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目次:2017年9月19日号

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異次元緩和の賞味期限

18 量的緩和の限界迫る ■後藤 逸郎/花谷 美枝

22 金融政策転換 日銀も米欧中銀に遅れるな ■鈴木 敏之

23 日銀の次の一手は引き締めか、緩和か ■河野 龍太郎

25 景気後退期に日銀打つ手なし ■早川 英男

27 マイナス金利再び ■編集部

28 国債 量的緩和の持続性に限界 ■愛宕 伸康

30 基礎から学ぶ 国債 Q&A ■藤原 裕之

32 為替 円安効果を失っていく金融政策 ■米倉 茂

34 基礎から学ぶ 為替 Q&A ■竹中 正治

36 資産バブル 世界的資産インフレは危険水域 ■大槻 奈那

38 基礎から学ぶ 資産バブル Q&A ■塚崎 公義

 

ポスト黒田 次期日銀総裁予想

88 出口の重荷背負う次期総裁 ■鷲尾 香一

91 インタビュー 本田 悦朗 「次期総裁は財政拡大に理解ある人」

92 インタビュー 中原 伸之 「黒田総裁の歴史的役割は終わった」

 

Flash!

11 技術革新失ったiPhone8/北核実験が試す米外交/東芝メモリ売却の実情

15 ひと&こと 厚労相が異例の兼務 問題山積の省内に不安の声/経産省電力・ガス取引監視等委員会事務局長人事にガス業界が戦々恐々/年度ODA予算増額要求でも、河野外相に疑心暗鬼のコンサル業界

 

Interview

4 2017年の経営者 此本 臣吾 野村総合研究所社長

48 問答有用 柏原 竜二 富士通企業スポーツ推進室

 「けがをしていた現役時代より今の方が楽しい」

 

デジタル終活のススメ

82 見過ごされてきたデジタル遺品 ■古田 雄介

85 基礎から学ぶ デジタル遺品 Q&A ■伊勢田 篤史 ■竹中 正治

86 海外デジタル遺品事情 欧米で進む法整備 ■土方 細秩子

 

エコノミスト・リポート

40 原油を巡る思惑 ベネズエラと関係強化のロシアが狙う米エネルギー市場 ■阿部 直哉

42 新たなロシアゲート疑惑? シトゴがトランプ氏に寄付

 

43 製薬 生活習慣病市場で起きた論文不正 ■村上 和巳

66 年金 英国の年金制度に学ぶイデコやNISAの改革 ■野尻 哲史

68 シェアリング 新局面を迎えた欧米のシェア経済 ■藤井 宏一郎

80 デジタル経済 ブログやSNSなどの価値は3957億円 ■山本 悠介

 

World Watch

70 ワシントンDC アフガン増派で米国が背負う重責 ■会川 晴之

71 中国視窓 懸念される中所得国の罠 ■前川 晃廣

72 N.Y./シリコンバレー/スウェーデン

73 韓国/インド/タイ

74 台湾/ブラジル/ジンバブエ

75 論壇・論調 国境の壁こだわるトランプ氏 ■岩田 太郎

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

17 グローバルマネー イエレンFRB議長が突きつけた「覚悟」

46 アディオスジャパン(68) ■真山 仁

52 学者が斬る 視点争点 環境対策は供給連鎖管理で ■西谷 公孝

54 言言語語

62 名門高校の校風と人脈(256) 豊岡高校(兵庫県) ■猪熊 建夫

64 海外企業を買う(156) ボルシア・ドルトムント ■児玉 万里子

76 東奔政走 改憲、経済、解散という首相の連立方程式 ■前田 浩智

78 福島後の未来をつくる(54) 蓄電池価格低下で再エネは安定電源に ■今西 章

100 景気観測 電子部品デバイスの在庫率上昇が示すもの ■藻谷 俊介

102 ネットメディアの視点 “威圧”に戦争のリアリティーはない ■山田 厚史

103 商社の深層(83) 海外・地方で積極採用 ■種市 房子

104 アートな時間 映画 [ダンケルク]

105        舞台 [霊験亀山鉾─亀山の仇討]

106 ウォール・ス トリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Clean Meat ”

 

Market

94 向こう2週間の材料/今週のポイント

95 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

96 中国株/為替/白金/長期金利

97 マーケット指標

98 経済データ

 

書評

56 『日本の人事を科学する』

  『ウルリッヒ・ベックの社会理論』

58 話題の本/週間ランキング

59 読書日記 ■小林よしのり 

60 歴史書の棚/出版業界事情

 

87 定期購読・デジタルサービスのご案内

 

55 次号予告/編集後記

 


週刊エコノミスト 2017年9月19日号

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発売日:2017年9月11日

特別定価:670円

 

異次元緩和の賞味期限

 

◇量的緩和の限界迫る

◇買える国債がなくなる時

 

 日銀は9月1日、残存3年超5年以下の国債買い入れオペレーションを前回から300億円少ない3000億円にした。金利のマイナス幅が広がる国庫短期証券の買い入れ額を減らしたことから、市場では短中期の需給逼迫(ひっぱく)に配慮したと受け止められた。日銀の量的緩和の物理的限界を改めて意識させた瞬間だった。

 

 市場は9月19、20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での資産買い入れ縮小開始を織り込み、欧州中央銀行(ECB)も9月7日の会合で、年末に当面の期限を迎える資産買い入れについて、縮小方針を示唆するとの見方が強い。続きを読む


第54回 福島後の未来:蓄電池の価格が低下すれば再生エネルギーは安定電源=今西章

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◇いまにし・あきら  1975年群馬県太田市生まれ。慶応大学文学部卒。IT系出版社の書籍編集者や経済誌編集記者などを経て2010年からエネルギージャーナル社。日本環境ジャーナリストの会理事。
◇いまにし・あきら  1975年群馬県太田市生まれ。慶応大学文学部卒。IT系出版社の書籍編集者や経済誌編集記者などを経て2010年からエネルギージャーナル社。日本環境ジャーナリストの会理事。

今西章(『創・省・蓄エネルギー時報』編集次長)

 

世界中で太陽光発電の導入が急拡大している。2015年に世界全体で導入された発電設備の50%以上を再生可能エネルギーが占めている。導入された再生エネ発電設備のうち4割近くが太陽光発電だ。

 

近年の大量導入で住宅用や事業用などあらゆる用途を対象とした太陽光の世界平均発電コストは直近8年間で1キロワット時当たり35円から10円と、7割減まで進んだ。ただ注意しなければならないのは10円はメガソーラーなどの事業用を含めた数値であること。事業用に比べると住宅用発電コストは2倍近くするのが現状だ。

 

 世界では、住宅用太陽光発電1キロワット時当たりの発電コストが家庭用の電気料金の1キロワット時当たりの単価まで下がることが、政府や自治体の補助政策を必要としないで自立して導入拡大する目安といわれていた。国・地域によって家庭用の電気料金は異なるが、日本では1キロワット時当たり25円が目安となる。

 

 近年の大量導入によるコスト低減効果から、住宅用の発電コストは世界の各国で家庭用電気料金単価を下回ってきた。

 

 しかし、出力が変動する太陽光発電では発電コストが家庭用の電気料金単価まで下がっても、昼間は電気が余り、夜に発電しないため自立電源として普及するには不十分だ。

 

 補助制度に依存しないで真に自立化して普及するには蓄電池が必要だ。蓄電池システムを合わせた1キロワット時当たりの安定化発電コストを家庭用の電気料金より安くしなければならない。それが自立電源として普及する最初のハードルだ。

 

 とはいえ、アフリカや東南アジアなど送電線の整備が発達していない国・地域では、住宅に太陽光発電と蓄電池システムをセットで販売またはリースする事業が活発になっている。住宅用太陽光発電と蓄電池の組み合わせによる発電コストの方が、これから大規模火力発電所を建設し、送電線整備をして供給する電気のコストよりも安く、早いからだ。

 

 また調査会社ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスの黒崎美穂氏は「住宅用太陽光発電の普及が進んでいて、かつ家庭用電気料金が世界水準でみて高い傾向にある豪州やドイツは今後、家庭用蓄電池市場が成長する」と語る。

 

 ◇ちゅうちょする日本企業

 

 日本エネルギー経済研究所新エネルギーグループマネジャーの柴田善朗研究主幹は今年5月末に日本の蓄電池システム付き住宅用太陽光発電の自立化への試算をした。家庭向けの蓄電池はリチウムイオン電池が主流であることから、蓄電池=リチウムイオン電池を指す。

 

 分析結果では、出力3~5キロワットの住宅用太陽光発電と容量5~14キロワット時の蓄電池を合わせた現状の安定化発電コストは60~80円/キロワット時となり、家庭用電気料金単価の目安である25円/キロワット時に遠く及ばない。しかも日本の現行の住宅用太陽光発電価格は、欧州の2倍近くする。

 

 しかし柴田研究主幹は「今後、太陽光の発電コストが国際価格水準並みに下がり、かつ長寿命化し、蓄電池システムも大量生産により価格が下がっていけば、日本でも自立化は達成できる」という。

 経済産業省もエネルギー経済研究所や三菱総合研究所などのシンクタンクと協力して、自立化への具体的な道筋を立てている。

 三菱総合研究所の調査によれば日本で発売されている家庭用蓄電池のシステム全体の1キロワット時当たりの容量能力における2015年度平均製造コストは22・1万円だ。

 

 容量10キロワット時の蓄電池システムならば221万円の価格になる。1キロワット時当たり蓄電池製造コストは、10年程度約6000回充放電する能力を指す。経産省は、22・1万円から20年度には6割減となる9万円まで下げることを目指している。

 

 22・1万円という値は蓄電池本体以外にも容器代などさまざまなコストを上乗せしていることもあるのだが、明らかに高コストだ。中国や韓国の蓄電池メーカーのコストと比べると3割程度高くなっているという。

 

 なぜ、日本の家庭用蓄電池システムは高いのか。

 

 三菱総合研究所環境・エネルギー事業本部の長谷川功・主任研究員は「日本のメーカーは工場への設備投資など先行投資した費用を数万台の販売で回収できるよう、固定費回収コストを高めにした価格にしている。一方中国や韓国などの海外メーカーは、日本メーカーとは桁違いの数百万台の販売により固定費を回収できればよい、という考えで低い価格設定にしている」と分析する。つまり日本のメーカーは、家庭用蓄電池市場がどの程度成長するのか、まだ判断できかねないために、極力設備投資を少ない台数で早期に回収できるようにしているから、高コスト構造なのだ。

 

 ◇EV大量導入は追い風

 

 海外メーカーは世界中で売り込んでいく戦略に基づいて設備投資している。例えば米電気自動車(EV)メーカー、テスラモーターズの蓄電池工場。テスラは今年1月に世界最大のリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」を稼働した。テスラのギガファクトリー投資総額は6000億円規模。これくらいの大きさだからこそ、1キロワット時当たりの容量能力における製造コストを5万円以下と、大幅に下げることができるのだ。

 

 日本メーカーは世界戦略において後れをとっているのが現状だ。しかもリチウムイオン電池の主材料であるリチウムは近年の需要急拡大から投資の対象になりつつある。投機的な資金が流入することにより相場が高騰することもあることから、安定して確保していくための戦略も不可欠だ。

 

 ただ、注意しなければならないのは家庭用蓄電池の主役であるリチウムイオン電池は、太陽電池パネルのようなコモディティー(国際商品)にはならないだろうといわれていることだ。蓄電池ベンチャー企業エリーパワーの小田佳取締役は「太陽電池は設備投資により製造ラインさえ整えればどのような新規参入企業でも生産できる。しかし蓄電池は太陽電池と違い、製品の安全性の問題がつきまとう。メーカーの組み立て技術の結晶として、安全性能が左右されるため、コモディティーとは一線を画す」と指摘する。

 

