日銀が導入を決めたマイナス金利は有効に機能するのか──。金融経済政策に詳しい専門家に聞いた。
◇物価目標達成に近づいた 片岡剛士(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員)
マイナス金利により、これまでの緩和政策がさらに強化された。マイナス0.1%の適用は現状ではなく、将来だ。即座に下げずマイナスを意識させた点がうまい。
よく指摘されるのは、日銀の当座預金に預けづらくなるため、金融機関が資金供給を増やす効果だが、この認識は間違っている。
マイナス金利の効果は、まず利回り曲線の根元を下げることだ。実質金利も短期のものから下がり、需要を喚起できる。従来の金融緩和と根本的な狙いは同じだ。利ざやの減少による金融機関への悪影響よりも恩恵が大きく、2%の物価目標の達成に近づいた。
ただ、利回り曲線の実際の下げ幅は未知数だ。目標達成に向け、早ければ3月にも追加緩和をするだろう。
問題は、情報統制を徹底すること。1月29日には、金融政策決定会合の最中に「マイナス金利を検討」という記事が先に流れ、市場は乱高下した。情報の管理・公開を改善し、一般人にわかりやすく伝えるべきだ。
◇金融政策の有効性復活 菅野雅明(JPモルガン証券チーフエコノミスト)
量的・質的金融緩和(QQE)は円安効果を通じて、日本企業の収益改善をもたらした。一方、日銀のバランスシート(貸借対照表)が拡大、インフレ目標達成後の出口を困難にした。
マイナス金利の効果として、自然利子率(一国全体の貯蓄と投資をバランスさせる実質金利)がマイナスになった場合でも、これを下回る政策金利が実現できる。今回のマイナス金利では効果は限定的だが、今まで手詰まり感があった金融政策の突破口をつくった。
今回の政策は「通貨戦争」ではない。各国が金融緩和すれば、世界景気の押し上げ効果が期待できるからだ。
しかし、2%の物価目標達成は当分難しい。日銀は15年10月に追加緩和を見送り、12月に補完的措置を行ったが、市場は日銀の対応の遅さに失望した。
今回のマイナス金利政策は失いかけた日銀の信認を取り戻すために行った面もある。日銀が出口に向かう際、金利急騰を避けるためには、日銀は市場との対話を重視する必要がある。
今年11月1日の金融政策決定会合では、金利のさらなる引き下げ(マイナス0.5%)と量的緩和拡大を予想する。
◇年央にもさらなる緩和 河野龍太郎 (BNPパリバ証券チーフエコノミスト)
マイナス金利導入は、量的ターゲットから金利ターゲットへの事実上の移行だ。量の拡大が限界に近づいていた。
国際金融市場の動揺を受けて、企業経営者の成長期待が下がり、設備投資や賃金が抑制されることを懸念して導入したのだろう。
株安・円高回避の対症療法にはなるが、日銀がいくら緩和しても、その大元にある新興国や資源国の過剰ストック・過剰債務問題は当然にして完治しない。中国経済に対する懸念や人民元切り下げ観測が、再燃し国際金融市場が混乱すれば、日銀は再び緩和に追い込まれる。
年内、早ければ年央にもさらなる付利引き下げの可能性がある。人民元問題の裏側には、米利上げがもたらすドル高に連動した動きだけなく、日銀と欧州中央銀行(ECB)の金融緩和による円安・ユーロ安もある。日銀がマイナス金利を導入、ECBも追加緩和をすると、人民元が対円、対ユーロで上昇し、人民元の切り下げ観測を強める。
超低金利下での金融緩和の効果は、主に通貨安を通じたものとなるが、通貨安の効果は世界全体ではプラス・マイナスゼロである。結局、通貨戦争を助長する。
◇普通の政策をやるだけ 高橋洋一(嘉悦大学教授)
普通の政策を遅ればせながらやるというだけのこと。これで貸し出しや株式投資に回る金は増えていくだろう。金融機関はお小遣いを取り上げられ、運用を考えないといけなくなるので痛いだろうが、そもそもこれまでがぬるま湯につかりすぎていた。
当座預金に漫然とぶた積み(超過準備)していただけで、金融機関は貸し出し需要の創出をまったくしてこなかった。その責任の大きさを感じるべきだ。………
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定価:620円(税込み)
発売日:2016年2月8日
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