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特集:大図解・世界経済&マーケット 2018年9月4日号

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世界経済の賞味期限

米長短金利差の事前サイン 

景気後退まで残り2年


 2009年に始まった米国の景気拡大は、19年6月に戦後最長の120カ月に並ぶ。しかし、米国の景気拡大は終盤戦であり、市場関係者の関心は相場が転換する時期へと移り始めている。世界経済を牽引(けんいん)する米国の景気後退入りは、すなわち世界経済の大きな転換を意味し、市場の混乱に直結するからだ。

 

米国の景気後退局面入りを知るための有力な事前サインが二つある。「米国の長短金利の逆転現象」と「ISM製造業景況指数の50割れ」だ(図)。

 長短金利の逆転現象とは、短期金利(2年国債利回り)が長期金利(10年国債利回り)を上回る状況を指す。2年国債利回りはいわば向こう2年間の、10年国債利回りは向こう10年間の日々の政策金利の見通しを平均化したもの、あるいは経済成長率の期待値と考えられる。

 

 ごく単純化して言えば、2年国債利回りが10年国債利回りを上回るということは、市場が向こう2年間は利下げはないが、3年後以降には景気後退などの要因により金利引き下げがあると予想している状況を示す。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを継続すれば、家計や企業は資金調達を減らし、投資が抑制される。経済活動は停滞し、インフレ率も抑制されて長期金利は上昇しにくくなる。これまで、長短金利が逆転した1989年、00年、06年の3回は、いずれもその後に景気後退局面入りしている。

 

 もう一つのサインであるISM製造業景況指数も、図にある通り、89年、00年は50を下回った後に景気後退局面入りしている。ISM指数は米製造業者の景況感を示す代表的な指数で、50を超えると「事業は拡大基調」、下回ると「事業は縮小基調」を示唆する。またISM指数の動きには、(1)大まかなピーク水準が存在する、(2)ピークでは長居しない、(3)同程度のスピードで低下する、という経験則がある。

 

 ISM指数は株価と同様、いったんピークを付けると、高値を切り下げながら低下していく。ちなみに08年はリーマン・ショック後の景気後退の最中に50割れしており、「事前サイン」になっていないが、実は「歴史に消された過去」がある。06年11月の実績値は、現在では50・3だが、これは翌年1月に改定されたもので、12月当初に公表された速報値は49・5だった。つまり、この時も景気後退に先立って50割れをしていたのだ。

 米国の長短金利の逆転現象とISM製造業景況指数の50割れはいつ起きるのか。過去の平均的な動きをもとにJPモルガン・アセット・マネジメントが試算した結果は、両者とも「19年7月ごろ」。そして、過去はこれらのサインが点灯してから、実際に景気後退に至るまでに1年程度の期間を要している。したがって、景気後退入りのサインまでが1年、その後の景気後退入りするまでが1年で、「米国の景気後退まで、残りは2年前後」ということになる。

 

株式市場の逆転現象


「景気拡大の最後の2年」に金融市場はどう動くのか。現在の局面は物価の純さを含め00年前後のITバブル期によく似ており、当時の動きが参考になる。

 

 ITバブル期の世界株式は、景気拡大の最後の2年のうち前半1年は株価が上昇、後半1年は下落傾向に転じた。セクター別では、前半1年は情報技術を含む景気敏感セクターの株価が上昇した。また当時の米国市場では情報技術に加えて、小型、値動きに勢いがあるモメンタム、高い成長が期待できるグロース株が優位だったが、これらは過去1年と似た動きだ。

 

 対照的に後半1年は、前半1年に上昇した景気敏感セクターが売られ、ヘルスケア、生活必需品など景気に左右されにくいディフェンシブ銘柄が買われる逆転現象(リバーサル)が見られた。

 

 なお、最後の2年の前半と後半で株式市場の「主役」が逆転する現象は、日本株市場でもITバブル時に同様の現象が起きた。ただし、これまでのところ、日本株と世界株の動きは異なり、当時と最近の日本株の動きも異なるため、ITバブル崩壊前の日本株市場の動向が参考になるわけではない。ただ、反転があるという意味では、景気敏感の半導体セクターなどには注意が必要と言えるかもしれない。

 

重見吉徳(JPモルガン・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト)

週刊エコノミスト 2018年9月4日号

定価:670円

発売日:8月27日



2018年9月4日号 週刊エコノミスト

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定価:670円

発売日:8月27日

 

大図解・世界経済&マーケット

世界経済の賞味期限 

景気後退まで残り2年

 

2009年に始まった米国の景気拡大は、19年6月に戦後最長の120カ月に並ぶ。しかし、米国の景気拡大は終盤戦であり、市場関係者の関心は相場が転換する時期へと移り始めている。世界経済を牽引(けんいん)する米国の景気後退入りは、すなわち世界経済の大きな転換を意味し、市場の混乱に直結するからだ。

 

 米国の景気後退局面入りを知るための有力な事前サインが二つある。「米国の長短金利の逆転現象」と「ISM製造業景況指数の50割れ」だ。

 

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第76回 福島後の未来をつくる:日本のプルトニウム処分に必要な国際協力と核燃料サイクル見直し=鈴木達治郎

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すずき・たつじろう
 1951年大阪府生まれ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)修士課程修了。東京大学工学博士。MITエネルギー環境政策研究センターなどを経て、2010~14年に政府原子力委員会委員長代理。14年長崎大学教授。15年から現職。

 

 政府は7月3日、「エネルギー基本計画」を4年ぶりに改定し閣議決定、その中で初めて「プルトニウム保有量の削減に取り組む」ことを明記した。そして、7月31日、原子力委員会は15年ぶりに「プルトニウム利用の基本的考え方」を改正し、「プルトニウム保有量を減少させる」と明記した。これにはいったいどういう背景があるのか。そしてその根本的問題はいったいどこにあるのか。

 

 プルトニウム問題の本質は、グローバルな国際安全保障問題として捉える必要があり、エネルギー政策としても「負の遺産」として捉えるべきだ。プルトニウム問題の解決策を安全保障、並びにエネルギー政策の視点で検討してみる。

 

増え続ける「負の遺産」


 2016年末現在、世界に存在する分離プルトニウムの在庫量は、推定518・6トン(図)。これを長崎型原爆(1発当たり6キロ)に換算すると、8万6440発分にも相当する。問題は、それが今も増加していることだ。さらにその6割近い約290トンが平和利用の原発から回収されたプルトニウムである点だ。これは核燃料サイクル(使用済み燃料に含まれるプルトニウムを再処理して回収し、再利用する)政策がもたらした結果の、いわば「負の遺産」である。その中で、日本のみが非核保有国で大量のプルトニウム、実に47トンを所有している事実は重い。

 

 そもそも、なぜプルトニウムがこれほどたまってしまったのか。それには、日本の原子力政策の骨幹ともいえる「核燃料サイクル」推進の理由とその破綻を理解する必要がある。核燃料サイクルを推進する理由には大きく三つ挙げられていた。

 

 第一に「エネルギー安全保障」。開発当初の1960~70年代、ウラン資源は希少資源と見られていた。

 しかし、その後、ウランは豊富にあることが分かり、当初は20~30年程度であった可採年数(確認埋蔵量÷年間需要量)は100年以上に延びている。さらに、もともと原子力発電は化石燃料とは異なり大量(数年分)の燃料備蓄が経済的にも可能であるから、ウラン燃料危機に強いことが売り物であったはずで、プルトニウムは必要がないといえる。

 

 プルトニウムが「国産エネルギー」であるという主張も根拠が薄い。プルトニウムは石油にもまして国際政治・安全保障にかかわる機微な物質であり、がんじがらめの国際規制がかかっている。だからこそ、米国から再処理について「包括的同意」(あらかじめ定めた条件内の再処理なら一括で承認すること)を保証され、今年7月17日に発効から30年を迎えて自動延長された「日米原子力協定」が日本にとって重要なのだ。

 

 第二は「経済性」。これも問題外だ。政府は80年代後半にはすでに核燃料サイクルより使用済み燃料を「直接処分」するほうが経済的であることを知っていたようだ。しかし、そういったデータは90年代後半まで公開されることはなく、ようやく05年の原子力委員会の「原子力政策大綱」により明らかになった。福島原発事故以降に行われた12年の原子力委員会の評価では、「全量再処理」は「直接処分」(使用済み核燃料の全量を地中に埋設するなどして隔離すること)の約2倍のコストになると推定され、もはやプルトニウムは「負の経済価値」をもつ「負債」であることが確実となったのである。

 

 第三は「使用済み燃料(放射性廃棄物)の減容・毒性低減」である。

 

 使用済み燃料に比べ、再処理後の廃棄物は「減容」(体積が小さくなること)され「毒性低減」の効果があるので、再処理が望ましい、との主張がある。これに対し、岡芳明原子力委員会委員長は、最近のメールマガジンで、この説を真っ向から否定し、「有害度低減が可能であるとの誤解が広がるのは、そう主張する原子炉の専門家が地層処分の安全評価をよく知らないためではないか」と述べている。

 

 したがって、核燃料サイクルを現時点で進める合理性は極めて薄い。しかし、ここ数年で、再処理活動は大きな分岐点を迎える。日本の六ケ所再処理施設(青森県、プルトニウムを年間8トン生産可能)が21年に稼働を始める計画であり、中国も同規模の商業用再処理計画の建設計画を発表している。

 

 韓国も再処理に関心を示しており、アジアではプルトニウム生産量が大幅に増える可能性が出てきたのである。一方で、英国は間もなく再処理から撤退する方向であり、再処理にかかわる重要な意思決定がここ数年でなされることになる。

 

 7月31日の原子力委員会の決定は、「プルトニウム保有量を減少させる」と明言したものの、その措置として、政府として強制力を持つのは、「再処理等拠出金法」に基づいて、政府の認可事業である再処理のペースを抑制することと、研究開発のプルトニウムについて「処分」を検討する、としたことだけである。それ以外は、ウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)燃料を既存の原発で燃焼させる電力会社のプルサーマル事業の進展に依存している。また使用済み核燃料の「全量再処理」政策も維持する前提であるため、本当にプルトニウム保有量が減少するかどうかは、定かではない。

 

実現性高い「スワップ」


 そこで筆者は選択肢として二つ提案したい。

 

 第一は、「プルトニウム処分の国際協力」である。その一つの案が、「プルトニウム所有権」の譲渡や交換である。これは、今までにも小規模な「交換(スワップ)」を商業上の理由から実施してきたことがあり、実現性が高い。特に、英国が提唱している「英国内にある外国籍のプルトニウム所有権の引き取り」は、国内で所有権を移転可能とすることで、核テロのリスクが高い海外へのプルトニウム輸送を省くこともできる極めて有力な案だ。また、原子力委員会は「事業者間の連携・協力を促す」ことでブルトニウムの消費を早めようとしている。

 

 実は、電力会社は、これまでにも北海道電力に東京電力のプルトニウムを譲渡したり、電源開発の大間原発(青森県)用のプルトニウムを、他電力会社が分担して譲渡する計画を明らかにしている。東電とドイツの電力会社もプルトニウムの所有権を交換した経験がある。さらに、原子力基本法13条に「政府は(…)別に法律で定めるところにより、核燃料物質を所有し、または所持する者に対し、譲渡先及び価格を指示してこれを譲渡すべきことを命ずることができる」と書かれており、電力会社に命じて、融通させることも可能だ。

 

 ただ、プルトニウムをウランと混合させて使うMOX燃料は、ウラン燃料の10倍も高いと推定されており、米国も自国の余剰プルトニウムの処分案としては現在、安定固化(放射性廃棄物を固型化すること)して直接処分する技術開発に取り組んでいる。英国もMOX燃料案と並行して、直接処分の技術開発も進めている。このような「処分技術」の共同研究開発も検討に値する。