 世界をみると、蓄電池コスト低減に追い風が吹いている。欧米で、環境対応車としてEVの本格普及の期待が高まっているからだ。英国とフランスは2040年にガソリン・ディーゼル車の販売を禁止にする。米国のカリフォルニア州を中心とする数州は、州内で一定台数以上自動車を販売するメーカーは、その販売台数の一定比率について排出ガスを一切出さないEVか燃料電池自動車にしなければならないZEV規制を18年度から実施する。日本でも充電ステーションは2万8000カ所あり、充電インフラが普及しはじめたEVは環境対応車の本命だ。

 

 EVには16~30キロワット時の大型リチウムイオン電池が搭載されている。大量生産されればEV搭載のリチウムイオン電池のコストは下がる。電池セルは家庭用蓄電池に流用でき、相乗効果として家庭用蓄電池システムのコスト低減を期待できる。

 

 しかもEVに搭載された蓄電池そのものから住宅へ電気を供給するV2H(Vehicle to Home:自動車から家庭へ給電)として利用することで、住宅用太陽光発電と組み合わせることができる。

 

 日本でも住宅用太陽光発電と蓄電池を組み合わせた発電コストが家庭用の電気料金を下回る時代は着実に近づいている。

(*週刊エコノミスト2017年9月19日号掲載)

特集:卒母バンザイ 2017年9月26日号

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(c)西原理恵子「毎日かあさん」
(c)西原理恵子「毎日かあさん」

卒母バンザイ 男捨離の時代

 

◇子どもから卒業する覚悟を

◇人生100年時代の生き方

 

 西原理恵子さんが『毎日新聞』で15年間連載した漫画「毎日かあさん」は6月、「卒母(そつはは)」して終了した。西原さんが提案した新しい家族のかたちは、母だけでなく父にも社会にも新たな可能性を生み出す。

 

 今年の春、息子が大学に入学し、娘も16歳で自分の道を歩き出したため、母親卒業を決めた西原理恵子さん(52)。終わるという意味を持つ「卒」と母親は、一見結びつかないが、母と子という家族の関係を絶つわけではない。卒母は、自立した子への干渉はせず、女性としての「第二の人生」を送るという宣言だ。

 

 親が子に対して願うのは、将来、自立して生きていくことだ。子の素質は千差万別だが、それを花開かせて、社会に居場所を見つけられる大人になるように送り出せれば十分だ。それができれば、本来は子育てから「卒業」して自由になれるのだ。

 

 しかし、子離れできない親もいる。

 

 どこで道を誤ったのか──。長男(28)の発言に、母親(58)はがく然とした。

 

 東京都内で夫婦共働き。長男が1歳になったのを機に職場復帰し、保育園には夫婦協力して送り迎えした。自分の子を「弱い」と見て、進路に苦労しないようにと、中学校で大学までエスカレーターの私立に入れた。就職先は大学の紹介を受けて、「これで一安心」と思った半年後のことだ。突然、長男が切り出した。

 

「お母さん、仕事を辞めたい。ぼくのやりたいことではなかった」。紹介された仕事では満足できなかったのだろう。母親は「あなたの人生だから、やりたい仕事が見つかるまで、じっくり考えればいい」と背中を押した。しかし、長男の答えは予想しないものだった。「お母さん、違うんだよ。ぼくは『仕事』がやりたくないんだよ。これまでがんばってこなかったから、競争は向いていないんだ」。あれこれ手を掛けてきたのは、「わが子のため」と信じてきたが、最も恐れていたニートになった。

 

 日本では子育てに対し、3歳までは母親が常にそばにいるのがよいとする「3歳児神話」や、母は子のために無限の愛を注いで当然で、自己犠牲をいとわないという「母性愛神話」が無言の圧力になり、世話を焼きすぎてしまう。

 

 この母親も、フルタイムで働きながら、離乳食や早朝に起きて弁当を手作りしてきた。学校や習い事にも送り迎えし、あれこれと手を掛けてきた自負がある。しかし今、「子どもの世話を焼くのはただの自己満足で、本当に必要なのは自立を促すことではないか」と気づいた。

 

 

毎日かあさん14 卒母編 49ページ (c)西原理恵子
毎日かあさん14 卒母編 49ページ (c)西原理恵子

 

◇固定観念に縛られない

 

 夫婦共働きが一般的になり、働きながら育児をする「毎日かあさん」は、働く女性から大きな共感を集めた。西原さんの卒母宣言を受け、『毎日新聞』が意見や体験談を募集した「卒母のススメ」には、読者から多くの賛同が寄せられている。

 

「母親を卒業し、自分の子どもだけでなく他の若者からも『かっこいい』と思ってもらえる大人を目指したい」

 

「子が成長するのは遅い。時間がかかる。そんなに長い間、やりたいことを我慢する『お預け状態』が続くなんて嫌だ」

 

「仕事が忙しくマックの夕食だった夜、お弁当屋でから揚げ弁当を食べさせた夜。夜中に『こんなんでいいのか』と涙しました。今、子どもたちが『マックやから揚げ弁当の時は、めっちゃうれしかった』と話しているのを聞いて、『そんなもんなんだ』と反省していた頃の自分に教えてあげたいと思いました」

 

 子どもから、母の子離れを求める意見もあった。

 

「無力・無能扱いされているように感じる。実際に何もできないかもしれないけれど、手を出されると、さらにできなくなってしまう。自分がどの程度なのか見極めないといけないのに」

 

 一方で、卒母に対する懸念の声もあり、特に高齢女性からは、反対意見が目立った。

 

「母は一生続くもの。卒母なんて無責任だ」

 

「子供たちの気持ちも確認しないで勝手に卒母宣言しても、それは『中退母』でしかないと思うのです」

 

 女性の働き方が変わりつつあることに伴い、社会が求める母親像や母子関係も大きく変わる。学校や、会社の「卒業」は、年齢で区切られて自動的に送り出される。しかし子育てに区切りはない。母親には子離れをする覚悟が求められるのだ。

 

 卒母は、社会の常識を変え、人生100年時代に新たな生き方を提案する可能性を秘めている。子育てを終えた母親には楽しい卒母ライフが待っている。さあ、卒母しよう。

 

 

(編集部)

特集「卒母バンザイ 男捨離の時代」の他の記事

インタビュー 西原理恵子さん 漫画「毎日かあさん」作者 「おばさんの楽しさ伝えたい」

企業にとっても戦力 対人スキル生きる営業職 ■編集部

インタビュー 薄井シンシアさん 五つ星ホテルディレクター 専業主婦から管理職へ

消費の起爆剤に 人とのつながりが需要を生む ■編集部

株式投資 恩恵受ける企業 ■越智 直樹

社会の変化が“卒業”を生む 意識や働き方の改革も必要 ■池本 美香

インタビュー 信田さよ子さん 家族関係のカウンセラー 寂しさに母は耐えなければならない

男捨離から身を守る

ぬれ落ち葉にならないために ■樋口 恵子

居場所を失う男たち 夫、父として己と向き合え ■奥田 祥子

インタビュー 清水アキラさん ものまね芸人 「卒婚」で深まる夫婦愛

週刊エコノミスト 2017年9月26日号

発売日:2017年9月19日

定価:620円


週刊エコノミスト 2017年9月26日号

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発売日:9月19日

定価:620円

 

卒母バンザイ 男捨離の時代

 

 

◇子どもから卒業する覚悟を

◇人生100年時代の生き方

 

 

西原理恵子さんが『毎日新聞』で15年間連載した漫画「毎日かあさん」は6月、「卒母」して終了した。西原さんが提案した新しい家族のかたちは、母だけでなく父にも社会にも新たな可能性を生み出す。

 

 今年の春、息子が大学に入学し、娘も16歳で自分の道を歩き出したため、母親卒業を決めた西原理恵子さん(52)。終わるという意味を持つ「卒」と母親は、一見結びつかないが、母と子という家族の関係を絶つわけではない。卒母は、自立した子への干渉はせず、女性としての「第二の人生」を送るという宣言だ。続きを読む


目次:2017年9月26日号

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CONTENTS

 

卒母(そつはは)バンザイ 男捨離の時代

18 子どもから卒業する覚悟を 人生100年時代の生き方 ■編集部

20 インタビュー 西原理恵子さん 漫画「毎日かあさん」作者 「おばさんの楽しさ伝えたい」

22 企業にとっても戦力 対人スキル生きる営業職 ■編集部

24 インタビュー 薄井シンシアさん 五つ星ホテルディレクター 専業主婦から管理職へ

26 消費の起爆剤に 人とのつながりが需要を生む ■編集部

28 株式投資 恩恵受ける企業 ■越智 直樹

30 社会の変化が“卒業”を生む 意識や働き方の改革も必要 ■池本 美香

32 インタビュー 信田さよ子さん 家族関係のカウンセラー 寂しさに母は耐えなければならない

男捨離から身を守る

34 ぬれ落ち葉にならないために ■樋口 恵子

36 居場所を失う男たち 夫、父として己と向き合え ■奥田 祥子

38 インタビュー 清水アキラさん ものまね芸人 「卒婚」で深まる夫婦愛

 

Flash!

11 フィッシャーFRB副議長が電撃退任/日産新型リーフ販売は苦戦も/ドイツ総選挙はメルケル首相優位/長野で初の再生エネ国際会議

15 ひと&こと 任天堂スイッチに特許侵害の訴え/第一三共買収報道に視線冷ややか/衆院補選の泉田前知事擁立で混乱

 

Interview

4 2017年の経営者 佐々木 大輔 freee社長

46 問答有用 廣道 純 車いすプロランナー

  「東京パラに出て、障害者スポーツの環境を改革」

 

エコノミストリポート

86 独禁法施行70年 課徴金強化狙う公取委 裁量型に不信募らす企業 ■雨宮 慶

 

40 企業統治 東証が相談役制度の開示促す ■山口 利昭

78 リニア 南アルプスの「水枯れ」恐れる沿線住民■樫田 秀樹/稲場 紀久雄

80 温暖化 世界各地で増える異常気象 ■北沢 栄

82 電力 自由化1年半で撤退する業者も ■南野 彰

84 鉄道 東京メトロ上場はこう着状態 ■梅原 淳

 

World Watch

62 ワシントンDC 債務上限引き上げ問題 ■今村 卓

63 中国視窓 愛国主義的映画がヒット ■岸田 英明

64 N.Y./カリフォルニア/英国

65 オーストラリア/インド/フィリピン

66 広州/ロシア/エジプト

67 論壇・論調 離脱後も自由貿易求める英国 ■増谷 栄一

 

Viewpoint

3 闘論席 ■池谷 裕二

17 グローバルマネー 日銀の次期総裁人事は選考過程の開示を

42 名門高校の校風と人脈(257) 小林高校(宮崎県) ■猪熊 建夫

44 海外企業を買う(157) ロイヤル・フィリップス ■永井 知美

50 言言語語

68 アディオスジャパン(69) ■真山 仁

70 東奔政走 北朝鮮と向き合う「憂鬱な秋」 ■平田 崇浩

72 福島後の未来をつくる(55) 電力の地産地消が地域を活性化 ■青山 英明

74 学者が斬る 視点争点 自治体間でこれだけ違う公共施設 ■吉弘 憲介

89 商社の深層(84) 福岡空港民営化に3商社が名乗り ■編集部

96 景気観測 個人消費は先行き堅調 ■枩村 秀樹

98 ネットメディアの視点 ネットを閉じる中国の「防火長城」 ■土屋 直也

100 アートな時間 映画 [エルネスト]

101        クラシック [フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ]

102 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ government shutdown ”

 

Market

90 向こう2週間の材料/今週のポイント

91 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット

92 ブラジル株/為替/穀物/長期金利

93 マーケット指標

94 経済データ

 

