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第74回 福島後の未来:会津発のスマートプラグ 「電力の見える化」で節電=久田雅之

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ひさだ・まさゆき  1974年愛知県生まれ。97年会津大学コンピュータ理工学部卒業。2002年会津大学大学院博士後期課程修了(コンピュータ理工学博士)。03〜06年金沢工業大学工学部情報工学科講師などを経て、07年会津ラボ設立。
ひさだ・まさゆき  1974年愛知県生まれ。97年会津大学コンピュータ理工学部卒業。2002年会津大学大学院博士後期課程修了(コンピュータ理工学博士)。03〜06年金沢工業大学工学部情報工学科講師などを経て、07年会津ラボ設立。

久田雅之(会津ラボ代表取締役社長)

 

今年、電力不足が心配されたのは大雪に見舞われた1月下旬。東京電力の発電所のピーク時の供給余力がわずか5%まで低下する危険な状態に追い込まれました。発電所でトラブルが起きれば大規模停電が発生しかねない状況です。東京電力は自社のホームページで節電要請をかけていますが、皆が気づくのは、夜のニュースが報じられてからです。そこから節電しても遅い。もっと機動的に国民が自発的に節電するような体制ができないだろうか。

 

 私の会社、会津ラボが目指しているのは、そんな「使う電力の見える化」で節電をする取り組みです。そのために作ったのが家庭のコンセントに差し込むだけで、自分が使っている電力の使用量が分かる「スマートプラグ」です。

 

始まりは会津大学

 

 私は1993年に創立されたコンピュータ理工学部だけの単科大学、福島県立の会津大学第1期生です。世界に通用するコンピューターの専門大学を作り、会津をシリコンバレーにしよう、という構想のもとに創立され、最初は教授陣の70%近くが外国人。世界20カ国から招請された教授陣が英語で授業する大学でした。

 

 私は大学院まで進み、博士課程を修了した2002年、東京のベンチャー企業に就職し、その後金沢工業大学の講師となりました。大学の関係者からは「あと10年頑張れば教授も目指せるよ」と言われていましたが、逆にこのままでよいのか、会津大学初代学長の國井利泰先生(会津大学・東京大学名誉教授)に言われた言葉、「アメリカでは優秀な学生は自らの実力を試すため起業する、自信がない人間は大学に残る」、この言葉がずっと頭に残っていました。

 

 結果的に私は07年1月、会津に戻り起業しました。会津大学入学時の國井学長との最初の会話は「君は何をやりたいのか」と聞かれ、私は「世界最強のコンピューターウイルスを作りたい」と答えたら、「面白い、君のような人間はまずは博士号を目指すべきだ、学位を取ったら起業しなさい、会津にシリコンバレーを作ろう」と言われたのが一つのきっかけとなりました。

 

 起業した直後は企業などのホームページに疑似攻撃を仕掛け、ソフトウエアの脆弱(ぜいじゃく)性を調べるサービスを立ち上げましたが、失敗。08年のリーマン・ショックにも見舞われ、調達した資金は底をつきました。このためにソフト開発の受託、ホームページの作成からポスターの作成にいたるまで、何でもやってきました。

 

 そしてスマートフォンが普及し始めた10〜11年にGPS(全地球測位システム)を活用した観光アプリの開発などをやっていました。そんなとき「福島を再生可能エネルギーが集約する県にしよう」という取り組みをしていたエネルギー・エージェンシーふくしまの服部靖弘代表(当時はふくしま地域イノベーション戦略支援プログラムのプロジェクトコーディネーター)にお会いしました。服部さんから「今後はものづくりだけでなく、IT(情報技術)やICT(情報通信技術)が重要だ。君の持っている技術を生かせないか」と強く諭されました。私はエネルギーの専門家ではありませんでしたが、自分の欲しいものは何かを考え、スマートプラグを思いついたのです。

 

 福島原発事故のあと、大手電力会社は電力管理のために分電盤にスマートメーターを付ける取り組みを始めました。スマートメーターは計量に使われるだけではなく、電気の使用状況を見える化できる技術です。スマートメーターの取り付けには分電盤への設置工事が必要でした。私の住む物件は、当時の管理会社から工事を受け付けてもらえずスマートメーターが付けられなかった。そこから発案して、コンセントに直接スマートメーターのようなものを付ければ、洗濯機から冷蔵庫、コタツの電力利用状況まですべて分かるのではないか、と思いついたのです。

 

 私が毎朝家を出るのは妻と子どもの後でした。よくコタツをつけっぱなしにして妻に怒られました。それを何とかできないか、というのも一つの原点でした。

 

 調べると、家庭で使う電気はテレビ、エアコン、照明、洗濯機、冷蔵庫や熱源である電気ストーブ、コタツなどで約半分消費しています。しかも生活に直結しているのでそこが一番変動が激しい。つまり私が想定したコンセントを5個程度付ければ家庭の電力の需要はある程度予測できる、と考えたのです。しかも使用量が見えるだけでなく、テレビやエアコンをつけっぱなしにしたら遠隔からスイッチを切ったり、温度を調整できればいいと考えました。

 

 最終的にスマートプラグは温度と湿度の計測センサーを搭載、電力の消費量が測れ、スイッチの遠隔操作と赤外線リモコンの機能を持たせ、これらが全てクラウド経由でスマートフォンにて管理できるようにしました。開発をスタートしたのは15年。外注もできましたが、私はアップルの創業者スティーブ・ジョブズが好きなので、彼にならって製造は外注しても自社設計にこだわりました。当時の会社はまだ20人程度でしたが、経験ある50代のエンジニアを採用し、電子回路から基板まで一から設計し、スマートプラグを完成させました。

 

 当初はメード・イン・福島にこだわりましたが、製造コストがどうしても折り合わず、最終的には中国・深センの工場に委託するのが最も安かった。しかし、秋田県のある工場が我々の将来にかけて中国とほぼ同じ金額で製造してくれることになったのです。17年11月に試作の製造をスタートし、18年7月にはPSE(電気用品安全法)認証を取得して量産を開始できる見込みです。

 

原発4基分が節電できる

 

 家庭用のエアコンは最大で約1キロワットも電力を消費します。計算上は100万世帯のエアコンの電力消費は100万キロワットの原発1基分に相当します。仮に国内4000万世帯のエアコンで1割の節電を実現できれば、原発4基分の節電が可能になるわけです。類似の取り組みとしてバーチャルパワープラント(VPP)があります。これは発電と蓄電、節電を組み合わせることで、あたかも発電所があるのと同じことになります。

 

 ただし各家庭が節電に応じても1回で数十円にもならないし、その節電分のお金のやり取りをしても決済手数料だけで赤字になる。そこでブロックチェーン(分散型電子台帳)の技術を使い、将来的には仮想通貨で決済、取引ができないか、という実験も始めています。

 

 実証実験では、福島県再生可能エネルギー関連技術実証研究支援事業の補助を受けて、県内を中心に2000個のスマートプラグを配布し、節電だけでなく高齢者見守りサービス(主に浪江町にて実施中)を含めた実験も行っています。

 

 スマートプラグは1個7000円前後での販売を予定しています。一つの家庭に5個設置するとして、節電だけでは回収するのは難しいです。このため、個別の電機製品の利用状況、各家庭の電力使用状況というビッグデータを活用できないか、というビジネスも模索しています。

 

 最終的には国内4000万世帯に普及させたいと考えています。昨年と今年、ドイツで開かれた欧州最大のエネルギー展示会にも福島県のブースで出展し、この10月からはドイツでも実証試験を始める予定です。

 

 ビジネスとしては、家電量販店や新電力、マンションデベロッパーなどへの販売を想定し、B2B2Cつまり法人販売を通じて消費者に届けるビジネスを想定しています。

 

 スマートプラグは理論値ですが1秒間に10万回のデータを取ることも可能で、家庭ごと、家電ごとに細かな利用状況が分かり、このデータを匿名化し、生活パターンから健康状態まで把握することも可能になるかもしれない、と考えています。

 

*週刊エコノミスト2018年7月24日号掲載


目次:2018年7月31日号

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contents

 

ダマされない不動産投資

16 利回り低下で投資妙味薄く 地主も知識武装が必要に ■花谷 美枝

20 人口減少で市場はどうなる? 首都圏の住宅家賃が急落する「サブリース2025年問題」 ■高田 吉孝

22 タワマンの価格はまだ上がる? 2019年、20年に新築急増 湾岸エリアでは人気に陰りも ■榊 淳司

24 施工不良はレオパレス21だけ? 人手不足で手抜き工事が増加 マイホームより多いトラブル ■長嶋 修

26 融資の市場の今は? 「スルガ問題」で混乱続く 金融機関のアパートローン ■長門 武蔵

27 不動産投資ブームは終わり? 個人はアパートでは勝てない 資産形成なら自宅に投資 ■沖 有人

28 J-REITは今、買いか? REITの買い場はこの先、来る 米金利高で相場が下がるのを待て ■山崎 成人

30 不動産でもクラウドファンディング? 個人の小口資金集める仕組み 利回り高いが元本毀損リスクも ■花谷 美枝

32 海外不動産の「活用法」? 節税効果で富裕層が購入 米中古住宅の危ういブーム ■高橋 克英

33 割安感で人気のテキサス州ダラス 日本の不動産会社が相次ぎ進出 ■花谷 美枝

エコノミスト・リポート

74 次世代レジ戦争 無人店舗で導入進む「画像認識」 本命「RFID」はコストに課題 ■鈴木 淳也

 

Flash!