 

 第二は、「核燃料サイクル政策の見直し」である。前述したように核燃料サイクルを商業規模で行う合理性はない。たとえ、プルトニウムがエネルギー資源として必要であったとしても、現在の在庫量を消費するだけで30年はかかる。この時間を利用して、再処理政策の総合的評価を行い、日本のみならず、世界で再処理を縮小・撤退することが望ましい。

 

 プルトニウム問題は、グローバルな安全保障の視点から見ることが必要で、日本はそのリーダーシップを取れる国であり、また取らなければいけない。

 

目次:2018年9月11日号

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CONTENTS

 

会社を買う売る継ぐ

20 サラリーマンが買って継ぐ「大廃業時代」の救世主 ■三戸 政和

23 事例 350万円で買ったレストラン ■黒崎 亜弓

25 小さい会社はネットで探す ■黒崎 亜弓

27 スモールM&A 個人商店から会社組織に磨く オリックスの「買い方」を学ぶ ■黒崎 亜弓

28 永続のための変身 ベンチャー型事業承継のススメ ■黒崎 亜弓

29 10年間は相続・贈与税ゼロ! 事業承継の税制Q&A ■柿沼 慶一

30 納税猶予を機にキャッシュフローを可視化 ■仙石 実

32 後継者不在に経営難 中小企業の「倒産・廃業予備軍」 ■箕輪 陽介

33 遅々として進まない 「脱・経営者保証」 ■武下 毅

34 負の相続 継がない子にも債務が降りかかる ■椎葉 基史

エコノミスト・リポート

77 英国は5700億円市場 音楽+観光の「ミュージックツーリズム」 日本の温泉地も2000人を集客 ■八木 良太

15 追悼 石弘光・一橋大学名誉教授、元政府税調会長

16 インタビュー 中曽宏・前日銀副総裁/大和総研理事長 「驚くほど日本の危機に似ていた」

 

Interview

 

4 2018年の経営者 田中仁 ジンズCEO

96 挑戦者 2018 松波登 日本エレクトライク会長

48 問答有用 高見のっぽ 俳優・作家 「ノッポさんは、私であって私ではなかった」

快走!自転車ツ~リズム

84 ブルーラインで道しるべ 観光客呼び込む仕掛け ■宮内 忍

85 国が目指す「20年度に40ルート」

87 サイクリングツアーを楽しもう サイクリングホリデー東京/SATOYAMA EXPERIENCE ■下桐 実雅子

88 国内外企業が続々参入 利用者目線で一体管理を ■内海 潤

89 交通手段の中での自転車 国は位置づけを明確に ■古倉 宗治

46 コレキヨ 小説 高橋是清 (9) ■板谷 敏彦

70 第58回エコノミスト賞受賞記念論文 「労働力調査」の新指標が示す 日本の労働供給余力はわずか ■神林 龍

80 会計実践レッスン 現金裏付けなき利益山盛り ダイエット必須の「ライザップ」 ■細野 祐二

83 ライザップへの質問と回答 「負ののれんは、適正価格での買収を徹底しているため」

36 英国 現実味増す英国の「合意なき」EU離脱 ■舟引 勇

39 GAFAの次 WeWork上陸の衝撃 ■佐久間 誠

74 EU 規制は抑制的か強化か フィンテック対応 ■金子 寿太郎

103 インタビュー 坂井辰史・みずほフィナンシャルグループ社長  「キャッシュレス推進を牽引 変化を起こす組織に変える」

 

World Watch

 

62 ワシントンDC 過酷な自然の南西部 開拓魂は現代の共和議員に ■高井 裕之

63 中国視窓 経済に先行き不透明感 景気下支え重視に転換 ■神宮 健

64 N.Y./カリフォルニア/スウェーデン

65 韓国/インド/フィリピン

66 台湾/ロシア/ガーナ

67 論壇・論調 EU、英の離脱方針に譲歩せず メイ首相の弱腰外交に批判も ■増谷 栄一

 

Viewpoint

 

3 闘論席 ■古賀 茂明

19 グローバルマネー 内向きのFRBが世界最大の不安定要因

42 本誌版「社会保障制度審」(12) 2006年の35年ぶり出生率反転 妊娠・出産時の費用負担軽減が奏功 ■増田 雅暢

44 海外企業を買う(204) パロアルトネットワークス  ■岩田 太郎

52 学者が斬る 視点争点 奨学金の延滞防ぐ仕組みづくり必要 ■平田 英明

54 言言語語

68 東奔政走 「現職 vs 挑戦者」は怨念の構図 論戦提起力問われる自民党総裁選 ■人羅 格

98 独眼経眼 トランプは貿易戦争から拡張財政へ ■渡辺 浩志

104 アートな時間 映画 [泣き虫しょったんの奇跡]

105        舞台 [秀山祭九月大歌舞伎]

106 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Lack of skills ” ■安井 明彦

 

[休載]Flash!、ひと&こと

 

Market

 

90 向こう2週間の材料/今週のポイント

91 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

92 中国株/為替/白金/長期金利

93 マーケット指標

94 経済データ

 

書評

 

56 『経済学者たちの日米開戦』 『脱ポピュリズム国家』

58 話題の本/週間ランキング

59 読書日記 ■ブレイディみかこ

60 歴史書の棚/出版業界事情

55 次号予告/編集後記

 

2018年9月11日号 週刊エコノミスト

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定価:670円

発売日:9月3日

 

会社を買う売る継ぐ

 

サラリーマンが買って継ぐ

「大廃業時代」の救世主

 

三戸政和(日本創生投資代表取締役)

 

 今、日本中の多くの中小企業が、廃業の危機に瀕している。およそ400万社の中小企業のうち、3分の2で後継者が決まっておらず、社長の年齢がそろそろ引退も考えるべき60歳以上の企業に限定しても、半数が後継者不在だ。東京商工リサーチの試算では、127万社が廃業予備軍であるという。

 

 親族に後継ぎがおらず、社内にも社長を引き継げるような人がいない場合、選択肢は二つ。一つは、廃業。もう一つは、誰かに会社を売ること。その2択のどちらがいいかという問いに、どちらも可能であるならば、大多数の社長が後者を選ぶだろう。 ……

 


メガネを超えたメガネを作る 田中仁=ジンズCEO

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Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── メガネ市場の現状と成長戦略を教えてください。

 

田中 メガネ市場は毎年約4000億円規模で推移しており、年間約1700万本が売れている計算です。当社はコンタクトレンズなどを除くメガネの売上本数だけでみると、トップクラスです。今後は、機能性メガネの開発や普及を加速させる一方で、まだ伸びしろのあるロードサイドにも販売網を広げていきます

 

子ども用需要拡大


── 機能性メガネを強化する狙いは。

 

田中 メガネがファッション性を備えていることは当たり前で、手にとってもらった人に価値を与える特徴のある商品を提供することが重要です。エアフレーム(軽量メガネ)やブルーライトカットメガネなど、新しい発想の商品を開発してきたことがジンズの成長の原動力です。

── ブルーライトカットのメガネはどのメーカーも出していますね。

 

田中 目に影響が懸念されるブルーライトをカットする「JINS SCREEN」(ジンズ・スクリーン)は2011年に発売しました。最初に世に出したのは当社ですが、いまでは多くのメーカーが同じ機能のメガネを出しています。パソコンやスマートフォン、テレビなどから発せられるブルーライトは、紫外線と波長が近く、可視光線の中で非常にエネルギーが高く、網膜に到達するほどです。現代人は、ブルーライトと向き合う時間が着実に増えていて、特に子どもたちへの影響は深刻です。

 

── 子ども用の「JINS SCREEN」は売れていますか。

 

田中 ブルーライトから子どもの目を保護することへの社会的関心は高まっています。大人用はもちろん、子ども用の需要も拡大しています。

 

── ブルーライトの次にくる機能性メガネは。

 

田中 「JINS VIOLET+」(ジンズ・バイオレットプラス)の普及に力を入れています。目に必要と言われている波長360~400ナノ(ナノは10億分の1)メートルの紫光を選択的に透過しながら、目に有害な紫外線やブルーライトを遮断する独自設計が特徴です。最初は、成長期の子ども向けに販売していましたが、より幅広い層のニーズに応えたい。

 

集中力を高める


── 「JINS MEME」(ジンズ・ミーム)も話題です。

 

田中 独自に開発した3点式眼電位センサーと6軸センサーから得られる目や体の動きの情報をもとに、「ココロ」と「カラダ」の状態や、そのバランスを推定します。東北大学加齢医学研究所長の川島隆太教授の監修に基づき開発されたアプリを使い、集中力や落ち着きといった人の心理現象・生理状態がわかります。また、体軸の安定性を把握し、歩き方の正しさや姿勢も判定します。

 

── 個人の健康データを分析するわけですね。

 

田中 「アタマ年齢」「カラダ年齢」と呼んでいますが、これらの年齢は日々のストレスを受けて時々刻々と変化します。変化を観察することで要因を分析し、改善に向けたさまざまなアドバイスを提供します。

 

── 単なるメガネの枠を超えた。

 

田中 テクノロジーや医学の進歩を展望すると、この先、近視を矯正するためだけのメガネは必要なくなるかもしれません。将来にわたって必要とされる会社になるには、新しい収益モデルを作らなければなりません。極端に言うと、メガネを無料で配ってしまい、そこをプラットフォームにさまざまなサービスを提供する、というのもあり得ます。

 

── 例えば、どのようなサービスですか。

 

田中 具体的にはこれからですが、メガネをかけることで未病を発見したり、精神的な不調の予兆をキャッチしたりなど、健康に関するメリットや気づきを与えるサービスが提供できれば面白いですね。

 

ワークスペース展開


── 会員制ワークスペースも開設しました。

 

田中 イノベーションにはコミュニケーションによりアイデアを集める「知の探索」と、ものごとを深く追究する「知の深化」の両方が必要です。当社は、世界一集中できる場所を目指し、本社オフィスの階下に「Think Lab(シンク・ラボ)」を作りました。実際、社員がオフィスとワークスペースで、どちらが集中できているかをジンズ・ミームで測定すると、ラボでの集中力が大きく上回っていました。

 

── 本格的なビジネス展開もありますか。

 

田中 直感ですが、大きく発展するビジネスの可能性を秘めています。誰もが、いつでもどこでも、好きな時間に仕事ができる場所があれば、通勤時間や多すぎる会議などさまざまな労働課題を解決できるはず。子育て中の主婦や高齢者など、働き手も増え、所得も上がります。考え方に賛同してくれる企業も多く、面白くなりそうです。

 

── 本業のメガネ店は、海外進出に積極的です。

 

田中 中国、台湾、北米に進出していますが、4月にフィリピン・マニラのショッピングモールにも出店しました。アジアは経済成長率が高く、質の高い店舗スタッフの確保も可能で、日本と同じビジネスモデルが通用する手ごたえがあります。今後もアジアを中心に海外店舗網を広げたい。

 

(構成=小島清利・編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 独立し、雑貨店が成功し始めていましたが、次の成長を目指し、30代後半でメガネ店を始めました。

 

Q 「私を変えた」本は

 

A 山岡鉄舟の『剣禅話』は剣の極意についての書ですが、商売の極意も同じように「心の持ちよう」が大切だと思います。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 故郷の前橋市の街おこしやスタートアップ企業の支援に取り組んでいます。私財と時間を惜しみなくつぎ込んでいます。

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 ■人物略歴

たなか・ひとし
 1963年生まれ。群馬県前橋市出身。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。88年、ジェイアイエヌ(現:ジンズ)を設立。2001年、アイウエア事業「JINS」(ジンズ)を開始。06年大証ヘラクレス(現ジャスダック)、13年東証1部に上場。17年4月ジンズへ社名変更。

