◇「為替の安定」果たせるか
土信田 雅之
(楽天証券経済研究所シニアマーケットアナリスト)
中国人民元が再び安くなっている。2016年6月1日に中国人民銀行(中央銀行)が公表した中国人民元の対米ドル基準値は1㌦=6・5889元だった。約5年ぶりの人民元安水準だ。
対円でも人民元安は進み、昨夏の1元=20円台から今年6月1日には同16・64円まで下落している。対ドルほどではないにせよ、14年5月以来、2年ぶりの水準にある。
ただし、今回の人民元安傾向は今のところ、世界経済にショックを与えた昨夏や今年初のような不安の引き金を引いてはいない。人民元安の震源地が中国自身ではなく、米国にあるという見方が多いためだ。
米利上げ観測の高まりによって、米ドルは幅広い通貨に対して買われたが、他通貨の対米ドル下落率と比べても大きな違いはなく、人民元だけが売られている印象はない。
また、足元の中国経済指標は過度な悲観を後退させるものが増えている。国際通貨基金(IMF)も4月に16年の中国の実質経済成長率の見通しを上方修正した。
経済指標データの信憑性の問題もあり、正確なところは分からない。しかし、少なくとも小康状態になっていると判断してよさそうだ。とはいえ、「何によって中国経済が落ち着きを取り戻しているのか」については押さえておく必要がある。
1~4月は不動産開発投資や公共投資の伸びが顕著な一方、民間投資や工業生産、輸出が減速。とりわけ、不動産投資の活発化により、主要都市の平均不動産価格は前年比11~50%上昇。今年に入り急回復している。
背景にあるのは不動産取引規制の緩和だ。住宅ローンの頭金比率の引き下げや不動産取引関連の減税などを昨夏の「チャイナ・ショック」以降に打ち出してきた。もともと、中国当局は不動産バブルの過熱や崩壊を警戒・抑制してきたが、景気浮揚のために方針転換したと言える。