◇寡占が進み電気代は上昇
野村宗訓
(関西学院大学経済学部教授)
電力自由化を1990年代から進めてきた英国では、料金が約2倍に跳ね上がった。料金の誤請求や低所得者への悪影響など、競争導入に伴うひずみも表面化している。
自由化以前の英国には、イングランドおよびウェールズ地方に国有の発送電会社が1社と配電会社が12社、スコットランド地方に発電から配電まで手がける垂直統合型電力2社が存在した。
イングランドおよびウェールズでは、発送電会社を火力発電2社と原子力発電1社に分割・民営化すると同時に、「発送電分離」を通して競争を導入する大実験を行った。スコットランドの2社は部門別に会計分離をして、垂直統合型のまま民営化した。小売り部門は98年に全面自由化に移行し、すべての需要家は供給先を自由に選択できる。
しかし、自由化当初に存在した新規参入業者は、淘汰(とうた)・グループ化され、現在は「ビッグ6」と呼ばれる大手6社が90%以上のシェアを占める寡占状態だ。自由化で参入者が育たなかった理由は、二つ挙げられる。まず、電力は、携帯電話や航空のような需要増大があるわけではなく、参入する魅力が小さかった。また参入者の発電設備は小規模な風力が中心で、元国有企業を買収した外資系の大手企業に発電量で劣った。
自由化後に顧客を引きつけたのは、電力とガスの同時契約で割引率が大きくなる「デュアル・フュエル」というサービスだ。だが、全面自由化からの料金動向を検証すると、2004年までの6年間は低下し、その後一貫して上昇している。これは北海油田の減産によって英国が天然ガスの純輸入国となり、燃料費が高騰したからだ。小売料金に占める燃料費の割合が高く、小売り事業者は上流部門のコストを操作できない。つまり、小売市場に参入者が出現しても、料金が簡単に低下するわけではない。図のように6社の料金に差がないのも大きな特徴だ。
◇請求ミスも相次ぐ
料金で差別化を図れないため、各社は多様なメニューで割安感をウリにする行動に走った。しかし、多様で比較しにくい料金設定が「困惑独占」(コンフューゾポリー)にあたると競争政策当局は指摘し、是正を求めた。これは米国の作家スコット・アダムスが「混乱させる独占」(コンフューズド・モノポリー)という意味で使用した造語である。原著『ディルバート・フューチャー』(97年)で、既にエネルギーや通信料金が批判の対象に挙げられていた。
困惑独占が横行すると、………
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定価:620円(税込み)
発売日:2016年2月22日