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事業内容:企画から販売までを一貫して行うSPA方式のアイウエア(メガネ)事業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1988年7月

資本金:32億247万5000円

従業員数:3749人(2017年8月31日現在)

業績(17年8月期、連結)

売上高:504億5100万円

営業利益:54億200万円

特集:会社を買う売る継ぐ 2018年9月11日号

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サラリーマンが買って継ぐ

「大廃業時代」の救世主

 

三戸政和(日本創生投資代表取締役)

 

 今日本中の多くの中小企業が、廃業の危機に瀕(ひん)している。およそ400万社の中小企業のうち、3分の2で後継者が決まっておらず、社長の年齢がそろそろ引退も考えるべき60歳以上の企業に限定しても、半数が後継者不在だ。東京商工リサーチの試算では、127万社が廃業予備軍であるという。

 

 親族に後継ぎがおらず、社内にも社長を引き継げるような人がいない場合、選択肢は二つ。一つは、廃業。もう一つは、誰かに会社を売ること。その2択のどちらがいいかという問いに、どちらも可能であるならば、大多数の社長が後者を選ぶだろう。

 

 

清算すれば残るのは借金


 現実的に言って、廃業するのはとても労力のかかる作業だ。手続きだけで済む問題ではない。従業員全員の仕事を失わせてしまうことになるし、仕入れ先、取引先、その先の消費者にも迷惑をかけてしまう。資産をすべて現金化し、負債を返して、すべてを清算しなければいけない。

 

 企業の資産の多くは、廃業すれば価値が下落し、清算の際には資産は大きく目減りしてしまう。在庫、生産設備など、帳簿上ではそれなりの資産があったとしても、事業が継続できてこそ価値を持つものが多い。工場などの建物は、解体して更地にしないと土地を売ることも貸すこともできないが、解体には莫大(ばくだい)な費用がかかる。貸借対照表では資産があったはずなのに、廃業すると借金だけが残るのは珍しいことではない。

 

 それに、気持ちの上でも、やはり、自分が人生をかけて一生懸命に育ててきた我が子のような会社を、つぶしてしまうのは心が痛い。誰かに引き継いでもらい、会社名も残し、事業も継続してもらいたいと考えるのは人間の自然の心なのだ。

 

 それでもどうしても後継ぎが見つからないまま、社長が亡くなったり、病気や高齢で仕事ができなくなったりし、黒字のまま、やむなく廃業する企業が今の日本では増えている。

 

 こうした企業をあなたが個人で買収し、経営を引き継いでください、というのが私からの提案だ。

 私が2016年に立ち上げた日本創生投資は、機関投資家などから出資してもらった30億円のファンドを運用している。中小企業を買収し、経営改善によって企業価値を上げ、他の企業や個人に売却することによって、売買差益を得ている。

 

 実は私たちが行っている企業買収は、個人でもできる。私は今年4月、『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門』(講談社+α新書)という本を出版した。資産形成と生きがいのために、「社長」という新しいセカンドライフを提案する本であり、サラリーマンに適した企業買収のノウハウを記した。

 

 日本企業で中間管理職を経験したサラリーマンは、中小企業のマネジメントに向いている。このままでは60歳から65歳で引退させられてしまうサラリーマンに、廃業の危機にあるあまたの中小企業を買収して経営を引き継ぎ、日本経済を守ってもらいたい。この本は発売から4カ月で11万部を突破しており、これほどまでにこの提案が人々に高い関心を持って受け入れられるものなのかと、私も驚いている。

◆疑問その1 

「300万円で買えるのはどんな会社なのか?」

 

 この本を出版して、最も多く投げかけられたのが、「300万円で買える会社などあるのか」「300万円で買える会社なんてロクな会社じゃない」という意見だった。

 

 私は投資ファンドのファンドマネジャーという、何よりも信頼が重要な仕事に就いている。300万円で買えるまともな会社がないのなら、著書のタイトルにするわけがない。

 

 では実際に、300万円でどんな会社が買えるのか。答えは意外にシンプルだ。M&A(企業の合併・買収)において値決めをするとき、一応の算定基準となる計算式がある。

 

 純資産(資産-負債)+営業利益×3(年分)

 

 ここから、ビジネスの将来性、純資産の時価査定=デューデリジェンスや、需給バランス、売り手と買い手の交渉によって上下するが、この価格がスタートラインになる。

 

 ではこの数式で値段が300万円とはじき出されるのは、どのような会社なのだろうか(図2)。

 

 純資産(資産-負債)がほとんどないという中小企業は少なくない。銀行から借り入れをすることでなんとか事業を回している自転車操業だ。さらに純資産がマイナスになっている状態が、債務超過となる。社長個人が会社に貸し付けをしたり、役員報酬を受け取っていなかったりと債務を補填(ほてん)しているケースもある。

 

 例えば、純資産が0円で、売上高が2億円、従業員が5人、営業利益が100万円出ている会社があったとする。これを先ほどの計算式に当てはめると、売買価格はちょうど300万円となる。

 

 このような会社は、買いだろうか。

 

 社長の役員報酬は、中小企業の平均的な報酬である1200万円、年間で経費を社長が500万円ほど相応に使っていたとしたらどうか。これは、検討してもよいだろう。

 

 このように、そこまで利益が出ておらず、純資産の積み上げもない会社であれば、オーナー側も高く売りたいという考えより、従業員や取引先、借り入れしている銀行などに迷惑をかけたくないという思いが強く、適切に事業を引き継いでくれる人がいればタダでもよいという先がある。事業自体に問題がなければ、テコ入れしながら利益改善していくことも可能かもしれない。

 

節税で「利益ゼロ」の会社も


 また、売上高が6億円、従業員が20人で、純資産が300万円、営業利益が0円だったとすると、売買価格は先ほどの計算式では、やはり300万円となる。この会社が買いかどうか、この情報だけでは私にもわからない。

 

 純資産300万円といっても、実際には長期在庫の山で、資産価値などないかもしれない。事業サイズに比べて借り入れも大きく、社長は自分の報酬を削って削ってなんとか社員の給料や仕入れ代金を支払い、役員報酬は400万円かもしれない。

 

 ただし、社長の役員報酬が2000万円、経費を1000万円使っていてこの状態かもしれない。社長が税金を払いたくないために利益をゼロに調整していただけかもしれない。そんな会社はゴマンとある。

 

 それこそ極端な例を言えば、会社の事業は実は割とうまくいっているのに、放漫経営のために、純資産0円、経常利益0円という会社も普通に存在する。大企業のサラリーマンからすれば考えられないぐらいの、どんぶり勘定をしている会社は、中小企業には多い。

 

 その場合、先ほどの計算式に当てはめれば、基準となる売買価格は「1円」となる。しかし、ほんのわずかな経理の見直しで、あっという間に会計状態がよくなったりする。

 

「会社を1円で売る社長なんているわけがない」と思うことだろう。しかし、廃業して会社を清算するとなると、資産は使えないものとなり、大幅に価値を毀損(きそん)して莫大な借金が残る可能性が高い。だったら1円でも買ってもらったほうがいいという話になる。

 

 また、オーナーが急死し、奥さんが緊急避難的に株式を保有している会社もあったりする。

 

 今すぐにでも会社を買ってもらわないと困る事情のある社長はたくさんいる。先ほどの計算式よりも低い金額で買える掘り出し企業も結構あるのだ。

 

 ◆疑問その2

「サラリーマンとして働いてきて、会社の経営なんてできるのか?」

 

 次によく出るのが、「会社に雇われたことしかないサラリーマンに、経営ができるのか」という問いだ。

 もしこれが、新たに会社を立ち上げて経営するというのであれば、答えは限りなくNOだ。新規で創業した企業は5年で85%、10年で95%が倒産する。

 

起業と異なり、維持と改善


 私はかつてベンチャーキャピタルの投資部門で働いており、およそ1000社の投資検討をした経験があるが、さまざまな分野のプロフェッショナルがチームを組んで厳しく吟味し、実際に投資した会社でも、10社のうちおよそ4社が倒産、4社が鳴かず飛ばずで、1社か2社上場すればそれで合格という世界だった。

 

 それが起業の現実なのだ。社長の経験がある人であっても、ゼロからビジネスを立ち上げ、事業を軌道に乗せ、収益を安定させるのは、とてつもなく難しい。現状維持をベースとするサラリーマンの思考感覚では、とても成功できるものではない。

 

 しかし、創業から数十年が経過し、そうしたプロセスを経て安定した会社の社長になるのであれば、話は全く別だ。その事業がきちんと利益を上げているのであれば、少なくとも現状維持して去年と同じ収益を今年も出せばいい。既に回っているビジネスをこれまで通りうまく回すというのは、サラリーマンの得意仕事だ。

 

 その上で、きちんとできていないところを見定めて、改善の手を入れる。大企業では当たり前に行われている「ずさんな管理をきちんとする」「仕入れ先から相見積もりを取り直す」「営業をかける」「便利な業務システムを導入する」といった、簡単なことだ。

 

 そうしたごく当たり前のことができていない会社が中小企業では多い。いまだに手書きの帳簿で在庫管理していたり、電話やファクスで受発注していたりすることさえある。少し手を入れるだけで、業績は意外と簡単に上がる。

 

◆疑問その3

「会社の価値を見極めるデューデリはどのように行えばいいのか?」

 

 企業の収益性やリスクなどを総合的かつ詳細に調査し、その価値を査定することをデューデリジェンスと言う。買収に際して、財務諸表の正確な実態や会社が抱えている法的なリスクを見定めなくてはいけない。ただ、これらは弁護士や会計士などにお願いすることになり、300万円で買えるような会社の買収で行うのは価格的にハードルが高い。

 

 そこで私がお勧めするのは、ある程度の期間、買収候補企業で役員として働くことだ。

 

 例えば、現社長とのあいだで、「2年後の買収を前提に取締役になる」といった覚書を交わして、専務取締役で入る。その時点で、買収金額も決めておくとよいだろう。覚書にはただし書きとして、「知らされていなかった重大な瑕疵(かし)が発見された場合には、無条件でこの約束を破棄することができる」と書き入れておく。

 専務として2年間も働けば、事業実態や財務状況、帳簿に表れない会社の内情や法的リスクを把握し、基本的なデューデリジェンスは行うことができるはずだ。それでも不安であれば、会社の顧問弁護士や会計士を自分の信頼できる人に替えて確認すればよい。

 

 さらに、その2年間で社内の立て直しをしていくことができる。社長がいる間に、責任は社長に持ってもらって、さまざまな改革を断行してしまい、同時に社員との信頼関係も作っておくのだ。改革の成果が出てきて、あなたが社員から認められることができれば、社員はあなたを新しい社長として喜んで迎えてくれることだろう。

 

取引先が有力候補


 さらにお勧めするのが、現在の取引先の会社を買うことだ。取引先であれば、その会社の経営状態や、強み、事業環境もある程度わかっているはずで、デューデリジェンスは半分終わっている。さらに、社長との関係、社員との関係もある程度できている。交渉も持ちかけやすい。

 

 そして、買収した後も経営は比較的簡単だ。何せ自分の業界なのだから。取引先の中で、事業承継に悩んでいる会社がないか、そして、ポテンシャルが高くて安く買えそうな会社がないか、今のうちから探し始めることをお勧めする。

 

三戸政和(日本創生投資代表取締役)

 

 

週刊エコノミスト 2018年9月11日号

定価:670円

発売日:9月3日


目次:2018年9月18日号

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CONTENTS

 

EV&つながる車で勝つ100社

18 メガトレンドに乗れ 日本の部品に勝機 ■大堀 達也

22 クルマのサービス化 「モービルアイ」に続け 台頭するイスラエル企業 ■遠藤 功治

24 「レアメタル不足」の真実 “EVシフトの壁”という誤解 ■阿部 暢仁

日系サプライヤーに勝機 EV・自動運転のキーデバイスを供給

26 インタビュー SONY 春田勉 ソニーセミコンダクタソリューションズ・車載事業部副事業部長 「自動運転に適した画像センサーを供給」

27        TDK 橋山秀一 TDK電子部品営業本部自動車グループ統括部長 「EV・コネクテッド見据え信頼性高める」

活況!車載市場

28 組み込みソフト 「プログラム1億行」でデータ・IT企業に追い風 ■服部 誠

30 電池素材 “テスラ・ショック”から回復、堅調な日本企業 ■澤砥 正美

32 半導体 電動化対応で新素材の開発加速 ■阿部 哲太郎

34 センサー 部品から“サービス”に移る力点 ■貝瀬 斉

36 車体材料(構造材・内装材) 化学企業が“川中”展開、ノウハウ提供も ■澤砥 正美

38 中核部材・技術 モーター、コンデンサーの需要拡大 ■和島 英樹

39 クルマを高性能化する「全固体電池」 業界入り乱れ、開発競争が加速 ■和島 英樹

40 中国のEV革命に変化 燃費規制で新エネ車の生産促す ハイブリッド車にも追い風 ■湯 進

66 コレキヨ 小説 高橋是清 (10) ■板谷 敏彦

 

Flash!