 

11 中国成長率が減速、金融改革でインフラ抑制/英の離脱方針、EUルール服従に批判

13 ひと&こと JBIC総裁に異能バンカー/トヨタ社長が「後継」と蜜月

 

Interview

 

4 2018年の経営者 山名昌衛 コニカミノルタ社長

92 挑戦者 2018 秋田智司 WASSHA CEO(最高経営責任者)

44 問答有用 佐々木常夫 ビジネス書作家 「会社でトップに立つより、幸せな人生を見つけた」

80 「おカネに強い子」を育てる ■渡辺 賢一/編集部

84 ジュニアNISAでは子供にも銘柄を選ばせよう 投資教育家が教える実践的マネー教育5カ条 ■岡本 和久

85 母親が大切だと感じるマネー教育 おだちん制で労働の大切さを学ばせる ■竹谷 希美子

  実業家が大切だと感じるマネー教育 使わせてお金の生々しさを教えたい ■荻原 充彦

64 新連載 コレキヨ 小説 高橋是清 (4) ■板谷 敏彦

34 シェア経済 「中古」気にしないネット世代支持で拡大 ■久我 尚子

36 東京 10月移転は先送りすべき 解決していない豊洲問題 ■森山 高至

38 事件 オリンパス粉飾幇助の証拠に疑念 砕かれた特捜部の主張 ■編集部

40  LGT銀行が認識の可能性 偽筆に偽の運用報告書も ■編集部

70 ビル 大型オフィスビルが新築ラッシュ 五輪後に賃料下落へ ■大久保 寛

72 中国 医療ビッグデータを社会保障費削減に 医療サービスも向上 ■片山 ゆき

 

World Watch

 

58 ワシントンDC 最高裁新判事に保守系 「中絶容認」判決に影響か ■井上 祐介

59 中国視窓 金融開放で進む外資参入 為替、資本自由化には慎重 ■神宮 健

60 N.Y./カリフォルニア/スウェーデン

61 韓国/インド/フィリピン

62 台湾/コロンビア/モロッコ

63 論壇・論調 連立崩壊回避するも亀裂露呈 内相はメルケル政権の火種 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

 

3 闘論席 ■小林 よしのり

15 グローバルマネー 長短金利差縮小がFRBの利上げを制約か

41 キラリ!信金・信組 (22)(最終回) 塩沢信用組合(新潟県) ■浪川 攻

42 名門高校の校風と人脈  (299) 洛南高校(京都府)/鶴丸高校(鹿児島県) ■猪熊 建夫

48 学者が斬る 視点争点 保育士の低賃金は行革が主因 ■佐藤 一光

50 言言語語

66 東奔政走 総裁選の論点となる「2040年問題」 野田総務相が投じたボール ■人羅 格

68 海外企業を買う (199) ムーディーズ ■岩田 太郎

77 図解で見る 電子デバイスの今 (16) 太陽電池技術はここまで進んだ シリコンは限界、新型が虎視眈々 ■松永 新吾

94 独眼経眼 長短金利逆転でも景気後退はまだ先 ■渡辺 浩志

96 アートな時間 映画 [オーシャンズ8]

97        美術 [ミケランジェロと理想の身体]

98 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Baby boomers ” ■安井 明彦

 

Market

 

86 向こう2週間の材料/今週のポイント

87 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット

88 ブラジル株/為替/穀物/長期金利

89 マーケット指標

90 経済データ

 

書評

 

52 『健康の経済学』『ダーウィン・エコノミー』

54 話題の本/週間ランキング

55 読書日記 ■楊 逸

56 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

51 次号予告/編集後記

 

進化した事務機でIoT時代の課題を解決  山名昌衛=コニカミノルタ社長

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Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── 2017年度は売上高と営業利益が7%ずつの増収増益でした。要因は。

 

山名 事務機器の市場環境が厳しく、業界では後ろ向きのニュースがひっきりなしです。紙を扱う事務機器は産業そのものが終わっているという論評もあります。しかし、当社の事務機器は設置台数が増えていて、1年間に生み出されるプリント量も前年比で3%増えています。主力の事務機を含めすべての事業分野で増収増益でした。

 

── 逆風のなかで、なぜ台数やプリント量が増えるのでしょうか。

 

山名 コピー機を設置するだけでは、提供できる価値に限界があります。当社の顧客の中小企業の多くには、情報システム部署がありません。そうした企業のIT(情報技術)に関する“困りごと”に対応できるよう、7~8年前から40社以上のITサービス会社の買収を世界中で進めてきました。

 

── 事務機といえば毎月のように保守の担当者が職場に来て、トナーなどを交換します。その人たちがお客さんの相談に乗るのですか。

 

山名 いや、専門性が必要ですから、保守スタッフは対応しません。買収したIT会社には、顧客の業務課題を聞いて解決策を提案できるプロがいます。電子データの保管やセキュリティー対策、業務フロー改革、クラウド基盤の構築など、IT関連のビジネス需要を掘り起こして、全体の売り上げ増につなげています。

 

複合機がIoT基盤に


── 今秋ごろに新しいコンセプトの事務機を出す予定ですね。

 

山名 「ワークプレイスハブ」という名称で、コピーやスキャナーなどの機能を持つ複合機にサーバーを内蔵する、進化した複合機です。導入先のITサービスやIoT(モノのインターネット)を運用するプラットフォームで、さまざまな現場の効率を向上させることが狙いです。例えば、2年前に買収したドイツのモボティックスという監視カメラメーカーがあります。工場や病院における人の動きなどをリアルタイムで分析できるのが強みで、ワークプレイスハブのサーバー機能と連携させれば、効率的な運用ができます。8月から世界8カ国で発売し、秋には11カ国くらいに拡大する予定です。21年度には関連売り上げで1000億円以上を考えています。

 

── 何台くらい販売すれば1000億円以上になりますか。

 

山名 複合機だと設置台数によってプリント量が決まってきますが、ワークプレイスハブは、スマートフォンのようにアプリを提供して、使われた分に応じて従量課金します。設置台数に加え、累積でアプリがどれくらい使われるかをシミュレーションすると、1000億円という事業規模は十分に可能だと考えています。

 

── デジタル方式の商業印刷も好調です。

 

山名 大量に印刷して必要なところに輸送して配給する従来のアナログ印刷が、世の中の印刷物の9割以上を占めています。デジタル印刷は必要部数をコンピューターに入力して出力するので、無駄な印刷をなくすことができて、環境にもよい。紙への印刷だけでなく、イタリア有名ブランドのネクタイだってデジタル印刷でつくっています。

 

フィルム技術に由来し創薬支援


── ヘルスケアでも昨年は2件の大型買収がありました。その狙いは。

 

山名 米国のバイオヘルス2社を買収しました。がん患者の遺伝子の検査サービスで先駆的なアンブリー・ジェネティクス(当時の為替で542億円)と、創薬に必要なバイオマーカー(診断指標になる生体由来物質)発掘に重要な能力を持つ、インヴィクロ(同320億円)です。当社には、フィルム関連技術の蓄積を基にたんぱく質を検出する「HSTT」という独自技術があります。3社の技術を融合することで、製薬会社への創薬の提案力を高める狙いで、過去最大と2番目の買収に踏み切りました。

 

── 3割強株主の外国人投資家から、事務機や液晶パネル部材、創薬支援など事業構成がわかりにくいと言われませんか。

 

山名 複写機や印刷機、医療関連の計測機器など事業が多岐に広がっているようにみえるかもしれません。ただ、当社の進むべき道は、光学、画像、材料、微細加工の四つの技術を融合し、ビジネスを切り開くことです。06年にカメラから撤退しましたが、光学はずっと技術の中核を成しています。写真フィルム(06年撤退)で培った、材料を微細に加工する技術もいまでも当社の中核です。200万社の顧客基盤を持つなかで、画像、データ、センシングの技術とIoTを駆使して、課題解決型の企業に進化します。

 

── 売上高構成比が37%と高い欧州が政治的に不安定な状況です。業績に与える影響は。

 

山名 ドイツを中心に経済は強く、欧州事業が減速しているわけではありません。問題は為替で、18年度業績見通しでは1ユーロ=125円の前提です。ユーロ相場は注視する必要はありますが、現地通貨ベースの事業をしっかりやることが大切です。また、成長率でみると中国、インド、(その他)新興国が高い。日米欧を除く地域の売上高比率は現在約15%ですが、5年後には30%程度に引き上げようと考えています。

 

(構成=浜田健太郎・編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 30代前半は欧州に駐在して、ベルリンの壁崩壊という激動を肌で感じました。後半は日本に戻り経営企画を担当し、中長期ビジョンなどの策定に関与。30代によい経験ができたと思います。

 

Q 「私を変えた」本は

 

A 梅原猛さんの『将たる所以』です。リーダーには世界観が必要と学びました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A ジョギングや美食。最近はモダンフレンチ。

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 ■人物略歴

やまな・しょうえい
 1954年生まれ、兵庫県立柏原高校、早稲田大学商学部卒、77年ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)入社、コニカミノルタホールディングス常務執行役、コニカミノルタ取締役兼専務執行役を経て2014年4月から現職。兵庫県出身。63歳。

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事業内容:事務機器、商業印刷、医療IT、産業用材料・機器事業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1936年12月

資本金:375億1900万円

従業員数:4万3299人(2018年3月現在、連結)

業績(18年3月期、連結)

 売上高:1兆312億円

 営業利益:538億円

特集:ダマされない不動産投資 2018年7月31日号

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利回り低下で投資妙味薄く

地主も知識武装が必要に

 

 低金利を背景に、2000年以降続いてきた不動産投資ブームに変調が生じている。シェアハウス「かぼちゃの馬車」に限らず、不動産投資に関連したトラブルが相次いでいる。住宅ローン問題の相談を受け付ける全国住宅ローン救済・任意売却支援協会(埼玉県所沢市)によると、自宅の住宅ローンのみならず、不動産投資の失敗に関する相談が増えているという。当初想定していた賃料を確保できず、投資用不動産を売りに出す人も多い。

 

 不動産鑑定会社、三友システムアプレイザル(東京都千代田区)の堂免拓也社長は、「投資市場はピークを過ぎたと言われてから2年くらいたつが、いまだ投資用マンションの販売は好調だ」と話す。販売を支えるのは低金利だ。地価上昇と建築費高騰によりマンション価格が値上がりし、投資利回りは低下しているが、低金利で融資する金融機関があるために、投資用不動産を取得する人は多いという。安定的に利回りを確保できる投資対象が金融市場にないことも、不動産投資を検討する人が後を絶たない背景にはある。

Bloomberg
Bloomberg

経営に余裕なく


 しかし、利回りが低い状況で始める不動産投資は、経営に余裕がなくなることが多い。不動産の表面利回りは、年間賃料収入を物件購入価格で割り、100を掛けて求めるが、賃貸経営にはローン返済、固定資産税の支払い、管理費・修繕費、入居者獲得のためのコストなども必要になるので、実際に手にする収益は表面利回りの数字よりもずっと小さい。このため運用の途中で空室になったり、賃料が想定よりも下がったりした時にローン返済がたちどころに苦しくなる。

 

 不動産投資をめぐる環境は、今後さらに難しくなる可能性が高い。不動産情報会社タス(東京都中央区)が集計する賃料指数によると、東京23区内のワンルームや1Kなど単身世帯向けの賃貸住宅の賃料は、長らく2004年1~3月の水準を下回っていた(図1)。低金利を背景に、都心部に単身者向けの賃貸住宅の建築が増えたことで、全体の家賃が押し下げられたと考えられている。単身者向け物件数の増加は、空室率の上昇にも直結している。17年以降、23区内の賃貸住宅の空室率は上昇基調にある(図2)。

 

 今後も低金利が続くと予想されるため、「場所と利回りを選別すれば、不動産投資は成り立つ」(マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリスト)との見方が一般的だが、ベテラン投資家にとっても今の市場で投資を続けることは容易ではない。1990年、バブル期から不動産投資をしてきた都内在住の佐藤哲夫さん(62)は、単身者向けマンションに始まり、中古アパートに投資するなどして資産を増やしてきた。現在は都内で3棟30戸を運営している。この数年は都内で土地を見つけて、アパートを新築することが多く、現在も1棟を建築中だ。ただ、最近は、地価上昇に加えて、不動産投資家が急増し、アパートの専門業者も増えたため、投資に適した土地が見つけにくくなったという。「インカムゲイン(家賃収入)を目的にアパートや土地を買うのは難しくなった」と佐藤さんは話す。

「かぼちゃの馬車」の物件
「かぼちゃの馬車」の物件

「入居率99%」のカラクリ


 しかし、こうした状況にあっても投資用不動産の猛烈営業は健在だ。

 

