◇シェア高める金融機関のリスク増大
梅原直樹
(国際通貨研究所上席研究員)
銀行理財商品は投資信託のように、銀行がさまざまな資産に投資・運用する中国の資産運用商品である。2000年代に金融自由化の一環として銀行が発行し、個人向けに窓口販売を始めた。
理財商品の運用先は当初、国債などの安定した金融商品が中心だった。定期預金よりも利回りが高く、元本割れリスクの低い金融商品として個人投資家の間で普 及した。その後、社債のほか証券化商品にも投資するようになった。その中には貸付信託など、銀行が信託を使い、企業に簿外で貸した債権を元に発行したもの も含まれる。
◇「元本割れリスクない」と個人に拡大
証券化商品で運用する理財商品は、銀行の簿外融資の増加とともに拡大を続けた。この背 景には中国で、08年に政府が4兆元(約60兆円)の景気刺激策を実施した後、貸し出しの総量を抑えるなど、銀行融資の規制が強化されたことがある。リス クの高い証券化商品で運用する理財商品が増えても、個人投資家から見れば「銀行窓口で販売される金融商品には基本的に元本割れリスクはない」という社会通
念があり、販売は拡大し続けた。
急増する中国の銀行理財商品は、13年ごろからシャドーバンキング(影の銀行)リスクとして海外から注目されるようになった。地方政府が設立した特別会社「融資平台」にも銀行理財商品から資金が供給され、水面下で地方政府の資金調達に利用されていたためだ。
当局は、理財商品を業界の主体的な取り組みとして評価しつつ、リスク管理の必要性も認識していた。銀行業監督管理委員会(銀監会)は13年3月、理財商品に組み入れる資産の内訳に制約を設けた。
具体的には理財商品の運用先について、銀行間市場や証券取引所で取引される債券などの「標準化債権」と、それ以外の貸付信託などの「非標準化債権」の2種 類に分類した。当局は、非標準化資産について、理財商品の35%以内にしたうえで、前年度の銀行総資産の4%以下に抑えることを求めた。その後も理財業務
を取り扱う行内組織を独立化させるなど新たな管理規制を導入し、理財商品を取り巻く環境整備は急速に進んだ。
ただ規制導入後も、理財商品の販売自体は制限されていない。昨今は株式市場が乱高下する中でも、銀行預金に比べてはるかに高い利回りを維持しており、銀行理財商品の残高は拡大し続けている。
今年2月公表の中国銀行業理財市場年度報告によると、銀行理財商品は426の銀行で取り扱われ、その15年末残高は23.5兆元(約352.5兆円)と前年比56%も増えた(図)。そのうち……
(『週刊エコノミスト』2016年9月13日号<9月5日発売>36ページより転載)