 

13 アルゼンチン利上げ、通貨安に歯止めかからず/自動車減税論議、消費税対策で業界期待

15 ひと&こと アサヒビール、32年ぶりの役員外部登用/金融庁の次期長官 ダークホースに佐々木氏

 

Interview

 

4 2018年の経営者 月崎義幸 ジャパンディスプレイ(JDI)社長

94 挑戦者 2018 和田幸子 タスカジ社長

46 問答有用 中村哲 医師 「医師は仮の姿。飢えや渇きは薬では治せない」

総括! 安倍政治の功罪

82 実は西側で最初に誕生した“右翼政権” 禁じ手使った「牛になりたい蛙」の愚 ■倉重 篤郎

84 外交 官邸主導は良識と節度も必要 ■河東 哲夫

85 「やってる感」が重要な時代精神を体現している ■白井 聡

86 エネルギー政策 原発から撤退し再生エネを積極推進せよ ■河合 弘之

87 沖縄問題 犠牲を固定化する新基地建設 ■屋良 朝博

エコノミスト・リポート

74 スマホじり貧のクアルコム NXP大型買収は断念も黒字のうちに多角化挑む ■津田 建二

42 欧州 独メルケル政権を揺さぶる「内相の乱」 ■森井 裕一

72 銀行 ふくおかFG・十八銀、2年遅れで統合へ ■山本 大輔

97 不祥事 オリンパスに34億円賠償命令 「簿外覚書」の真正性 ■編集部

 

World Watch

 

60 ワシントンDC 銃規制、活動の火消えず 夏休み利用し高校生が訴え ■井上 祐介

61 中国視窓 新疆で急成長の繊維産業 一帯一路で欧州企業が注目 ■岩下 祐一

62 N.Y./カリフォルニア/イタリア

63 オーストラリア/インド/ミャンマー

64 広州/ブラジル/イラク

65 論壇・論調 独で高技能移民増やす法案 深刻な人手不足の解消なるか ■熊谷 徹

 

Viewpoint

 

3 闘論席 ■池谷 裕二

17 グローバルマネー 現代版ココムへと変貌する対中貿易戦争

44 本誌版「社会保障制度審」(13) 少子化克服へ「5本柱」を総合展開 在宅支援含めた「家族政策」へ転換を ■増田 雅暢

50 学者が斬る 視点争点 保育の「完全な」無償化なお遠く ■佐藤 一光

52 言言語語

68 東奔政走 安倍氏「勝敗ライン」は党員票の7割か 依然、注目される小泉進次郎氏の動向 ■佐藤 千矢子

70 海外企業を買う(205) コカ・コーラ ■児玉 万里子

77 図解で見る 電子デバイスの今(19) 5Gに向けて進化するプリント配線板 20年に1兆8000億円市場に ■津村 明宏

80 ズバリ!地域金融(3) 常陽銀行の「ものづくり支援」 強みを1行に集約しデータ蓄積 ■浪川 攻

81 商社の深層(122) インドネシアの植林に若手を投入 丸紅のムシパルプに再生の兆し ■編集部

96 独眼経眼 財政拡張が米国景気を押し上げる ■足立 正道

100 アートな時間 映画 [1987、ある闘いの真実]

101        クラシック [フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ 千葉百香ピアノ・リサイタル]

102 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Government shutdown ” ■安井 明彦

 

Market

 

88 向こう2週間の材料/今週のポイント

89 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■平 秀昭/週間マーケット

90 ブラジル株/為替/穀物/長期金利

91 マーケット指標

92 経済データ

 

書評

 

54 『検証 アベノミクス「新三本の矢」』 『日本型資本主義』

56 話題の本/週間ランキング

57 読書日記 ■楊 逸

58 歴史書の棚/海外出版事情 中国

53 次号予告/編集後記

 


自動車用液晶に活路、黒字は必達 月崎義幸=ジャパンディスプレイ(JDI)社長 

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Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── 2017年度業績は営業損益が617億円、最終損益が2472億円のそれぞれ赤字でした。JDIは中小型液晶ディスプレーで世界シェア首位です。世界一であれば普通は利益が出るはずですが、赤字の原因はどこにあるのでしょうか。

 

月崎 一言でいうと設備投資が重すぎたということです。生産設備が過剰だったことは否定できません。

 

── 売上高の約8割はスマートフォン(スマホ)向けです。過剰設備に陥ったのはスマホの需要見込みを間違えたためですか。

 

月崎 モバイル(スマホ)用液晶は、需要の変動が非常に大きい商材です。需要が急増すると、顧客から、「とにかく出荷してほしい」と、当社のオフィスで座り込みされるような光景さえ目にします。従ってピーク需要にも応えられる生産能力を持つ必要があるのですが、冷え込むと設備過剰になってしまいます。そこが昨年度まで苦しいところでした。

 

── JDIはアップル向けの販売金額が多いですが、中国など他のスマホメーカーも市場でシェアを伸ばしています。設備能力が不足することはないですか。

 

月崎 16年12月に白山工場(石川県白山市)の第6世代生産ライン(1500×1850ミリのガラス基板使用)を稼働させたことで、ピーク需要に対する備えとしてはやや過剰でした。そこで昨年12月に能美工場(同県能美市)の5・5世代ライン(1300×1500ミリガラス基板)を停止し、当社が25%出資する有機ELメーカーのJOLED(東京都千代田区)に今年6月、同工場を売却しました。茂原工場(千葉県茂原市)にも第6世代ラインがあり、同世代の生産ラインが2カ所あればピークに十分対応することが可能です。

 

── 昨年度に構造改革を実施して、利益が出る態勢になったのですか。

 

月崎 生産設備の減損など特別損失1400億円を出しました。今年度から固定費が年間で500億円強減ります。筋肉質になりました。

 

── 減損は帳簿上の会計処理で、キャッシュフローが増えるわけではないのでは。

 

月崎 今年4月に350億円の第三者割当増資を実施し、能美工場の売却代金(200億円)も入りました。キャッシュフローに関しても一息つけました。

 

有機ELにも取り組む


── 有機ELディスプレーの取り組みに対する基本的な考えを聞かせてください。

 

月崎 ディスプレーを扱っている限り、有機ELも取り組む必要があります。当社が関わる領域として、蒸着タイプと印刷タイプの2種類の生産方式があります。モバイル用には蒸着タイプが向いており、これは茂原工場に量産試作ラインを入れて、開発段階から量産段階へ移ろうとしているところです。量産への設備投資は市場を見ながら進めます。印刷タイプは、JOLEDが手掛けていますが、解像度や画面サイズの点で自動車用や産業用に適しています。当社とJOLEDは開発、製造、販売の各段階で協業しています。

 

── ここに有機EL搭載のアップルのiPhoneがありますが肉眼では液晶との違いがわかりません。

 

月崎 モバイル用だと液晶も有機ELもほとんど見た目は変わらないと思います。ただ、自動車用だと違います。運転席前方のコックピットのディスプレーはデザイン性が重視されるようになり、曲面タイプの製品が増えています。有機ELのほうがディスプレーを曲げやすい。また、液晶と違い、背面から光を照射するバックライトがないため、画面が周囲の闇と同化した漆黒を映し出します。特に北欧のユーザーは夜道で液晶画面から漏れてくる蛍のような光を気にするようです。

 

車載用液晶はまだ伸びる


── いまはスマホ向けが売上高の8割近くを占めていますが、この比率は今後、どうするのですか。

 

月崎 21年までにはモバイル用と非モバイル用で半々の割合に持っていきたいと考えています。モバイル用を縮小するつもりはなく、非モバイル用を伸ばして、比率を半々に持っていきます。

 

── クルマ用の液晶と有機ELの需要はどのように伸びていきますか。

 

月崎 クルマの場合、モバイルと違って量産まで時間がかかります。有機ELについてはまだ各自動車メーカーも試行錯誤の状態です。世界の自動車の販売台数は年率2%くらいの伸びですが、自動車に搭載される液晶の伸び率は7%から10%ほどあります。クルマ1台に搭載される液晶の枚数や搭載車種が増えている中で、JDIの車載用液晶の伸びは10%を超えています。

 

── 車載用以外の強みは。

 

月崎 ウエアラブルデバイス(身体に装着できるデジタル機器)です。バックライトなしで動作する「反射型液晶」をウエアラブルに用いていて、市場シェアは世界一です。ほかに、頭部に装着するバーチャル・リアリティー(VR=仮想現実)装置用の液晶です。VRでは超高精細が要求されますが、JDIでは1インチ当たりの画素数が1000の製品を試作しました。既存の製品に比べて2倍の高精細です。今年後半で出荷が始まるかもしれません。

 

── 18年度の黒字は可能ですか。

 

月崎 必達目標です。今のところ計画通り進んでいます。

(構成・浜田健太郎=編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A ずっと液晶ディスプレーの設計を担当していました。当時はSTN(ネマティック)液晶の全盛期で、パソコンやワープロ向けに需要が急増し、その開発を任されていました。

 

Q 「私を変えた」本は

 

A 日立製作所の社長・会長を歴任した川村隆さん(現東京電力ホールディングス会長)の『ザ・ラストマン』です。JDIの社長就任にあたり再読しました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 自宅の庭の草刈りです。エンジン付きの専用機を使っています。広くて大変なんです。

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 ■人物略歴

つきざき・よしゆき
 1959年生まれ 千葉県立長生高校卒業、日本大学大学院理工学研究科修了、日立製作所入社。2014年JDI執行役員、副社長を経て18年6月から現職。千葉県出身。58歳。

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事業内容:中小型ディスプレーの開発、製造、販売

本社所在地:東京都港区

設立:2012年4月

資本金:1144億円

従業員数:1万1542人

業績(18年3月期、連結)

売上高:7175億円

営業損益:赤字617億4900万円

特集:EV&つながる車 メガトレンドに乗れ 日本の部品に勝機 2018年9月18日号

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<EV&つながる車で勝つ100社>

 

 「自動運転タクシー」が8月下旬、初めて東京都心部を走った。区間は大手町と六本木を結ぶ5・3キロ。実際に客を乗せた公道での走行実験としては世界初。タクシー大手の日の丸交通と自動運転技術開発のZMP(東京都文京区)がタッグを組んだ。