書評

56 『偽りの経済政策』

  『歴史の逆襲』

58 話題の本/週間ランキング

59 読書日記 ■楊 逸 

60 歴史書の棚/海外出版事情 中国

 

55 次号予告/編集後記

日本の中小企業を強くする 佐々木大輔 freee(フリー)社長

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Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 設立5年で従業員が約350人と急成長中です。そもそもフリーはどんな会社ですか。

 

佐々木 中小企業のバックオフィス(間接部門)業務を、クラウド(インターネット上)で自動化するソフトウエアを提供しています。特に、経理と人事労務の二つに注力しています。経理の業務は、5分の1から50分の1に軽減できます。

 

── どう軽減するのですか。

 

佐々木 当社が提供するクラウド会計ソフトは、クレジットカードの利用明細やインターネット銀行の明細などから必要事項を抽出して、人工知能(AI)を使って自動で会計帳簿を作ることができます。例えば、明細に「ソフトバンク」とあれば「通信費」に、居酒屋の名前なら「交際費」などに自動で分類できます。他にも、飲食店であれば自社の売り上げデータを連携させることもできます。

 請求書の管理もできます。発行だけでなく、入金まで追って管理ができたり、受け取った請求書の入金について期日までに自動で支払うこともできます。

 使う企業にとっては、気がついたら帳簿ができている仕組みで、いつでも経営が見える化ができます。

 

── 顧客は何社ありますか。

 

佐々木 個人事業主を含めて80万事業者が使っています。料金は、個人事業主向けの確定申告を簡単にするサービスは月980円(税抜き)から、会社向けの会計ソフトは月1980円(税抜き)からなどのプランがあります。500~1000人規模の企業でも使えるようにしています。

 

── なぜ急拡大できたのですか。

 

佐々木 口コミが大きかったです。最初は、個人事業主や小規模法人を中心に広がりました。インターネットで当社のサービスを見つけてくれ、拡大の原動力となりました。

 我々がクラウド会計ソフトを開発した当初の会計業界は、新規参入者はおらず約30年間変わっていない業界でした。ですが、クラウド会計ソフトを実際に作ってみると、世の中の人に受け入れられました。これが僕たちの原点になっています。

 

 ◇グーグルで学んだこと

 

── なぜ会計業界で起業したのですか。

 

佐々木 以前ベンチャー企業でCFO(最高財務責任者)を経験して、手入力が必要なことが多く、すごく非効率でした。それを問題意識として持っていて、その解決方法もイメージしていました。このサービスで従来の経理業務が50分の1にできるのを自分自身で感じていました。

 経理はあらゆるビジネスで必要な部門です。これをインターネットで誰でも簡単にできるという時代を作れると思いました。

 

── グーグル日本法人での経験はどう生きていますか。

 

佐々木 28歳でグーグルに転職し、中小企業にインターネット広告を広げる活動をしていました。ある会合で、グーグル本社の幹部が「会社は運動(ムーブメント)だ」と言っていたことには、とても感銘を受けました。それまでの日本企業の価値観にありそうでなかった考え方で、これを実践する企業を日本でも作れたらと思いました。そうした感覚を覚えられたのが大きかったです。

 

 フリーは未上場の企業だが、ベンチャーキャピタルの米DCM、リクルートホールディングス、未来創生ファンド(トヨタ自動車と三井住友銀行が出資)などが出資する。投資家が評価する時価総額は、すでに400億円を超えるとも言われる。一方、クラウド会計ソフト市場を見ると、フリーは40%近いシェアを持つ。それを「弥生会計」の弥生や、9月29日に上場予定のベンチャー企業・マネーフォワードが追い、競争は激しい。

 

 ◇銀行融資を簡単に

 

── 銀行や信用組合などと業務提携を進めています。狙いは。

 

佐々木 合計20の金融機関と提携しています。いずれは当社のサービスのなかで融資を完結できるような世界を目指しています。

 当社のユーザー(顧客)にとっては、より良い条件で融資を受けられ、提出する書類も減らすことができます。その一方で、金融機関にとっては審査にかける時間が減り、融資先の経営に関わる助言にもっと時間をかけることができます。

 

── 銀行の審査部が必要ない時代が来るのでしょうか。

 

佐々木 そういう時代が来るかもしれません。企業の資金繰りは、過去の経営データを基にするので、自動化されるのではないでしょうか。

 

── 今後、フリーが目指す世界は。

 

佐々木 日本の中小企業を世界的に見ても競争力のあるものにしていかなくてはいけません。従業員全員が英語を話すという意味ではなく、ビジネスの仕方や生産性の面で世界のレベルについていくということです。中小企業の方が、よりスマートで、強い会社になれる仕組みを提供し、そうした中小企業のプラットフォーム(土台)になっていきます。

 

── 上場の予定は。

 

佐々木 今年から手続きを始めましたが、いつかは言えません。ただ、当社は米国系のベンチャーキャピタルからも出資を受けているため、早期の上場は必要ありません。

 未上場の期間をうまく利用して、盤石なビジネス基盤を作っていかないといけないと思っています。良い例になって道を広げて、自分で流れを変えていきたいです。

(構成=谷口健・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 広告代理店、投資ファンド、ベンチャー企業と転職していました。28歳でグーグル日本法人に入りました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 米国人作家のパトリック・レンシオーニ氏の『あなたのチームは、機能してますか?』(翔泳社)です。読みやすく書かれた本で、社内での課題図書にしています。

 

Q 休日の過ごし方

A 走ったり、子供と遊んだりしています。

………………………………………………………………………………………………………

 ◇ささき・だいすけ

 1980年生まれ。開成高校、一橋大学商学部卒。博報堂や投資ファンドを経て、IT企業のALBERTで執行役員兼CFO(最高財務責任者)。その後、グーグル日本法人で中小企業向けマーケティングに従事。2012年7月、フリーを設立。37歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:クラウド会計ソフト、クラウド給与管理ソフトなどの開発・運営

本社所在地:東京都品川区

設立:2012年7月

資本金:96億円(資本準備金含む)

従業員数:約350人

業績

 売上高:非公表

第55回 福島後の未来:電力の地産地消が地域を活性化 事業ノウハウのシェアがカギ=青山英明

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あおやま・ひであき  1977年福島県郡山市生まれ。2002年北海道大学大学院農学研究科卒業。同年、荏原に入社。コンサルティング会社を経て2014年一般社団法人ローカルグッド創成支援機構を創設し、現在、事務局長。2016年からまち未来製作所代表。
あおやま・ひであき  1977年福島県郡山市生まれ。2002年北海道大学大学院農学研究科卒業。同年、荏原に入社。コンサルティング会社を経て2014年一般社団法人ローカルグッド創成支援機構を創設し、現在、事務局長。2016年からまち未来製作所代表。

青山英明(ローカルグッド創成支援機構事務局長、まち未来製作所代表)

 

 衰退する地域が特色を持って自活していくためには、地域の天然資源を活用する、地域に根差したローカルビジネスの創成が効果的だと考えている。現在、自治体や民間事業者がこれと同じような考えを持ち、地域資源を活用して電力小売り事業などを手掛ける「地域エネルギー会社」を立ち上げる動きが活発化している。

 

 

 このようなローカルビジネスを手掛ける事業者のことを、電気や公共交通などのサービスを提供するドイツの都市公社「シュタットベルケ」になぞらえ、「日本版シュタットベルケ」と呼ぶ向きもある。

 

 ローカルグッド創成支援機構は2014年9月3日に「ローカルのグッド=地域に魅力ある強いビジネス」を創成・支援するために立ち上げた一般社団法人である。ローカルビジネスの創成パッケージの一つとして、地域が主体となり、地域エネルギー会社を立ち上げるのを支援する「地域新電力インキュベーション(起業家や新事業の育成)プログラム」を開発し、正会員となった企業向けに提供している。

 

 現在の正会員企業は、鳥取県米子市や地元ケーブルテレビなどが出資するローカルエナジー、宮城県東松島市などで構成される東松島みらいとし機構、福島県でLPガス販売を手掛ける須賀川ガス、秋田県湯沢市で電力販売を行っているローカルでんき、横浜市水道局100%出資の横浜ウォーターなど7社。このほか、清水建設、国際航業、荏原環境プラントなどが賛助会員となっている。

 

 正会員企業は、小売電気事業者に登録し、各地で電力販売を手掛けている。各社の販売電力量を合計すると、小売電気事業者の中で50位以内に入る量となっている。

 

 各社は地域にある再生可能エネルギー電源などを活用し、地産地消型の電力販売を手掛けている。それにより、少なくとも年間約26億円の資金が地域で循環し、地域の活性化にもつながり始めている。

 

 ◇ノウハウを共有し統合へ

 

 地域密着型のローカルビジネスは、顧客と電源の調達先を「地域」に求めることが多いため、事業拡大には限界がある。また、一般的に大都市圏から物理的に遠い場所で事業を行うため、サービス品質などが大都市圏に拠点を持つ大手企業と比較して劣後しやすい。こうした課題を克服し、競争力の高いローカルビジネスを創出するため、当法人は、(1)シェア、(2)オープン、(3)DIT(Do It Together=みなで一緒に行う)という三つのポリシーを掲げながら、各種の支援に取り組んでいる。コストや専門技能を分かち合い、情報を共有し、一体となって行動するものだ。

 

 

 一つ目のポリシーがシェアだ。商いの量が大きい企業は長期にわたり、大ロットで調達を行い、原価率を下げることができる。コストに対する固定費率も小さくなるので、競争力を高められる。一方、ローカルビジネスは、事業エリアが限定されることから、個々の商いを大きくするのは容易ではない。そこで当法人はローカルビジネスに取り組む事業者が、事業に必要なシステムやサービスなどをシェアすることで、競争力を高める仕組みを取り入れた。

 

 具体的には、正会員企業が、電力小売事業を行うのに必要な需給管理システム、顧客管理システム、エネルギー専門の弁護士などをシェアできる体制を整えた。また、電力を共同で購入したり、会員同士が電力融通を行うプライベートマーケットの設置といった取り組みも実施している。

 

 二つ目がオープンだ。正会員となった事業者同士は、自らの地域で優先してビジネスを行うため、競合する可能性は低い。そのため、それぞれが持つ有用な事業ノウハウをオープンにしながら、共存共栄することが可能だ。地域エネルギー会社の立ち上げに大きな壁となるのは、電力の需給管理などといった日々のオペレーションに関する専門ノウハウである。これらは電力事業に関わる一部の人のみが知る「ブラックボックス」となっていることから、ノウハウがない場合、業務を委託することになる。しかし、それでは、多額の費用が域外に流出してしまう。

 

 そこで当法人は、各社が持つ専門ノウハウを、他の正会員に対してのみ無料で「トレーニング」という形でオープン化することにした。当法人の会員である地域エネルギー会社は、全社、このトレーニングを実施し、電力の需給調整などのノウハウを獲得している。

 

 トレーニングを受けるのは、なにも電気の専門家である必要はない。例えば、売り上げ規模が10億円程度の電力事業には、1日に数万キロワット程度の電力契約をオペレートする必要があるが、正会員の中には、こうした業務を、地域に住む主婦や若者などが担当しているケースがある。業務委託するのではなく、内製化することによって、雇用創出にもつなげることができる。

 

 三つ目のポリシーがDITである。電気事業を行っていくうえでは、制度の変更や、市場の変化に対応していく必要がある。これらに対し、各企業が相互に助け合う体制を構築している。地域新電力の規模は小さく、全社が連携しても大手新電力に及ばない。このような事実認識の下で、会員各社が日々、地域の特性を使って競争力を磨いている。

 

 事業の強さは事業規模だけではないが、ある程度の大きさは必要と考えている。今後は、会員である地域エネルギー会社の増加と各会員の事業規模拡大、そして共通ビジョンを有する外部団体とコラボレーションし、業界の10位以内を目指し、大手に負けないサービス力を整備していく予定だ。

 

