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ワシントンDC 2016年9月20日特大号

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残りの選挙戦では何を訴えるのか Bloomberg トランプ 週刊エコノミスト
残りの選挙戦では何を訴えるのか Bloomberg

 ◇開き直るトランプ氏

 ◇勝算度外視の過激主張再び

 

今村 卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 結局は開き直りか──。米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏は8月31日、注目された不法移民対策に関する演説で、再び、自らが大統領に就任すれば直ちに国内の不法移民を強制送還すると強調した。

 同氏の予備選での勝因の一つは、共和党の候補者の中で移民政策で最も強硬姿勢を取り、同党支持の労働者階級などの熱烈な支持を集めたことだった。しかし、本選に移ってからは裏目に出ている。勝敗を左右する無党派層は不法移民対策への関心が共和党支持者に比べて低く、支持拡大につながらない。ヒスパニック系は、逆に不法移民の市民権取得を支持する傾向がある。このため、トランプ氏の支持率は低迷している。

 さすがにトランプ氏も、8月に入ってからの苦戦ぶりに危機感を強めたのだろうか。次第に「支持拡大には穏健路線への転換が必要」「大統領らしい振る舞いが必要」と説く自陣営や共和党の声に理解を示すようになった。過激発言を封印し、姿勢軟化を示唆するようにもなっていた。

 しかし、方向転換が続かない。トランプ氏自身が耐えられなくなったのだ。トランプ氏は8月半ばに突如、自陣営の最高責任者に保守派サイト「ブライトバート・ニュース」を運営するスティーブン・バノン氏を起用すると発表した。選対本部長を務めてきたポール・マナフォート氏は辞任した。マナフォート氏は共和党主流派との協調や穏健路線への転換を説き続けた。しかし、トランプ氏は、支持率も上向かず、投票日までの限られた時間は方向転換よりもありのままでいる方がよいと開き直った模様だ。現にバノン氏は、反主流派の主張でトランプ氏と一致する旧知の仲であり、トランプ氏が予備選でみせた姿勢を維持すべきとの立場だ。

 開き直ったトランプ氏は今後、無党派など新たな支持を拡大する常識的な戦法を取らず、従来の支持基盤にひたすら応えるという異端の戦法に徹する可能性が高い。勝算度外視にも見えるが、これがトランプ氏がビジネスでも政治でも取ってきた戦法であり原点回帰だ。

 

 ◇「オルト・ライト」台頭か

 

 2氏の異端の戦法は、残り2カ月の選挙戦を、従来とは異質の、過激なものにしてしまう可能性もある。

 バノン氏と「ブライトバート・ニュース」は最近の米国社会で目立つ存在になってきた新興の政治信条「オルト・ライト(alt=alternative=right、もう一つの右派)」に属するとみられているからだ。

「オルト・ライト」は主張が多様でまとまりを欠くが、保守主流派やエスタブリッシュメントへの強い反発という共通点がある。しかも主張の中には、人種差別や白人至上主義も含まれている。米国社会では傍流にとどまり、タブーの考え方だ。しかし、トランプ氏とバノン氏ならば選挙戦でためらわず利用する可能性は排除できない。この種の主張が大統領選の選挙戦の中で登場することだけでも危うさがある。

 トランプ氏が選挙戦で早期に敗色濃厚になれば、「オルト・ライト」の認知も進まず、人種差別や白人至上主義が公然と語られる恐れもないだろう。しかし、クリントン氏も弱い候補だ。国務長官在任中に慈善団体「クリントン財団」の献金者に便宜を図っていた疑惑が浮上したためか、一時回復した好感度が再び低下した。大統領選がクリントン氏の勝利に終わるとしても、トランプ氏やバノン氏の主張が広く社会に訴える機会を得るのならば大統領選を通じて「オルト・ライト」が米国社会に頭角を現す可能性もある。今後の大統領選は、そこまで視野を広げて行方を見守る必要がありそうだ。(了)

 (『週刊エコノミスト』2016年9月20日特大号<9月12日発売>70ページより転載)

この記事の掲載号

定価:670円(税込み)

発売日:2016年9月12日

週刊エコノミスト 2016年9月20日特大号

 

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