◇進む租税回避地の規制強化
◇オバマ氏は制度改正に意欲
会川 晴之
(毎日新聞北米総局長)
世界の政治家や富豪が租税回避地(タックスヘイブン)を利用して「節税」などに努める実態を暴露した通称「パナマ文書」を機に、対策強化を求める声が高まっている。4月中旬にワシントンで開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議も主要議題として取り上げ、新たな規制導入を決めた。
会議では、欧州諸国が「ブラックリストを作成して制裁を科す必要がある」と主張。これに対し新興国が慎重な姿勢を見せた。だが財政赤字を抱え、税収を確保したい先進諸国の事情が勝り、新たな国際的な規制強化策が共同声明に盛り込まれた。
新たな対策の柱はペーパーカンパニーの監視強化だ。国際的な制度の未整備もあり、従来は実質的な所有者の把握が難しく、課税逃れの温床になっていた。今後は、こうした作業を容易にする取り組みを始める。さらに、この対策に非協力的な国・地域が出ることを見越し、各国が国内法を整備し、規則を守らないタックスヘイブンと取引する企業や個人を取り締まることになった。
◇年11兆円の歳入減
タックスヘイブン規制を巡る取り組みは古くからある。国際的な麻薬取引に伴う違法資金の規制に始まり、2001年の米同時多発テロ後はテロ資金対策の性格が加わった。08年のリーマン・ショック後は、財政出動の増加と税収の大幅な減少への対策として意味が増した。また、規制の甘いタックスヘイブンを利用して開発された仕組み債などの金融商品が、かつてないほどの金融危機を招いた反省を生かそうと、国際的な取り組みも強化された。
特に熱心に取り組んだのが米国だ。08年に米上院が公表した調査報告書によると、年間1000億㌦(約11兆円)もの歳入が、タックスヘイブンを利用した税逃れで失われた。タックスヘイブンにある資産も数兆㌦(数百兆円)と見込まれるなど、深刻な状態だ。事態を改善しようと、米国は10年に「外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)」を制定。5万㌦(約550万円)以上の海外金融資産を保有する米国の納税者に対し、情報開示を義務づけた。米国に仕事などで駐在する日本人も「米国納税者」のため対象で、日本の預貯金情報などを米国の税務当局に報告する義務が生じている。
一方、「1円でも利益をあげたい」企業にとって、タックスヘイブンの活用は魅力的、というより必要不可欠だ。米財務省が4月4日に発表した新たな規制強化策の導入で破談に終わったものの、医薬品大手の米ファイザーが同大手のアラガンを買収した試みがその典型例と言える。米国の実効法人税率は約40%と世界でも突出して高い。このためファイザーは、法人税率が12・5%と特段に低いアイルランドに本社を置くアラガンを買収して、「非合法とは言えない」(国際金融筋)節税を図ろうとした。タックスヘイブンを使った税逃れを狙ったのだ。
事態を重視するオバマ米大統領は、新規制導入を受けて4月5日に会見。「世界的な課税逃れが非常に大きな問題であることは疑いない」と述べ、「抜け穴」をふさぐ制度改正に意欲を表明した。課税逃れによって税収が減り、インフラなどへの投資ができなくなっている実態もあり、制度改正を議会に呼びかけている。
ただ、こうした国際的な規制強化でも、「抜け穴」を完全にふさぐことは難しそうだ。ルー米財務長官が「創造的な会計事務所や法律家が対策を生み出すだろう」と述べるように、新たな「節税」ビジネスが誕生するのは確実だからだ。今後も、税務当局と税逃れを図る人々との間で激しい駆け引きが続きそうだ。
(了)