現場をゆっくりと移動する様子はテレビなどでも紹介されている。

 

 ロボット開発には最先端の科学技術が結集される。今はまだ実証段階でも、技術の進展によって近いうちに実用化が期待できる。福島原発事故の廃炉作業では、炉心溶融(メルトダウン)に伴って溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しを担うロボットの開発構想も示されている。

東京電力福島第一原発の原子炉格納容器内の探索用「サソリ型」ロボット(東京電力ホールディングスホームページより)
東京電力福島第一原発の原子炉格納容器内の探索用「サソリ型」ロボット(東京電力ホールディングスホームページより)

 このように、原子力分野に最新技術が投入されている例は、枚挙にいとまがない。

 

 安全を向上させ続けなければならない原子力は、他分野に対して間口が広く、親和性も高い。この安全確保のための努力が、他分野の発展にも一役買っているとも言える。最新の科学知見を取り込み、分野横断的に新たな研究や技術開発のニーズが生じているという事実は、若者に「やりがい」を感じさせるはずだ。

 

 ◇不安を低減させる後押しを

 

 とはいえ、現実には原子力に携わることについて、若者の多くは判断に迷うだろう。原子力事業の将来は見通しにくく、不安を助長するからだ。人材は集まらないだろう。原子力に従事するかどうかという判断に迷う若者に対し、長期にわたって安心して従事するための動機付けを与える仕組みも必要だ。雇用の保証や明確なキャリアプランの提示など、従事する後押しとなる方策を用意しなければならない。そして何よりも原子力事業の意義が社会から認められるとともに、信頼と尊敬を集めるものとなる必要がある。

 

 そのためには、今後の原子力安全の再構築、廃炉や廃棄物処理をはじめとする原子力事業に不可欠な行程の意義について、原子力事業者の各社は事業戦略上の観点から分かりやすく提示し、改めて訴求する必要がある。

 

 一方で国はリーダーシップを発揮し、核燃料サイクルや原子力施設のリプレース(建て替え)を含めた原子力政策の方向性について、50年以上先を見据えた長期の国家戦略を示し、若者が抱く先行きの不透明感の払拭(ふっしょく)に努めるべきである。

 

 原子力事業を安全に進めるためには、熱意を持ち中心的役割を担う人材の確保が必要不可欠だ。コアとなる人材がいてこそ、廃炉や廃棄物処理などの長期にわたる事業を進展させることができる。これらの事業は、「やりがい」があり、未踏の領域の課題への挑戦という意義ある取り組みである。

 

 事業を着実に進めるためには、廃炉や廃棄物という言葉に付く「廃」のイメージだけに捉われてはいけない。この言葉とは逆で、事業とは切り開くものだ。それこそが未来のコア人材となる若者を引き付ける。

(芦田高規・三菱総合研究所研究員)

*週刊エコノミスト2017年8月1日号掲載

目次:2017年8月1日号

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慶応塾長選の闇

14 適正手続きと「正統性」欠く塾長 ■後藤 逸郎

20 第34期第16回慶応義塾評議員会(臨時) 議事録要旨

22 結束力を強化する三田会 収まらない評議員選の過熱

 

未公開株100 ベンチャー・IPO

24 世界のIPOは9兆円超 ■谷口 健/池田 正史

27 専門家が選ぶ 日本のすごいベンチャー企業33

 森川 亮/松尾 豊/櫛田 健児/渡辺 千賀/馬田 隆明/瀬戸 欣哉/岩下 直行/阪根 信一/井上 智洋

31 安田 育生 「日本にも良いアイデアはある 企業トップ経験者が投資を」

32 郡山 龍 「日本は組織拡大のプロが不在 会社の立て直しは起業より楽」

34 編集部が選んだ まだある!有望ベンチャー64社

36 「上場ゴール」に気をつけろ 3分の2が上場後に高値付け低迷 ■編集部

38 インタビュー 宋 文洲に聞く 日本でベンチャー企業は育たない

40 ベンチャー企業の見極め方 決算書に表れる五つの黄信号 ■前川 修満

42 IPO最前線 売上高も調達額も小粒 ■西堀 敬

 

Flash!

93 ビットコイン分裂カウントダウン/東芝の半導体売却差し止め 加州上級裁が7月28日に判断/トランプ米大統領就任半年で具体的成果ゼロ/中国異例の軍事パレード

97 ひと&こと 厚労省次官人事に募る不満/トヨタ小型車担当の正念場/オリンパスが米国で四面楚歌

 

Interview

4 2017年の経営者 小郷 三朗 サントリー食品インターナショナル社長

50 問答有用 近藤 尚己 東京大学大学院医学系研究科准教授

 「健康に無関心な層にも響く仕掛けを」

 

エコノミスト・リポート

84 中国系IT ネット動画の新勢力「BAT」 ■志村 一隆

 

44 投資 イランのガス田に外資が投資再開 ■岩間 剛一

46 投資 中国の対外投資半減の理由 ■郭 四志

74 生産性 インタビュー 高橋 洋一 嘉悦大学教授 人口減が日本のGDP0.7%押し下げ

87 地球温暖化 南極の棚氷崩壊に危険な兆し ■北沢 栄

90 サウジ 皇太子に国王が生前譲位の可能性 ■三束 尚志

 

World Watch

76 ワシントンDC IS拠点モスルは陥落したけれど ■会川 晴之

77 中国視窓 地方政府の隠れ債務是正の余波 ■神宮 健

78 N.Y./カリフォルニア/スペイン

79 韓国/インド/タイ

80 広州/ロシア/エチオピア

81 論壇・論調 香港返還20年で「独立許さず」鮮明に ■坂東 賢治

 

