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特集:世界を変えるIoT 2016年3月15日号

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◇経済効果8.1兆ドル

◇米独に日本は追いつくか

 

藤沢 壮(編集部)

 

 2025年に8・1兆ドル──。みずほ銀行産業調査部は、モノのインターネットと訳される「IoT(Internet of Things)」が、世界で巨額の経済価値を生み出すと予測する。日本円にして、実に900兆円。日本の名目国内総生産(GDP)の2倍に迫る規模だ。

 IoTは人と人だけでなく、さまざまなモノがインターネットでつながることで、新たな価値を生むと考 える概念だ。自動車や機械、家電をはじめ、モノに取り付けたセンサーで情報を読み取り、インターネットを経由して製品の使用履歴などの情報を収集する。企 業がその情報を分析すれば、顧客動向がわかり新たなサービスや製品を提供できる。
 みずほ銀行の試算によれば、16年時点では0・8兆ドル(約90兆円)だが、その後10年間で平均28%拡大していくとみる。同行産業調査部で通信関連市場などを分析する大堀孝裕参事役によれば、IoTの経済効果のうち、通信機器やセンサー、ソフトを提供するITベンダーの需要は1割程度で、他の産業界でのコスト削減効果や売り上げ増加といった波及効果が9割を占めるという。

 とりわけ自動車や産業機械、医療などはIoTビジネスの有望株と考えられる(図)。特に産業機械を使う製造業では、製造工程をリアルタイムで監視、制御して効率化するコスト改善と、サービスの提案に よる収益拡大の両面が期待できる。また、物流では、インターネットにつながるロボットによる物品の棚卸しに米アマゾン・ドット・コムが取り組んでいる。
  こうした分野に期待がかかるのはインターネットを介して、熱量や速度など情報を読み取るのに欠かせないセンサーが小型化、低価格化したことで、従来以上に 幅広い製品や製造現場で活用できると考えられるからだ。道路にセンサーを取り付けて破損状況を監視、事故が起きる前に修繕するといったサービスは、発想こ そあれど、長時間の運用はコスト問題で実現できなかった。

 ところが、端末につけるセンサーの劇的な低価格化が、こうしたサービスを可能とする。調査会社のIHSテクノロジーによれば、世界のさまざまなセンサーの単価は、10年の0・82ドル(約90円)から20年には0・38ドル(約40円)と、半分以下に下がる見込みだ。
 センサーのほかにも、通信速度が高速化しているうえ、集めた情報を分析するAI(人工知能)も実用化が進んでいる。こうしたインターネットに関わる技術が加速度的に進化し、インフラが整ってきたことで、IoTを活用したサービスや製品提供が現実のものとなってきた。企業はこれまで以上にインターネットで「つながるモノ」を提供できる。その数は、20年に500億個を超える見込みだ(図)。

◇建機40万台投入

 こうした技術の進展により日本でもIT業界だけでなく、さまざまな業界が動いている。
 三菱電機の柵山正樹社長は2月17日、年に1度のマスコミ向け研究成果発表会で、今後の成長を実現するうえで、「IoTが重要になる」と強調した。同社は、現在約4兆円の売上高を20年までに5兆円以上に増やす中期目標を掲げている。

 具体策として交通やオフィス、安全対策のインフラなどに取り組むが、すべてに共通してIoTの概念を取り入れたサービスを提供するという。発表会では、モノとモノの通信に必要になる次世代通信規格「5G」の通信アンテナや、情報分析に有用なAIの小型版などを披露した。

 三菱電機がIoTを 掲げる背景には、既存の製品を販売する事業だけでは大きな成長を見込めないという危機感がある。国内が人口減少の傾向にあり、消費者のニーズが多様化して いるためだ。同じ発表会で近藤賢二常務執行役開発本部長は、「これまではものづくりに重点を置いてきたが、機器単体ではなくサービスも含めて提供する必要 がある」と説明する。

 すでに建設機械大手のコマツは、世界で約40万台の建設用車両にGPS(全地球測位システム)を組み込み、新車販売だけで なくサービスによる収益拡大を強化している。機械の利用状況や作業の進捗(しんちょく)を把握、メンテナンスや買い替えの提案につなげるのだ。同社では、 ITを活用し新車販売だけでなく、サービスを推進する一連の事業を「スマートコンストラクション」と呼び、この推進のため近年は建設コンサルタント経験者 やCAD(コンピューター利用設計システム)オペレーターを増員しているという。


 ◇先行する米独

 ただ、コマツの「スマコン」が成り立つのは、業界大手だからこそと言える。単一の企業では、つながるモノから データを得たところで、できる対応が限られてしまう。日本政策投資銀行産業調査課で、精密産業の現場に詳しい大田麻衣氏は「データの使い方を標準化するこ とが付加価値を生む」と指摘する。例えば、熱量を感知するセンサー一つとっても、メーカーによってデータとして認識した時の形式が違うことが、現場で活用 が進まない一因になっているという。
 これまで日本の状況や事例を紹介してきたが、実はIoTで先行するのは米独である。
 米国では、14年3月に発足した企業連合「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」によりIoTの 推進に向けて、通信に関わる設備やソフトウエアなどを標準化する検討が行われている(79ページ)。IICは、「インダストリアル・インターネット」を標榜(ひょうぼう)する米ゼネラル・エレクトリック(GE)をはじめとして、通信大手であるAT&Tやシスコシステムズ、IBM、半導体大手のインテルとい う米大手企業が発起人だ。
 一方、ドイツではITを駆使して製造業の生産性を高めるプロジェクトとして、独政府が主導して「インダストリー4・ 0」を13年に立ち上げた。重電大手のシーメンスや半導体大手のインフィニオンなどが参加し、技術の研究や産業界への応用を進めてきた。米国のIICが標 準化の議論を進めるなか、インダストリー4・0も加わっている。
 この動きを受け、日本でも総務省と経済産業省が「IoT推進コンソーシアム」(会長:村井純・慶応義塾大学環境情報学部長兼教授)を発足させた。2月22日時点では、国内外の1700以上の企業が参加し、研究を進めており、標準化ではIICとも連携している。
 民間企業では、日本マイクロソフトが業界9社と共同でIoTに関わるビジネスを推進する「IoTビジネス共創ラボ」を2月9日に発足させた。半導体製造装置の販売会社である東京エレクトロンデバイスが幹事社で、同社が提携する販売会社約3000社を通じて展開していく予定だ。日本の民間企業でIoTに取り組む規模としては最大級である。
 企業間連携が進むとともに、モノがインターネットでつながる条件が整ってきた。
 だが、シンクタンクからは日本の産業構造のしがらみを問題視する声が相次ぐ。医療分野について、ある国会議員は「日本の病院では、医師会の抵抗があり、医療情報の収集が進まない」とこぼす。
 また、日本のソフトウエア企業は、重厚長大型産業の下請けの位置づけを強いられ、国際競争力は米国勢が圧倒的だ。今後、世界中のモノをつなぐ通信規格などの仕組みができたとき、存在感を発揮できるのかどうかが懸念される。
「間違えれば日本は『偉大なる部品屋』になりかねない」と、IoTに取り組む関係者の間に危機感は強い。しがらみから脱却し、日本企業がIoTの成長の果実をつかめるか。


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