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特集:粉飾ダマし方見抜き方 2016年12月20日号

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進む「日本企業の劣化」  経営者の悪意排除を

 

 

日本の上場企業が今年1~10月に適時開示した不適切会計・経理の件数は前年同期比5件増の49件と、過去最多を更新した。本社はもとより、国内外の子会社で利益操作のための売り上げの架空計上や経費の先送りなどが相次いだ。オリンパスの粉飾事件や東芝の不正会計を受け、政府や民間レベルで企業統治改革が進められているが、上場企業の体たらくは、日本企業の国際競争力にも影を落とす。

 

 東京商工リサーチが2012年から行っている調査によると、不適切会計・経理の開示件数は過去最低だった11年1~10月期の16件から約3倍に増えた。

 

49件の内訳をみると、「費用支払いの先送り」「代理店への押し込み販売」など利益操作目的の「粉飾」が21件と全体の43%を占めた。市場別では、東証1部が全体の半分の24件を占め、大企業の割合が多い。不正の形態も複雑化している。

ソニーグループで架空取引

ソニーグループが10月発表した架空取引は、その好例である。半導体設計や試験を手がける「ソニーLSIデザイン(ソニーLSI)」(神奈川県厚木市)の元取締役・従業員の計5人が12年2月から16年9月までの4年半、複数の取引先と架空発注を繰り返し、その一部を着服。ソニーグループに約9億円の損害が発生した。

 

架空発注先の1社が半導体ベンチャーの「REVSONIC」(横浜市)だ。同社は05年7月、ソニーLSIの派遣社員であった半導体の設計エンジニアが移籍して設立され、半導体設計の請負やエンジニアの派遣を行ってきた。

 

ソニー本社の内部通報窓口に今年7月、通報があり、ソニーから連絡を受け、REVSONICが社内調査を開始。その結果、ソニーLSIの役職員が、REVSONICに架空発注をし、その代金が、REVSONICの海外子会社を通じて、ソニーLSIの関与者5人に、環流していた。

 

ソニーによると、4年半も発覚しなかったのは、「1回当たりの発注額が100万~200万円と小さかったため」(広報・CSR部)という。1000万~2000万円の発注なら、社長決裁が必要だが、小口なら取締役の権限の範囲内だ。さらに、当該部門が半導体のテストを行う部署で、「他部署との交流が限られ、外部の目が届かなかった」(同)。ソニーでは、子会社に対しては、定期的に本社から内部監査が入っているが、不正を見抜けなかった。「権限がある人間が悪意を持つと、内部統制が無効化してしまう」(同)と説明する。

 

今回は、ソニーのグループ会社での出来事だが、これはどんな組織にも当てはまる。トップや経営陣が悪ければ、どんな組織も企業風土が乱れ、それが、製品やサービスの低下につながり、粉飾決算や最悪の場合は経営破綻につながる。会社法の重鎮である久保利英明弁護士は、「鯛(たい)は頭から腐るという。最近の大手企業の相次ぐ粉飾決算や製品のデータ偽装を見ると、日本企業は相当劣化していると言わざるを得ない」と話す。

オリンパスが再び不祥事

その現実を日本社会に突きつけたのが、11年11月に発覚したオリンパスの粉飾決算事件だった。

 

この事件では、財テクで発生した1000億円を超える簿外債務を歴代3社長が10年以上隠していた。事件を解明した同社第三者委員会委員長の甲斐中辰夫弁護士(元最高裁判所判事、東京高等検察庁検事長)は、「日本独特の終身雇用制が根底にあった」と指摘する。「前任者の指名を受け、恩義を感じた社長が、前任者の不正行為を表に出せず、追及もできない。秘密を共有する一部の人間だけが出世できる体質になっていた」と話す。

 

オリンパス事件の発覚後、相次いで行われた会社法の改正、会計基準・監査指針の改定、コーポレートガバナンス・コードの導入などによる企業統治改革の眼目は、まさに、日本のこの古い経営体質からの決別にある。「経営手腕と倫理観双方に優れる強い経営者を選ぶと同時に、不適格な経営者をいかに素早く排除するか」の一点に集約される。