 ◇福島県で事業検討

 

 当法人は、福島県で地域資源を活用した地域エネルギー会社の構築に向け、行政や地元企業、当法人の会員企業とともに取り組んでいる。

 

 福島県は東日本大震災で被災した多くの地域の中で、もっとも大きな葛藤にさいなまれている地域だ。甚大な被害を受けた多くの地域が、未来に向けて復興を進めている中、福島はいまだ帰還困難区域や居住制限区域を抱えている。たくさんの人々が職場である農地を失い、帰還を実現するための受け皿となる職場やインフラもない状況だ。

 

 一方、逆に新たにビジネスを立ち上げる想定をしても、風評や需要の問題、雇用の問題が立ちはだかる。事業立ち上げハードルは他の衰退地域よりも高いと言わざるを得ない。

 

 そうした中、乱立しているのが「再エネ発電事業」だ。人手が不要で、安定的な収益が見込め、さらに福島のビジョンにも適合していることが背景にある。しかし、その多くは、大手企業が中心となって土地を借り、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を活用して売電するものだ。これでは域内への恩恵は少ないと言えるだろう。

 

 福島で、地域がつくった電気を地域に届けるエネルギー会社を立ち上げることができれば、お金や人、二酸化炭素(CO2)削減も含めた「価値」が地域内で循環し、活性化に役立てることができる。再エネ発電所が活況な今こそ、売電するだけでなく、つくった電気を小売りする仕組みを構築していくことが重要だろう。

 

「ローカルのグッド」は、地域によって異なる。これは地域ごとの課題や歴史が千差万別であり、優先度が異なるためだ。また、行政や地域企業も地域色豊かであり、一言に言い表せない。これらの多様性を大事にし、個々の地域がのびのびと事業に注力できる環境づくりを支援していきたい。

*週刊エコノミスト2017年9月26日号掲載


国内シェア50%の燃料油基盤に世界へ 内田幸雄 JXTGホールディングス社長

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内田幸雄 JXTGホールディングス社長
内田幸雄 JXTGホールディングス社長

◇Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── JXTGホールディングス(HD)はどんな会社ですか。

 

内田 JXHDと、東燃ゼネラル石油が今年4月に経営統合しました。石油業界の地殻変動に対応しようと模索を続けて実現した統合です。

 

 原油を輸入して精製し、ガソリンや軽油などの製品を販売する石油元売り会社は、1970年代には15社ほどありました。2度の石油危機や、規制緩和による競争激化、燃料油が90年代半ばから後半をピークに国内の需要が落ち始めたことなど、たびたび再編の圧力が高まりました。

 

 大きな転機となったのは、99年のエクソンとモービルの合併です。メジャーの2社の合併は誰も予想しませんでしたが、そのくらいの出来事が石油業界には起きていました。2000年代にも1バレル=100ドル台が続いた原油価格の高騰、エクソンモービルなどメジャーの撤退と、次々に経営に直結する問題が起き、各社は対応に追われてきました。石油元売り会社は集約され、現在は4グループになっています。

 

 JXHDは、日本石油、三菱石油、日本鉱業、共同石油の4社が前身。東燃ゼネラル石油は、東燃、ゼネラル石油、モービル石油、エッソ石油が前身だ。

 

 今回、元売りトップのJXHDと、3位の東燃ゼネラル石油の統合で、国内の燃料油販売シェア50%になりました。(メジャーが本拠を置く)EU(欧州連合)で、主要2カ国をどのように組み合わせても、日本の総需要より大きくはなりません。計算上は、英国全体を当社が扱っているようなものです。私の口から「最終形態」とは言いにくいですが、これ以上の統合は難しいのではないでしょうか。

 

── 力を入れている事業は。

 

内田 中核事業3社体制です。主力はJXTGエネルギーで、石油製品を精製し、燃料油から、ペットボトルや合成繊維の原料となるパラキシレン、プロピレンといった石油化学製品の製造、販売まで、幅広く手がけています。今後、燃やさずに石油をどう使うかがますます重要になります。新興国の生活水準が上がればプラスチックなどの需要が増えることになるため、石油化学は確実に伸ばしていかなければならない分野です。

 

 JX石油開発は、石油、天然ガスの探鉱を行っています。地球の資源に付加価値を生み出す事業です。ポートフォリオではなく、事業としている会社では国内三指に入ります。

 

 JX金属は、銅を中心とした非鉄金属のサプライチェーン全体を手掛けています。チリのカセロネス鉱山は、日本企業の100%出資です。精錬から電材加工まで手がけ、みなさんが使っている電子部品には、ほぼ当社の製品が入っていると思います。IoT(モノのインターネット化)は大きなビジネスチャンスですが、今は生産能力を目いっぱい使っても、需要に応えきれていません。まずは生産体制を整えることが喫緊の課題です。

 

 統合で「エッソ」「モービル」「ゼネラル」を含めて四つになったガソリンスタンドのブランドを、19年度中を目標に「ENEOS(エネオス)」に統一することを発表した。

 

── ブランド戦略をどう考えていますか。

 

内田 四つのブランドのガソリンスタンドは全国に計約1万4000店あります。消費者とつながる大切な存在で、一つの会社として認知してもらえるようにすることが重要です。

 

── 統合による具体的な目標は。

 

内田 「アジア有数の総合エネルギー・資源・素材企業グループ」です。そのためには、収益力をどう上げるかに懸かっています。エネルギーは国内で圧倒的な地位になりましたから、それを生かして海外に進出できる経営基盤を作るのが私の役割です。

 17~19年度の中期経営計画で、20年3月期に連結営業利益5000億円を掲げました。製造業で国内を主戦場にしている企業で、5000億円の利益を上げられる会社はなかなかありません。当社はその潜在能力があると思っています。

 

 ◇EV普及はチャンス

 

── 世界で電気自動車(EV)へのシフトが急速に進んでいます。

 

内田 現在、国内に自動車は9000万台登録されています。電気、水素など石油以外を動力にしているのは20万台ほどです。EVがどの程度普及するか、予測はできません。エネルギー業界は社会のインフラで、最初に大きな投資をしますが、企業としては回収しなければならない。どのタイミングで投資するのが適切か、見極めなければいけません。

 いずれにしてもEVが増えるのは間違いない。「増える電気需要をどうまかなうか」ということになり、総合エネルギー企業としての腕の見せどころです。これまで石油業界は、経済規模の発展に伴って成長してきました。今後は技術や社会の変革に合った発展を目指さなければいけません。

 

── 野球部、バスケットボール部を持っています。企業スポーツの意義をどう考えていますか。

 

内田 従業員の一体感の醸成です。いずれも強豪で、活躍は特約店でも話題になり、多くの関係者の融和に大きく貢献してくれています。

 ルールを守って勝つのがスポーツです。企業も法令順守意識を持って、業績で勝ちたい。最終的には利益を上げることが、統合会社の融和にとっても最も重要で、私の大きな使命です。

(構成=酒井雅浩・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 入社は石油危機の1973年。30代は80年代と重なります。規制緩和、湾岸危機と荒波の中で原油の調達を担当し、原油ほどコストと価格の乖離(かいり)が激しいものはないと痛感しました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A パラダイムシフトが起きていることを実感できる本です。大栗博司氏の宇宙論が好きです。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 10分でも、会社のことを何も考えないことでストレス解消をしています。桂枝雀の落語は、突き抜けたばかばかしさが気分転換にもってこいです。

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 ◇うちだ・ゆきお

 1951年生まれ。福井県出身。福井県立高志高校、京都大学法学部卒業。73年日本鉱業入社。2010年JX日鉱日石エネルギー取締役、15年JXホールディングス社長などを経て、17年4月のJXTGホールディングス発足に伴い社長。66歳。

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事業内容:エネルギー事業、石油・天然ガス開発事業、金属事業など

本社所在地:東京都千代田区

設立:2010年4月

資本金:1000億円

従業員数:2万6247人(17年3月31日現在・連結)

業績(17年3月期・連結)

 売上高:8兆1360億円

 営業利益:2984億円

 (注)従業員数、業績は旧JXホールディングスの数字

 

目次:2017年10月3日号

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伸びる終活ビジネス

22 異業種参入で拡大する市場 旧来業者も新サービス提供 ■松本 惇

25 人気の海洋散骨 年間で1万件近い実施 ■塚本 優

  散骨のルール・マナー

26 対談 小谷 みどり 第一生命経済研究所主席研究員 × 藤森 克彦 みずほ情報総研主席研究員

  「福祉の対象でない死後は『社会化』が進まない」 「死の前後の問題に総合的に対応できる制度を」

30 長野県上田発 日本初のドライブスルー型葬儀場 ■横山 渉

31 遺体安置所としての「冷柩庫」 家族の寄り添いたい需要に応える

32 注目! ネット仲介3社 鎌倉新書/ユニクエスト・オンライン/みんれび ■向山 勇/松本 惇

34 変わる葬儀業界 専門社、互助会、JAに新興勢力 ■福田 充

36 増える「看取り」 連携する葬儀社と高齢者施設 ■塚本 優

37 多死社会の到来でも 進む葬儀業の休廃業・解散 ■友田 信男

38 終活関連上場11社の財務分析 直近決算で増収9社、増益7社 ■増沢 貞昌

40 金融機関も終活に注目 信託商品は高齢者の生活支援も融合 生保で人気の「トンチン年金」 ■深野 康彦

41 地銀は預金の移転対策 ネット支店で高金利付与

42 ホテルのジレンマ 「お別れ会」ビジネスが本格化 ■山下 裕乃

 

43 FRB ウーバー、アマゾンはFRBの心強い「味方」 ■松田 遼

45   ガバナンス不在のウーバー 新CEOは再建できるか

76 都市ガス ガス自由化で台頭する関電 東電と提携のニチガスも躍進 ■塩田 英俊

78 航空 スリム化で業績改善のスカイマーク 新機材発注も路線拡大には課題 ■鳥海 高太朗

 

Flash!

15 解散・総選挙に寺島実郎が緊急提言「安倍政権に対抗する新機軸『日本版オリーブの木』の結成を」/中国3取引所が閉鎖「仮想通貨の終わりの始まり」/観光需要増の京都・大阪、オフィス堅調な名古屋で基準地価上昇/スペインの深い亀裂「カタルーニャ独立問題」

19 ひと&こと 浜田宏一氏のタカ派発言、CD「平和の鳩」に複雑/タカタの破綻とEVシフト、自動車業界の蜜月に「溝」/「離党ドミノ」に衆院解散、民進・前原代表早くも正念場

 

Interview

4 2017年の経営者 内田 幸雄 JXTGホールディングス社長

52 問答有用 武内 彰 東京都立日比谷高校校長 「公立でも夢や希望をかなえられる学校に」

 

ザ討論

83 PART 1 賃金・物価・米国景気

84 (1)賃金は上がるか  上がる ■嶋津 洋樹 上がらない ■湯元 健治

86 (2)日銀は2%物価目標を達成できるか できる ■嶋中 雄二 できない ■吉川 洋

88 (3)米国景気の拡大は続くか 続く ■渡辺 浩志 続かない ■重見 吉徳

90 2017年度下期注目イベント 主要国の金融政策と日米中銀トップ人事 ■小玉 祐一

91 PART 2 ドル円・日本株・原油

92 (4)ドル・円市場の行方は 円高 ■内田 稔 円安 ■鈴木 健吾

94 (5)どうなる? 日本株 上昇 ■広木 隆 下落 ■黒岩 泰

96 (6)原油価格はどう動く 上昇 ■江守 哲 下落 ■藤 和彦

 

エコノミストリポート

98 中国では取引全面停止に 企業が仮想通貨を発行する「ICO」 IPOと似て非なる新・資金調達法 ■志波 和幸

 