Viewpoint

3 闘論席 ■片山 杜秀

13 グローバルマネー 借り入れ余地大きく長期化する米株上昇

48 アディオスジャパン(62) ■真山 仁

54 学者が斬る 視点争点 高度だった徳川・明治期の金融教育 ■横山 和輝

56 言言語語

68 名門高校の校風と人脈(250) 米沢興譲館高校/酒田東高校(山形県) ■猪熊 建夫

70 海外企業を買う(150) ローパー・テクノロジーズ ■岩田 太郎

72 福島後の未来をつくる(51) 加速する若手の「原子力離れ」  ■芦田 高規

82 東奔政走 「国民感覚との乖離」を感じた首相インタビュー ■佐藤 千矢子

106 景気観測 米経済は景気の山の2~3合目 ■藻谷 俊介

108 ネットメディアの視点 迫る自動車の大革新 立ち遅れる日本メーカー ■土屋 直也

109 商社の深層(78) 物産「非資源1400億円」は必達 ■種市 房子

112 アートな時間 映画 [ローサは密告された]

113        舞台 [ミュージカル にんじん]

114 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Supplementary Leverage Ratio ”

 

Market

100 向こう2週間の材料/今週のポイント

101 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット

102 中国株/為替/白金/長期金利

103 マーケット指標

104 経済データ

 

書評

62 『錬金術の終わり』

『富山市議はなぜ14人も辞めたのか』

64 話題の本/週間ランキング

65 読書日記 ■小林よしのり

66 歴史書の棚/出版業界事情

 

98 定期購読・デジタルサービスのご案内

 

61 次号予告/編集後記

週刊エコノミスト 2017年8月8日号

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価格:620円

発売日:2017年7月31日

 

 

もうかるシェア経済

 

◇個人のモノ、空間、スキル 

◇人生や社会を変える起爆剤に

 

「地方にある素晴らしい観光資源を世界に伝え、訪日観光のリピーター客を増やしたい」(米ホームアウェイの木村奈津子・日本支社長)──。米エアビーアンドビーと並ぶ世界最大級の民泊会社が、日本の過疎地帯を世界有数の観光資源に変えようとしている。今年4月、同社は、せとうちDMO(観光地域経営組織)と提携し、瀬戸内海の宿泊施設のプロモーションに乗り出した。続きを読む


経営者:編集長インタビュー

河野雅明 オリエントコーポレーション社長

◇再生から新たな攻めのステージへ

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再生から新たな攻めのステージへ 河野雅明 オリエントコーポレーション社長

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Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな会社ですか。

 

河野 広島県が発祥の信販会社で、消費者向けファイナンスの分野で大きく成長してきました。事業の柱は大きく四つ。オートローン(自動車購入の際の分割払い)やショッピングクレジットなどの「個品割賦」、クレジットカードやカード融資などの「カード・融資」、金融機関と提携して個人向け融資を保証する「銀行保証」、そして家賃保証や売掛金決済保証などの「決済・保証」です。こうしたサービスの加盟店は全国で79万店。当社は47都道府県に営業拠点があるのが強みです。

 

── オートローンは業界トップシェアですね。

 

河野 特に中古車市場では、日本中古自動車販売協会連合会と二人三脚で市場を作ってきました。ただ、その歴史的背景があるからとおごっていてはダメで、常にお客さまの視点に立って新しいサービスを作っていかなくてはなりません。月々の支払い金額や支払い回数をお客さまが自由に設定できる「ニューバジェットローン」を開発し、浸透してきたのがその例です。また、(モノを持たずに貸し借りする)シェアリング・エコノミーが広がっていく中で、(個人向けに車をリースする)オートリース事業も伸びています。

 

── クレジットカードはどうですか。

 

河野 家電量販店などとの提携カードを中心に発展してきましたが、現在力を入れているのは当社独自のカード「オリコカード ザ ポイント」です。高還元率(1%)で、ポストペイ(後払い)型の電子マネーも搭載するなど、商品性は高いと自負しています。今年1月からは、みずほ銀行の会員向け特典サービス「みずほマイレージクラブ」も受けられるカードを、みずほ銀行の窓口でも販売してもらえるようになりました。

 

── 銀行保証や決済・保証事業の特徴は。

 

河野 銀行保証の残高は1兆4000億円くらいあり、これも国内でトップ。全国の地方銀行や信用金庫、信用組合などとまんべんなく取引があります。地域金融機関との対話を重視しながら関係を築いてきた結果です。決済保証は比較的新しい業務で、特に伸びているのが家賃保証。高齢者を含め単身世帯が増え、(個人の連帯保証人が付けにくくなる)民法改正もあって、我々のような保証会社を付ける流れです。

 

 貸金業法(当時は貸金業規制法)改正の影響で、2007年3月期連結決算が4613億円の最終(当期)赤字となったオリエントコーポレーション(オリコ)。債務者が払いすぎた過払い金利息の返還請求に備え、引当金繰入額を特別損失として計上したことなどが理由だったが、17年3月期連結決算は営業収益が2136億円、最終利益が286億円と2期連続の増収増益に。11期ぶりに普通配当2円も実現した。

 

── 復配も実現しましたね。

 

河野 大幅な赤字決算からちょうど10年。緻密な収益管理やコスト構造改革を進め、安定的な収益体質になってきました。復配は株主に喜んでもらえたと思っています。これまでは再生のステージでしたが、これから新しい攻めのステージに移っていきます。

 

 ◇フィンテック情報収集

 