 

しかし、日本屈指の名門企業である東芝で15年、歴代3社長による不正会計が露見した。

 

オリンパス事件で、当時の菊川剛会長らを内部告発した同社元代表取締役社長CEOのマイケル・ウッドフォード氏は、「日本の企業体質は何も変わっていない」と強調する。粉飾決算からの出直しを社会に誓ったオリンパスのその後は、ウッドフォード氏の指摘を裏付ける。

 

「米国での十二指腸スコープの感染問題に関連し、米司法省から執行役員を含む複数の日本人の身柄引き渡しを要求された。巨額の罰金が科せられる可能性もある」(オリンパス関係者)

 

 発端は15年2月、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の医療センターで、オリンパスが販売する十二指腸スコープの欠陥から、超耐性菌に感染して死亡したとする患者の遺族が、同社を相手取って、裁判を起こしたことから始まった。その後、全米各地で集団訴訟に発展している。裁判の過程で、日本の品質管理担当の幹部が、米国法人に対し、先に発生した欧州での感染事例を米国では公表しないよう指示したことが判明し、オリンパス本体の刑事責任が問われる事態となった。

 

 オリンパスは、十二指腸スコープの感染問題について、「本件につきましては真摯(しんし)に受け止めております。有価証券報告書の『事業等のリスク』の項で『米国における十二指腸内視鏡に係るリスク』として開示しております」と書面で回答した。米司法省による制裁の可能性については、「そのような事実は認識しておりません」と答えている。

 

 同社は、今年6月、中国の深セン工場で浮上した地元税関への贈賄疑惑に関する社内調査報告書が、情報誌『ファクタ』に流出し、株主総会の前日に適時開示する騒ぎを起こしたばかり。感染問題と贈賄疑惑のいずれも、12年4月に新経営陣に入れ替わってから発生した出来事だ。

 

 日本取引所自主規制法人の佐藤隆文理事長は、「そうした複数の報道があることは承知している」と苦い表情だ。

 

はびこる「不良第三者委員会」

こうした事態に、司法や行政、市場関係者は手をこまねいているわけではない。

 

14年の会社法改正では、社外取締役の選任が実質的に義務化されたほか、経営陣からの独立性を担保するため、社外取締役と社外監査役を選ぶ際の独立性の要件が厳しくなった。会計監査の分野においては、金融庁の企業会計審議会が13年「監査における不正リスク対応基準」を策定し、監査法人が経営者の不正リスクを重点的にチェックするようになった。

 

このように、制度や仕組みは充実してきている。しかし、なかなか実効を伴わないのは、経営者だけでなく、公認会計士、弁護士といった日本のエリート層に「公益のために働く」という真のプロ意識が欠けているからだ。監査法人問題に詳しいジャーナリストの磯山友幸氏は、「いくら不正を防ぐための会計基準を追加しても、『魂』を入れなければ、不正は今後もなくならない」と指摘する。

 

同様の現象は、司法の世界でも起こっている。日本弁護士連合会は今年9月14日、弁護士向けに異例のセミナーを開いた。登壇したのは、日本取引所自主規制法人の佐藤理事長、証券取引等監視委員会の佐々木清隆事務局長、それに、「第三者委員会報告書格付け委員会」の正副委員長を務める久保利弁護士と国広正弁護士の4人だ。

 

セミナーの狙いは、弁護士に第三者委員会の趣旨を徹底するためだ。国広弁護士は、「東芝の第三者委員会報告書に代表されるように、経営者の保身に使われる『不良第三者委員会』が増えてきたので苦言を呈した」と語る。

 

第三者委員会は、本来は、多様なステークホルダーのために、不祥事や事故の真因を追究し、再発防止策を提言するためにある。しかし、いまや、弁護士や検察OBにとり、社外取締役・社外監査役と並ぶ貴重な収益源となっている。こうした危機感から14年、弁護士とジャーナリスト、学者らが第三者委員会報告書格付け委員会を設立する事態にまでなった。同委員会は12月2日、羽田空港をはじめ全国の飛行場の地盤改良工事でデータを偽装した東亜建設工業の社内調査報告書を最低のF評価とした。国広弁護士は「悪貨が良貨を駆逐しないよう戦う」と話す。

