Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── 主力のサーボモーターはどのようなものですか。
小笠原 サーボモーターは、モーターの回転を決められた位置に正確に「止める」ことが得意です。当社のサーボモーターは、35キロメートル以上ある山手線1周に例えると、誤差2センチ内の位置に止める精度を持ちます。競合はいますが、当社のサーボモーターは精度・品質が高いことから世界シェアトップです。
── どのようなものに使われますか。
小笠原 正確な位置決めが求められるあらゆる産業機械に使われています。需要先のひとつとして産業用ロボットの関節があります。産業用ロボットが、モノをつかみ正確な位置に運ぶのに役立ちます。電子部品を、基板上の決められた位置に正確に素早く置くチップマウンターにも多く使われます。
── 事業のポートフォリオは。
小笠原 売上高ベースで、サーボモーターやインバーターなど、モノの動きを制御する機器であるモーションコントロールが48%、ロボットが35%、システムエンジニアリングが12%です。
── 産業用ロボットメーカーのイメージも強く、ファナック、ABB(スイス)、KUKA(独)と共に世界4大メーカーと言われます。
小笠原 世界トップ4の中で、サーボモーターを含む電気部品を製造しているのは当社とファナックだけです。あとの2社は、電気部品については外部から調達しています。だから当社は、サーボモーターなどの電気部品とのすり合わせをして、柔軟にロボットを開発・製造できるのです。
── ロボットはどのような用途に使われますか。
小笠原 主には自動車産業向けです。特に、放電を利用して金属同士をすき間なく溶接する「アーク溶接」で強みを発揮します。他には、さまざまなモノを運ぶ用途や、半導体・電子部品の製造工程でも多く使われます。
── サーボモーターと産業用ロボット双方を製造する狙いは。
小笠原 当社は「モーターとその制御」をコアとする会社です。歴史的に見れば、当社は元々、九州の炭鉱で、石炭搬送用の巻き上げモーター製造からスタートしました。その後、サーボモーターを世界で初めて開発し、その応用として産業用ロボットの関節に使っているという経緯があります。ロボットは一つの製品に過ぎず、ロボット専業のメーカーではないのです。
── ロボット専業メーカーとの差別化ポイントは。
小笠原 モーターとその制御をなりわいとすることで、裾野を広く持てるということです。ロボットを大量に製造して、顧客の要望もあまり聞かずに「これは当社のこんな技術を詰め込んだ、当社の標準的なロボットです」と持っていくだけでは顧客は満足しません。「こんな製造工程が欲しい」という顧客の声に耳を傾けて、ロボットだけではなく、FA(ファクトリーオートメーション)機器も含めたシステムとして提案できる、裾野の広さが大事と考えます。
── モーターから事業が広がってきたのですね。
小笠原 はい、引き続き、モーターからの広がりという路線で事業をやっていこうと思います。しかし、モーターが不要になる時代がいつか到来する可能性はあります。また、産業用ロボットが別のモノに置き換わる可能性だってあります。そうした市場の変化には、先に手を打てるよう敏感でいなければなりません。
── 足元の受注状況は。
小笠原 中国を中心として需要は旺盛で、前年同期比3割増の過去最高レベルで推移しています。この結果、18年2月期(決算期を今年度から変更)連結決算は売上高・最終利益ともに上方修正して、過去最高を更新する計画です。
── 国内需要はどうでしょうか。
小笠原 国内需要も右肩上がりですが、伸びが著しい中国にはかないません。
◇対中国製でも価格競争力
── そんなに中国の需要が強いのですか。
小笠原 中国では、スマートフォンなど最先端の製品を製造する工場は、中古の機械設備は絶対に使いません。常に最先端の機械設備を求めており、2年で新たな設備に替えます。中国では今後も、スマートフォンや電子部品そして半導体全般、また見落としがちな分野としてはLED(照明)でも需要の伸びが大きく見込まれます。
── 中国にもサーボモーターや産業用ロボットを製造する現地メーカーがあるのでは。
小笠原 当社のサーボモーターは性能や品質が良く、故障が少ない。しかしそれだけではありません。部品調達や生産の現地化を徹底的に進めていることで、中国製品と比べても安く製造でき、コスト競争力があるのです。16年度、当社は世界で250万台のサーボモーターとアンプを製造しましたが、うち半分は中国の瀋陽で製造しています。
── それは意外ですね。
小笠原 当社のロボットも中国の常州工場で、材料調達から一貫して現地で生産をする地産地消体制を敷き、開発チームも現地に置いています。顧客のニーズをすぐに吸い上げ、反映できるのも強みです。
── とはいえ、中国工場で働く日本人の人件費は高いのでは。
小笠原 中国の現地メーカーで働く中国人の人件費は年々上がっています。そのことは、当社のコスト競争力を強める追い風になっています。
(構成=種市房子・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A ソフトを開発する部門で、猛烈に働いていました。気の遠くなるような作業も多いのですが、「物事は必ず終わる」ということを学びました。
Q 「私を変えた本」は
A 弘兼憲史さんの「島耕作」シリーズです。
Q 休日の過ごし方
A 妻と買い物です。
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■人物略歴
◇おがさわら・ひろし
愛媛県出身。松山南高校、九州工業大情報工学科卒業。1979年安川電機入社、主にソフトウエア開発畑を歩み、2006年取締役、15年代表取締役・専務執行役員。16年3月から現職。62歳。
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事業内容:産業機械、ロボット製造
本社所在地:北九州市
設立:1915年7月
資本金:306億円
従業員数:1万4632人(連結)
業績(2017年3月期、連結)
売上高:3948億円
営業利益:304億円