 30代男性会社員は7月、投資用マンション販売会社から営業を受けた。結婚を機に資産運用を真剣に考え始めたタイミングで、SNS(交流サイト)経由でアプローチされ、関心を持った。提示されたマンションの価格は3000万円前後。賃貸住宅として貸せば、月9万円の家賃収入が入るという。ローンの返済は月10万円程度。毎月1万円は給料から持ち出しになるが、「この投資用ローンを組めるサラリーマンは全体の10%だけ。あなたはその貴重な10%」と自尊心がくすぐられ、さらに「当社の管理物件の入居率は99%です」とダメ押しされて思わず資料を持ち帰った。

 

 不動産業は、売り手と買い手の情報格差が大きい産業と言われる。「入居率99%」という典型的なセールストークもその一つ。実際には、築年数が経過したり、賃料値下げ交渉に応じない家主とは管理契約を解除するなどして、数字を「作って」いることが多い。

 

 相続対策などでアパートを建てる家主も同様だ。家主に支払う賃料を保証するサブリース契約には、一定期間後に支払う賃料を見直す条項が含まれることを見落とす人は多い。

 

 さらに、空室の増加が予想される時代は、地主こそ慎重になるべきだとタスの藤井和之新事業開発部長は指摘する。「地主は“土地ありき”でアパートを建てることが多く、場所を選べない。だが駅から遠い場所など賃貸需要が少ない地域の場合、今後は経営が非常に厳しくなる可能性がある」(藤井氏)ためだ。

 賃貸需要が拡大し、高利回りを確保できた時代は、だまし、だまされながらも業者と不動産投資家の双方が利益を確保できた。しかし、そんな牧歌的な時代は終わろうとしている。投資家はさまざまな環境の変化が経営に及ぼす影響を真剣に検討する必要がある。

(花谷美枝・編集部)

週刊エコノミスト 2018年7月31日号

定価:670円

発売日:7月23日

 


2018年7月31日号 週刊エコノミスト

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発売日:7月23日

ダマされない

不動産投資

 

利回り低下で投資妙味薄く

地主も知識武装が必要に

 

 低金利を背景に資金流入が続いてきた不動産投資市場。だが、競争が激しくなったことで、投資に関連するリスクも高まっている。

 

 低金利を背景に、2000年以降続いてきた不動産投資ブームに変調が生じている。シェアハウス「かぼちゃの馬車」に限らず、不動産投資に関連したトラブルが相次いでいる。住宅ローン問題の相談を受け付ける全国住宅ローン救済・任意売却支援協会(埼玉県所沢市)によると、自宅の住宅ローンのみならず、不動産投資の失敗に関する相談が増えているという。当初想定していた賃料を確保できず、投資用不動産を売りに出す人も多い。

 

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目次:2018年8月7日号

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CONTENTS

 

変わる! 相続法

22 変わる家族の形を反映 40年ぶり相続法大改正 ■大堀 達也

24 インタビュー 中込一洋 弁護士、日弁連司法制度調査会特別委嘱 改正相続法をどう評価?「民意重視して高齢化に対応 算定が不明な権利に混乱も」

25 改正ポイント1 「配偶者居住権」の創設 自宅を所有せずに住み続ける ■岩田 修一

28       2 配偶者への自宅贈与 結婚20年以上なら恩恵大 ■大神 深雪

33       3 「使い込み」も遺産 「不当利得」訴訟が不要 ■小堀 球美子

34       4 預金の仮払い制度 遺産分割前に支払い可 ■小堀 球美子

35       5 遺留分侵害額請求権 金銭で請求可能に ■泉原 智史

36       6 「自筆証書遺言」の方式緩和 一部ワープロ可能で作成の負担減 ■吉口 直希

38       7 特別の寄与 「長男の妻」の介護に報いる ■荒木 理江

29 相続税はどうなる? 不明な「配偶者居住権」の評価法 小規模宅地の特例適用が焦点 ■村田 顕吉朗

32 よくある相続トラブル 親の預貯金の「使い込み」多発 出納帳に記録をつけて予防 ■小堀 球美子

40 Q&A ゼロから分かる 相続法の基礎知識■編集部/監修=大神 深雪

 

Flash!

 

17 日銀統計ミス 家計の投信33兆円減 進まぬ「貯蓄から投資」

18 ひと&こと 財務省初の女性広報室長 セクハラ問題の火消し役/「出光主導」の経営統合 昭和シェル社員の不満/山九の労務トラブル 東京労働局が調査へ

 

Interview

 

4 2018年の経営者 瀬戸欣哉 LIXILグループ社長兼CEO

98 挑戦者 2018 今村邦之 UZUZ社長

50 問答有用 有馬隼人 フリーアナウンサー 「日大反則問題の本質は心の結びつきの不足」

エコノミスト・リポート

89 米中「経済戦争」の余波 米国の中間選挙後も対立激化へ 日本は輸出増で「漁夫の利」も ■塚崎 公義

76 半導体 米国がZTEを制裁しても 中国が覇権を握る ■豊崎 禎久

78 韓国 「働き方改革」スタート 最低賃金未満の労働増に課題 ■金 明中

80 税制 東京都集中の地方法人税 配分巡る国との政治力学 ■種市 房子

82 米国 長期金利が発したサイン 原油下落なら米国株は転機に ■市岡 繁男

86 EU 難民危機で政治混迷 リーダー不在で揺らぐ結束 ■石野 なつみ

70 新連載 コレキヨ 小説 高橋是清 (5) ■板谷 敏彦

 

World Watch

 

64 ワシントンDC ガソリン価格高騰への不満 大統領は“ガス抜き”できるか ■馬渕 治好

65 中国視窓 ハニーズが全店閉鎖へ 明暗分かれる日本ブランド ■岩下 祐一

66 N.Y./カリフォルニア/英国

67 韓国/インド/インドネシア

68 上海/ロシア/エジプト

69 論壇・論調 貿易摩擦の激化で孤立する米国 日欧、中欧の協定成立を促進 ■岩田 太郎

 

Viewpoint

 

3 闘論席 ■古賀 茂明

21 グローバルマネー 韓国、トルコ、南アフリカに共通する負の連鎖

44 海外企業を買う (200) 中国楓葉教育集団 ■富岡 浩司

46 名門高校の校風と人脈 (300) 室蘭栄高校(北海道)/古川高校(宮城県)/下妻第一高校(茨城県)/共立女子高校(東京都)/捜真女学校高等学部(神奈川県)/金沢二水高校(石川県) ■猪熊 建夫

54 学者が斬る 視点争点 自動車の燃費改善効果の錯覚 ■溝渕 健一

56 言言語語

72 東奔政走 遠い信頼回復と国民のあきらめ 首相は総裁選に向け戦闘モード ■佐藤 千矢子

74 福島後の未来をつくる (75) 有害度の低減技術開発を リアルな原発のたたみ方 ■橘川 武郎

100 独眼経眼 貿易摩擦の影響は今のところ小さい ■足立 正道

107 商社の深層 (120) 双日がパキスタンで現代自工場 “新時代”に商社ができること ■編集部

108 アートな時間 映画 [スターリンの葬送狂騒曲]

109        舞台 [八月納涼歌舞伎 盟三五大切]

110 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Esports ” ■安井 明彦

 

Market

 

92 向こう2週間の材料/今週のポイント

93 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

94 欧州株/為替/原油/長期金利

95 マーケット指標

96 経済データ

 

書評

 

58 『経営者』『株主の利益に反する経営の適法性と持続可能性』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■荻上チキ

62 歴史書の棚/出版業界事情

57 次号予告/編集後記

消費者に響く住生活商品を開発 瀬戸欣哉=LIXILグループ社長兼CEO  

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 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── 衛生陶器を中心とする水まわり関連事業が好調ですね。

 

瀬戸 水まわり事業には三つの強力なブランドがあります。一つは日本の「INAX」で、その技術は世界トップクラスです。また、ドイツで展開する「グローエ」はマーケティングとデザイン力に優れており、「アメリカンスタンダード」は米国民にとって親しみのあるブランドです。技術力、マーケティング力、コミュニケーション能力をうまく組み合わせることで、世界市場で存在感のあるビジネスを展開できます。

 

── 例えば、どのような成功例がありますか。

 

瀬戸 2016年7月に発売したシャワートイレ「センシア アリーナ」は、ドイツの美意識と日本の技術を融合させ、ヒットしました。グローエの洗練されたデザインに、日本が世界に誇るシャワートイレの先端技術を搭載しました。こうした特徴のある商品が増えています。18年3月期決算では、国内の水まわり事業は全商品カテゴリーで市場全体を上回る成長を実現しました。

一家にトイレ「2台」


── トイレ市場は伸びますか。

 

瀬戸 新興国市場では、人口増に伴い住宅着工数も増え、トイレの数も増えていきます。先進国でも、家族に一つだったトイレが、同じ住宅内で二つ以上のトイレを持つ家庭が増えています。住宅着工数に上乗せした市場規模が期待できるわけです。

 

── 日本でも一家に2台の時代になると。

 

瀬戸 朝の出勤・登校前はトイレが混み合い、2~3台欲しいという家庭が増えていると聞きます。自動車や家電など他の商品・サービスと違い、人口減の日本でさえ、トイレの増加は期待できます。ただ、日本も世界もトイレを作れるメーカー数が多いため、そのビジネスチャンスを当社がつかめるかどうかです。

 

── 建材事業はどうですか。

 

瀬戸 日本市場が中心なので、住宅着工数の減少や原材料の高騰など外部要因に左右されやすい体質の改善が課題です。高コスト構造を是正し、生産効率を高める必要があります。商品の統一化や部材の共通化で、コストを低減し、市場の変化に柔軟に対応できるようにします。

 

── とはいえ、安いだけではだめですよね。

 

瀬戸 住宅設備メーカーが直面する課題は、商品のコモディティー(汎用(はんよう))化にあります。住宅を建てるときに窓やドアにこだわる人は多くありません。メーカーとしては、工務店や流通業者の要求に応えるだけでなく、今後は消費者に名指しで選んでもらえる製品を作らなければなりません。外部企業との連携を進め、特徴的な商品を投入します。

 

── 成功例は出てきましたか。

 

瀬戸 水まわりと同様に、魅力ある商品が出てきました。「LW(エルダブリュー)」という窓は、上下左右の窓枠が室内から見えない「フレームイン」のユニークなデザインです。1枚の大きなガラス戸を室外にスライドさせる新発想の大開口窓で、アルミと樹脂のハイブリッド構造を採用することで、眺望性と高い断熱性能の両立を実現しました。

 

── LWは「トステム」のブランドとして発売しました。なぜ、「LIXIL(リクシル)」というブランドを使わないのですか。

 

瀬戸 LIXILは会社のブランドとして認知度が高まりました。今後は、商品カテゴリーごとにブランドの認知を高めていきます。水まわりはINAX、サッシはトステムといった具合です。さらに、キッチンの「リシェル」や浴室の「スパージュ」などの中心的な役割を担うブランドについては資金を投入し、育てていきたいですね。

── LIXILは、トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が集まってできた会社ですね。求心力を高めるためにどんな工夫をしましたか。

 