World Watch

70 ワシントンDC 80年来の歴史 スクールバス 新たな課題、進む見直し ■安井 真紀

71 中国視窓 浮上した王岐山引退説 外交実績出せず不透明 ■金子 秀敏

72 N.Y./カリフォルニア/ドイツ

73 韓国/インド/ミャンマー

74 香港/ペルー/ナイジェリア

75 論壇・論調 独のディーゼル車乗り入れ禁止判決 健康より自動車産業守る政府に批判 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■片山 杜秀

21 グローバルマネー 共和党内の対立で自滅するトランプ政権

46 名門高校の校風と人脈(258) 一関第一高校(岩手県) ■猪熊 建夫

48 海外企業を買う(158) レンディングクラブ ■小田切 尚登

50 アディオスジャパン(70) ■真山 仁

56 学者が斬る 視点争点 「G型」「L型」の大学分けに反対 ■江頭 進

58 言言語語

80 東奔政走 「米朝開戦は回避」と見て決断か 9.28解散と核政策 ■山田 孝男

108 景気観測 米国のインフレ率と金利はいずれ上昇 「適温相場」は弱まる ■足立 正道

110 ネットメディアの視点 広く薄くより、一人に愛される 「中身」重視のニュース分類 ■竹下 隆一郎

115 商社の深層(85) JR東日本、海外の鉄道に初参入 三井物産と英国の旅客鉄道を運営 ■編集部

116 アートな時間 映画 [スイス・アーミー・マン]

117        舞台 [肝っ玉おっ母と子供たち]

118 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ yield-curve control ”

 

Market

102 向こう2週間の材料/今週のポイント

103 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■佐々木 大樹/週間マーケット

104 欧州株/為替/原油/長期金利

105 マーケット指標

106 経済データ

 

書評

64 『隷属なき道』『ジハード主義』

66 話題の本/週間ランキング

67 読書日記 ■荻上 チキ

68 歴史書の棚/出版業界事情

 

63 次号予告/編集後記

 

特集:伸びる終活ビジネス 2017年10月3日号

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◇異業種参入で拡大する市場

◇旧来業者も新サービス提供

 

 8月23~25日に東京ビッグサイトで開かれた「エンディング産業展2017」には過去最高の2万5867人が来場するほどの盛況ぶりだった。

 

 ◇読経するペッパー、宇宙葬

 

 プラスチック加工業のニッセイエコ(神奈川県藤沢市)は、ソフトバンクグループの人型ロボット「ペッパー」が読経する「ペッパー導師」を展示し、テレビなど多くのメディアでも取り上げられた。さまざまな宗派の経典を読むことができ、人手不足の寺院や、葬儀を行わない「直葬」で利用したいという葬儀社から問い合わせが相次いでいるという。

 

 同社は比較的IT化が遅れている葬儀業界に着目。昨年から社員の物故者慰霊祭で「受付」を務めていたペッパーを事業に生かせないかとの発想から、経典のデータを事前に取り込み、読経できるようにした。

 

 菩提寺(ぼだいじ)のない人や檀家(だんか)制度にとらわれたくない人なども対象利用者に想定しているが、まずは「副住職」としての役割を担う寺院への貸し出しサービス(価格は1日5万円~)を年内に始める意向だ。

 

 同社はこのほか、インターネットを介して葬儀や法事をライブ配信する「ネット葬儀・法事サービス」や、IT化した「電子芳名帳」などのサービスも考案している。担当者は「スマートフォンやタブレット端末も普及しており、ペッパー導師やネット葬儀が認知されていく時代になるのではないか」と期待を寄せる。

 

 遺灰をロケットなどに載せて宇宙空間に運ぶ「宇宙葬」をPRしていたのは銀河ステージ(東京都港区)。「他ではやっていないサービスをやろう」と、同様のサービスを提供している米国の会社と提携し、14年から宇宙葬を始めた。専用のロケットで宇宙空間を数分間飛行した後、大気圏で燃え尽きる「宇宙飛行プラン」(45万円)、人工衛星に載せる「人工衛星プラン」(95万円)、NASA(米航空宇宙局)の探査機を使う「月旅行プラン」「宇宙探検プラン」(各250万円)を用意している。

 

 これまでに、日本人5人が宇宙飛行プランを利用した。現在も、宇宙飛行プランと人工衛星プランに計18人の予約が入っているという。

 担当者は「今後はJAXA(宇宙航空研究開発機構)や、(元ライブドア社長の)堀江貴文さんが創業した宇宙ベンチャー企業などと提携し、国産ロケットで日本から旅立つ形も目指したい」と話す。

 会場にはこのほか、スペースを取らないコンパクトな納骨堂や、先祖代々の墓ではなく夫婦だけで入る「夫婦墓」、華道家の假屋崎省吾さんがデザインした棺(ひつぎ)や、野球ボールやゴルフボールといった故人の趣味に合った骨つぼなど華やかな関連品も並び、すぐに商談に入る業界関係者も見られた。

 

 ◇市場規模は1・4兆円

 

 経済産業省の「特定サービス産業実態調査」(15年)によると、葬儀業の売上高は1兆3739億円、葬儀取り扱いは120万1341件、同省の「商業統計」(14年)によると、仏壇・仏具が多くを占める宗教用具小売業の売上高は1639億円となっている。また、矢野経済研究所が15年に発表した「葬祭ビジネス」(祭壇や棺、供花など周辺産業も含む)市場規模の15年の予測値は1兆7800億円となっており、巨大市場と言えるだろう。

 

 この巨大市場は多死社会を迎える今後、更なる拡大が見込める。内閣府の「高齢社会白書」(17年版)によると、15年に129万人だった死亡者数は、ピーク時の40年には167万9000人となり、40万人近く増加すると推計されている。

 家族の形態が変わり、葬儀が簡素化して単価が下がっているとはいえ、葬儀の件数が増えるのは間違いない。葬儀をせずに火葬だけをする「直葬」が増えることも予想されるが、葬儀に代わるセレモニーとして死後、数カ月後に行う「お別れ会」が増える可能性もある。実際、故人にちなんだこだわりのお別れ会なども人気を集めている。また、周辺産業として、遺骨でつくったダイヤモンドのついた指輪やネックレスなどの手元供養品も増えている。

 

 新たなビジネスを狙って異業種も参入する中、遺言や相続関係の手続きなど終活関係業務を中心に扱う「終活弁護士」も登場した。

 

 法律事務所アルシエン(東京都千代田区)の武内優宏(ゆうこう)弁護士(37)は遺言に財産の処分方法を書いてもらい、執行者として希望通りの葬儀を開いたり、遺品整理を行ったりしている。時には家族のいない葬儀の「喪主代行」を務め、火葬場に行って契約者が火葬されているかを確認し、散骨希望であれば、現場に立ち会うという。着手金は30万円となっている。

 

 武内弁護士は関係のある葬儀社や遺品整理業者から紹介された高齢者の相談に乗っており、「死んだら誰が発見してくれるのか」「葬儀を出す人がいない」といった不安の声も多く聞いているという。「老後の不安を抱えている人が多い。法律的な知識がある弁護士が果たす役割は大きい」と指摘する。

 

 16年秋に「終活部会」を立ち上げた東京弁護士会は来年から、財産の承継や管理などの対処法をまとめた冊子をつくり、各地の高齢者施設などでセミナーを開く予定だ。部会長の伊藤敬史弁護士(45)は「今までは家族や地域で解決していたが、今はそれができない。専門家として、そういった悩みを抱える人の受け皿になりたい」と語る。

 

◇死後も石材店が墓を管理

 

 一方で、従来の「終活業者」は厳しい状況に置かれている。

 

 都市部の納骨堂や永代供養墓、樹木の周辺に遺骨を埋葬する「樹木葬」などが人気となって、墓を持たない人が増えたため、石材店は墓石の販売が減少。中国からの墓石の輸入量は「10年前に比べて半減している」(石材店関係者)という。最近では「子供に迷惑を掛けたくない」などの理由から、先祖代々の墓を移し、更地にして返還する「墓じまい」も増えており、墓の撤去などに活路を見いだす石材店も多い。

 

 そんな中、神奈川県横須賀市の大橋石材店は契約者の死亡後も一定期間、墓を管理する「お墓のみとり」サービスを始めた。このサービスでは、契約者が生前に行政書士らと死後事務委任契約を結び、契約者の死亡後に納骨。その後、石材店が13~73カ月間(一~七周忌に相当)は墓を管理し、行政書士らが預かっている資金から墓の管理費用の支払いなどを代行する。契約者の希望した管理期間の終了後、生前の希望に合わせ、永代供養墓への移動や、散骨などを実施し、墓石・墓地の解体工事も行う。

 

 一人暮らしや子供がいない夫婦の場合、死後の墓の管理を心配して墓をつくらないことが多いが、このサービスを使えば、先祖代々の墓に入ることもできるし、新たに墓を建てることも可能になる。大橋理宏社長(51)は「石材店としては、墓じまいに力を入れるより、墓を大事にしたい人にアプローチすべきだ。石材店にとっては墓石を買ってもらえ、寺院にとっては檀家を増やすことができる」とメリットを強調する。

 

 大橋社長は商標登録した「お墓のみとり」を全国的な取り組みに広げようとしており、現在は21都道府県の石材店など約60社が同様のサービスを始めた。来年までに200社の加盟を目指すという。

 新旧のプレーヤーが入れ乱れることで、終活ビジネスは更なる成長を遂げていくことになるだろう。

(松本惇・編集部)

特集「伸びる終活ビジネス」の記事一覧

 異業種参入で拡大する市場 旧来業者も新サービス提供 ■松本 惇

 人気の海洋散骨 年間で1万件近い実施 ■塚本 優

  散骨のルール・マナー

 対談 小谷 みどり 第一生命経済研究所主席研究員 × 藤森 克彦 みずほ情報総研主席研究員

「福祉の対象でない死後は『社会化』が進まない」 「死の前後の問題に総合的に対応できる制度を」

 長野県上田発 日本初のドライブスルー型葬儀場 ■横山 渉

 遺体安置所としての「冷柩庫」 家族の寄り添いたい需要に応える

 注目! ネット仲介3社 鎌倉新書/ユニクエスト・オンライン/みんれび ■向山 勇/松本 惇

 変わる葬儀業界 専門社、互助会、JAに新興勢力 ■福田 充

 増える「看取り」 連携する葬儀社と高齢者施設 ■塚本 優

 多死社会の到来でも 進む葬儀業の休廃業・解散 ■友田 信男

 終活関連上場11社の財務分析 直近決算で増収9社、増益7社 ■増沢 貞昌

 金融機関も終活に注目 信託商品は高齢者の生活支援も融合 生保で人気の「トンチン年金」 ■深野 康彦

 地銀は預金の移転対策 ネット支店で高金利付与

 ホテルのジレンマ 「お別れ会」ビジネスが本格化 ■山下 裕乃

週刊エコノミスト 2017年10月3日号

発売日:9月25日

特別定価:670円


週刊エコノミスト 2017年10月3日号

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発売日:9月25日

特別定価:670円

 

伸びる終活ビジネス

 

◇異業種参入で拡大する市場

◇旧来業者も新サービス提供

 

 8月23~25日に東京ビッグサイトで開かれた「エンディング産業展2017」には過去最高の2万5867人が来場するほどの盛況ぶりだった。

 

 ◇読経するペッパー、宇宙葬

 

 プラスチック加工業のニッセイエコ(神奈川県藤沢市)は、ソフトバンクグループの人型ロボット「ペッパー」が読経する「ペッパー導師」を展示し、テレビなど多くのメディアでも取り上げられた。さまざまな宗派の経典を読むことができ、人手不足の寺院や、葬儀を行わない「直葬」で利用したいという葬儀社から問い合わせが相次いでいるという。続きを読む


日銀は今すぐ出口に向かえ=鈴木淑夫 〔出口の迷路〕金融政策を問う(1) 