 

「無人タクシー」が視界に


 本誌編集部も同30日、六本木─大手町区間を試乗した。実験段階のため安全を考え運転席にプロのタクシードライバーが座るが、基本的に客の乗車から発進・走行・停止まですべて自動で行う。六本木ヒルズの車寄せを出発した自動運転タクシーは、まず六本木通りに入った。片側3車線で交通量も多く運転初心者には比較的難しい道。だが、タクシーは交差点も信号に従ってスムーズに抜けた。皇居の内堀沿いの日比谷通りに入ると、あらかじめ東京駅方向への右折を見越し左から右へ徐々に車線変更。ここまで、運転席の人間は渋滞時に安全優先のためマニュアル操作でブレーキを1回踏んだだけ。クルマに運転を委ねる「レベル4」に大きく近づいていた。

 

 自動運転を可能にする技術は、運転席後部のモニターに映った“クルマ自身が見る風景”(写真下)に示されていた。モニターには線で示された道路地図とその上を移動するクルマが四角い箱で表示され、自車は黒、他車は緑や黄で示される。白線や中心線が示された道路上を複数のクルマが動いている。タクシーから伸びた赤線は走行予定ルートを車線レベルで表示。複数車線の場合は周りのクルマの状況によって赤線も頻繁に移動した。

 

 周囲の状況認識とルートの割り出しは、「自動運転用地図」「周囲を認識する車載センサー」「自動運転コンピューター」が可能にする。タクシーの「目」となるセンサーには、白線や信号の色を見分けるソニーの高感度画像処理センサー「CMOS(シーモス)」を組み込んだステレオカメラや、他車や建物を認識する米ベロダイン製「LiDAR(ライダー)」などが使われ、地図にはZMPが測量会社と共同作成した高精度三次元マップが使われている。さらに、「自動運転コンピューターは中央演算処理装置(CPU)に米インテル製マイクロプロセッサー(集積回路)を複数使った高性能品だ」(西村明浩ZMP取締役)。

部品市場は20兆円も拡大


 いま、クルマには、(1)自動運転(Autonomous)のほかに、(2)電気自動車(EV)をはじめとする「電動化(Electricity)」、(3)クルマを所有せずに共有する「シェアリング(Sharing)」、(4)クルマがインターネットを介し外とつながる「コネクテッド(Connected)」──という変化の波が起きており、それぞれ頭文字を組み合わせ「CASE(ケース)」と呼ばれる。CASEはそれぞれ一時的なブームで終わらない「メガトレンド」になると見られている。

 

 世界的に環境規制が強化されつつある中、電動化の流れは変わらないというのが自動車業界の一致した見方だ。独ダイムラーが9月4日、高級車の「メルセデス・ベンツ」ブランドで初となるEVモデルを投入するなど、足元で自動車大手のEVシフトが加速している。一方、自動運転は、自動車メーカーにとっては、生き残るには高めていかなければならない付加価値になっている。また、自動運転車やシェアリングカーは最初から「コネクテッド」である必要がある。自動運転社会やライドシェア社会が実現したとき、クルマはすべて「コネクテッドカー」=「つながる車」になっている可能性もある。

 

 CASEというメガトレンドは、「自動運転タクシー」が専用のセンサーや地図、コンピューターなどを必要とするように、新しい部品や素材、技術の需要を大きく拡大させる。その新しい需要を取り込もうと、自動車業界だけでなく電子部品、ITなどさまざまな企業がサプライヤーとして車載市場に注力している(18~19ページ図)。特に電動化と自動運転化がサプライヤーにもたらす恩恵は大きい。独コンサルティング大手ローランド・ベルガーによれば、2015年に7000億ユーロ(約91兆円)だった世界の自動車部品市場の規模は、25年には8500億ユーロ(約111兆円)と20兆円拡大すると予想する。「その、増加分の大半はCASE関連で生み出される可能性がある」(業界アナリスト)。

 

 CASE特需には完成車メーカーよりも部品や素材を供給するサプライヤーが沸いている。特に自動運転やEVでは電子部品が増える。日本の電子部品大手はEVや自動運転向け部品事業で年率10%超の高成長を見込む。一方、完成車メーカーの多くは成長率3%程度と見られ、これはクルマの「中身」が大きく入れ替わることを意味する。今回の特集で登場する100社超の企業は、それぞれが激変するクルマの部品やサービスを手がけ、競争力のある製品を供給している点で注目される。

 

「つながる車」の潜在力


 CASEの中で最も伸び代が大きいと見られるのが自動運転やシェアリングも包含する「つながる車」の領域だ。

 

「走っているクルマにどの方向にどれだけの“Gフォース”(重力)がかかっているか、どのくらいの速度でブレーキを踏んだか、あるいは加速したか、といったデータもクルマから取れる」と話すのは2013年創業のベンチャー、スマートドライブ(東京都港区)の北川烈社長(29)。日本初の本格的な「つながる車」に特化した企業だ。

 

 スマートドライブは、それらのデータを解析することでドライバーの“運転の癖”を分析。それに時間帯や道路状況、天気などのデータも掛け合わせて、事故のリスクがどれくらいあるかを導くという。「その技術で特許も取得し、安全運転診断サービスに生かしている」(北川氏)。

 

 同社はクルマに標準搭載されている端子から多様なデータを取得する機器を開発・販売するとともに、データを活用したサービスを展開する。自動車保険から始めたが、現在はデータ解析の強みを生かし領域を次々と拡大している。法人向けには、例えば物流会社のトラックの走行データを可視化し、安全運転支援のほかどの経路で荷物を運ぶのが効率的か提案するサービスも開始する。最終目標は、さまざまな業界の企業が新しいサービスを生み出すために利用しやすい形にしたクルマの「データプラットフォーム」(基盤)を構築することだ。その点、スマートドライブは保険、金融、物流から製造業まで多様な業界の企業と協力関係にあるのが強みだ。

 

 同様のサービスを手がける企業は欧州やイスラエルなどにもあるが「サービス化では一歩リードしている」(北川氏)。ただ、海外勢の強みは完成車メーカーがデータを囲い込まずオープンにしていることだ。コネクテッド分野は、価値ある車載データを開放し、自動車メーカー、データ企業、各サービス会社が協調しなければ市場開拓は難しい。それゆえ自動車業界の未来に強い危機感を持つ欧州勢などは「つながる車」を協調領域にしようとしている。

 

 北川氏は「日本では自動車業界がクルマのデータ開放に強い抵抗感を持っている。だが、それでは世界の流れに取り残される」と警鐘を鳴らす。巨大な「つながる車」市場を日本がリードできるかは、自動車大手の決断にかかっている。

(大堀達也・編集部)

 

週刊エコノミスト 2018年9月18日

定価:670円

発売日:9月10日


2018年9月18日号 週刊エコノミスト

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定価:670円

発売日:9月10日

EV&つながる車 

<EV&つながる車で勝つ100社>

 

メガトレンドに乗れ 

日本の部品に勝機

 

 「自動運転タクシー」が8月下旬、初めて東京都心部を走った。区間は大手町と六本木を結ぶ5・3キロ。実際に客を乗せた公道での走行実験としては世界初。タクシー大手の日の丸交通と自動運転技術開発のZMP(東京都文京区)がタッグを組んだ。

 

「無人タクシー」が視界に


 本誌編集部も同30日、六本木─大手町区間を試乗した。実験段階のため安全を考え運転席にプロのタクシードライバーが座るが、基本的に客の乗車から発進・走行・停止まですべて自動で行う。六本木ヒルズの車寄せを出発した自動運転タクシーは、まず六本木通りに入った。片側3車線で交通量も多く運転初心者には比較的難しい道。だが、タクシーは交差点も信号に従ってスムーズに抜けた。

 

 皇居の内堀沿いの日比谷通りに入ると、あらかじめ東京駅方向への右折を見越し左から右へ徐々に車線変更。ここまで、運転席の人間は渋滞時に安全優先のためマニュアル操作でブレーキを1回踏んだだけ。クルマに運転を委ねる「レベル4」に大きく近づいていた。

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追悼 反骨の学者、石弘光さん 増税による財政再建唱え続けた

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 政府税制調査会(政府税調)会長、一橋大学長を歴任した石弘光さんが8月25日、膵臓(すいぞう)がんのため死去した。81歳だった。

 

 財政学の専門家として、2000年から06年まで政府税調会長を務めるなど日本の財政改革に関わった。バブル崩壊を経て財政赤字が悪化する中、歳出削減による「増税なき財政再建」を批判し、財政再建のためには増税が不可避と説いた。

 

 05年には政府税調会長として所得税の給与所得控除、配偶者控除などの廃止や縮小を提言。「給与所得者、サラリーマンに頑張ってもらうしかない」という石さんの発言が「サラリーマン増税」と世論の猛反発を買い、政治問題化したが、自説を曲げることはなかった。

 

 税調に財務省主税局総務課長として関わった古谷一之・内閣官房副長官補は「石先生が首尾一貫して財政再建を主張する姿は、我々の精神的支柱だった」と故人を偲ぶ。

 

 また、石会長時代に、政府税調のメンバーだった奥野正寛・東京大学名誉教授は「財政再建に伴う所得税改革の議論では張り詰めた雰囲気もあったが、爽やかで朗らかな石さんの人柄にずいぶん助けられた」と振り返る。

 

 06年、第1次安倍政権は石会長再任を推す財務省の人事案を却下。後任に法人税減税による経済成長を優先した本間正明・大阪大学教授(当時)を据えた。専門家が中期的な税制のあり方について議論を戦わせる場として機能してきた政府税調はこの後、政権に物申す機関としての存在感が薄まり、変節を遂げることになる。

 

門下生に親しまれた

 

 石さんは12年11月、本誌に寄稿した論文で、日本が財政再建に成功しない最大の理由は「増税をはじめ国民に嫌がられる政策手段を、歴代の内閣が責任を持って実行しようとしないから」と政治家を鋭く批判。

 

 また「増税を拒みそれを継続できるとする環境に、政治家も国民もすっかり慣れ親しんでしまった」と国民にも財政再建への覚悟を迫った。財政再建を先送りすることの将来世代への負担付け回しを案じた。

 

 学生に対しても厳しい半面、温かい指導で接した。一橋大の石ゼミは蓼沼宏一・一橋大学長、油井雄二・成城学園学園長はじめ多くの研究者を輩出した。佐藤主光・一橋大国際・公共政策大学院教授は「時間や締め切りには厳しかったが、研究のテーマや進め方では学生の主体性を尊重してくれた」と懐かしむ。

 

 産業界で活躍する門下生も多い。「極めて率直で、怒るときには怒る。でも真心がこもった温かい厳しさで、石先生のゼミでよかったと振り返る人が多い」(松井道夫・松井証券社長)、「『ただ乗りはダメ、受益者負担』『ゼミの勉強を言い訳にクラブをさぼるな』との教えが心に残っている」(河田正也・日清紡ホールディングス社長)。OB会を通じて卒業生と親交を続けた。

 

 研究者として初めて出版した『財政構造の安定効果』(1976年)で第17回エコノミスト賞を受賞。後に07年度から09年度まで同賞選考委員長を務めた。

 

 選考委員でプライベートでも親交があった井堀利宏・政策研究大学院大学特別教授は00年代前半、政府税調の視察で一緒に欧州を訪問した際、集合時間に遅れた財務省の職員に石さんが「『集合時間の10分前には来ているもんだ』と、懇々と説教する姿が忘れられない」と話す。

 

 八百屋で買い物したとき、「お客さん、消費税分まけとくよ」と言われ、「いや俺は払う」と断ったという石さん。

 

 16年に末期がんを公表した後も、べらんめえ調の江戸っ子気質は変わらず、政権批判をためらわなかった。

(編集部)

