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特集:商社の憂鬱 2016年3月15日号

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◇三菱に迫る赤字決算の悪夢

◇伊藤忠襲うCITICリスク

 

中川 美帆

(編集部)

 

「エネルギーに限らず、すべての資産を精査している」

 三菱商事の内野州馬最高財務責任者(CFO)は2月2日、2016年10~12月決算発表の席で、今後の減損を示唆した。

 これまで活発に実施してきた原油や金属・非鉄金属などの資源投資だが、市況の急落を受けて想定した利益を生まないと判断した時点で、損失処理を迫られる。これが保有資産の減損処理である。三菱はすべての資産に対して、足元の資源価格などをもとに、その価値を見直すと明言したのだ。

 この発言には、伏線がある。三菱は、昨年11月初めに4~9月期決算を発表した際、エネルギー事業で約200億円の減損をほのめかしたが、結局10~12月期では減損を計上しなかった。この減損は16年1~3月期に計上すると思われる。原油価格は今年に入り1バレル=20ドル台に突入するなど、一段と下がっているため、減損規模は200億円を大きく超える可能性もある。

 ここに加わるのが、内野CFOが示唆した「エネルギーに限らず、すべての資産の精査」から発生する減損だ。金属権益でも減損計上する可能性が高い。

 ◇チリ銅鉱山の減損リスク

 

 最大の金額になりそうなのが、チリの銅鉱山。三菱は11年11月、資源メジャーの英アングロ・アメリカンから、チリで銅鉱山を開発するアングロ・アメリカン・スール(AAS)の株式24・5%を53億9000万ドル(当時のレートで約4200億円)で取得。その後、一部をアングロ・アメリカンに譲渡しており、現在の投資残高は約4000億円と見られる。

 これを銅市況の暴落が襲った。三菱のAASへの投資子会社は、15年4~12月期に53億円の赤字を出した。米格付け大手のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は2月18日、アングロ・アメリカンの格付けを投資適格の最低水準「BBBマイナス」から2段階引き下げ、投機的水準の「BB」にした。銅鉱山の減損額は1000億~2000億円に上りかねない。

 まだある。豪州の「ジャックヒルズ鉄鉱石プロジェクト」だ。三菱は11年に、金属資源開発子会社の三菱デベロップメント(MDP)を通じて、インフラを含めた権益を3億2500万豪ドル(約250億円)で買収した。しかし、鉄鉱石市況の下落などで採算が合わず、開発が滞っている。MDPは14年4~12月期に95億円、15年同期に220億円の損失を出した。「完全な失敗プロジェクト。投資残高は約500億円に積み上がっていると見られ、これを丸々減損するかもしれない」。証券アナリストからは、こうした厳しい指摘もある。

 一方で、「減価償却の負担を減らすために、思い切って5000億円くらい減損した方がいい」との意見も社内外から聞かれる。

 このほか豪州の石炭事業で、数百億円の減損の可能性もある。加えて、原料炭、銅と並び、同社が「資源ビジネスのコア」と位置付ける液化天然ガス(LNG)の市況も大きく下がっているため、LNG事業の投資先から受け取る配当収入も減る。

 三菱は昨年11月、16年3月期の純利益を期初予想の3600億円から3000億円に引き下げた。だが、これら減損と配当収入の減少などによって、純利益はさらに減り、「場合によっては赤字決算になってもおかしくない」(前出の証券アナリスト)状況に陥っている。

 住友商事1116億円、丸紅730億円、三井物産198億円……。中国経済の減速と資源安の直撃を受け、世界中に資源権益を持つ総合商社は、15年4~12月期決算で資源関連の減損損失の計上ラッシュに見舞われた。シェール開発の失敗などで巨額減損を計上した15年3月期に続く巨額損失だ。それに伴い、16年3月期は業績予想の修正が相次いでいる(20ページ表1)。

 しかし、これで終わりではない。資源の価格は1年前に比べ、およそ原油が5割、鉄鉱石が4割、銅が2割も下落している。このため商社の減損は、まだまだある。

鉄鉱石の価格は低迷(ブラジル) Bloomberg 週刊エコノミスト
鉄鉱石の価格は低迷(ブラジル) Bloomberg

 ◇独り勝ち伊藤忠の急所

 