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出口戦略を語るのはまだ早いと日銀は言うが、早すぎるリスクより、遅すぎるリスクを恐れるべきだ。

鈴木淑夫(元日銀理事、元衆議院議員)

 

9月21日の金融政策決定会合終了後に記者会見する日銀の黒田東彦総裁
9月21日の金融政策決定会合終了後に記者会見する日銀の黒田東彦総裁

 

日本経済の現状は、完全雇用の域に入っている。7月の完全失業率2・8%は、バブル末期のボトム2・0%には及ばないものの、インフレもバブルもなく順調に成長していた1986~87年と同水準であり、バブル崩壊後今日までの25年間では最低水準である。有効求人倍率は、7月に1・52倍と、バブル期のピーク(1・45倍)を上回った。

 日本経済の現状は、完全雇用の域に入っている。7月の完全失業率2・8%は、バブル末期のボトム2・0%には及ばないものの、インフレもバブルもなく順調に成長していた1986~87年と同水準であり、バブル崩壊後今日までの25年間では最低水準である。有効求人倍率は、7月に1・52倍と、バブル期のピーク(1・45倍)を上回った。

 

 バブル崩壊後低成長率を続けている日本経済が、早くも完全雇用の域に入ってきたのはなぜだろうか。21世紀に入ってからの先進5カ国とユーロ圏の国内総生産(GDP、実質)を、2000年を100とした指数で描いてみると、図1のように日本の成長が確かに一番遅い。しかし同じGDPを生産年齢人口1人当たりに直してみると、図2のように日本が一番高い成長をしている。つまり生産年齢人口の減少の割に、日本が一番高い成長をしているので、完全雇用になったのである。

 

 GDPベースの需給ギャップ(需要と供給のかい離、日銀推計)を見ると、昨年第3四半期(7~9月)から需要超過となり、今年第1四半期(1~3月)の需要超過は0・79%のプラスとなっている。第2四半期(4~6月)のGDP成長率は年率2・5%(2次速報)となったので、1%弱の潜在成長率の下で、需要超過はかなり拡大しているはずだ。

 

 日本銀行法によると、日銀は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」(第2条)と書いてある。これを経済学の言葉に直せば、「持続的成長で完全雇用を維持し、国民の経済的厚生を高める」ことが最終目標であり、「物価の安定」はこの最終目標を達成するための中間目標、いわば手段である。これからは現在の成長と完全雇用を維持し、現在の物価状況の下で、国民生活の安定と向上を図るのが、法の定める日銀の使命であろう。

 

 最終目標が達成されている時に、いわばその手段に過ぎない「2%の物価上昇」という中間目標に固執するのは無意味であり、論理の矛盾である。にもかかわらず日銀は、2%を超える物価上昇が安定的に続くまで現在の超金融緩和を続けるという「オーバーシュート型コミットメント」をしている。これは極めて危険である。

 

 高度成長が始まった55年から今日までの60年間で、消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比が「安定的」に2%を超えたのは、(1)企業規模別賃金格差が縮小した高度成長期後半、(2)初の円切り上げ後の過剰流動性インフレ期、(3)ルーブル合意以降のバブル最盛期、の3回だけである。

 

 消費者物価の上昇率が2%を安定的に超える時は、日本ではミニバブルとマイルドインフレの時期であり、それは必ず加速して「物価安定を通じる持続的成長と完全雇用」を崩し、人々の生活を脅かす。そうなる前に超金融緩和を手じまうのが「出口政策」である。

 

 ◇長期金利はプラスに

 

 出口政策のタイミングは、早過ぎても遅過ぎても失敗のコストが大きい。早過ぎれば、せっかく「流動性の罠(わな)(金利がゼロ近くになると通常の金融政策が効かなくなること)」から抜け出した経済を再び長期停滞に突き落としてしまう。

 

 しかし遅過ぎると、マイルドインフレとミニバブルの下で、経済全体の投資効率は低下する。インフレとバブルが加速してからの急激な引き締めは、長期金利の急上昇で中央銀行や民間金融機関の保有資産の評価損を大きくし、通貨・金融市場・金融システムの信認が動揺する。政府も金利負担の上昇と国債市場の混乱で財政の信認が問われかねない。最終的な経済の長期的損失は、遅過ぎた場合の方が大きい。

 

 日米欧先進国の中央銀行は、リーマン・ショックを契機とする金融危機と世界同時不況に対処するため、量的緩和政策(QE)、ゼロ金利政策、マイナス金利政策などの「非伝統的」金融政策を行ってきたが、その結果中央銀行の保有資産は対GDP比でそれ以前の2~3倍に膨れ上がっている。

 

 従って出口政策では、膨張した中央銀行の保有資産を正常な水準に戻して、金利上昇時の損失を小さくし、また民間の金融機関や市場の保有資産を適正水準に回復して金融機関経営と市場機能を正常化することが目標となる。その手順は通常、中央銀行の資産買い入れ額の縮小・中止(QE終了)、マイナス金利・ゼロ金利の中止(利上げ開始)、中央銀行資産の圧縮、という順で行われる。

 

 先進国の中で世界同時不況後の景気回復が一番早かった米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が14年初めから資産買い入れ額を縮小(テーパリング)し始め、10月に資産買い入れを中止してQEを終了した。その間長期金利の急騰を避けるため、償還期を迎えた保有資産は補充し、保有資産総額の圧縮ではないことを示し続けた。

 

 次に15年12月に、0~0・25%であったFFレートの誘導目標を0・25~0・5%へ引き上げ、ゼロ金利政策を終了。その後本年6月まで0・25%ずつ3回誘導金利を引き上げ、現在は1・0~1・25%である。10月以降、景気回復が予想通り順調に推移していると判断し、いよいよ長期金利上昇を伴う保有資産の圧縮に着手する。

 

 一方、欧州中央銀行(ECB)は本年4月から資産買い入れ額の圧縮を始め、近い将来の利上げ開始を示唆している。

 

 日本銀行は出口政策を始めるに当たり、まず意味を失った2%の物価目標を廃止するべきだ。そもそも2%は、13年1月に安倍晋三政権との共同声明で押しつけられたもので、何の実証的根拠もない。日本の場合、物価安定における消費者物価指数の適切な上振れ幅は、日銀が長い間主張し、12年10月の民主党政権との共同声明まで維持されていた1%である(詳しくは拙著『試練と挑戦の戦後金融経済史』〈16年、岩波書店〉を参照)。

 

 現在の成長と完全雇用を維持するのに適切な金利水準を操作目標とし、資産買い入れはその手段として運用すればよい。恐らくその金利水準はマイナスである必要はなく、資産買い入れ額は縮小するであろう。

 

 日銀預金へのマイナス金利の付利はゼロ金利に戻し、長期金利の目標を現行のゼロ%からプラスの領域に戻すことから始めるのがよい。その上で、日本経済の成長の強さと完全雇用持続を確認しながら、長短金利の操作目標を引き上げ、資産買い入れ額の縮小を進めるのだ。そうすれば、米欧の出口政策進捗(しんちょく)に伴う国際的金利上昇の波及も吸収できる。日本の出口政策が欧州より遅れているという印象は拭われ、過度の円安が進んで将来の急激な円高のリスクをため込むリスクは避けられよう。

 

 大胆な量的緩和と2%の物価目標は、当初円高・株安の是正に効いたが、その後、持続的成長と完全雇用を実現したのは、金利低下の効果である。適切な金利水準を操作目標とする限り、量的緩和を絞り2%の物価目標を廃止しても、成長持続と完全雇用に悪影響はなく、国民生活の向上に資するであろう。

◇すずき・よしお

 1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業、日本銀行入行。日銀理事、野村総合研究所理事長、衆議院議員(2期)を務めた。経済学博士(東京大)。鈴木政経フォーラム代表


(週刊エコノミスト2017年10月10日号掲載)

目次:2017年10月10日号

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驚異の工場自動化

18 世界中の製造業から引き合い 関連メーカーは増産ラッシュ ■種市 房子/大堀 達也

21 産業ロボ界を揺るがすMUJIN ■種市 房子

22 日本 需要は堅調推移 ■菊地 秀朗

24 中国 世界の自動化投資をけん引 ■南川 明

26 産業ロボット基礎知識 「直線運動」「多関節系」に大別■植田 哲章/竹内 文哉

28 産業ロボット 世界大手これだけ違う機能、事業モデル ■藤田 公子

30 「協働」ロボットが拡大 ■藤田 公子

31 FA 自動化支える「メカトロニクス」 ■安達 俊介

33 インタビュー 宮田 芳和 三菱電機FAシステム事業本部長 「安心を売って長期の信頼を得る」

34 マテハン 物流自動化で熱い業界 ■種市 房子

36 米国 毎年40万人分の仕事が減少 ■岩田 太郎

38 FA・産業ロボ・マテハン54銘柄 ■和島 英樹

 

Flash!

11 総選挙 制度疲労のアベノミクス/希望の党が握る改憲のキャスチングボート/FRB正常化へ10月から資産縮小/日本郵政株第2次売り出しに魅力乏しく

15 ひと&こと アマゾンを拒む中小運送業者/ロッテ子会社株式大量売却が示す兄弟げんかの終わり/ウォンテッドリーのネット炎上が経営に影

 

Interview

4 2017年の経営者 石黒 成直 TDK社長

44 問答有用 堀井 雄二 ゲームデザイナー

  「娯楽を超えて『時代』になる」

 

エコノミストリポート

80 地下水マネジメント 変動する地下水の深刻さ ■茨木 希

 

42 新連載 出口の迷路 金融政策を問う(1) 日銀は今すぐ出口に向かえ ■鈴木 淑夫

 

72 米国 「泥舟」と化したトランプ政権 ■中岡 望

74 韓国 ハリウッド目指す韓国メディア ■志村 一隆

76 自動車 自動運転が切り開く新たな移動産業 ■貝瀬 斉

78 産業 世界展開遅れる日本の医療機器 ■青山 竜文

84 経営 東芝メモリ売却 「貸手責任」を問わない再建策 ■町田 徹

 

World Watch

62 ワシントンDC アマゾン第2本社の誘致合戦 ■三輪 裕範

63 中国視窓 北京に「世界観光連盟」設置の狙い ■真家 陽一

64 N.Y./カリフォルニア/英国

65 韓国/インド/インドネシア

66 上海/ロシア/UAE

67 論壇・論調 米国を揺るがす税金原資の国民皆保険案 ■岩田 太郎

 

Viewpoint

3 闘論席 ■佐藤 優

17 グローバルマネー 中国共産党大会後に露呈する不均衡

48 学者が斬る 視点争点 インフレ目標未達が生む実益 ■井上 裕行

50 言言語語

58 名門高校の校風と人脈(259) 富士高校(東京都) ■猪熊 建夫

60 海外企業を買う(159) 海康威視 ■富岡 浩司

68 アディオスジャパン(71) ■真山 仁

70 東奔政走 実態は「追い込まれ解散」 ■人羅 格

92 景気観測 人手不足に過度の悲観は不要 ■斎藤 太郎

94 ネットメディアの視点 解散会見のふがいない質問力 ■山田 厚史

95 商社の深層(86) 名門三井と三菱の鉄鋼製品部門の落日 ■井戸 清一

96 アートな時間 映画 [ゲット・アウト]

97        美術 [パフォーマー☆北斎 ~江戸と名古屋を駆ける~]

98 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Brain-Machine Interface ”

 

Market

86 向こう2週間の材料/今週のポイント

87 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット

88 中国株/為替/金/長期金利

89 マーケット指標

90 経済データ

 

書評

52 『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ』

  『チャヴ』

54 話題の本/週間ランキング

55 読書日記 ■高部 知子

56 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

 

85 定期購読・デジタルサービスのご案内

 

51 次号予告/編集後記/お詫びと訂正

 