瀬戸 日本の組織の特徴は、暗黙知を高いレベルで共有していることです。企画書の書き方や会議の進め方、根回しなど暗黙知がたくさんあって、それを知っている人が出世します。海外の企業には暗黙知が少なく、外部から加わった人が活躍しやすいのとは対照的です。そこで、昨年11月に公表した中期経営計画で、従業員に求める行動様式を掲げました。「明文化したルール以外はルールじゃない」と宣言しました。

 

「正しいことをする」


── どのようなルールですか。

 

瀬戸 「正しいことをする」「敬意を持って働く」「実験し学ぶ」という三つだけです。従業員が、自分の頭で正しいことを考えて、実行するという期待を込めています。「トステムでは昔からこうだった」とか、「INAXはこうあるべき」などの暗黙知のルールは認めません。

 

── 新興国で簡易トイレの普及にも力を入れていますね。

 

瀬戸 一体型シャワートイレ1台購入していただくと、アジアやアフリカの学校を中心に、簡易式トイレ「SATO」を1台寄付するというキャンペーンを展開しています。学校にトイレを設置すれば、教育格差是正や衛生問題の解決に役立ちます。従業員が誇りを持ち、取引先企業、消費者が「この活動があるからリクシルを買う」という動機付けになります。衛生課題の解決は、専任の事業部を置き、持続可能な事業として取り組んでいます。

 

(構成=小島清利・編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 住友商事で米デトロイトに赴任し、MBA(経営学修士)留学や新会社設立など今の自分の基礎となる経験を積みました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』です。「今の自分たちのビジネスを壊して新たに生み出すにはどうしたらいいのか」という発想が重要であることを教えてくれました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 子どもと遊んだり、食事やスポーツ観戦など、家族と過ごす時間を持つようにしています。

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 ■人物略歴

せと・きんや
 1960年生まれ。東京都出身。武蔵高等学校中学校、東京大学経済学部卒業。83年住友商事入社。96年米ダートマス大学MBA(経営学修士)取得。2000年工具ネット通販MonotaRO(モノタロウ)創業。16年1月LIXIL社長兼CEO(最高経営責任者)、16年6月から現職。58歳。

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事業内容:水まわり設備、建材、設備機器の製造・販売など住生活関連事業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1949年9月

資本金:681億2100万円

従業員数:6万1440人(2018年3月末現在、連結)

業績(18年3月期〈IFRS〉、連結)

 売上収益:1兆6648億円

 事業利益:753億円

特集:変わる!相続法 2018年8月7日号

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変わる家族の形を反映 

40年ぶり相続法大改正

 

 約40年ぶりとなる相続法改正案が7月6日、参議院の本会議で可決・成立した。相続法は相続の方法や遺言について定めた民法の相続分野のことで、誰しも今後、必ず関わることになる。

 

 直前の大きな改正は1980年。配偶者の法定相続分(民法で定めた遺産の分け方の目安)が引き上げられ、寄与分(亡くなった人〈被相続人〉に特別に貢献した分だけ相続財産を得る権利)が認められた時だ。

 今回の相続法改正では、「配偶者居住権」(配偶者が自宅の建物に住み続けられる権利)など、いくつかの新たな権利が設けられたほか、遺産分割前でも被相続人の預貯金を引き出せるなど制度も大きく変わる(表)。

 改正項目の多くは2019年7月12日までに施行される(ただし、自筆証書遺言の方式緩和は19年1月13日から、配偶者居住権は20年7月12日までに施行)。

 

 今回の相続法改正の背景について、弁護士資格を持つ大和総研の小林章子研究員は「高齢化する社会の中で家族のあり方が変化し、法律の手直しが必要になったことが改正の大きな理由だ」と指摘する。特に、相続人となる配偶者の年齢が高齢化しており、従来に比べ生活保障の必要性が配偶者は相対的に高まり、子は相対的に弱まっている点だ。現行法では、法定相続分などを除けば、相続人となる配偶者や子はほぼ等しく扱われている。

 

 だが、現在、日本人の平均寿命は、女性より短い男性でも80歳を超えた。高齢になればなるほど、配偶者のどちらかが亡くなれば、遺された配偶者は生活を遺産に頼らざるを得なくなる。そのため、法改正は配偶者への保障を手厚くする方向で議論が進められた。

最高裁判決の影響も


 もう一つ、相続法改正のきっかけになったとされるのが、嫡出子(ちゃくしゅつし)(法律上の夫婦の間に生まれた子)と非嫡出子(法律上、婚姻関係にない男女の子)の相続分をめぐる最高裁判決だ。最高裁が2013年9月、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とした当時の相続法を「法の下の平等に反する」として違憲判決を出し、同年12月には嫡出子と非嫡出子の相続分を同等にする法改正案が可決・成立した。

 

 ただ、この法改正によって、非嫡出子の数が多いほど妻と嫡出子の取り分は減ることになる。そのため「配偶者の保護が相対的に下がった」という問題提起が与党内部から出た。今回の相続法改正は、最高裁判決への“揺り戻し”という側面もある。

 

 変わる家族の形を反映した改正相続法。ポイントを理解して使いこなしたい。

 

(大堀達也・編集部)

週刊エコノミスト 2018年8月7日号

定価:670円

発売日:7月30日



第75回 福島後の未来:有害度の低減技術開発を リアルな原発のたたみ方=橘川武郎

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きっかわ・たけお
 1951年、和歌山県旧椒村(現有田市)生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東京大、一橋大学大学院教授などを経て現職。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた。

 

 核兵器非保有国である日本がプルトニウムを生む使用済み核燃料の再処理を行うことを可能にしているのは、日米原子力協定による米国政府のお墨付きがあるからだ。その根拠になっていたのは、日本は核燃料サイクル政策を推進し、プルトニウムを平和的に管理する仕組みを有しているという判断だった。

 

 ところが、2016年12月に高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃止が決定されたため、核燃料サイクル政策はその「心臓部」を失い、事実上立ち行かなくなった。図は、核燃料サイクルの全容を示したものだが、それを支える主要な柱と想定されていたのは、図中下部の「高速増殖炉燃料サイクル」の方であった。

 

 日本政府は、もんじゅ廃止後も、既存原発の軽水炉でウラン燃料とプルトニウム燃料を混ぜて利用するプルサーマルを実施すれば核燃料サイクルの維持は可能だとしているが、プルサーマルだけでは日本が現在国内外に保有する約47トンのプルトニウムはわずかずつしか減らない。しかも、そのプルサーマル自体が遅々として進まず、現在プルサーマル発電を行っている原発は3基のみ。電気事業連合会が目標としてきた16~18基には遠く及ばない状況である。

 

もんじゅ転用はすでに明記


 この状況下で、国際社会は、日本が今後どのようなプルトニウム削減方針を打ち出すか、注視している。今年7月に日米原子力協定は自動延長されたが、同時に、日米どちらかが6カ月前に通告すれば、協定を破棄できる局面にも突入した。日本が打ち出すプルトニウム削減方針が国際社会の納得を得られない場合、トランプ米政権が北朝鮮政策との整合性を取るため、日米原子力協定を破棄して、日本の使用済み核燃料再処理に対するお墨付きを取り下げることもありうる。日本の使用済み核燃料処理政策は、きわめて困難な岐路に立たされている。

 

 ここで注目したいのは、16年に廃止が決定される以前から、もんじゅが事実上、高速増殖炉としての役割を終えていたという事実である。14年に策定された第4次エネルギー基本計画(今年7月の改定まで効力があった)は、使用済み核燃料の減容化(廃棄物の容積を減らすこと)について「放射性廃棄物を適切に処理・処分し、その減容化・有害度低減のための技術開発を推進する。高速炉や、加速器を用いた核種変換など、放射性廃棄物中に長期に残留する放射線量を少なくし、処理・処分の安全性を高める技術などの開発を国際的なネットワークを活用しつつ推進する」と述べていた。

 

 もんじゅに関しても、「廃棄物の減容・有害度の低減や核不拡散関連技術等の向上のための国際的な研究拠点と位置付け、これまでの取り組みの反省や検証を踏まえ、あらゆる面において徹底的な改革を行」うとしていた。

 

 つまり、第4次エネルギー基本計画では、もんじゅの高速炉技術を、従来のように核燃料の増殖のためでなく、使用済み核燃料の減容化・有害度低減に転用する方針が、すでに打ち出されていたのである。

 

 日本政府が政治的判断で、減容化・有害度低減のために転用するはずだったもんじゅの廃止を決定したのは、その2年後だ。つまり、日本の核燃料サイクル政策は、もんじゅ廃止で行き詰まったわけではなく、それ以前からすでに破綻をきたしていたことになる。そして、もんじゅ廃止は、厳密には、核燃料サイクル政策に対してではなく、使用済み核燃料の減容化・有害度低減の取り組みに対して痛手を与えたと言うべきである。

 

「万年」単位の半減期


「バックエンド対策」と呼ばれる使用済み核燃料の処理対策は、原発への賛否にかかわらず社会全体が解決を迫られている重大な問題だ。それは決して日本だけでなく、人類全体にかかわる問題でもある。

 使用済み核燃料を再利用するリサイクル方式を採るにしろ、1回の使用で廃棄するワンススルー(直接処分)方式を採るにせよ、最終処分場の立地は避けて通ることのできない課題であり、実現は、きわめて難しい。

 

 最終処分場では使用済み核燃料を地下深く「地層処分」することになるが、その埋蔵情報をきわめて長い期間にわたって正確に伝達することは至難の業である。

 

 リサイクル方式を採れば危険な期間は短縮されるかもしれないが、それでも「万年」の単位、つまり、伝達期間は何百~何千世代にも及ぶことになる。原発推進派の中には「地層は安定しているから大丈夫」と主張する向きもあるが、それでは地上はどうなのだろうか。例えば、プルトニウムの半減期は2万4000年だが、2万年前には北海道はアジア大陸と陸続き、本州から種子島まで陸続きで、日本列島の姿は今とはまったく異なっていたという。

 

 使用済み核燃料の危険な期間が万年単位のままでは、いくら政府が前面に出ても、最終処分地が決まるはずはない。最終処分地の決定には危険な期間を数百年程度に短縮する有害度低減技術の開発が必要不可欠である。有害度低減技術の開発については、その困難性のゆえに否定的な見解をもつ識者も多いが、どんなに高いハードルであってもそれをクリアしない限り、あるいは少なくともそれにチャレンジしない限り、人類の未来は開けない。

火力シフトなど3本柱


 ただし、有害度低減技術の開発には長い時間がかかる。その間、原発の敷地内に燃料プールとは別の追加的エネルギーを必要としない空冷式冷却装置を設置する、使用済み核燃料の「オンサイト中間貯蔵」を行うことも求められる。さらにいえば、きわめて困難とされる使用済み核燃料の有害度軽減の技術革新が成果を上げず、バックエンド問題が解決しないことも想定しなければならない。

 

