Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── 社名にM&A(企業の合併・買収)とありますが、どんな業務に取り組む会社ですか。
三宅 中堅・中小企業のM&Aの仲介を手がけていますが、経営者の意識が変わりました。10年前は譲渡側の社長にとって、会社の譲渡は抵抗感があり、敗北者のイメージでした。しかし現在は「会社の存続のため相乗効果がある会社に渡した」と評価されるようになりました。我々が譲渡を勧めても抵抗がなく「どんなところに譲渡したら社員が幸せになれるか」と質問されます。
── 何が意識を変えましたか。
三宅 二つあります。一つ目はM&Aが一般化しました。二つ目は後継者不足が深刻になった点です。団塊の世代(1947~49年生まれ)が70歳を迎えています。民間信用調査機関の調査では、日本の中小企業約420万社の66・2%には後継者がいません。切実な問題です。
── 重視していることは。
三宅 当社の理念はM&Aを通じた中堅・中小企業の存続と発展です。中小企業は廃業に追い込まれると、従業員とその家族の生活が一変します。一方、買い手も閉塞(へいそく)感のある会社が多く、買収で相乗効果が出たり、新しいビジネスモデルが作れたりして発展に結びつきます。
── 強みは何ですか。
三宅 全国の地方銀行や信金、会計事務所などと提携したネットワークがあります。地方で困っている会社の情報が上がってきますので、規模や分野に関係なくやっています。
調剤薬局や病院、介護施設、IT、食品、運送や建設ではM&Aが繰り返され、業界再編が相当な勢いで進んでいます。そういった業種が得意分野になっています。専門担当者を置いて集中的に進めています。
── 創業以来、黒字だそうですね。
三宅 90年代はM&Aに抵抗があって情報は少なく、会計事務所などとのネットワークを通じて情報をもらえました。しかし2006年の上場後は局面が変わりました。
── 変化の背景は。
三宅 二つあります。一つは「三つの階層」で当社の経営を進めるようになりました。経営陣が明確なビジョンを作り、部長など中間管理職として強烈な実現力のある人間を育てる。一般社員にはビジョンのベクトルをそろえます。
そのために一般社員とは「合宿」でコミュニケーションを取っています。合宿とは、社員約5人を1組としてホテルに泊まり込み、終業後の午後6時から3時間ずつ区切り、現場の問題点や改善案などを討論するもので、昨年は45回開きました。後半はお酒を飲みながらで、違ったものになります。私は会議などで各月の方針を伝えていますが、合宿では聞き役に徹し、良いものは翌日実行します。また中期計画ごとに目標達成すれば行使できるストックオプション(新株購入権)を出しています。
── もう一つの背景は。
三宅 M&Aのビッグウエーブは今後40年続くことです。団塊の世代が70歳を迎えて事業継承対策のM&Aの波がピークです。10年続きます。
次の波は業界再編です。現実的な就業人口を20~64歳とすると、00年に8000万人でしたが、25年には6500万人、60年には4000万人に減ります。会社の数は半分ということになります。現在、日本の企業は400万社で、200万社になる過程でM&Aによる業界再編が起き、あらゆる業界が4~5強になる。10~15年続くでしょう。
── 日本を揺るがす問題ですね。
三宅 さらに日本では作る人も買う人も半減するので、中堅企業も海外でモノを作ったり売ったりします。そのときに進出先などの会社を買収する第3の波が来ます。波が全て終わるまで30~40年かかると思いますので、どんどん採用しています。
── 足元の業績は。
三宅 昨年度の成立件数は524件です。今年は半期で約380件で年間700件の可能性があります。
◇成約式で心を一つに
── M&A仲介で何を心がけていますか。
三宅 満足できるM&Aを実現するため、「成約から成功へ」を標語にしています。本当に喜んでもらう「成功」を目指し、M&A後の融和などにより円滑に統合を進める「ポスト・マージャー・インテグレーション」(PMI)を重視しています。そのためにコンサルティングも積極的に進めています。
── 具体的な工夫は。
三宅 成約式を超一流ホテルの結婚式レベルで行っています。譲渡側の企業の社長夫人に手紙を読んでもらいます。創業以来の苦労を見ているのでずっしり来ます。買い手企業の社長はそうした重みを聞いているので、引き受ける会社を「人生かけて成長させる」と言う。その光景を撮影した映像を役員にも見てもらうことで一丸となり、協力的にもなってくれます。
── M&A成功に必要なものは。
三宅 買い手は買収の目的、譲渡企業は任せようと思った理由をきちんと語り合わなければなりません。相乗効果と成長の実現のためには何をすべきか、という戦略と経営指標を決めてやっていくべきです。達成の成否で経営陣への報酬や交代なども話し合うべきです。成約後も統合が円滑に進むには、最初の100日が大切です。日本人はPMIが世界一下手だと思います。「自分の気持ちが分かるだろう」と相手に任せ、方向性がずれる。PMIの考え方が浸透しないと、M&Aは失敗してしまいます。
(構成=米江貴史・編集部)
◇横顔
Q 社長業とは何でしょうか
A ビジョンを作り、確実に実現していくこと。同時に顧客と社員を幸せにすることです。
Q 「私を変えた本」は
A マグナム・フォト(国際的写真家グループ)の写真集です。状況を把握して、真実をどう探し出し、どう表現して伝えるかを学びました。仕事でも、その視点は、状況分析や問題解決する上で役立っています。
Q 休日の過ごし方
A レコードが約6000枚あり、聴きながら会社や社員のことを考えて過ごしています。ほとんどがジャズですが、ビートルズのコレクターでもあります。
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■人物略歴
◇みやけ・すぐる
1952年神戸市生まれ。京都府立東舞鶴高校、大阪工業大学経営工学部卒業。77年日本オリベッティ(現NTTデータジェトロニクス)に入社し、営業を担当。91年日本M&Aセンター設立に参画。2008年より現職。65歳。
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事業内容:企業の合併・買収(M&A)仲介など
本社所在地:東京都千代田区
設立:1991年4月
資本金:13億円
従業員数:308人(2017年9月末)
業績(17年3月期)
売上高:190億円
営業利益:90億円