特集:驚異の工場自動化 2017年10月10日号

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◇世界中の製造業から引き合い

◇関連メーカーは増産ラッシュ

 

 これまでは自動車・電機産業が中心だった工場自動化の裾野が、他産業に急速に広がっている。代表的なのは、食品・医薬品・化粧品の「三品(さんぴん)産業」だ。

 

 味の素の子会社で包装機能を担う「味の素パッケージング」は8月、既存工場の老朽化に伴い、川崎市に48億円をかけて新工場を稼働した。包装工程ではロボットを、集荷には無人搬送車を導入するなど自動化技術を取り入れ、1人当たりの生産性を1・7倍に高めることを目指す。

 

 医療福祉施設で給食サービスを手がける日清医療食品が8月に完工したセントラルキッチン(京都府亀岡市)も随所で工程が自動化されている。医療福祉施設の給食は、減塩、アレルギー対応、カロリー計算など少量多品種への対応が求められ、人手が必要だ。同社は、加熱・冷却工程を自動ライン化し、器具を運ぶのに無人搬送車を導入するなど可能な部分を自動化し、省人化しながら生産量を拡大する方針だ。

 

「三品産業」だけではない。キヤノンが2019年8月の操業を目指すデジタルカメラの製造工場(宮崎県高鍋町)は「精密機器の組み立て工程自動化は困難」という定説を覆した。昨年ドイツで、スポーツ用品大手「アディダス」が本格稼働した「スピードファクトリー」は世界中の製造業の話題をさらった。自動化技術によって少量多品種の靴製造が可能となり、人件費が高いドイツでも、価格競争力を持つ製品を供給することが可能になったからだ。

 

 人手不足に悩む日本、人件費高騰にあえぐ中国、インダストリー4・0を推し進める欧州。地域で事情が異なるものの、世界で同時に工場自動化への需要が高まっている。

 

 製造業の自動化需要に応えるかたちで、FA(ファクトリーオートメーション=工場自動化)、産業ロボット関連企業が、設備増強やM&A(企業の合併・買収)に動いている。「今『供給体制は十分』というFAメーカーなど皆無」(電子デバイス産業新聞・浮島哲志氏)で、うれしい悲鳴を上げている。

 

 垂直多関節ロボット世界トップで、産業ロボット世界大手4社(ファナック、安川電機、独KUKA(クーカ)、スイスABB)の一角・ファナックは、山梨県の本社工場と、茨城県の筑波工場で現在月間6000台を製造できる。同社のロボットは元々自動車産業で広く使われているが、足元では、国内、中国、欧米で自動車以外の産業向け需要も伸びており、供給が追いつかないほどだ。同社は需要は引き続き旺盛とみて、茨城県に約630億円をかけて新工場を建設する。18年8月の生産開始を目指し、最終的には3工場で月間1万1000台まで生産能力を引き上げる。

 

 同じく4大メーカーの一角で、サーボモーター世界トップの安川電機も7月、中国・江蘇省のロボット製造拠点に第3工場を増設することを明らかにした。ロボットメーカーは「これまでは製造業に『ロボットを導入しませんか』と営業していたが、最近は『ロボットを使いたい』という引き合いばかり」と、環境の変化を感じている。

 

 産業ロボットの関節部分の回転や位置決めを精密に制御する「精密減速機」で世界トップのナブテスコは、今年度、約70億円を投じて津工場(三重県)と、中国の工場を増設して、前年度比約20%増産を見込む。自動ラインで対象物を所定の位置に運搬したり、工作機械内の直行運動を司る直動案内機器(リニアガイド)で世界トップのTHKや、リニアガイドとセットで使われることの多いボールねじで世界トップの日本精工も増産体制に入る。

 

 ◇需要にまだ伸びしろ

 

 日本には、世界トップシェアを握る社が多い。日本企業が得意としてきた自動車や電機産業を発展させるため、生産効率化に寄与してきた「縁の下の力持ち」が、今や世界で存在感を示すFA機器や産業ロボットのメーカーに育ったのだ。

 

 工場自動化銘柄は株式市場の一大テーマとなっている。この1年の騰落率はナブテスコが47%、THKは90%超にも達する。半導体や有機EL関連のテーマに一服感が漂う中「工場にはまだ合理化・省力化の余地がある。持続的に注目を集めるテーマ」(奥村義弘ちばぎんアセットマネジメント調査部長)との声は根強い。

 

 たとえば、自動車工場の自動化率は、プレス工程・溶接・塗装では90%以上に達する一方、複雑な作業を要する組み立ては20%にとどまる。業界アナリストは「ファナックや安川電機が複雑な作業をできるロボットを開発している。技術進化次第では組み立ての自動化率はもっと上がる」と分析する。「三品産業」での自動化率はさらに低い。自動化が広がる余地はまだあり、需要に伸びしろがあるのも、関連銘柄の投資妙味だ。

 

 工場自動化の技術は現在がゴールラインではない。改良は刻々と進んでいる。

 

 たとえば、産業ロボットは、現在はライン脇の定位置に配置するのが主流だ。今後は、車輪を付けて、自在に工程間を行き来する自律移動ロボットの開発・研究が進みそうだ。1台のロボットで複数の作業をこなせることから、購入するロボットの台数が少なく、製造現場の省スペース化も可能で、ひいてはコスト低減にもつながる。既にオムロンやKUKAが研究・商用化している。パナソニックはこの市場の拡大を見込んで、広範囲で三次元距離を計測するセンサー3DLiDAR(ライダー)を開発した。

 

 進化した自動化技術に対しては、新たな需要が生まれる。しばらくは「工場自動化の好循環」が続きそうだ。

(種市房子・編集部)(大堀達也・編集部)

 

週刊エコノミスト 2017年10月10日号

定価:620円

発売日:2017年10月2日



「社員の多様性が武器 果敢に事業変革」石黒成直 TDK社長

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 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 会社のルーツは。

 

石黒 当社は82年前、東京工業大学の2人の博士が開発した磁性材料「フェライト」を、創業者が「日本人の開発品。何とか製品化できないか」と取り組んだのが始まりです。いわば大学発ベンチャー企業です。フェライトは磁性を帯びた電子材料で、今なお進化を続ける古くて新しい材料です。研究を進める中、電磁気に応用できる材料として、戦前はラジオ・通信機器のアンテナ、戦後はコンピューターや家電に使われるようになりました。フェライトを作るには酸化鉄を焼いて形成する「焼成」技術が必要です。当社のビジネスは、フェライトを作る磁性材料技術と、それを使ったプロセス技術、生産技術を根に、さまざまな技術・製品が木の枝を伸ばした構図です。

 

── 1980年代の記憶がある世代には、TDKと言えばカセットテープというイメージがあります。

 

石黒 カセットテープも磁性技術の延長で、酸化鉄を粉にして、塗料に混ぜて、テープ上に塗布するものです。カセットテープやビデオテープなどのメディア事業はピーク時の80年代後半には全社の売り上げの約4割を占めました。しかし、この事業からは完全撤退しました。それ以来、消費者向けビジネスはほとんど手がけていません。むしろ当社は最初から法人向けビジネスが基本路線です。今は、スマートフォン、自動車、産業機械など、あらゆるメーカーに電子部品やセンサーを納入しています。最終製品の見えない部分に入る基板上の製品が大半ですが、身の回りの多くの製品で使われています。

 

── 具体的には。

 

石黒 スマートフォンのリチウムイオン電池や各種の電子部品・センサーのほか、パソコンやレコーダーに使われるハードディスクドライブ(HDD)の部品などです。自動車も電化が進むと、モーターが多く使われ、その分磁石も使われます。パワーステアリングも磁気センサーが角度を制御しています。

 

◇センサーは成長領域

 

── 製品別のポートフォリオは。

 

石黒 売り上げベースでは(1)電気を放出・蓄積するコンデンサーなど受動部品(電流制御などの能動操作をしない部品)が約40%(2)センサー応用製品が約6%(3)HDD用磁気ヘッドなど磁気応用製品が約25%(4)リチウムイオン電池などのフィルム応用製品が約25%です。センサーは今後の成長領域だと期待しています。

 

── そのセンサー事業をどう育ててきたのですか。

 

石黒 当社は、磁気信号を使って、HDDの記録を書き換える磁気ヘッドで世界屈指のシェアを持ちます。しかし、HDDの出荷数は00年代後半から減少傾向が続きます。磁気ヘッドの統括を務めていた当時「どうやって既存技術を生かして次の枝を作れるか」を模索し始めました。部署内での議論の結果出てきたのは、磁気ヘッドの材料である「TMR素子」を使った高精度センサーでした。微弱な磁気信号をキャッチする特性をセンサーに生かしたのです。技術者3人が細々と1~2年かけて試作品を完成させ、大手自動車関連メーカーに飛び込み営業をかけて「使い道はありませんか」と持ちかけました。その後、自動車関連メーカーとの共同開発も進み、今や40件以上の引き合いがあります。今後、大きく伸ばしていく製品と位置付けています。

 

── センサー事業では最近2年間で立て続けに他企業を買収しました。

 

石黒 理由は二つあります。一つ目はセンサー技術の引き出しをできるだけ確保したかったからです。センサーは単に製品を売るというビジネスではなく、製品とソリューション(課題解決策)をお客様に提供するビジネスになります。元々当社には、磁気センサーや温度、圧力センサーの技術はありましたが、それ以外の技術は不足していました。そこで、TDKが持たない別種類の磁気センサーを扱う独ミクロナスや、微細・集積化するためのMEMS(メムス)技術を使ったセンサーの知見を持つ米インベンセンスや仏トロニクスマイクロシステムズを買収しました。

 

── もう一つの狙いは。

 

石黒 技術をそろえて多様なデータを採取しても、処理する頭脳の役割がなければ無意味です。そこで今年3月、IC(集積回路)設計能力を持つベルギーのICセンスの買収を決めました。また、商品企画力も強化する必要があります。インベンセンスはこの能力にも優れているとみて、グループに入ってもらいました。

 

── カセットテープ、HDD事業、そして足元のセンサーへと、果敢に事業を変化させて成功してきた秘訣(ひけつ)は。

 

石黒 創業時にベンチャー企業だっただけに「おもしろいことには挑戦してみたら」という企業文化があったことです。また、人材の多様性も作用したと思います。まだ、転職が珍しかった80年代から、当社は中途採用が多く、新卒採用とは異なる発想で活躍しています。今でもかなり中途入社の社員を採用しています。また、86年に香港の磁気ヘッドメーカー「SAEマグネティックス」を買収して以降、M&A(企業の合併・買収)を重ねてきました。その結果、今や全従業員10万人のうち9万人が外国人です。執行役員18人のうち6人は外国人で、経営会議も英語です。日本内外の力を合わせていろんなことをやっていこうという社風が醸成されています。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 33歳でルクセンブルクのカセットテープ工場設立のために渡欧し、14年間駐在しました。30代前

半は工場操業、後半は欧州全体の供給体制構築で、苦労の連続でさまざまなことを体験しました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 吉村昭の『高熱隧道』。吉村作品の魅力は、事実を徹底的に調べ、根源にある人間の本質を探る筆致です。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 料理を作ってゆっくり過ごします。つまみを作って気の置けない仲間を家に呼ぶのも好きです。

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◇いしぐろ・しげなお

 1957年生まれ、東京都出身。都立府中高卒業、北海道大中退。82年東京電気化学工業(TDK)入社。カセットテープや磁気ヘッド部門などを担当し、2014年執行役員。16年から現職。欧州、香港の駐在経験が長く、海外駐在は通算36年に及ぶ。59歳。

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事業内容:電子部品・電子材料

本社所在地:東京都港区

創業:1935年

資本金:326億円

従業員数:9万9693人(2017年3月末現在)

業績(17年3月期・連結)

 売上高:1兆1782億円

 営業利益:2086億円

週刊エコノミスト 2017年10月10日号

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定価:620円

発売日:2017年10月2日

 