特集:商社 7社の野望 7つの不思議 2018年9月25日号

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不思議1 最高益どう稼いでいる 

資源、機械、生活関連 

7社七様の得意分野

 

丸紅の株価が8月29日に年初来高値(934円)を付けた。年初来最安値(3月26日=742円)から実に25%の上昇だ。9月に入っても、過去10年間の最高値圏で推移している。

 

 きっかけは、8月上旬に発表された2018年度第1四半期(4~6月)決算だ。連結最終利益は前年同期比61%増の868億円で、四半期利益としては過去最高益だ。米国農資材会社「ヘレナ」の販売が好調だったことや、パルプの市況好転で素材分野が伸長した。今期(19年3月期)は過去最高益の2300億円を見込んでおり、最初の3カ月で4割近くを稼いだことになる。社内でも当初、この数字を見た社員にどよめきが起きたという。

 三菱商事も、18年度第1四半期決算は、四半期としては過去最高の2043億円(前年同期比73%増)だった。増額幅は、四半期だけで865億円という驚異的な数字だった。金属、エネルギー、機械(自動車、船舶、産業機械など)の各分野で大幅増益だったのが寄与した。

 

 大手商社5社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅)は18年3月期、三井物産を除く4社が過去最高益を更新した。三井物産も過去最高(12年3月期)に迫るレベルだ。上げ潮基調なのは共通だが、収益構造は各社で異なる(16~17ページの図1)。

 首位の三菱商事は、金属、エネルギーという資源関連の二つの事業分野の割合が半分を占める。特に金属だけで2600億円超の利益を挙げた。また、機械は852億円、生活産業(食料品、小売りなど)は747億を稼いだ。同社は、金属など市況に左右されやすい事業と、生活産業など、劇的増益はないが、安定収益が見込める事業をまんべんなく網羅し、一つ一つの事業分野の規模が大きいのが特徴だ。

 

 2位の三井物産は鉄鋼製品、金属資源、エネルギーという資源関連の3事業分野が占める割合が他社に比べて大きい。資源市況の波を良くも悪くも受けやすく、昨年の市況高騰の追い風を受けやすかった。一方、生活産業は赤字で、得手不得手がはっきりしている。

 

 3位の伊藤忠商事は、三井物産と逆だ。食料、住生活、機械、金融・情報(信販事業やITサービス)など生活密着型、安定収益型事業に強い。

 

メディア、電力も


 住友商事はケーブルテレビ「JCOM」やITサービス「SCSK」などメディア事業に強い。丸紅では「電力・プラント」の割合が大きいのが目を引く。発電所を建設して、15~20年間発電事業を担い、売電収入でまかなう「独立系発電事業(IPP)」を得意としており、持ち分発電量は商社ナンバーワンだ。

 

 総合商社の源流は、商品のトレード(取引仲介)だ。食品、素材、自動車、航空機、防衛機器などあらゆる商品について、メーカーと買い手の間に入り、卸売りや取引仲介を担っていた。しかし00年代に入って、メーカーが直販体制を確立し、ITシステム普及による物流仲介も充実してくると、商社のトレード機能は狭まっていった。

 

 そこで商社はトレードの知見を生かして、事業や会社に投資して人を送り込み、出資比率に見合った利益(取り込み利益、持ち分法利益と呼ばれる)を取り込む投資会社に変遷した。たとえば、石油やガスの輸入を手がけていた部署には、優良鉱区の情報が入り「どの資源案件は収益性が高いか」という目利き力が育つ。繊維や食料の卸売りをしていれば、物流や小売りのノウハウも見えてくる。この結果、各社は資源開発やコンビニエンスストア会社に投資して、事業を直接手がけるようになった。

 

 この間、00年代後半には各社が競うように大型資源開発に出資した。しかし15~16年、資源価格の下落を背景に各社が資源事業で巨額減損を計上した。

 

 減損から2年が経過し、再び成長している商社業界。成長の源泉は、得意分野に注力して投資先を選んでいることにある。その結果が、収益構造の違いだ。強い分野をより強化して、今期は大手7社(大手5社プラス豊田通商、双日)中6社が最高益を見込む。

 

 順風満帆に見える業界ではあるが、割安な株価に苦悩し、会社組織も制度疲労を起こしている。業界外から見れば「不思議」に見えるこれらの課題や現状七つをあぶり出すとともに、大手7社が期待する「収益の種」を紹介したい。

 

(種市房子・編集部)

週刊エコノミスト 2018年9月25日号

定価:670円

発売日:9月18日


目次:2018年9月25日号

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CONTENTS

 

商社 7社の野望 7つの不思議

16 第1部 商社7不思議

16 不思議(1)最高益どう稼いでいる 大手7社の得意分野 ■種市 房子

19    (2)“格上げ”相次ぐ 財務規律の姿勢鮮明に ■種市 房子

20    (3)資源権益マップ LNG、鉄鉱石、石炭 ■浜田 健太郎

22    (4)株価が上がらない 市場の成長期待は低く ■種市 房子

24    (5)積み上がる「現金」 収入増でも絞る投資 ■成田 康浩

26    (6)遅れる「組織改革」 変わる現場に経験値低下 ■五十嵐 雅之

28    (7)メーカーに近付いている 設備投資伴う電機事業も ■編集部

30 見た!聞いた!知っている! 商社のウラ匿名証言集2018

64 第2部 財務・投資案件&これからの注目事業 ■聞き手・構成=種市房子/浜田健太郎

66 三菱商事 洋上風力発電 「欧州で蓄積した開発経験」

68 三井物産 「食」と「農」 「養鶏用飼料の設備を増強」

70 伊藤忠商事 ベンチャー投資 「次世代ビジネスを次々創造」

72 住友商事 自動車サービス 「“フェロモン”放つ事業基盤」

74 丸紅 輸送機器 「空港の地上業務委託好調」

76 豊田通商 エレクトロニクス 「トラック隊列走行に注力」

78 双日 空港運営 「パラオに続き宮古島で」

 

Interview

 

4 2018年の経営者 池田哲夫 小松精練社長

92 挑戦者 2018 平山幸介 イベントレジスト社長

44 問答有用 高田明 V・ファーレン長崎社長 「平和の発信。それがミッションです」

エコノミスト・リポート

83 低迷続く仮想通貨 70兆円が規制強化で吹き飛ぶ 消えない一獲千金の野望 ■高城 泰

38 コレキヨ 小説 高橋是清 (11) ■板谷 敏彦

32 株式 データが示す「米国独り勝ち」の期限 ■渡辺 浩志

34 携帯 「値下げ」迫る菅長官の周到なタイミング ■吉田 泰三

35    真の狙いはアップル対策

80 的中 よみがえるラビ・バトラの予測 ■市岡 繁男

 

Flash!

 

11 北電の原発優先が招いた北海道大停電/関空の台風被害は人災

13 ひと&こと 茂木外相観測で不協和音/復興庁の「防災省」格上げに疑問

World Watch

58 ワシントンDC 対米投資審査の強化で日本企業も安心できず ■川上 直

59 中国視窓 アフリカ支援で権威誇示 ■金子 秀敏

60 N.Y./カリフォルニア/英国

61 韓国/インド/インドネシア

62 台湾/ロシア/ケニア

63 論壇・論調 中国を欧米が「新植民地主義」と批判 ■坂東 賢治

 

Viewpoint

 

3 闘論席 ■片山 杜秀

15 グローバルマネー パウエル議長のしたたかな「口先」金利誘導

36 東奔政走 安倍「圧勝」か石破「善戦」か ■前田 浩智

40 海外企業を買う(206) アリアンツ ■小田切 尚登

42 本誌版「社会保障制度審」(14) 出生率低下の8割は初婚行動に起因 ■阿藤 誠

48 学者が斬る 視点争点 「社会的比較」で省エネ継続 ■溝渕 健一

50 言言語語

94 独眼経眼 IT関連財の在庫増に歯止めかからず ■斎藤 太郎

96 アートな時間 映画 [愛しのアイリーン]

97        舞台 [ライオンのあとで]

98 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Trump Divide ” ■安井 明彦

 

Market

 

86 向こう2週間の材料/今週のポイント

87 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■佐々木 大樹/週間マーケット

88 欧州株/為替/原油/長期金利

89 マーケット指標

90 経済データ

 

書評

 

52 『アメリカ経済』

  『嘘に支配される日本』

54 話題の本/週間ランキング

55 読書日記 ■荻上チキ

56 歴史書の棚/出版業界事情

51 次号予告/編集後記

 

技術力とコスト力を備えた素材づくり 池田哲夫=小松精練社長

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Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── 斜陽産業と言われる繊維業界で、業績拡大を続けています。

 

池田 世界の人口が70億人を超えて80億人に迫っているなかで、衣料や寝具など繊維を使う量が世界で拡大するのは間違いありません。繊維は斜陽どころか世界的にみれば成長産業で、どこで戦うかがポイントになります。

 

── どこで戦うのですか。

 

池田 当社が目指しているのは、「どこにでもある材料を、どこにもない材料に変える」ことです。どこにでもある原糸・原綿を使い、どこにもないような魅力的で機能性の高い合成繊維をつくる技術力が特技で、欧州の高級ブランドからも高く評価されています。

── 具体的には。

 

池田 「織り」「編み」は自社で行っていないので、「染め」の繊維の要素技術を組み合わせる力を愚直なまでに磨いてきました。例えば、ダウンジャケットの生地では、髪の毛の10分の1ほどの細さの素材を、密度を保ちながら均一に染めることができます。軽量でファッション性に優れた高品質の素材を欧州の高級ブランド向けと、コスト競争力が求められるファストファッション向けの両方に供給しています。中国メーカーにもまねできないと自負しています。

 

── 中東で男性が身に着ける白色の民族衣装「トーブ」の素材でも評価されているとか。

池田 肌ざわりや丈夫さ、白の質感などに優れた高級トーブの素材の加工や販売をしていて、この分野における日本品では約8割のシェアを持っています。

 

── 同じように見える民族衣装でどのように違いを出すのですか。

 

池田 遠目には、同じ単色の白に見えますが、その内訳は約150種類の白色に細分化され、一つの素材から50~60種類の風合いを出せるのです。沿岸部と山岳部では湿気に大きな違いがあり、湿気の高いところでは締まった風合い、低いところには柔らかい風合いなど、バリエーションをそろえることができるのは当社の他にありません。

 

── 衣料向け以外はどうですか。

 

池田 当社の素材は衣料を起点に、応用分野が広がっています。例えば、世界的に有名なオーディオメーカーが採用しているヘッドホンの耳当てに使う湿式発泡素材は、ウレタンを発泡させて細かい繊維をつくることで、外側から水を通さず、内側の水蒸気のみを通過させることで蒸れを逃がす「透湿防水」を実現しているのが特徴です。自動車の内装や化粧用パフなどにも採用されています。

 

隈研吾氏とコラボ


── 建築資材に使う素材の開発にも力を入れていますね。

 

池田 染色産業の廃棄物を約1000度の高温で焼き、吸水力・保水力に優れた超微多孔性の発泡セラミック基盤「グリーンビズ」を開発し、2009年から展開しています。主に屋上緑化材として、東京・銀座の百貨店などに採用されています。小さな穴に雨水を含むことで、打ち水と同じように路面表面を冷却する効果があります。また、表面吸水能力にも優れているので、都市型のゲリラ豪雨対策にも有効なんですよ。

 

── 建築家の隈研吾氏との協業が話題です。

 

池田 隈氏は高機能で軽量、素朴な質感、リサイクルも可能という開発コンセプトに共感し、米オレゴン州ポートランド市の都市公園ワシントン・パークにある「ポートランド日本庭園」など、隈氏が手掛ける建築物にも採用してくれています。