── 日本は現金志向が強い社会と言われ、クレジットカードが使えない店舗も少なくありませんでした。

 

河野 店舗側の意識はだいぶ変わりつつあります。通販などインターネット決済も急激に広がっており、いまやカードが使えないとビジネスができません。政府の「未来投資戦略2017」でもキャッシュレス化の推進が盛り込まれました。20年の東京五輪・パラリンピックもあり、外国人観光客のさらなる増加に向け、カードが使えるインフラを整えるのは国家戦略です。

 

── セキュリティーはどうですか。

 

河野 キャッシュレス化に向けては、データを読み取られるんじゃないかという利用者の不安を解消することが大事。我々はスマートフォンを使った非接触型の決済にはそれなりの技術を持っていると自負しています。さらには、フィンテック(ITと金融の融合)の時代ですから、新しい発想が必要です。昨年12月には米ベンチャーキャピタルと、新規事業開発を目的とするパートナーシップ契約を結ぶなど、情報収集や研究も進めています。

 

── 過払い金の返還の状況と、13年に発覚した暴力団融資問題の再発防止の取り組みは。

 

河野 過払い金の返還は予想よりも減り方が鈍いですが、利息制限法を超える利息の融資残高は10年6月にゼロになり、かなり時間が経過しています。今後は減っていくのは間違いありません。また、暴力団融資問題に対しては、コンプライアンス(法令順守)の強化を含め力を入れて再発防止の取り組みをしています。これには自信があります。

 

── 社長就任2年目です。これからどんな会社にしたいですか。

 

河野 これまで厳しい時代を過ごしてきましたが、これからは社会から評価されて株価もさらに上げていかなければなりません。「お客さまの豊かな人生の実現を通じて社会に貢献する」という企業理念を目指し、さらにお客さまの利便性を追求していきたいと思っています。

(構成=桐山友一・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 1990年代、銀行で人事と企画を担当していました。バブル崩壊から金融危機の足音が聞こえていた時代です。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A トム・ピーターズ、ロバート・ウォータマン『エクセレント・カンパニー』です。20代で最初に触れて以降、私の会社人としての原点です。時代は変われど、普遍的な真理が語られていると思います。

 

Q 休日の過ごし方

 

A ジョギングとジムで体をいじめています。52歳が初マラソンで、これまでフルマラソンを16回完走しました。

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 ■人物略歴

 ◇こうの・まさあき

 1957年生まれ。広島県出身。広島大学付属高校、東京大学経済学部卒業。79年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほ銀行副頭取、みずほコーポレート銀行副頭取、みずほフィナンシャルグループ副社長などを経て、2016年6月から現職。60歳。

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事業内容:個品割賦、カード・融資、銀行保証

本社所在地:東京都千代田区

創業:1954年

資本金:1500億円

従業員数:3658人(2017年3月現在、単体)

業績(17年3月期、連結)

 営業収益:2136億円

 営業利益:335億円

特集:もうかるシェア経済 2017年8月8日号

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外国人に人気の古民家宿「ちい庵」(徳島県)
外国人に人気の古民家宿「ちい庵」(徳島県)

◇個人のモノ、空間、スキル

◇人生や社会を変える起爆剤に

 

「地方にある素晴らしい観光資源を世界に伝え、訪日観光のリピーター客を増やしたい」(米ホームアウェイの木村奈津子・日本支社長)──。

 

 米エアビーアンドビーと並ぶ世界最大級の民泊会社が、日本の過疎地帯を世界有数の観光資源に変えようとしている。今年4月、同社は、せとうちDMO(観光地域経営組織)と提携し、瀬戸内海の宿泊施設のプロモーションに乗り出した。

 

 

 ホームアウェイは、所有者が利用していない別荘などを1棟丸ごと貸し出す「バケーションレンタル」の世界最大手。月間のサイト訪問者は4000万人、年間取扱高は1兆6000億円で、その規模はJTBに匹敵する。

 

 一方、せとうちDMOは、2016年、瀬戸内海を囲む7県(兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛)が観光推進のために設立した官民一体の組織だ。ホームアウェイとの提携を選んだ理由の一つに過疎化による深刻な空き家問題がある。

 

 瀬戸内地域には古民家など歴史的な建物が多数あるが、そのうち3~4割が空き家と言われる。江戸後期から昭和初期に建てられた建物が多く、放置すれば自然倒壊する恐れがある。せとうちDMOはこうした空き家をリフォームして、簡易宿泊施設として提供する事業に乗り出そうとしている。

 

 日本情緒にあふれる古民家は外国人に人気が高い。日本ビジネスを拡大したいホームアウェイにとっては、品ぞろえ強化につながる。同社のサイトでグローバルな広告宣伝を展開すれば、空き家が有望な観光資源に生まれ変わるというわけだ。

 

 

ちい庵はいろりのある純和風の造り
ちい庵はいろりのある純和風の造り

  せとうちDMOが業務提携するちいおりアライアンス(徳島県三好市)の「ちい庵(おり)」は、茅ぶきの古民家を改修した宿泊施設。最寄りの土讃線大歩危(おおぼけ)駅から車で約50分、「日本のチベット」とも言われる山深い場所にぽつんと建つ一軒家だが、10月までほぼ予約が埋まる人気の宿だ。 

 

  築300年超の民家を12年に5500万円かけて改修した。稼働率は年間で50%、夏場は80%から90%になることもある。

 

 いろりのある純和風の造りだが、トイレや浴室などの設備は新しい。1棟貸しで、1人当たりの費用は1泊1万2000円前後から。利用客の4割が外国人で、欧米からの観光客が多いという。