驚異の工場自動化

 

世界中の製造業から引き合い

関連メーカーは増産ラッシュ

 

 これまでは自動車・電機産業が中心だった工場自動化の裾野が、他産業に急速に広がっている。代表的なのは、食品・医薬品・化粧品の「三品(さんぴん)産業」だ。

 

 味の素の子会社で包装機能を担う「味の素パッケージング」は8月、既存工場の老朽化に伴い、川崎市に48億円をかけて新工場を稼働した。包装工程ではロボットを、集荷には無人搬送車を導入するなど自動化技術を取り入れ、1人当たりの生産性を1・7倍に高めることを目指す。続きを読む


経営者:編集長インタビュー

石黒成直 TDK社長

◇社員の多様性が武器 果敢に事業変革

 

── 会社のルーツは。

石黒 当社は82年前、東京工業大学の2人の博士が開発した磁性材料「フェライト」を、創業者が「日本人の開発品。何とか製品化できないか」と取り組んだのが始まりです。いわば大学発ベンチャー企業です。続きを読む

 

目次:2017年10月17日号

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まるわかり中国

18 絶大な権威得た習近平氏 経済への党支配も強化 ■桐山 友一/谷口 健

22 注目ポイント<1>人事 長老排除で権力を集中 習近平氏が多数派形成へ ■坂東 賢治

24 注目ポイント<2>長期政権への布石 「党主席」復活論流布も習氏の独裁実現は困難

25 インタビュー 呉 軍華 日本総合研究所理事 「経済では新しい発展モデルが必要」

26 Q&Aで学ぶ 中国共産党大会の基礎知識 ■稲垣 清

29 インタビュー 高原 明生 東京大学教授 「習氏は強迫観念にかられている」

30 汚職が減った?! 質屋、月餅、飲食店……「反腐敗」で状況一変 ■前川 晃廣

31 インタビュー 興梠 一郎 神田外語大学教授 「毛沢東を模倣し権力掌握」

32 注目ポイント<3>経済 「中所得国の罠」突破が最大の課題 ■真家 陽一

34 注目ポイント<4>外交・安保 米国中心の国際秩序に挑戦 ■小原 凡司

36 転換点の不動産市場 「億ション」続々も当局の抑制策で過熱感後退 ■安田 明宏

37 ビットコイン中国最新事情 3大取引所閉鎖の衝撃、動揺する相場 ■田代 昌之

38 EVシフト加速 2030年に1900万台 「自動車強国」へ ■湯 進

 

Flash!

11 日産が“無資格検査”でリコール/「シーテック」主役は電気自動車に/ラスベガス銃乱射事件/日銀短観9月調査

15 ひと&こと 金融リポート事前報道に長官激怒で公表先延ばし/サウジアラムコ上場に壁 OPEC離脱観測も/仮想通貨の上場めぐり混乱 計画撤回でも巨額資金調達

 

Interview

4 2017年の経営者 吉井 久夫 ダイニチ工業社長

44 問答有用 ちば てつや 漫画家

  「『いないと困る』と言われる人になってほしい」

 

エコノミストリポート

80 ドイツで白昼の拉致事件 ベトナムで相次ぐ汚職摘発 日本企業復権への好機にも ■北島 純

 

39 スクープ 弁護士が極秘情報を事前入手 オリンパス再建に深く関与 ■編集部

70 ネット動画 100万回再生で報酬1万~5万円 ユーチューバーの「経済学」 ■井上トシユキ

72 米国 「玩具量販の雄」トイザラスが破綻 ネット戦略10年の空白が致命傷 ■岩田 太郎

74 韓国 低下する韓国民の半島統一意識 北朝鮮とは「分かり合えず」 ■徐 台教

76 米比関係 フィリピンと米国の関係改善へ テロとの戦いに「共闘」 ■石井 順也

84 人事 次期FRB議長が10月中に決定へ 「トランプ派」かイエレン続投か ■井上 哲也

 

World Watch

58 ワシントンDC 軍需産業は北朝鮮特需 ミサイル防衛強化訴え ■会川 晴之

59 中国視窓 フィンテックで変わる銀行 ネット企業と協力相次ぐ ■神宮 健

60 N.Y./カリフォルニア/スウェーデン

61 韓国/インド/マレーシア

62 台湾/ブラジル/南アフリカ

63 論壇・論調 独総選挙メルケル氏4選も右派大躍進で「終わりの始まり」 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

17 グローバルマネー 「核戦争」リスクを織り込めない金融市場

40 海外企業を買う(160) ブルーエプロン ■岩田 太郎

42 名門高校の校風と人脈(260) 洲本高校(兵庫県) ■猪熊 建夫

48 学者が斬る 視点争点 変化と継承の明治維新に学ぶ ■横山 和輝

50 言言語語

64 アディオスジャパン(72) ■真山 仁

66 東奔政走 小池「リセット政局」の行方 「今回国政に出なくてもいずれ出る」 ■佐藤 千矢子

68 出口の迷路(2) 金融政策を問う 出口のためにも財政再建すべきだ ■小黒 一正

78 福島後の未来をつくる(56) 未来に負の遺産を残さない 廃炉規制の透明化を ■村上 朋子

83 商社の深層(87) 時価総額2位争い熾烈 三井物産「非資源」も刈り取り ■編集部

92 景気観測 景気は自律的な拡大局面に入った 18年度にかけ内外需そろって改善 ■南 武志

94 ネットメディアの視点 大ヒットアニメ「けもフレ」“炎上” ツイッターで監督が降板明かす ■土屋 直也

96 アートな時間 映画 [ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ]

97        舞台 [極付印度伝 マハーバーラタ戦記]

98 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ Term Premium ”

 

Market

86 向こう2週間の材料/今週のポイント

87 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

88 インド株/為替/穀物/長期金利

89 マーケット指標

90 経済データ

 

書評

52 『中国バブルはなぜつぶれないのか』

  『人口減少時代の土地問題』

54 話題の本/週間ランキング

55 読書日記 ■孫崎 享

56 歴史書の棚/出版業界事情

 

51 次号予告/編集後記

週刊エコノミスト 2017年10月17日号

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発売日:10月17日

定価:620円

 

まるわかり中国

 直前ガイド共産党大会 

 

◇絶大な権威得た習近平氏

◇経済への党支配も強化

 

 5年に1度の第19回中国共産党大会が、10月18日からいよいよ開幕する。前回2012年の第18回党大会で最高指導者となった習近平総書記(国家主席)の2期目のスタート。1期目の5年間で高めた習近平氏の絶大な権威が、党規約の改正や人事などの形でどのように反映されるのかが大きな焦点だ。世界経済や国際政治で年々、存在感を高める中国の動向から、日本も無縁ではいられない。

 

 00年代後半にかけて続いた中国経済の2ケタ成長が終焉するタイミングでトップに立った習近平氏。所得格差もジニ係数(1に近いほど格差が大きい)で危険ラインとされる0・5に近く、前回の党大会の政治報告では「亡党亡国」(党が滅び国が滅ぶ)と厳しい表現も並んだ。

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オリンパスの高山修一社長(当時)
オリンパスの高山修一社長(当時)

〔スクープ〕

弁護士が極秘情報を事前入手

オリンパス再建に深く関与

2011年に発覚したオリンパスの巨額粉飾決算事件に際し、同社の再建シナリオに、弁護士事務所が大きな影響を及ぼしたことが、同社の内部資料で明らかになった。

(内部資料全49ページを掲載する本記事はこちら

経営者:編集長インタビュー

吉井久夫 ダイニチ工業社長

◇「在庫持つ」経営で石油ファンヒーター日本一

 

── 家庭用石油ファンヒーターで国内トップです。

吉井 自慢するつもりは毛頭ないのですが、国内主要家電量販店の販売台数が10年連続1位で、シェアは50%を超えています。続きを読む

〔スクープ〕弁護士が極秘情報を事前入手 オリンパス再建に深く関与

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オリンパスの高山修一社長(当時)
オリンパスの高山修一社長(当時)

 2011年に発覚したオリンパスの巨額粉飾決算事件に際し、同社の再建シナリオに、弁護士事務所が大きな影響を及ぼしたことが、同社の内部資料で明らかになった。「オリンパスが債務超過ではない」という極秘情報をいち早く入手することで、銀行団の支持を得て、上場維持への道筋を開いたと見られる。ただ、一連の動きは、外国人投資家など株主からは見えない水面下で行われており、企業統治上、適切だったのか、検証が必要になりそうだ。

 

 内部資料は11年11月11日に、同社の顧問弁護士事務所である森・濱田松本法律事務所とその後任のビンガム・マカッチェン・ムラセ外国法事務弁護士事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)が合同で、森久志・副社長から聞き取る形式をとっている(内部資料の全文を下に掲載)。

 

 ヒアリングでは、オリンパスの財務状態について、細かい質疑が行われている。ビンガムは森氏に、「一番関心あるのは、バランスシートが引き続いているかどうか。マーケットもそれから当局も非常に気になっていると思う」(内部資料40ページ)と述べ、財務諸表が簿外債務の計上も終えた状態を示しているのか質問。それに対し、森氏は、粉飾に使われた英国医療機器会社の優先株311億円だけが、「損認識しないといけないんじゃないかなと思ってます」と返答し、仮に損失を計上しても自己資本の範囲内に収まり、債務超過にはならないとの見方を示している。

 

 ◇最大の関心事

 

 粉飾決算発覚当時、オリンパスは6000億円超の有利子負債を抱えており、仮に債務超過に陥れば、銀行は信用格付けの低下から融資を継続できず、資金繰り面から破綻する恐れがあった。また、東証の上場維持の判断に大きく影響することは必至で、同社の財務状態は利害関係者にとって、最大の関心事だった。

 

 ビンガムは、5日後の16日に森・濱田の後任の法律顧問に就任。倒産法制の専門家で千代田生命の更生管財人を務めた坂井秀行弁護士(現アンダーソン・毛利パートナー)が顧問として、当時の高山修一社長=写真=を強力に支援した。

 

 当時、オリンパスの経営陣は、巨額の使途不明金を追及して解任された前社長CEOのマイケル・ウッドフォード氏と激しく対立。株主委任状争奪戦(プロキシーファイト)も勃発し、経営は混乱を極めていた。しかし、関係者によると、企業経営に詳しい坂井氏の登用により、銀行団も高山氏ら当時の経営陣を支持する方針を固めたという。

 

 アンダーソン・毛利は、一連の事実関係の確認を求める本誌編集部の問い合わせに対し、「特定の企業についてはコメントできない」と回答した。

 

 12月6日にオリンパス第三者委員会が報告書を公表すると、オリンパスは翌7日に「経営改革委員会」を設置し、独立性の高い委員会の助言により再建を進めると発表。また、「取締役責任調査委員会」などを設け、現旧取締役や監査役、監査法人の責任追及を進めるとアピールした。その結果、同社の経営は高山社長のもと、安定を取り戻していった。

 

 銀行団の支持が得られなかったウッドフォード氏は12年1月に、プロキシーファイトから撤退。同年4月の臨時株主総会では、高山社長が指名した笹宏行氏が新社長に就任した。

 

 ただ、オリンパスのこうした内部事情は、同社の発行済み株式の約3割を保有していた外国人株主など外部からは一切見えなかった。政府が進める企業統治改革は、企業の意思決定過程の透明性確保を求めており、その観点から問題がなかったのか、疑問は残りそうだ。

(編集部)

*週刊エコノミスト2017年10月17日号掲載

オリンパスの内部資料

2011年11月11日に、同社の顧問弁護士事務所である森・濱田松本法律事務所(文中ではMHM)とその後任のビンガム・マカッチェン・ムラセ外国法事務弁護士事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所、文中ではビンガム)が合同で、森久志・副社長(文中では森)から聞き取る形式をとっている。

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