 それに備えて、「リアルでポジティブな原発のたたみ方」という選択肢も準備すべきだ。柱となるのは、(1)火力シフト(送変電設備を活用した原子力から火力発電への転換)、(2)廃炉ビジネス(廃炉作業などによる雇用の確保)、(3)オンサイト中間貯蔵への保管料支払い(使い終わった電気が生み出した使用済み核燃料を預かってもらうことに対し、消費者が電気料金等を通じて支払う保管料)──からなる、原発立地地域向けの「出口戦略」だ。この戦略が確立すれば、現在の立地市町村も、「原発なきまちづくり」が可能になるだろう。

 

 使用済み核燃料の処理問題にどう向きあうべきか。まず、もんじゅに代わる有害度低減技術開発の具体的な方針を確立すること、次に、原発敷地内に空冷式冷却装置を設置し「オンサイト中間貯蔵」を行うこと、そして「リアルでポジティブな原発のたたみ方」という選択肢も準備すること──が重要だと思われる。

 

(橘川武郎・東京理科大学大学院経営学研究科教授)

2018年8月7日号 週刊エコノミスト

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定価:670円

発売日:7月30日

 

変わる!相続法 

 

変わる家族の形を反映 

40年ぶり相続法大改正

 

 約40年ぶりとなる相続法改正案が7月6日、参議院の本会議で可決・成立した。相続法は相続の方法や遺言について定めた民法の相続分野のことで、誰しも今後、必ず関わることになる。

 

 直前の大きな改正は1980年。配偶者の法定相続分(民法で定めた遺産の分け方の目安)が引き上げられ、寄与分(亡くなった人〈被相続人〉に特別に貢献した分だけ相続財産を得る権利)が認められた時だ。

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目次:2018年8月14・21日合併号

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CONTENTS

 

歴史に学ぶ 経済と人類

18 国家繁栄は技術革新とベンチャー精神 ■種市 房子

21 資本主義 際限なき欲望の解放が人類の感性を曇らせた ■小野塚 知二

23      貨幣の起源は前7世紀 ■編集部

24 ローマ史 変容する米国、寛容性喪失で色あせる大国の権威 ■本村 凌二

26 中国 全盛はモンゴル帝国・清朝時代 ■岡本 隆司

28 産業革命 金融の革新と覇権争いのセット ■上川 孝夫

30 GAFA ネット覇者が溶かす「平等幻想」 ■山形 浩生

32 統制経済 蘇る戦前・戦中期の国債金利抑制策 ■平山 賢一

34 GPIF 自らと投資先の統治を改革 ■徳島 勝幸

36 インタビュー 高橋則広 GPIF理事長 「運用委託先の統治体制 形式整ってもなお課題」

38 ひと&こと 拡大版 2018霞が関の異動 不祥事で変則人事続々

エコノミスト・リポート

47 英国EU離脱 来年3月に迫る交渉期限 「無秩序離脱」の現実味 ■田中 理

40 サッカーW杯 欧州から見た日本代表の運営 ■木村 浩嗣

42 エネルギー LPガス輸入は米国産が5割超に ■岩間 剛一

 

Flash!

 

13 日銀苦渋の政策修正/米国はビットコインのETF認可拒否/受動喫煙対策を迫られる飲食店

 

Interview

 

4 2018年の経営者 進藤孝生 新日鉄住金社長

110 挑戦者 2018 我妻陽一 助太刀社長

54 問答有用 松本紹圭 「未来の住職塾」塾長 「押し売り的な仏教では、もう通用しない」

80 リーマン・ショック10年

私のリーマン・ショック

82 篠原尚之 元財務官

83 竹中平蔵 慶応義塾大学名誉教授

84 古賀信行 野村ホールディングス会長

86 丹羽宇一郎 元伊藤忠商事会長

87 宮内義彦 オリックス シニア・チェアマン

88 出井伸之 ソニー元会長・社長

90 坂本幸雄 元エルピーダメモリ社長

91 宮本雄二 元駐中国日本大使

92 湯浅誠 社会活動家

85 再び不穏な空気 バブルは別の顔でやってくる ■熊野 英生

89 存在感高める中国 「米中二極体制」に日本はどう立ち回るか ■三尾 幸吉郎

93 キーワードで振り返る 100年に1度の危機の深層 ■小玉 祐一

96 名編集者が選ぶ 目利きの本棚

97 黒沢正俊 日経BP社

98 佐藤慶一 講談社

99 島田潤一郎 夏葉社

100 白石正明 医学書院

101 都築響一 フリー編集者

102 増山修 慶応義塾大学出版会

103 渡部朝香 岩波書店

50 コレキヨ 小説 高橋是清 (6) ■板谷 敏彦

 

World Watch

 

68 ワシントンDC 大リーグオールスター 随所に愛国心の演出 ■中園 明彦

69 中国視窓 習近平独裁に高まる不満 ネット上で退陣情報拡散 ■金子 秀敏

70 N.Y./カリフォルニア/英国

71 オーストラリア/インド/マレーシア

72 香港/ブラジル/UAE

73 論壇・論調 BRICS結束に各国の思惑 貿易戦争で中国は支持固め ■坂東 賢治

 

Viewpoint

 

3 闘論席 ■池谷 裕二

17 グローバルマネー 本質に踏み込めぬ日銀の政策修正

44 名門高校の校風と人脈(301・最終回) 西高校(東京都) ■猪熊 建夫

52 海外企業を買う(201) サイバーアーク・ソフトウェア ■小田切 尚登

58 学者が斬る 視点争点 電子商取引支える「仲介」の革新 ■渡辺 誠

60 言言語語

74 本誌版「社会保障制度審」(9) 「労働時間」「教育費」「保育」が鍵 少子化克服へ「結婚・出産」の増加要因検討 ■柴田 悠

76 図解で見る 電子デバイスの今(17) パワー半導体、産業機器で大きな需要 日本、ドイツ、米国勢が先行 ■津村 明宏

79 新連載 ズバリ!地域金融(1) 金融庁、遠藤新長官への期待 地域金融に「優しい」は禁物 ■浪川 攻

94 東奔政走 決断遅れた岸田氏の総裁選不出馬 「1強」になびき、先の展望開けず ■前田 浩智

112 独眼経眼 設備投資意欲は高まっていない ■斎藤 太郎

116 アートな時間 映画 [7号室]

117        クラシック [草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル]

118 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Establishment ” ■安井 明彦

[休載]商社の深層

 

Market

 

104 向こう2週間の材料/今週のポイント

105 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■三沢 順/週間マーケット

106 中国株/為替/白金/長期金利

107 マーケット指標

108 経済データ

 

書評

 

62 『金融政策に未来はあるか』『八九六四』

64 話題の本/週間ランキング

65 読書日記 ■高部 知子

66 歴史書の棚/海外出版事情 中国

61 次号予告/編集後記

 

付加価値高い鋼材でニーズを先取り 進藤孝生=新日鉄住金社長

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Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── 来年4月1日「日本(にっぽん)製鉄」に社名が変わります。狙いは。

 

進藤 理由は二つあります。子会社の日新製鋼を完全子会社とし、山陽特殊製鋼の子会社化も検討しています。日本の鉄鋼を支えてきた国内有数の企業が新日鉄と住金以外にも入ってきます。社名を並べるわけにはいかないので、包括した名前が必要になってきました。

 

 もう一つの理由がグローバル化です。米国やブラジルでも事業を展開していますが、スウェーデンの特殊鋼メーカーのオバコ社を買収し、インドでもアルセロール・ミタル(ルクセンブルク)と共同で買収を決めています。海外での事業展開が増えており、我々が日本発祥ということをわかりやすく海外に向けて発信する必要があると判断しました。

 

 鉄鋼業界は世界的なM&A(企業の合併・買収)が進む。2017年の世界粗鋼生産ランキングでは、新日鉄住金は日新製鋼の子会社化により世界3位になったが、首位アルセロール・ミタルの半分にも満たない。

 

── 鉄鋼業界の市況は。

 

進藤 大変良いです。15年から16年は、中国が4億トンを過剰生産し、過度に安い価格で輸出していたので大変でしたが、中国政府が生産能力を削減するなど、適正な需給関係になりました。原料も石炭の価格の乱高下がありましたが、落ち着いています。

── 足元の業績はいかがですか。

 

進藤 数字だけ見れば、17年度は連結ベースで売上高は5兆6686億円、経常利益は2975億円と増収増益でした。しかし、生産量は前年度より約200万トン減少しています。大分製鉄所の火災や設備事故などのトラブルで減産せざるを得ず、不十分な業績でした。事業環境は大変良いので、今年度こそ生産量を回復したいと思っています。

 

── あくまでも生産量世界トップを目指しているのですか。

 

進藤 規模の面で順位を上げることに意味があるとは思いません。日新製鋼との経営統合は、相乗効果を追求しました。また、オバコの買収は特殊鋼の強化という戦略によるものです。そういう個別の戦略で、結果として規模が大きくなっています。規模よりは効率性、収益性の面で競うべきだと考えています。

 

新興国で鋼の自国産化


── なぜ、合併が盛んになっているのでしょうか。

 

進藤 要因の一つが、新興国における鋼の自国産化です。かつては鋼を輸入して鋼板や鋼管などの製品に加工していましたが、今は鉄鉱石を溶かして鋼を作り出す段階から自前で行うところが増えています。そこに雇用も生まれてくるため、自国産化のニーズは高くなっています。中国をはじめ、インドやインドネシアなど鋼を自国産化する動きが一気に広がりました。今は世界中の需要と、新興国での鋼の自国産化に対応しなければならなくなりました。成長していくには海外へ進出せざるを得ません。

 

── 合併によって、どのような相乗効果を期待していますか。

 

進藤 海外進出で新たにプラント(製鉄所)を設置して製品を作るのは非効率ですし、生産能力が過剰になります。ならば、売りに出る会社に出資したり、買収した方が時間的にも手っ取り早いです。あるいは買収して大きいものにした方が、次の日からキャッシュを生みます。当社がM&Aを進めるのはそのためです。

 

── 国内需要は今後しぼみ、20年の東京五輪後は厳しいという見方があります。

 

進藤 国内需要が減り、全体として縮小すれば生産能力を下げる必要はあります。ただ、付加価値の高い製品に対する需要は減るどころか、逆に増えると思います。例えば電気自動車(EV)の場合、軽量化のニーズが増え、軽い素材が必要とされるかもしれません。また、アルミや樹脂など他の素材と組み合わせたニーズも増えるでしょう。

 

── 米国が鉄鋼に25%の関税を導入しました。影響は。

 

進藤 日本から米国への輸出は170万トンで、当社はそのうち70万トンです。競争力のある長いレールなどほとんどが米国で生産できないものです。関税がかかっても顧客は、買うと言ってくれています。影響は出ていません。ただ、欧州連合(EU)は心配です。鉄鋼製品についてセーフガード(輸入制限)を検討し始めたといいます。他の国も同様に始めると、鉄鋼業界が縮小する恐れがあります。

 

── 今後はどのような取り組みを進めますか。

 

進藤 今年から20年までの中期経営計画を策定しました。「つくる力を鍛え、メガトレンドを捉え、鉄を極める」という副題を付けました。つくる力とは成長期に作った生産設備と、世代交代に伴い若くなった人材の再構築です。

 

 メガトレンドは三つ。鉄の需要がある業界の技術革新を先取りして対応しなければなりません。例えば、EVでの車体の軽量化に必要な素材を提案する必要があります。さらにIoT(モノのインターネット)など高度先端技術への対応、そして後進国の自国産化への対応をしていきたいですね。