 

「人里離れた何もない場所こそ、観光客にとっては魅力がある」とせとうちDMOグループの瀬戸内ブランドコーポレーションの木村洋氏は話す。対象とする古民家は、観光地の周辺だったり、交通インフラが整った場所である必要はないという。すでに建物の所有者や行政などから30件以上の問い合わせが寄せられているという。

コスプレには外国人観光客も興味を持つ(長崎県の島原城)
コスプレには外国人観光客も興味を持つ(長崎県の島原城)

◇島原城を「レンタル」

 

 長崎県島原市では今年3月、市のシンボルである島原城が丸ごと「コスプレ」イベントに貸し出された。仕掛けたのは、スペースレンタル大手の「スペースマーケット」(東京都新宿区)だ。

 イベントでは、スペースマーケットのサイトを通じ、天守閣前の広場を借りた野外キャンプや撮影会「島原コスプレの乱」への参加者を募集。撮影会には、全国からアニメキャラクターの格好をした愛好家が100人以上集まった。

 

 今回のイベントでは、宣伝を兼ねて島原市が無料で島原城を貸し出したが、スペースマーケットのサイトを通じて、誰でも1日48万円で借りることができる。同社の重松大輔社長は、「人口が減る中、地方自治体も公共施設の稼働率を上げるためにも、イベントなどで活用したい」と話す。

 

 同社のサイトでは、奈良市内から車で2時間の山間の廃校も人気だ。NPO法人「宇陀カエデの郷づくり」が運営する元小学校の建物で、毎週末、関西一円からコスプレ愛好家が集まり、撮影会が催される。利用者の4割がサイトで「撮影ポイント」などのレビューを残しており、それが、また、新たな利用を喚起している。

 

 ◇駅前で荷物預かる

 

 駅のコインロッカーの代わりに、喫茶店や小売店の店舗で荷物を預かるシェアサービスも登場している。「エクボ」(東京都渋谷区)は今年1月から渋谷駅周辺でサービスを開始した。ネットやスマホで行き先を入力すると、荷物を預かってもらえる飲食店や物販店などが表示される。日本語、英語、中国語、韓国語の4言語に対応している。

 

 ネット上で予約し、店舗を訪ねれば、日本語ができなくても店頭で預かってもらえる。ベビーカーやゴルフバッグなどの大きな荷物も対応可能だ。店舗側は荷物をスマホで撮影し、顧客のスマホに転送、それが引換券になる。

 

 同社の工藤慎一社長は日本のコインロッカーの不便さからこのサービスを思い付いた。店舗にとっても集客になり一石二鳥だ。今では都内だけでなく、京都、大阪、福岡でビジネスを展開している。

(稲留正英、花谷美枝・編集部)

週刊エコノミスト 2017年8月8日号

定価:620円

発売日:2017年8月8日号



目次:2017年8月8日号

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もうかるシェア経済

18 個人のモノ、空間、スキル 人生や社会を変える起爆剤に ■稲留 正英/花谷 美枝

20 ポルシェを1万円でレンタル 過疎地も「相乗り」で助け合い

21 「家事」で稼ぐ時代 副業で「生きがい」見いだす

22 金融を変える 映画も料理店も資金調達

24 注目企業5分野40社 ■編集部

26 Q&Aで分かる シェアリング・エコノミー ■石山 安珠

28 国内シェア経済 市場規模は1兆1800億円 ■山本 悠介

29         GDPへの反映に課題

30         民泊新法で企業が続々参入■榊 淳司/編集部

32 中国 シェア利用が個人の「信用」創造 ■柏木 亮二

34 東南アジア グラブ、オラなど地元企業が躍進 ■エヌ・エヌ・エー(NNA)

35 米国 医者と患者をつなぐウーバー型モデル ■西村 由美子

36 不安定な雇用 急増する「クラウドワーカー」 ■金 明中

37 労働の「価格破壊」が進む ■編集部

 

エコノミストリポート

82 「アウトサイドイン」とは 社会的課題を解決するビジネスモデル 新事業創出へ欧米では潮流に ■森 摂

 

Flash!

11 孫政才氏の逮捕は長期独裁の布石/経済財政白書は分析が不十分/米スパイサー報道官が電撃辞任/アップルvsクアルコムの訴訟

15 ひと&こと 「残業代ゼロ制度」で連合混乱/会員減少する新経連/医薬品原料をかさ増し

 

World Watch

58 ワシントンDC 「安保」盾の鉄鋼輸入規制 ■堂ノ脇 伸

59 中国視窓 日系現地法人の不正 ■前川 晃廣

60 N.Y./カリフォルニア/英国

61 韓国/インド/フィリピン

62 香港/ロシア/サウジアラビア

63 論壇・論調 イエレン議長の見解に賛否 ■岩田 太郎

 

Interview

4 2017年の経営者 河野 雅明 オリエントコーポレーション社長

44 問答有用 稲葉 光行 イノセンス・プロジェクト・ジャパン代表

  「科学的な思考を日本の司法に根付かせたい」

 

お任せで勝つ資産形成

70 英国年金制度に学ぶ長期投資の「三つの秘訣」 ■野尻 哲史

72 バフェットがこだわる「低コスト」 ■尾藤 峰男

73 ロボアドバイザー19社 ■編集部

 

丸の内、八重洲の不動産異変

74 都心の地価はもう限界 不動産の利回りは最低水準 ■花谷 美枝

76 八重洲の飲み屋街を再開発 ■編集部

77 地価を押し上げる「物流バブル」■高橋 加寿子/鈴木 公二

78 Jリート 分配金利回り上昇で「買い時」 ■関 大介

 