 

── 炭素繊維を使った耐震補強材も開発していますね。

 

池田 鉄に代わる建材として炭素繊維複合材料「カボコーマ・ストランドロッド」を開発しました。炭素繊維は鉄に比べて軽いのに引っ張り強度が高く、さびません。棒状で長さ約160メートルでも重さは12キロにしかならず、軽いので持ち運びも容易です。同等の強度を持つメタルワイヤーなら約35倍の重量になります。隈氏も将来性に注目しています。

 

10月から新社名に


── もう実用化されていますか。

 

池田 現行の建築基準法では、建造物の柱・梁(はり)・土台部分などに使用する構造材として、炭素繊維を使用することは認められていません。そのため、現在は神社仏閣など伝統文化財の修復や耐震補強で活用されています。例えば、国の重要文化財である「善光寺経蔵」の保存修理工事や、世界遺産に登録されている富岡製糸場のそばにある富岡3号倉庫などです。また、鉄道のホームの転落防止柵としての活用を目指し、JR六甲道駅(神戸市)で現場テストが始まりました。このほど、耐震補強材として国内標準化(JIS化)が決まり、技術的な普及が進むと期待しています。

 

── 10月から社名を変更するそうですね。

 

池田 会社設立から75周年の節目に、社名から繊維加工の工程である「精練」を取り、「小松マテーレ」に変更します。9月27日に臨時株主総会を開き、正式に決める予定です。マテーレは、あらゆる素材を示す「マテリアル」と、繰り返し新しい価値を創造する意味を込めた「Re」を組み合わせた造語です。

 

── 社名に込めた意味は。

 

池田 従来の繊維の範囲にとらわれず、新しい素材など多様性のある会社に生まれ変わるという決意表明です。海外事業もこれまで以上に強化し、近い将来、売上高の半分は海外で稼ぐようにしたいと思っています。

 

(構成=小島清利・編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 営業でしたが、仕事が面白くなり、上司に言われるまでもなく、没頭していました。

 

Q 「私を変えた」本は

 

A 水道の水のように良質な商品を誰もが買える価格で提供する、「水道哲学」を唱えたパナソニック創業者の松下幸之助さんが好きです。成人する社員には、松下さんの著書『道をひらく』を贈っています。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 休日の一日はゴルフを楽しみ、もう一日は愛犬と戯れます。

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 ■人物略歴

いけだ・てつお
 1959年生まれ。石川県立寺井高校、京都産業大学経済学部卒。81年小松精練入社、上席執行役員営業本部長補佐、取締役常務執行役員営業本部長などを経て、2011年1月から現職。石川県出身。59歳。

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事業内容:衣料、資材向け繊維製品や建築資材製造

本社所在地:石川県能美市

設立:1943年

資本金:46億8042万円(2018年3月31日)

従業員数:1293人(18年3月31日現在)

業績(18年3月期、連結)

売上高:386億7900万円

営業利益:21億5100万円


2018年9月25日号 週刊エコノミスト

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定価:670円

発売日:9月18日

商社 7社の野望 7つの不思議 

不思議1 最高益どう稼いでいる 

資源、機械、生活関連 

7社七様の得意分野

 

 丸紅の株価が8月29日に年初来高値(934円)を付けた。年初来最安値(3月26日=742円)から実に25%の上昇だ。9月に入っても、過去10年間の最高値圏で推移している。

 

 きっかけは、8月上旬に発表された2018年度第1四半期(4~6月)決算だ。連結最終利益は前年同期比61%増の868億円で、四半期利益としては過去最高益だ。米国農資材会社「ヘレナ」の販売が好調だったことや、パルプの市況好転で素材分野が伸長した。今期(19年3月期)は過去最高益の2300億円を見込んでおり、最初の3カ月で4割近くを稼いだことになる。社内でも当初、この数字を見た社員にどよめきが起きたという。

 

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目次:2018年10月2日号

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CONTENTS

 

10の疑問で解き明かす 中国の闇

20 1 2019年ショックって本当? 米中衝突と構造問題がもたらす ■吉川 健治

23 2 ネット金融は混乱? 規制強化で残高4000億元減る ■梅原 直樹

24 3 「習近平1強」体制は盤石? 経済不安で揺らぎ始めた権威 ■興梠 一郎

26 4 「中国製造2025」は無理? 設備投資減り、ハードルは高い ■関 辰一

28 5 モバイル決済に異変? 規制強化で収益性が低下 ■矢作 大祐

29  テンセント、アリババが減益 ■編集部

30 6 EVブームは終わり? 政策限界で消費者の需要減へ ■野呂 義久

31  日中でEV充電規格の統一へ 電力インフラと合わせて輸出も ■高田 真吾

32 7 家計の借金は破裂寸前? 住宅ローン抱えて消費低下 ■湯浅 健司

34 山東省ルポ 無人マンション、不動産バブル ■高口 康太

35       深センに「メイカー」の街 マンション開発の奇抜コンセプト

36 8 一帯一路の裏の狙いは? ASEANのインフラが奪われる ■酒向 浩二

高まる北京の支配力

38 9 香港の民主化とん挫? 高速鉄道開業で進む“統合” ■倉田 徹

39 10 台湾経済は大丈夫? むしり取られる技術者 ■井上 雄介

 

エコノミスト・リポート

 

76 世界的企業が続々 エストニア発ベンチャー 高い科学の素養と育成土壌が礎 ■大西 勝

40 都市 世界はスマートシティー・ブーム■小尾 敏夫/岩崎 尚子

42 不妊 「不妊治療と仕事」悩む女性 ■松本 亜樹子

103 コンビニ銀行 ローソン銀行の勝算 ■河野 圭祐

 

Flash!

 

15 政府にはしご外された黒田・日銀/アップル・ウオッチは健康・医療用機器へ

17 ひと&こと 前スルガ銀会長も候補 慶応大の「評議員選挙」/「10年間で歳出1兆円削減」の大阪都構想に相次ぐ疑問/ファナックが他社ソフト 自前主義の“方針転換”

 

Interview

 

4 2018年の経営者 栗山年弘 アルプス電気社長

96 挑戦者 2018 上ノ山慎哉 スタークス社長

48 問答有用 西原さつき タレント・メーク塾代表 「この体で生まれた意味を見いだしていきたい」

信託銀行の使い方

80 さまざまな資産の「置き場」 中立・安全・信頼のサービス ■野崎 浩成

82 長期資金提供の役割を終え大手は5グループに再編

83 知らないと損 生前贈与・遺産分割・相続に使い勝手のいい「信託商品」 ■向山 勇

大論争 米国「長短金利逆転」

72 過去3回は景気後退だが要因異なり、類似パターンなし ■小玉 祐一

74 景気後退のサイン 利上げ終了局面へ変化 ■唐鎌 大輔

75 景気後退ではない 投資利ざやは1%を維持 ■剣崎 仁

緊急 私はこう見る サウジアラムコ IPO断念

86 資金源なく改革主導の皇太子に暗雲 ■畑中 美樹

88 サウジはサウド王家の「家」 ■福富 満久

89 アラムコとサウジは運命共同体

46 コレキヨ 小説 高橋是清 (12) ■板谷 敏彦

 

World Watch

 

62 ワシントンDC 学校で強まる銃撃対策 「まるで刑務所」の声も ■中園 明彦

63 中国視窓 自動車の設備投資規制へ 日系企業から批判の声 ■真家 陽一

64 N.Y./カリフォルニア/スウェーデン

65 韓国/インド/マレーシア

66 台湾/アルゼンチン/イラン

67 論壇・論調 米国で「ギグエコノミー」急拡大 本業の低賃金が休みない労働へ ■岩田 太郎

 

Viewpoint

 

3 闘論席 ■小林 よしのり

19 グローバルマネー 緩和縮小に踏み出す日銀に二つの追い風

44 海外企業を買う (207) 小米集団 ■富岡 浩司

52 学者が斬る 視点争点 アマゾン成長支える仲介ビジネス ■渡辺 誠

54 言言語語

68 東奔政走 総裁3選後も変わらないのか 「味方」を優先する首相の政治姿勢 ■平田 崇浩

70 本誌版「社会保障制度審」 (15) 超少子化の背景に四つの複合要因 根強い男女役割分業的な価値観 ■阿藤 誠

79 商社の深層 (123) 商用EVの電池素材「本命」狙う 東芝と双日の負極材はブラジル産 ■編集部

85 ズバリ!地域金融 (4) 三重県を国内有数のごま産地にした三十三FG「地域おこしの玉手箱」 ■浪川 攻

98 独眼経眼 企業は本当に利益を還元していないのか ■星野 卓也

104 アートな時間 映画 [クレイジー・リッチ!]

105        美術 [開館20周年記念 原安三郎コレクション 小原古邨展 花と鳥のエデン]

106 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Caregiving ” ■安井 明彦

 

Market

 

90 向こう2週間の材料/今週のポイント

91 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■櫻井 雄二/週間マーケット

92 中国株/ドル・円/銅/長期金利

93 マーケット指標

94 経済データ

 

書評

 

56 『良き社会のための経済学』

  『名古屋円頓寺商店街の奇跡』

58 話題の本/週間ランキング

59 読書日記 ■高部知子

60 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

55 次号予告/編集後記

 

アルパインと経営統合でソフト強化 栗山年弘=アルプス電気社長

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Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

 

── アルプス電気はどのような製品を作り、どんな機器に搭載されていますか。

 

栗山 もともとは電子部品、スイッチなどを製造していました。1970年代から80年代にかけてテレビやビデオなど日本の家電が広がり、部品メーカーとして成長しました。その後はパソコンやデジタル家電、自動車、スマートフォン(スマホ)のスイッチや人が操作するところに当社の製品が多く使われています。

 

── 2017年度は営業利益が前年度比62%増でした。好業績の原因と今後の見通しは。

 

栗山 スマホの市場が拡大し、併せて高性能化、高付加価値化したことで当社の部品が活躍する機会が増えました。エレクトロニクス技術を使った自動車が増え、関連のビジネスも増えています。この二つの要因で業績が伸びました。スマホの需要は頭打ちでしょうが、中の部品や性能は進化するので、当社の市場はまだ伸びる余地があると思っています。

 

スマホのピント合わせに強み


── スマホ用部品の強みとは。

 

栗山 世界の大手スマホメーカーは月間1000万~2000万台の製品を作り、半年から1年ごとに新モデルを出します。部品メーカーは、このスピードに合わせて製品を進化させる必要があります。また、当社は生産量を需要に応じて一気に引き上げる能力があります。人海戦術ではできません。生産力と技術力が顧客に認められてきました。

 

── スマホカメラのレンズのピント合わせや手ぶれ補正に使われる部品が好調です。

 

栗山 スマホのディスプレーの高画素化が一段落し、カメラの進化が消費者に訴求しました。高画質化、レンズを二つにした「デュアル化」、手ぶれ防止など性能向上が続いたことが、当社の製品がよく売れている背景です。そこに使う部品を「アクチュエーター」と呼んでいます。製造には高度な技術が必要です。

 

── 来年1月に、カーナビなどを手掛けるアルパインと経営統合します。同社はアルプス電気の子会社ですが、あえて経営統合する狙いを教えてください。

 

栗山 アルパインの株式を約41%保有していますが、東証1部上場の同社は、我々以外の株主の利益も考える必要があります。以前から連携、協力してきましたが、お互いに協業するにはその都度、契約を結ぶ必要があります。そのことで経営のスピードが低下します。ともに車載関連の製品を扱っているので、独占禁止法上の制約もあり、別々の営業体制を持つ必要があるなど、非効率でした。技術革新の競争に勝ち残るために統合することにしました。

 