 

(構成=米江貴史・編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 30歳から32歳まで米国に留学していました。帰国後は本社の総務部で経営多角化に携わりました。スペースワールド(北九州市、閉園)の事業部を作ったりしました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 高校時代に読んだ池田潔『自由と規律』です。英国のパブリックスクールでラグビーに取り組んだ経験から「英国は自由を教える前に規律を教える」ということ記しています。チームワークやリーダーシップを考えるようになったのは、これを読んだのがきっかけで、ラグビーを始めることにもなりました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 健康管理が大切だと思うので、付き合いのゴルフ以外はウオーキングやジムに行って体を動かしています。

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しんどう・こうせい
 1949年生まれ。秋田県出身。秋田県立秋田高校、一橋大学経済学部、米ハーバード大学大学院ビジネススクール卒業。73年4月新日本製鉄入社。広畑製鉄所(兵庫県姫路市)総務部長、本社経営企画部長、新日鉄住金代表取締役副社長などを経て2014年4月から現職。68歳。

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事業内容:製鉄、エンジニアリング、化学などの事業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1950年4月

資本金:4195億円

従業員数:9万3557人(2018年3月末、連結)

業績(17年度、連結)

 売上高:5兆6686億円

 営業利益:1823億円

特集:歴史に学ぶ経済と人類 2018年8月14・21日合併号

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国家繁栄は技術革新と

ベンチャー精神

 

 今世界経済の最大級の懸案は米中貿易戦争だ。第二次世界大戦後、「世界の警察」として君臨してきた米国と、21世紀に入り急速に経済力をつけて台頭する中国は、新旧覇権国とも言える。そして、米中の争いと同時に国家の枠組みを超えた覇権が確立されつつある。

 

 それは、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる巨大ネット企業の伸長だ。検索やSNS(交流サイト)、あるいはソフトウエアや物品を販売したり、情報をやりとりする基盤となる場(プラットフォーム)を提供して個人の情報を収集。収集した膨大な個人情報を源泉に、時には個人に見合った商品の提案をし、時には個人特性に絞った広告業を手がけ、巨大な利益を上げる。

 

 税金の安い国に拠点を置き、特定国への忠誠心は薄い。しかし、一大大国の政治さえ動かす力を持っているのだ。2016年の米大統領選では、フェイスブックが集めた約8700万人分の情報が不正に流用され、大統領選の結果を左右したとも言われる。

 

 国家の存在をおびやすこれらの企業は、ベンチャー精神と技術力でのし上がってきた21世紀ならではの成功秘話にも見える。しかし、同様の仕組みは歴史上、国家間の覇権獲得でも繰り返されてきた。

探検家が刺激し合い


 15~16世紀に西洋世界で隆盛をきわめたスペイン。覇権を握る後押しとなったのは、アメリカ大陸に入植した後、当地の金や銀などの富を得たことだった。大陸入植のきっかけとなる大航海時代の起爆剤は、「ベンチャー精神」だった。

 

 15世紀、地中海を経由したインドや黒海など東方との貿易は、イスラム勢力下に置かれた。しかし、西洋諸国としては肉食をおいしくするコショウを低コストで東方から調達したい。

 

 そこで、西洋諸国は地中海を経ずに、外洋を回って東方に到達する独自ルートの開拓に打って出た。外洋航路の開拓に意欲を燃やしたのは、イタリアやスペイン、ポルトガルの商人や有力者だった。彼らをスポンサーに新航路を発見したのが、コロンブス、バスコ・ダ・ガマ、ジョン・カボット、バルトロメウ・ディアスらだった。

 

 スペインの資金援助の下、西回りで“インド”を目指したコロンブスは“新世界(中南米大陸)”への航路を切り開いた。本誌で小説「コレキヨ」を掲載中の作家・板谷敏彦氏によると、コロンブスはインドにあこがれていたわけではなく、とにかく一旗揚げたかったのだという。出資者探しのために、フランス、スペイン、ポルトガルの有力者に接触し、プレゼンテーションを繰り返した(『金融の世界史』)。

 

 板谷氏は「大航海時代の冒険者たちはお互いに意識、影響し合い、新航路発見を競い、結果として実に短期にさまざまな航路を開拓した。現代で言えばベンチャー精神あふれる存在だった」と指摘する。

Bloomberg
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ニシン漁で造船技術磨く


 スペインの覇権はその後、オランダ→イギリス→米国と移っていった。この間、スペインから独立したオランダが繁栄して貿易が発達した背景には、優れた造船技術があった。 北海のニシン漁で鍛えられ細やかな技術を発達させたことや、造船用材木を調達しやすい環境にあったことから数多くの船を作り、貿易船として利用したのだ。

 

 西欧の歴史概念とは一線を画し、東洋からの史観を重視するのは京都府立大教授の岡本隆司氏だ。岡本氏によると、中国が世界でもっともプレゼンス・存在感を高めたのは13世紀のモンゴル帝国、次いで18世紀の清朝で、勢力範囲は西洋諸国を凌駕(りょうが)していた。

 

 モンゴル帝国は13世紀、現在の東欧諸国に至るまでのユーラシア大陸を制覇した。中国の勢力拡大の土台は、9世紀からの唐宋変革(唐代から宋代にかけて起きた社会の大変革)にさかのぼる。岡本氏は「唐宋変革の原動力は、技術革新であった」と述べる。石炭利用によって熱源が高まって金属増産が可能になり、その金属を用いた工具・農具・兵器の生産が質量ともに上がったのだ。

 

 中国がモンゴル帝国時代に次いで、栄華を誇ったのが清朝だ。その清朝を滅亡に追い込むきっかけとなったのはアヘン戦争である。ここでも、イギリス海軍による技術革新が勝敗のカギを握った。

 

 それまで軍艦は帆船が中心だったが、移動が風や潮流など自然条件に左右されるという欠点があった。アヘン戦争では、イギリス海軍に蒸気軍艦が参戦し、自然条件に左右されず、短時間で目的地までたどり着けるようになった。「イギリス軍は陸上に布陣した清国の大部隊を避けて、上陸地点を任意に選択することができた」(板谷敏彦『日本人のための第一次世界大戦史』)というわけだ。

 

 歴史上、国家の繁栄も滅亡も主因は戦争であることに変わりない。しかし、その戦力を左右する要素、あるいは経済が発展する要素としてベンチャー精神と技術力がカギであることが上記の歴史事実からうかがえる。

 

 今、国家間の争いの場は武力の衝突である「腕力勝負」から、サイバー空間の「電脳戦」に移っている。米中貿易戦争では、半導体をはじめとする先端技術をいかに国家で育成するかにも焦点だ。さらに、覇権を握りうるのは国家に限らないということをGAFAの台頭が示している。

 

(種市房子・編集部)

週刊エコノミスト 2018年8月14・21日合併号

定価:720円

発売日:8月6日


2018年8月14・21日合併号 週刊エコノミスト

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定価:720円

発売日:8月6日

 

歴史に学ぶ経済と人類

 

国家繁栄は技術革新と

ベンチャー精神

 

今世界経済の最大級の懸案は米中貿易戦争だ。第二次世界大戦後、「世界の警察」として君臨してきた米国と、21世紀に入り急速に経済力をつけて台頭する中国は、新旧覇権国とも言える。そして、米中の争いと同時に国家の枠組みを超えた覇権が確立されつつある。

 

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目次:2018年8月28日号

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CONTENTS

 

新基準が分かる 役立つ会計

16 リース基準変更の波紋 実務煩雑化で対応急ぐ企業 ■松本 惇/米江 貴史

18 EUがIFRSに反発か 修正版作成の動き ■吉井 一洋

19 楽天会計マジック 非上場株式評価益で利益かさ上げ ■細野 祐二

21 「監査法人に企業の暴走は止められない」

22 楽天への質問と回答 楽天「恣意的な評価益の計上はない」

23 証券取引等監視委員会 浜田康委員に聞く 「不正会計企業に厳罰を」

 一から学ぶ基礎知識 

24 会計基準編 約160社、グローバル化で増えるIFRS採用企業 ■溝口 聖規

26 財務3表編 「五つの利益に三つの現金」 読み方のポイントはここだ!■向山 勇/ ■監修=村井 直志

29 仮想通貨はどう扱う? 期末に時価評価 保有量や評価額を個別に開示 ■鈴木 智佳子

30 事例で研究 異常点監査で粉飾見抜け 東芝やKDDI子会社の問題点 ■村井 直志

32 60年ぶりの大改革 監査報告書 「主要な検討事項(KAM)」とは ■林 隆敏

35 会計士が足りない! 年間数百人退職か 超多忙に若手が嫌気 ■伊藤 歩

エコノミスト・リポート

76 受動喫煙対策強化 安全配慮義務問われる企業 不十分な対策は労務リスクに ■片山 律

 

Flash!

 

11 米金融政策、18年後半は利上げ継続の公算/追悼 森岡孝二関西大学名誉教授「過労死、企業統治に尽力」

13 ひと&こと ルネサス“降格”役員、ソニーが人脈見込み採用/スルガ暴走の陰に実弟死去、「戦犯」昇進に株主の懸念

 

Interview

 

4 2018年の経営者 河田正也 日清紡ホールディングス社長

92 挑戦者 2018 山下貴嗣 Minimal代表

44 問答有用 チャールズ・マクジルトン セカンドハーベスト・ジャパンCEO「誰もが満腹になれる食のセーフティーネットを作る」

AI時代の教育論

79 自制心や協調性を伸ばそう 非認知能力で変わる人間の力 ■中室 牧子

82 有識者鼎談 A1に負けない子供を育てる 浜田宏一 エール大学名誉教授、内閣官房参与/新井紀子 国立情報学研究所教授/柳川範之 東京大学大学院教授

36 酷暑 1度上昇で経済効果3200億円も過去最大級の反動懸念 ■永濱 利廣

38 働き方 テレワークで通勤時間を削減 経済効果は4300億円 ■有田 賢太郎

40 外国人 唐突な外国人労働者受け入れ拡大 賃金目標に矛盾も ■横山 渉

70 航空 再編進む小型旅客機市場 降下否めぬMRJの競争力 ■吉川 忠行

72 司法取引 三菱日立合弁、タイ贈賄で初の司法取引 「個人に責任転嫁」の裏事情 ■北島 純

74      露呈した海外贈賄への日本企業のもろさ

75 粉飾 LGT銀行、報告書偽造の理由判明 オリンパスが隠ぺい指示 ■編集部

85 決算 課金モデルへの転換 ソニー構造改革の真実 ■桂 竜輔

64 コレキヨ 小説 高橋是清 (7) ■板谷 敏彦

 

World Watch

 

58 ワシントンDC イラン制裁の強化開始 漁夫の利得るサウジ・中国 ■会川 晴之

59 中国視窓 模倣大国から知財大国へ 先行技術狙う日本企業 ■真家 陽一

60 N.Y./カリフォルニア/英国

61 韓国/インド/シンガポール

62 台湾/ロシア/エチオピア

63 論壇・論調 すり寄るトランプ氏に酷評 プーチン氏の狙いは米国弱体化 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