38 マクロ経済 経済予測をパソコンで ■小林 剛

80 出光 出光創業家の差し止め請求却下 ■伊藤 歩

 

Viewpoint

3 闘論席 ■佐藤 優

17 グローバルマネー 日本のインフレ目標2%は高すぎる

42 海外企業を買う(151) マルチ・スズキ・インディア ■児玉 万里子

48 学者が斬る 視点争点 製造業のサービス化で競争力確保 ■西谷 公孝

50 言言語語

64 アディオスジャパン(63) ■真山 仁

66 東奔政走 拍車がかかる内閣支持率の低落 ■前田 浩智

68 名門高校の校風と人脈(251) 洛北高校(京都府)(上) ■猪熊 建夫

85 商社の深層(79) 需給をチケット料金に反映 ■花谷 美枝

92 景気観測 原油は再び低価格時代に ■枩村 秀樹

94 ネットメディアの視点 公明党と連合は似ている ■山田 厚史

96 アートな時間 映画 [ベイビー・ドライバー]

97        美術 [アルチンボルド展]

98 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ e-sports ”

 

Market

86 向こう2週間の材料/今週のポイント

87 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット

88 ブラジル株/為替/穀物/長期金利

89 マーケット指標

90 経済データ

 

書評

52 『情報と秩序』

  『フロックの確率』

54 話題の本/週間ランキング

55 読書日記 ■楊 逸

56 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

 

51 次号予告/編集後記

スクープ! 伊藤忠丸紅鉄鋼が ベルギー鉄鋼商社株を取得

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生き残りをかけて Bloomberg
生き残りをかけて Bloomberg

井戸 清一(ジャーナリスト)

 

 欧州を代表する港町、ベルギーのアントワープ。ルネサンス期から貿易が盛んなこの都市に本社を置く企業が、日本の鉄鋼業界で話題を呼んでいる。

 

 その企業名はスチールフォース。日本でも知る人ぞ知る欧州の鉄鋼商社である。その株を伊藤忠丸紅鉄鋼がひそかに取得した。日本の鉄鋼商社が欧州の商社へ出資し、手を組むという例は極めて珍しい。「一体、何が目的なのか」と憶測が飛び交う。

 

 近代鉄鋼業の発祥地である欧州には、スチールフォースに限らず鉄鋼専門の商社が数多く存在してきた。欧州の鉄鋼需要が成熟し域内の取引が先細りになると、こうした商社は貿易に軸足を移していく。今も生き残っているのは、欧州諸国が植民地としてきたアフリカや中南米といった海外の鉄鋼市場を開拓してきた商社ばかりだ。スチールフォースも、これら地域に営業拠点を持ち、独特の商売を行ってきたとされる。

 

 日本の鉄鋼商社で、このアフリカや中南米で圧倒的な存在感を持つのが伊藤忠丸紅鉄鋼である。三井物産や住友商事といった事業投資に傾注するライバル商社を尻目に、これら市場で鋼材のトレーディングをコツコツと開拓してきた。そこでスチールフォースの存在を知り、これを取り込むことで欧州流の取引手法を加えてアフリカや中南米でのビジネスを強化する――。それが衆目の見立てである。

 

近似する欧州と日本の再編

 

 この欧州の鉄鋼再編と商社の歩みを見ていくと、日本の鉄鋼業界の将来像が暗示されている。

 

 欧州では統合し巨大化した鉄鋼メーカーが力のある商社を自ら持つようになった。ルクセンブルクを本拠とする鉄鋼世界最大手のアルセロール・ミタルには、子会社にアルセロール・ミタル・インターナショナルという商社があり、アジアを含め世界各地でネットワークを形成している。ドイツの鉄鋼最大手、ティッセンクルップにも他社製の鋼材を含めて手広く取り扱う商社部門がある。

 

 このしわ寄せで、独立系の鉄鋼商社は徐々に活躍の場が狭まっている。それを象徴するようにスイスの大手鉄鋼商社、デュフェルコは海外部門を中国の鉄鋼大手へ手放した。

 

 一方、日本では、新日本製鉄と住友金属工業が統合し新日鉄住金が誕生。この新日鉄住金の系列商社である日鉄商事と住金物産も統合し、年商2兆円に迫る日鉄住金物産が発足した。以前は総合商社に比べ見劣りしたメーカー系商社だが、統合で陣容が厚くなった日鉄住金物産は大方のトレーディングを任せられるまでに力を付けた。日鉄住金物産は来年度に三井物産から鉄鋼事業の一部を譲り受ける予定で、さらに巨大化する方向にある。

 

 日本でもメーカー系でない独立系の商社には厳しい時代がやってきている。日本の国内はもちろん、近隣の海外市場でもリスクの低い取引ばかりをしていてはメーカー商社に商権を移されるかもしれない。伊藤忠丸紅鉄鋼が少し変わった海外商社へ手を出すのも、ライバルが手を伸ばしにくい市場を深掘りすることで生き残ろうという思惑がうかがえる。

 

 他の鉄鋼商社では、三菱商事系のメタルワンと住友商事が国内の鋼管事業を統合する方向で協議に入った。三菱と住友が鉄鋼関係で組むのは初めてで「もはや鉄鋼商社再編は何でもありの時代」と驚かれている。鉄鋼商社は洋の東西を問わず、なりふり構わぬ生き残り策を迫られている。

(『週刊エコノミスト』2017年8月15・22日号掲載)

 

