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【経済は物理でわかる】為替市場はブラウン運動で動く 2016年5月31日号

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◇慣性力が暴騰や暴落を招く

 

高安秀樹

(ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー)

 

「売りたい人と買いたい人が合意した価格で売買する」。この基本的な経済活動を最も純粋な形で詳細に観察できるのが、通貨を売買する外国為替市場である。国をまたぐお金の流れの中核をなすこの市場の参加者は世界の大手金融機関であり、ドル・円市場では100万ドル(約1億1000万円)を最小の取引単位の1本として、例えば「1ドル=110円のレートで3本の買い」という形で専用回線でつながる電子市場に注文を入れる。

 その時、市場にちょうどこれと同じ価格(あるいはそれより有利な安い価格)で売り注文が入っていればその瞬間に取引が成立し、もしも条件が合う注文が入っていなければ、その注文は、売買注文を価格ごとに集約した「板」と呼ばれる情報の上に積み上げられる。この世界最大の金融市場における売り注文と買い注文をコンピューターで記録したビッグデータを分析することで、需要と供給によって価格が決まるプロセスをミクロな視点から解明できる。
 ある瞬間における売買注文を価格ごとに積み上げた「板」の形状は、図のように表すことができる。横軸は価格(為替レート)であり、中央の円は市場価格の範囲を示している。この円の左側にある小さな丸が買い注文、右側の小さな丸が売り注文を表す。買い注文はできるだけ安く購入したいので左側に集まり、売り注文はその逆で右側に集まる。
 両者の注文がぶつかるのは、最も高い買値、あるいは最も安い売値のどちらかであり、売りと買いの注文が同じ価格で衝突したら、それらの注文は取引が成立して板から消え、取引価格が市場にアナウンスされる。板に積まれた注文の9割程度は取引に至る前にキャンセルされるので、板の形状は、新たに積まれる注文、取引やキャンセルによって消える注文が入り交じり、短い時間の間にかなり変化し、左右に移動する。
 板データを解析した結果、売買注文が2層構造を持つことが明らかになった。従来、買い注文は需要、売り注文は供給という考え方から、買い注文の総量から売り注文の総量を引いた量が価格の変化と連動すると信じられていたが、市場価格に近い内層と市場価格から遠い外層では反対の特性を持つことが判明した。……

(『週刊エコノミスト』2016年5月31日号<5月23日発売>24~25ページより転載)

この記事の掲載号

定価:620円(税込)

発売日:2016年5月23日



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