 

さらに、意識改革が進んでいないのが、日本のエリートの頂点に立つ検察だ。東京地検特捜部は、証券取引等監視委員会による東芝旧経営陣の刑事告発を受理しない公算が大きい。久保利弁護士は、「日本は経済犯罪に甘い。誰も責任を問われず時効になるようでは、まっとうな国とは言えない」と憤る。

企業に甘い司法

オリンパスの度重なる不祥事も、突き詰めれば、司法の甘さに行き着く。

 

11年10月のウッドフォード氏解任後、11月1日に第三者委員会が設置された以降も、検察は動こうとしなかった。ウッドフォード氏の提供した資料は、裁判所から捜索差し押さえ令状を取得できる水準ではなかったが、委員会関係者は「いくらでも任意捜査はできたはず」と述懐する。

 

さらに、委員会報告書では、役職員5人の明確な関与が認定されたのに、逮捕は元社長と元副社長2人の計3人だけ。そのことが、「粉飾はたいしたことがない」という会社へのメッセージとなり、報告書で認定された従業員の関与者17人のうち、懲戒処分を受けたのはわずか1人にとどまった。深セン工場贈賄疑惑に関する社内調査報告書の関与者リストには、11年の粉飾決算にも関与した従業員の名が連なる。

 

自主規制法人の佐藤理事長は、司法が厳格な態度を示すことが、日本の資本市場の公正性・透明性を高めるには不可欠との認識だ。久保利弁護士は、「強い検察と厳しい裁判所があって、初めて経済社会が健全に機能する」と強調する。

 

経営者をはじめ、日本のエリート層が社会の期待に応えなければ、健全な経済社会は未来永劫(えいごう)訪れない。そのときは、残念だが、個人も含めた投資家は、金融や財務に関するリテラシーを高め、自ら駄目な株式や経営者を見抜くほかはない。

(稲留正英、桐山友一、金井暁子・編集部)

特集:粉飾ダマし方見抜き方 記事一覧

進む「日本企業の劣化」 ■稲留 正英/桐山 友一/金井 暁子

インタビュー マイケル・ウッドフォード

日本の企業風土「変わらぬ上役への盲目的な服従 東芝問題が示したカイシャの欠点」 

 

【第1部】 粉飾を見抜く

会計士が明かす手口 常道は売掛金、在庫水増し 「のれん」の“隠れ蓑”に注意 ■前川 修満

危ない財務を見抜く ROEはROAの2倍以下 ■村井 直志

Q&Aで解説! 企業会計を知るキーワード5 ■編集部/村井 直志

AIで粉飾を発見・防止 ■金井 暁子

グラフで見つける! 時系列分析のエクセル活用法 ■井端 和男

「上場ゴール」を防げ! 上場直後の大幅下方修正は直前の会計処理に“抜け道” ■編集部

「のれん」のリスク アーム買収でソフトバンク急増 ■編集部

インタビュー 君和田 和子 ソフトバンクグループ執行役員経理部長「リスクはあるが問題ない」 

 

【第2部】粉飾を断つ

逆風の監査法人 人気職業でなくなった会計士 ■磯山 友幸

インタビュー 佐々木 清隆 証券取引等監視委員会事務局長 「大企業の事前監視に力」

       関根 愛子 日本公認会計士協会長 「企業との馴れ合いはもうない」 

       佐藤 隆文 日本取引所自主規制法人理事長 「『いかさま』第三者委員会は論外」

企業風土 しがらみ断つトップ選出へ「経営幹部の内部統制」必要 ■浜田 康

監査役の覚醒 増えるモノ言う監査役 ■山口 利昭

内部通報者保護 制度充実で試される財界の「本気度」 ■光前 幸一

週刊エコノミスト 2016年12月20日号

定価:620円

発売日:2016年12月12日

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