目次:2017年8月15・22日合併号

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世界経済総予測’17下期

第1部 世界編

18 訪れた「スーパー適温」経済 米景気は戦後最長も視野 ■桐山 友一

21 世界経済を決める3要素 ■渡辺 浩志

23 米未公開株(PE)バブル ■小田切 尚登

25 PEファンドに学ぶ ■小田切 尚登

26 米国はバブルにあらず ■加谷 珪一

28 初の44兆円メモリーバブル ■服部 毅

30 FRBトップ人事 ■鈴木 敏之

31 ECB「悩ましい正常化」 ■吉田 健一郎

32 「ポスト習」の失脚と党大会 ■稲垣 清

34 BREXIT 英・EUの歩み寄り ■石野 なつみ

36 インド「モディノミクス」 ■小林 公司

37 サウジアラムコ上場 ■岩間 剛一

38 北朝鮮6回目の核実験 ■宮本 悟

39 IS拡散のテロリスク ■福富 満久

第2部 日本編

94 緩やかな賃金上昇は続く ■武田 淳

96 有望3セクター厳選15銘柄 ■窪田 真之

98 年末1ドル=120円 ■池田 雄之輔

99 日銀「ポスト黒田」 ■編集部

100 孤立・日本の緩和継続 ■黒瀬 浩一

 

14 特別インタビュー 第88回都市対抗野球優勝 NTT東日本 山村 雅之 社長

  「チームプレーこそ日本企業」

 

エコノミスト・リポート

40 どうなる加計政局 失態続きで揺らぐ安倍1強 10.22「一か八か解散」の現実味 ■倉重 篤郎

 

79 AI、IoT 第1回「毎日イノベーション・フォーラム」 AI、IoT時代が本格到来 全ての産業が歴史的転換点に ■編集部

 

Flash!

11 中国経済上期8%成長の危うさ/ビットコイン分裂/インタビュー 三菱UFJ信託銀行・池谷幹男社長

111 ひと&こと 山口組が「共謀罪」勉強会/検察立て直した関西のエースは地方国立大卒/オリンパスに米内視鏡感染問題で7億円の賠償命令

 

Interview

4 2017年の経営者 阪根 信一 セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社長

52 問答有用 住友 達也 「とくし丸」社長 「答えは現場にしかないんです」

 

やっぱりレコードが好き

42 手間かけて聴く行為楽しむ ■横山 渉/編集部

45 老舗ブランド復活の舞台裏

46 アナログを支える“至宝”企業群を追う ■炭山 アキラ

49 インタビュー 岡村 靖幸 ミュージシャン 「レコードはモノも音もロマンチック」

50 ブームはアイドルにも波及 レコード発売でライバルと差別化 ■八木 良太

51 LPは身体的メディア ■片山 杜秀

 

お盆に考えよう みんな土地で困っている

82 要らない土地が“所有者不明”に 人口減少時代の「受け皿」を作れ ■吉原 祥子

85 都市部のもう一つの土地リスク 7割超が「境界未確定」

86 インタビュー 山野目 章夫 早稲田大学大学院教授 「登記義務化は、実効性がない」

87 相続登記、共有、管理…… 土地にまつわる我が家のQ&A■回答者・三平 聡史/板倉 京/浦田 克宏

91 相続放棄後のゆくえ ■三平 聡史

92 空き家 所有者不明は税金で マンションの費用は億円単位も ■黒崎 亜弓

93 農地 優良地しか受け付けない農地バンク ■黒崎 亜弓

 

World Watch

70 ワシントンDC 側近2人相次ぎ辞任・更迭 人事に表れる大統領の過信 ■今村 卓

71 中国視窓 情報統制が顕著でも進歩するテクノロジー ■岸田 英明

72 N.Y./カリフォルニア/スウェーデン

73 韓国/インド/ミャンマー

74 上海/ブラジル/カタール

75 論壇・論調  独大手自動車5社に談合疑惑 戦後最大の不祥事に発展も ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

17 グローバルマネー 社会の矛盾を将来に先送る米国

56 学者が斬る 視点争点 若桜鉄道に見る三セクの限界 ■吉弘 憲介

58 言言語語

66 アディオスジャパン(64) ■真山 仁

68 名門高校の校風と人脈(252) 洛北高校(京都府)(中) ■猪熊 建夫

76 海外企業を買う(152) BP ■小田切 尚登

78 商社の深層(80) 伊藤忠丸紅鉄鋼がベルギー鉄鋼商社株を取得 ■井戸 清一

80 東奔政走 自民・民進を脅かす二つの「不穏」 「稲田・蓮舫」ダブル辞任で顕在化 ■平田 崇浩

108 景気観測 日本経済、世界経済ともに堅調 金融正常化がショック招く恐れ ■足立 正道

110 ネットメディアの視点 認知症患者に人として接すること 傷つければ、病は進む ■土屋 直也

112 アートな時間 映画 [ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦]

113        舞台 [秀山祭九月大歌舞伎]

114 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ FICO Credit Score ”

 

Market

102 向こう2週間の材料/今週のポイント

103 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

104 欧州株/為替/原油/長期金利

105 マーケット指標

106 経済データ

 

書評

60 『ブラック奨学金』『イノベーターたちの日本史』

62 話題の本/週間ランキング

63 読書日記 ■荻上 チキ

64 歴史書の棚/出版業界事情

 

59 次号予告/編集後記

 

全自動衣類折り畳み機で世界を席巻 阪根信一 セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社長

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Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 さまざまな衣類に対応した世界初の全自動折り畳み機「ランドロイド」を開発した。大きさは高さ220センチ、幅87センチ、奥行き63センチ。1回で約30枚の衣類が投入でき、所要時間は1枚約5~12分。想定価格は185万円程度で来春までの納品を目指す。

