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第34回 福島後の未来をつくる:磯部達 みやまスマートエネルギー代表取締役 2016年5月17日号

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 ◇いそべ・たつし

 1959年大津市生まれ、1981年同志社大学卒業後、松下電工(現パナソニック)に入社。サイアム松下(タイ)取締役、住建事業戦略部長、システム設備事業統括部長などを経て、2015年3月、みやまスマートエネルギー代表取締役に就任。

 ◇地域エネ構築し地方創生

 ◇自営送電線も構築する

 

 みやまスマートエネルギーは福岡県南部に位置する人口4万人のみやま市が、電気工事業等を手掛ける九州スマートコミュニティ、筑邦銀行と共同出資し、2015年2月に設立した電力会社である。社員は6人、資本金は2000万円で、市が55%、九州スマートコミュニティが40%、筑邦銀行が5%出資している。

 広大な筑後平野の東に位置するみやま市は、日照に恵まれた地域特性を環境政策に生かそうと、太陽光発電設備の普及に積極的に取り組んできた。市は家庭向けには太陽光導入補助事業を実施。現在、市内約1万4000世帯の9%に当たる1200世帯が太陽光パネルを設置している。また、市は民間事業者などと共同で市有地に5000キロワットの太陽光発電設備を設置し、売電事業も行っている。


 当社はこれらの太陽光を活用した電力小売り事業に取り組んでいる。まず100世帯の太陽光(300キロワット)の余剰電力と、5000キロワットのメガソーラーから電力を調達し、15年11月には公共施設向けの電力小売りを開始した。現在は約60カ所に供給している。

 4月からは自由化された家庭向けの小売りにも参入した。昨年ごろから自治体が出資する電力会社が全国各地に続々と設立され、各社が電力小売り事業を開始しているが、家庭向けの小売りを開始したのは全国で初のケースとなる。

 ◇毎年約20億円が市外へ

 

 当初は1000世帯程度から供給を始め、3年後には市の1万4000世帯の7割に当たる1万世帯に供給する目標を掲げている。供給エリアは市内に限らず、九州全域としている。再生可能エネルギーを活用した電力小売りに関心を持つ市外の方々から電力を購入したいという問い合わせももらっている。

 自治体が出資する企業が電力事業に取り組む背景には、地域資源を活用した自立・分散型のエネルギー供給システムの構築を通じて地域の活性化に貢献する狙いがある。

 みやま市は他の多くの自治体と同様、人口減少や少子高齢化、産業振興といった課題を抱える。解決に向けて注目した分野が、小売市場の全面自由化が決まった電力だった。

 みやま市の家庭は毎年約20億円の電気代を電力会社に支払っているが、その多くは市外に流出するので地域経済への貢献は小さい。そこで、自由化を機に太陽光で発電した電気を地域で消費する地産地消型の仕組みを構築し、地域内でキャッシュフローを循環させることができれば、経済の活性化につなげられると考えたのだ。分散型のエネルギー供給システムの構築は災害に強い街づくりにも貢献できる。

 実現に向けては、さまざまな準備を進めてきた。

 まず、一つが電力利用データの活用である。14年度、みやま市は民間事業者と共同で経済産業省の「大規模HEMS情報基盤整備事業」に参加した。各家庭のエネルギー使用状況を把握するHEMS(家庭用エネルギー管理システム)を全国の1万4000世帯に設置して電力利用データを収集し、さまざまなサービス開発等に役立てる仕組みを構築するプロジェクトで、みやま市は市内約2000世帯にHEMSを設置し、電力使用データの分析を実施した。

 この実証事業の成果の一つが家庭向けの電気料金プランである。HEMSを設置した家庭が、日々の生活の中で電気をどのように利用しているかを詳細に分析。それを基に市民の生活パターンに合った料金プランを三つ開発した。

 電力使用データはこのほか、電力の使い方で高齢者を見守る「見守りサービス」などの生活関連サービスの開発にもつなげている。

 もう一つ、開発を進めてきたのが需給調整システムである。

 周知の通り、電力を小売りする会社は、電力需要に合わせて供給量の調整を求められる。バランスを取れないとインバランス料金と呼ばれるペナルティー料金を支払う必要があるため、経営上のリスクになる。再生可能エネルギーは天候などによって出力が変動するため、需給調整が容易ではない。

 こうした課題を克服するため、九州大学と協力し、需給調整に必要なデータ解析にも取り組んでいる。再エネ電力の出力変動がどう変化するかを事前に予測し、不足する時は卸電力市場や電源を持つ他の電力会社などからの電力調達で補い、バランスを取りながら供給できる環境を整備した。

 今後は二つの方向で事業を展開させる。一つが、エネルギーの地産地消を推進していくことである。

 具体的には自営線を使った電力供給にも着手する。電力会社の持つ電線ではなく、自らが送電線を所有するのだ。自社で保有するには投資も必要となるが、送配電事業者に電線使用料を支払う必要がなくなり、事業の自由度を高めることができる。自営線を通じ、世帯間で再生可能エネルギーを融通し合う仕組みや、災害時でも電力を安定供給できる仕組みを構築したい。来年度から具体化に向けた取り組みを開始する予定だ。

 二つめがエネルギー供給を地域の活性化に役立てたい自治体との連携である。全国には約1700の自治体があるが、そのうち1400は人口10万人に満たない自治体だ。その多くはみやま市と同様、人口減少や少子高齢化という課題に直面している。そうした自治体に対して当社のノウハウを提供。電力の地産地消や、電力利用データを活用した生活関連サービスの提供を通じ、地域内で資金が循環する仕組みを構築することを支援していく。

 いま三つの自治体との連携を進めている。鹿児島県肝付町とは3月に小売り電気事業に関する連携協定を結んだ。肝付町は電力会社を立ち上げる検討を進めている。実現に向け、当社が持つノウハウを提供するほか、肝付町にある小水力発電所と、みやま市の太陽光発電設備のエネルギー融通にも取り組む。

 鹿児島県いちき串木野市とも提携した。同市は民間事業者が設立した電力会社に出資する方向で検討を進めている。電力事業の立ち上げを支援する。

 東京都環境公社が実施するモデル事業にも協力する。東京都は電力消費量に占める再エネ電力の割合を大幅に増やすため、再エネから電力を調達する電力会社を支援する方針を掲げる。当社は、公社に対して需給調整に関するノウハウを提供。公社はそれらを、再エネ電力を活用したい事業者に提供し、再エネ電力の普及につなげる。

 

 ◇安さより地域貢献

 

 自治体が参加するエネルギー事業者は日本ではまだ数えるほどしかない。しかし、欧州では自治体が出資する企業がたくさんあり、中には高いシェアを誇る企業もある。

 シェアが高い事業者の中にはエネルギー供給で得た利益で、採算性が低いものの、地域には欠かせないバス事業などに取り組んでいる企業もある。つまり、地域貢献に寄与するエネルギー会社を消費者が選択しているのである。

 電力の自由化が始まったばかりの現在、電力会社を選択する上では「価格の安さ」が注目されている。しかし今後、市場に多くの事業者が参入し、選択肢も増えていく中では、地域貢献という指標で電力会社を選ぶような環境も徐々に醸成されていくのではないだろうか。(了)


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