 

3 闘論席 ■片山 杜秀

15 グローバルマネー 経済成長の大前提への配慮を示した日銀

42 本誌版「社会保障制度審」 (10) 2.9兆円投資で、出生率2.07到達の可能性 労働生産性上昇と子どもの貧困率低下も ■柴田 悠

48 学者が斬る 視点争点 会計能力重視されない日本 ■澤邉 紀生

50 言言語語

66 東奔政走 経済・外交を「人質」に取る安倍政権 総裁選で「ポストアベノミクス」議論を ■平田 崇浩

68 海外企業を買う (202) テキサス・インスツルメンツ ■永井 知美

94 独眼経眼 消費停滞の理由は賃上げの偏り ■広野 洋太

96 アートな時間 映画 [SUNNY 強い気持ち・強い愛]

97        舞台 [ナイツ・テイル─騎士物語─]

98 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Trump-state ” ■安井 明彦

 

Market

 

86 向こう2週間の材料/今週のポイント

87 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■平 秀昭/週間マーケット

88 インド株/為替/穀物/長期金利

89 マーケット指標

90 経済データ

 

書評

 

52 『経済学は悲しみを分かち合うために』『第3の超景気』

54 話題の本/週間ランキング

55 読書日記 ■孫崎 享

56 歴史書の棚/出版業界事情

51 次号予告/編集後記

 


自動車分野の技術革新に照準 河田正也=日清紡ホールディングス社長

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 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── 繊維会社のイメージですが、売上高に占める割合はすでに1割ですね。

 

河田 売上高比率でいうと、エレクトロニクスが4割程度で、主力事業になっています。2010年に日本無線を株式公開買い付け(TOB)し、17年に完全子会社化。新日本無線は9月に完全子会社化する予定です。今年3月には、リコー電子デバイスの80%の株式を取得しました。

 

── なぜ、エレクトロニクス分野に進出を。

 

河田 日本無線とは、大倉財閥を設立した大倉喜八郎氏が、日清紡の草創期の相談役を務めていたころからの縁です。1955年、2代目の喜七郎氏が日清紡の社長(当時)、桜田武氏に日本無線の経営支援を要請し、日清紡側から経営陣を派遣するようになりました。

── エレクトロニクス事業の強みは何ですか。

 

河田 日本無線は、日露戦争の勝敗を決した日本海海戦で、信濃丸の「敵艦見ユ」で知られる無線電信を開発した木村駿吉氏が創設した歴史ある会社です。現在、無線通信技術はさらに発展し、船舶航行支援システムや気象レーダー、消防緊急指令通信システムなどに活用しています。官公需や大型船舶が中心ですが、漁船向けのレーダーや、超音波を使った医療機器など新しい分野にも挑戦しています。

 

── リコー電子デバイスを連結子会社化した狙いは。

 

河田 以前から、アナログ半導体の製造で、新日本無線と協力関係にありました。リコー電子を連結子会社化することで、製造工程の相互補完が高まり、コスト低減による価格競争力が高まります。自動車や産業機器向け、IoT(モノのインターネット)などの重点分野で相互活用し、製品の開発を加速したい。

 

── 自動車のIoT関連にも力を入れていますね。

 

河田 先進運転支援システム(ADAS)ビジネスへの参入を狙って、今年4月に子会社「JRCモビリティ」を設立しました。日清紡グループの無線通信と電子デバイス技術を活用し、自動運転や電動化、情報通信端末としての機能を持つコネクテッドカーといった領域でビジネスを展開したい。

 

「認知」機能に照準


── 自動運転は競争が激しい。どこで勝負しますか。

 

河田 自動運転は、「認知」「判断」「操作」の機能から成り立ちますが、私たちがターゲットにしているのは、人間の目や耳にあたる「認知」です。日本無線や新日本無線の持つレーダー、レーザー、センサー、半導体の技術を応用し、ADAS関連ビジネスを成長させたい。日清紡は、ブレーキ事業や精密機器事業で長年にわたり、国内外の自動車メーカーや大手部品メーカーと取引関係があり、信頼関係が強みです。また、無線通信技術は高度道路交通システム(ITS)などのインフラで活用されています。

 

── ブレーキ事業も世界展開しています。

 

河田 ブレーキの中核部品である摩擦材を中心に展開しています。11年に欧州のブレーキ摩擦材メーカー、TMDを買収したことで、世界14カ国に28拠点を持つ世界有数の摩擦材メーカーになりました。

 

── 摩擦材の機能を左右するのはなんですか。

 

河田 環境規制に対応しながら、制動力や騒音抑制などの高い性能を維持するために、各社はしのぎを削っています。さまざまな材料を混ぜ合わせ、複雑な生産工程で作っていくわけですが、どのような材料をどの程度使うかなどは企業秘密で、各社の競争力の源泉になっています。

 

環境対応は真剣勝負


── 世界の環境規制は厳しくなる一方です。

 

河田 米カリフォルニア州、ワシントン州の規制に対応し、銅を使わない摩擦材の開発が世界のメーカーで進められています。21年以降に販売する自動車に組み付けられる摩擦材の銅含有量を5%未満、25年には0・5%未満にしなければなりません。自動車業界では、米国向けだけではなく、世界のほとんどの自動車が対応していく方向です。摩擦材メーカーの勢力図が大きく変わる可能性もはらんでおり、真剣勝負で対応します。

 

── 祖業の繊維事業の今後の展開はどうですか。

 

河田 繊維は成熟産業で、大きな成長は期待できません。しかし、繊維事業を縮小するつもりはなく、紡績、織り・編み、加工、縫製の各分野で持っている開発から生産までの世界トップクラスの技術力を生かし、高付加価値の分野で存在感を示したい。

 

── 繊維分野での強みは。

 

河田 シャツやユニフォームが強みです。特に、シャツは生地段階の供給を含めると国内で3割程度のシェアを持っています。世界に先駆けて、ノーアイロンシャツ地を開発・販売してきました。

 

── 今では形態安定のシャツは増えていますね。

 

河田 紳士服の青山商事と日清紡テキスタイルが共同展開する次世代ノーアイロンシャツ「アポロコット」は、これまでとは明らかに異なるレベルでのノーアイロン性を綿100%で実現しています。アイロンを使わなくていいということは、社会的なエネルギーコストの削減にも貢献しているという自負があります。

 

(構成=小島清利・編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 米カリフォルニアの新工場立ち上げで、採用や従業員教育を担当したことが印象に残っています。

 

Q 「モノの見方を変えた本」は

 

A 学生時代に読んだチャールズ・スノーの『二つの文化と科学革命』です。理科系と文系の人間の考え方の乖離(かいり)や無理解がもたらす社会的な危機に警鐘を鳴らした本で、メーカーで働く者にとっても示唆に富んでいます。

 

Q 休日の過ごし方

 

A ジョギングが趣味で、時間があれば軽く走ります。50代からフルマラソンにも挑戦しています。

 

====================

 ■人物略歴

かわた・まさや
 1952年生まれ。山口県出身。県立下関西高校、一橋大学経済学部卒業。75年日清紡入社。2006年人事本部長、07年取締役、10年取締役常務執行役員、12年取締役専務執行役員を経て、13年6月から現職。66歳。

====================

事業内容:エレクトロニクス、ブレーキ、精密機器、化学品、繊維など

本社所在地:東京都中央区

設立:1907年2月

資本金:275億8700万円(2018年3月末現在)

従業員数:2万3104人(18年3月31日、連結)

業績(18年3月期、連結)

 売上高:5120億円

 営業利益:150億円

特集:新基準が分かる役立つ会計 2018年8月28日号

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リース基準変更の波紋

 実務煩雑化で対応急ぐ企業

 

 国際会計基準(IFRS)の適用拡大の流れにリース業界が動揺している。

 

 リース活用を縮小する動きが広がると、経済成長に大きな影響が及ぶことが懸念される──。リース会社でつくる「リース事業協会」は7月18日、ホームページで「わが国リース会計基準の検討に対する見解」を公表、リースを巡るIFRSの会計基準変更が日本基準にも波及する動きをけん制した。

 

 工場設備からパソコンまでさまざまな機器を企業が貸し出す「オペレーティングリース」は、現在の日本の会計基準ではリース料を費用として損益計算書に計上するだけで、資産として貸借対照表に記載する必要はない。会計処理が簡単な上、残存価格の設定で初期費用が抑えられるため、経理担当人員が少なく、資金力の乏しい中小企業に利点がある。

 ところが、IFRSでは2019年から、オペレーティングリース対象物の資産計上が必要となった。資産であれば減価償却が必要で、支払ったリース料についても元本返済と利息を分けて計上する必要があり、会計処理が煩雑になる。

 

 日本の会計基準を作る「企業会計基準委員会」(ASBJ)はリース会計について国際的な整合性を図るため、6月から基準改訂を進めるかについて検討を開始した。リース事業協会は「近年、増加傾向にあるオペレーティングリースが使いづらくなることで、設備投資が減少する可能性がある。コストとベネフィット(利益)の観点などからIFRSと整合性を図る必要性はない」と主張する。

 

 野村証券の野村嘉浩・エグゼクティブ・ディレクターは「リース資産は固定資産のような台帳管理をしていない企業が多い。減価償却などのためには一つ一つのリース資産の詳細を把握する必要があり、大変な作業となる」と、実務的な問題を指摘する。大企業では営業所単位で地元のリース業者と契約しており、本社は件数や金額程度しか把握していないケースが多いといい、「払ったリース料を経費で落としていくこれまでの簡単な実務とは全く違い、衝撃は大きい」と話す。IFRSを採用している各企業は「現在部署ごとにリース資産を精査している」(大手自動車部品メーカー)などと対応を急ぐ。

 

続く統一化の動き


 1990年代後半の橋本龍太郎政権下でスタートした会計ビッグバンにより、00年以降、連結決算、時価評価など新しい会計制度が次々に導入された。IFRSの導入はその総仕上げともいえる動きだ。東京証券取引所に上場するIFRS適用会社は年々増加し、18年6月末時点では今後の適用会社も含めて204社に上る(図)。時価総額に占める割合は3割超だ。18年以降も、IFRSの基準変更は相次ぎ、日本基準でもそれに沿った対応が行われる項目もある(表)。こうした会計基準の国際的な統一の動きはもはや不可逆だ。

 

 だが、日本におけるIFRSはあくまでも任意適用で、導入当初に検討されていた強制適用の議論は進んでいない。野村総合研究所の三井千絵・上級研究員は「複数基準の混在は投資家も含めた関係者の不利益となる。IFRSを一度適用し始めたのであれば、金融庁は強制適用を検討すべきだ」と語る。日本基準の採用企業も、IFRSへの対応を急ぐ必要がありそうだ。

 

(松本惇・編集部)

(米江貴史・編集部)

週刊エコノミスト 2018年8月28日号

定価:670円

発売日:8月20日


2018年8月28日号 週刊エコノミスト

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定価:670円

発売日:8月20日

 

新基準が分かる

役立つ会計 

 

リース基準変更の波紋 

実務煩雑化で対応急ぐ企業

 

国際会計基準(IFRS)の適用拡大の流れにリース業界が動揺している。

 

 リース活用を縮小する動きが広がると、経済成長に大きな影響が及ぶことが懸念される──。リース会社でつくる「リース事業協会」は7月18日、ホームページで「わが国リース会計基準の検討に対する見解」を公表、リースを巡るIFRSの会計基準変更が日本基準にも波及する動きをけん制した。

 

 

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目次:2018年9月4日号

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CONTENTS

 

大図解・プロが教える世界経済&マーケット

データで分かる!