 

── ランドロイドが話題ですね。

 

阪根 一部で予約を受け付けており、数百人の購入希望者がいます。

 

── どのような仕組みですか。

 

阪根 目で見て、頭でどのような衣類かを判断しなくてはならないので、カメラによる画像認識機能と、人工知能(AI)を搭載しています。手で畳む機能を実現しているのはロボットアームです。

 

── 衣類の折り畳みに着目したのはなぜですか。

 

阪根 世の中にないもの、人々の生活を豊かにするもの、技術的ハードルが高いものという三つの条件を満たすテーマを探しましたが、思いつくものは特許が取られていたりして、誰かが既に取り組んでいました。ある時、技術系の会社は男性社会なので、男の自分が考えても見つからないと思い、妻に聞いてみたところ、「洗濯物の自動折り畳み機が欲しい」と言われました。関連する特許も出ていなかったので、開発に着手することにしました。

 

── 苦労はありましたか。

 

阪根 2005年から開発を始めて、3年くらいで畳む技術はある程度実現できました。ただ、衣類がぐちゃぐちゃの状態からはなかなかきれいに畳めません。当時、住友電工の技術者から脱サラして起業した父の会社で開発を進めていましたが、リーマン・ショック(08年)が起き、他の事業は縮小している中で、こんな訳のわからないことをなぜ続けているのかという社内の目もありました。それでも11年ごろに技術的なブレークスルーが起き、手応えを感じました。

 

── 注目を浴びるきっかけは。

 

阪根 15年10月に国内最大の家電見本市「CEATEC(シーテック)」で発表してから反響がありました。

 

── 今後の改善点は。

 

阪根 3年間は新しいモデルをつくりません。購入後もAIは機械学習で随時更新してより精度を高めていくので、最初に買っても、3年後に買っても性能は変わらないようになります。10年後にはより普及できるような価格に抑えたいですね。まずは折り畳み専用機を世界中に普及させてから、将来的には洗濯・乾燥機能も備えたものをつくりたいです。

 

 ◇医療機器やゴルフ用品も

 

── 経営者を志したきっかけは。

 

阪根 化学の研究者になるために大学卒業後に留学した米国の大学院ではある程度成果を出せたのですが、上に行けば行くほど、これは勝てないという研究者が大勢いました。でも、技術とコミュニケーションが必要なビジネスなら、勝負になるのではないかと思いました。父の会社はOA機器用の部材の製造など技術系の企業だったので、そこに就職し、社長になりました。

 

── なぜ起業したのですか。

 

阪根 父に外部資本を入れることに賛同してもらえなかったからです。父の会社はBtoB(企業間取引)ビジネスでしたが、将来的にはBtoC(消費者向け)ビジネスで勝負したいと思っていました。そのためには外部資本を入れて会社を大きくする必要があります。祖父が経営していた上場企業が、ホテルニュージャパンの社長だった横井英樹さんに敵対的買収で乗っ取られたため、自分の会社に外部資本は入れないとの思いを父は持っていたようです。

 

── ランドロイド以外にはどのような事業をしていますか。

 

阪根 いびきや睡眠時の無呼吸を治療する機器「ナステント」を14年に発売しました。これまで約6万人に100万本以上が売れました。重症無呼吸患者だった私はCPAP(シーパップ、睡眠中に鼻に掛けたマスクから、圧力を加えた空気を送り込み、気道が閉塞(へいそく)しないようにする装置)で快適に眠れましたが、出張などの際の持ち運びが大変だったので、使い捨てコンタクトレンズのようなものを開発したいと思いました。ナステントはシリコーン製の使い捨てチューブで、睡眠時に鼻の穴に差し込んで利用します。1箱は7本入り(1週間分)で3220円(税抜き)です。

 

── 事業が多彩ですね。

 

阪根 人工衛星にも使われる特殊なカーボン製のゴルフシャフトもつくっています。独自に開発した、スイング中のシャフトのしなりとねじれを測る機械を使い、1本1本オーダーメードでつくります。価格は1本12万~1200万円(税抜き)。尾崎3兄弟らプロゴルファーにも愛用されています。

 

── 関連性のない複数の事業をやっているのはなぜですか。

 

阪根 イノベーションを起こすためには、ニーズからテーマを探す必要があると思いました。持っている知見を生かして何かをやろうとしてもイノベーションを起こすためのテーマは見つからないと気付き、世の中のニーズを優先した結果、バラバラのテーマになりました。

 

── 社名の由来は。

 

阪根 世界中に七つの開発拠点をつくりたいとの思いを込めています。

 

── 今後の目標は。

 

阪根 四つ目、五つ目の商品開発も進めており、特許も申請しています。早ければ1年後くらいに発表できるかもしれません。日本で生まれた技術で世界を席巻したいですね。

(構成=松本惇・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 父が起業した会社の社長に就任しました。会社を成長させるため、組織のマネジメントと対外交渉力を学びました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 松下幸之助さんの本は全て良かったのですが、特に印象に残っているのは『素直な心になるために』や『商売心得帖』です。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 半分は仕事ですが、残りの半分は子供と遊んでいることが多いですね。

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 ■人物略歴

 ◇さかね・しんいち

 1971年生まれ。高槻高校、甲南大学卒業後、米デラウェア大学化学・生物化学科博士課程修了。父が起業したI・S・Tに2000年に入社し、08年に社長就任。11年のセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ創業時から現職。46歳。