── アルパインに出資している香港の投資ファンドが、統合での株式の交換比率(アルパイン株1株にアルプス株0・68株を割り当て)について、価値を低く評価していると異議を唱えています。交換比率の見直しは考えていませんか。

 

栗山 アルパイン株主とアルプス電気株主との利益相反の問題を回避するため、中立的な外部機関によって企業価値を算定して、交換比率を決めました。比率の見直しは考えていません。

 

自動車の構造変化に危機感


 近年自動車産業では、通信でつながる「C=コネクテッド」、自動運転の「A=オートノマス」、所有せず共有する「S=シェアリング」、電動化の「E=エレクトリック」の各頭文字を組み合わせた、「CASE(ケース)」と呼ばれる変化の波が起きてる。

 

── 車載の電子部品、カーナビなどの市場をどうみていますか。

 

栗山 今話題のCASEに向けて、二つの変化が起きようとしています。一つはクルマにエレクトロニクスが従来にも増して使われること。もう一つはソフトウエアの比重が高まることです。アナログ家電がデジタル家電に移行したような変化です。エレクトロニクスがクルマに多く搭載されることはチャンスですが、米国のIT企業がこの分野に進出し、ソフトの比率が高まることは確実です。日本企業が得意とするものづくりの力、ハードウエアの擦り合わせの技術だけだと勝てないという危機感があります。

 

── アルパインがソフトに強いとは、どのあたりを指しているのですか。

 

栗山 アルパインは、かつてのカーオーディオの世界から、車載向け情報機器へと軸足を移し、エンジニアは8~9割はソフト系です。ただ、基幹部品は持っていないので、単なるシステム、ソフトの技術だけでは米国企業には勝てません。アルプス電気は部品メーカーで、生産技術を含めてものづくりの会社だからソフトは弱く、8割はハードのエンジニアです。両社が統合することで、弱点を補完する狙いがあります。

 

── 統合後の中長期的目標で、売上高を1兆円(18年度予想8790億円)に引き上げ、新規事業創出に1500億円と掲げていますが、達成時期は。

 

栗山 売上高1兆円は6年後の24年度ごろです。新規事業の1500億円はCASE関連の新商品を想定しています。

 

── 米国による中国製品への追加関税の影響は出ていますか。

 

栗山 影響はあります。金額は公表していません。大きくはないですが、小さくもありません。

(構成・浜田健太郎=編集部)

 

横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A ずっとエンジニアでした。バブル崩壊でリストラがあって、辞める上司が結構いました。30代前半で部長になり、ハードディスクドライブの磁気ヘッドを開発。リーマン・ショック前までは花形商品でした。

 

Q 「私を変えた」本は

 

A 本はたくさん読みますが、一つに特定できません。海外ミステリーはよく読みます。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 街歩きです。地方の工場勤務が長かったため、東京にはいろいろ発見があります。

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 ■人物略歴

くりやま・としひろ
 1957年生まれ。京都大学理学部卒業、80年アルプス電気入社。2004年取締役、11年常務を経て12年6月から現職。栃木県出身。61歳。

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事業内容:電子部品の開発、製造、販売

本社所在地:東京都大田区

設立:1948年11月

資本金:387億円

従業員数:4万2289人(2018年3月末、連結)

業績(18年3月期、連結)

売上高:8583億1700万円

営業利益:719億700万円

特集:中国の闇 2018年10月2日号

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疑問1 2019年ショックって本当? 

米中衝突と構造問題がもたらす

 

 9月17日、トランプ米政権は中国の知的財産権侵害に対する制裁関税の第3弾として、同24日に年間輸入額2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品を対象に追加関税措置を実施する方針を表明した。当初は税率10%で発動し、来年1月1日から25%に引き上げる。中国がさらに報復措置を講じる場合、新たに2670億ドル(約29兆円)相当の追加関税措置を実施する。中国も600億ドル(約6・6兆円)分の報復関税を9月24日に発動することを明らかにした。

 

 こうした中、人民元安が進んでいる。9月17日時点の人民元対ドルレートは、米中通商問題が発生した3月22日比で8・2%安の1ドル=6・857元と、短期間で大幅に下落している(図2)。8月15日には同6・9元台をつけて7元を突破する勢いが見られたが、金融当局が明確な市場介入のシグナルを発出。同6・8元台前半に押し戻されていたものの、トランプ政権の第3弾の制裁発動により元安圧力は高まるだろう。

元安、株安、経常赤字


 一方、中国株価も下落しており、上海総合指数は同期間にマイナス18・7%の2651・79まで低下。15年8月の人民元切り下げ、同12月の米国の利上げなどを機に発生した「チャイナショック」時の16年1月に記録した安値水準(2655・66)を下回った。

 

 人民元安の加速と中国株の下落が、世界の経済・金融市場に影響を及ぼしている。深刻な構造問題を抱える中国は改革途上の中、18年4月以降、固定資産投資と、実質の消費財小売総額は減速基調だ。さらに8月の輸出の増加率(前年同月比)は5カ月ぶりに10%を割り込み、米中衝突の影響が顕在化した。中国を取り巻く環境は、前回のチャイナショック当時よりも厳しい状況だ。

 

 好調な米国経済で利上げが進んでいるため、マネーは中国から米国に流れる環境に変化している。中米両国のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)や金融政策の格差を反映した中米金利差(2年物国債利回り)は15年8月の2ポイント前後から、米国の利上げで米金利が上昇したことで18年9月現在では0・2~0・4ポイント程度へと大幅に縮小した。

 

 また、18年1~6月期の中国の経常収支はマイナス283億ドルと、01年12月の世界貿易機関(WTO)加盟以降、初の赤字に転じた。金融当局の規制・市場介入はあくまでも対症療法でしかなく、米中通商問題は長期戦の様相であり、人民元と中国株の下押し圧力は払拭(ふっしょく)し難いと言えよう。

「中国つぶし」に本気の米国


 米中衝突の激化は、習近平政権のトランプ米政権に対する強い対抗心の現れである。中国紙に紹介された復旦大学の沈丁立教授の寄稿文を見ると、その背景が理解できる。

 

 沈教授は米国が世界覇者の地位を維持する過程において、「60%の法則」が存在することを指摘する。その法則は、国内総生産(GDP)が米国の60%に至った世界第2の国家が「米国の強力な攻撃を受ける」ことを意味するという。

 

 1980年代(レーガン米政権当時)に、旧ソ連が米国の戦略的な軍事力競争のあおりを受けて、軍事費増額などによる国家財政破綻、経済疲弊の局面に追い込まれた。また、80年代後半以降、日本が経済規模で世界第2の国家に台頭した時は、米国のドル高是正による急激な円高や通商面での対日制裁を受け、バブル形成から崩壊、景気の長期低迷のきっかけとなった。

 

 中国は78年12月の改革開放路線の発表後、約40年を経過して経済規模で米国の60%を超え、20年には70%を上回る見通しだ。また、国家を挙げてニューエコノミーの発展を支援し、新技術開発の水準では米国に迫る段階に至り、経済規模では30年代には米国を追い抜く情勢にある。

 

 外交・安全保障面でも米国に対抗する戦略として、広域経済圏構想「一帯一路」を積極的に展開。このような中国の動きを看過できない米国は、安全保障問題の脅威を理由に対中制裁を本格化させている。

 中国の国家発展改革委員会のトップである何立峰主任は8月下旬、「経済の長期的な構造上の問題と外部環境のリスクにより安定的な経済発展の困難さが増している」と指摘した。

 

 中国の経済指標を見ると、米中衝突の影響が顕在化している。経済メディアの「財新」が公表した8月の中国の製造業PMI(購買担当者指数)は前月比マイナス0・2ポイントの50・6となり、14カ月ぶりの低い水準となった。財新は「米中貿易摩擦の激化で新規輸出受注が5カ月連続で50を割り、需要サイドが大幅収縮しており、生産の安定状態の継続は難しい。今後、就業(雇用)が悪化し、消費への悪影響が懸念される」と厳しい評価をした。

 

 世界貿易量は17年7~9月期(前年同期比5・1%増)をピークに伸び率が減少しており、18年は17年の好調な動きからの反動や米中衝突の激化を受けて4~6月期は同3・7%増へと鈍化。今後は減速の動きが強まり、輸出依存度が高い中国経済に悪影響を及ぼす可能性が高い。

 

 経済の長期的な構造問題では、複雑で巨額の債務が大きな課題だ。名目GDPに対する債務比率は、08年3月末の145%から17年12月末には256%まで上昇。その起因として、08年9月のリーマン・ショックに対応した4兆元(当時の為替レートで約57兆円)の大型景気対策と行き過ぎた金融緩和策が挙げられる。

 中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁(当時)は17年11月、債務問題について、高い確率で存在するが大きな問題を引き起こすにもかかわらず軽視されている「灰色のサイ」と指摘し、「そのリスクを防止しなければならない」と警鐘を鳴らした。

 

 このため、18年に入り、中国政府は地方政府の隠れ債務問題や、高利回りの理財商品などにより調達した巨額の銀行簿外資金が、問題の多い資産管理業務で運用されていることへの対策を本格的に始動した。だが、当初の政策方針に反して金融・財政政策が同時に引き締まり、4月以降、景気減速の動きが強まった。

 景気減速の原因は金融政策なのか、財政政策なのかについて、人民銀行と財政省との間で責任のなすり合いという異例の出来事が報道されるほどで、抜本的な改革の難しさを示している。中国経済は引き続き不動産バブルの温存の下、債務拡大による経済発展を目指す以外にない。

 

巨額債務で対策に制限


 米中貿易戦争が19年に向けて本格化すれば、中国経済が危機的な状況に陥ることも否定し難い。

 

 18年3月の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)における憲法改正により、習一強の長期政権が始動したが、トランプ米政権から思わぬ通商問題を持ちかけられ、難しい岐路に立たされた。習主席は6月に米国の対中制裁に対して「殴り返すのが我々の文化だ」と発言。米朝協議への介入や北朝鮮への経済支援のために3回の中朝首脳会談を開催するなど、トランプ米政権への強い対抗心を示す。

 

 中国の需要項目別実質GDP成長率の動きから、19年の景気失速・金融危機シナリオがイメージされる(図4)。リーマン・ショック翌年の09年には米中貿易が大幅に減少したため、純輸出の成長寄与度は前年比マイナス4%強と大きな下押し要因となった。当時の中国は大型景気対策を打ち出す余地があり、内需拡大策が成長を押し上げ、経済的な危機を乗り越えた。

 

 しかし、今回は巨額な債務を抱え、対策規模が制約されるため、内需拡大の成長押し上げ効果は限定的だ。この場合、デフォルト(債務不履行)の多発と失業者の大幅増、資本流出増、不動産バブルの崩壊や巨額債務の不良債権化による金融システム危機発生の悪循環が懸念される。

 

 たとえ大規模な景気対策が実施されても景気浮揚は一時的で危機の先送りとなり、負の遺産が大きく蓄積されよう。習政権は危機を招く前に賢明な外交路線へ変更する必要があるが、政治的に簡単ではない。政策運営の困難さは増すばかりだ。

 

(吉川健治・みずほ証券投資情報部シニアエコノミスト)

週刊エコノミスト 2018年10月2日号

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発売日:9月25日


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 9月17日、トランプ米政権は中国の知的財産権侵害に対する制裁関税の第3弾として、同24日に年間輸入額2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品を対象に追加関税措置を実施する方針を表明した。当初は税率10%で発動し、来年1月1日から25%に引き上げる。中国がさらに報復措置を講じる場合、新たに2670億ドル(約29兆円)相当の追加関税措置を実施する。中国も600億ドル(約6・6兆円)分の報復関税を9月24日に発動することを明らかにした。

 

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