22 1 世界経済の賞味期限 景気後退まで残り2年 ■重見 吉徳

24 2 商品市況は予言する 銅・金比率は景気先行 ■平川 昇二

26 3 危険な新興国通貨 史上最安値更新のトルコ・リラ ■武田 淳

28 4 日銀の株式「爆買い」 ETFの8割弱も保有 ■市川 雅浩

30 5 ドル・円相場の怪 「長期金利差」と崩れた相関 ■武田 紀久子

32 6 村田製作所株vs新日鉄住金株 ピーク・底打ち一致の必然 ■市岡 繁男

34 7 米IT株の威力 グーグルは中国に再参入か ■徳岡 祥一

36 8 中国・原油先物の存在感 売買高で北海ブレント超え ■津賀田真紀子

データの裏側

29 1 物価のギモン 「家賃」の定義見直しで物価0.2%押し上げ? ■柏原 延行

37 2 不動産向け貸し出し 銀行任せの日銀統計 個人投資の把握困難 ■原田 三寛

38 適温相場後の日本株 カギは「配当性向」の質 利益成長と組み合わせ ■大川 智宏

エコノミスト・リポート

81 メキシコ新大統領の波紋 内向き政策に石油メジャー戦々恐々 油田開発やGS事業の見直しも ■阿部 直哉

  メキシコ新大統領はこんな人 アンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール氏

83 横行する石油窃盗事件 被害総額は約960億円

 

Flash!

 

17 東京五輪で「サマータイム」導入? 最大の壁はシステム対策 準備期間足らず大混乱に

19 ひと&こと 東電が原発を社内分社化へ 牧野氏が初代“社長”有力/ビットポイントの宣伝 本田選手起用に波紋/JICA理事2人が退任 予算管理問題に「責任」

 

Interview

 

6 2018年の経営者 木村弘毅 ミクシィ社長

98 挑戦者 2018 佐渡島隆平 セーフィー社長

50 問答有用 恩地祥光 元レコフ会長兼CEO 「創業の志や経営理念が今、形骸化している」

84 Jリーグ 25年目の「革新」

85 インタビュー 村井満 Jリーグ・チェアマン 「Jリーグへの投資価値アピール」

90        立花陽三 楽天ヴィッセル神戸社長 「投資を上回るイニエスタ効果」

88 成長のカギ 英プレミアの成功例がヒント ■小島 清利

63 「名門高校」連載完結&書籍刊行 インタビュー 猪熊建夫 (ジャーナリスト) 「人となりを知る出身高校 有為な人材は地方が輩出」

42 移民 「移民国家」へ踏み出す日本 求められる社会統合政策 ■藤巻 秀樹

74 銀行 銀行が平日休業、昼休み導入 コスト優先で遠のく顧客目線 ■高橋 克英

70 コレキヨ 小説 高橋是清 (8) ■板谷 敏彦

 

World Watch

 

64 ワシントンDC 子どものみの夏キャンプ 自立を促す一大産業 ■小林 知代

65 中国視窓 消費促進の鍵は若い女性 ソーシャルECで存在感 ■岸田 英明

66 N.Y./シリコンバレー/英国

67 韓国/インド/タイ

68 青島/チリ/イスラエル

69 論壇・論調 大統領が自賛する強い米経済 政策の効果か成長の前借りか ■岩田 太郎

 

Viewpoint

 

5 闘論席 ■小林 よしのり

21 グローバルマネー それでも消費増税が不可避な理由

44 福島後の未来をつくる (76) 日本のプルトニウム処分に必要な国際協力と核燃料サイクル見直し ■鈴木 達治郎

46 海外企業を買う (203) アンダーアーマー ■清水 憲人

48 本誌版「社会保障制度審」 (11) 「1.57ショック」以下の出生率 団塊ジュニアへの楽観が裏目に ■増田 雅暢

54 学者が斬る 視点争点 「所得連動返済型ローン」の可能性 ■河越 正明

56 言言語語

72 東奔政走 見えない安倍外交の対中姿勢 「第5の文書」は策定できるか ■及川 正也

77 ズバリ!地域金融 (2) 豊和銀行、販路開拓支援で大分の地域活性化に挑戦中 ■浪川 攻

78 図解で見る 電子デバイスの今 (18) ディスプレーが色あせない 「量子ドット」の先端技術 ■津村 明宏

100 独眼経眼 株安の理由は、経済指標の悪化 ■藻谷 俊介

105 商社の深層 (121) 大型設備から分散へシフト 電力2強の丸紅・三井物産 ■種市 房子

106 アートな時間 映画 [ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男]

107        美術 [モネ それからの100年]

108 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Working fatherhood ” ■安井 明彦

 

Market

 

92 向こう2週間の材料/今週のポイント

93 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット

94 欧州株/為替/原油/長期金利

95 マーケット指標

96 経済データ

 

書評

 

58 『進歩』『会計の再生』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■美村 里江

62 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

57 次号予告/編集後記

 

モンスト依存脱却へeスポーツに勝機 木村弘毅=ミクシィ社長

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Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── ミクシィといえばソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の会社として世の中に知られていますが、いまは中身が変わっているようです。事業構成と売り上げを教えてください。

 

木村 昨年度の売上高1890億円のうち、スマートフォンゲーム「モンスターストライク(モンスト)」を主力とするエンターテインメント事業が93%、SNSのメディアプラットフォーム事業は7%です。私たちは当社を「コミュニケーション屋」と定義しています。私の視点では、ミクシィとモンストは、友人や家族と一緒に使うサービスとしてまったく同じものです。

 

── 電車では一人でスマホゲームをしている人が多いですが、モンストもそうなのでは?

 

木村 一人での利用は多いですが、すべてのシーンで一人で遊ぶようにゲームを設計してはいません。ゲームに登場するキャラクターを育てて、友達と会った時に、持ち寄ることを理想的な遊び方として捉えています。バーベキューを楽しむように、ゲームを楽しむ空間を提供することで差別化しています。

── モンストのアクティブユーザー数や累計ダウンロード数は?

 

木村 累計ダウンロード数は4600万です。アクティブユーザー数は、公表はしていませんが、2年前、モンストを出して3周年のタイミングが最も多かった時期です。減少傾向だったのですが、劇場版アニメ映画「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」を公開(2016年12月)し、映画館の周辺に集まったユーザーにモンストのアイテムをプレゼントするキャンペーンを仕掛けて、狙いが当たりました。今年は5周年に向けて映画の第2弾を準備中で、10月公開です。

 

── モンストで遊ぶ子どもも多いでしょう。高額課金を防ぐための施策はあるのですか。

 

木村 モンストの場合、16歳未満への課金は月額5000円を上限としています。ただ、ユーザーの属性を確認する場合、アプリをダウンロードする際のプラットフォームを提供しているアップルとグーグルから、年齢などユーザーの属性を当社は得ることができません。協議を重ねていく必要がありますが、相手は米国企業なので、交渉は難しい面があります。

 

── 未成年が25歳などと申告する問題が出てくるのですか。

 

木村 そうです。ゲーム業界とともに声を上げていく必要があると考えています。

 

ジムの買収も?


── 業績はモンスト頼みです。新しい収益の柱を育てる必要は。

 

木村 日本の国策としてeスポーツを育成しようという動きが出てきています。サッカーや野球、バスケなどのチームスポーツのように、仲間と一緒に戦うことができる文化を育てることが私たちのミッションとしてあると考えています。

 

── eスポーツ市場が拡大したとして、どう収益化していきますか。

 

木村 ゲーム競技として十分な視聴者数を獲得することができれば、スポンサーがついて、広告収益も入ってきます。リアルのスポーツと同じです。当社は1大会当たり賞金総額が5000万円と日本では最も賞金規模が大きな大会を開催しています。モンストだけで大きなユーザーがいるので、単独で開催できるのです。ただ、みなさん見て楽しいと思えるゲームとなるかどうかは、まだ時間がかかると思います。

 

── 祖業のSNSの現状は。

 

木村 SNSは、会員数が増えていくと、人間関係図がどんどん大きくなってしまい、自由にものが言いにくくなるという課題があります。ただ、家族や友人とSNS上でコミュニケーションしたいというニーズは間違いなくあると考えており、別の形のSNSを展開しています。それが「みてね」という家族内限定で写真アルバムを共有するSNSを新たに展開しています。

 

── 創業者の笠原健治会長が手掛けているものですね。

 

木村 そうです。規模の大きな汎用(はんよう)SNSではなく、家族や友人で切り取った小さなSNSのニーズが今後、出てくると仮説を立てていました。「みてね」が右肩上がりで伸びてきていますので、正しかったと認識しています。

 

── 今後、第5世代(5G)移動通信システムが始まります。成長に向けて温めている構想は。

 

木村 スポーツと「ウェルネス(健康)」が次の成長領域です。あらゆるものをつなげる5Gが重要になります。スポーツジムなどリアルな店舗を接点として、高齢者が健康情報を把握し、管理できるような仕掛けです。そのためにジムなどリアルな場所を使った展開が不可欠だと考えています。従来、IT業界は「持たない経営」が賢いとされてきましたが、ジムの買収などもあるかもしれません。

 

── チケット転売サイトを運営する子会社や社長が商標法違反(商標権侵害)の疑いなどで書類送検される事件が起きました。

 

木村 会社としての若さが出てしまいました。ガバナンスとコンプライアンスにしっかりと対応します。森田仁基前社長(6月22日社長辞任)が書類送検されたことも厳粛に受け止め、引き続き捜査に協力していきます。ただ、当社グループとしては商標法違反に対する認識はなく、検察庁の判断を待ちたいと考えています。

(構成・浜田健太郎=編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A ソーシャルアプリの企画など、ものづくりばかりやっていました。

 

Q 「私を変えた」本は

 

A 『ポジショニング戦略』(アル・ライズ他著)です。マーケティングの本ですが、人の脳の中で何がどう動いているのかを理解することが重要だと指摘しています。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 子どもの面倒を見ることです。妻は大学で先生をしていて、子どもの世話(の分担)をしっかりやるようにしています。

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 ■人物略歴

きむら・こうき
 1975年生まれ 東京都立杉並高校卒業、東京都立大学工学部中退。電気設備会社、携帯コンテンツ会社を経て2008年ミクシィ入社。14年11月執行役員、取締役を経て18年6月から現職。東京都出身。42歳。

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事業内容:ソーシャル・ネットワーキングサービス「mixi」運営など

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2000年10月

資本金:96億9800万円

従業員数:776人(2018年3月現在、連結)

業績(18年3月期、連結)

 売上高:1890億9400万円

 営業利益:723億5900万円

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