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事業内容:ゴルフ用品、医療機器、家電などの製造・販売

本社所在地:東京都港区

設立:2014年7月18日(11年2月創業)

資本金:77億円(資本準備金含む)

従業員数:117人(17年6月30日現在)

業績 非公開

 

特集:世界経済総予測’17下期 2017年8月15・22日合併号

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◇訪れた「スーパー適温」経済

◇米景気は戦後最長も視野

 

 過熱もせず失速もせず、ぬるま湯につかったような心地よさ──。世界経済は今、そんな状態にある。

 

 金融市場でのキーワードは「ゴルディロックス経済」。ゴルディロックスとは英童話「3びきのくま」に出てくる少女の名前で、少女が森の中で見つけたくまの家で、テーブルの上にあった「熱すぎる」「冷たすぎる」「ちょうどいい」三つのおかゆのうち、「ちょうどいい」のを食べたことが由来だ。

 

 失業率が下がって経済が拡大していても、インフレ率は上がらず金利上昇のペースが鈍い──。米国だけでなく現在の世界経済全体の共通する現象だ。長期金利の上昇ペースが速ければ景気を冷やすが、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げや資産規模縮小に向かう中でも、米長期金利(10年債利回り)は7月末、2・3%前後となかなか上がらない(図1)。インフレが加速しないため、FRBの金融引き締めのペースは過去と比べても緩やかで、金融市場や実体経済にショックが起きにくい。

 

 こうしたゴルディロックス経済は、実は05年前後にも現れていたが、今回はそれに輪をかけてインフレ率も金利も上昇しない。企業や個人のインフレ期待(将来のインフレ率の予想)や経済成長への期待が低く、賃金が上がりにくいことが主な理由とされるが、北米のシェールオイルの出現で原油価格が上がらないことも低インフレに拍車をかける。

 

 ソニーフィナンシャルホールディングスの菅野雅明チーフエコノミストは「経済にとってより適温」という意味を込め「スーパー・ゴルディロックス経済」と表現する。

◇「100年債」に殺到

 

 世界経済の行方を大きく左右するのが、超大国である米国の金利の動向だ。米国経済は過去、短期の金利が長期の金利を上回った後、しばらくして景気後退に入るサイクルを繰り返している(図2)。

 

 現在はといえば、3年債など短めの金利はFRBの利上げに伴って上昇しているものの、長期金利との金利差はまだ1%以上の開きがある。FRBの利上げは1回当たり0・25%。長期金利が現在の水準で横ばいが続いたとして、あと4回利上げしてもまだ届かない計算だ。

 

 米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻に伴い、急激に世界経済が収縮した2008年9月のリーマン・ショックから9年。米国経済は09年6月を景気の谷として、現在まで97カ月を超える景気拡大が続いている。ゴルディロックス経済がこのまま続けば、18年いっぱいはおろか「19年も続く可能性がある」(菅野氏)。戦後最長の米国の景気拡大は1990年代~00年代初頭の120カ月で、今回の景気拡大が19年7月まで続けば戦後最長の更新となる。

 

 ゴルディロックス経済は、マネーを株式や格付けの低いハイイールド債券などリスクのある資産に向かわせる。その好例が今年6月、アルゼンチン政府が発行した償還までの期間100年の超長期国債だ。

 

 アルゼンチンは過去100年間で6回デフォルト(債務不履行)しているにもかかわらず、100年債では27億5000万ドル(約3000億円)の募集に対して、その3倍超の97億5000万ドルの応札があったという。

 

 みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長は「利回りが8%と悪くない条件が投資家に魅力に映ったのではないか。購入者の半分は年金などの機関投資家、半分はヘッジファンドといわれている」と語る。

◇VIX指数も過去最低

 

 米国の株式市場も、多少の調整はありながらも、ほぼ右肩上がりで上昇を続けている。米S&P500株価指数は7月26日、2477・83ポイントと史上最高値を更新した。

 

 今回の株価上昇の大きな特徴はボラティリティー(変動率)が極端に低いことだ。S&P500を対象とするオプション取引(売買権利の取引)のボラティリティーを基に算出されるVIX指数(恐怖指数、投資家の不安心理を示すとされる)は7月下旬、過去最低の10ポイントを下回る水準で推移した(図3)。

 

 投資家にとって投資対象に価格変動が大きければリスクがあまりに高いが、じわじわと少しずつ上がっていく現在の株価は格好の投資先。じわじわと上がる株価がさらに投資資金を呼び込む循環を起こしている。

 

 FPG証券の深谷幸司社長は「伝統的な尺度でみれば株価は割高だが、それでも株価は落ちない。米長期金利が上昇すれば株価の下落要因となるが、株式市場ではそれほど長期金利が上がらないと思われているのだろう」とみる。株高は、今後もたんたんと続きそうだ。

 

 EU統計局が8月1日に発表した、ユーロ圏の今年4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率も前期比年率2・3%(速報値)と成長を加速。いつの間にか欧州経済もドイツを中心に明るさを取り戻しつつある。7月25日には欧州債務危機の震源となったギリシャが約3年ぶりに国債市場に復帰した。

 

 SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは「世界経済に今のところ、大きな死

角が見当たらない」と話す。

 

 低インフレ、低金利の環境の中で、株価など資産価格の上昇が同時に進行する世界経済。資産価格のバブル崩壊と共に景気循環が終わるとすれば、今はまだバブルの大波が到来する入り口にすぎないのかもしれない。

(桐山友一・編集部)

2017年8月15・22日合併号

特別定価:720円

発売日:2017年8月7日


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