 減損が相次ぐ大手商社の中で、独り勝ちの状態なのが伊藤忠だ。

 15年4~12月期の純利益は2809億円で過去最高になった。かつては純利益で3~4位が定位置だったが、16年3月期には三井だけでなく、商社トップに君臨し続けた三菱までも一気に抜き去り、初めてトップに躍り出ることがほぼ確定している。16年3月期の純利益予想3300億円は達成できる見通しだ。中期経営計画では、18年3月期に純利益4000億円以上を目指している。

 しかし、絶好調な伊藤忠にもリスクがある。中国最大の国有コングロマリット中国中信集団(CITICグループ)、タイ財閥チャロン・ポカパン(CP)グループとの資本提携だ。伊藤忠とCPが約6000億円ずつを投じて、CITICの中核会社の株式を取得する交渉が昨年1月に成立した。

 伊藤忠は昨年半ばまで、「金融に強いCITICと、食糧など生活産業に強いCPと提携したことで、生活消費関連、自動車、インフラなど幅広い分野でシナジー(相乗効果)が出る」と息巻いていた。3社提携に基づく、中国でのEコマース事業やアパレル事業も発表した。だが現在、こうした共同事業は足踏みしており、「6000億円の使い方としては極めて効率が悪い」と、市場関係者をやきもきさせている。

 中国事業が進まない理由の一つに、習近平政権の「反腐敗」運動がある。中国で今、大規模な事業を行うと汚職を疑われかねないため、何もせずに我慢しているしかないという。もう一つの理由は、中国経済の減速だ。

 CITICの株価は、伊藤忠が取得した時の13・8香港ドルから、今年2月には一時、10・1香港ドルまで下落した。CITICは3月3日時点で、15年1~12月期の決算を公表していないが、資源事業で苦戦しているほか、収益の大半を占める金融や不動産事業も中国減速の直撃を受けているため、CITIC自身の減益懸念がある(表3)。

 また、6000億円の投資に伴うキャッシュ・イン(現金収入)を増やすため、伊藤忠はCITICの配当性向を20~30%にしたい考えだが、15年上期(1~6月)は約7%にとどまった。

 

 ◇「CPは返せるのか」

 

 もちろんプラス面もある。16年3月期の期初予定では、当期のCITICからの取り込み利益は16年1~3月期の約150億円だけのはずだった。それが前倒しでCITICの持ち分法適用開始となり、CITIC持ち分の取り込み利益が発生。これと、CPに貸し付けている3000億円の金利収入の合計で、10~12月期に約200億円が転がり込み、純利益を上積みした。

 ただし、伊藤忠はCITIC買収に伴うCP負担分のうち、半分の約3000億円を肩代わりしている。持ち分法の適用完了が、当初予定の15年10月から8月へと約2カ月早まったため、CPの返済期日も約2カ月早い16年2月3日が予定されていた。

 ところが伊藤忠は16年1月21日、「CPグループとして最適な資金調達を行うためには、当初に予定していた16年3月末日まで(15年10月から6カ月間)程度の期間が必要」として、返済期日を3月24日にしたと発表した。

 市場では「CPにとって、返済は前から分かっていたことなのに、期日を1~2カ月遅らせたところで本当に返せるのか」(証券アナリスト)と、3000億円の返済を危ぶむ声が上がっている。CPのリスクは香港で以前からささやかれており、「日本のあるノンバンクにもCITIC株の購入を持ちかけている」(金融関係者)という。

 伊藤忠は「期日までに必ず返済される」(同社役員)と断言する。

 * * * * *

 4月から、三菱は垣内威彦社長が就任する。小林健社長が掲げた「聖域なき改革」は踏襲しつつ、作成中の新中期経営計画で大胆に変わる可能性がある。

 一方、伊藤忠を大躍進させた岡藤正広社長は、異例の続投(7年目)となる。

 商社トップをうかがう両社は、資源安と中国減速という環境下で、それぞれリスクを抱えながら、どのように成長していくのだろうか。(了)

(『週刊エコノミスト』2016年3月15日号(3月7日発売)20~24ページより転載)

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年3月7日

週刊エコノミスト 2016年3月15日号

 

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