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ワシントンDC 2016年3月22日号

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◇遺伝子組み換え食品の表示義務

知る権利と食品業界が攻防

 

安井 真紀

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)

 

米国では、都市部を中心に健康志向が高まり、オーガニック食品を取り扱うスーパーマーケットが定着しつつある。「オーガニック」や「自然食品」の定義はさまざまであり、添加物に対する考え方も賛否両論あるなか、米国で初めてオーガニック食品販売業者と認可されたホールフーズ・マーケットは、人工着色料、香料、甘味料等の特定の原材料を含む食品を販売しない方針を徹底。2018年までに、店舗で取り扱うすべての商品に、原材料に遺伝子組み換え作物(GMO)を含むか否かを表示すると打ち出した。

 他のスーパーマーケットも、オーガニック食品の取り扱いを増やす傾向にある。消費者は、自分が口にするものに、より関心を持つようになってきている。

 バーモント州では、GMOの表示を義務化する法律を14年5月に制定。16年7月に施行する。GMOの表示に連邦レベルのルールはなく、州によって規制内容が異なる。食品メーカーの多くは「表示の義務化は食品価格の上昇をもたらす」と情報開示義務の強化に反対する。食品製造者協会などの業界団体も「政府主導の規制よりも業界の自主規制で対応すべき」と、ロビー活動を繰り広げている。

 こうしたなか、食品大手のキャンベル・スープ・カンパニーは16年1月、とうもろこし、大豆、甜菜(てんさい)などでGMOを使う場合は、商品にその旨を表示することを発表した。表示にかかる費用は少なくないものの、将来、連邦レベルで表示が義務付けられる可能性を視野に入れ、早期に対応する方がよいと判断。他社と異なる行動に踏み切った。同社は「米国人の9割がGMOの表示に賛成しているにもかかわらず、州によって規制が異なるのは、食品メーカーに費用負担を強いるだけでなく、消費者を混乱させるものだ」と主張。米国農務省に対し、連邦レベルでの表示規制の導入を働きかけるとしている。

◇実用的な対応を模索

 

 一方、米国下院議会では15年7月、GMOの表示義務付けを阻止する法案が可決された。上院農業委員会には16年2月、GMOの表示義務を課す州法を無効とし、連邦レベルで努力義務ベースの表示プログラムの創設を盛り込んだ議員法案が提出された。食品業界は、GMOはそもそも安全であり、GMOの表示義務付けは、消費者にGMOに対する不安を抱かせ、「知る権利」をかざして食品ブランドを台無しにすることにほかならないと訴える。議員も意見が分かれ、法制化の方向性はまだ見えないが、州単位のつぎはぎ的な規制の限界は共通認識となりつつある。

 米国農務省と食品業界は、GMOが含まれている場合に、表示を義務化する以外の、消費者の「知る権利」に応える方法も検討している。例えば、消費者が食品の原材料を知りたい場合は、スマートフォンや店内のスキャナーを利用して、パッケージのバーコードなどから、当該食品の情報にアクセスできるようにする方法などだ。当局に食品の原材料認定プロセスを導入し、認められれば、「GMOが含まれていない」と表示できるようにする方法もある。必要な技術開発を含め、実用的な対応の模索が始まっている。

 

 消費者が食品を選択するに当たり、知るべき情報とは何か。その情報は信頼に足るか。情報の公正性・透明性を担保するシステムの構築、行政・生産者・食品メーカー・流通業者・消費者の負担のバランスが求められている。世界規模で食品が行き来するなか、他国の表示規制や食品安全基準も他人ごとではない。


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